説明

空気入りラジアルタイヤ

【目的】 単線ワイヤコードを使用することによって、撚り線コード使いよりも軽量化しながら、かつベルト耐久性等のタイヤ性能を撚り線使い並みか、それ以上にした空気入りラジアルタイヤを提供する。
【構成】 トレッドのカーカス層外周側に配置したベルト層の少なくとも一層をスチールワイヤで構成した空気入りラジアルタイヤにおいて、前記スチールワイヤをスパイラル状に型付けした2本の単線ワイヤの複数対をそのスパイラル径が実質的に相接するように配置して成り、該単線ワイヤの直径d、スパイラル径D、スパイラルのピッチ長P及びスパイラル形状を特定するラメーターF=(D−d)/Pが、それぞれ、0.01≦F≦0.05、0.28(mm)≦d≦0.60(mm)、2.0(mm)≦P≦8.0(mm)を満足する空気入りラジアルタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、所定の形状に型付けされた2本のスパイラルワイヤの複数対から構成したスチールワイヤでベルト層を構成して軽量化及び低燃費化を達成した空気入りラジアルタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】最近の地球環境汚染の問題から車両の低燃費化が強く要望されるようになり、その一環として空気入りラジアルタイヤの軽量化は大きな技術的課題の一つとして注目を集めている。スチールワイヤは他の有機繊維に比べて引張強度や引張弾性率が著しく優れているため、空気入りラジアルタイヤのベルト層に使用されている。しかし、スチールワイヤは比重が非常に大きいためにタイヤの軽量化及び低燃費化の障害になっていた。しかしながら、現存の有機繊維にはスチールワイヤ並みのタイヤ性能を発揮できるものがないため、当面はスチールワイヤに依存せざるを得ないのが実情である。
【0003】スチールワイヤの使用を前提にして軽量化を達成する対策としては、ワイヤ使用量の削減及びゴムゲージの減少が考えられる。その手段の一つとして、複数のワイヤを撚り線にしていたスチールワイヤを、単線ワイヤだけで構成することが提案できる。このように単線ワイヤのコードにすれば、撚り線に比べて同一ワイヤ断面積でのコード径をコンパクトにすることができ、それによってトレッドの溝下ゲージ(ゴムゲージ)やベルト層のコード間ゲージ(ゴムゲージ)を小さくできるためゴム量を減らし、軽量化を可能にするのである。しかも、単線ワイヤではワイヤ回りをゴムが完全に覆うので、吸水による腐蝕疲労性や接着性低下に対する耐久性を良好にすることができる。しかしながら、このような特長を有する単線ワイヤのコードも、撚りがないため剛直であり、そのため繰り返し荷重による曲げ変形や圧縮変形に対する耐久性が小さいという欠点がある。そして、この耐久性不足が撚り線コード使用のタイヤに比べワイヤ折れを多発し、ベルト耐久性低下の原因になる。
【0004】スチールワイヤをベルト層に使用する空気入りラジアルタイヤは、例えば特開平4−95506号公報、同5−78990号公報及び同5−117983号公報などに開示されている。特開平4−95505号公報には数本の単線ワイヤを集束させてゴム引き層内に配置したラジアルタイヤが開示されている。また特開平5−78990号公報には略真直な素線と略スパイラル状の素線とから成るスチールコードが開示されている。更に特開平5−117983号公報には1×n(n=3〜5)の措置のスチールコードにおいて、少なくとも一本の螺旋状素線を用いるゴム製品補強用スチールコードが開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、単線ワイヤの使用によって撚り線を用いた場合に比べて軽量化及び低燃費化を達成しながらも、操縦安定性及び転がり抵抗などのタイヤ性能に優れ、しかも作業性の良好な空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明に従えば、トレッドのカーカス層外周側に配置したベルト層の少なくとも一層をスチールワイヤから構成した空気入りラジアルタイヤにおいて、前記スチールワイヤをスパイラル状に型付けした2本の単線ワイヤの複数対をそのスパイラル径が実質的に相接するように配置して成り、該単線ワイヤの直径d、スパイラル径D、スパイラルのピッチ長P及びスパイラル形状を特定するパラメーターF=(D−d)/Pが、それぞれ0.01≦F≦0.050.28(mm)≦d≦0.60(mm)
