説明

空調装置の効率改善装置及び方法

【課題】地中温を利用して既設のヒートポンプ型の空調装置の効率を改善するための、構造が簡単で設置も容易な補助装置を提供する。
【解決手段】地中に埋設された熱交換器(地中熱交換器)と、地上に設置されて外気との間で熱交換を行う熱交換器(外気熱交換器)と、この両熱交換器の間で熱媒体を循環させるポンプと、空調装置の屋外器に設けられているファンの運転停止を検出する動作検出器と、外気熱交換器の近傍で外気温を検出する外気温センサと、地中熱交換器から流出する熱媒体の温度を検出する媒体温センサと、これらのセンサで検出された媒体温が設定された温度差を超えて外気温より低いとき(冷房時)又は高いとき(暖房時)に動作検出器と連動してポンプの運転停止を行う制御器とを備える。外気熱交換器は、効率を改善しようとする空調装置の屋外器の外気の吸入側に設置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、屋外に設置した熱交換器(屋外器)と室内に設置した熱交換器(室内器)との間で冷媒を循環する冷凍サイクルにより室内の冷暖房を行うヒートポンプ型の空調装置の効率を地中と外気との温度差を利用して改善する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
室内の冷暖房を行う空調装置として、ヒートポンプ型の空調装置が広く利用されている。ヒートポンプは、空気と冷媒との間で熱交換を行う蒸発器と凝縮器とを、圧縮機を設けた配管と膨張弁を設けた配管との2本の配管で接続して、蒸発器→圧縮機→凝縮器→膨張弁→蒸発器と循環する冷媒の循環路を形成したものである。低圧側の蒸発器では、低温側の外気から熱を吸収して冷媒が気化し、高圧側の凝縮器では、高温側の外部に熱を放出して冷媒が液化する。これにより、冷房時には、低温の室内から熱を奪って高温の外気に放出することによって室内を冷やし、暖房時には、低温の外気から熱を奪って高温側となる室内に熱を放出することにより、室内を暖める。
【0003】
一方、地中の温度(以下、「地中温」又は「地熱」と言う。)は、地上の外気温に比べて変動が小さく、冬は外気温よりも高く、夏は外気温よりも低い。外気温に比べて冬は暖かく夏は冷たい地中温を地上の建築物の冷暖房に利用しようとする提案は、従来からなされている。
【0004】
例えば特許文献1には、地中に埋設した貯水器と、熱交換器と、貯水器の貯水を循環させる循環手段とを備えた地熱利用空調システムが提案されている。貯水循環手段は、貯水器に貯留された貯水を循環パイプを経て循環させ、熱交換器は、当該循環パイプを流れる貯水と建物外から導入される外気との間で熱交換を行って、熱交換後の外気を建物内に供給する。貯水は、地熱によって暖められ又は冷やされ、熱交換機は、暖められ又は冷やされた貯水により、建物内に供給される外気を暖め又は冷やして、建物内を空調する。
【0005】
また特許文献2には、圧縮式の空気熱源ヒートポンプで熱源となる排気から回収した熱で外気を暖め又は冷やして室内に給気する空調装置において、空気熱源ヒートポンプの外気が通風する側の熱交換器の風上に、地中熱交換器で温調した熱媒にて熱交換する水コイルを設けた地熱利用空調装置が提案されている。この地熱利用空調装置は、冷房と暖房時で、空気熱源ヒートポンプの配管を切替える構造で、地熱として深さ3m位の地表近くの熱を利用している。特許文献2記載の地熱利用空調装置は、特許文献1記載の地熱利用空調システムに排気から回収した熱を給気に熱交換する空気熱源ヒートポンプを付加した空調装置であると言える。
【0006】
一方、本願出願人は、特許文献3において、地中に打込まれたコンクリート杭によって地熱を収集して、融雪や暖房の熱源として利用する技術を提案している。すなわち、杭状のコンクリートブロック内に、杭の長手方向に細長い長尺容器を形成して、地熱によって暖められ又は冷やされた長尺容器内の水を熱交換器に循環させる。この発明では、コンクリート杭を地中深くまで容易に打込むことができ、一年を通じて安定した温度の地熱を収集できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−343883号公報
【特許文献2】特開2007−40635号公報
