説明

空調装置

【課題】外気導入に伴う冷凍サイクル内の冷媒流れの乱れを防止することができる空調装置を提供すること。
【解決手段】前回の目標回転数IVOn-1に目標増加回転数Δfを加算して仮の目標増加回転数IVOfを算出する(ステップS207)。そして、車室外空気の温度TAMが車室内空気の温度TRよりも低い場合には(ステップS208でYes)、外気導入増加率RIに応じた補正係数CAを算出する(ステップS210)。次に、基準増加回転数に補正係数CAを乗ずることで、増加補正回転数Δfrsを算出し、さらに、外気導入の割合が増加したときからの経過時間TCに応じて増加補正回転数Δfrsを減少補正する(ステップS211)。最後に、仮の目標回転数IVOfに増加補正回転数Δfrsを加えて真の目標回転数IVOを算出する(ステップS212)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外気導入切り替えに起因する冷媒流れの乱れを防止するための回転数補正機能を備えた空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、冷房制御初期は、車室内温度を可及的速やかに快適温度領域に到達させるために空調ケース内に吸込む空気を車室内空気とする内気導入に切り替えている。そして、車室内温度が快適温度領域に到達し、空調負荷が低減したときには、空調ケースに吸い込む空気を車室外空気とする外気導入に切替えたりあるいは外気導入の割合を増加させるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−332710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
外気導入に切り替えられたとき、あるいは外気導入の割合を増加させたときの車室外温度が車室内温度に対して大幅に低い場合には、空調ケース内に吸い込まれる空気の温度が急激に低下し、冷却用熱交換器である蒸発器内の冷媒蒸発量が著しく低下することで蒸発器出口側の冷媒温度が低下する。
【0004】
また、蒸発器出口側の空気温度が低下することで、圧縮機の回転数が低回転数側に調整されるのであるが、蒸発器出口側の空気温度が低下してから圧縮機の回転数が減少制御されるまでには多少の時間差が生じる。
【0005】
圧縮機の回転数が減少制御され始めるまでの間には、蒸発器出口側の冷媒温度が低下することによって温度式膨張弁の弁開度が拡大し、これによって蒸発器側への冷媒流入量が増大して圧縮機への冷媒戻りが増大する。
【0006】
蒸発器側に液冷媒が集中した状態で圧縮機の回転数が減少制御されると、圧縮機からの吐出冷媒量が減少することとなり、凝縮器側への冷媒流入量が減少する。そうすると、温度式膨張弁の弁開度を開いていても蒸発器側に流入する冷媒が不足し、この結果、圧縮機に吸引される冷媒量が不足する。冷媒中には、圧縮機の可動部を潤滑するための潤滑油が含まれているため、吸引される冷媒量の不足によって圧縮機が貧潤滑となり潤滑不良を起こすことがある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、外気導入に伴う冷凍サイクル内の冷媒流れの乱れを防止することができる空調装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明では、空調ケースと、空調ケースに吸い込まれる空気のうち車室外空気と車室内空気との割合を調整する導入空気調整手段と、空調ケース内に設けられ、空調ケース内部に導入した空気を冷却する冷却用熱交換器と、冷却用熱交換器とともに冷凍サイクルを構成し、回転駆動により冷凍サイクル内の冷媒を循環させる圧縮機と、冷却用熱交換器の実能力を検出する実能力検出手段と、冷却用熱交換器の目標能力を決定する目標能力決定手段と、目標能力決定手段が決定した目標能力に対する実能力検出手段が検出した実能力の偏差に基づいて圧縮機の目標回転数を決定する回転数決定手段と、車室内空気の温度を検出する内気温検出手段と、車室外空気の温度を検出する外気温検出手段と、外気温検出手段で検出された車室外空気の温度が内気温検出手段で検出された車室内空気の温度よりも低いときに導入空気調整手段により空調ケースに吸い込まれる車室外空気の割合が増加したときには、圧縮機の回転数を回転数決定手段で決定された目標回転数に増加補正回転数を加算することで増加補正を行う回転数補正手段と、回転数補正手段で増加補正された後の目標回転数に基づいて圧縮機を回転駆動する駆動手段とを備えたことを特徴としている。
【0009】
