説明

空間除菌用組成物

【課題】常温で自然揮散が可能な空間除菌用組成物及び該組成物を用いた空間の除菌方法。
【解決手段】グリコールエーテルを含有する空間除菌用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコールエーテルを含有する空間除菌用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
室内等の閉鎖空間の空気中には、通常、カビ、酵母、ウイルス、細菌等の微生物が浮遊している。特に、最近の家屋では気密性が高いために結露を生じたり、湿度が高いことが多く、微生物が増殖しやすい環境が整っている。微生物は、アトピー、喘息等の原因ともなっていることから、空間の除菌をすることが望まれている。この様な背景から、従来、精油を基にした空気清浄組成物等(例えば、特許文献1等)が知られているが、このような空気清浄組成物は、加熱、噴霧等を行う必要があり、手間がかかることが問題となっていた。従って、簡便且つ優れた除菌効果を発揮し得る空間除菌用組成物が求められている。
【特許文献1】特表2005−509493
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、常温でも自然揮散が可能であり、室内空間に存在する微生物に対して有効に作用する空間除菌用組成物、ならびに該組成物を用いた空間の除菌方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、グリコールエーテルが、空気中に揮散し、室内空間に存在するカビ、酵母、細菌、ウイルス等に対して除菌効果を有することを見出した。グリコールエーテルは、従来、芳香剤の溶剤、揮散速度調整剤として使用されていたが、グリコールエーテル自身が除菌作用を有していることは知られていなかった。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0005】
本発明は、以下の空間除菌用組成物及び空間の除菌方法を提供するものである。
項1.グリコールエーテルを含む空間除菌用組成物。
項2.グリコールエーテルの含有量が、空間除菌用組成物の総重量に対して40〜95重量%である、項1に記載の空間除菌用組成物。
項3.グリコールエーテルが、下記一般式(1):
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、
は、水素原子又はメチル基を示し、
は、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基を示し、
は、水酸基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示し、
nは1〜5の整数を示す)
で表される、項1又は2に記載される空間除菌用組成物。
項4.グリコールエーテルが、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル及びエチレングリコールモノプロピルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜3のいずれかに記載の空間除菌用組成物。
項5.さらに芳香成分を含む、項1又は2に記載の空間除菌用組成物。
項6.グリコールエーテルを空間中に揮散させることを特徴とする、空間の除菌方法。
項7.グリコールエーテルが、下記一般式(1):
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、
は、水素原子又はメチル基を示し、
は、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基を示し、
は、水酸基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示し、
nは1〜5の整数を示す)で表される、項6に記載される方法。
項8.グリコールエーテルが、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル及びエチレングリコールモノプロピルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、項6又は7に記載の方法。
【0010】
本発明において、空間の除菌とは、室内空間に存在するカビ、細菌、ウイルス等の微生物を死滅させること(殺菌)、又はこれらの微生物の増殖を阻止する(静菌)ことを意味する。また、本発明において、殺菌には、滅菌も含まれる。
【0011】
1.空間除菌用組成物
本発明は、グリコールエーテルを有効成分として含有することを特徴とする空間除菌用組成物を提供する。
【0012】
本発明において使用されるグリコールエーテルは、下記一般式(1)に示される。