【特許文献3】特開2009−97831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2に記載されている空調装置は、地中に埋設した熱交換器(以下、「地中熱交換器」と言う)と室内に供給される空気の流路に設置した熱交換器(以下、「給気側熱交換機」と言う)との間で熱媒体(水)を循環させて、当該熱媒体を介して給気側熱交換機に導かれた地中温で室内に供給される空気を冷却又は暖房するというものである。このような地中温を直接利用する空調装置は、省エネルギーや地球温暖化(現在使用されている冷媒の殆どは、地球温暖化の原因物質として将来的にその生産ないし使用が制限されているものである。)の観点から、その使用の促進が望まれるものである。
【0009】
しかし、現実にはヒートポンプ型の空調装置が広く普及しており、一般に空調装置の製品寿命は、テレビなどの電子機器に比べて長いため、今後もこれらの既設の空調装置が長期に亘って使用されるものと考えられる。そうであれば、ヒートポンプ型の既設の空調装置の効率を改善すること、特に簡単な装置で既設の空調装置のエネルギー効率を改善することは、資源の保護と地球温暖化の防止の観点から極めて重要であると考えられる。
【0010】
この発明は、従来装置のように地中温を利用して室内空気又は室内に供給される空気を直接冷やし又は暖めるという技術手段に代えて、地中温を利用して既設のヒートポンプ型の空調装置の効率を改善するための、構造が簡単で設置も容易な補助装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の空調装置の効率改善装置は、地中に埋設された熱交換器(地中熱交換器)21と、地上に設置されて外気との間で熱交換を行う熱交換器(以下、「外気熱交換器」と言う。)22と、この両熱交換器21、22の間で熱媒体(通常は水)を循環させるポンプ25とを備えている。この発明の装置は、更に、ヒートポンプ型の空調装置の屋外器12に設けられているファン14の運転停止を検出する動作検出器ないし動作信号受信器(以下、両者を含めて「動作検出器」と言う。)18と、外気熱交換器22の近傍で外気温を検出する外気温センサ29と、地中熱交換器21から流出する熱媒体の温度を検出する媒体温センサ28と、これらのセンサで検出された媒体温が設定された温度差を超えて外気温より低いとき(冷房時)又は媒体温が設定された温度差を超えて外気温より高いとき(暖房時)に動作検出器18と連動してポンプ25の運転停止を行う制御器30とを備えている。
【0012】
この発明の効率改善装置の外気熱交換器22は、効率を改善しようとする空調装置の屋外器12のファン14による外気の吸入側、すなわち屋外器の熱交換器13を通る外気流路の上流側に設置される。効率を改善しようとする空調装置が冷暖房兼用のものであれば、この発明の装置の制御器30は、媒体温が設定された温度差を超えて外気温より低くなったとき、及び媒体温が設定された温度差を超えて外気温より高くなったときに動作検出器18で検出される屋外器のファン14の運転停止と連動してポンプ25を運転停止する。
【0013】
外気温と媒体温が等しいときは、ポンプ25を運転しても空調装置の屋外器12に流入する外気の温度は変わらない。従って、空調装置の効率はなんら改善されないが、ポンプ25を運転する動力が損失となる。制御器に設定する上記温度差は、外気熱交換器22に熱媒体を流通させることによる空調装置1の消費電力の低減量がポンプ25を運転するのに必要な電力より大きくなる温度差である。
【0014】
室内の冷房を行っているとき、媒体温が外気温より十分(設定された温度差以上)低ければ、ポンプ25を運転することによって屋外器12を流れる外気が冷やされるから、室内と屋外器を通る外気との温度差が小さくなり、空調装置の負荷が低減して、ポンプ25で消費される電力以上に空調装置1で消費される電力が低減する。一方、暖房時においては、外気温に比べて媒体温が十分に(設定された温度差以上)高いとき、ポンプ25を運転することにより、屋外器12を流れる外気の温度が上昇するので、室内と外気との温度差が小さくなり、空調装置で消費される電力がポンプ25を運転するのに必要な電力以上に低減される。
【0015】
屋外器12の空気流路に外気熱交換器22を設置することにより、屋外器の空気流路の抵抗が増加して、ファン14の運転負荷ないし屋外器の熱交換器13の熱交換効率が低下すると考えられる。しかし、空調装置は、一般に人が快適と感じる温度範囲では使用されることがない。地中温は、通常15℃前後であり、人が最も快適と感じる温度に近い。従って、外気が地中温に近いときは空調装置が使用されることがなく、一般的には地中温と外気温との間にある程度の温度差があるときに空調装置が使用されると考えられるので、そのような温度差のある状態では、外気熱交換器22を設置することに伴う外気の流路抵抗の増大による損失よりも、外気が地中温で冷やされ又は暖められることによる効率改善効果の方が大きい。
【0016】