請求項1の発明によれば、空調ケースに吸い込まれる車室外空気の割合が増加したときには、圧縮機の回転数を回転数決定手段で決定された目標回転数よりも高い回転数に増加補正される。従って、車室外空気の割合が増加することに起因する冷凍サイクル中の冷媒流れの乱れが抑えられることで、圧縮機へ吸引される冷媒が不足することがない。このため、圧縮機が貧潤滑に陥ることがなく圧縮機の潤滑状態を良好に保つことができる。
【0010】
請求項2の発明では、空調ケースと、空調ケースに吸い込まれる空気のうち車室外空気と車室内空気との割合を調整する導入空気調整手段と、空調ケース内に設けられ、空調ケース内部に導入した空気を冷却する冷却用熱交換器と、冷却用熱交換器とともに冷凍サイクルを構成し、回転駆動により冷凍サイクル内の冷媒を循環させる圧縮機と、冷却用熱交換器の実能力を検出する実能力検出手段と、冷却用熱交換器の目標能力を決定する目標能力決定手段と、目標能力決定手段が決定した目標能力に対する実能力検出手段が検出した実能力の偏差に基づいて圧縮機の目標回転数を決定する回転数決定手段と、圧縮機の最低回転数を決定する最低回転数決定手段と、車室内空気の温度を検出する内気温検出手段と、車室外空気の温度を検出する外気温検出手段と、外気温検出手段で検出された車室外空気の温度が内気温検出手段で検出された車室内空気の温度よりも低いときに導入空気調整手段により空調ケースに吸い込まれる車室外空気の割合が増加した場合には、最低回転数決定手段で決定された最低回転数に増加補正回転数を加算することで増加補正を行う回転数補正手段と、回転数決定手段で決定された目標回転数と回転数補正手段で増加補正された後の最低回転数とのうち高いほうの回転数を圧縮機の回転数として選択する回転数選択手段手段と、回転数選択手段で選択された圧縮機の回転数に基づいて圧縮機を回転駆動する駆動手段とを備えたことを特徴としている。
【0011】
圧縮機の回転数が最低回転数に設定されているときには、サイクル中の冷媒流量が低量となるため、空調ケースに吸い込む空気の温度変動に対してサイクル中の冷媒流れが乱れ易い。従って、空調ケースに吸い込まれる車室外空気の割合が増加したときには、圧縮機の最低回転数を増加補正して冷媒流量を増加させることで、サイクル中の冷媒流れの乱れを防止して圧縮機の潤滑を確実に行うことができる。
【0012】
請求項3の発明では、回転数補正手段は、空調ケースに吸い込まれる車室外空気の増加割合に応じて増加補正回転数を決定することを特徴としている。
【0013】
車室外空気の増加に伴って、冷却用熱交換器出口側の冷媒温度の低下度合いが大きくなり、これに伴って冷凍サイクル中の冷媒流れが不安定となり易くなる。従って、本構成のように、車室外空気の増加割合に応じて増加補正回転数を決定することにより、適切に冷媒流れの乱れを抑えることができる。
【0014】
請求項4の発明では、回転数補正手段は、空調ケースへ吸い込まれる車室外空気の割合が増加したときからの経過時間に応じて増加補正回転数を減少補正することを特徴としている。
【0015】
請求項4の発明によれば、圧縮機の回転数を減少補正することによって、冷凍サイクル中の冷媒流れの安定化を図りつつ、冷却用熱交換器から吹き出される空気の温度変動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<第1の実施形態>
本実施形態は、本発明に係る冷凍サイクル装置をハイブリッド自動車用の空調装置に適用したものであって、図1はハイブリッド自動車の概要示す図であり、図2は本実施形態に係る空調装置の模式図である。
【0017】
ハイブリッド自動車は、図1に示すように、ガソリン等の液体燃料を爆発燃焼させて動力を発生させる走行用内燃機関をなすエンジン1、走行補助用電動機機能及び発電機機能を備える電動発電手段としての走行補助用の電動発電機2、エンジン1への燃料供給量や点火時期等を制御するエンジンECU3、電動発電機2やエンジンECU3等に電力を供給する二次電池であるバッテリ4、電動発電機2の制御及び無段変速機5や電磁クラッチ6の制御を行うと共にエンジンECU3に制御信号(例えば、エンジン1の回転数やトルクの目標値等)を出力するハイブリッド電子制御装置(走行用ECU)7を備えている。
【0018】
そして、ハイブリッドECU7は、電動発電機2及びエンジン1のいずれの駆動力を駆動輪に伝達するかの駆動切替を制御する機能、及び高電圧バッテリ4aの充放電を制御する機能を備えている。具体的には、以下のような制御を行う。
【0019】
(1)車両が停止しているとき、つまり車速が約0km/hのときはエンジン1を停止させる。
【0020】
