説明

空気入りタイヤのクラック試験方法

【課題】オゾン劣化を促進させて試験時間の増加を抑えうる空気入りタイヤのクラック試験方法を提供する。
【解決手段】空気入りタイヤTに所定の荷重を負荷した荷重負荷状態にて、該空気入りタイヤTをドラム上で走行させながら、前記荷重負荷状態においてサイドウォール部Taの外表面が最もタイヤ軸方向外側に突出する最大突出位置Pに向かってオゾンを噴出させる走行工程を具える。前記走行工程は、所定の走行距離又は走行時間毎に前記走行及びオゾンの噴出を一時中断し、ゴム内部から前記サイドウォール部Taの外表面に滲み出す滲出物を拭き取って除去する除去ステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの経時的な劣化を促進させて、サイドウォール部の外表面における耐クラック性能を評価する空気入りタイヤのクラック試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、長期に亘って使用されることにより、例えば紫外線、オゾン等の様々な要因によって経時劣化し、タイヤの外表面にクラックが発生して耐久性を低下させる。従って、空気入りタイヤの耐久性を評価する場合、上述のような経時劣化を考慮に入れる必要がある。
【0003】
特に市場で発生する経時劣化の主原因として、オゾンがゴム分子鎖の二重結合に反応して連鎖を切断するオゾン劣化(酸化劣化という場合がある。)が挙げられる。このオゾン劣化は、ゴムに伸びが生じるときに促進されるもので、特に表面歪みが大きいサイドウォール部で顕著となり、その外表面に、応力の方向とは垂直な方向であるタイヤ周方向に伸びる細かなクラックを発生させる。なお紫外線などの放射線による劣化は、放射線によりゴム分子鎖が切断されるもので、ランダム方向にクラックが発生することで前記オゾン劣化とは区別することができる。
【0004】
そしてこのオゾン劣化に起因する耐久性を評価する方法として、下記の特許文献1には、オゾンの雰囲気内でドラム走行試験を行い、クラックの発生状況を評価する方法が提案されている。しかしこの方法の場合、ドラム試験機全体を囲う密閉した大きな空間を設ける必要があり、設備コストが増加するとともに、試験機全体がオゾンの雰囲気に曝されるため、試験機の例えばベアリングやパッキンなどにも劣化を招くなど試験機などの寿命を低下させるという問題がある。
【0005】
他方、下記の特許文献2には、空気入りタイヤにオゾンを噴射しながらドラム走行試験を行う方法が提案されている。この方法では、ドラム試験機全体を囲う密閉した大きな空間を設ける必要がないため、設備コストの低減や試験機の寿命増加を図ることができる。又この方法では、オゾンを噴射して開放された空間内にオゾン雰囲気を局部的に形成するために、例えば100pphm以上と高濃度のオゾンを使用することが望まれている。
【0006】
しかし高濃度のオゾンの使用は、眼、粘膜、上部気道などを刺激するなど作業環境に悪影響を与える。従ってオゾン噴射の場合、作業環境の観点から、オゾン濃度はできるだけ低い方が好ましいが、それによりオゾン劣化の促進が妨げられ、ドラム走行試験が長時間必要となって試験効率を低下させるという問題があり、この点で改善する余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−84290号公報
【特許文献2】特開2008−26228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、噴射するオゾンの濃度を減じて作業環境の改善を図りながら、オゾン劣化を促進させて試験時間の増加を抑えうる空気入りタイヤのクラック試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願請求項1の発明は、空気入りタイヤの経時的な劣化を促進させて、サイドウォール部の外表面におけるクラックの発生状況を評価する空気入りタイヤのクラック試験方法であって、
空気入りタイヤに所定の荷重を負荷した荷重負荷状態にて、該空気入りタイヤをドラム上で走行させながら、前記荷重負荷状態においてサイドウォール部の外表面が最もタイヤ軸方向外側に突出する最大突出位置に向かってオゾンを噴出させる走行工程を具えるとともに、
