説明

空腹感抑制用組成物

【課題】満腹感を維持することが可能な食欲抑制組成物を提供することができる。
【解決手段】寒天を主成分とするゲル組成物であって、20℃における破断強度が250g/cm〜1,000g/cmであり、かつ破断歪が0.15〜0.50に調整され、さらに37℃において人口胃液(日局第1液)で2時間処理した後の37℃における破断強度が100g/cm〜800g/cmであり、かつ破断歪0.10〜0.45に調整されていることを特徴とする食欲抑制組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒天を主成分とするゲル組成物である食欲抑制組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、肥満症、高血圧症及び糖尿病などの生活習慣病は、それぞれが独立した別の病気ではなく、肥満、特に内臓に脂肪が蓄積された肥満(内臓肥満型肥満)が原因であるという知見がある。このように内臓脂肪型肥満によってさまざまな病気が引き起こされやすくなった状態をメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)と呼び、その予備軍も含めると国民の約30%がこれに当てはまるといわれている。このまま生活習慣病が増加すると医療費が増して、現在問題になっている医療費の増加にさらに拍車をかけることになるので、メタボリックシンドロームの患者を減らすことが必要になる。メタボリックシンドロームの判断基準のひとつとして腹囲がある。つまり腹囲が男性85cm、女性90cm以上であると血中脂質、血圧、血糖のいずれかのリスクを2つ以上有する割合が多く腹囲をへらすことが必要とされている。腹囲を減らすためには、カロリーの過剰摂取を防ぎ、内臓についた脂肪を消費し、また脂肪が付着するのを防ぐ必要がある。
【0003】
一方、このような概念とは別にスリムになりたいという願望のもとに、多くのダイエット食品が販売されている。寒天は、水などにより膨潤ゲル化することから、それを食することにより満腹感が与えられ、またカロリーがゼロであることから、ダイエット食品としても食されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−341890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来からダイエット食品として寒天を食する場合、単に食品に混ぜて食されているだけで、特に工夫などがされておらず、そのため、胃の中で膨潤して一時的に空腹感を解消することができるが、その後短時間で胃を通過して空腹感を再び与えてしまうので、空腹感を解消した状態を長時間維持できないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、空腹感を解消した状態を長時間維持することが可能な食欲抑制組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、20℃における寒天のゲル強度を向上されるとともに、胃液に一定時間浸された後の寒天のゲル強度を向上させることによって、空腹感を解消した状態を長時間維持させて、食欲を抑制させることができることを見出した。すなわち、本発明は、寒天を主成分とするゲル組成物であって、20℃における破断強度が250g/cm〜1,000g/cmであり、かつ破断歪が0.15〜0.50に調整され、さらに37℃において人口胃液(日局第1液)で2時間処理した後の37℃における破断強度が100g/cm〜800g/cmであり、かつ破断歪0.10〜0.45に調整されていることを特徴とする食欲抑制組成物である。
【0008】
本発明に係る食欲抑制組成物は、破断強度を大きくし一定の破断歪を持つことにより、喫食の際に一定数以上の咀嚼が必要とされるので、脳の満腹中枢を刺激させ満腹感を与えることができるとともに、食物繊維である寒天を主成分とし、胃液に一定時間浸された後でも消化酵素等の影響を受け難く、破断強度が大きく一定の破断歪を持つことにより、胃の中においても長時間ゲル状態を維持することができ、そのため喫食後短時間で空腹感を与えることがなく、カロリーを過剰に摂取するのを防止できる。また、本発明に係る食欲抑制組成物は、カロリーがゼロである寒天を主成分としているので、それ自体のカロリーを低く抑えることができる。一方、胃液に一定時間浸された後の破断強度が上記値よりも小さいと、胃の中で長時間ゲルの状態を維持することができず、喫食後短時間で空腹感を与えてしまい、また胃液に一定時間浸された後の破断強度が上記値よりも大きいと、消化不良を生じて胃に負担を与える場合がある。さらに、20℃における寒天の破断強度が上記値よりも大きいと、硬すぎて咀嚼が大変になるので、食用ゲルとして不適切になる。またさらに、37℃において人口胃液(日局第1液)で2時間処理した後の37℃における破断強度が100g/cm〜800g/cmであっても、その破断歪0.10〜0.45以外であるとゲルが脆すぎたり粘弾性が強すぎて期待する効果が得られない。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、空腹感を解消した状態を長時間維持することが可能な食欲抑制組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る食欲抑制組成物は、20℃における破断強度が250g/cm〜1,000g/cmであり、かつ破断歪が0.15〜0.50に調整されているが、破断強度は、特に280g/cm〜500g/cmに調整されていることが好ましく、破断歪は、特に0.2〜0.4に調整されていることが好ましい。また、本発明に係る食欲抑制組成物は、37℃において人口胃液(日局第1液)で2時間処理した後の37℃における破断強度が100g/cm〜800g/cmであり、かつ破断歪0.10〜0.45に調整されているが、その破断強度は、150g/cm〜400g/cmであることが好ましく、その破断歪は、0.15〜0.35であることが好ましい。
【0011】
上記20℃における破断強度や破断歪調整や、37℃において人口胃液(日局第1液)で2時間処理した後の37℃における破断強度や破断歪の調整は、寒天の種類や添加量を調整することによって、行なうことができる。例えば、平均分子量が比較的大きな寒天は、比較的少量であっても、破断強度を大きくすることができるが、平均分子量が比較的小さな寒天は、比較的多量を含有させなければ、破断強度を大きくさせることができない。一方、破断強度を小さくするためには、これら寒天の含有量を減らせば良い。
【0012】
本発明に係る食欲抑制組成物は、糖分、酸味料及び香料等の成分が配合されても良い。例えば、糖質としては、ぶどう糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、オリゴ糖、デキストリン、水あめなどがあり特に限定されない。さらにエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、パラチニット、還元水あめなどの還元糖を使用したり、アスパルテーム、ステビア、スクラロース、アセスルファムK、グリチルリチン、ソーマチン、羅漢果などの高甘味料を使用することによりカロリーを少なく調整することができる。
【0013】
また、本発明に係る食欲抑制組成物は、食物繊維の効果を増強するために、寒天の他にポリデキストロース、難消化性デキストリン、イヌリン、低分子グアーガム、低分子アルギン酸ナトリウム、アラビアガム及びアラビノガラクタンなどの食物繊維を含有させても良い。
【0014】
さらに、本発明に係る食欲抑制組成物は、ダイエット中に不足しがちであるビタミン、ミネラル、ペプチド、アミノ酸などを含有させも良い。
【0015】
またさらに、本発明に係る食欲抑制組成物は、破断強度や破断歪を調整するためにカラギナン、ファーセレラン、アルギン酸、アルギン酸塩、フェヌグリークガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、カシアガム、こんにゃく粉、タマリンドガム、ペクチン、デンプン、加工デンプン、キサンタンガム、ジェランガム、ネーティブ型ジェランガム、カードラン、アラビアガム、カシアガム、トラガントガム、セルロース及びセルロース誘導体などの多糖類を1以上添加しても良い。
【0016】
また、本発明に係る食欲抑制組成物は、日持ちさせるために、加熱殺菌等の殺菌処理がされていることが好ましい。
【実施例】
【0017】
次に、表1に示す配合で、本発明に係る食欲抑制組成物の実施例1乃至7を作製した。実施例1乃至7に係る食欲抑制組成物は、先ず、水に寒天及びローカストビーンガムを分散して加熱溶解し、80℃になった時点で他の成分を入れ溶解し容器に充填し、その後冷却してゲル化することによって作製した。また、表2に示す配合で比較例1乃至5に係るゲル組成物を同様に作製した。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
実施例1乃至7に係る食欲抑制組成物、並びに比較例1乃至5に係るゲル組成物の物性を測定するため、これらのゲル化前の溶液状態ものを物性測定用のシャーレ(直径40mm,高さ15mm)に充填し20℃でゲル化させたものについて、破断強度及び破断歪をレオメーター(COMPAC−100 サン科学社製)を用いて測定した。測定条件は、断面積1cmの円柱型のプランジャーを使用し測定速度20mm/minにて行った。これらの結果を表3及び4に示す。
【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
次に、実施例1乃至7に係る食欲抑制組成物、並びに比較例1乃至5に係るゲル組成物を1cm×1cm×1cmの正方体に切断し、37℃日局第1液(人口胃液)に浸漬して日局崩壊試験(補助筒使用)(日局崩壊試験器:富山産業社製NT−20H)を2時間行った。これらの結果を表5及び6に示した。
【0024】
【表5】