(2)走行中は、減速時を除き、エンジン1で発生した駆動力を駆動輪に伝達する。なお、減速時は、エンジン1を停止させて電動発電機2にて発電してバッテリ4に充電する。
【0021】
(3)発進時、加速時、登坂時及び高速走行時等の走行負荷が大きいときには、電動発電機2を電動モータとして機能させてエンジン1で発生した駆動力に加えて、電動発電機2に発生した駆動力を駆動輪に伝達する。なお、本実施形態では、車速及びアクセルペダル踏み込み量から走行負荷を演算する。
【0022】
(4)バッテリ4aの充電残量が充電開始目標値以下になったときには、エンジン1の動力を電動発電機2に伝達して電動発電機2を発電機として作動させてバッテリ4の充電を行う。
【0023】
(5)車両が停止しているときにバッテリ4の充電残量が充電開始目標値以下になったときには、エンジンECU3に対してエンジン1を始動する指令を発するとともに、エンジン1の動力を電動発電機2に伝達する。
【0024】
因みに、充電開始目標値とは、充電を開始する残充電量のしきい値であり、満充電状態を100とした百分率にて示される。
【0025】
また、エンジンECU3は、ハイブリッドECU7からの制御信号に基づいて、エンジン1の回転数やトルクが目標値となるように、かつ、高い燃焼効率が得られるように、燃料供給量や点火時期等を最適制御する。
【0026】
電動発電機2は、バッテリ4aから電力を供給されたときは動力を発生する電動機として機能し、エンジン1等により駆動されたときは発電を行う発電機として機能するものである。
【0027】
また、本実施形態ではバッテリ4は、ニッケル水素蓄電池からなるもので、高電圧(例えば、約288V)のメインバッテリ4a及び低電圧(例えば、約12V)のサブバッテリ4bの2種類から構成されている。
【0028】
因みに、走行用インバータ8は電動発電機2とメインバッテリ4aとの間で授受される電力の電圧及び電流の周波数を変換する周波数変換器であり、DC/DCコンバータ9はメインバッテリ4aとサブバッテリ4bとの間で授受される電力の電圧を変換する変圧器である。
【0029】
無段変速機5はエンジン1及び電動発電機2に発生した駆動力の減速比を変換する変速機であり、電磁クラッチ6は駆動力を断続可能に伝達するものである。
【0030】
また、空調装置は、車室内に搭載され室内ユニット10、及び冷凍サイクル装置20、及び室内ユニット10内の機器及び冷凍サイクル装置20の電動圧縮機21等を制御するエアコンECU11等からなる自動制御方式のものである。
【0031】
室内ユニット10は、図2に示すように、車室内の前方側に配置されて空気通路を形成する空調ケース12、この空調ケース12内に空気を送風する遠心式の送風機13、空調ケース12内を流れる空気を冷却する蒸発器25、エンジン1等の車両で発生する廃熱を熱源として空調ケース12内を流れる空気を加熱するヒータ14、及びヒータ14を迂回して下流側に流れる冷風量とヒータ14により加熱されて下流側に流れる温風量とを調節するエアミックスドア15等から構成されたものでる。
【0032】
そして、空調ケース12の空気流れの最上流側には、空調ケース12内に導入する車室内空気と車室外空気との割合を調節する内外気切替ユニット16が設けられている。この内外気切替ユニット16は、導入空気調整手段として機能する。一方、空調ケース12の空気流れの最下流側には、室内に吹き出す空気の吹出モードを切り換える吹出モード切替装置17が設けられている。
【0033】
なお、吹出モード切替装置17は、室内の窓ガラスに向けて空気を吹き出すデフロスタ開口部、乗員の上半身側に向けて空気を吹き出すフェイス開口部、及び乗員の下半身側に向けて空気を吹き出すフット開口部等を切り換え開閉することにより、吹出モードを切り換えるものである。
【0034】
冷凍サイクル装置20は、冷媒を吸入圧縮する圧縮機21a、圧縮された冷媒と外気とを熱交換して冷媒を冷却する凝縮器22、凝縮された冷媒を気相冷媒液相冷媒とに分離して液相冷媒を余剰冷媒として蓄えるとともに液相冷媒を排出する気液分離器23、冷媒を減圧膨張させる膨張弁24、及び減圧膨張された冷媒と室内に吹き出す空気とを熱交換して室内に吹き出す空気を冷却する冷却用熱交換器として機能する蒸発器25等から構成されたものである。なお、膨脹弁24として、本実施形態では、蒸発器25出口側における冷媒過熱度が所定値となるように絞り開度を制御する、いわゆる温度式膨脹弁を採用している。
【0035】
ところで、本実施形態に係る圧縮機21aは、電動モータ21bにより駆動されるとともに電動モータ21bに一体化されており、電動モータ21bの回転数、つまり圧縮機21aの回転数は、モータハウジング21cに一体化されたインバータ方式の駆動制御回路21dにより制御される。
