説明

空気電池

【課題】空気電池の高出力特性を向上させる。
【解決手段】空気孔3を有する正極ケース1と負極ケース10を用いて形成された電池容器と、前記電池容器の前記正極ケース1内に位置する正極触媒層4と、前記電池容器の前記負極ケース10内に位置し、亜鉛を含むゲル状負極9と、前記正極触媒層4と前記ゲル状負極9の間に配置されたセパレータ8とを具備する空気電池であって、前記セパレータ8は、表面に非イオン界面活性剤が付与されたポリオレフィンもしくはポリテトラフルオロエチレン製の多孔質膜8aを含むことを特徴とする空気電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気電池の主な使用用途として補聴器が挙げられる。現在、日本国内においても高齢化が進むにつれ補聴器の需要が高まってきている。さらに、補聴器の機種ではアナログ型補聴器から高性能なデジタル型補聴器に移行しつつあり、より高出力の空気電池が要求されている。
【0003】
空気電池において高出力特性を向上させるため、セパレータにセロハンを用いてセパレータの抵抗を低減させることが試みられている。しかしながら、セロハンは半透膜であるため、より高出力特性を達成するために電流値を大きくした際に、正極への電解液移動量が増大する。その結果、電解液が正極触媒に浸透し過ぎる事により十分な触媒活性が得られず、同時に、負極の電解液が不足するため、放電持続時間が短くなるという問題点を生じる。
【0004】
ところで、特許文献1は、空気亜鉛電池の空気拡散層にポリオレフィン製の微多孔膜を用いると、不織布からなる空気拡散層の場合と異なり、ケバが発生しないため、漏液が少なくなることを開示している。
【特許文献1】特開平11−40166
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、空気電池の高出力特性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る空気電池は、空気孔を有する正極ケースと負極ケースを用いて形成された電池容器と、
前記電池容器の前記正極ケース内に位置する正極触媒層と、
前記電池容器の前記負極ケース内に位置し、亜鉛を含むゲル状負極と、
前記正極触媒層と前記ゲル状負極の間に配置されたセパレータと
を具備する空気電池であって、
前記セパレータは、表面に非イオン界面活性剤が付与されたポリオレフィンもしくはポリテトラフルオロエチレン製の多孔質膜を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、空気電池の高出力特性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上述した課題を解決するため、ポリオレフィン製の微多孔膜に、アニオン界面活性剤で親水化処理を施すことが検討されている。しかしながら、アニオン界面活性剤が電解液中に溶出して亜鉛表面に析出するため、高出力放電を実施すると亜鉛に付着したアニオン界面活性剤が抵抗体となり、放電初期の作動電圧が低下する問題点があることがわかった。
【0009】
さらに研究を進めた結果、ポリオレフィンもしくはポリテトラフルオロエチレン製の多孔質膜の表面に非イオン界面活性剤を付与したものを、空気電池のセパレータに用いると、亜鉛の表面に界面活性剤を析出させることなく、正極触媒層に適度な量の電解液を供給することができ、高出力での放電持続時間と放電初期の作動電圧の双方が満たされることを見出したのである。
【0010】
以下、本発明に係る空気電池の一実施形態(空気亜鉛電池)を図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、有底円筒形をなす正極ケース1は、その開口部の上端2がかしめ加工により内方に折り曲げられている。正極ケース1は、底部に空気孔3を有する。この正極ケース1は、例えばステンレス鋼などの金属から形成されており、正極端子を兼ねているものである。正極ケース1と後述する負極ケース10から形成された電池容器内に、正極触媒層4及びゲル状負極9がその間にセパレータ8を介して収納されている。
【0012】
正極ケース1内には、正極触媒層4が収納されている。正極触媒層4に含まれる酸素還元触媒としては、例えば、活性炭と、二酸化マンガンのようなマンガン酸化物との混合物を使用することができる。正極触媒層4は、例えば、活性炭と、マンガン酸化物と、導電性材料として膨張化黒鉛と、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン粉末とを混合し、シート状にして正極集電体5に圧着することにより得られる。正極集電体5は、その周縁部が正極ケース1の内面と接している。これにより、正極と正極ケース1との導通が確保される。正極集電体5は、例えば、金属ネットのような導電性の多孔質板から形成することができる。
