説明

空芯ステッピングモータ

【課題】 高分解能が要求される空芯ステッピングモータにおいて、各相に対するモータの逆起電圧の位相差を精密に調整できるモータを提供する。
【解決手段】 空芯ステッピングモータのロータ10は、各相ステータの各々に対向して配置される円筒状のマグネット21と、各マグネット21の内周側に接続された、スリーブ22からなる。スリーブ22は、互いに嵌合し合う円筒状のスリーブ片A23及びスリーブ片B24と、からなり、両スリーブ片には両者の嵌合相対角度を表示・調整できるパターン30が形成されている。パターン30は、スリーブ片A23の嵌合部23aに形成された第1のパターン40とスリーブ片B24の嵌合部24aに形成された第2のパターン50からなり、両パターンはバーニアの機能を持つように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空芯ステッピングモータに関し、特には、2相構造のステッピングモータにおいて、2個のマグネットの着磁部の位相差を適切に設定できる空芯ステッピングモータに関する。
【背景技術】
【0002】
2相構造のステッピングモータにおいては、軸方向に延びる同じ直線上に着磁されたマグネットに対し、A相ステータとB相ステータとが、電気角の位相が90°ずれるように配置されている。
【0003】
空芯型のステッピングモータにおいては、マグネットは円筒状であり、A相ステータ及びB相ステータの各々に対して、クローポールと同じピッチで着磁された1個のマグネットが準備される。そして、2個のマグネットは各々円筒状のスリーブ(バックヨーク)に固定され、さらに、このスリーブを軸方向に並べて固定されて使用される。この際、マグネットの各々は、着磁部が軸方向に延びる同じ軸上となるように配置されて固定される。
【0004】
しかしながら、各部品の寸法精度やマグネットの着磁角度の精度、磁気回路上のパワーバランスにより、位相角度が90°に対してずれる場合がある。ズレ角度を管理するには、部品寸法や着磁の精度を向上させたり、パワーバランスがとれるような構造とする必要がある。
【0005】
例えば、2相励磁において、1回転あたり600ステップ(0.6°制御)が求められるような高分解能が必要な場合、前述のような部品寸法や着磁精度の向上のみでは調整に限度がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、高分解能が要求される空芯ステッピングモータにおいて、各相に対するマグネットの着磁部の位相差を精密に調整できるモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の空芯ステッピングモータは、 軸方向に配置された、ヨーク及びコイルを含むA相ステータとB相ステータとからなる筒状のステータと、 円筒状のマグネットを含む筒状のロータと、 前記ロータを前記ステータに対して回転可能に支持する手段と、を備える空芯ステッピングモータであって、 前記ロータが、 前記各相ステータの各々に対向して配置される円筒状のマグネットと、 各マグネットの反ステータ側に接続された、互いに嵌合し合う円筒状のAスリーブ及びBスリーブと、からなり、 該スリーブの各々に、両者の嵌合相対角度を表示・調整できるパターンが形成されていることを特徴とする。
【0008】
モータの逆起電圧の位相差が所望の値(例えば90°)からずれていた場合、位相差が所望の値となるように一方のスリーブを相対的に回転させる必要がある。本発明によれば、この際に、ズレ量に応じた相対角度にパターンを合わせることにより、スリーブを必要な相対角度分だけ回転させることができる。したがって、位相のズレの調整を効率的に行うことができる。
【0009】
本発明においては、 前記パターンは、 前記スリーブの内の一方に形成された、円周上に並ぶ複数のマークからなる第1のパターンと、 他方のスリーブに形成された、円周上に並ぶとともに、第1のパターンとはピッチの異なる複数のマークからなる第2のパターンと、により形成されており、 前記第1のパターンと第2のパターンとはバーニアの機能を備えていることが好ましい。
【0010】
高分解能が要求される場合、マグネットの1個の着磁幅の円周方向の長さは非常に短くなる。したがって、一方のスリーブを相対回転させてモータの逆起電圧の位相のズレを調整するには、回転量(回転角度)を微妙に調整する必要がある。そこで、バーニアの機能を備えたパターンとすることにより、微調整が可能になる。
【0011】