前記走行工程は、所定の走行距離又は走行時間毎に前記走行及びオゾンの噴出を一時中断して、ゴム内部から前記サイドウォール部の外表面に滲み出す滲出物を拭き取って除去する除去ステップを含むことを特徴としている。
【0010】
又請求項2の発明では、前記オゾンは、オゾン濃度が20〜80pphmであることを特徴としている。
【0011】
又請求項3の発明では、前記荷重負荷状態において、前記最大突出位置における引張り歪みを6〜14%の範囲としたことを特徴としている。
【0012】
又請求項4の発明では、前記除去ステップは、洗剤を含ませた水を用いて洗浄する洗浄段階を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は叙上の如く、荷重負荷状態にてドラム上を走行する空気入りタイヤのサイドウォール部に向かってオゾンを噴出させているため、ドラム試験機全体を囲う密閉した大きな空間が不要となり、設備コストの低減やドラム試験機の寿命増加を図ることができる。しかも、サイドウォール部のうちで最も表面歪みが大となりオゾン劣化が進みやすい最大突出位置にオゾンを噴出させているため、オゾン劣化の進行を早めることができる。
【0014】
他方、空気入りタイヤでは、ゴム中にオイルや老化防止剤などの種々の配合物が添加されているが、このオイルや老化防止剤などは、走行中のゴムの伸縮によって外表面に滲み出す傾向にある。特にサイドウォール部では、ゴムの伸縮変形が大きいため滲出量が大であり、この滲出物が被覆層となってバリヤを形成し、オゾンとの接触を妨げる。しかし本発明では、所定の走行距離又は走行時間毎に前記走行及びオゾンの噴出を一時中断して、サイドウォール部の外表面に滲み出す滲出物を拭き取って除去する除去ステップを行っている。これによりバリヤの形成を抑制してオゾンとの接触を促すことができ、オゾン劣化を促進させうる。
【0015】
このように、サイドウォール部のうちで最も表面歪みが大とる最大突出位置にオゾンを噴出させること、及び前記除去ステップによるバリヤの形成抑制とにより、オゾン劣化をより加速させることができる。その結果、噴射するオゾンの濃度を減じて作業環境の改善を図りながら、試験時間の増加を抑えうることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の空気入りタイヤのクラック試験方法を実施するための試験装置を概念的に示す斜視図である。
【図2】オゾンの噴出状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の空気入りタイヤのクラック試験方法(以下、クラック試験方法という。)を実施するための試験装置1を概念的に示す斜視図であって、前記試験装置1は、空気入りタイヤTを外周面上で走行させるドラム2を有するドラム装置3、前記空気入りタイヤTを枢支するタイヤ支持装置4、及び走行する前記空気入りタイヤTのサイドウォール部Taの外表面に向かってオゾンを噴出させる噴出ノズル5を具える。
【0018】
前記ドラム装置3及びタイヤ支持装置4としては、従来のドラム走行試験で用いられる装置が好適に採用しうる。又前記噴出ノズル5にオゾンを供給するオゾン発生装置も、市販のものが好適に採用しうる。
【0019】
そして本実施形態のクラック試験方法では、前記試験装置1を用いて空気入りタイヤTにオゾン劣化を促進させ、サイドウォール部Taの外表面におけるクラックの発生状況を評価する。
【0020】
具体的には、クラック試験方法は、前記空気入りタイヤTに所定の荷重を負荷した荷重負荷状態Yにて、該空気入りタイヤTをドラム2上で走行させながら、前記荷重負荷状態Yにおいてサイドウォール部Taの外表面が最もタイヤ軸方向外側に突出する最大突出位置Pに向かって前記噴出ノズル5からオゾンを噴出させる走行工程を具える。
【0021】