【0036】
なお、駆動制御回路21dは、高電圧バッテリ4aから供給される直流電流を所定周波数の交流電流に変換して電動モータ21bの回転数を制御する。
【0037】
また、電動モータ21bは、モータハウジング21cの内壁に固定されたステータ21e、及びステータ21e内で回転するロータ21f等からなるもので、本実施形態では、ステータ21eをコイルとし、ロータ21fをマグネットとしたDCブラシレスモータを採用しているとともに、モータハウジング21c内を冷媒通路とすることにより電動モータ21bの冷却を行っている。
【0038】
次に、図3に基づいて制御系について述べる。エアコンECU11、ハイブリッドECU7及びエンジンECU3は相互に通信可能になっており、本実施形態では、所定のプロトコルに基づいたデータ通信により通信している。
【0039】
そして、エアコンECU11には、ハイブリッドECU7から出力される通信信号、車室内前面に設けられたコントロールパネル11aに設けられたスイッチ類からのスイッチ信号、及びセンサ類からのセンサ信号が入力される。
【0040】
ここで、コントロールパネル11aのスイッチとは、冷凍サイクル装置20、つまり電動圧縮機21の起動及び停止を指令するためのエアコンスイッチ、吸込口モードを切り替えるための吸込口切替スイッチ、車室内の温度を所望の温度に設定するための温度設定スイッチ、送風量を切り替えるための風量切替スイッチ、及び吹出口モードを切り替えるための吹出口切替スイッチ等である。
【0041】
また、各センサとは、車室内空気の温度TR(内気温TR)を検出する内気温センサ11b(内気温度検出手段)、車室外空気の温度TAM(外気温TAM)を検出する外気温センサ11c(外気温検出手段)、車室内に照射される日射量TSを検出する日射センサ11d、蒸発器25を通過した直後の空気温度TE(エバ後温度TE)を検出する蒸発器吹出空気温度センサ11e、ヒータ14に流入する冷却水の温度TW(冷却水温TW)を検出する水温センサ11f、及び車両の走行速度SVを検出する車速センサ11g等がある。
【0042】
そして、エアコンECU11の内部には、CPU(中央演算装置)、ROM(読込専用記憶装置)及びRAM(読込書込可能記憶装置)等からなるマイクロコンピュータ11hが設けられ、各センサ11b〜11gからのセンサ信号は、エアコンECU11内の入力回路11iによってA/D変換等された後にマイクロコンピュータ11hに入力されるように構成されている。
【0043】
また、マイクロコンピュータ11hから出力された制御信号はエアコンECU11内の出力回路11jによってD/A変換や増幅等された後に、エアミックスドア15等を駆動する各種アクチュエータM1〜M4に駆動信号として出力される。
【0044】
以下、エアコンECU11による空調制御について図4を参照して説明する。イグニッションスイッチが投入されてエアコンECU11に電源が供給されると、各パラメータ等を初期化(イニシャライズ)する(ステップS1)。
【0045】
次に、温度設定スイッチや内気温センサ11b、外気温センサ11c、日射センサ11d、蒸発器吸込空気温度センサ74、蒸発器吹出空気温度センサ11e、水温センサ11f、及び車速センサ11gの信号を読み込んで(ステップS2、ステップS3)、ROMに記憶された下記の数式1に基づいて、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度TAOを算出する(ステップS4)。
(数式1)
TAO=Kset×Tset−KR×TR−KAM×TAM−KS×TS+C
ここで、Tsetは温度設定スイッチにて設定した設定温度である。また、Kset、KR、KAM及びKSはゲインで、Cは補正用の定数である。
【0046】
次に、ROMに記憶された特性図から、目標吹出温度TAOに対応するブロワ電圧、つまり送風機13のファンモータへの印加電圧)を決定する(ステップS5)。具体的には、ブロワ電圧は、目標吹出温度TAOと所定目標吹出温度TAOとの偏差の絶対値が大きくなるほど高い値に選定され、目標吹出温度TAOと所定目標吹出温度TAOとの偏差の絶対値が小さくなるほど低くい値が選定される。
【0047】
次に、ROMに記憶された特性図から、目標吹出温度TAOに対応する吸込口モードを決定する(ステップS6)。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときには内気循環モードが選択され、目標吹出温度TAOが低いときには外気導入モードが選択される。
