空気調和機及びコーティング組成物
【課題】冷房運転によって露付きが起こる樹脂製部品に、多様性汚れに対する防汚性能、水滴成長の抑制、および長期の優れた耐久性(密着性・剥がれ性)を全て同時に提供できるコーティング組成物を塗布した空気調和機を提供する。
【解決手段】この発明に係る空気調和機は、熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品と、樹脂製部品の表面にコーティング膜103を形成し、シリカ微粒子101と、フッ素樹脂粒子102とを含有し、コーティング膜103が、シリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物200とを備えたものである。
【解決手段】この発明に係る空気調和機は、熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品と、樹脂製部品の表面にコーティング膜103を形成し、シリカ微粒子101と、フッ素樹脂粒子102とを含有し、コーティング膜103が、シリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物200とを備えたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品への、冷房運転時における露付き防止と多様性汚れの付着防止を同時に実現する空気調和機に関する。また、被コーティング樹脂に防汚性、親水性のいずれかの機能を付与するコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷風を吹き出すことにより室内の空気調和を行う空気調和機では、冷房運転時、吹き出される冷風によってケーシング部(風路を構成する)および吹き出し口周辺の風向制御板が冷却されることによって、空気調和機周囲の室内空気の露点温度以下まで冷やされる。そのために結露を生じ、そのまま長時間運転を続行すると凝縮水が大きな水滴に成長し、ついには滴下して床を濡らしてしまう。また、滴下しないまでも、水滴が保持されることによって長時間乾かないために、風の衝突により付着した汚れを栄養分として黒カビや青カビが生えてしまい、臭気を発すると共にカビ胞子が室内に飛散していた。
【0003】
この空気調和機の風路に配置される樹脂で構成される部品への露付きを防止するため、従来、本体吹き出し周辺部位に、凝縮水の表面張力を弱めて、移動を促進する親水性の塗料を塗布するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、吸湿性を有する塗料としてアクリルエマルジョン系塗料にゼオライトを5質量%配合した吸湿性を有する塗料を塗布して、結露を防止するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
その他にも、ケーシング部および吹き出し口近傍に植毛を貼り付けて付着する結露水の吸水を行う方法や、断熱材を貼り付けて温度差をなくす方法がある。
【0006】
しかしながら、従来の露付き防止方法は、親水性または吸湿性の塗料を塗布するため、水滴に対して成長を抑制する一定の効果は認められるものの、ホコリ・砂塵といった送風機によって吸い込まれた室内を浮遊する粒子がケーシング部、吹き出し口近傍の風速成分が速い壁面に衝突した際には、表面が親水性のために同じ親水性の性質を持つ汚れがよく付着してしまう。汚れが蓄積すると、結露した水分が汚れに保持されて蒸発しにくくなるばかりでなく、栄養分となる汚れ・水気・空気・高湿度といったカビの生育に適した環境が整うリスクが高まる。従って、巨視的には親水性の性質を持って水滴成長を抑制するとともに、多様な両親媒性汚れの付着を防止できる方法が必要になる。
【0007】
室内外で使用される各種物品の表面には、粉塵、埃、油煙や煙草のヤニ等、様々な汚れが固着するため、これを抑制し得る方法が各種提案されている。例えば、物品の表面に帯電防止剤をコーティングしたり、撥油性のフッ素樹脂をコーティングして、親油性の汚れが固着するのを防止・除去し易くしたりする方法が知られている。空気調和機に用いられるコーティングでは、熱交換器への水滴ブリッジを防止することを目的として、表面に光触媒性酸化物と撥水性フッ素樹脂が微視的に分散され、外気と接するように露出して成り、層の表面は水との接触角θが90度以上である防汚性コーティング組成物がある(例えば、特許文献3、4参照)。
【特許文献1】特開平4−344032号公報
【特許文献2】特開平8−247526号公報
【特許文献3】特開平10−132483号公報
【特許文献4】特開平10−47890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献3、4のものは、光触媒性酸化物へ光を照射することにより生じる光励起によって部分的に親水性を呈するものであり、光照射が十分でない場合には良好な防汚性能が得られないという課題があり、水との接触角が90度以上のコーティング膜であって、巨視的な親水性は得られるものではなかった。従って、樹脂部分に高い親水性と高い防汚性能を付与できる方法がこれまでに発見されていなかった。
【0009】
加えて、この方法では酸化チタンやシリカといった親水性の無機材料を使用するために、撥水性を示す有機系樹脂部分との相性が非常に悪くて密着性が低いため、コーティング膜が剥離したり、塗布が困難で付着していない欠落部位があったり、短期間で防汚性能が劣化したりして、長期間使用できないという大きな課題もあった。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、冷房運転によって露付きが起こる樹脂製部品に、多様性汚れに対する防汚性能、水滴成長の抑制、および長期の優れた耐久性(密着性・剥がれ性)を全て同時に提供できるコーティング組成物を塗布した空気調和機及び被コーティング樹脂に防汚性、親水性のいずれかの機能を付与するコーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る空気調和機は、
筐体と、
筐体内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファンと、
送風ファンが形成する風路内に配置され、吸引した空気と冷凍サイクルの冷媒とが熱交換を行う熱交換器と、
熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品と、
樹脂製部品の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子から成るシリカ膜中にフッ素樹脂粒子がシリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜の露出面積がフッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物とを備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る空気調和機は、熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子から成るシリカ膜中にフッ素樹脂粒子がシリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜の露出面積がフッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物を備えたことのより、長期間における樹脂製部品の露付き防止と汚れ付着防止を同時に実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る空気調和機およびコーティング組成物について、図面に基づいて説明する。なお、以下の各図において、同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0014】
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係る空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図である。図1において、空気調和機100は、筐体10と、筐体10内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファン20と、送風ファン20により吹き出される風を導くケーシング部15と、吸引した空気を冷凍サイクルの冷媒と熱交換を行うことにより調和する熱交換器30と、吸引した空気に含まれる塵埃を捕捉するフィルタ40と、吹き出す風を左右方向に曲げる左右フラップ13と吹き出す風を上下方向に曲げる上フラップ16および下フラップ17と、開閉自在な前面グリル12とを備える。以下、各構成部材について個別に説明する。
【0015】
送風ファン20は、筐体10の側面視で略中央部に配置され、吸込口11から吹出口14に至る風路に配置される。
【0016】
ケーシング部15は、送風ファン20の吹き出し方向を決定し、送風ファン20の後方から吹出口14にまで延びている。
【0017】
熱交換器30は、吸込口11と送風ファン20との間に配置され、吸い込まれた空気を冷凍サイクルの冷媒と熱交換することで調和(冷却、加熱、除湿等)する。
【0018】
ケーシング部15には風速の速い風が衝突し、熱交換器30を介して飛んだ露が付着する場合がある。
【0019】
左右フラップ13は、樹脂で形成される様々な外郭形状の平たい風向板であり、室内機(図1で空気調和機100と呼ぶもの)の幅方向に複数枚設置されて、吹き出された風を左右方向に送り届ける役目を持つ。
【0020】
上フラップ16および下フラップ17は、樹脂で形成される断面が略円弧状の風向板であり、室内機の吹出口14の幅方向に渡って設置され、吹き出された風を上下方向に送り届ける役目を持つ。左右フラップ13および上フラップ16、下フラップ17は図示しないモータによって自動で角度を変えることができる。図示した上下フラップは、上フラップ16、下フラップ17に分かれているが、必ずしも2枚に分かれている必要はなく1枚のフラップであってもよい。また、2枚より多い枚数で構成してもよい。更には左右方向に複数に分割されていてもよい。
【0021】
図中、熱交換器30は送風ファン20の天面側および前面側を取り囲むように配置されているが、本実施の形態は該配置形態に限定されるものではない。また、熱交換器30は、伝熱管31と、伝熱管31が挿通される放熱フィン32とを備えるものを示しているが、本実施の形態はこれに限定されるものではない。
【0022】
以下、親水性汚損物質105と疎水性汚損物質106の両方に対して優れた防汚性能を発揮する樹脂用コーティング組成物に関して、図に基づいて説明する。
【0023】
図2は実施の形態1に係る空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図である。この実施の形態のコーティング組成物200が塗布されて効果がある被コーティング部を太い黒線で囲って示している。
【0024】
図2において、太い黒線で示す、又は太い黒線で囲ったケーシング部15、左右フラップ13および上フラップ16、下フラップ17の各樹脂製部品は露付き発生の懸念があり、同時に露による水分と付着した多様性汚れが起点となって黒カビや青カビ等の真菌が付着しやすく、本実施の形態のコーティング組成物200を施す好適な部位である。
【0025】
また、ノズル18の下面にも上吹き風向時に露がつきやすいためコーティング組成物200を施しても良い。
【0026】
送風ファン20のブレード先端部においては汚れ粒子の衝突が頻繁に起きるために汚れが堆積しやすく、水分が保持された場合にはカビが繁殖してやがては長く伸びた菌糸がブレード間を埋めてしまい、臭いを発生する共に著しく風量低下を起こすため、コーティング組成物200を施す好適な部位である。
【0027】
これらのケーシング部15、左右フラップ13および上フラップ16、下フラップ17、ノズル18、送風ファン20(ブレード先端部)を総称して、「熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品」と呼ぶ。
【0028】
図3乃至図5は実施の形態1を示す図で、図3はコーティング組成物200が被コーティング物である樹脂製部品にコーティングされ、コーティング膜103が形成された状態での断面を示す概念図、図4は図3におけるコーティング組成物200によるコーティング膜103の部分のみを示した概念図、図5は図3もしくは図4のコーティング膜103の上面を見た概念図である。図3乃至図5においては、いずれもコーティング組成物200が乾燥されコーティング膜103を形成している状態を示している。
【0029】
この実施の形態1のコーティング組成物200は、乾燥された状態において、シリカ微粒子101から成る親水性を示すシリカ膜104中に疎水性を示すフッ素樹脂粒子102が点在し、シリカ膜104から全部でなく部分的に露出した構成のコーティング膜103が形成されるものである。
【0030】
シリカ(SiO2)は、地殻の約60%を占める珪素の酸化物であり、主として珪砂を原料として化学的に反応させて、多孔質で大きな表面積構造を持つ合成シリカを作り出すことにより各種分野における優れた特性を生み出す。その化学的な安定性と共に広い分野で脚光を浴びている。
【0031】
このコーティング組成物200は、シリカ微粒子101が分散された水(分散液)と、フッ素樹脂粒子102が分散された水(分散液)とを混合することによって得られるもので、コーティング膜103が形成される前は水分中にシリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が分散された液の状態であり、物品表面にその分散液(コーティング溶液)を塗布したり、物品をその分散液中に浸漬させたりした後で、乾燥させ水分を除去することにより、コーティング膜103が物品表面に形成されるものである。コーティング膜103におけるシリカ膜104は、珪素Siと酸素Oの結合が続き、表面にOH基を有する膜となる。
【0032】
なおここでは、図4に示すように、コーティング組成物200により物品表面に形成された被覆層をコーティング膜103と呼ぶ。コーティング膜103は、シリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が点在するとともに、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から全部でなく部分的に露出されている状態となっているものである。また、ここでは基本的にコーティング組成物200は、上記した分散液の状態である一般的にコーティング溶液と呼ばれている状態を指すものとする。
【0033】
このコーティング組成物200に用いるシリカ微粒子101の平均粒径(平均粒子径)は、光散乱法により測定した場合、15nm以下、好ましくは4〜12nmのものとする。粒径は光散乱法により測定できる。このように極めて小さい平均粒径を有するシリカ微粒子101は、水に分散したコーティング溶液の状態では、水と接している全表面部分が平衡して水に半ば溶解した状態になっており(接する表面部分が水とシリカの中間的性質の物質となっており)、コーティング組成物200が乾燥されると、この半ば溶解した状態のシリカ成分が、シリカ微粒子101同士をつなぐバインダー(粒子を固める結合剤)として働くため、特別なバインダーを添加しなくとも、乾燥後にはシリカ微粒子101同士が凝集し固化し易くなる。そのため、クラックが入りにくいなど強度的に優れたシリカ膜104、ひいてはコーティング膜103を得ることができる。
【0034】
平均粒径が4〜15nmの範囲内にあるシリカ微粒子101では、1つのシリカ微粒子101について、シリカ微粒子101重量のおおよそ15〜30%の重量に相当する表面部分が、コーティング溶液において、半ば水に溶解した状態となっている。しかし、平均粒径が15nmを超えるシリカ粒子の場合、平均粒径が大きくなるほど、シリカ微粒子101の重量に対するコーティング溶液における水に半ば溶解した状態のシリカ成分の重量は少なくなり、バインダーとしての作用が得られなくなってくるため、形成されるコーティング膜103が十分な強度を有さず、クラックが入り易いなどコーティング膜103としては好ましくない。そのため、別途バインダーを添加する必要が生じてくる。
【0035】
逆に、平均粒径が4nm未満のシリカ粒子の場合では、コーティング溶液において、半ば水に溶解した状態のシリカ成分の割合が高くなりすぎて、コーティング溶液中でシリカ粒子同士が凝集してしまうなど、コーティング組成物200としての安定性が得られなくなる。また、乾燥後に形成されるシリカ膜104(コーティング膜103)の強度や後述する防汚性能も所望のものが得られなくなる。
【0036】
また、シリカ微粒子101の粒径は、形成されるコーティング膜103の透明性等の外観特性にも影響を与える。平均粒径が15nm以下のシリカ微粒子101であれば、コーティング膜103により反射する光の散乱が小さくなるため、コーティング膜103の透明性が向上し、被コーティング物の色調や風合いの変化を抑え、被コーティング物の色調や風合いを損なわないようにすることができる。
【0037】
また、シリカ微粒子101として、平均粒径が15nm以下のシリカ微粒子101を使用することで、得られるコーティング膜103中のシリカ膜104が、緻密ではありながらシリカ微粒子101間に微細な空隙を有するものとなる。シリケートやゾルゲル法等で形成する微粒子を用いない従来から一般的なシリカ膜や、可溶性の有機や無機物からなるバインダーが添加されたシリカ膜と比較して、本実施の形態のシリカ膜104は、薄く形成でき、またシリカ粒子によるシリカ膜104表面の凹凸を小さくして平滑に形成することができるので、汚損物質が引っ掛かったりせず、防汚性能が高められる。
【0038】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の含有量は、コーティング組成物200に対して0.1〜5重量%としており、好ましくは0.3〜2.5重量%とする。この範囲の含有量(濃度)のコーティング組成物200を用い、浸漬やかけ塗り等で被コーティング物(例えば、ケーシング部15、左右フラップ13および上フラップ16、下フラップ17等の樹脂製部品)の表面に液膜を形成し、余剰のコーティング溶液を流し去ったり、強制的に排除したりして乾燥させる方法でコーティングを行うと、形成されるコーティング膜103の厚さは50〜500nm程度となり、シリカ膜104が凹凸のない均一な厚さとすることができ、被コーティング物表面の色調や風合いを損なうことがないコーティング膜103を形成することができる。
【0039】
シリカ微粒子101の含有量が0.1重量%未満であると、シリカ膜104が薄くなりすぎて部分的な欠損が生じ、被コーティング物の表面にコーティングできていない部分が発生してしまうといった不具合が起こることがあり、コーティング組成物200としては適さないものとなってしまう。