効率を改善しようとする空調装置の屋外器の運転停止は、当該屋外器の吸気側に設置した外気熱交換器22に風速センサを設けることによって検出できるが、屋外器のファン14の運転停止信号を信号線37を通して受信する構造とするのが簡単である。
【発明の効果】
【0017】
この発明の効率改善装置を設置することにより、既設のヒートポンプ型の空調装置のエネルギー効率を改善することができる。特に、冷房又は暖房の期間が長い地域において、空調装置の効率改善によるエネルギー消費量の低減効果が大きい。また、この発明の効率改善装置は、既設の空調装置に手を加えることなく設置することができ、特に実施例に示すようなコンクリート杭型の地中熱交換器を利用するものは、地中への地中熱交換器の設置が容易で、設備コストも安価で耐久性にも優れているという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施例装置を空調装置に付設した状態を示す図
【図2】第2実施例装置を空調装置に付設した状態を示す図
【図3】外気温と地中温の温度差を説明する模式的な図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、この発明の第1実施例装置を空調装置に設置した状態を示すブロック図である。図において、1はヒートポンプ型の空調装置であり、11は室内器、12は屋外器、13は屋外器内の熱交換器、14は屋外器12に外気を流通させるファン、15はファン14を回転駆動するファンモータ、16及び17は屋外器と室内器との間に配置された冷媒配管である。
【0020】
2はこの発明の効率改善装置で、21はコンクリート杭型の貯水式地中熱交換器、22は外気熱交換器、23及び24は地中熱交換器21と外気熱交換器22とを接続して熱媒体の循環流路を形成している熱媒体配管、25は熱媒体を循環させるポンプ、26は当該ポンプを回転駆動するポンプモータ、27は熱媒体の流れの方向を切り換える切換弁、28は地中熱交換器21からの熱媒体の流出側配管に設けた地中温センサ、29は外気熱交換器22の近傍に設けた外気温センサ、30は制御器である。
【0021】
第1実施例装置の地中熱交換器21は、特許文献3で提案したコンクリート杭型の貯水式の熱交換器である。ここで貯水式の熱交換器とは、躯体内部に貯水空間(熱媒体容器)32が形成されている熱交換器である。貯水空間32に差し込まれた2本の熱媒体配管の一方24は、貯水空間の上部に開口し、他方23は当該空間の底部に開口している。
【0022】
貯水式の地中熱交換器21から低温の熱媒体を取り出すときは、貯水空間の底部に開口している熱媒体配管23から取り出し、高温の熱媒体を取り出すときは、貯水空間の上部に開口している熱媒体配管24から熱媒体を取り出す。切換弁27は、この熱媒体の取り出し方向を低温の場合と高温の場合とで切り換えるためのもので、空調装置1が冷房運転をするときは、貯水空間の底部に開口している熱媒体配管23がポンプ25の吸入口と接続されるように切換弁27を切り換え、暖房運転をするときは、貯水空間の上部に開口する熱媒体配管24がポンプ25の吸入口に接続されるように切換弁27を切り換える。切換弁27の切り換えは、空調装置1の暖房と冷房の運転切換に連動して自動的に切り換るようにするのが便利である。一方、夏季と冬季の前後に人手で切り換える方法にすれば、装置を安価にでき、作業負担も軽微である。
【0023】
地中熱交換器21のコンクリート杭には、地表から1〜1.5mの範囲に断熱材33を設けている。地中温は、図3に概念的に示すように、地表からある程度の深さにならないと一定しない。すなわち、地表近くの地中温は、外気温と同様に季節により大きく変動し、外気温より更に温度変化が大きいこともあるので、地中熱交換器21内の熱媒体に温度変化の少ない地中温を取り込むために、地表近くを断熱構造とした地中熱交換機とするのが、この発明の装置による空調装置の効率改善効果を高める上で極めて有効である。
【0024】
地表近くを断熱構造とするには、貯水空間32を成型する中子型の地表近くとなる部分に断熱材を装着してコンクリート杭31を成型する方法、躯体内に配置する螺旋状の熱媒体配管36の地表近くとなる部分に断熱材を巻いてコンクリート杭を成型する方法、コンクリート杭31の地表近くとなる部分に断熱材33を巻いて打込む方法、コンクリート製やプラスチック製の躯体31を成型する際にその地表近くとなる部分に発泡などによる断熱空間を形成する方法などが可能である。
【0025】
