説明

穿刺痛緩和用具

【課題】
人工透析などのため穿刺針を身体に打つ際、その痛みを軽減するための穿刺痛緩和用具を提供すること。
【解決手段】
穿刺痛緩和用具を、合成樹脂で形成された容器12の内部に保冷剤13が封入された冷却具11と、この冷却具11を身体に固定するためのベルト16で構成する。そして冷却具11の表面とベルト16の内周面に一対の面ファスナー14、18を介在させて、冷却具11とベルト16を着脱自在とする。使用の際は、冷却具11だけをあらかじめ凍結させておき、次に冷却具11をベルト16で挟んで皮膚に密着させて体組織を冷却すると、冷凍麻酔に類似する効果で穿刺の際の痛みが緩和される。冷却具11とベルト16などは、安価で取り扱いも容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工透析などで身体に穿刺針を打つ際、その痛みを軽減するための穿刺痛緩和用具に関する。
【背景技術】
【0002】
改めて言うまでもなく、予防接種などで注射を打つ際は、相当な痛みを覚悟する必要がある。一般に注射を打つ頻度はそれほど多くないため、大半の人々は効果を期待して痛みを我慢している。しかし腎疾患などで人工透析が不可欠な場合、週に数回、二本の穿刺針を腕部に刺す必要があり、そのたびに痛みに耐えることを強いられ、日常生活の質が著しく低下する。
【0003】
人工透析に用いられる穿刺針は、毎分約0.2リットルの流量を確保する必要があり、その直径は約1.2mmと大きく、穿刺の際の痛みは、決して無視できない重大な問題である。そのため様々な改善方法が検討されており、局所麻酔薬であるリドカインを含浸させた粘着シートを皮膚に貼り付けて、周辺の神経を麻痺させるといった処置が確立されている。なお麻酔薬の効果を得るには、少なくとも30分程度は粘着シートを貼り付けておく必要がある。
【0004】
本願発明に関連のある技術としては、次の特許文献が挙げられる。この文献には、皮膚を冷却することで注射針を穿刺する際の痛みを緩和できる冷却シートが開示されており、水剤と寒剤が隔離した状態でシートの中に封入されている。このシートを皮膚に貼り付けた後、水剤と寒剤を人為的に混ぜ合わせると吸熱反応が発生して、体組織が徐々に冷却され、冷凍麻酔に類似する効果で痛さを感じなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−337449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のような局所麻酔薬を用いる方法は、取り扱いが簡単で多くの人工透析施設で実施されている。しかし薬であることから、体質によってはアレルギー反応を引き起こす恐れがあり、誰もが安心して使用できるわけではない。しかも、粘着シートを貼る位置はほぼ同じであるため、長年の使用で皮膚の状態が悪化する恐れもある。さらに麻酔薬の効果を得るには、少なくとも30分程度の時間を要するため、貼り忘れがあると透析の開始時間も遅れるなど、いくつかの課題が明らかになっている。
【0007】
また前記特許文献は、不可逆性の吸熱反応を利用しているため、繰り返して使用することができず、製品価格が高い場合、有用であっても使用を断念することが予想される。さらにシートは、粘着剤で皮膚に貼り付けているため、使用後に皮膚から引きはがす際、皮膚や体毛を引き込んで痛い思いをすることも予想される。この痛さを軽減するため、粘着剤の作用を弱くすると、不用意にシートが皮膚から離脱する恐れがある。
【0008】
そのほか、人工透析施設では、諸般の事情から医療スタッフの仕事量が年々増加しており、本来の医療行為以外に労力を割くことが難しい状況になっている。したがって、穿刺時の痛みを緩和するといった副次的な面は、患者自身で対策を講じるべきとの風潮になっている。この患者自身で行う対策は、各種法令に抵触しないことは当然として、費用が掛からず、しかも衛生面や安全面にも十分な配慮が必要である。
【0009】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、人工透析などのため穿刺針を身体に打つ際、その痛みを軽減するための穿刺痛緩和用具の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、合成樹脂で形成された容器の内部に保冷剤が封入された冷却具と、該冷却具を身体に固定するためのベルトと、で構成された穿刺痛緩和用具である。