【0040】
一方、シリカ微粒子101の含有量が5重量%を超えると、シリカ膜104が厚くなりすぎて白濁膜となってしまい、被コーティング物表面の色調や風合いを損なうことになる。また、シリカ微粒子101自体の重量割合が大きいため、上記したコーティング溶液中の半ば水に溶解したシリカ成分によるバインダー作用が得難くなり、乾燥後のシリカ微粒子101同士の固化状態が弱くなって、シリカ膜104にクラックが入り易くなったり、剥離し易くなったりと強度的に劣るようになる。
【0041】
次に、このコーティング組成物200に用いられるフッ素樹脂粒子102について説明する。コーティング膜103において、シリカ膜104中に点在し、シリカ膜104から全部でなく部分的に露出しているフッ素樹脂粒子102の平均粒径(平均粒子径)は、50〜500nm、好ましくは100〜250nmであるものを用いる。粒径の測定は、光散乱法により可能である。このような範囲の粒径のものを使用することで、シリカ膜104の厚さよりも大きい粒径となり、形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104中に適度に分散し易く、コーティング膜103の表面に(シリカ膜104表面から)フッ素樹脂粒子102の部分的な露出がされ易くなり、所望するコーティング膜103の状態が得られるようになる。
【0042】
かかる平均粒径が50nm未満のフッ素樹脂粒子102であると、コーティング溶液において、フッ素樹脂粒子102同士が凝集、合一してしまうなど性状の安定性が得られなくなる。また形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から露出し難くなり、後述する防汚性能が得られないことにもなる。
【0043】
一方、平均粒径が500nmを超えるフッ素樹脂粒子102であると、形成されるコーティング膜103において、シリカ膜104の表面から露出するフッ素樹脂粒子102部分が大きくなる。そのようになると、コーティング膜103の表面に疎水性を示す部分の領域が大きくなりすぎ、後述する防汚性能が得られないことになる。またコーティング膜103表面の凹凸が大きくなりすぎ、汚損物質(汚れ)が引っかかり易くなって、付着した汚損物質が除去され難くなる。
【0044】
このコーティング組成物200が乾燥して被コーティング物の表面に形成されるコーティング膜103において、シリカ膜104の厚さは、フッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さいものである。シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも薄く管理することで、形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104中に適度に分散して点在し、シリカ膜104の表面から全部でなく部分的に露出し易くなり、所望するコーティング膜103の状態が得られる。
【0045】
例えば、平均粒径が150nmのフッ素樹脂粒子102を使用する場合では、シリカ膜104の厚さを100nm未満に管理する。すなわち、シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102の平均粒径の2/3未満とするのである。このように、シリカ膜104を100nmより薄い薄膜に形成するためには、被コーティング物の表面でシリカ微粒子101が固化する以前に、強い気流で被コーティング物の表面のコーティング溶液をブローするとよい。このときのブロー速度やブロー時間、ブロー温度などの因子を調整することにより、シリカ膜104の厚さを管理することが可能となる。
【0046】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比(シリカ微粒子101の重量:フッ素樹脂粒子102の重量)は、50:50〜95:5としており、好ましくは75:25とする。このような範囲の重量比であれば、シリカ微粒子101(シリカ膜104)による親水性領域と、フッ素樹脂粒子102による疎水性領域とがバランスよく混在するコーティング膜103が常温での乾燥により得られる。この親水性領域と疎水性領域のバランスがよいことが、後述する防汚性能に影響する。
【0047】
ただし、シリカ微粒子101のみを用いて純粋なシリカ膜104を形成した場合にも、防汚効果はかなり制限されるものの、油煙のような疎水性粒子を遠ざける効果および表面の静電気力や分子間力を低下させる効果を有し、コーティングを施さない場合に比べて、汚れ耐力が向上する。
【0048】
これより、このコーティング組成物200によって形成されるコーティング膜103による防汚性能(防汚特性)について説明する。汚れとは、物品の表面に汚損物質が付着し、それが除去されずに物品表面に固着してしまうことである。そのため、汚損物質が物品の表面に固着しないようにする、またもし物品表面に汚損物質が付着したとしても、汚損物質が表面に固着することなく表面から容易に除去されることが、物品表面の汚れを防止することとなる。
【0049】
このように、汚損物質が表面に固着し難い特性、また仮に汚損物質が付着したとしても、表面に固着することなく表面から容易に離脱できる(除去される)特性を、「防汚性能」と呼ぶものとする。物品表面をコーティングすることで、物品表面がこの防汚性能に優れた状態にできるコーティング組成物200(コーティング膜103)を防汚性能が高い、もしくは防汚性能に優れたコーティング組成物200(コーティング膜103)と表現するものとする。なおここにおいて、付着とは、単純に表面に載っている状態も含めて、その後にその表面から比較的容易に除去できる状態を指し、固着とは、表面から容易には除去できない状態を指すものとして、区別して使用する。
【0050】
汚れを生じさせる汚損物質には、親水性汚損物質105と疎水性汚損物質106がある。親水性汚損物質105は、親水性を示す部分に付着し易く、疎水性を示す部分には付着し難い。そして、疎水性汚損物質106はその逆となる。親水性汚損物質105は、砂塵やホコリ等であり、親水性汚損物質105と物品表面の親水性部分にそれぞれ存在する親水基(OH基)同士による静電的な結合により、もしくは、親水性汚損物質105と物品表面の親水性部分が近接することによる分子間力により、または、水等の液が介在して液架橋により、物品表面(コーティング膜103表面も含む)の親水性部分に付着する。
【0051】
空気中に浮遊している親水性汚損物質105である砂塵は、大きさが数μm〜数十μmの微小な粒子である。また、同じく親水性汚損物質105であるホコリは、砂塵よりはるかに大きなもので、0.1mm〜5mmの大きさがある。このような親水性汚損物質105が、上記のような作用で物品表面の親水性部分に固着するためには、親水性汚損物質105と物品表面の親水性部分とが十分に密着できる(接触できる)だけの親水性部分の面積が存在しなければならない。
【0052】
しかし、この実施の形態のコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、親水性を示すシリカ膜104に疎水性を示すフッ素樹脂粒子102が適度に分散して点在しているため、砂塵をはじめとして親水性汚損物質105が安定して密着できるだけの連続した面積を有するシリカ膜104表面がほとんど存在しない。コーティング膜103の上に付着した親水性汚損物質105は、シリカ膜104から突出(露出)しているフッ素樹脂粒子102の表面の疎水性により、もしくは、突出しているフッ素樹脂粒子102の物理的な阻害により、シリカ膜104の表面とは十分に密着できない。このため、親水性汚損物質105は、容易に離脱してコーティング膜103に固着しない。
【0053】
また、シリカ膜104は、シリカ微粒子101から成るもの(バインダーの役目もシリカ微粒子101のシリカ成分が担っている)でシリカ微粒子101間に微細な空隙を有する多孔性の膜であるため密度が小さく、仮に親水性汚損物質105が近接しても、分子間力が小さく親水性汚損物質105を固着させ難い。
【0054】
さらに、シリカ微粒子101間に微細な空隙を有する多孔性のシリカ膜104であるため、仮に水等による液架橋が生じた場合にも、親水性汚損物質105とシリカ膜104表面間の水が、シリカ膜104の微細な空隙を通して除去され、液架橋が消失されるので、液架橋により親水性汚損物質105が固着することもない。
【0055】
このように、このコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、親水性汚損物質105に対して、優れた防汚性能を発揮する。
【0056】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で95:5より多くなれば、コーティング膜103におけるシリカ膜104中に点在するフッ素樹脂粒子102の間隔が大きくなり、シリカ膜104に微小な砂塵など大きさが小さい親水性汚損物質105が安定して固着できる面積を有する露出表面部分が出現してしまい、親水性汚損物質105がシリカ膜104表面に固着する可能性が生ずる。コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で100:0としても疎水性汚れに対する少量の効果は期待できる。
【0057】
一方で、点在するフッ素樹脂粒子102の間隔が大きく、フッ素樹脂粒子102に遮断されずに連続するシリカ膜104が広いと、シリカ膜104表面の吸湿性が向上することにより、コーティング膜103に帯電する電荷が漏洩し易くなるので、コーティング膜103表面の帯電を効率よく抑制できるという利点がある。物品表面が帯電すると、親水性、疎水性に関係なく空気中の汚損物質である微細な浮遊粒子が静電引力で引きつけられて物品表面に付着し易くなる。
【0058】
このコーティング組成物200では、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比を50:50〜95:5としているので、この範囲のコーティング組成物200で形成されるコーティング膜103のシリカ膜104においては、帯電を抑制できる連続性を有し、すなわちシリカ膜104が電荷を漏洩できる程度の連続する面積を有するような適度な間隔でフッ素樹脂粒子102が点在し、帯電による浮遊粒子(汚損物質)の付着を防ぐ効果がある。コーティング組成物200で物品表面をコーティングし、表面にコーティング膜103を形成することで、静電気に由来する汚れも防止することができるのである。
【0059】
コーティング組成物3におけるシリカ微粒子101の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で50:50より少なくなれば、シリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が点在する間隔が狭くなり、上記のような連続するシリカ膜104による帯電の抑制効果、それにより静電気に由来する汚れが防止できる効果を得難くなり、防汚性能が劣ってくる。
【0060】
もう一つの汚損物質である疎水性汚損物質106は、油煙やカーボン、煙草のヤニ等であり、汚れの原因となるものはこれらの中で微粒子として空気中に浮遊しているものである。その粒子径が5μm以下、多くは0.1〜0.3μmと親水性汚損物質105に比べて小さいものである。疎水性汚損物質106は、親水性を示す表面部分に対しては、表面に親水基や吸着した水分が存在するため、固着し難く、疎水性を示す表面部分には、固着し易い。このような疎水性汚損物質106が、物品表面に固着するのは、疎水性汚損物質106が疎水性を示す表面部分と密着することで生じる分子間力によるためである。
【0061】
このコーティング組成物200において疎水性を示すものは、上記の通り平均粒径が50〜500nmのフッ素樹脂粒子102である。フッ素樹脂粒子102は、物品表面で形成されるコーティング膜103においては、変形や合一により、単体の粒径よりも大きくなることも起こり得るが、汚れの原因となる疎水性汚損物質106の大きさと比べて同等か小さく、疎水性を示す表面部分を有するフッ素樹脂粒子102には、疎水性汚損物質106が、十分に密着できる面積が存在しない場合が多い。
【0062】
このような場合、互いに固着させるような分子間力が作用せず、疎水性汚損物質106は疎水性を示すフッ素樹脂粒子102に対して固着し難くなる。当然、疎水性汚損物質106は親水性を示すシリカ膜104には固着しないので、コーティング膜103は疎水性汚損物質106に対しても高い防汚性能を発揮する。
【0063】
上記のようなフッ素樹脂粒子102の大きさ(粒径)が、疎水性汚損物質106の大きさに比べて同等か小さいことにより、疎水性汚損物質106がコーティング膜103のフッ素樹脂粒子102に十分に密着できずに固着に到る分子間力が作用しない、ということだけでは、疎水性汚損物質106が部分的にフッ素樹脂粒子102に密着し、分子間力の作用により部分的には固着する可能性がある。また、疎水性汚損物質106の方がフッ素樹脂粒子102よりも小さい場合もあり、互いが十分に密着できる面積がフッ素樹脂粒子102に存在することも起こり得る。
【0064】
しかし、このコーティング膜103は、上記以外にも疎水性汚損物質106をフッ素樹脂粒子102に固着させない他の作用を有しており、そのような部分的な固着、小さい疎水性汚損物質106の固着さえも起こり難くしている。その作用について、以下に説明する。
【0065】
このコーティング組成物200のフッ素樹脂粒子102は、フッ素樹脂の重合時や水への分散液の状態、およびシリカ微粒子101の分散液と混合されたコーティング溶液の状態において、添加される界面活性剤により表面が親水性を示す状態になっている。乾燥されコーティング膜103となった場合には、界面活性剤は剥離して、フッ素樹脂粒子102の表面は疎水性を示すようになるが、コーティング溶液中には、シリカ微粒子101が共存しているため、乾燥後に形成されるコーティング膜103のフッ素樹脂粒子102表面には、フッ素樹脂粒子102より粒径の小さいシリカ微粒子101がまばらに付着した状態になる。
【0066】
このように、フッ素樹脂粒子102の表面に親水基を有する(親水性を示す)シリカ微粒子101が散らばって付着しているために、フッ素樹脂粒子102の表面には疎水性汚損物質106の部分的な固着も、またフッ素樹脂粒子102よりも小さい疎水性汚損物質106の固着も起こり難いのである。フッ素樹脂粒子102の表面に部分的に親水基が導入されることで、フッ素樹脂粒子102と疎水性汚損物質106との密着を抑制する効果が得られるのである。そして、フッ素樹脂粒子102の表面に疎水性汚損物質106が付着しても、シリカ微粒子101が散らばって付着しているので、その付着は不安定で、容易に離脱できる。
【0067】
一方で、そのようにシリカ微粒子101がまばらに付着しているフッ素樹脂粒子102の表面であっても、シリカ微粒子101の大きさに比べるとはるかに大きい親水性汚損物質105に対しては、十分な疎水性としての効果を発揮し、親水性汚損物質105がフッ素樹脂粒子102の表面に固着することはない。また、フッ素樹脂粒子102は、柔軟な表面を有しているのだが、このようにシリカ微粒子101がまばらに付着することで、フッ素樹脂粒子102の表面が硬くなり、疎水性汚損物質106が密着し難くなる効果も得られる。
【0068】
また、フッ素樹脂自体が、従来からフッ素樹脂コーティングで知られているように、非常に表面エネルギーが小さく摩擦係数が低いため、疎水性を示すばかりでなく、撥油性も有しており、他の疎水性を示す樹脂に比べて、疎水性汚損物質106の固着が起こり難い性質を備えている。その点も、疎水性汚損物質106がフッ素樹脂粒子102に固着しない作用効果の一つである。
【0069】
このように、このコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、疎水性汚損物質106に対しても、優れた防汚性能を発揮する。
【0070】
コーティング組成物200におけるフッ素樹脂粒子102の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で50:50より多くなると、コーティング膜103において露出するフッ素樹脂粒子102の疎水性を呈する部分の表面積が大きくなりすぎ、疎水性汚損物質106のコーティング膜103への固着が増す傾向が見られるようになる。そして、多数のフッ素樹脂粒子102の存在により、それらの一部が合一するなどして、コーティング膜103が白濁して、被コーティング物の表面の色調や風合いを損なうようになる。また、フッ素樹脂粒子102が合一すると、シリカ膜104の連続性が阻害されることにもなる。
【0071】
なお、シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102の粒径よりも大きく(厚く)した場合には、親水性を呈するシリカ膜104がコーティング膜103の表面として広く露出することになり、親水性汚損物質105に対する防汚性能が劣る。さらに、フッ素樹脂粒子102のシリカ膜104中への分散が阻害され、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104から分離してシリカ膜104表面に析出し、フッ素樹脂粒子102同士が合一して塊となってしまい、その部分で局所的に親水性が悪化したり、疎水性汚損物質106が固着したりすることが起こり得る。そのため、上記したようにシリカ膜104の厚さは、フッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さく(薄く)して、フッ素樹脂粒子102が、シリカ膜104中に適度に分散され、それぞれのフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104から全部ではなく部分的に露出できるようにする。
【0072】
このコーティング組成物200におけるフッ素樹脂粒子102としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体),PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等や、これらの共重合体もしくは混合物、またはこれらに他の樹脂を混合したものが使用できる。
【0073】
フッ素樹脂粒子102は、コーティング組成物200が製造される前に水に分散した分散液の状態である必要がある。分散させる方法は、懸濁重合や乳化重合により重合したフッ素樹脂粒子102を用い、界面活性剤を利用することで可能となる。水に分散した状態においては、フッ素樹脂粒子102の表面は疎水性が低い状態となっているが、これらが乾燥され固形物(コーティング膜103)となった状態にて、表面が疎水性を示すようになればよい。使用するフッ素樹脂としては上記の中で特に、PTFEとFEPが、分散液やコーティング溶液において凝集しないといった安定性に優れている点、また乾燥されコーティング膜103となった時の疎水性が高い点から好ましい。
