説明

空気入りタイヤの試験装置および試験方法

【課題】実車走行させることなく短期間で判断することができる空気入りタイヤの試験装置および試験方法を提供する。
【解決手段】本発明の空気入りタイヤの試験装置は、空気入りタイヤTの両ビード部B,Bにそれぞれ嵌め合わせた状態で分割可能に連結されてタイヤ組立体Cを形成し、それぞれ別個独立の回転軸3a,3bをもつ1対の分割リム1a,1bと、前記タイヤ組立体Cを構成するタイヤTの内部にガスを充填するガス供給手段2と、タイヤ組立体Cを構成する1対の分割リム1a,1bの両回転軸3a,3bの回転中心位置M1,M2を、タイヤ組立体Cの幅方向断面で見て、所定の距離dだけ相互に偏心させる回転軸偏心手段と、両回転軸3a,3bの回転中心位置M1,M2を相互に偏心させた状態で、両回転軸3a,3bのうちの少なくとも一方の回転軸3aを所定の回転速度で駆動回転させる回転手段とを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ、特にビード部での故障の生じやすさを、実車走行させることなく短期間で判断することができる空気入りタイヤの試験装置および試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実車走行させることなく、耐久性などのタイヤ性能を簡便に評価するための従来のタイヤの試験方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、回転ドラム上でタイヤに所定の荷重を負荷した状態で故障が生じるまでタイヤを継続走行させるドラム試験法が一般的であり、これにより、実車走行したときのタイヤ故障の生じやすさを推定することができる。
【0003】
また、上述したドラム試験法は、回転ドラム上でタイヤに所定のスリップ角を付与した状態でタイヤを継続走行させて、コーナリング走行時においてタイヤに横力が作用する擬似状態を作り出すことによって、タイヤのビード部からサイドウォール部にかけて、コーナリング走行時に発生するのと同様な曲げ変形を生じさせ、実車走行でのタイヤ、特にビード部の故障しやすさを推定することもできる。
【0004】
しかしながら、上述したドラム試験法は、ビード部の評価に際し、長い期間を要するという問題がある。そこでビード部の故障を短期間で簡便に推測できる新たな試験方法を確立することが望まれるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−170694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特に、コーナリング走行時においてタイヤに作用する横力負荷に伴ってタイヤのビード部からサイドウォール部にかけて曲げ変形が生じる状態を繰り返し再現することにより、タイヤ、特にビード部の故障の生じやすさを、実車走行させることなく短期間で判断することができる空気入りタイヤの試験装置および試験方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に従う空気入りタイヤの試験装置は、空気入りタイヤの両ビード部にそれぞれタイヤ幅方向外側から嵌め合わせた状態で分割可能に連結されてタイヤ組立体を形成し、それぞれ別個独立の回転軸をもつ1対の分割リムと、前記タイヤ組立体を構成するタイヤの内部にガスを充填するガス供給手段と、前記タイヤ組立体を構成する前記1対の分割リムの両回転軸の回転中心位置を、タイヤ組立体の幅方向断面で見て、所定の距離だけ相互に偏心させる回転軸偏心手段と、前記両回転軸の回転中心位置を相互に偏心させた状態で、前記両回転軸のうちの少なくとも一方の回転軸を所定の回転速度で駆動回転させる回転手段とを具えることにある。
【0008】
また、本発明に従う空気入りタイヤの試験方法は、空気入りタイヤの両ビード部に、それぞれ別個独立の回転軸をもつ1対の分割リムをタイヤ幅方向外側から嵌め合わせた状態で分割可能に連結してタイヤ組立体を形成する組立工程と、前記タイヤ組立体を構成するタイヤの内部にガスを充填するガス供給工程と、前記タイヤ組立体を構成する前記1対の分割リムの両回転軸の回転中心位置を、タイヤ組立体の幅方向断面で見て、所定の距離だけ相互に偏心させる回転軸偏心工程と、前記両回転軸の回転中心位置を相互に偏心させた状態で、前記両回転軸のうちの少なくとも一方の回転軸を所定の回転速度で駆動回転させる回転工程とを具えることにある。
【0009】