【0011】
冷却具は、合成樹脂製の容器に保冷剤を封入したもので、皮膚に接触させて周辺の温度を低下させて、冷凍麻酔に類似する効果を発生させて、穿刺時の痛みを緩和する。保冷剤を封入する容器は、ポリエチレンなどの軟質フィルムを用いて自在に変形可能な物や、PET樹脂などの硬質な素材を用いて自立的に形状を維持できる物など、自在に選択可能である。なお、いずれの容器についても、保冷剤を封入した直後に内部を密閉して、以降、保冷剤が不用意に漏れ出すことがない強度を確保する必要がある。
【0012】
保冷剤は、水道水などの衛生的な水をそのまま使用することもできるが、市販されている各種保冷剤のように、水に高吸水性高分子樹脂を添加したものを使用しても良い。なお高吸水性高分子樹脂は、容器から漏れ出た場合でも人体などに害を与えないことが要求され、その具体例としては、紙オムツなどの吸水材に使用されているポリアクリル酸ナトリウムが挙げられる。当然ながら保冷剤は、冷凍庫で凍結させることで、何度でも繰り返して使用できる。
【0013】
ベルトは、腕部などに巻き付けて冷却具を皮膚に密着させるために使用され、面ファスナーやバックルなどを組み込んでおり、必要に応じて環状化することができる。そして、腕部などに巻き付けたベルトの内側に冷却具を挟み込むことで、冷却具を皮膚に密着させることができ、またベルトの張力を調整することで、身体を動かした場合でも冷却具の脱落を防止できる。
【0014】
請求項2記載の発明は、容器の形状を限定するもので、容器は棒状であり、その横断面は、高さと幅のいずれも20mm以上で30mm以下であることを特徴とする。
【0015】
容器は、穿刺針を穿刺する位置を冷却できればよく、必然的に手の平に載る程度の大きさとなる。ただし容器を平面状にすると、必要以上に広い範囲を冷却してしまうほか、表面積が増大して保冷剤の温度上昇も速くなる。そこで本発明のように、容器を棒状とすることで、皮膚との接触面積が限定され、さらに棒状(特に丸棒状)とすることで表面積を減らすことができ、穿刺位置の近傍だけを限定的に冷却可能で、保冷剤の温度上昇も抑制できる。なお横断面とは、容器を輪切りにした際の断面を指している。
【0016】
請求項3記載の発明は、容器の表面とベルトの内周面に一対の面ファスナーを介在させて、冷却具とベルトが着脱自在であることを特徴とする。
【0017】
面ファスナーは、冷却具とベルトを一体化するために使用される。最も普及している面ファスナーは、フック面と呼ばれる硬質繊維で形成された面と、ループ面と呼ばれる軟質繊維で形成された面が対になる構造であり、本発明では、容器にフック面またはループ面のいずれか一方を貼り付けて、対するベルトの内周面に残りの一方を貼り付ける。したがって対になる面ファスナーを接合させることで、冷却具をベルトの内周面に一体化でき、使用の際、冷却具が不用意にベルトから脱落することがなく、しかも皮膚の冷却を終えた際、ベルトを外すだけで冷却具を皮膚から離脱でき、取り扱いも極めて簡単である。
【0018】
面ファスナーは、ベルトの内周面のほぼ全域に貼り付けておき、あらゆる位置で冷却具を接合できる構造とすることが好ましい。また容器に貼り付ける面ファスナーは、皮膚との接触面の反対面だけに限定することが好ましい。なお面ファスナーは、冷却具とベルトの着脱のほか、ベルトを環状化するためにも使用でき、この場合、ベルトの外周面にも対になる面ファスナーを貼り付ける。
【0019】