【0074】
以上のように、このコーティング組成物200により物品表面に形成されるコーティング膜103は、親水性汚損物質105と疎水性汚損物質106の両方とも固着させず、また付着しても容易に離脱させることができるので、優れた防汚性能と剥離性を発揮して、コーティングされたフィルタ表面の汚れを防止することができる。後述する実施例(実験結果)においても、この実施の形態によるコーティング組成物200の防汚性能が優れていることが証明されている。
【0075】
この実施の形態のコーティング組成物200の製造方法は、特に制限されることはないが、シリカ微粒子101の分散液と、フッ素樹脂粒子102の分散液と、を混合することによって容易に製造することができる。ここで、シリカ微粒子101の分散液は、15nm以下の平均粒径を有するシリカ微粒子101が水に分散されたもの、例えば、市販のコロイダルシリカを用いることができる。シリカ微粒子101の分散液では、分散液中のシリカ微粒子101の体積比率が、20%以下であることが好ましい。体積比率が20%を超えると、シリカ微粒子101が凝集するなど分散液の安定性が低下してしまうことがあるためである。
【0076】
また、フッ素樹脂粒子102の分散液は、500nm以下の平均粒径を有するフッ素樹脂粒子102が水に分散されたもの、例えば、PTFEディスパージョンを用いることができる。なお、疎水性のフッ素樹脂粒子102をコーティング組成物200に凝集することなく均一に分散させるために、界面活性剤を加えてもよい。なお、どちらの分散液においても極性溶媒は水に限定されるものではない。
【0077】
それぞれの分散液に使用される水は、特に制限されることはないが、シリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が凝集することなく分散して安定するために、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等のイオン性不純物が少ないものがよい。2価以上のイオン性不純物が200ppm以下であることが望ましく、より望ましくは50ppm以下である。2価以上のイオン性不純物が多くなると、シリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が凝集して沈殿したり、形成されるコーティング膜103の強度や透明性が低下したりする恐れが生じる。
【0078】
このコーティング組成物200は、有機溶剤を含まないので、安全で環境にやさしいものである。また、上記のように市販されている分散液を混合するだけで製造できるので、容易に低コストで製造できる利点がある。
【0079】
ただし、コーティング組成物200は、疎水性のフッ素樹脂粒子102の安定性確保や、被コーティング物品の材質に応じて、形成されるコーティング膜103の密着性向上やコーティング膜103の親水性の調整を図る観点から、界面活性剤や有機溶剤を添加してもよい。また、コーティング組成物200には、形成されるコーティング膜103の密着性や透明性、強度の向上、さらにはコーティング膜103の親水性の調整目的でカップリング剤やシラン化合物を添加してもよい。
【0080】
ここで、このコーティング組成物200に使用可能な界面活性剤としては、各種のアニオン系又はノニオン系の界面活性剤が挙げられる。かかる界面活性剤の中でも、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックポリマーやポリカルボン酸型アニオン系界面活性剤等が、起泡性が低く使用し易いので好ましい。
【0081】
また、このコーティング組成物200に使用可能な有機溶剤としては、各種のアルコール系、グリコール系、エステル系、エーテル系等のものが挙げられる。
【0082】
また、このコーティング組成物200に使用可能なカップリング剤としては、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ系、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のメタクリロキシ系やメルカプト系、スルフィド系、ビニル系、ウレイド系等が挙げられる。
【0083】
また、このコーティング組成物200に使用可能なシラン化合物としては、トリフルオロプロピルトリメトキシランやメチルトリクロロシラン等のハロゲン含有物、ジメチルジメトキシシランやメチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有物、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等のシラザン化合物、メチルメトキシシロキサン等のオリゴマー等が挙げられる。
【0084】
以上の添加剤の含有量は、このコーティング組成物200の防汚性能や初期親水性、長期の親水持続性および密着性を損なわない範囲であれば、特に制限されることはなく、選択した添加剤に応じて適宜調整すればよい。
【0085】
この実施の形態のコーティング組成物200の物品表面へのコーティング方法としては、特に制限されることはなく、従来から公知の方法を用いて行うことが可能であるが、コーティング組成物200を被コーティング物品表面に浸漬、スプレーもしくはかけ塗り等の方法で塗付した後、余剰のコーティング組成物200を気流で除去する方法が望ましい。余剰なコーティング組成物200が物品表面に滞留してしまうと、その部分に形成されるコーティング膜103が厚くなり、白濁して被コーティング物の色調や風合いを損なったりする恐れがある。気流を用いることで、乾燥が促進される効果も得られ、シリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が適度に点在した良好なコーティング膜103が得られるという利点もある。ただし、下地が撥水性の高い樹脂の場合には、強い気流ではコーティング液が飛んでしまうため、適宜、弱い気流または静置乾燥によりコーティングを固着させても良い。
【0086】
これまで、シリカ微粒子101膜をベースにフッ素樹脂粒子102を分散させたコーティング組成物200の防汚性能について述べてきたが、以下、高い親水性による水滴成長の抑制と乾燥速度について説明する。図6は水滴50の接触角θについて説明するための模式図である。
【0087】
ここで接触角θとは、樹脂表面に付着した水滴50の樹脂表面と接する部分における接線TLが、樹脂表面となす角度のことである。接触角θが小さいほど、すなわち0度に近づくほど、付着する水滴11が樹脂表面に平たく広がるようになり、水滴が成長しにくく、乾燥しやすい。そして、親水性が高いとは、付着する水滴50が広がり易いことを意味し、すなわち、接触角θが小さい(0度に近づく)ほど、親水性が高い、もしくは親水性に優れることになる。図6において、(a)に示す水滴50よりも(b)に示す水滴50の方が、接触角θが小さい。
【0088】
空気調和機に備えられた被コーティング物であるケーシング部15、左右フラップ13、上フラップ16、下フラップ17は、PS(ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PP(ポリプロピレン)といった汎用の有機樹脂が用いられることが多い。これらの樹脂の接触角は少なくとも50度以上、一般には80度前後であり、撥水面である。従って接触角θが大きいために、その水滴50は水滴として存在する時間が長くなり、更に水分が付着した場合に、水滴が大きく成長することになり、やがては落下してしまう。最悪の場合、室内の空気調和機よりユーザの部屋へ水滴が飛散する。また、水滴の保持時間が長いとカビの成長速度が上がり、周辺の汚れや空気を媒体として黒カビや青カビが樹脂部を覆うこととなる。
【0089】
本実施の形態のコーティング組成物200を塗布した被コーティング物107(被コーティング樹脂)は、微視的には親水性と疎水性の両方の性質を備えるが、親水性のシリカ微粒子101から成る高い親水性のシリカ膜104をベースとして、シリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きいため、連続して繋がったシリカの効果によって、全体としては高い親水性を示す。具体的な静的接触角を測定したところ、約10〜20度を示し、高い親水性を有している。従って、接触角が80度前後である、従来のコーティング組成物200を施さない樹脂に比べて、水を押し広げて水滴成長を抑制できて水滴の飛散を防止できることはもちろん、押し広げることで空気に触れる表面積が広がり乾燥する速度も向上する。従って、樹脂表面に水分が存在する時間が短くなり、カビの繁殖も抑制できる。
【0090】
4〜15nmという非常に小さなシリカ微粒子101が連続して繋がっていることにより、その他の有機系親水コーティング、例えば、アクリルやポリエーテルやポリビニルアルコールのようなコーティングと比較しても、2桁程度短い時間で水滴50がつぶれて押し広げられた。シリカ微粒子101と分散させたフッ素樹脂粒子102を用いたコーティングは、非常に高い親水性を付与すると同時に、親水性・疎水性いずれの性質の汚れ物質に対しても非常に高い防汚性能を有して、効果的に露飛びの発生とカビの発生を抑制することができる。
【0091】
これまで、シリカ微粒子101膜をベースにフッ素樹脂粒子102を分散させたコーティング組成物200の親水性について述べてきたが、以下、下地である有機樹脂との密着性について説明する。前述のように空気調和機100に備えられた被コーティング物であるケーシング部15、左右フラップ13、上フラップ16、下フラップ17はPS(ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PP(ポリプロピレン)といった汎用の有機樹脂が用いられている。また、送風ファン20は、ASG(ガラス入りアクリロニトリルスチレン)が用いられている。
【0092】
ところが、親水性と防汚性とを両立できるコーティング組成物200は有機溶剤等を使用しない安全なコーティングである一方、無機による構成であるので、金属材料などへの密着性は良好であるが、有機樹脂への密着性が悪いという課題がある。また、これらの樹脂は撥水面であるため、水系コーティング自体が一様に付着しない。従って、被コーティング部位である有機樹脂上に水系の無機分散コーティング溶液を塗布しても、部分的に膜が付着していなかったり、長期の使用においては自然に剥がれたりしてしまう。また、拭き掃除などでこすった場合にも剥がれやすくなる。
【0093】
従来、コーティングの密着性を向上するために種々の方法がとられている。例えば、物品表面に予め、コロナ処理、UV処理等の前処理を施す方法である。これにより樹脂の表面が改質され、相性の悪いコーティング材であっても密着性が向上する。
【0094】
図7にプライマー処理を用いた従来のコーティングを示す。被コーティング物107(被コーティング樹脂)の上に下塗り接着材であるプライマー層110を予め樹脂(被コーティング物107(被コーティング樹脂))表面に塗っておき、その上から本実施の形態のコーティングを施す2段階塗布方法もある。プライマー層110としては、例えばポリオレフィン層などを用いて好適であり、密着性の向上と平坦性の向上が得られる。
【0095】
ただし、これらのコロナ処理やUV処理やプライマー二層処理を行う場合、大掛かりな設備が必要であったり、処理時間がかかったり、コストが増大する課題があり、空気調和機100のような量産性が必要な製品には向かない。そこで、本実施の形態では最も簡便で低コストで量産に適合する方法として、コーティング溶液にラジカル発生材111または過酸化物112を微量添加した。
【0096】
ここで、ラジカル発生材111を、一般に分子を繋げるラジカル重合に用いられ、およそ60℃以上の熱により分解作用を示すものと定義する。ラジカル重合は高分子化学における重合反応の形式の一種であり、ラジカルを反応中心としてポリマー鎖が伸張していく反応である。ラジカル発生材111には、熱分解するBPO(ベンゾイルパーオキサイド;油溶性)、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、AVCA(4,4−Azobis(4−cyanovaleric Acid))などがある。例えば、ラジカル重合の例として、エチレンの重合によるポリエチレン生成がある。ラジカル重合の開始剤となるフリーラジカルを発生させるための反応は、BPOやAIBNを光もしくは加熱により分解し、下式のように酸素を断ち切ったり、2重結合を断ち切ったりして、ラジカルを生じさせる。
RO−OR → 2RO・
R2(NC)C−N=N−C(CN)R2 → 2 R2(NC)C・+N2
【0097】
また、過酸化物112は、以下の物の略称または別称であり、ここでは水溶性を示して、常温で自己分解作用があるものと定義する。通常は酸化剤や漂白剤として使用されるものであるが、コーティング用途では用いられない。無機化合物では主に、形式的に過酸化水素の金属塩の化学式をとる無機過酸化物112、またはオキソ酸のヒドロキシ基 (−OH) をヒドロペルオキシド基 (−O−OH) に置き換えた構造を持つ物質が過酸化物112と呼ばれる。また、有機化合物では主に、官能基としてペルオキシド構造 (−O−O−) を有する化合物、または官能基として過カルボン酸構造 (−C(=O)−O−O−) を有する化合物が過酸化物112と呼ばれる。過酸化水素が最も一般的である。
【0098】
本来のラジカル発生材111は、単体の分子を重合させる材料であり、過酸化物112は酸化剤や漂白剤として利用される材料であるが、下地の樹脂に対応する適切なラジカル発生材111または過酸化物112を選ぶことによって、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、ASG(ガラス入りアクリロニトリルスチレン)、といった汎用の有機樹脂と、シリカ微粒子101膜およびフッ素樹脂粒子102の分散液を原料として形成された無機系コーティング組成物200との密着性を向上する効果があることを発見するに至った。
【0099】
図8にラジカル発生材111または過酸化物112を添加した実施の形態1のコーティングを示す。コーティング膜103中にラジカル発生材111または過酸化物112が分散されている。コーティング溶液にラジカル発生材111または過酸化物112を微量添加することによって、コーティング溶液は撥水性の高い樹脂上であってもはじかれにくくなり、塗布しやすくなる。また、ラジカル発生材111または過酸化物112が熱による分解や時間に連れて自己分解するにつれて、特に下地の被コーティング物107(被コーティング樹脂)とシリカ膜104の界面近傍で、フッ素樹脂分散液(ディスパージョンとも呼ぶ)に含まれていたモノマー成分や界面活性剤が反応起点となって、シリカの凝集形態変化や下地の被コーティング物107(被コーティング樹脂)とシリカ膜104の接着効果を及ぼし、密着性を上げることができる。これらは、樹脂分散液と反応材料(ラジカル発生材111または過酸化物112)のどちらかがなくても成立しない。
【0100】
ABSやASGを下地に用いた場合、難水溶性の熱ラジカルであるBPOを添加したときに、密着性が向上する。室温放置でも密着性の向上効果はあるが、熱ラジカルであるために60度以上のような熱をかけることで更に効果が高まる。BPOの添加量はコーティング溶液全体の0.05%〜5%程度として好適であり効果が確認された。PSやPPを用いた場合は水溶性の過酸化物112である過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム、過酸化水素を添加したときに、密着性が向上する。過酸化物112であるために室温放置でも自己分解作用により密着性の向上効果を示すが、分解が効率よく起こるので60度のような熱をかけることで更に効果が高まる。過酸化物112の添加量はコーティング溶液全体の0.05%〜5%程度として好適であり、効果が確認された。ラジカル発生材111や過酸化物112は熱や時間と共に分解消失して、周囲物に反応を及ぼして分離/変性する効果を及ぼす。詳細は後述する実施例で述べる。
【0101】
ラジカル発生材111か過酸化物112を用いることで、コロナ処理やUV処理やプライマー二層処理(接着層)のように大掛かりな設備を必要とせず、また、一層コート以外の複数塗布工程を必要としないため、安価なコストで密着性が高く剥がれにくい、無機のコーティング組成物200を有機樹脂上に簡単に塗布することが可能となる。
【0102】
なお、空気調和機100としてこの実施の形態のコーティング組成物200によるコーティング膜103で表面を被覆した、ケーシング部15、左右フラップ13、上フラップ16、下フラップ17、ノズル18への適用例を述べたが、この実施の形態のコーティング組成物200は、これらに限定されることなく、様々な物品の表面をコーティングすることができる。適用される物品としては、特に限定されることはないが、防汚性能に優れているので、使用場所が室内外に関らず、粉塵、油煙及び煙草のヤニ等の様々な汚れ(親水性汚損物質105や疎水性汚損物質106)が固着する恐れがある各種物品が挙げられる。
【0103】
また、初期の親水性および長期の親水持続性に優れるため、日常的に水に触れるもの、水をすくうもの、水に曝されるもの、表面に付着した水を排出するものへの適用にすると、防汚の効果だけでなく、高い親水性、排水性の効果も得られるので都合が良い。具体的な例としては、手についた水を飛ばすハンドドライヤー、貯めた水を平板ですくうディスク式加湿器、蒸気や油煙を吸い込む換気扇、トイレの便器、車の外塗装やミラー、車や建物の窓ガラス、浴室や洗面所の鏡、ガードミラー、建物の外壁や屋根、食器や台所用品や洗面用品などが挙げられる。
【0104】
また、下地の樹脂としてPS、PP、ABS、ASGを例にとり、添加するラジカル発生材111としてBPO、過酸化物112として過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム、過酸化水素を例に挙げたが、これに限定されるものではなく、各種有機物で構成された樹脂上に無機物のコーティングを施す場合に、長期の密着性をあげるためにラジカル発生材111か過酸化物112を添加する手段は有用である。密着性と同時に本実施の形態のコーティングを施すことで親水性と防汚性が得られる。
【実施例】
【0105】
以下、具体的な実施例を示すことにより、この実施の形態のコーティング組成物200の防汚性、親水性、密着性の詳細な実験結果および特性を説明する。なお、以下に示す実施例が、この実施の形態の範囲を限定するものではない。コーティングして表面にコーティング膜103を形成する試験対象としては、ケーシング部15や左右フラップ13、16の材料として一般に使用されるPS(ポリスチレン)とABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)を使用した。
【0106】
実施例1〜7.