また、前記試験方法は、前記各工程を行うに先立ち、タイヤ組立体としたタイヤの内面および外面の少なくとも一方を、高酸素含有ガスと接触させ、常温状態、または加熱して所定の温度にした加温状態で所定の期間保持することにより、タイヤのゴム劣化を促進するゴム劣化促進工程を行うことも可能である。
【0010】
さらに、前記空気入りタイヤの試験方法および前記劣化促進工程の少なくとも一方を、さらにタイヤに10〜3000ccの水を封入した状態で実施することもまた可能である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、特に、コーナリング走行時においてタイヤに作用する横力負荷に伴ってタイヤのビード部からサイドウォール部にかけて曲げ変形が生じる状態を繰り返し再現することにより、タイヤ、特にビード部の故障の生じやすさを、実車走行させることなく短期間で判断することができる空気入りタイヤの試験装置および試験方法を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、この発明に従うタイヤの試験方法の主要な工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、この発明の実施形態について図面を参照しながら以下で説明する。
図1は、この発明に従うタイヤの試験方法の主要な工程を説明するための図である。
【0014】
このタイヤの試験方法に用いる試験装置は、図1(e)に概略構成が示されているように、1対の分割リム1a,1bと、ガス供給手段2と、回転軸偏心手段(図示せず)と、回転手段(図示せず)とで主に構成されている。
【0015】
1対の分割リム1a,1bは、空気入りタイヤTの両ビード部Bにそれぞれタイヤ幅方向外側から嵌め合わせた状態で分割可能に連結されてタイヤ組立体Cを形成し、これら1対の分割リム1a,1bはそれぞれに連結された別個独立の回転軸3a,3bを有しており、これらの回転軸3a,3bは、後述するように、互いに偏心状態で同期させて同じ方向で回転可能に構成されている。
【0016】
また、1対の分割リム1a,1bは、空気入りタイヤTの両ビード部Bにそれぞれタイヤ幅方向外側から嵌め合わせた状態で分割可能に連結されているので、タイヤ組立体Cを形成する場合には、空気入りタイヤTの両ビード部Bにそれぞれタイヤ幅方向外側から嵌め合わせ、嵌め合わせた分割リムの外径を拡径させる手段等によって、タイヤのビード部と緊密に連結すればよく、一方、タイヤ試験後にタイヤ組立体Cをタイヤと分割リムとに分解する場合には、タイヤ組立体Cを形成する手順とは逆の手順で、分割リムの外径を縮径させることによって分解することができ、試験する際のタイヤを分割リムに組みつけてタイヤ組立体に組み立てたり、分解する作業を簡単に行うことができるように構成する。
【0017】
分割リム1a,1bの材質は、剛体であればよく、特に限定はされないが、例えば鉄、アルミニウムまたはこれらの合金で構成されることが好ましく、また、回転軸3a,3bの材質は、鉄または鉄合金等で構成することが好ましい。
【0018】
ガス供給手段2は、前記タイヤ組立体Cを構成するタイヤの内部にガスを充填するために設けられたものであり、分割リム1a,1bのうち、いずれかの分割リム1bに設けたバルブ2を通じ電動式ポンプ(コンプレッサ)等を用いて、タイヤ内圧が所望の圧力になるまでガスを供給することができる。
【0019】
回転軸偏心手段は、タイヤ組立体Cを構成する、分割リム1aの回転軸3aの回転中心位置M1と、分割リム1bの回転軸3bの回転中心位置M2とを、タイヤ組立体Cの幅方向断面で見て、所定の距離dだけ相互に偏心させるために設けられたものであり、具体的には、フラットな形状のスライドベース上に回転軸が軸受を介して支持された構成であり動力源でスライドベースを動かすことにより回転軸を偏心させることができる。前記所定の距離dは、タイヤサイズによって好適範囲が異なってくるが、例えば乗用車用タイヤの場合には、25〜70mmの範囲とすることが好ましい。前記距離dが好適範囲よりも短いと、タイヤ組立体のタイヤに対して十分に大きな曲げ変形を付与することができず、短期間で故障のしやすさを推定することができなくなる傾向があるからであり、また、前記距離dが好適範囲よりも長いと、タイヤとリムの間に隙間が生じエア漏れの問題が生じるおそれがあるからである。なお、ここでいう回転中心位置M1と回転中心位置M2とを偏心させるとは、回転中心位置M1を通る直線と回転中心位置M2を通る直線とが、実質的に平行な状態で偏心していることを意味し、ねじれの位置関係にある場合までも含めるものではない。