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、
は、水素原子又はメチル基を示し、
は、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基、好ましくはメチル基、エチル基又はプロピル基を示し、
は、水酸基又は炭素数1〜4のアルコキシ基、好ましくは水酸基を示し、
nは1〜5の整数、好ましくは1〜3の整数を示す)
本発明の空間除菌用組成物においては、上記一般式(1)で表されるグリコールエーテルの中でも、Rが水素原子又はメチル基であり、且つRがメチル基又はプロピル基であり、且つRが水酸基であって、nが1〜3であるものが好ましい。
【0015】
上記一般式(1)に示されるグリコールエーテルのうち、本発明においては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル等が好ましく、さらに、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルがより好ましく使用される。
【0016】
上記グリコールエーテルは、低粘度のものである方が取り扱いが容易であり、好ましい。例えば、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを、B型粘度計で低粘度測定用アダプターを装着し、ローターNo.1、回転数60rpm、液温20℃にて測定した粘度は、プロピレングリコール60.5mPa.S、プロピレングリコールモノメチルエーテル1.9mPa.Sである。
【0017】
上記のグリコールエーテルの中でも20℃における蒸気圧が、15mmHg以下程度、好ましくは0.01〜12mmHg程度、より好ましくは0.01〜9mmHg程度のものであれば、一般的な室内環境(例えば、室温5〜40℃程度、好ましくは10〜30℃程度、より好ましくは15〜25℃程度)でも自然揮散が可能であり望ましい。
【0018】
前記グリコールエーテルを、0.01g/1000L〜10g/1000L程度、好ましくは0.05g/1000L〜7g/1000L、より好ましくは0.1g/1000L〜2.5g/1000L程度、さらに好ましくは1.5g/1000L〜2.5g/1000L程度になるように揮散させることにより、本発明の所期の効果が有効に獲得されるため、望ましい。従って、本発明の空間除菌用組成物におけるグリコールエーテルの配合量は、上記の条件を満たすように、該空間除菌用組成物の総重量に対して0.01〜100重量%程度の範囲内で、各使用態様に従って適宜設定される。本発明におけるグリコールエーテルの配合量は、例えば、設置型の空間除菌用組成物の場合、その総重量に対して、約30重量%以上、好ましくは40〜95重量%程度、より好ましく45〜95重量%程度、さらに好ましくは50〜95重量%程度、特に好ましくは55〜95重量%程度である。
【0019】
また、本発明の空間除菌用組成物がエアゾール製剤として調製された場合、グリコールエーテルの配合量は、該空間除菌用組成物の総重量に対して、0.01〜20重量%程度、好ましくは0.1〜20重量%程度、より好ましくは3〜20重量%程度である。
【0020】
前記グリコールエーテル類の1種又は2種以上を組み合わせて用い、さらに基剤等を配合して本発明の空間除菌用組成物を調製することができる。本発明において使用される基剤としては、油性又は水性の別を問わず、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ジメチルエーテル、液体プロパン、ワセリン、ラノリン、ヒマシ油、パラフィン系炭化水素(例えば、流動パラフィン等)等の従来公知のものが挙げられ、単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの基剤の配合量は特に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で、グリコールエーテル及び他の添加剤等の配合量に従って適宜設定される。
【0021】
本発明の空間除菌用組成物は、さらに香料を含んでいてもよい。本発明において使用される香料としては、日用品に用いられるものであれば特に限定されず、公知のものを単独又は適宜組み合わせて使用され得る。また、該香料が人工的に製造されたものか、天然由来であるかを問わない。このような香料としては、例えば、シトラス系、フローラル系、グリーン系、フルーティ系等の調合香料等が挙げられる。本発明における香料の配合量は、プロピレングリコールによる除菌効果を損なわなければ特に限定されないが、例えば、空間除菌用組成物の総重量に対して、0.01〜50重量%程度、好ましくは5〜45重量%程度、より好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは20〜40重量%程度である。