実施例1〜7では、純水に平均粒径9nmのシリカ微粒子101を分散したコロイダルシリカ(触媒化成工業株式会社製、pH10)と、平均粒径250nmのフッ素樹脂粒子102を純水に分散したPTFEディスパージョン(旭硝子株式会社製、pH10)とを撹拌混合した後、非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエステル)をさらに加えて撹拌混合することにより、表1に示す組成を有するコーティング組成物を調合した。コーティング組成物中の非イオン系界面活性剤の含有量は、0.05重量%であった。これらで試験片の表面をコーティングした。また、最適なシリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102の重量比を見つけるために、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102の重量比を30:70〜100:0の範囲で変化させた。
【0107】
比較例1〜3.
比較例1では、従来から空気調和機に用いられるコーティング無しのPSであり、シリカもフッ素も含まない。比較例2では、従来から空気調和機に用いられるPSに親水塗料として広く用いられる有機系のPVC(ポリビニルアルコール)をコーティングしたものであり、シリカもフッ素も含まない。比較例3では実施例6と同様の重量比でありながら、シリカ微粒子101のコーティング組成物に対する重量比を高めて、すなわち微粒子の濃度を高くしてコーティング組成物200を調合した。図9に詳細を示す。
【0108】
各例のコーティング組成物200を試験片に塗布し、静置乾燥にて試験片にコーティング膜103を形成し、形成されたコーティング膜103の性状、初期接触角θおよび防汚性能をそれぞれ評価した。ここで、コーティング膜103の性状は、目視観察により評価した。接触角θは、接触角計(協和界面化学株式会社製DM100)により測定した。防汚性能は、親水性汚損物質105である砂塵の固着性、疎水性汚損物質106であるカーボン粉塵の固着性を評価した。
【0109】
親水性汚損物質105の固着性評価は、1〜3μmを中心粒径とするJIS関東ローム粉塵をエアーでコーティング表面(コーティング膜103)に吹き付けることにより、赤色の関東ローム粉塵の固着による着色を目視観察にて五段階評価した。この評価において、関東ローム粉塵の固着がほとんどないものを1とし、関東ローム粉塵の固着が多いものを5と表記する。また、疎水性汚損物質106の固着性評価は、油系のカーボンブラックをエアーでコーティング表面(コーティング膜103)に吹き付けることにより、黒色のカーボンブラックの固着による着色を目視観察にて五段階評価した。この評価において、カーボンブラックの固着がほとんどないものを1とし、カーボンブラックの固着が多いものを5と表記する。その評価結果を図10に示す。
【0110】
図10に示す実験結果から、実施例1〜7のコーティング組成物200により形成されたコーティング膜103は、いずれも親水性、疎水性の両方の汚損物質に対して優れた防汚性能を示し、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との含有量(重量比率)を調整することにより、形成されるコーティング膜103の巨視的な特性(親水性又は疎水性)を調整することができた。
【0111】
本実施の形態のコーティング膜103は連続してつながった親水性のシリカ膜104がベースになっているため、接触角は総じて低い値を示しているが、ミクロ領域(微視的)では、親水性と疎水性が交互にナノレベルで連続して配置される。また、シリカの割合を多くした場合は疎水性汚損物質106の付着を抑制することができ、フッ素の割合を多くした場合は親水性汚損物質105の付着を抑制できることができる。
【0112】
ただし、フッ素樹脂粒子102の重量比が高い実施例1(シリカ微粒子101の重量:フッ素樹脂粒子102の重量=30:70)では、疎水性汚損物質106に対する防汚性能がやや劣る傾向があることがわかる。また、シリカ微粒子101のみで形成した実施例7(シリカ微粒子101の重量:フッ素樹脂粒子102の重量=100:0)では、フッ素樹脂粒子102による微小凹凸が無いために付着面積が広く、全体としての防汚効果はかなり限定されてしまう。
【0113】
実施例1〜7のコーティング組成物200では、厚さが均一で薄いコーティング膜103を形成することができた。電子顕微鏡画像からコーティング厚みは100nm程度の薄膜であり、透明な膜を形成できた。実施例6と比較例3を比べれば、同じシリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102の重量比であっても膜の性状は変化することがわかる。シリカ微粒子101の含有量(濃度)が高い(5重量%を超える)場合には、形成されるコーティング膜103は、厚さが不均一で白濁してクラックが入りやすく好ましくない。
【0114】
親水性と疎水性の両方の汚損物質に対して防汚性能を両立するものとして、シリカ微粒子101に対するフッ素樹脂粒子102の重量比率が、50:50〜85:15である実施例2、3、4、5が特に好ましい。更に詳細には重量比率が75:25である実施例4が最も好ましく、親水性・疎水性の両方の粒子の汚損から効果的に被コーティング物107(被コーティング樹脂)を守れる。シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との含有量(重量比率)を調整することにより、防汚特性の制御が容易である。
【0115】
一方、比較例1の従来から空気調和機100に用いられるコーティング無しのPS樹脂では、いずれの汚れも明白に付着して汚損され易い事が示された。絶対値での防汚効果を知るために別途光を透過するPETフィルムに関東ローム砂塵とカーボンブラックを吹き付けて、光透過度から評価を行った。その結果、実施例の4(シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比75:25)は、従来のコーティングを施さないPS樹脂である比較例1に比べて、親水性・疎水性の両性ともに約1/10〜1/20程度に付着量を抑制できる。また、一般的な親水塗料であるPVCコーティングを施した比較例2に比べて、親水性・疎水性の両性ともに約1/5〜1/10程度に付着量を抑制できる。
【0116】
加えて、比較例1のPS樹脂の表面抵抗(体積抵抗率)は約1016Ω・cmと高い値を示すのに対して、実施例1〜7のコーティングの表面抵抗は約1012Ω・cmと低い値を示すため、表面の静電気力が従来のPS樹脂に比べて低くなり、それだけ付着した汚れは剥がれやすい。これは、本実施の形態のコーティングが巨視的には親水性を示すため、表面のOH基によりイオン伝導が促されて電気が通りやすくなるためである。
【0117】
また、疎水性粒子の代表としてカーボンブラックを用いたが、その他の疎水性物質である油煙の影響を確認した。焼肉から発する油煙および0.1〜1mmに分布した繊維状ホコリを被コーティング物107(被コーティング樹脂)の前面風速を1m/sに設定して20cm角の風洞に設置した実施例4のコーティング樹脂および比較例1の従来のPS樹脂に通して油煙および繊維ホコリの付着具合を目視ならびに顕微鏡にて観察した。その結果、実施例4では明白にホコリの付着量が少なく、油煙の付着が抑制されたことが示された。これは、疎水性粒子の付着面積が少ない効果に加えて、膜が低密度なために例え油煙が付着してもコーティング内部に吸収されるので表面に油煙が残らないためである。また、時間が経過するとホコリ・砂塵が剥がれ落ちる効果も確認された。一方、比較例1〜3の従来例では、表面に油煙付着が明白に確認され、時間が経ってもホコリは剥がれ難かった。
【0118】
以下、親水性について述べる。図10から、比較例1に示すコーティングを施さないPS樹脂の静的接触角が80度であるのに対して、実施例3〜7のコーティングを施したPS樹脂の静的接触角は10〜20度程度であった。接触角が低いことによって、水滴を押し広げて、水滴の成長と落下を抑制して、すばやく乾燥できる。水分の乾燥速度は、周囲の空気温度および気流速度等が同一であれば、気中との接触面積(=水滴の表面積)に従うことは公知であり、親水性をもつコーティング表面上では水分と空気の接触面積は大きくなり乾きやすい。
【0119】
実際に、水平に置いた試験片状で20μLの水滴を落としたところ、実施例4のコーティングを施したPS樹脂は水滴が瞬時につぶれて広がったが、比較例1に示すコーティングを施さないPS樹脂は撥水性であるため水滴はつぶれなかった。更に、別の親水性コーティングと比較するために、一般に広く使用されるPVC(ポリビニルアルコール)をコーティングしたPS樹脂である比較例2を用いて同様の試験を行ったが、つぶれて広がるまでの時間が長かった。この挙動を高速度カメラにより撮影した結果を図11に示す。落とした水滴がつぶれて初期接触角θに到達するまでの時間を測定すると、PVCをコーティングした比較例2が約1秒程度かかるのに比べて、実施例4のコーティングを施したPS樹脂は2桁速い0.01秒であり、瞬時に付着した水滴が広がる良好な親水性を示した。親水ではない樹脂はもちろんのこと、一般的な親水材料であるPVCコーティングと比べても、シリカ微粒子101を用いた本実施の形態のコーティングは、水分の成長を抑制して、水滴落下を抑制する効果を持つ。
【0120】
以下、密着性について述べる。密着性の評価は、作成した試験片を水濡れさせたティッシュにより約1kg/cm2での圧着往復を行い、剥離するまでの回数から評価した。約1kg/cm2は消しゴムで強く擦る程度である。コーティング溶液には過酸化物112またはラジカル発生材111を添加した実施例4の配合溶液を使用し、コーティングを施した後、60度18時間環境下にて乾燥させた。ラジカル発生材111として、BPO(ベンゾイルパーオキサイド)、AVCA(4,4−Azobis(4−cyanovaleric Acid))、過酸化物112として、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム、過酸化水素を用いた。被コーティング物107(被コーティング樹脂)あるPS樹脂(ポリスチレン)に対する密着性を図12に、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン)に対する密着性を図13に示す。
【0121】
その結果、被コーティング物107(被コーティング樹脂)である下地がPS樹脂(ポリスチレン)の場合には、熱ラジカルであるAVAC、BPOの効果は少量であったが、過酸化物112である過硫酸アンモニウム(APS)をコーティング液濃度添加したものは、10倍以上の耐拭き取り回数を示した。図示はしていないが、下地がPP樹脂(ポリプロピレン)の場合にもPS樹脂と同様の傾向が見られた。また、過硫酸ナトリウム、過酸化水素の場合にも同様の密着度改善効果が見られた。添加濃度としては、0.05%〜5%で効果が確認された。
【0122】
また、下地がABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン)の場合には、過酸化物112である過硫酸アンモニウム(APS)の効果は少量であり、AVCAでは均一性なく密着性が悪化したが、非水溶性の熱ラジカルであるBPOを添加したものは、5倍〜7倍の耐拭き取り回数を示した。
【0123】
コーティング後、60℃18時間環境下においた場合に効果が高いが、室温レベルの20℃18時間放置であっても3倍程度の密着性の向上が認められた。コーティング溶液にラジカル発生材や過酸化物112を添加することによって、撥水性の高い樹脂上であってもはじかれにくくなり、塗布しやすくなる。ラジカル発生材111や過酸化物112が熱分解や時間に連れて自己分解するにつれて、特に下地の被コーティング物107(被コーティング樹脂)とシリカ膜104の界面近傍で、フッ素樹脂分散液(ディスパージョンとも呼ぶ)に含まれていたモノマー成分や界面活性剤が反応起点となって、シリカの凝集形態変化や下地の被コーティング物107(被コーティング樹脂)とシリカ膜104の接着効果を及ぼし、密着性を上げることができる。これらは、樹脂分散液と反応材料(ラジカル発生材111または過酸化物112)のどちらかがなくても成立しないことから考えて、分散液中の成分と反応材料が効果に寄与していると判断できる。
【0124】
以上説明してきたように、本実施の形態に係る空気調和機100は、空気調和機100の冷房運転によって露付きが起こる樹脂で構成される部分の表面に形成するコーティング組成物200であって、シリカ微粒子101と、フッ素樹脂粒子102と、を含有し、コーティング膜103が、シリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きいものであり、分解作用のある反応型ラジカル発生剤を添加したコーティング組成物200を備えたことを特徴とする。
【0125】
それにより、親水性汚損物質105と疎水性汚損物質106の両方に対して優れた防汚性能を発揮するとともに、親水性効果による水押し広げ効果、水滴成長速度の抑制効果、乾燥促進効果に優れ、さらに大掛かりな設備を要せず低コストにて密着性を向上して剥がれることなく、長期間に渡って露付き防止と汚れ付着防止を同時に提供する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】実施の形態1に係る空気調和機100を模式的に示す中央部の断面図。
【図2】図1に示す空気調和機100の被コーティング部位を示す断面図。
【図3】実施の形態1のコーティング組成物200が樹脂表面にコーティングされ、コーティング膜103が形成された状態の断面を示す概念図。
【図4】図3のコーティング膜103の部分のみを示した概念図である。
【図5】図4のコーティング膜103の上面を見た概念図。
【図6】実施の形態1を示す図で、樹脂表面に付着した水滴の接触角θを説明する模式図。
【図7】比較のために示すプライマー処理を用いた従来のコーティングの断面を示す概念図。
【図8】実施の形態1を示す図で、ラジカル発生材111または過酸化物112を添加したコーティング組成物200が樹脂表面にコーティングされ、コーティング膜103が形成された状態の断面を示す概念図。
【図9】実施例1〜7及び比較例1〜3のコーティング組成物200を調合を示す図。
【図10】実施例1〜7及び比較例1〜3のコーティング膜103の性状、初期接触角θおよび防汚性能を示す図。
【図11】実施例4と比較例2の表面における水滴挙動の比較を示す高速度カメラ画像図。
【図12】実施の形態1を示す図で、ラジカル発生材11と過酸化物112を添加した被コーティングで107の耐拭き取り回数を示す図。
【図13】実施の形態1を示す図で、ラジカル発生材と過酸化物112を添加した被コーティングで107の耐拭き取り回数を示す図である。
【符号の説明】
【0127】
10 筐体、11 吸込口、12 前面グリル、13 左右フラップ、14 吹出口、15 ケーシング部、16 上フラップ、17 下フラップ、18 ノズル、20 送風ファン、30 熱交換器、31 伝熱管、32 放熱フィン、40 フィルタ、100 空気調和機、101 シリカ微粒子、102 フッ素樹脂粒子、103 コーティング膜、104 シリカ膜、105 親水性汚損物質、106 疎水性汚損物質、107 被コーティング物、110 プライマー層、111 ラジカル発生材、112 過酸化物、200 コーティング組成物。
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品への、冷房運転時における露付き防止と多様性汚れの付着防止を同時に実現する空気調和機に関する。また、被コーティング樹脂に防汚性、親水性のいずれかの機能を付与するコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷風を吹き出すことにより室内の空気調和を行う空気調和機では、冷房運転時、吹き出される冷風によってケーシング部(風路を構成する)および吹き出し口周辺の風向制御板が冷却されることによって、空気調和機周囲の室内空気の露点温度以下まで冷やされる。そのために結露を生じ、そのまま長時間運転を続行すると凝縮水が大きな水滴に成長し、ついには滴下して床を濡らしてしまう。また、滴下しないまでも、水滴が保持されることによって長時間乾かないために、風の衝突により付着した汚れを栄養分として黒カビや青カビが生えてしまい、臭気を発すると共にカビ胞子が室内に飛散していた。
【0003】
この空気調和機の風路に配置される樹脂で構成される部品への露付きを防止するため、従来、本体吹き出し周辺部位に、凝縮水の表面張力を弱めて、移動を促進する親水性の塗料を塗布するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、吸湿性を有する塗料としてアクリルエマルジョン系塗料にゼオライトを5質量%配合した吸湿性を有する塗料を塗布して、結露を防止するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
その他にも、ケーシング部および吹き出し口近傍に植毛を貼り付けて付着する結露水の吸水を行う方法や、断熱材を貼り付けて温度差をなくす方法がある。
【0006】
しかしながら、従来の露付き防止方法は、親水性または吸湿性の塗料を塗布するため、水滴に対して成長を抑制する一定の効果は認められるものの、ホコリ・砂塵といった送風機によって吸い込まれた室内を浮遊する粒子がケーシング部、吹き出し口近傍の風速成分が速い壁面に衝突した際には、表面が親水性のために同じ親水性の性質を持つ汚れがよく付着してしまう。汚れが蓄積すると、結露した水分が汚れに保持されて蒸発しにくくなるばかりでなく、栄養分となる汚れ・水気・空気・高湿度といったカビの生育に適した環境が整うリスクが高まる。従って、巨視的には親水性の性質を持って水滴成長を抑制するとともに、多様な両親媒性汚れの付着を防止できる方法が必要になる。
【0007】