【0048】
次に、ROMに記憶された特性図から、目標吹出温度TAOに対応する吹出口モードを決定する(ステップS7)。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときにはフットモードが選択され、目標吹出温度TAOが低くくなるに伴って、バイレベルモード、更にはフェイスモードの順に選択される。
【0049】
また、空調運転中に電動圧縮機21a、及び電動圧縮機21(電動モータ21b)を制御する駆動制御回路21dが故障した場合に曇り防止として内気循環モード時は強制的に外気導入モードにする。
【0050】
次に、目標吹出温度TAO、蒸発器吹出空気温度センサ11eで検出したエバ後温度TE、水温センサ11fで検出した冷却水温TW等に応じて、エアミックスドア15の開度を決定する(ステップS8)。
【0051】
最後に、図5に示すフローチャートに基づいて電動圧縮機21の回転数を決定した後(ステップS9)、各S4〜S9で算出または決定した各制御状態が得られるように、アクチュエータ、ファンモータ駆動回路及びハイブリッドECU7に対して制御信号を出力する(ステップS10)。そして、所定時間T毎にステップS2からステップS10の処理を繰り返す。
【0052】
以下、図5に示すフローチャートについて述べる。尚、図5に示した制御は、1秒周期で実行されるようになっている。まず、エアコンスイッチが投入されているか否か、またはデフロスタスイッチが投入されているか否かに基づいて電動圧縮機21を稼動させる必要があるか否かを判定し(ステップS200)、電動圧縮機21を稼動させる必要がない場合には、目標回転数IVOを0rpmとする(ステップS201)。
【0053】
一方、電動圧縮機21を稼動させる必要があると判定された場合には、電動圧縮機21を停止状態から起動させる時であるか否か、つまり前回の目標回転数IVOn-1が0rpmであるか否かを判定し(ステップS202)、電動圧縮機21を停止状態から起動させる時、つまり前回の目標回転数IVOn-1が0rpmである場合には、空調負荷の大きさを示す目標吹出温度TAOに基づいて目標回転数IVOを決定する(ステップS203)。
【0054】
また、電動圧縮機21を停止状態から起動させる時でない、つまり前回の目標回転数IVOn-1が0rpmでない場合には、各種センサ11b〜11gのセンサ信号に基づいて目標エバ後温度TEOを算出し、この目標エバ後温度TEOに基づいて目標回転数IVOを算出する(ステップS204〜S206)。
【0055】
具体的には、最初に蒸発器25を通過した直後の空気の目標温度である目標エバ後温度TEO(目標能力)に対する蒸発器吹出空気温度センサ11e(実能力検出手段)で検出されたエバ後温度TE(実能力)の偏差Enを下記数式2に基づいて算出する。
(数式2)
En=TEO−TE
次に、前回求められた偏差En-1に対する今回の偏差Enの差変化率Edotを下記数式3に基づいて算出する。
(数式3)
Edot=En−En-1
そして、ROMに記憶された所定のメンバーシップ関数及びルールに基づいて、上記で算出した偏差En及び偏差変化率Edotにおける目標増加回転数Δf(rpm)を算出する。
【0056】
ここで、この目標増加回転数Δfとは、前回の目標回転数IVOn-1、すなわち1秒前の目標回転数IVOn-1に対して増減する電動圧縮機21の回転数のことである。
【0057】
次に、仮の目標回転数IVOfを算出する(ステップS207)。このIVOfは、前回の目標回転数IVOn-1に目標増加回転数Δfを加算した回転数であり、暫定的に設定される電動圧縮機21の回転数である。
【0058】
次に、ステップS1で検出された外気温TAMが内気温TRよりも低いか否かを判断する(ステップS208)。外気温TAMが内気温TRよりも高い場合には、仮の目標回転数IVOfを真の目標回転数IVOに決定する(ステップS209)。
【0059】
逆に、外気温TAMが内気温TRよりも低い場合には、空調ケース12に吸い込まれる空気のうち、外気導入増加率RIに応じた補正係数CAを算出する(ステップS210)。図中に示すように、外気導入増加率RIが0であるとき、即ち、空調ケース12に吸い込まれる外気導入の割合が変化しないときには、補正係数CAは0である。一方、空調ケース12に吸い込まれる空気が内気から外気へと完全に切り替えられたとき、即ち、内気導入から外気導入へと切り替えられて外気導入増加率RIが100%となったときには、補正係数CAは最大の1となる。また、外気導入増加率RIが前記両者の中間領域に該当する場合にも、その増加率に応じて0〜1の間の補正係数CAが付与される。