【0013】
正極触媒層4に空気を均一に拡散させるための拡散紙6は、正極ケース1の底部内面に配置されている。拡散紙6には、例えば、クラフト紙を使用することができる。拡散紙6の厚さは50〜100μmの範囲にすることが望ましい。酸素透過性を有する撥水膜7は、拡散紙6と正極触媒層4の間に介装されている。この撥水膜7は、アルカリ電解液が正極ケース1の空気孔3から外部に漏れ出すのを防止するためのものである。撥水膜7は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルムのようなフッ素樹脂フィルムから形成することができる。なお、撥水膜7は、1枚に限らず、2枚以上重ねて使用することも可能である。
【0014】
正極触媒層4には、セパレータ8及びゲル状の負極9がこの順番に積層されている。図2に示すように、セパレータ8は、例えば、ポリオレフィンもしくはポリテトラフルオロエチレン製の多孔質膜の表面に非イオン界面活性剤を付着させたもの8aと、不織布8bとから形成されている。また、セパレータ8は多孔質膜8aの方を正極触媒層4と対向させ、不織布8bを負極9と対向させる。多孔質膜8aは、正極触媒層4への電解液供給だけでなく、酸化亜鉛の析出による内部短絡を防止する役割も担っている。不織布8bは、多孔質膜8aに比べてより多くのアルカリ電解液を保持することができる。
【0015】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール型に高級アルコールエチレンオキサイド、アルキルフェノールエチレンオキサイド、脂肪酸エチレンオキサイド、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド、高級アルキルアミンエチレンオキサイド、脂肪酸アミドエチレンオキサイド、油脂エチレンオキサイド、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド等を付加させたものもしくは、多価アルコール型にグリセロール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコールアルキルエーテル、アルカノールアミン類脂肪酸アミドのいずれかでも良い。また、使用する界面活性剤の種類は、2種類以上でも良い。特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
【0016】
多孔質膜の表面に非イオン界面活性剤を付与する方法としては、例えば、非イオン界面活性剤の水溶液に多孔質膜を浸漬した後、乾燥させる手法を採用することができる。
【0017】
多孔質膜を構成するポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。なお、ポリエチレンとポリプロピレンの双方を使用しても良い。中でも、ポリプロピレンが好ましい。
【0018】
多孔質膜は、JIS P8117の紙の透気度測定に準拠する方法で測定された通気度バラツキ(ガーレー秒数)が2.5秒以上であるか、QT−FS−1010に規定する方法で測定された空孔率が37%以上、48%以下の微多孔膜であることが望ましい。このような微多孔膜に非イオン界面活性剤を用いて親水化処理を施すことによって、負極の亜鉛表面への界面活性剤の析出抑制と、正極触媒層への適度な電解液供給と併せて、酸化亜鉛の析出による内部短絡を防止する効果を高めることができる。
【0019】
多孔質膜の厚さは、20μm以上、80μm以下の範囲にすることが望ましい。
【0020】
不織布は、例えば、ビニロン、マーセル化パルプ及びレーヨンから選択される少なくとも1種類などを溶解後に繊維化させて形成している。不織布の厚さは、50〜120μmの範囲にすることが好ましい。多孔質膜と不織布を単に積層したものを、セパレータとして用いても良いが、多孔質膜と不織布を一体化させたものを使用することも可能である。一体化の方法として、例えば、接着剤などの使用が挙げられる。
【0021】
多孔質膜の表面に非イオン界面活性剤が付着しているか否かの確認は、以下に説明する方法で行うことが可能である。
【0022】
界面活性剤が付着している多孔質膜を、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析にて分析することにより上記確認を行うことができる。熱分解ガスクロマトグラフ質量分析においては、数10マイクログラムのサンプルを熱天秤に乗せ、これを加熱することによりガスを発生させる。ガス発生時の温度及び重量変化を測定すると共に、発生したガスをガスクロで分離し、質量分析計で質量数を測定し、成分の同定をする。
【0023】