本発明品を実際に使用する際は、あらかじめ冷却具だけを冷凍庫に収容して、内部の保冷剤を凍結させておき、注射の直前にこれを冷凍庫から取り出して、面ファスナーを介して冷却具とベルトを一体化する。次に、冷却具を穿刺位置に接触させながら、冷却具が皮膚を適度に押圧するようにベルトを締め付ける。そうすると周辺の体組織の温度が徐々に低下していき、タイミングを見計らってベルトを外して素早く穿刺針を穿刺すると、冷凍麻酔に類似する効果でその痛みが緩和される。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の発明のように、ベルトを介して冷却具を身体に固定する穿刺緩和用具を用いることで、穿刺針が穿刺される箇所を冷却して、冷凍麻酔に類似する効果で穿刺の際の痛みを緩和できる。さらにベルトを締め付ける際、張力を調整することで、適正な力で冷却具を皮膚に押圧でき、体組織の冷却が円滑に進んでいく。しかも皮膚の冷却を終えた際は、ベルトを外すだけで冷却具を皮膚から離脱でき、皮膚や体毛を引き込んで痛い思いをすることもない。
【0021】
また請求項2記載の発明のように、保冷剤を収容する容器の形状を限定することで、手の平に載るような適正な大きさとなり、しかも皮膚との接触面積が限定され、穿刺位置の近傍だけを限定的に冷却可能であり、また表面積が抑制されて保冷剤の温度上昇を抑制できる。
【0022】
さらに請求項3記載の発明のように、冷却具とベルトを面ファスナーで一体化することで、使用の際、不用意に冷却具がベルトから脱落することがない。さらに冷却具を指などで直接触る時間も短縮されるため操作性に優れるほか、保冷剤の温度上昇も抑制できる。
【0023】
本発明は、単に冷却具を皮膚に密着させるだけであり、医療行為には該当せず、患者自身で一連の手順を実施でき、医療スタッフの仕事量が増加することはない。そのため混雑の激しい人工透析施設においても、何ら問題なく導入可能である。また冷却具とベルトは、一般的な素材を使用可能で安価に製造でき、しかも冷却具は単純な棒状であるため、エチルアルコールなどで消毒して繰り返して使用でき、患者に経済的な負担を与えることもない。なお消毒の際は、冷却具とベルトを分離できるため、作業を確実かつ簡単に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による穿刺痛緩和用具と、その使用方法を示す斜視図である。
【図2】本発明による穿刺痛緩和用具を腕部に巻き付けた状態の斜視図である。
【図3】冷却具単体の形状例を示す正面図と側面図と断面図である。
【図4】本発明の有効性を調査した臨床試験の結果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明による穿刺痛緩和用具と、その使用方法を示しており、穿刺痛緩和用具は、冷却具11とベルト16で構成されている。冷却具11は、手の平に載る程度の棒状で、軟質の樹脂フィルムを貼り合わせた容器12の内部に保冷剤13を封入したものである。またベルト16は、厚手の繊維を帯状にしたもので自在に変形可能であり、腕部などに巻き付けるため、外周面と内周面に一対の面ファスナー17、18が貼り付けられている。なお面ファスナー17、18は、先端が折れ曲がった硬質繊維を植え込んだフック面と、軟質繊維を環状に植え込んだループ面が対になる構造で、ベルト16の外周面をフック面17、内周面をループ面18としている。ベルト16を環状にする際、内径を自在に調整できるよう、ループ面18は内周面のほぼ全域に及んでいる。
【0026】
また冷却具11についても、ベルト16の内周面と一体化できるよう、容器12に面ファスナー14が貼り付けられている。この面ファスナー14は必然的にフック面となり、身体を冷却する際の支障にならないよう、容器12の一面だけに貼り付けられており、この反対面を皮膚に密着させる。なお冷却具11は、あらかじめ冷凍庫の中に保管しておき、保冷剤13を凍結させておく。
【0027】
図2は、本発明による穿刺痛緩和用具を腕部に巻き付けた状態である。一対の面ファスナー17、18を接合させて、ベルト16を腕部に巻き付けており、しかもベルト16の内周面と皮膚との間で冷却具11を挟み込んでいる。したがって冷却具11が皮膚を押圧しており、周辺の体組織は、冷凍麻酔に類似した効果が発生して、痛みに対する感覚が麻痺していく。なおベルト16に適度な張力を与えることで、身体を動かした場合でも冷却具11が脱落することはない。
【0028】