【0060】
そして、基準増加回転数に補正係数CAを乗ずることで、増加補正回転数Δfrsを算出し、さらに、外気導入割合が増加したときからの経過時間TCに応じて増加補正回転数Δfrsを減少補正する(ステップS211)。基準増加回転数については、任意の回転数を設定することができるようになっており、本実施形態では500(rpm)に設定している。また、減少補正については、図示するように、経過時間TCが1分を越えるまでは、当初に求められた増加補正回転数Δfrsを維持する。経過時間TCが1分から10分までの間については、その時間経過に応じて増加補正回転数Δfrsを漸次減少させる減少補正を行う。具体的には、経過時間TCが10分のときの増加補正回転数Δfrsが0となるように、経過時間TCが1分を超えてからその時間経過とともに直線的に増加補正回転数Δfrsを減少させていく。
【0061】
最後に、真の目標回転数IVOを算出する(ステップS212)。この真の目標回転数IVOは、下記数式4に示すように、仮の目標回転数IVOfに増加補正回転数Δfrsを加算することで求められる。
(数式4)
IVO=IVOf+Δfrs
従って、冷房運転中に吸込口モードが内気導入モードから外気導入モードに切り替えられたときの車室外空気の温度TAMが車室内空気の温度TRよりも高い場合には、仮の目標回転数IVOfが真の目標回転数IVOに決定される。そして、電動圧縮機21の回転数は、前回に決定された目標回転数IVOn-1から目標増加回転数Δfだけ増加される。
【0062】
一方、冷房運転中に吸込口モードが内気導入モードから外気導入モードに切り替えられたときの外気温TAMが内気温TRよりも低い場合には、以下のように電動圧縮機21の回転数が制御される。
【0063】
内気導入から外気導入に切り替えられたことにより、空調ケース12内に吸い込まれる外気導入増加率は100%となるため、補正係数CAは1に決定され、増加補正回転数Δfrsは、基準増加回転数である500(rpm)に決定される。従って、真の目標回転数IVOは、仮の目標回転数IVOfに対して増加補正回転数Δfrsだけ高い回転数に設定される。
【0064】
外気導入に切り替えられたときには、空調ケース12内に吸い込まれる空気の温度が低下することで蒸発器25内の冷媒蒸発量が低下し、この結果、蒸発器25出口側の冷媒温度が低下する。これにより、膨張弁24の弁開度が拡大し、蒸発器25側への冷媒流入量が増大して圧縮機21aへの冷媒戻りが増大するが、上述したように、電動圧縮機21の回転数を真の増加補正回転数Δfrs分だけ増加補正することにより、膨張弁24の弁開度が拡大されても圧縮機21aの吐出冷媒量が増加することで凝縮器22側への冷媒流入量が確保され、冷凍サイクル内での冷媒の偏りが生じることがない。
【0065】
外気導入に切替えて電動圧縮機21の回転数を増加補正し始めてから、1分経過後には時間経過とともに増加補正回転数Δfrsを減少補正することで、この電動圧縮機21の回転数を減少させていく。そして、外気導入切替から10分経過後には、増加補正回転数Δfrsが0となり、電動圧縮機21の回転数は外気導入切替時に決定された仮の目標回転数IVOfにまで減少する。
【0066】
外気導入に切り替えられたことから空調ケース内に導入される空気温度が低下しており、さらに、電動圧縮機21の回転数が仮の目標回転数IVOfよりも高くなっているため、蒸発器25を流通する冷媒量が必要とされている冷媒量よりも多くなっている。この結果、外気導入切替直後においてはエバ後温度TEの低下が著しくなるが、増加補正回転数Δfrsを時間経過と共に減少補正しているため、その低下度合いを減少させて吹き出し温度変動による不快感が早期に解消される。
【0067】
また、内気導入を維持しつつ外気導入の割合を増加させた場合についても、外気導入増加率RIに応じて電動圧縮機21の回転数が増加補正される。この場合には、補正係数CAは1以下に決定されるため、増加補正回転数Δfrsは500(rpm)以下に決定される。そして、増加補正回転数Δfrsは、上述したように時間経過と共に減少補正され、経過時間TCが10分を越えた後には、増加補正回転数Δfrsは0となり、当初決定された仮の目標回転数IVOfにまで減少する。
【0068】
このように外気導入増加率RIによって補正係数CAを決定するのは、以下の理由による。即ち、外気導入の増加に伴って、蒸発器25出口側の冷媒温度の低下度合いが大きくなり、これに伴って冷凍サイクル中の冷媒流れが乱れ易くなる。従って、外気導入の増加に応じた適切な回転数に増加補正する必要があるからである。