前記荷重負荷状態Yにおいて、空気入りタイヤTの充填内圧、及び負荷荷重は、特に規制されないが、充填内圧においては正規内圧以下、かつ負荷荷重においては正規荷重以上とし、前記最大突出位置Pにおけるタイヤ表面の引張り歪みを6〜14%と、市場におけるタイヤの引張り歪みよりも大に設定するのが好ましい。このように引張り歪みを高めることにより、オゾン劣化をより加速させることができる。前記引張り歪みが6%未満では、市場における引張り歪みと大差なく加速効果が認められず、逆に14%を越えると歪みが過大となって、クラック以外の他のタイヤ損傷を招いてクラック試験が続けられなくなる恐れが生じる。
【0022】
又、他のタイヤ損傷を抑える観点から、前記充填内圧は正規内圧の60〜100%の範囲、負荷荷重は正規荷重の100〜150%の範囲がさらに好ましく、前記最大突出位置Pでの引張り歪みが6〜14%となるように、前記範囲内で充填内圧及び負荷荷重を調整するのが望ましい。特に試験の安全性の観点から、前記負荷荷重は、前記範囲内でできるだけ低く設定するのがより望ましい。
【0023】
なお前記「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE"を意味するが、乗用車用タイヤの場合には180kPaとする。又前記「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
【0024】
又前述の如く、タイヤの撓みを市場よりも大に設定しているため、試験中にタイヤ損傷が生じないようにするために、前記走行工程におけるタイヤの走行速度は、30〜50km/hの範囲と比較的低速で行うのが好ましい。走行速度が30km/h未満では、サイドウォールゴムの屈曲回数、即ち伸縮変形の頻度が減じるため、オゾン劣化の促進に不利となり、逆に50km/hを越えるとタイヤ損傷に不利を招く。
【0025】
又前記走行工程では、図2に示すように、前記荷重負荷状態Yでのタイヤ走行中、前記タイヤTの最大突出位置Pに向かって噴出ノズル5からオゾンを連続的に噴出させる。前記最大突出位置Pとは、前記荷重負荷状態Yにおいてサイドウォール部Taの外表面が最もタイヤ軸方向外側に突出する位置であって、タイヤ表面の引張り歪みが最も大きく発生する、即ちオゾン劣化がより進行しやすい部位である。従ってこの部位にオゾンを噴出させることにより、オゾン劣化をより加速させることができる。
【0026】
前記噴出ノズル5から噴出するオゾンのオゾン濃度は、オゾンの毒性や作業者のオゾン雰囲気中での作業(クラックの発生確認など)時間を考慮し、80pphm以下、さらには60pphm以下と、相対的に低く設定するのが好ましい。しかしオゾン濃度が低すぎると、本発明のクラック試験方法においてもオゾン劣化の進行が遅くなって試験時間が長くなり、本発明の効果が充分に発揮されなくなる。従ってオゾン濃度の下限値は20pphm以上、さらには30pphm以上が好ましい。なお、前記オゾン濃度は、噴出ノズル5の噴き出し口にて測定した値であり、この噴き出し口と前記最大突出位置Pとの距離Lは30cm以下とするのが好ましい。
【0027】
次に、前記走行工程では、所定の走行距離又は走行時間毎に、前記走行及びオゾンの噴出を一時中断し、ゴム内部からサイドウォール部Taの外表面に滲み出す滲出物を拭き取って除去する除去ステップを行う。前述した如く、空気入りタイヤでは、ゴム中にオイルや老化防止剤などの種々の配合物が添加されており、このオイルや老化防止剤などが走行中のゴムの伸縮によって外表面に滲み出す傾向にある。特にサイドウォール部Taでは、ゴムの伸縮変形が大きいため滲出量が大であり、この滲出物が被覆層となってバリヤを形成しオゾン劣化の進行を妨げる。そこで本発明では、除去ステップを行い、前記滲出物を拭き取ることでバリヤを除去し、オゾン劣化を加速させ、前記最大突出位置Pへのオゾン噴出と相俟って試験効率を上げることができる。
【0028】
前記除去ステップとしては、乾いた布、或いは水で濡らした布で滲出物を拭き取ることで達成しうる。しかしバリヤの除去をより清浄に行うために、洗剤を含ませた水を用いてサイドウォール部Taの外表面を洗浄する洗浄段階を含ませることが好ましい。なおこの洗浄段階として、前記洗剤を含ませた水を用いて、ブラシ状のもので擦る、或いは洗剤を含ませた水で濡らした布で擦るなども含まれる。又水、或いは洗剤を含ませた水を用いる場合には、タイヤを乾燥させた後、前記走行及びオゾンの噴出を再開させる。
【0029】