ゲル状負極9は、亜鉛を含有する負極作用物質と、アルカリ電解液とを含むものである。ゲル状負極9は、例えば、負極作用物質と、アルカリ電解液と、増粘剤(ゲル化剤)と、必要に応じてインヒビターとを混合することにより形成される。
【0024】
負極作用物質としては、例えば亜鉛などが安価なために望ましいが、こればかりに限らず無汞化亜鉛合金も使用できる。無汞化亜鉛合金としては、例えば、In,Bi,Ga,Pb,Sn,Cd,Al及びCoよりなる群から選択される少なくとも一種類の元素を含む亜鉛合金を挙げることができる。
【0025】
アルカリ電解液としては、例えば、水酸化カリウムを含むアルカリ水溶液等を挙げることができる。アルカリ電解液中の水酸化カリウム濃度は30〜45重量%の範囲にすることが好ましい。
【0026】
増粘剤(ゲル化剤)としては、アルカリ電解液の粘性を増加させてゲル化させる機能を有するものを使用することができる。このような増粘剤としては、例えば、ポリアクリル酸のような吸水性高分子を挙げることができる。
【0027】
インヒビターとしては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウム、酸化ビスマス等を挙げることができる。負極ケース10は、負極集電体と負極端子を兼ねているものである。負極ケース10は、例えば、ニッケル層と、ステンレス層と、銅層とから構成された三層クラッド材を、内面が銅層となるように絞り加工により有底円筒形に成型した後、その開口端を折り返すことによりリバース部を形成することによって得られる。負極ケース10には、三層クラッド材の銅面に錫メッキを施した基材等から形成したものも使用できる。クラッド材のニッケル層は、ニッケル合金層に変更することができる。また、銅層の代わりに銅合金層を使用しても良い。
【0028】
このような負極ケース10は、正極ケース1の開口部に配置され、封口部材として機能する。リング状の絶縁ガスケット11は、正極ケース1の内周面と、負極ケース10の外周面との間に介在されている。絶縁ガスケット11は、例えばナイロン製で、その表面がポリアミド系樹脂でコーティングされている。このような材料から形成された絶縁ガスケット11は、耐アルカリ性を向上することができる。なお、正極ケース1の空気孔3は、未使用時の無駄な放電を防ぐため、正極ケース1の底面に貼られたシールテープ12で一時的に塞がれている。
【0029】
前述した図1では、正極ケースにかしめ加工を施したが、本発明はこれに限定されるものではなく、負極ケースにかしめ加工を施しても良い。また、リバース部を持たない負極ケースを使用しても良い。
【0030】
[実施例]
以下、本発明の実施例を前述した図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
(実施例1)
Niメッキを施した厚さ135μmのSUS304の板材に、厚さ15μmのCuの板材が接合された厚さ150μmのクラッド材を用意した。クラッド材の銅面に錫メッキを施した基材を錫メッキ層が内面となるように有底円筒形状に絞り加工し、負極ケースを得た。
【0032】
厚さが25μmのポリプロピレン製微多孔膜(JIS P8117の紙の透気度測定に準拠する方法で測定された通気度バラツキ(ガーレー秒数)が10秒で、QT−FS−1010に規定する方法で測定された空孔率が40%)を、非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル(三洋化成工業株式会社製 サンノニック)の水溶液に浸漬した後、乾燥させ、微多孔膜の表面に非イオン界面活性剤を付与した。
【0033】
不織布には、マーセル化パルプ、ビニロン及びレーヨンを溶解させたものを繊維化し、この繊維から形成した厚さが50μmのものを使用した。ポリアクリル酸をアルコールで溶解させた糊(接着剤)を使用し、微多孔膜と不織布とを貼り合せ、セパレータとした。
【0034】
ナイロン製で、表面がポリアミド系樹脂でコーティングされた絶縁ガスケットを用意した。
【0035】
また、ポリアクリル酸の微粉末に酸化インジウム(In23)を混合・攪拌した。次いで、In、Bi及びAlを含有する亜鉛合金粉末を、KOHとZnOからなるアルカリ電解液、前記ポリアクリル酸と酸化インジウムの混合物を混合・攪拌して、ゲル状の亜鉛負極を調製した。
【0036】
活性炭40質量%と、二酸化マンガン30質量%と、膨張化黒鉛5質量%と、ポリテトラフルオロエチレン粉末25質量%とを混合し、シート状にして正極集電体に圧着することにより正極触媒層を得た。
【0037】
こうして得られたゲル状亜鉛負極を負極ケースに充填後、正極触媒層が収納された正極ケースにかしめ加工を施すことにより固定し、前述した図1に示す構造を有するJIS規格PR44型のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0038】