室内外で使用される各種物品の表面には、粉塵、埃、油煙や煙草のヤニ等、様々な汚れが固着するため、これを抑制し得る方法が各種提案されている。例えば、物品の表面に帯電防止剤をコーティングしたり、撥油性のフッ素樹脂をコーティングして、親油性の汚れが固着するのを防止・除去し易くしたりする方法が知られている。空気調和機に用いられるコーティングでは、熱交換器への水滴ブリッジを防止することを目的として、表面に光触媒性酸化物と撥水性フッ素樹脂が微視的に分散され、外気と接するように露出して成り、層の表面は水との接触角θが90度以上である防汚性コーティング組成物がある(例えば、特許文献3、4参照)。
【特許文献1】特開平4−344032号公報
【特許文献2】特開平8−247526号公報
【特許文献3】特開平10−132483号公報
【特許文献4】特開平10−47890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献3、4のものは、光触媒性酸化物へ光を照射することにより生じる光励起によって部分的に親水性を呈するものであり、光照射が十分でない場合には良好な防汚性能が得られないという課題があり、水との接触角が90度以上のコーティング膜であって、巨視的な親水性は得られるものではなかった。従って、樹脂部分に高い親水性と高い防汚性能を付与できる方法がこれまでに発見されていなかった。
【0009】
加えて、この方法では酸化チタンやシリカといった親水性の無機材料を使用するために、撥水性を示す有機系樹脂部分との相性が非常に悪くて密着性が低いため、コーティング膜が剥離したり、塗布が困難で付着していない欠落部位があったり、短期間で防汚性能が劣化したりして、長期間使用できないという大きな課題もあった。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、冷房運転によって露付きが起こる樹脂製部品に、多様性汚れに対する防汚性能、水滴成長の抑制、および長期の優れた耐久性(密着性・剥がれ性)を全て同時に提供できるコーティング組成物を塗布した空気調和機及び被コーティング樹脂に防汚性、親水性のいずれかの機能を付与するコーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る空気調和機は、
筐体と、
筐体内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファンと、
送風ファンが形成する風路内に配置され、吸引した空気と冷凍サイクルの冷媒とが熱交換を行う熱交換器と、
熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品と、
樹脂製部品の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子から成るシリカ膜中にフッ素樹脂粒子がシリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜の露出面積がフッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物とを備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る空気調和機は、熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子から成るシリカ膜中にフッ素樹脂粒子がシリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜の露出面積がフッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物を備えたことのより、長期間における樹脂製部品の露付き防止と汚れ付着防止を同時に実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る空気調和機およびコーティング組成物について、図面に基づいて説明する。なお、以下の各図において、同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0014】
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係る空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図である。図1において、空気調和機100は、筐体10と、筐体10内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファン20と、送風ファン20により吹き出される風を導くケーシング部15と、吸引した空気を冷凍サイクルの冷媒と熱交換を行うことにより調和する熱交換器30と、吸引した空気に含まれる塵埃を捕捉するフィルタ40と、吹き出す風を左右方向に曲げる左右フラップ13と吹き出す風を上下方向に曲げる上フラップ16および下フラップ17と、開閉自在な前面グリル12とを備える。以下、各構成部材について個別に説明する。
【0015】
送風ファン20は、筐体10の側面視で略中央部に配置され、吸込口11から吹出口14に至る風路に配置される。
【0016】
ケーシング部15は、送風ファン20の吹き出し方向を決定し、送風ファン20の後方から吹出口14にまで延びている。
【0017】
熱交換器30は、吸込口11と送風ファン20との間に配置され、吸い込まれた空気を冷凍サイクルの冷媒と熱交換することで調和(冷却、加熱、除湿等)する。
【0018】
ケーシング部15には風速の速い風が衝突し、熱交換器30を介して飛んだ露が付着する場合がある。
【0019】
左右フラップ13は、樹脂で形成される様々な外郭形状の平たい風向板であり、室内機(図1で空気調和機100と呼ぶもの)の幅方向に複数枚設置されて、吹き出された風を左右方向に送り届ける役目を持つ。
【0020】
上フラップ16および下フラップ17は、樹脂で形成される断面が略円弧状の風向板であり、室内機の吹出口14の幅方向に渡って設置され、吹き出された風を上下方向に送り届ける役目を持つ。左右フラップ13および上フラップ16、下フラップ17は図示しないモータによって自動で角度を変えることができる。図示した上下フラップは、上フラップ16、下フラップ17に分かれているが、必ずしも2枚に分かれている必要はなく1枚のフラップであってもよい。また、2枚より多い枚数で構成してもよい。更には左右方向に複数に分割されていてもよい。
【0021】
図中、熱交換器30は送風ファン20の天面側および前面側を取り囲むように配置されているが、本実施の形態は該配置形態に限定されるものではない。また、熱交換器30は、伝熱管31と、伝熱管31が挿通される放熱フィン32とを備えるものを示しているが、本実施の形態はこれに限定されるものではない。
【0022】
以下、親水性汚損物質105と疎水性汚損物質106の両方に対して優れた防汚性能を発揮する樹脂用コーティング組成物に関して、図に基づいて説明する。
【0023】
図2は実施の形態1に係る空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図である。この実施の形態のコーティング組成物200が塗布されて効果がある被コーティング部を太い黒線で囲って示している。
【0024】
図2において、太い黒線で示す、又は太い黒線で囲ったケーシング部15、左右フラップ13および上フラップ16、下フラップ17の各樹脂製部品は露付き発生の懸念があり、同時に露による水分と付着した多様性汚れが起点となって黒カビや青カビ等の真菌が付着しやすく、本実施の形態のコーティング組成物200を施す好適な部位である。
【0025】
また、ノズル18の下面にも上吹き風向時に露がつきやすいためコーティング組成物200を施しても良い。
【0026】
送風ファン20のブレード先端部においては汚れ粒子の衝突が頻繁に起きるために汚れが堆積しやすく、水分が保持された場合にはカビが繁殖してやがては長く伸びた菌糸がブレード間を埋めてしまい、臭いを発生する共に著しく風量低下を起こすため、コーティング組成物200を施す好適な部位である。
【0027】
これらのケーシング部15、左右フラップ13および上フラップ16、下フラップ17、ノズル18、送風ファン20(ブレード先端部)を総称して、「熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品」と呼ぶ。
【0028】
図3乃至図5は実施の形態1を示す図で、図3はコーティング組成物200が被コーティング物である樹脂製部品にコーティングされ、コーティング膜103が形成された状態での断面を示す概念図、図4は図3におけるコーティング組成物200によるコーティング膜103の部分のみを示した概念図、図5は図3もしくは図4のコーティング膜103の上面を見た概念図である。図3乃至図5においては、いずれもコーティング組成物200が乾燥されコーティング膜103を形成している状態を示している。
【0029】
この実施の形態1のコーティング組成物200は、乾燥された状態において、シリカ微粒子101から成る親水性を示すシリカ膜104中に疎水性を示すフッ素樹脂粒子102が点在し、シリカ膜104から全部でなく部分的に露出した構成のコーティング膜103が形成されるものである。
【0030】
シリカ(SiO2)は、地殻の約60%を占める珪素の酸化物であり、主として珪砂を原料として化学的に反応させて、多孔質で大きな表面積構造を持つ合成シリカを作り出すことにより各種分野における優れた特性を生み出す。その化学的な安定性と共に広い分野で脚光を浴びている。
【0031】
このコーティング組成物200は、シリカ微粒子101が分散された水(分散液)と、フッ素樹脂粒子102が分散された水(分散液)とを混合することによって得られるもので、コーティング膜103が形成される前は水分中にシリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が分散された液の状態であり、物品表面にその分散液(コーティング溶液)を塗布したり、物品をその分散液中に浸漬させたりした後で、乾燥させ水分を除去することにより、コーティング膜103が物品表面に形成されるものである。コーティング膜103におけるシリカ膜104は、珪素Siと酸素Oの結合が続き、表面にOH基を有する膜となる。
【0032】
なおここでは、図4に示すように、コーティング組成物200により物品表面に形成された被覆層をコーティング膜103と呼ぶ。コーティング膜103は、シリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が点在するとともに、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から全部でなく部分的に露出されている状態となっているものである。また、ここでは基本的にコーティング組成物200は、上記した分散液の状態である一般的にコーティング溶液と呼ばれている状態を指すものとする。
【0033】
このコーティング組成物200に用いるシリカ微粒子101の平均粒径(平均粒子径)は、光散乱法により測定した場合、15nm以下、好ましくは4〜12nmのものとする。粒径は光散乱法により測定できる。このように極めて小さい平均粒径を有するシリカ微粒子101は、水に分散したコーティング溶液の状態では、水と接している全表面部分が平衡して水に半ば溶解した状態になっており(接する表面部分が水とシリカの中間的性質の物質となっており)、コーティング組成物200が乾燥されると、この半ば溶解した状態のシリカ成分が、シリカ微粒子101同士をつなぐバインダー(粒子を固める結合剤)として働くため、特別なバインダーを添加しなくとも、乾燥後にはシリカ微粒子101同士が凝集し固化し易くなる。そのため、クラックが入りにくいなど強度的に優れたシリカ膜104、ひいてはコーティング膜103を得ることができる。
【0034】
平均粒径が4〜15nmの範囲内にあるシリカ微粒子101では、1つのシリカ微粒子101について、シリカ微粒子101重量のおおよそ15〜30%の重量に相当する表面部分が、コーティング溶液において、半ば水に溶解した状態となっている。しかし、平均粒径が15nmを超えるシリカ粒子の場合、平均粒径が大きくなるほど、シリカ微粒子101の重量に対するコーティング溶液における水に半ば溶解した状態のシリカ成分の重量は少なくなり、バインダーとしての作用が得られなくなってくるため、形成されるコーティング膜103が十分な強度を有さず、クラックが入り易いなどコーティング膜103としては好ましくない。そのため、別途バインダーを添加する必要が生じてくる。
【0035】
逆に、平均粒径が4nm未満のシリカ粒子の場合では、コーティング溶液において、半ば水に溶解した状態のシリカ成分の割合が高くなりすぎて、コーティング溶液中でシリカ粒子同士が凝集してしまうなど、コーティング組成物200としての安定性が得られなくなる。また、乾燥後に形成されるシリカ膜104(コーティング膜103)の強度や後述する防汚性能も所望のものが得られなくなる。
【0036】
また、シリカ微粒子101の粒径は、形成されるコーティング膜103の透明性等の外観特性にも影響を与える。平均粒径が15nm以下のシリカ微粒子101であれば、コーティング膜103により反射する光の散乱が小さくなるため、コーティング膜103の透明性が向上し、被コーティング物の色調や風合いの変化を抑え、被コーティング物の色調や風合いを損なわないようにすることができる。
【0037】
また、シリカ微粒子101として、平均粒径が15nm以下のシリカ微粒子101を使用することで、得られるコーティング膜103中のシリカ膜104が、緻密ではありながらシリカ微粒子101間に微細な空隙を有するものとなる。シリケートやゾルゲル法等で形成する微粒子を用いない従来から一般的なシリカ膜や、可溶性の有機や無機物からなるバインダーが添加されたシリカ膜と比較して、本実施の形態のシリカ膜104は、薄く形成でき、またシリカ粒子によるシリカ膜104表面の凹凸を小さくして平滑に形成することができるので、汚損物質が引っ掛かったりせず、防汚性能が高められる。
【0038】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の含有量は、コーティング組成物200に対して0.1〜5重量%としており、好ましくは0.3〜2.5重量%とする。この範囲の含有量(濃度)のコーティング組成物200を用い、浸漬やかけ塗り等で被コーティング物(例えば、ケーシング部15、左右フラップ13および上フラップ16、下フラップ17等の樹脂製部品)の表面に液膜を形成し、余剰のコーティング溶液を流し去ったり、強制的に排除したりして乾燥させる方法でコーティングを行うと、形成されるコーティング膜103の厚さは50〜500nm程度となり、シリカ膜104が凹凸のない均一な厚さとすることができ、被コーティング物表面の色調や風合いを損なうことがないコーティング膜103を形成することができる。
【0039】
シリカ微粒子101の含有量が0.1重量%未満であると、シリカ膜104が薄くなりすぎて部分的な欠損が生じ、被コーティング物の表面にコーティングできていない部分が発生してしまうといった不具合が起こることがあり、コーティング組成物200としては適さないものとなってしまう。
【0040】
一方、シリカ微粒子101の含有量が5重量%を超えると、シリカ膜104が厚くなりすぎて白濁膜となってしまい、被コーティング物表面の色調や風合いを損なうことになる。また、シリカ微粒子101自体の重量割合が大きいため、上記したコーティング溶液中の半ば水に溶解したシリカ成分によるバインダー作用が得難くなり、乾燥後のシリカ微粒子101同士の固化状態が弱くなって、シリカ膜104にクラックが入り易くなったり、剥離し易くなったりと強度的に劣るようになる。
【0041】
次に、このコーティング組成物200に用いられるフッ素樹脂粒子102について説明する。コーティング膜103において、シリカ膜104中に点在し、シリカ膜104から全部でなく部分的に露出しているフッ素樹脂粒子102の平均粒径(平均粒子径)は、50〜500nm、好ましくは100〜250nmであるものを用いる。粒径の測定は、光散乱法により可能である。このような範囲の粒径のものを使用することで、シリカ膜104の厚さよりも大きい粒径となり、形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104中に適度に分散し易く、コーティング膜103の表面に(シリカ膜104表面から)フッ素樹脂粒子102の部分的な露出がされ易くなり、所望するコーティング膜103の状態が得られるようになる。
【0042】
かかる平均粒径が50nm未満のフッ素樹脂粒子102であると、コーティング溶液において、フッ素樹脂粒子102同士が凝集、合一してしまうなど性状の安定性が得られなくなる。また形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から露出し難くなり、後述する防汚性能が得られないことにもなる。
【0043】
一方、平均粒径が500nmを超えるフッ素樹脂粒子102であると、形成されるコーティング膜103において、シリカ膜104の表面から露出するフッ素樹脂粒子102部分が大きくなる。そのようになると、コーティング膜103の表面に疎水性を示す部分の領域が大きくなりすぎ、後述する防汚性能が得られないことになる。またコーティング膜103表面の凹凸が大きくなりすぎ、汚損物質(汚れ)が引っかかり易くなって、付着した汚損物質が除去され難くなる。
【0044】
このコーティング組成物200が乾燥して被コーティング物の表面に形成されるコーティング膜103において、シリカ膜104の厚さは、フッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さいものである。シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも薄く管理することで、形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104中に適度に分散して点在し、シリカ膜104の表面から全部でなく部分的に露出し易くなり、所望するコーティング膜103の状態が得られる。