前記除去ステップの頻度は、例えば0.5日〜2日に1度の割合、或いは走行距離500km〜2000kmに1度の割合など適宜設定することができる。
【0030】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0031】
本発明の効果を確認するため、タイヤサイズ225/80R17.5のタイヤに対し、図1に示す試験装置を用いて表1に示す仕様に基づきクラック試験を行い、サイドウォール部の外表面におけるクラックの発生状況を評価した。又劣化の状態を比較するため、サイドウォールゴムの複素弾性率E*、及び新品タイヤとのサイドウォールゴムのゴム硬度の差(+表示は、ゴム硬度が上昇したことを意味する)を測定し比較した。
【0032】
なお除去ステップとしては、洗剤を含ませた水で濡らした布で擦って洗浄した。噴出ノズルの噴き出し口と最大突出位置との距離Lは約20cmであった。室温は、タイヤから1m以内の位置で測定している。走行工程において、走行速度は40km/hで一定としている。
【0033】
(1)クラックの発生状況:
15000km完走後、サイドウォール部の外表面におけるクラック発生状況を、クラックの発生無しを0点、最も酷い実施例*のクラック発生状況を4点とした5段階にて目視によって評価した。
(2)複素弾性率E*、ゴム硬度:
複素弾性率E*は、 JIS−K6394の規定に準じて、次に示される条件で(株)岩本製作所製の「粘弾性スペクトロメータ」を用いて測定した値である。
・初期歪み(10%)、
・振幅(±1%)、
・周波数(10Hz)、
・変形モード(引張)、
・測定温度(70℃)。
又ゴム硬度Hsは、JIS−K6253に基づきデュロメータータイプAにより、23℃の環境下で測定したデュロメータA硬さである。
【0034】
【表1】


【0035】
表の如く、実施例は、除去ステップを用いることにより、オゾン濃度を減じながら、オゾン劣化を促進させうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0036】
2 ドラム
P 最大突出位置
T 空気入りタイヤ
Ta サイドウォール部
Y 荷重負荷状態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの経時的な劣化を促進させて、サイドウォール部の外表面におけるクラックの発生状況を評価する空気入りタイヤのクラック試験方法であって、
空気入りタイヤに所定の荷重を負荷した荷重負荷状態にて、該空気入りタイヤをドラム上で走行させながら、前記荷重負荷状態においてサイドウォール部の外表面が最もタイヤ軸方向外側に突出する最大突出位置に向かってオゾンを噴出させる走行工程を具えるとともに、
前記走行工程は、所定の走行距離又は走行時間毎に前記走行及びオゾンの噴出を一時中断し、ゴム内部から前記サイドウォール部の外表面に滲み出す滲出物を拭き取って除去する除去ステップを含むことを特徴とする空気入りタイヤのクラック試験方法。
【請求項2】
前記オゾンは、オゾン濃度が20〜80pphmであることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤのクラック試験方法。
【請求項3】
前記荷重負荷状態において、前記最大突出位置における引張り歪みを6〜14%の範囲としたことを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤのクラック試験方法。
【請求項4】
前記除去ステップは、洗剤を含ませた水を用いて洗浄する洗浄段階を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の空気入りタイヤのクラック試験方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−207983(P2012−207983A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72956(P2011−72956)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)