【0022】
また、前記基剤の他に従来公知の添加剤を配合させてもよい。添加剤としては、ポリオール類(ジプロピレングリコール、プロピレングリコール等)、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン性活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、消臭剤、天然抽出物、シリコーン、増粘剤、染料、顔料、色素、油剤等を適宜配合することができる。また、本発明の空間除菌用組成物に、例えば、アリルイソチオシアネート(AIT)等の公知の除菌剤を配合することによって、除菌効果がより一層高まることが期待される。
【0023】
本発明の空間除菌用組成物の剤型としては、液状製剤、ゲル状製剤等が挙げられ、液状製剤であることが好ましい。また、本発明の空間除菌用組成物をゲル状製剤として調製する場合は、例えば、カラギーナン、ジェランガム等の水溶性ゲル化剤、金属石鹸、オクチル酸アルミニウム等の油溶性ゲル化剤等、天然ゲル化剤又は合成ゲル化剤を従来公知の方法に従って、適宜添加すればよい。本発明の空間除菌用組成物は、自然揮散させる形態であれば室内に放置するだけで空間に存在する微生物の殺菌又は静菌ができるため、簡便に室内空間の除菌が行える。本発明の空間除菌用組成物を、自然揮散を目的として使用する場合、例えば、芯棒、濾紙等に染み込ませて揮散させる方法、透過膜を用いて揮散させる方法等の従来公知の方法に適用することもできる。また、従来公知の吸油性樹脂、吸水性樹脂、吸油性の多孔質剤(例えば、シリカゲル、ゼオライト等)に本発明の空間除菌用組成物を染み込ませて使用することもできる。
【0024】
上記の他に、従来公知の方法に従って強制揮散させることもできる。強制揮散の方法としては、例えば、ファン等を用いて揮散させる方法、ヒーター等を用いた加熱揮散方法、超音波によって揮散させる方法等が挙げられる。
【0025】
本発明の空間除菌用組成物を、例えば、スプレー式の容器に充填し、特に微生物が多く存在する空間中に霧状に散布して用いることによって、揮散速度を速めることができ、迅速に本発明の除菌効果を発揮させることができる。また、本発明の空間除菌用組成物を、エアゾール、ミストスプレー等の状態で使用しても同様の効果が得られる。
【0026】
本発明の空間除菌用組成物は、室内空間に存在する微生物を殺菌又は静菌する目的で使用される。本発明の空間除菌用組成物が適用される微生物としては、室内空間に存在する微生物であれば、特に限定されず、例えば、空気中に浮遊している微生物、室内の床に落下している微生物、カーペット、カーテン、家具等に付着した微生物が挙げられる。本発明において微生物としては、細菌、カビ、酵母、ウイルス等が含まれる。このような微生物の代表的なものとして、例えば、ミクロコッカス属、スタフィロコッカス属、シュードモナス属、大腸菌、ユミケカビ、黒コウジカビ、黒カビ、クモノスカビ、カンジダ、赤色酵母、コロナウイルス、インフルエンザウイルス等が挙げられ、本発明の空間除菌用組成物は、これらの微生物に対して有効に作用する。
【0027】
2.空間の除菌方法
本発明は、前記空間除菌用組成物を用い、グリコールエーテルを除菌が必要とされる空間に揮散させることを特徴とする、空間の除菌方法をも提供するものである。前記空間除菌用組成物は、常温でも自然揮散するため、除菌したい室内等に放置するだけで、その空間中に存在するカビ、細菌、ウイルス等の微生物を殺菌又は静菌することが可能である。空間中に揮散されるグリコールエーテルの量又はグリコールエーテルを揮散させる方法等は、前述の通りである。
【発明の効果】
【0028】
本発明の空間除菌用組成物は、常温で自然揮散が可能であることから、室内空間に放置するだけでも空間中に分散させることができ、且つ空間中の微生物に対して優れた除菌効果を発揮することができる。また、本発明の空間の除菌方法は、加熱や噴霧等の手間がかからず、グリコールエーテルを空間に自然揮散させるだけで空間中に存在する微生物に対して優れた除菌効果を発揮する、簡便且つ有効な方法である。本発明の空間除菌用組成物を、加熱や噴霧等の手段を用いて空間中に分散させることにより、迅速且つより優れた除菌効果が発揮され得る。さらに、本発明の空間除菌用組成物又は空間を除菌する方法において使用されるグリコールエーテルは、粘度が低いため、取り扱いが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
(1)薬液
プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)を約5g、プロピレングリコール(PG)を約4g程度を測り取る。
(2)微生物