【0069】
このように本実施形態によれば、外気導入の割合が増加したときには、電動圧縮機21の回転数を外気導入の増加割合に応じて必要な回転数よりも高い回転数に増加補正される。従って、外気導入の割合が増加することに起因する冷凍サイクル中の冷媒流れの乱れが抑えられることとなり、圧縮機21aへ吸引される冷媒が不足することがない。このため、圧縮機21aが貧潤滑に陥ることがなく圧縮機21aの潤滑状態を良好に保つことができる。
【0070】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態について図6を参照して説明する。本実施形態では、電動圧縮機21の最低回転数YAを増加補正する構成である。図6に示すように、第1の実施形態で示した図5のフローチャートにおいて破線で囲まれた領域内のステップが異なっている。
【0071】
図6に示すように、ステップS1で検出された外気温TAMが内気温TRよりも低いときには、電動圧縮機21の最低回転数YAを増加補正するとともに、外気導入の割合が増加してからの経過時間TCに応じて増加補正後の最低回転数YAを減少補正する(ステップS220)。
【0072】
例えば、電動圧縮機21の最低回転数YAが2000(rpm)に設定されている場合には、最低回転数YAに増加補正回転数1000(rpm)を加えることで3000(rpm)にまで増加補正する。時間経過に伴う減少補正については、図示するように、外気導入の割合が増加してからの経過時間TCが1分を超えるまでは、当初設定された3000(rpm)を維持する。経過時間TCが1分から10分までの間については、その時間経過に応じて最低回転数YAを漸次減少させる減少補正を行う。具体的には、経過時間10分のときの最低回転数YAが2000(rpm)となるように、経過時間TCが1分を越えてからその時間経過とともに直線的に最低回転数YAを減少させていく。
【0073】
最後に、増加補正後の最低回転数YAと仮の目標回転数IVOfのうち、高い回転数を真の目標回転数IVOとして決定する(ステップS221)。
【0074】
これによると、外気温TAMが内気温TRよりも低いときに、吸込口モードが内気導入モードから外気導入モードに切り替えられたときには、電動圧縮機21の最低回転数YAが増加補正されることで、圧縮機21aからの冷媒吐出量が増加し、凝縮器22への冷媒流量が確保される。従って、空調ケース12に吸い込まれる空気の温度が低下して蒸発器25側への冷媒流入量が増加しても、冷凍サイクル中の冷媒流れに偏りが生じることがなく、冷媒流れを安定化させることができる。
【0075】
特に、電動圧縮機21が最低回転数YAで駆動されているときには、冷凍サイクル中を循環する冷媒流量は低量となっているため、空調ケース12に吸い込む空気の温度低下に対して冷媒流れが乱れ易い。従って、本実施形態のように電動圧縮機21の最低回転数YAを増加補正することで、効果的に冷媒流れの乱れを防止することができる。
【0076】
尚、本実施形態においても、外気導入増加率に応じて、増加すべき回転数を変更するようにしても良い。
【0077】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0078】
上記実施形態では、エバ後温度TEにより蒸発器25の実能力を検出する構成としていたが、例えば、冷凍サイクル中の低圧側冷媒圧力、低圧側冷媒温度、あるいは冷媒流量に基づいて蒸発器25の実能力を検出する構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るハイブリッド自動車の概要を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る空調装置の模式図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る空調装置の制御系を示したブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る空調装置の制御フローを示したフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る空調装置の制御フローを示したフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る空調装置の制御フローを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
11…エアコンECU(目標能力決定手段、回転数決定手段、回転数補正手段、回転数選択手段、駆動手段)