体組織が十分に冷却された後、ベルト16を外して素早く穿刺針を穿刺する。ベルト16を外す作業は、簡単かつ短時間に実施でき、粘着テープを皮膚から引きはがす時のような不快感は発生しない。またベルト16を外した後も、冷却具11はベルト16と一体化しており、その取り扱いに困ることはない。さらに冷却具11やベルト16は、必要に応じて個別に消毒することで繰り返して使用可能で、患者に対する経済的な負担はわずかである。なお保冷剤13が容器12から漏れ出た場合でも、その成分は真水または高吸水性高分子樹脂を添加した水であり、人体などに害を与えることはなく、単純に拭き取りを行えばよい。
【0029】
図3は、冷却具11単体の形状例を示している。冷却具11は、穿刺針を穿刺する位置の周辺だけを冷却できればよく、必要以上に大きくする必要はない。しかし冷却具11は、図2のようにベルト16で固定するため、極端に小さいと取り扱いが困難になる。そこで、この図のように、容器12の全長は約50mm、横断面は一辺が約25mmの正方形として、取り扱いが容易な大きさとしている。ただし容器12は柔軟性があるため、保冷剤13が凍結していない場合には自在に変形可能である。したがって使用の際、体温によって保冷剤13が液化していくと、ベルト16に押圧されて容器12が変形していき、皮膚との接触面積が増大していく。
【0030】
なお容器は、図3のような軟質の袋状の物に限定されることはなく、身体に押し潰されるなど、過酷な環境での使用が予想される場合、破裂を防止するためPET樹脂などの硬質樹脂を使用することもある。
【0031】
図4は、本発明の有効性を調査した臨床試験の結果を示している。この試験は、石川県の人工透析施設で2009年の春から夏にかけて、11名(図のAからK)を対象に実施している。なお比較のため、痛みに対して何らの緩和措置も講じない場合(図で無対策と記載)と、リドカイン(局所麻酔薬)を含浸させた粘着シートを使用した場合(図で貼り薬と記載)の試験も併せて実施している。痛さについては、個人の主観による11段階評価であり、全く痛みを感じない状態を0として、最も激しい痛みと10としている。また各緩和措置について、同一人に対して期間を隔てて3回の試験を実施しており、棒グラフはその平均値を示している。
【0032】
試験に際しては、あらかじめ冷却具11を冷凍庫で凍結させておき、冷凍庫から取り出した冷却具11を約1分間皮膚に接触させた後、直ちに穿刺針を穿刺している。図中の棒グラフのように、本発明品を使用することで大半の被験者は、痛さが軽減したことを実感しており、中にはリドカインを使用した場合と同等の効果が得られた場合もあった。本発明は、簡単な構成で取り扱いが容易といった利点があり、しかも、この図のように従来の対策に匹敵する効果を期待でき、腎疾患者などの生活の質を大きく改善するものとなる。
【符号の説明】
【0033】
11 冷却具
12 容器
13 保冷剤
14 面ファスナー(フック面:容器の表面)
16 ベルト
17 面ファスナー(フック面:ベルトの外周面)
18 面ファスナー(ループ面:ベルトの内周面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂で形成された容器(12)の内部に保冷剤(13)が封入された冷却具(11)と、該冷却具(11)を身体に固定するためのベルト(16)と、で構成された穿刺痛緩和用具。
【請求項2】
前記容器(12)は棒状であり、その横断面は、高さと幅のいずれも20mm以上で30mm以下であることを特徴とする請求項1記載の穿刺痛緩和用具。
【請求項3】
前記容器(12)の表面と前記ベルト(16)の内周面に一対の面ファスナー(14、18)を介在させて、冷却具(11)とベルト(16)が着脱自在であることを特徴とする請求項1または2記載の穿刺痛緩和用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−101700(P2011−101700A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257269(P2009−257269)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(509165677)株式会社CME (2)
【出願人】(304048584)丸和ケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】