2.0(mm)≦P≦8.0(mm)
である空気入りラジアルタイヤが提供される。
【0007】本発明によれば、単線ワイヤをスパイラル状に型付けしたことによって、単線ワイヤ自体の剛直性を和らげ、繰り返し曲げ変形や圧縮変形に対して優れたワイヤ耐久性(ベルト耐久性)を得ることができる。しかし、単線ワイヤの型付けが大きすぎても、引張弾性率の低下によってタイヤのコーナリングパワー(操縦安定性)を低下させる。これは、単線ワイヤ直径d、そのスパイラル径D、及びスパイラルピッチ長Pから特定されるパラメーターFを上記のように0.01〜0.05の範囲にすることによって、上記両特性を調和させることができるようにしたものである。
【0008】また本発明によれば前記したスパイラル状単線ワイヤを2本づつ引きそろえてそのスパイラル径が実質的に相接するようにした複数対タイヤベルト層に配置するので、高い圧縮剛性を発現し、軽量化と操縦安定性及び転がり抵抗などのタイヤ性能との両立が可能となる。なお、ここで「2本の単線ワイヤをそのスパイラル径が実質的に相接する」とは2本の単線ワイヤをその長さ方向の各横断面における両ワイヤの間隙tがt≦(D−d)×2であることをいう。
【0009】本発明に従えば、一対の単線ワイヤが共にスパイラル加工されているので2本の単線ワイヤが連続的に接触することがないため、両線の間に十分ゴムが浸透するために高い耐蝕性を示す。なお、かかる一対の単線ワイヤは2重ダイスを有する伸線機を用いて2本の単線ワイヤが同時に相接する状態で押出し、スパイラル化させることによってベルト相に配することができ、作業性や生産性も向上される。
【0010】以下、図面を参照して本発明の構成について具体的に説明する。乗用車用空気入りラジアルタイヤを一部切欠いて示す図1において、1はトレッド部、2はカーカス層で、左右一対のビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返され巻き上げられている。このカーカス層2のタイヤ周方向E,E′に対するコード角度は実質的に90度になっている。トレッド部1のカーカス層2の外周側には、図2のように補強用のスチールコードとしてスパイラル状の一対の単線ワイヤ40が埋設された2層の内側ベルト層4と外側(最外側)ベルト層4′がそれぞれタイヤ全周にわたって配置されている。これらベルト層4,4′のタイヤ周方向E,E′に対するコード角度は5〜40°で、かつ互いに交差している。トレッド部1の表面には、タイヤ周方向E,E′に延びる主溝6と、これに対して交差する副溝7とが設けられている。
【0011】本発明において、ベルト層を補強する単線ワイヤは、図3に示すようなスパイラル状に型付けされている。すなわち、直径dの単線ワイヤ40が、その直径dよりも大きなスパイラル径Dとスパイラルピッチ長Pを以って型付けされている。スパイラル径Dとは、ワイヤ長手方向に対する直交面に投影されたスパイラル形状の外周円に相当しており、これを図2では破線で示している。
【0012】このように単線ワイヤがスパイラル状に型付けされていることによって、その剛直性が緩和され、ストレートな単線ワイヤに比べて引張弾性率が低下する。そのため、撚り線コードではない単線ワイヤであっても、繰り返し曲げ荷重や圧縮荷重に対する耐久性(耐疲労性)が向上し、ベルト層にしたときの耐久性を撚り線コード使い並み、又はそれ以上に向上させることができる。しかし、この単線ワイヤの型付けの度合があまり大きすぎると、引張弾性率の低下が著しくなるため、ベルト層にしたときの横剛性が低下する。それによってコーナリングパワーが低下してしまうため、撚り線コード使い並みの操縦安定性を維持することは困難になる。