【0045】
例えば、平均粒径が150nmのフッ素樹脂粒子102を使用する場合では、シリカ膜104の厚さを100nm未満に管理する。すなわち、シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102の平均粒径の2/3未満とするのである。このように、シリカ膜104を100nmより薄い薄膜に形成するためには、被コーティング物の表面でシリカ微粒子101が固化する以前に、強い気流で被コーティング物の表面のコーティング溶液をブローするとよい。このときのブロー速度やブロー時間、ブロー温度などの因子を調整することにより、シリカ膜104の厚さを管理することが可能となる。
【0046】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比(シリカ微粒子101の重量:フッ素樹脂粒子102の重量)は、50:50〜95:5としており、好ましくは75:25とする。このような範囲の重量比であれば、シリカ微粒子101(シリカ膜104)による親水性領域と、フッ素樹脂粒子102による疎水性領域とがバランスよく混在するコーティング膜103が常温での乾燥により得られる。この親水性領域と疎水性領域のバランスがよいことが、後述する防汚性能に影響する。
【0047】
ただし、シリカ微粒子101のみを用いて純粋なシリカ膜104を形成した場合にも、防汚効果はかなり制限されるものの、油煙のような疎水性粒子を遠ざける効果および表面の静電気力や分子間力を低下させる効果を有し、コーティングを施さない場合に比べて、汚れ耐力が向上する。
【0048】
これより、このコーティング組成物200によって形成されるコーティング膜103による防汚性能(防汚特性)について説明する。汚れとは、物品の表面に汚損物質が付着し、それが除去されずに物品表面に固着してしまうことである。そのため、汚損物質が物品の表面に固着しないようにする、またもし物品表面に汚損物質が付着したとしても、汚損物質が表面に固着することなく表面から容易に除去されることが、物品表面の汚れを防止することとなる。
【0049】
このように、汚損物質が表面に固着し難い特性、また仮に汚損物質が付着したとしても、表面に固着することなく表面から容易に離脱できる(除去される)特性を、「防汚性能」と呼ぶものとする。物品表面をコーティングすることで、物品表面がこの防汚性能に優れた状態にできるコーティング組成物200(コーティング膜103)を防汚性能が高い、もしくは防汚性能に優れたコーティング組成物200(コーティング膜103)と表現するものとする。なおここにおいて、付着とは、単純に表面に載っている状態も含めて、その後にその表面から比較的容易に除去できる状態を指し、固着とは、表面から容易には除去できない状態を指すものとして、区別して使用する。
【0050】
汚れを生じさせる汚損物質には、親水性汚損物質105と疎水性汚損物質106がある。親水性汚損物質105は、親水性を示す部分に付着し易く、疎水性を示す部分には付着し難い。そして、疎水性汚損物質106はその逆となる。親水性汚損物質105は、砂塵やホコリ等であり、親水性汚損物質105と物品表面の親水性部分にそれぞれ存在する親水基(OH基)同士による静電的な結合により、もしくは、親水性汚損物質105と物品表面の親水性部分が近接することによる分子間力により、または、水等の液が介在して液架橋により、物品表面(コーティング膜103表面も含む)の親水性部分に付着する。
【0051】
空気中に浮遊している親水性汚損物質105である砂塵は、大きさが数μm〜数十μmの微小な粒子である。また、同じく親水性汚損物質105であるホコリは、砂塵よりはるかに大きなもので、0.1mm〜5mmの大きさがある。このような親水性汚損物質105が、上記のような作用で物品表面の親水性部分に固着するためには、親水性汚損物質105と物品表面の親水性部分とが十分に密着できる(接触できる)だけの親水性部分の面積が存在しなければならない。
【0052】
しかし、この実施の形態のコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、親水性を示すシリカ膜104に疎水性を示すフッ素樹脂粒子102が適度に分散して点在しているため、砂塵をはじめとして親水性汚損物質105が安定して密着できるだけの連続した面積を有するシリカ膜104表面がほとんど存在しない。コーティング膜103の上に付着した親水性汚損物質105は、シリカ膜104から突出(露出)しているフッ素樹脂粒子102の表面の疎水性により、もしくは、突出しているフッ素樹脂粒子102の物理的な阻害により、シリカ膜104の表面とは十分に密着できない。このため、親水性汚損物質105は、容易に離脱してコーティング膜103に固着しない。
【0053】
また、シリカ膜104は、シリカ微粒子101から成るもの(バインダーの役目もシリカ微粒子101のシリカ成分が担っている)でシリカ微粒子101間に微細な空隙を有する多孔性の膜であるため密度が小さく、仮に親水性汚損物質105が近接しても、分子間力が小さく親水性汚損物質105を固着させ難い。
【0054】
さらに、シリカ微粒子101間に微細な空隙を有する多孔性のシリカ膜104であるため、仮に水等による液架橋が生じた場合にも、親水性汚損物質105とシリカ膜104表面間の水が、シリカ膜104の微細な空隙を通して除去され、液架橋が消失されるので、液架橋により親水性汚損物質105が固着することもない。
【0055】
このように、このコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、親水性汚損物質105に対して、優れた防汚性能を発揮する。
【0056】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で95:5より多くなれば、コーティング膜103におけるシリカ膜104中に点在するフッ素樹脂粒子102の間隔が大きくなり、シリカ膜104に微小な砂塵など大きさが小さい親水性汚損物質105が安定して固着できる面積を有する露出表面部分が出現してしまい、親水性汚損物質105がシリカ膜104表面に固着する可能性が生ずる。コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で100:0としても疎水性汚れに対する少量の効果は期待できる。
【0057】
一方で、点在するフッ素樹脂粒子102の間隔が大きく、フッ素樹脂粒子102に遮断されずに連続するシリカ膜104が広いと、シリカ膜104表面の吸湿性が向上することにより、コーティング膜103に帯電する電荷が漏洩し易くなるので、コーティング膜103表面の帯電を効率よく抑制できるという利点がある。物品表面が帯電すると、親水性、疎水性に関係なく空気中の汚損物質である微細な浮遊粒子が静電引力で引きつけられて物品表面に付着し易くなる。
【0058】
このコーティング組成物200では、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比を50:50〜95:5としているので、この範囲のコーティング組成物200で形成されるコーティング膜103のシリカ膜104においては、帯電を抑制できる連続性を有し、すなわちシリカ膜104が電荷を漏洩できる程度の連続する面積を有するような適度な間隔でフッ素樹脂粒子102が点在し、帯電による浮遊粒子(汚損物質)の付着を防ぐ効果がある。コーティング組成物200で物品表面をコーティングし、表面にコーティング膜103を形成することで、静電気に由来する汚れも防止することができるのである。
【0059】
コーティング組成物3におけるシリカ微粒子101の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で50:50より少なくなれば、シリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が点在する間隔が狭くなり、上記のような連続するシリカ膜104による帯電の抑制効果、それにより静電気に由来する汚れが防止できる効果を得難くなり、防汚性能が劣ってくる。
【0060】
もう一つの汚損物質である疎水性汚損物質106は、油煙やカーボン、煙草のヤニ等であり、汚れの原因となるものはこれらの中で微粒子として空気中に浮遊しているものである。その粒子径が5μm以下、多くは0.1〜0.3μmと親水性汚損物質105に比べて小さいものである。疎水性汚損物質106は、親水性を示す表面部分に対しては、表面に親水基や吸着した水分が存在するため、固着し難く、疎水性を示す表面部分には、固着し易い。このような疎水性汚損物質106が、物品表面に固着するのは、疎水性汚損物質106が疎水性を示す表面部分と密着することで生じる分子間力によるためである。
【0061】
このコーティング組成物200において疎水性を示すものは、上記の通り平均粒径が50〜500nmのフッ素樹脂粒子102である。フッ素樹脂粒子102は、物品表面で形成されるコーティング膜103においては、変形や合一により、単体の粒径よりも大きくなることも起こり得るが、汚れの原因となる疎水性汚損物質106の大きさと比べて同等か小さく、疎水性を示す表面部分を有するフッ素樹脂粒子102には、疎水性汚損物質106が、十分に密着できる面積が存在しない場合が多い。
【0062】
このような場合、互いに固着させるような分子間力が作用せず、疎水性汚損物質106は疎水性を示すフッ素樹脂粒子102に対して固着し難くなる。当然、疎水性汚損物質106は親水性を示すシリカ膜104には固着しないので、コーティング膜103は疎水性汚損物質106に対しても高い防汚性能を発揮する。
【0063】
上記のようなフッ素樹脂粒子102の大きさ(粒径)が、疎水性汚損物質106の大きさに比べて同等か小さいことにより、疎水性汚損物質106がコーティング膜103のフッ素樹脂粒子102に十分に密着できずに固着に到る分子間力が作用しない、ということだけでは、疎水性汚損物質106が部分的にフッ素樹脂粒子102に密着し、分子間力の作用により部分的には固着する可能性がある。また、疎水性汚損物質106の方がフッ素樹脂粒子102よりも小さい場合もあり、互いが十分に密着できる面積がフッ素樹脂粒子102に存在することも起こり得る。
【0064】
しかし、このコーティング膜103は、上記以外にも疎水性汚損物質106をフッ素樹脂粒子102に固着させない他の作用を有しており、そのような部分的な固着、小さい疎水性汚損物質106の固着さえも起こり難くしている。その作用について、以下に説明する。
【0065】
このコーティング組成物200のフッ素樹脂粒子102は、フッ素樹脂の重合時や水への分散液の状態、およびシリカ微粒子101の分散液と混合されたコーティング溶液の状態において、添加される界面活性剤により表面が親水性を示す状態になっている。乾燥されコーティング膜103となった場合には、界面活性剤は剥離して、フッ素樹脂粒子102の表面は疎水性を示すようになるが、コーティング溶液中には、シリカ微粒子101が共存しているため、乾燥後に形成されるコーティング膜103のフッ素樹脂粒子102表面には、フッ素樹脂粒子102より粒径の小さいシリカ微粒子101がまばらに付着した状態になる。
【0066】
このように、フッ素樹脂粒子102の表面に親水基を有する(親水性を示す)シリカ微粒子101が散らばって付着しているために、フッ素樹脂粒子102の表面には疎水性汚損物質106の部分的な固着も、またフッ素樹脂粒子102よりも小さい疎水性汚損物質106の固着も起こり難いのである。フッ素樹脂粒子102の表面に部分的に親水基が導入されることで、フッ素樹脂粒子102と疎水性汚損物質106との密着を抑制する効果が得られるのである。そして、フッ素樹脂粒子102の表面に疎水性汚損物質106が付着しても、シリカ微粒子101が散らばって付着しているので、その付着は不安定で、容易に離脱できる。
【0067】
一方で、そのようにシリカ微粒子101がまばらに付着しているフッ素樹脂粒子102の表面であっても、シリカ微粒子101の大きさに比べるとはるかに大きい親水性汚損物質105に対しては、十分な疎水性としての効果を発揮し、親水性汚損物質105がフッ素樹脂粒子102の表面に固着することはない。また、フッ素樹脂粒子102は、柔軟な表面を有しているのだが、このようにシリカ微粒子101がまばらに付着することで、フッ素樹脂粒子102の表面が硬くなり、疎水性汚損物質106が密着し難くなる効果も得られる。
【0068】
また、フッ素樹脂自体が、従来からフッ素樹脂コーティングで知られているように、非常に表面エネルギーが小さく摩擦係数が低いため、疎水性を示すばかりでなく、撥油性も有しており、他の疎水性を示す樹脂に比べて、疎水性汚損物質106の固着が起こり難い性質を備えている。その点も、疎水性汚損物質106がフッ素樹脂粒子102に固着しない作用効果の一つである。
【0069】
このように、このコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、疎水性汚損物質106に対しても、優れた防汚性能を発揮する。
【0070】
コーティング組成物200におけるフッ素樹脂粒子102の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で50:50より多くなると、コーティング膜103において露出するフッ素樹脂粒子102の疎水性を呈する部分の表面積が大きくなりすぎ、疎水性汚損物質106のコーティング膜103への固着が増す傾向が見られるようになる。そして、多数のフッ素樹脂粒子102の存在により、それらの一部が合一するなどして、コーティング膜103が白濁して、被コーティング物の表面の色調や風合いを損なうようになる。また、フッ素樹脂粒子102が合一すると、シリカ膜104の連続性が阻害されることにもなる。
【0071】
なお、シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102の粒径よりも大きく(厚く)した場合には、親水性を呈するシリカ膜104がコーティング膜103の表面として広く露出することになり、親水性汚損物質105に対する防汚性能が劣る。さらに、フッ素樹脂粒子102のシリカ膜104中への分散が阻害され、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104から分離してシリカ膜104表面に析出し、フッ素樹脂粒子102同士が合一して塊となってしまい、その部分で局所的に親水性が悪化したり、疎水性汚損物質106が固着したりすることが起こり得る。そのため、上記したようにシリカ膜104の厚さは、フッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さく(薄く)して、フッ素樹脂粒子102が、シリカ膜104中に適度に分散され、それぞれのフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104から全部ではなく部分的に露出できるようにする。
【0072】
このコーティング組成物200におけるフッ素樹脂粒子102としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体),PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等や、これらの共重合体もしくは混合物、またはこれらに他の樹脂を混合したものが使用できる。
【0073】
フッ素樹脂粒子102は、コーティング組成物200が製造される前に水に分散した分散液の状態である必要がある。分散させる方法は、懸濁重合や乳化重合により重合したフッ素樹脂粒子102を用い、界面活性剤を利用することで可能となる。水に分散した状態においては、フッ素樹脂粒子102の表面は疎水性が低い状態となっているが、これらが乾燥され固形物(コーティング膜103)となった状態にて、表面が疎水性を示すようになればよい。使用するフッ素樹脂としては上記の中で特に、PTFEとFEPが、分散液やコーティング溶液において凝集しないといった安定性に優れている点、また乾燥されコーティング膜103となった時の疎水性が高い点から好ましい。
【0074】
以上のように、このコーティング組成物200により物品表面に形成されるコーティング膜103は、親水性汚損物質105と疎水性汚損物質106の両方とも固着させず、また付着しても容易に離脱させることができるので、優れた防汚性能と剥離性を発揮して、コーティングされたフィルタ表面の汚れを防止することができる。後述する実施例(実験結果)においても、この実施の形態によるコーティング組成物200の防汚性能が優れていることが証明されている。
【0075】
この実施の形態のコーティング組成物200の製造方法は、特に制限されることはないが、シリカ微粒子101の分散液と、フッ素樹脂粒子102の分散液と、を混合することによって容易に製造することができる。ここで、シリカ微粒子101の分散液は、15nm以下の平均粒径を有するシリカ微粒子101が水に分散されたもの、例えば、市販のコロイダルシリカを用いることができる。シリカ微粒子101の分散液では、分散液中のシリカ微粒子101の体積比率が、20%以下であることが好ましい。体積比率が20%を超えると、シリカ微粒子101が凝集するなど分散液の安定性が低下してしまうことがあるためである。
【0076】
また、フッ素樹脂粒子102の分散液は、500nm以下の平均粒径を有するフッ素樹脂粒子102が水に分散されたもの、例えば、PTFEディスパージョンを用いることができる。なお、疎水性のフッ素樹脂粒子102をコーティング組成物200に凝集することなく均一に分散させるために、界面活性剤を加えてもよい。なお、どちらの分散液においても極性溶媒は水に限定されるものではない。
【0077】