さらに、本発明においては、 前記第1のパターン及び第2のパターンのマークが、円周上に配置された孔であって、前記両マークの一対の孔のみが重なってピンが挿入可能な孔であることとすれば、各マークの円周方向位置が合うかどうかを確認しやすくなる。また、位置が合った場合に、重なった孔にピンを差せば、両スリーブを位置ずれなく固定できる。なお、位置調整が完了した状態で両スリーブの間を溶接や接着により固定する。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、各相ステータの各々に対向して配置される円筒状のマグネットの内周側に接続された、互いに嵌合し合うスリーブの各々に、両者の嵌合相対角度を表示・調整できるパターンを形成した。モータの逆起電圧の位相差が所望の値(例えば90°)からずれていた場合、位相差が所望の値となるように一方のスリーブを相対的に回転させる必要がある。この際に、ズレ量に応じた相対角度にパターンを合わせることにより、スリーブを必要な相対角度分だけ回転させることができるので、精密な位相のズレを効率的に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る空芯ステッピングモータのロータの構造を示す図であり、図1(A)は斜視図、図1(B)は分解斜視図、図1(C)は嵌合部の断面図である。
【図2】空芯ステッピングモータの構造の一例を示す側断面図である。
【図3】バーニアの機能を説明する図である。
【図4】スリーブ片の相対嵌合角度を調整する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、図2を参照して、空芯ステッピングモータの構造の一例を説明する。
空芯ステッピングモータ1は、筒状のステータ10と、同ステータ10の内周に配置された筒状のロータ20と、同ロータをステータに対して回転可能に支持するベアリング30を備える。
【0015】
ステータ10は、軸方向に並んだA相ステータ10AとB相ステータ10Bを有し、これらはハウジング15に収容されている。各相ステータは、2個のクローポール型磁極片11と、コイル12とを有する。磁極片11は、平らなリング部と、リング部の内周縁から回転軸方向に延びる複数の三角形状の極歯と、を有する。
【0016】
2個の磁極片11は、極歯が向かい合って交互に、かつ、非接触でかみ合うように配置されており、2個の磁極片の間に、コイル収容凹部が形成される。そして、これらの磁極片は、ボビン13によって一体に固定されている。ボビン13は、樹脂を、各相ステータのコイル収容凹部の外面を覆うとともに極歯の間に充填するように成形したものである。ボビン13で覆われた各コイル収容凹部には、銅線が巻き回されてコイル12が形成されている。各コイル12は、ボビン13によって各磁極片11から絶縁されている。
【0017】
ハウジング15は円筒形の部材で、内周面の中央付近に、内側に張り出す隔壁部16が形成されている。各相ステータ10A、10Bは、磁極片11の極歯が1/2ピッチだけ円周方向にずれるように配置されて、この隔壁部16を挟んで軸方向に並んで収容されている。
【0018】
次に、図1及び図2を参照してロータの構造を説明する。
ロータ20は、A相ステータ10A及びB相ステータ10Bの外周面に対向して配置されたリング状のマグネット21と、両マグネット21の外周面が固定される薄肉円筒状のスリーブ22と、を有する。
ロータ20はステータ10の内周に配置され、両端で、ベアリング60によりハウジング15に回転可能に配置されている。
【0019】
図1(B)に示すように、スリーブ22は、軸方向に2分割される一対のスリーブ片A23とスリーブ片B24からなる。スリーブ片A23及びスリーブ片B24の向かい合う端部には、各々外周嵌合部23aと内周嵌合部24aが形成されている。各スリーブ片23、24は、この嵌合部23a、24aが嵌合し合って軸方向に並び、例えば接着により固定される。
【0020】
ところで、ロータの外周面に中心角度が1.2°で着磁部が形成された場合、ロータの半径をrとすると、1個の着磁部の円周方向長さは、(π・r/180)×1.2°となる。ロータの半径rによっては、着磁部の円周方向長さは非常に短くなる。さらに、この長さを検出するために、この長さの数倍程度以上の精度が必要になる。すなわち、両スリーブ片を相対的に回転させる場合に、回転量(回転角度)の非常に微妙な調整が必要となる。
【0021】
そこで、このステッピングモータの、スリーブ片A23の外周嵌合部23a及びスリーブ片B24の内周嵌合部24aには、両スリーブの嵌合相対角度を表示・調整できるパターン30が形成されている。このパターン30は、スリーブ片A23の外周嵌合部23aに形成された、円周方向に並ぶ複数の孔からなる第1のパターン40と、スリーブ片B24の内周嵌合部24aに形成された、円周方向に並ぶ複数の孔からなる第2のパターン50からなる。第1及び第2のパターン40、50の各孔は、図1(C)に示すように、一対の孔のみが重なるように形成されており、重なった状態においてピンが挿通可能となっている。
なお、スリーブ片A23の外周嵌合部23aに形成されている切り欠き23bは、両スリーブ片を固定する際の接着剤溜りである。