11b…内気温センサ(内気温検出手段)
11c…外気温センサ(外気温検出手段)
11e…蒸発器吹出空気温度センサ(実能力検出手段)
12…空調ケース
16…内外気切替ユニット(導入空気調整手段)
20…冷凍サイクル装置(冷凍サイクル)
21…電動圧縮機
21a…圧縮機
25…蒸発器(冷却用熱交換器)
IVO…真の目標回転数(目標回転数)
IVOf…仮の目標回転数(目標回転数)
Δfrs…増加補正回転数
TE…エバ後温度(実能力)
TEO…目標エバ後温度(目標能力)
YA…最低回転数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調ケースと、
前記空調ケースに吸い込まれる空気のうち車室外空気と車室内空気との割合を調整する導入空気調整手段と、
前記空調ケース内に設けられ、前記空調ケース内部に導入した空気を冷却する冷却用熱交換器と、
前記冷却用熱交換器とともに冷凍サイクルを構成し、回転駆動により前記冷凍サイクル内の冷媒を循環させる圧縮機と、
前記冷却用熱交換器の実能力を検出する実能力検出手段と、
前記冷却用熱交換器の目標能力を決定する目標能力決定手段と、
前記目標能力決定手段が決定した前記目標能力に対する前記実能力検出手段が検出した前記実能力の偏差に基づいて前記圧縮機の目標回転数を決定する回転数決定手段と、
前記車室内空気の温度を検出する内気温検出手段と、
前記車室外空気の温度を検出する外気温検出手段と、
前記外気温検出手段で検出された前記車室外空気の温度が前記内気温検出手段で検出された前記車室内空気の温度よりも低いときに前記導入空気調整手段により前記空調ケースに吸い込まれる前記車室外空気の割合が増加したときには、前記圧縮機の回転数を前記回転数決定手段で決定された前記目標回転数に増加補正回転数を加算することで増加補正を行う回転数補正手段と、
前記回転数補正手段で増加補正された後の前記目標回転数に基づいて前記圧縮機を回転駆動する駆動手段とを備えたことを特徴とする空調装置。
【請求項2】
空調ケースと、
前記空調ケースに吸い込まれる空気のうち車室外空気と車室内空気との割合を調整する導入空気調整手段と、
前記空調ケース内に設けられ、前記空調ケース内部に導入した空気を冷却する冷却用熱交換器と、
前記冷却用熱交換器とともに冷凍サイクルを構成し、回転駆動により前記冷凍サイクル内の冷媒を循環させる圧縮機と、
前記冷却用熱交換器の実能力を検出する実能力検出手段と、
前記冷却用熱交換器の目標能力を決定する目標能力決定手段と、
前記目標能力決定手段が決定した前記目標能力に対する前記実能力検出手段が検出した前記実能力の偏差に基づいて前記圧縮機の目標回転数を決定する回転数決定手段と、
前記圧縮機の最低回転数を決定する最低回転数決定手段と、
前記車室内空気の温度を検出する内気温検出手段と、
前記車室外空気の温度を検出する外気温検出手段と、
前記外気温検出手段で検出された前記車室外空気の温度が前記内気温検出手段で検出された前記車室内空気の温度よりも低いときに前記導入空気調整手段により前記空調ケースに吸い込まれる前記車室外空気の割合が増加した場合には、前記最低回転数決定手段で決定された前記最低回転数に増加補正回転数を加算することで増加補正を行う回転数補正手段と、
前記回転数決定手段で決定された前記目標回転数と前記回転数補正手段で増加補正された後の前記最低回転数とのうち高いほうの回転数を前記圧縮機の回転数として選択する回転数選択手段手段と、
前記回転数選択手段で選択された前記圧縮機の回転数に基づいて前記圧縮機を回転駆動する駆動手段とを備えたことを特徴とする空調装置。
【請求項3】
前記回転数補正手段は、前記空調ケースに吸い込まれる前記車室外空気の増加割合に応じて前記増加補正回転数を決定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空調装置。
【請求項4】
前記回転数補正手段は、
前記空調ケースへ吸い込まれる前記車室外空気の割合が増加したときからの経過時間に応じて前記増加補正回転数を減少補正することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の空調装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−179203(P2008−179203A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12992(P2007−12992)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】