それぞれの分散液に使用される水は、特に制限されることはないが、シリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が凝集することなく分散して安定するために、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等のイオン性不純物が少ないものがよい。2価以上のイオン性不純物が200ppm以下であることが望ましく、より望ましくは50ppm以下である。2価以上のイオン性不純物が多くなると、シリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が凝集して沈殿したり、形成されるコーティング膜103の強度や透明性が低下したりする恐れが生じる。
【0078】
このコーティング組成物200は、有機溶剤を含まないので、安全で環境にやさしいものである。また、上記のように市販されている分散液を混合するだけで製造できるので、容易に低コストで製造できる利点がある。
【0079】
ただし、コーティング組成物200は、疎水性のフッ素樹脂粒子102の安定性確保や、被コーティング物品の材質に応じて、形成されるコーティング膜103の密着性向上やコーティング膜103の親水性の調整を図る観点から、界面活性剤や有機溶剤を添加してもよい。また、コーティング組成物200には、形成されるコーティング膜103の密着性や透明性、強度の向上、さらにはコーティング膜103の親水性の調整目的でカップリング剤やシラン化合物を添加してもよい。
【0080】
ここで、このコーティング組成物200に使用可能な界面活性剤としては、各種のアニオン系又はノニオン系の界面活性剤が挙げられる。かかる界面活性剤の中でも、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックポリマーやポリカルボン酸型アニオン系界面活性剤等が、起泡性が低く使用し易いので好ましい。
【0081】
また、このコーティング組成物200に使用可能な有機溶剤としては、各種のアルコール系、グリコール系、エステル系、エーテル系等のものが挙げられる。
【0082】
また、このコーティング組成物200に使用可能なカップリング剤としては、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ系、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のメタクリロキシ系やメルカプト系、スルフィド系、ビニル系、ウレイド系等が挙げられる。
【0083】
また、このコーティング組成物200に使用可能なシラン化合物としては、トリフルオロプロピルトリメトキシランやメチルトリクロロシラン等のハロゲン含有物、ジメチルジメトキシシランやメチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有物、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等のシラザン化合物、メチルメトキシシロキサン等のオリゴマー等が挙げられる。
【0084】
以上の添加剤の含有量は、このコーティング組成物200の防汚性能や初期親水性、長期の親水持続性および密着性を損なわない範囲であれば、特に制限されることはなく、選択した添加剤に応じて適宜調整すればよい。
【0085】
この実施の形態のコーティング組成物200の物品表面へのコーティング方法としては、特に制限されることはなく、従来から公知の方法を用いて行うことが可能であるが、コーティング組成物200を被コーティング物品表面に浸漬、スプレーもしくはかけ塗り等の方法で塗付した後、余剰のコーティング組成物200を気流で除去する方法が望ましい。余剰なコーティング組成物200が物品表面に滞留してしまうと、その部分に形成されるコーティング膜103が厚くなり、白濁して被コーティング物の色調や風合いを損なったりする恐れがある。気流を用いることで、乾燥が促進される効果も得られ、シリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が適度に点在した良好なコーティング膜103が得られるという利点もある。ただし、下地が撥水性の高い樹脂の場合には、強い気流ではコーティング液が飛んでしまうため、適宜、弱い気流または静置乾燥によりコーティングを固着させても良い。
【0086】
これまで、シリカ微粒子101膜をベースにフッ素樹脂粒子102を分散させたコーティング組成物200の防汚性能について述べてきたが、以下、高い親水性による水滴成長の抑制と乾燥速度について説明する。図6は水滴50の接触角θについて説明するための模式図である。
【0087】
ここで接触角θとは、樹脂表面に付着した水滴50の樹脂表面と接する部分における接線TLが、樹脂表面となす角度のことである。接触角θが小さいほど、すなわち0度に近づくほど、付着する水滴11が樹脂表面に平たく広がるようになり、水滴が成長しにくく、乾燥しやすい。そして、親水性が高いとは、付着する水滴50が広がり易いことを意味し、すなわち、接触角θが小さい(0度に近づく)ほど、親水性が高い、もしくは親水性に優れることになる。図6において、(a)に示す水滴50よりも(b)に示す水滴50の方が、接触角θが小さい。
【0088】
空気調和機に備えられた被コーティング物であるケーシング部15、左右フラップ13、上フラップ16、下フラップ17は、PS(ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PP(ポリプロピレン)といった汎用の有機樹脂が用いられることが多い。これらの樹脂の接触角は少なくとも50度以上、一般には80度前後であり、撥水面である。従って接触角θが大きいために、その水滴50は水滴として存在する時間が長くなり、更に水分が付着した場合に、水滴が大きく成長することになり、やがては落下してしまう。最悪の場合、室内の空気調和機よりユーザの部屋へ水滴が飛散する。また、水滴の保持時間が長いとカビの成長速度が上がり、周辺の汚れや空気を媒体として黒カビや青カビが樹脂部を覆うこととなる。
【0089】
本実施の形態のコーティング組成物200を塗布した被コーティング物107(被コーティング樹脂)は、微視的には親水性と疎水性の両方の性質を備えるが、親水性のシリカ微粒子101から成る高い親水性のシリカ膜104をベースとして、シリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きいため、連続して繋がったシリカの効果によって、全体としては高い親水性を示す。具体的な静的接触角を測定したところ、約10〜20度を示し、高い親水性を有している。従って、接触角が80度前後である、従来のコーティング組成物200を施さない樹脂に比べて、水を押し広げて水滴成長を抑制できて水滴の飛散を防止できることはもちろん、押し広げることで空気に触れる表面積が広がり乾燥する速度も向上する。従って、樹脂表面に水分が存在する時間が短くなり、カビの繁殖も抑制できる。
【0090】
4〜15nmという非常に小さなシリカ微粒子101が連続して繋がっていることにより、その他の有機系親水コーティング、例えば、アクリルやポリエーテルやポリビニルアルコールのようなコーティングと比較しても、2桁程度短い時間で水滴50がつぶれて押し広げられた。シリカ微粒子101と分散させたフッ素樹脂粒子102を用いたコーティングは、非常に高い親水性を付与すると同時に、親水性・疎水性いずれの性質の汚れ物質に対しても非常に高い防汚性能を有して、効果的に露飛びの発生とカビの発生を抑制することができる。
【0091】
これまで、シリカ微粒子101膜をベースにフッ素樹脂粒子102を分散させたコーティング組成物200の親水性について述べてきたが、以下、下地である有機樹脂との密着性について説明する。前述のように空気調和機100に備えられた被コーティング物であるケーシング部15、左右フラップ13、上フラップ16、下フラップ17はPS(ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PP(ポリプロピレン)といった汎用の有機樹脂が用いられている。また、送風ファン20は、ASG(ガラス入りアクリロニトリルスチレン)が用いられている。
【0092】
ところが、親水性と防汚性とを両立できるコーティング組成物200は有機溶剤等を使用しない安全なコーティングである一方、無機による構成であるので、金属材料などへの密着性は良好であるが、有機樹脂への密着性が悪いという課題がある。また、これらの樹脂は撥水面であるため、水系コーティング自体が一様に付着しない。従って、被コーティング部位である有機樹脂上に水系の無機分散コーティング溶液を塗布しても、部分的に膜が付着していなかったり、長期の使用においては自然に剥がれたりしてしまう。また、拭き掃除などでこすった場合にも剥がれやすくなる。
【0093】
従来、コーティングの密着性を向上するために種々の方法がとられている。例えば、物品表面に予め、コロナ処理、UV処理等の前処理を施す方法である。これにより樹脂の表面が改質され、相性の悪いコーティング材であっても密着性が向上する。
【0094】
図7にプライマー処理を用いた従来のコーティングを示す。被コーティング物107(被コーティング樹脂)の上に下塗り接着材であるプライマー層110を予め樹脂(被コーティング物107(被コーティング樹脂))表面に塗っておき、その上から本実施の形態のコーティングを施す2段階塗布方法もある。プライマー層110としては、例えばポリオレフィン層などを用いて好適であり、密着性の向上と平坦性の向上が得られる。
【0095】
ただし、これらのコロナ処理やUV処理やプライマー二層処理を行う場合、大掛かりな設備が必要であったり、処理時間がかかったり、コストが増大する課題があり、空気調和機100のような量産性が必要な製品には向かない。そこで、本実施の形態では最も簡便で低コストで量産に適合する方法として、コーティング溶液にラジカル発生材111または過酸化物112を微量添加した。
【0096】
ここで、ラジカル発生材111を、一般に分子を繋げるラジカル重合に用いられ、およそ60℃以上の熱により分解作用を示すものと定義する。ラジカル重合は高分子化学における重合反応の形式の一種であり、ラジカルを反応中心としてポリマー鎖が伸張していく反応である。ラジカル発生材111には、熱分解するBPO(ベンゾイルパーオキサイド;油溶性)、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、AVCA(4,4−Azobis(4−cyanovaleric Acid))などがある。例えば、ラジカル重合の例として、エチレンの重合によるポリエチレン生成がある。ラジカル重合の開始剤となるフリーラジカルを発生させるための反応は、BPOやAIBNを光もしくは加熱により分解し、下式のように酸素を断ち切ったり、2重結合を断ち切ったりして、ラジカルを生じさせる。
RO−OR → 2RO・
R2(NC)C−N=N−C(CN)R2 → 2 R2(NC)C・+N2
【0097】
また、過酸化物112は、以下の物の略称または別称であり、ここでは水溶性を示して、常温で自己分解作用があるものと定義する。通常は酸化剤や漂白剤として使用されるものであるが、コーティング用途では用いられない。無機化合物では主に、形式的に過酸化水素の金属塩の化学式をとる無機過酸化物112、またはオキソ酸のヒドロキシ基 (−OH) をヒドロペルオキシド基 (−O−OH) に置き換えた構造を持つ物質が過酸化物112と呼ばれる。また、有機化合物では主に、官能基としてペルオキシド構造 (−O−O−) を有する化合物、または官能基として過カルボン酸構造 (−C(=O)−O−O−) を有する化合物が過酸化物112と呼ばれる。過酸化水素が最も一般的である。
【0098】
本来のラジカル発生材111は、単体の分子を重合させる材料であり、過酸化物112は酸化剤や漂白剤として利用される材料であるが、下地の樹脂に対応する適切なラジカル発生材111または過酸化物112を選ぶことによって、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、ASG(ガラス入りアクリロニトリルスチレン)、といった汎用の有機樹脂と、シリカ微粒子101膜およびフッ素樹脂粒子102の分散液を原料として形成された無機系コーティング組成物200との密着性を向上する効果があることを発見するに至った。
【0099】
図8にラジカル発生材111または過酸化物112を添加した実施の形態1のコーティングを示す。コーティング膜103中にラジカル発生材111または過酸化物112が分散されている。コーティング溶液にラジカル発生材111または過酸化物112を微量添加することによって、コーティング溶液は撥水性の高い樹脂上であってもはじかれにくくなり、塗布しやすくなる。また、ラジカル発生材111または過酸化物112が熱による分解や時間に連れて自己分解するにつれて、特に下地の被コーティング物107(被コーティング樹脂)とシリカ膜104の界面近傍で、フッ素樹脂分散液(ディスパージョンとも呼ぶ)に含まれていたモノマー成分や界面活性剤が反応起点となって、シリカの凝集形態変化や下地の被コーティング物107(被コーティング樹脂)とシリカ膜104の接着効果を及ぼし、密着性を上げることができる。これらは、樹脂分散液と反応材料(ラジカル発生材111または過酸化物112)のどちらかがなくても成立しない。
【0100】
ABSやASGを下地に用いた場合、難水溶性の熱ラジカルであるBPOを添加したときに、密着性が向上する。室温放置でも密着性の向上効果はあるが、熱ラジカルであるために60度以上のような熱をかけることで更に効果が高まる。BPOの添加量はコーティング溶液全体の0.05%〜5%程度として好適であり効果が確認された。PSやPPを用いた場合は水溶性の過酸化物112である過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム、過酸化水素を添加したときに、密着性が向上する。過酸化物112であるために室温放置でも自己分解作用により密着性の向上効果を示すが、分解が効率よく起こるので60度のような熱をかけることで更に効果が高まる。過酸化物112の添加量はコーティング溶液全体の0.05%〜5%程度として好適であり、効果が確認された。ラジカル発生材111や過酸化物112は熱や時間と共に分解消失して、周囲物に反応を及ぼして分離/変性する効果を及ぼす。詳細は後述する実施例で述べる。
【0101】
ラジカル発生材111か過酸化物112を用いることで、コロナ処理やUV処理やプライマー二層処理(接着層)のように大掛かりな設備を必要とせず、また、一層コート以外の複数塗布工程を必要としないため、安価なコストで密着性が高く剥がれにくい、無機のコーティング組成物200を有機樹脂上に簡単に塗布することが可能となる。
【0102】
なお、空気調和機100としてこの実施の形態のコーティング組成物200によるコーティング膜103で表面を被覆した、ケーシング部15、左右フラップ13、上フラップ16、下フラップ17、ノズル18への適用例を述べたが、この実施の形態のコーティング組成物200は、これらに限定されることなく、様々な物品の表面をコーティングすることができる。適用される物品としては、特に限定されることはないが、防汚性能に優れているので、使用場所が室内外に関らず、粉塵、油煙及び煙草のヤニ等の様々な汚れ(親水性汚損物質105や疎水性汚損物質106)が固着する恐れがある各種物品が挙げられる。
【0103】
また、初期の親水性および長期の親水持続性に優れるため、日常的に水に触れるもの、水をすくうもの、水に曝されるもの、表面に付着した水を排出するものへの適用にすると、防汚の効果だけでなく、高い親水性、排水性の効果も得られるので都合が良い。具体的な例としては、手についた水を飛ばすハンドドライヤー、貯めた水を平板ですくうディスク式加湿器、蒸気や油煙を吸い込む換気扇、トイレの便器、車の外塗装やミラー、車や建物の窓ガラス、浴室や洗面所の鏡、ガードミラー、建物の外壁や屋根、食器や台所用品や洗面用品などが挙げられる。
【0104】
また、下地の樹脂としてPS、PP、ABS、ASGを例にとり、添加するラジカル発生材111としてBPO、過酸化物112として過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム、過酸化水素を例に挙げたが、これに限定されるものではなく、各種有機物で構成された樹脂上に無機物のコーティングを施す場合に、長期の密着性をあげるためにラジカル発生材111か過酸化物112を添加する手段は有用である。密着性と同時に本実施の形態のコーティングを施すことで親水性と防汚性が得られる。
【実施例】
【0105】
以下、具体的な実施例を示すことにより、この実施の形態のコーティング組成物200の防汚性、親水性、密着性の詳細な実験結果および特性を説明する。なお、以下に示す実施例が、この実施の形態の範囲を限定するものではない。コーティングして表面にコーティング膜103を形成する試験対象としては、ケーシング部15や左右フラップ13、16の材料として一般に使用されるPS(ポリスチレン)とABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)を使用した。
【0106】
実施例1〜7.
実施例1〜7では、純水に平均粒径9nmのシリカ微粒子101を分散したコロイダルシリカ(触媒化成工業株式会社製、pH10)と、平均粒径250nmのフッ素樹脂粒子102を純水に分散したPTFEディスパージョン(旭硝子株式会社製、pH10)とを撹拌混合した後、非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエステル)をさらに加えて撹拌混合することにより、表1に示す組成を有するコーティング組成物を調合した。コーティング組成物中の非イオン系界面活性剤の含有量は、0.05重量%であった。これらで試験片の表面をコーティングした。また、最適なシリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102の重量比を見つけるために、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102の重量比を30:70〜100:0の範囲で変化させた。
【0107】
比較例1〜3.