【0013】単線ワイヤに型付けされたスパイラル形状は、スパイラル円内において空間が形成される量(D−d)と、スパイラルのピッチ長Pとの2要素によって特徴づけることができるが、本発明のように上記(D−d)とPの比からなるパラメーターF=(D−d)/Pを以って表せば、上述したワイヤの耐疲労性や引張弾性率との相関性をより明確にすることができ、延いてはベルト層の耐久性やコーナリングパワー(操縦安定性)との相関性を明確にする。本発明において、このパラメーターFは0.01≦F≦0.05の範囲にする。
【0014】図4は図3に示したような単線ワイヤ(d=0.4mm)を図に示すように一対にして配置した場合の前記パラメータFの値とコーナリングパワー(Cp)の値との関係を示したグラフ図である。この図は本発明に従って、F=0(対照例:ワイヤの折れあり)の場合のCp値を100とし、Fの値が変化した場合のCpの値を指数表示したもので、図4からFの値を0.01〜0.05とすべきことが明らかである。
【0015】さらに、本発明において、単線ワイヤ直径dとスパイラルのピッチ長Pは、それぞれ0.28(mm)≦d≦0.60(mm)
2.0(mm)≦P≦8.0(mm)
の範囲に設定されている。単線ワイヤの直径dを0.28mm以上にし、スパイラルのピッチ長Pを8.0mm以下にすることによりベルト層の厚さが過大になり、ベルト剛性の低下および重量が増加することを防ぐと共に、直径dを0.60mm以下にし、ピッチ長Pを2.0mm以上にすることにより単線ワイヤの耐疲労性をより一層向上するようにしている。
【0016】本発明では、前述したように、ベルト層を構成するスチールコードとして一対の単線スチールワイヤを使用するので、その周囲がコートゴムで完全に被覆され、耐水接着性、耐錆性に優れたものにすることができる。また、単線ワイヤであるため、撚り線コードに比べて同一ワイヤ断面積にしたときのコード径を小さくすることができるから、トレッドに形成した主溝6の溝底から最外側のベルト層4′の単線ワイヤ40までの溝下ゲージt(図2参照)を小さくすることができ、それによってゴム量を低減し、軽量化することが可能になる。同様の理由から、内側ベルト層4と外側ベルト層4′を構成する単線ワイヤ40のスパイラル径Dの間隔a(コード間ゲージ)も小さくすることができるのでさらに軽量化することもできる。また、コード間ゲージaの縮小によって層間剪断力を大きくするため、コーナリングパワーも増大させることができる。
【0017】本発明において、上述の効果によって得られる溝下ゲージtは1.5〜3.5mmの範囲にするのがよい。また、コード間ゲージaは、乗用車用ラジアルタイヤでは0.15〜0.8mmトラック、バス等の重荷重用ラジアルタイヤでは0.4〜1.2mmの範囲にするのがよい。本発明は主として乗用車用空気入りラジアルタイヤに適用する場合に好適であるが、トラック、バス用などの他の用途の空気入りタイヤにも適用可能である。
【0018】
【実施例】以下に本発明の実施例を説明するが、本発明の技術的範囲を以下の実施例に限定するものでないことはいうまでもない。タイヤサイズを175/70R13、カーカスコードをポリエステル繊維コード1500D/2、内側ベルト層の幅を120mm、外側ベルト層の幅を110mm、溝下ゲージtを3.5mm、コード間ゲージaを0.64mmとし、内側ベルト層と外側ベルト層のスチールコードを図2に示すように図3に示す単線スチールワイヤ2本を一対とした複数対から構成すると共に、タイヤ周方向に対する角度を20°として互いに交差させる点をそれぞれ共通とし、表Iに示す通り、単線ワイヤの直径dを0.40mmとし、スパイラルのピッチ長P及びスパイラル径を変化させてパラメーターFを変えて比較例1〜4のタイヤ並びに実施例1〜5の本発明タイヤ1〜6の10種類のラジアルタイヤを製作した。