PDA培地にA.niger(黒コウジカビ)を1×10/ml、赤色酵母を1×10/mlの濃度に調製した培養液を、それぞれ100μl、PDA培地(Poteto Dextrose Agar)培地(ニッスイ製)に播種した。播種した培地を容量1070Lのコンテナドラム中に静置した。
(3)試験
(2)で調整した培地を静置したステンレスコンテナドラム(日本コンテナ(株)製)内に(1)で測定したそれぞれの薬液を、加熱ヒーター(約70℃のPTCセラミックヒーター)を用いて1070Lのコンテナドラム内に蒸散させた。気温20〜25℃、湿度75〜100%で約48時間培養を実施し、コントロールの培地上の各微生物の生育度合いと比較して、効果を判定した。コントロールとして、PP製衣装ケース(積水ライフテック(株)製 容積58L)中にPDA培地にA.niger又は赤色酵母を播種したものを用いた。結果を図1に示す。
【0031】
また、試験開始前と終了後に重量測定を行い、蒸散薬液重量を測定した(結果 PM 3.64g、PG 3.75g)。
【0032】
図1より、プロピレングリコールモノメチルエーテルは、コントロール、プロピレングリコールと比較して、明らかに微生物の生育を抑制している結果を認めた。
【実施例2】
【0033】
(1)微生物
A.niger又は赤色酵母の濃度が1×10/mlに調製された培養溶液を、PDA培地に、100μlずつ播種した。PDA培地は、上記実施例1と同様に調製されたものである。
(2)試験環境
プロピレングリコール−n−プロピルエーテル(PnP)を、1.00g/1070L、2.00g/1070L、3.00g/1070L、4.00g/1070L又は5.00g/1070Lとなるようにそれぞれファンデリッチ(小林製薬(株)製)を用いて、コンテナドラム内に薬液を蒸散させる。試験開始前と終了後に重量測定し実際に蒸散した薬液量を算出する。
【0034】
本実施例において、実際に蒸散した薬液量は、それぞれ1.00g/1070L、1.68g/1070L、2.50g/1070L、3.59g/1070L、4.47g/1070Lであった。
【0035】
コントロールとして、PP製衣装ケース(積水ライフテック(株)製 容積58L)中にPDA培地にA.niger又は赤色酵母を播種したものを用いた。
(3)試験
A.niger又は赤色酵母を(1)で調製したPDA培地に播種し、SUS304ステンレスコンテナドラム中にて、温度20〜30℃、湿度70〜100%で41〜45時間培養した後、生育状態を観察した。結果を図2に示す。
【0036】
図2より、コンテナドラム中に蒸散したPnPの濃度が実測1.00g/1070Lから殺菌効果が現れ始め、実測2.50g/1070Lで優れた殺菌効果を示すことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】プロピレングリコールモノメチルエーテル又はプロピレングリコールの微生物に対する殺菌効果を表す写真である。
【図2】PnPの濃度の違いによる殺菌効果を表す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコールエーテルを含む空間除菌用組成物。
【請求項2】
グリコールエーテルの含有量が、空間除菌用組成物の総重量に対して40〜95重量%である、請求項1に記載の空間除菌用組成物。
【請求項3】
グリコールエーテルが、下記一般式(1):
【化1】


(式中、
は、水素原子又はメチル基を示し、
は、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基を示し、
は、水酸基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示し、
nは1〜5の整数を示す)
で表される、請求項1又は2に記載される空間除菌用組成物。
【請求項4】
グリコールエーテルが、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル及びエチレングリコールモノプロピルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の空間除菌用組成物。
【請求項5】
さらに芳香成分を含む、請求項1又は2に記載の空間除菌用組成物。
【請求項6】
グリコールエーテルを空間中に揮散させることを特徴とする、空間の除菌方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−97738(P2007−97738A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289442(P2005−289442)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】