比較例1では、従来から空気調和機に用いられるコーティング無しのPSであり、シリカもフッ素も含まない。比較例2では、従来から空気調和機に用いられるPSに親水塗料として広く用いられる有機系のPVC(ポリビニルアルコール)をコーティングしたものであり、シリカもフッ素も含まない。比較例3では実施例6と同様の重量比でありながら、シリカ微粒子101のコーティング組成物に対する重量比を高めて、すなわち微粒子の濃度を高くしてコーティング組成物200を調合した。図9に詳細を示す。
【0108】
各例のコーティング組成物200を試験片に塗布し、静置乾燥にて試験片にコーティング膜103を形成し、形成されたコーティング膜103の性状、初期接触角θおよび防汚性能をそれぞれ評価した。ここで、コーティング膜103の性状は、目視観察により評価した。接触角θは、接触角計(協和界面化学株式会社製DM100)により測定した。防汚性能は、親水性汚損物質105である砂塵の固着性、疎水性汚損物質106であるカーボン粉塵の固着性を評価した。
【0109】
親水性汚損物質105の固着性評価は、1〜3μmを中心粒径とするJIS関東ローム粉塵をエアーでコーティング表面(コーティング膜103)に吹き付けることにより、赤色の関東ローム粉塵の固着による着色を目視観察にて五段階評価した。この評価において、関東ローム粉塵の固着がほとんどないものを1とし、関東ローム粉塵の固着が多いものを5と表記する。また、疎水性汚損物質106の固着性評価は、油系のカーボンブラックをエアーでコーティング表面(コーティング膜103)に吹き付けることにより、黒色のカーボンブラックの固着による着色を目視観察にて五段階評価した。この評価において、カーボンブラックの固着がほとんどないものを1とし、カーボンブラックの固着が多いものを5と表記する。その評価結果を図10に示す。
【0110】
図10に示す実験結果から、実施例1〜7のコーティング組成物200により形成されたコーティング膜103は、いずれも親水性、疎水性の両方の汚損物質に対して優れた防汚性能を示し、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との含有量(重量比率)を調整することにより、形成されるコーティング膜103の巨視的な特性(親水性又は疎水性)を調整することができた。
【0111】
本実施の形態のコーティング膜103は連続してつながった親水性のシリカ膜104がベースになっているため、接触角は総じて低い値を示しているが、ミクロ領域(微視的)では、親水性と疎水性が交互にナノレベルで連続して配置される。また、シリカの割合を多くした場合は疎水性汚損物質106の付着を抑制することができ、フッ素の割合を多くした場合は親水性汚損物質105の付着を抑制できることができる。
【0112】
ただし、フッ素樹脂粒子102の重量比が高い実施例1(シリカ微粒子101の重量:フッ素樹脂粒子102の重量=30:70)では、疎水性汚損物質106に対する防汚性能がやや劣る傾向があることがわかる。また、シリカ微粒子101のみで形成した実施例7(シリカ微粒子101の重量:フッ素樹脂粒子102の重量=100:0)では、フッ素樹脂粒子102による微小凹凸が無いために付着面積が広く、全体としての防汚効果はかなり限定されてしまう。
【0113】
実施例1〜7のコーティング組成物200では、厚さが均一で薄いコーティング膜103を形成することができた。電子顕微鏡画像からコーティング厚みは100nm程度の薄膜であり、透明な膜を形成できた。実施例6と比較例3を比べれば、同じシリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102の重量比であっても膜の性状は変化することがわかる。シリカ微粒子101の含有量(濃度)が高い(5重量%を超える)場合には、形成されるコーティング膜103は、厚さが不均一で白濁してクラックが入りやすく好ましくない。
【0114】
親水性と疎水性の両方の汚損物質に対して防汚性能を両立するものとして、シリカ微粒子101に対するフッ素樹脂粒子102の重量比率が、50:50〜85:15である実施例2、3、4、5が特に好ましい。更に詳細には重量比率が75:25である実施例4が最も好ましく、親水性・疎水性の両方の粒子の汚損から効果的に被コーティング物107(被コーティング樹脂)を守れる。シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との含有量(重量比率)を調整することにより、防汚特性の制御が容易である。
【0115】
一方、比較例1の従来から空気調和機100に用いられるコーティング無しのPS樹脂では、いずれの汚れも明白に付着して汚損され易い事が示された。絶対値での防汚効果を知るために別途光を透過するPETフィルムに関東ローム砂塵とカーボンブラックを吹き付けて、光透過度から評価を行った。その結果、実施例の4(シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比75:25)は、従来のコーティングを施さないPS樹脂である比較例1に比べて、親水性・疎水性の両性ともに約1/10〜1/20程度に付着量を抑制できる。また、一般的な親水塗料であるPVCコーティングを施した比較例2に比べて、親水性・疎水性の両性ともに約1/5〜1/10程度に付着量を抑制できる。
【0116】
加えて、比較例1のPS樹脂の表面抵抗(体積抵抗率)は約1016Ω・cmと高い値を示すのに対して、実施例1〜7のコーティングの表面抵抗は約1012Ω・cmと低い値を示すため、表面の静電気力が従来のPS樹脂に比べて低くなり、それだけ付着した汚れは剥がれやすい。これは、本実施の形態のコーティングが巨視的には親水性を示すため、表面のOH基によりイオン伝導が促されて電気が通りやすくなるためである。
【0117】
また、疎水性粒子の代表としてカーボンブラックを用いたが、その他の疎水性物質である油煙の影響を確認した。焼肉から発する油煙および0.1〜1mmに分布した繊維状ホコリを被コーティング物107(被コーティング樹脂)の前面風速を1m/sに設定して20cm角の風洞に設置した実施例4のコーティング樹脂および比較例1の従来のPS樹脂に通して油煙および繊維ホコリの付着具合を目視ならびに顕微鏡にて観察した。その結果、実施例4では明白にホコリの付着量が少なく、油煙の付着が抑制されたことが示された。これは、疎水性粒子の付着面積が少ない効果に加えて、膜が低密度なために例え油煙が付着してもコーティング内部に吸収されるので表面に油煙が残らないためである。また、時間が経過するとホコリ・砂塵が剥がれ落ちる効果も確認された。一方、比較例1〜3の従来例では、表面に油煙付着が明白に確認され、時間が経ってもホコリは剥がれ難かった。
【0118】
以下、親水性について述べる。図10から、比較例1に示すコーティングを施さないPS樹脂の静的接触角が80度であるのに対して、実施例3〜7のコーティングを施したPS樹脂の静的接触角は10〜20度程度であった。接触角が低いことによって、水滴を押し広げて、水滴の成長と落下を抑制して、すばやく乾燥できる。水分の乾燥速度は、周囲の空気温度および気流速度等が同一であれば、気中との接触面積(=水滴の表面積)に従うことは公知であり、親水性をもつコーティング表面上では水分と空気の接触面積は大きくなり乾きやすい。
【0119】
実際に、水平に置いた試験片状で20μLの水滴を落としたところ、実施例4のコーティングを施したPS樹脂は水滴が瞬時につぶれて広がったが、比較例1に示すコーティングを施さないPS樹脂は撥水性であるため水滴はつぶれなかった。更に、別の親水性コーティングと比較するために、一般に広く使用されるPVC(ポリビニルアルコール)をコーティングしたPS樹脂である比較例2を用いて同様の試験を行ったが、つぶれて広がるまでの時間が長かった。この挙動を高速度カメラにより撮影した結果を図11に示す。落とした水滴がつぶれて初期接触角θに到達するまでの時間を測定すると、PVCをコーティングした比較例2が約1秒程度かかるのに比べて、実施例4のコーティングを施したPS樹脂は2桁速い0.01秒であり、瞬時に付着した水滴が広がる良好な親水性を示した。親水ではない樹脂はもちろんのこと、一般的な親水材料であるPVCコーティングと比べても、シリカ微粒子101を用いた本実施の形態のコーティングは、水分の成長を抑制して、水滴落下を抑制する効果を持つ。
【0120】
以下、密着性について述べる。密着性の評価は、作成した試験片を水濡れさせたティッシュにより約1kg/cm2での圧着往復を行い、剥離するまでの回数から評価した。約1kg/cm2は消しゴムで強く擦る程度である。コーティング溶液には過酸化物112またはラジカル発生材111を添加した実施例4の配合溶液を使用し、コーティングを施した後、60度18時間環境下にて乾燥させた。ラジカル発生材111として、BPO(ベンゾイルパーオキサイド)、AVCA(4,4−Azobis(4−cyanovaleric Acid))、過酸化物112として、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム、過酸化水素を用いた。被コーティング物107(被コーティング樹脂)あるPS樹脂(ポリスチレン)に対する密着性を図12に、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン)に対する密着性を図13に示す。
【0121】
その結果、被コーティング物107(被コーティング樹脂)である下地がPS樹脂(ポリスチレン)の場合には、熱ラジカルであるAVAC、BPOの効果は少量であったが、過酸化物112である過硫酸アンモニウム(APS)をコーティング液濃度添加したものは、10倍以上の耐拭き取り回数を示した。図示はしていないが、下地がPP樹脂(ポリプロピレン)の場合にもPS樹脂と同様の傾向が見られた。また、過硫酸ナトリウム、過酸化水素の場合にも同様の密着度改善効果が見られた。添加濃度としては、0.05%〜5%で効果が確認された。
【0122】
また、下地がABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン)の場合には、過酸化物112である過硫酸アンモニウム(APS)の効果は少量であり、AVCAでは均一性なく密着性が悪化したが、非水溶性の熱ラジカルであるBPOを添加したものは、5倍〜7倍の耐拭き取り回数を示した。
【0123】
コーティング後、60℃18時間環境下においた場合に効果が高いが、室温レベルの20℃18時間放置であっても3倍程度の密着性の向上が認められた。コーティング溶液にラジカル発生材や過酸化物112を添加することによって、撥水性の高い樹脂上であってもはじかれにくくなり、塗布しやすくなる。ラジカル発生材111や過酸化物112が熱分解や時間に連れて自己分解するにつれて、特に下地の被コーティング物107(被コーティング樹脂)とシリカ膜104の界面近傍で、フッ素樹脂分散液(ディスパージョンとも呼ぶ)に含まれていたモノマー成分や界面活性剤が反応起点となって、シリカの凝集形態変化や下地の被コーティング物107(被コーティング樹脂)とシリカ膜104の接着効果を及ぼし、密着性を上げることができる。これらは、樹脂分散液と反応材料(ラジカル発生材111または過酸化物112)のどちらかがなくても成立しないことから考えて、分散液中の成分と反応材料が効果に寄与していると判断できる。
【0124】
以上説明してきたように、本実施の形態に係る空気調和機100は、空気調和機100の冷房運転によって露付きが起こる樹脂で構成される部分の表面に形成するコーティング組成物200であって、シリカ微粒子101と、フッ素樹脂粒子102と、を含有し、コーティング膜103が、シリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きいものであり、分解作用のある反応型ラジカル発生剤を添加したコーティング組成物200を備えたことを特徴とする。
【0125】
それにより、親水性汚損物質105と疎水性汚損物質106の両方に対して優れた防汚性能を発揮するとともに、親水性効果による水押し広げ効果、水滴成長速度の抑制効果、乾燥促進効果に優れ、さらに大掛かりな設備を要せず低コストにて密着性を向上して剥がれることなく、長期間に渡って露付き防止と汚れ付着防止を同時に提供する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】実施の形態1に係る空気調和機100を模式的に示す中央部の断面図。
【図2】図1に示す空気調和機100の被コーティング部位を示す断面図。
【図3】実施の形態1のコーティング組成物200が樹脂表面にコーティングされ、コーティング膜103が形成された状態の断面を示す概念図。
【図4】図3のコーティング膜103の部分のみを示した概念図である。
【図5】図4のコーティング膜103の上面を見た概念図。
【図6】実施の形態1を示す図で、樹脂表面に付着した水滴の接触角θを説明する模式図。
【図7】比較のために示すプライマー処理を用いた従来のコーティングの断面を示す概念図。
【図8】実施の形態1を示す図で、ラジカル発生材111または過酸化物112を添加したコーティング組成物200が樹脂表面にコーティングされ、コーティング膜103が形成された状態の断面を示す概念図。
【図9】実施例1〜7及び比較例1〜3のコーティング組成物200を調合を示す図。
【図10】実施例1〜7及び比較例1〜3のコーティング膜103の性状、初期接触角θおよび防汚性能を示す図。
【図11】実施例4と比較例2の表面における水滴挙動の比較を示す高速度カメラ画像図。
【図12】実施の形態1を示す図で、ラジカル発生材11と過酸化物112を添加した被コーティングで107の耐拭き取り回数を示す図。
【図13】実施の形態1を示す図で、ラジカル発生材と過酸化物112を添加した被コーティングで107の耐拭き取り回数を示す図である。
【符号の説明】
【0127】
10 筐体、11 吸込口、12 前面グリル、13 左右フラップ、14 吹出口、15 ケーシング部、16 上フラップ、17 下フラップ、18 ノズル、20 送風ファン、30 熱交換器、31 伝熱管、32 放熱フィン、40 フィルタ、100 空気調和機、101 シリカ微粒子、102 フッ素樹脂粒子、103 コーティング膜、104 シリカ膜、105 親水性汚損物質、106 疎水性汚損物質、107 被コーティング物、110 プライマー層、111 ラジカル発生材、112 過酸化物、200 コーティング組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファンと、
前記送風ファンが形成する風路内に配置され、吸引した空気と冷凍サイクルの冷媒とが熱交換を行う熱交換器と、
前記熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品と、
前記樹脂製部品の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、前記コーティング膜が、前記シリカ微粒子から成るシリカ膜中に前記フッ素樹脂粒子が前記シリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、前記シリカ膜の露出面積が前記フッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物とを備えたことを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
前記コーティング組成物は、前記シリカ微粒子の含有量と前記フッ素樹脂粒子の含有量との重量比が、30:70〜95:5の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の空気調和機。
【請求項3】
前記コーティング組成物は、前記シリカ微粒子の平均粒径が、4〜15nmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空気調和機。
【請求項4】
前記コーティング組成物は、前記フッ素樹脂微粒子の平均粒径が、50〜500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の空気調和機。
【請求項5】
前記シリカ微粒子の含有量は、前記コーティング組成物に対して0.1〜5重量%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の空気調和機。
【請求項6】
前記コーティング膜において、前記シリカ膜の平均厚さが、前記フッ素樹脂粒子の平均粒径より小さいことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の空気調和機。
【請求項7】
前記コーティング組成物に、ラジカル発生材または過酸化物を添加したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の空気調和機。
【請求項8】
前記送風ファンにより吹き出される風を導くケーシング部と、吹き出す風を左右方向に曲げる左右ベーンと、吹き出す風を上下方向に曲げるフラップと、前記ケーシング部とともに風路を形成するノズルとを備え、
前記熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品は、前記送風ファン又は前記ケーシング部又は前記左右ベーン又は前記フラップ又は前記ノズルの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の空気調和機。
【請求項9】
被コーティング樹脂が、水をはじく性質を有する有機で構成される樹脂であり、前記被コーティング樹脂に防汚性、親水性のいずれかの機能を付与するためのコーティング溶液に、ラジカル発生材または過酸化物を添加したことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項10】
前記コーティング溶液は、フッ素樹脂粒子の樹脂分散液を原料として含むことを特徴とする請求項9に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記被コーティング樹脂がポリスチレンまたはポリプロピレンであり、無機物を主体とするコーティング溶液に、過酸化物として、過硫酸アンモニウム又は過硫酸ナトリウム又は過酸化水素の少なくとも一つを添加したことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
前記被コーティング樹脂が、アクリロニトリルブタジエンスチレン又はアクリロニトリルスチレン又はアクリロニトリルスチレンにガラスを含有させた樹脂であり、無機物を主体とする前記コーティング溶液にラジカル発生材としてベンゾイルパーオキサイドを添加したことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載のコーティング組成物。
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファンと、
前記送風ファンが形成する風路内に配置され、吸引した空気と冷凍サイクルの冷媒とが熱交換を行う熱交換器と、
前記熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品と、
前記樹脂製部品の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、前記コーティング膜が、前記シリカ微粒子から成るシリカ膜中に前記フッ素樹脂粒子が前記シリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、前記シリカ膜の露出面積が前記フッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物とを備えたことを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
前記コーティング組成物は、前記シリカ微粒子の含有量と前記フッ素樹脂粒子の含有量との重量比が、30:70〜95:5の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の空気調和機。
【請求項3】
前記コーティング組成物は、前記シリカ微粒子の平均粒径が、4〜15nmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空気調和機。
【請求項4】
前記コーティング組成物は、前記フッ素樹脂微粒子の平均粒径が、50〜500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の空気調和機。
【請求項5】
前記シリカ微粒子の含有量は、前記コーティング組成物に対して0.1〜5重量%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の空気調和機。
【請求項6】
前記コーティング膜において、前記シリカ膜の平均厚さが、前記フッ素樹脂粒子の平均粒径より小さいことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の空気調和機。
【請求項7】
前記コーティング組成物に、ラジカル発生材または過酸化物を添加したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の空気調和機。
【請求項8】
前記送風ファンにより吹き出される風を導くケーシング部と、吹き出す風を左右方向に曲げる左右ベーンと、吹き出す風を上下方向に曲げるフラップと、前記ケーシング部とともに風路を形成するノズルとを備え、
前記熱交換器の後流側に設けられる樹脂製部品は、前記送風ファン又は前記ケーシング部又は前記左右ベーン又は前記フラップ又は前記ノズルの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の空気調和機。
【請求項9】
被コーティング樹脂が、水をはじく性質を有する有機で構成される樹脂であり、前記被コーティング樹脂に防汚性、親水性のいずれかの機能を付与するためのコーティング溶液に、ラジカル発生材または過酸化物を添加したことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項10】
前記コーティング溶液は、フッ素樹脂粒子の樹脂分散液を原料として含むことを特徴とする請求項9に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記被コーティング樹脂がポリスチレンまたはポリプロピレンであり、無機物を主体とするコーティング溶液に、過酸化物として、過硫酸アンモニウム又は過硫酸ナトリウム又は過酸化水素の少なくとも一つを添加したことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
前記被コーティング樹脂が、アクリロニトリルブタジエンスチレン又はアクリロニトリルスチレン又はアクリロニトリルスチレンにガラスを含有させた樹脂であり、無機物を主体とする前記コーティング溶液にラジカル発生材としてベンゾイルパーオキサイドを添加したことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載のコーティング組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−96437(P2010−96437A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268119(P2008−268119)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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