【0020】
回転手段は、前記両回転軸3a,3bの回転中心位置M1,M2を相互に偏心させた状態で、前記両回転軸3a,3bのうちの少なくとも一方の回転軸、図1(e)では、回転軸3aのみを、所定の回転速度で駆動回転させるために設けたものである。すなわち、図1(e)では、明確には示していないが、一方の回転軸3aのみを、駆動軸として、図示しない軸受およびモーター等の動力源を用いて駆動回転させるとともに、他方の回転軸3bは、従動軸として、図示しない軸受に回転可能に支持されて、一方の回転軸3aの駆動回転に従って従動回転するように構成されている。また、両回転軸3a,3bとも、駆動軸として駆動回転させることも可能であるが、この場合には、両回転軸3a,3bを、同じ方向に同期させて回転させることが好ましい。なお、回転手段は、駆動軸である回転軸3aを、0〜300rpmの回転数で駆動回転させるように構成させることが好ましい。
【0021】
このように、回転軸3a,3bを相互に前記距離dだけ偏心させた状態で回転させることにより、従来のドラム試験法に比べて、タイヤ組立体のタイヤに対してより大きな曲げ変形を繰り返し付与することが可能になり、この結果、タイヤ、特にビード部の故障の生じやすさを、実車走行させることなく短期間で判断することができる。
【0022】
次に、本発明のタイヤ試験方法について、図1(a)〜(e)を参照しながら以下で説明する。
【0023】
本発明のタイヤ試験方法は、空気入りタイヤTの両ビード部B,Bに、それぞれ別個独立の回転軸3a,3bをもつ1対の分割リム1a,1bを、図1(a)に示すようにタイヤ幅方向外側から嵌め合わせた後、嵌め合わせた分割リム1a,1bの外径を拡径させてタイヤTのビード部B,Bと緊密嵌合させて連結して、図1(b)に示すようなタイヤ組立体Cを形成する(組立工程)。
【0024】
次に、図1(c)に示すように、タイヤ組立体Cを構成するタイヤの内部にバルブ2を通じてガスを充填する(ガス供給工程)。
【0025】
その後、図1(d)に示すように、タイヤ組立体Cを構成する、分割リム1aの回転軸3aの回転中心位置M1と、分割リム1bの回転軸3bの回転中心位置M2とを、タイヤ組立体Cの幅方向断面で見て、所定の距離dだけ相互に偏心させる(回転軸偏心工程)。
【0026】
そして、両回転軸3a,3bの回転中心位置M1,M2を相互に偏心させた状態で、両回転軸3a,3bのうちの少なくとも一方の回転軸、図1(e)では一方の回転軸3aのみを所定の回転速度で、駆動回転(無負荷状態)で空転させる(回転工程)ことにより、従来のドラム試験法に比べて、タイヤ組立体のタイヤに対してより大きな曲げ変形を繰り返し付与することが可能になり、この結果、タイヤ、特にビード部の故障の生じやすさを、実車走行させることなく短期間で判断することができる。
【0027】
また、本発明のタイヤの試験方法では、前記各工程を行うに先立ち、タイヤ組立体を構成するタイヤの内面および外面の少なくとも一方を、高酸素含有ガスと接触させ、常温状態、または加熱して所定の温度にした加温状態で所定の期間保持することにより、タイヤのゴム劣化を促進するゴム劣化促進工程を行うことが好ましい。長期にわたる実使用で経年劣化した空気入りタイヤを構成するゴム部材には、ゴム本来の柔軟でねばりのある性質が失われ、亀裂が発生しやすい状態となる。そこで、ゴムの酸素劣化に着目し、高酸素濃度をタイヤの外面と内面の少なくとも一方と接触させることにより、経年劣化を考慮した耐久性能の評価が可能となる。
【0028】
水分による、例えば、ゴム組成物やタイヤのビードコアに用いられるスチールコードの水分による劣化への影響を加味して評価することが必要な場合には、前述のタイヤの劣化促進工程あるいは空気入りタイヤの試験工程の少なくとも一方の工程において、空気中に含まれる以上の水分を同時にタイヤ中に封入するとが好ましい。この水分量としてはタイヤ1本あたりに、10〜3000cc程度であることが好ましい。水分の添加量が10cc未満では安定した試験が困難であり、3000ccを超えるとタイヤをリム組みする際に水がタイヤから漏れ易くなるため、いずれも好ましくない。適切な水分量の添加により、スチールコードなどの腐食が促進され、短期間で、効率よく経時変化を再現できる。
【0029】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0030】
次に、この発明に従うタイヤの試験方法によって空気入りタイヤの耐久試験を実施したので以下で説明する。