【0025】
【表6】

【0026】
表1に示すように、実施例1乃至7に係る食欲抑制組成物は、人口胃液中の崩壊試験において2時間ゲルが壊れることはなかった。このことは、実施例1乃至7に係る食欲抑制組成物が、2時間後であっても、胃の中でゲル状態を維持していることを意味し、空腹感を与えることを少なくする要因であると考えられる。一方、比較例1及び3に係るゲル組成物は、2時間後にはゲルが崩壊してしまうので、喫食後短時間で空腹感を与えることになると考えられる。
【0027】
次に、実施例1乃至7に係る食欲抑制組成物、並びに比較例1乃至5に係るゲル組成物の人工胃液浸漬後の物性を測定するため、これらのゲル化前の溶液状態ものを物性測定用のシャーレ(直径40mm,高さ15mm)に充填し20℃でゲル化させたものについて、シャーレから壊れないようにゲルを取り出し日局溶出試験器(富山産業社製:TMB−8,NTR−1000)を使用し人口胃液800mL、パドル回転数5rpm、温度37度にてゲルを2時間浸漬処理した。浸漬処理したゲルを壊さないようにシャーレに戻し、破断強度及び破断歪をレオメーター(COMPAC−100 サン科学社製)を用いて測定した。測定条件は、断面積1cmの円柱型のプランジャーを使用し測定速度20mm/minにて行った。これらの結果を表7及び8に示す。
【0028】
【表7】

【0029】
【表8】

【0030】
また、実施例1、2及び4に係る食欲抑制組成物、並びに比較例1、2、4及び5に係るゲル組成物それぞれ200gを昼食の代わりに10人のパネラーに食べてもらい空腹の度合いを確認した。その結果、実施例1,2及び4に係る食欲抑制組成物は、2時間以上空腹感が与えられることはなかったという結果を得た。一方、比較例1に係るゲル組成物は、喫食後は、満腹感を得ることができたが、約10分後からは空腹感が与えられたという結果を得た。また、比較例2、4及び5に係るゲル組成物は、ゲルが硬すぎ食べることが困難であり、食用のゲルとして不適切であったという結果を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天を主成分とするゲル組成物であって、20℃における破断強度が250g/cm〜1,000g/cmであり、かつ破断歪が0.15〜0.50に調整され、さらに37℃において人口胃液(日局第1液)で2時間処理した後の37℃における破断強度が100g/cm〜800g/cmであり、かつ破断歪0.10〜0.45に調整されていることを特徴とする食欲抑制組成物。

【公開番号】特開2008−110923(P2008−110923A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293442(P2006−293442)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【特許番号】特許第4074325号(P4074325)
【特許公報発行日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】