【0022】
第1のパターン40と第2のパターン50とは、バーニアの機能を持つように設定されている。バーニアの機能を持たせることにより、回転量(回転角度)を微妙に調整できる。
【0023】
図3は、バーニアの機能を説明する図である。
つまり、外周嵌合部23aに形成された第1のパターン40は、バーニアの主尺となるパターンであり、孔40−0〜40−nが等間隔で形成されている。そして、内周嵌合部24aに形成された第2のパターン50は、バーニアの副尺となるパターンであり、第1のパターン40の(n−1)の目盛りをn等分した孔50−0〜50−nが形成されている。主尺の孔の間隔をD、副尺の孔の間隔をdとすると、
d={(n−1)/n}・D
となる。n=10の場合、
d=0.9D
となる。
【0024】
次に、このロータのスリーブ片の相対嵌合角度を調整する方法の一例を説明する。
図4は、スリーブ片の相対嵌合角度を調整する方法を示すフローチャートである。
まず、S1において、着磁装置によってマグネット21を着磁する。着磁後、2個のマグネット21を各々円筒状のスリーブ片23、24に固定し、さらに、このスリーブ片23、24を軸方向に並べて一時的に固定する。この際、マグネット21の各々は同軸上に配置される。そして、S2において、モータの逆起電圧の実際の位相差を測定する。
【0025】
測定の結果、S3において、位相差が所望の値(90°)であるかどうかを判定し、位相差が90°であれば、S4に進んで、両スリーブ片23、24を接着又は溶接により固定する。しかし、前述のように、各部品の寸法精度やマグネットの着磁角度の精度、磁気回路上のパワーバランスにより、位相角度が90°から少しズレている場合がある。そこで、S3において、位相差が90°からずれていれば、ズレ量に応じた相対嵌合角度を求め、S7において、パターン30を用いて必要な角度だけスリーブ片B24を相対回転させる。回転後、両スリーブ片23、24の嵌合部23a、24aの孔は重なっているので、両嵌合部の所定の孔の円周方向位置が一致したかどうかを確認しやすい。その後、S2に戻って、モータの逆起電圧の位相差を測定する。そして、S3において位相差が90°であるかどうかを判定し、90°であれば、S4に進んで両パターン40、50の孔にピンを挿入し、接着又は溶接により両スリーブ片23、24を固定する。この際、ピンを挿入して固定することにより、両スリーブ片23、24を位置ずれなく固定できる。
【符号の説明】
【0026】
1 空芯ステッピングモータ
10 ステータ 11 磁極片
12 コイル 13 ボビン
15 ハウジング 16 隔壁部
20 ロータ 21 マグネット
22 スリーブ 23、24 スリーブ片
30 パターン
40 第1のパターン 50 第2のパターン
60 ベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に配置された、ヨーク及びコイルを含むA相ステータとB相ステータとからなる筒状のステータと、
円筒状のマグネットを含む筒状のロータと、
前記ロータを前記ステータに対して回転可能に支持する手段と、
を備える空芯ステッピングモータであって、
前記ロータが、
前記各相ステータの各々に対向して配置される円筒状のマグネットと、
各マグネットの反ステータ側に接続された、互いに嵌合し合う円筒状のAスリーブ及びBスリーブと、からなり、
該スリーブの各々に、両者の嵌合相対角度を表示・調整できるパターンが形成されていることを特徴とする空芯ステッピングモータ。
【請求項2】
前記パターンは、
前記スリーブの内の一方に形成された、円周上に並ぶ複数のマークからなる第1のパターンと、
他方のスリーブに形成された、円周上に並ぶとともに、第1のパターンとはピッチの異なる複数のマークからなる第2のパターンと、
により形成されており、
前記第1のパターンと第2のパターンとはバーニアの機能を備えていることを特徴とする請求項1に記載の空芯ステッピングモータ。
【請求項3】
前記第1のパターン及び第2のパターンのマークが、円周上に配置された孔であって、前記両マークの一対の孔のみが重なってピンが挿入可能な孔であることを特徴とする請求項2に記載の空芯ステッピングモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−226923(P2010−226923A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74028(P2009−74028)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(593137554)株式会社東京マイクロ (23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)