制御器30は、地中温センサ28、外気温センサ29及び屋外器12のファンモータ回路に設置した電流検出器18の信号を受けてポンプモータ26の運転停止を制御している。制御器30には温度差設定器34が設けられている。空調装置1の冷房運転時においては、制御器30は、地中温センサ28の検出温度が外気温センサ29の検出温度より設定された温度差以上低く、かつ電流検出器18がファンモータ15の運転を検出したとき、ポンプモータ26を運転する。ポンプモータ26が運転されると、地中熱交換器21から地中温によって冷やされた熱媒体が取り出されて、外気熱交換器22に供給され、空調装置の屋外器12を流れる外気が冷やされて、室温と外気温との温度差が小さくなり、空調装置1の熱効率が改善される。
【0026】
一方、暖房時には、制御器30は、地中温センサ28の検出温度が外気温センサ29の検出温度より設定された温度差以上高く、かつ電流検出器18がファンモータ15の運転を検出したとき、ポンプモータ26を運転する。ポンプモータ26が運転されると、地中熱交換器21から地中温によって暖められた熱媒体が取り出されて、外気熱交換器22に供給され、空調装置の屋外器12を流れる外気が暖められて、室温と外気温との温度差が小さくなり、空調装置1の熱効率が改善される。
【0027】
図2は、この発明の第2実施例装置を空調装置に設置した例を模式的に示す図である。図において、第1実施例で説明した装置と同一の装置ないし部材については、図1と同一の符号を付して、その説明を省略する。第2実施例装置では、通水式の地中熱交換器を用いている点、及びその結果として切換弁27が不要である点が第1実施例装置と異なる。
【0028】
すなわち、第2実施例装置の地中熱交換器21は、コンクリート杭31内部に熱媒体配管36を螺旋状に配置した構造のものである。熱媒体は、低温を取り出すときと高温を取り出すときとに関係なく、地中熱交換器21内の熱媒体配管36を同一方向に流れる。従って、その流出側にポンプ25の吸入口が常に接続され、当該吸入口部分に媒体温センサ28が設置される。低温の熱媒体取り出し時と高温の熱媒体取り出し時に熱媒体流路を切り換える必要がないので、切換弁は設けられていない。第2実施例装置の運転停止及び作用は、第1実施例装置と同様であるので、以下、その説明を省略する。
【0029】
図1、2に示したようなコンクリート杭型の地中熱交換器21を用いることにより、建設機械のアースオーガや杭打機を用いて、地中熱交換器21を地中深くまで容易に打ち込むことができ、深い位置にある温度の安定した地中熱を利用して空調装置の熱効率を改善することができる。特に、図1に示す構造の地中熱交換器21は、特許文献3に記載されているように、より地中深くまで打ち込むことができ、かつ貯留される熱媒体の量も多いため、熱媒体に蓄積される地中温も大きく、この発明の効率改善装置における地中熱交換機として優れている。
【符号の説明】
【0030】
1 空調装置
2 効率改善装置
12 屋外器
14 ファン
18 動作検出器
21 地中熱交換器
22 外気熱交換器
25 ポンプ
28 媒体温センサ
29 外気温センサ
30 制御器
31 コンクリート杭
32 貯水空間
33 断熱材
34 温度差設定器
36 熱媒体配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された地中熱交換器と、外気との間で熱交換を行う外気熱交換器と、この両熱交換器の間で熱媒体を循環させるポンプと、ヒートポンプ型の空調装置の屋外器に設けられているファンの運転停止を検出する動作検出器と、前記外気熱交換器の近傍で外気温を検出する外気温センサと、地中熱交換器から流出する熱媒体の温度を検出する媒体温センサと、これらのセンサで検出された外気温と媒体温の温度差が設定された温度差より大きいときに前記動作検出器と連動して前記ポンプの運転停止を行う制御器とを備えている、空調装置の効率改善装置。
【請求項2】
前記地中熱交換器が、内部に前記熱媒体の貯留室ないし流路を設けたコンクリート杭である、請求項1記載の空調装置の効率改善装置。
【請求項3】
前記地中熱交換機が、地表近くの部分を断熱構造とした地中熱交換機である、請求項1記載の空調装置の効率改善装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の空調装置の効率改善装置の外気熱交換機をヒートポンプ型の空調装置の屋外器に設けられているファンによる外気の吸入側に設置することを特徴とする、空調装置の効率改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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