(実施例2)
ポリプロピレン微多孔膜の代わりに、厚さが25μmのポリエチレン製微多孔膜(通気度バラツキ(ガーレー秒数)が10秒で、空孔率が40%)を使用する以外は、実施例1と同様にして前述した図1に示す構造を有するPR44型のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0039】
(実施例3)
ポリプロピレン微多孔膜の代わりに、厚さが25μmのポリテトラフルオロエチレン製微多孔膜(通気度バラツキ(ガーレー秒数)が10秒で、空孔率が40%)を使用すること以外は、実施例1と同様にして前述した図1に示す構造を有するPR44型のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0040】
(比較例1)
微多孔膜の代わりにセロハンを用いること以外は、実施例1と同様にして前述した図1に示す構造を有するPR44型のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0041】
(比較例2)
非イオン界面活性剤の代わりにイミダゾリン型アニオン界面活性剤を用いること以外は、実施例1と同様にして前述した図1に示す構造を有するPR44型のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0042】
これら空気亜鉛電池をそれぞれの種類について20個ずつ用意し、気温20℃、湿度60%環境下で各20個ずつ30mA定電流放電を実施した平均放電持続時間(放電終止電圧が0.9V)と、放電開始1時間後の平均作動電圧の結果を表1に示す。
【表1】

【0043】
表1から明らかなように、非イオン界面活性剤にて親水処理を実施した実施例1〜3の電池は、高出力放電における平均放電持続時間、放電一時間後の作動電圧ともに良好な結果を示している。特に、多孔質膜の材質をポリプロピレンとした実施例1において、平均放電持続時間及び放電一時間後の作動電圧が高かった。
【0044】
一方、多孔質膜の代わりにセロハンを用いた比較例1によると、放電一時間後の作動電圧は高いものの、短寿命の発生により平均放電持続時間が短くなっている。また、多孔質膜の親水処理にアニオン界面活性剤をもちいた比較例2によると、平均放電持続時間は良好であるが、放電一時間後の平均作動電圧が低くなっている。
【0045】
なお、前述した実施例では、ボタン型空気亜鉛電池の例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態をとることができる。たとえば、コイン型、主面の形状が四角もしくは略四角形の扁平形等にすることが可能である。
【0046】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る空気電池の一実施形態を示す模式的な断面図。
【図2】図1の空気電池の要部の拡大断面図。
【符号の説明】
【0048】
1…正極ケース、2…開口部の上端、3…空気孔、4…正極触媒層、5…正極集電体、6…空気拡散紙、7…撥水膜、8…セパレータ、8a…多孔質膜、8b…不織布、9…ゲル状亜鉛負極、10…負極ケース、11…絶縁ガスケット、12…シールテープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気孔を有する正極ケースと負極ケースを用いて形成された電池容器と、
前記電池容器の前記正極ケース内に位置する正極触媒層と、
前記電池容器の前記負極ケース内に位置し、亜鉛を含むゲル状負極と、
前記正極触媒層と前記ゲル状負極の間に配置されたセパレータと
を具備する空気電池であって、
前記セパレータは、表面に非イオン界面活性剤が付与されたポリオレフィンもしくはポリテトラフルオロエチレン製の多孔質膜を含むことを特徴とする空気電池。
【請求項2】
前記非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とする請求項1記載の空気電池。
【請求項3】
前記セパレータは、前記多孔質膜と不織布とから構成され、前記多孔質膜が前記正極触媒層と対向していることを特徴とする請求項1または2記載の空気電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−335242(P2007−335242A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166145(P2006−166145)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000003539)東芝電池株式会社 (109)
【Fターム(参考)】