【0019】比較のため、直径d=0.28mmの素線ワイヤ2本を、コード構造×2の撚り線にしたスチールコードを、49本/50mm幅のエンド数でベルト層を構成した以外は、比較タイヤ1と同一構成の従来タイヤ(対照例)を作製した。これら11種類のラジアルタイヤについて、下記方法によりコーナリングパワーCp、吸湿後のドラム試験による高速耐久性とスラローム耐久性(ベルト耐久性)及び軽量化指数を評価した。その結果を表Iに示すと共に、FとCpとの関係を図4に示した。
【0020】コーナリングパワーCp:試験タイヤを空気アルキル200kPa (2.0kgf /cm2 )で13×5−Jのリムにリム組みし、直径1707.6mmのドラム上を、2942N(300kgf/cm2 )の荷重を負荷して10km/hrの速度で走行し、スリップ角右1°のときの横力とスリップ角左1°のときの横力との絶対値の平均をそれぞれ測定した。従来タイヤの測定値を基準(100)とする指数で表示した。この指数値が大きいほどCpが大きく、操縦安定性に優れていることを示す。
【0021】スラローム耐久性:試験タイヤを空気圧170kPa (1.7kgf /cm2 )で13×5−Jのリムにリム組みし、高速耐久性と同様にして調湿した後、直径1707.6mmのドラム上をスリップ角0±5°、荷重3432N(350kgf )±2157N(220kgf )の変動条件下に、荷重とスリップ角を0.067hzの矩形波で変動させて300km走行させた。走行後に試験タイヤを切開しベルトコードの有無をしらべて表Iに示した。
【0022】
【表1】


【0023】
【発明の効果】本発明によれば、ベルト層のスチールコードを2本の単線ワイヤの複数対をそのスパイラル径が実質的に相接するように配置することによって軽量化を可能にし、しかも、その単線ワイヤをスパイラル状に型付けして一対にして使用しかつそのスパイラル形状を特定するパラメーターFを一定の範囲にしたので、単線ワイヤが本来有する剛直性を緩和させて、良好な耐疲労性を保有させ、しかも互いに撚り合せない単線ワイヤの集合なので高い圧縮剛性を発現し軽量化と、良好な操縦安定性(コーナリングパワー)及び転がり抵抗を達成すると共に耐蝕性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤの一例のを一部を切り欠いて示す要部斜視断面図である。
【図2】図1のタイヤの要部を拡大し、内側ベルト層に本発明に従ってスパイラル状に型付けした一対の単線ワイヤを配した状態の一例を模式的に示した断面図である。
【図3】本発明に使用されるスパイラル状に型付けした単線ワイヤの1例を示す側面図である。
【図4】本発明の実施例における単線ワイヤのパラメーターFとコーナリングパワーCpとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…トレッド部
4…内側ベルト層
4′…外側(最外側)ベルト層
6…主溝
40…単線ワイヤ
d…ワイヤ直径
D…スパイラル径
P…スパイラルピッチ長

【特許請求の範囲】
【請求項1】 トレッドのカーカス層外周側に配置したベルト層の少なくとも一層をスチールワイヤで構成した空気入りラジアルタイヤにおいて、前記スチールワイヤをスパイラル状に型付けした2本の単線ワイヤの複数対をそのスパイラル径が実質的に相接するように配置して成り、該単線ワイヤの直径d、スパイラル径D、スパイラルのピッチ長P及びスパイラル形状を特定するパラメーターF=(D−d)/Pが、それぞれ0.01≦F≦0.050.28(mm)≦d≦0.60(mm)
2.0(mm)≦P≦8.0(mm)
である空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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