本発明の試験方法は、図1(a)〜図1(e)に示す工程に従って、試験するタイヤT(サイズ:PSR155/65R13、プライの折り返し端が低く、折り返し端の高さ位置がビードコア中心からタイヤ径方向外側に25mmの位置)の分割リム1a,1bをタイヤ幅方向外側から装着してタイヤ組立体Cを形成した後、タイヤ内の空気圧が270kPaになるように空気を充填し、その後、回転軸3a,3bを相互に距離dが48mmとなるように偏心させ、回転数:152rpm、雰囲気温度:38℃の条件下でタイヤ故障が生じるまでタイヤ組立体Cを繰り返し回転(無負荷状態で空転)させることによりタイヤ耐久試験を行った。
【0031】
参考のため、タイヤTと同じ製造ロッドのタイヤについて、従来の耐久試験法であるドラム試験法でも試験を行った。なお、ドラム試験法での試験条件は、雰囲気温度を38℃とし、タイヤ内圧を220kPaとし、タイヤ負荷荷重を、ロードインデックスに対応する最大荷重の85%に相当する荷重である315kgfとし、直進と横力付与を19秒ごとに繰り返した。横力は110kgfとした。
【0032】
これらの試験の結果、本発明の耐久試験法によるタイヤの故障形態と、ドラム試験法によるタイヤの故障形態はともに、ビードセパレーション故障であり、タイヤが故障するまでの時間が、本発明の耐久試験法では95時間の短期間であったのに対し、ドラム試験法では804時間と長期間を要した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明によれば、特に、コーナリング走行時においてタイヤに作用する横力負荷に伴ってタイヤのビード部からサイドウォール部にかけて曲げ変形が生じる状態を繰り返し再現することにより、タイヤ、特にビード部の故障の生じやすさを、実車走行させることなく短期間で判断することができる空気入りタイヤの試験装置および試験方法を提供することが可能になった。
【符号の説明】
【0034】
1a,1b 分割リム
2 バルブ
3a,3b 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの両ビード部にそれぞれタイヤ幅方向外側から嵌め合わせた状態で分割可能に連結されてタイヤ組立体を形成し、それぞれ別個独立の回転軸をもつ1対の分割リムと、
前記タイヤ組立体を構成するタイヤの内部にガスを充填するガス供給手段と、
前記タイヤ組立体を構成する前記1対の分割リムの両回転軸の回転中心位置を、タイヤ組立体の幅方向断面で見て、所定の距離だけ相互に偏心させる回転軸偏心手段と、
前記両回転軸の回転中心位置を相互に偏心させた状態で、前記両回転軸のうちの少なくとも一方の回転軸を所定の回転速度で駆動回転させる回転手段と
を具えることを特徴とする空気入りタイヤの試験装置。
【請求項2】
空気入りタイヤの両ビード部に、それぞれ別個独立の回転軸をもつ1対の分割リムをタイヤ幅方向外側から嵌め合わせた状態で分割可能に連結してタイヤ組立体を形成する組立工程と、
前記タイヤ組立体を構成するタイヤの内部にガスを充填するガス供給工程と、
前記タイヤ組立体を構成する前記1対の分割リムの両回転軸の回転中心位置を、タイヤ組立体の幅方向断面で見て、所定の距離だけ相互に偏心させる回転軸偏心工程と、
前記両回転軸の回転中心位置を相互に偏心させた状態で、前記両回転軸のうちの少なくとも一方の回転軸を所定の回転速度で駆動回転させる回転工程と
を具えることを特徴とする空気入りタイヤの試験方法。
【請求項3】
前記試験方法は、前記各工程を行うに先立ち、タイヤ組立体を構成するタイヤの内面および外面の少なくとも一方を、高酸素含有ガスと接触させ、常温状態、または加熱して所定の温度にした加温状態で所定の期間保持することにより、タイヤのゴム劣化を促進するゴム劣化促進工程を行う請求項2記載の空気入りタイヤの試験方法。
【請求項4】
請求項2記載の空気入りタイヤの試験方法および請求項3記載の劣化促進工程の少なくとも一方を、さらにタイヤに10〜3000ccの水を封入した状態で実施することを特徴とする空気入りタイヤの試験方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−181072(P2012−181072A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43372(P2011−43372)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)