説明

穿孔拡張器

患者の気管壁の初期穿孔及び瘻孔の拡張を実施するためのデバイスを提供する。本発明のデバイスは、シース内に延在し、シースの遠位端を越えて延出し、かつ、イントロデューサ拡張器の遠位端を越えて延出する針を有する。針を使用して気管壁を穿刺した後、針は抜去され、代わりに、ガイドワイヤ(Jワイヤ)がイントロデューサ拡張器及びシースを介して挿入される。針の抜去後は、シースは、イントロデューサ拡張器内でスライド移動可能となる。イントロデューサ拡張器は、その後、初期穿孔により形成された瘻孔を拡張すべく、前記瘻孔に向かって前進させられる。イントロデューサ拡張器を前方(遠位方向)へ向かって移動させたとき、シースは、イントロデューサ拡張器内でスライド移動し、瘻孔に対して静止した状態に保たれるので、瘻孔を傷つける可能性を減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は穿孔拡張器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関では、ベンチレータまたはレスピレータを用いて患者の肺の機械的換気を行う。上記の人工呼吸器は、患者に換気ガスを供給するためのホースセット、すなわち換気用チューブまたはチューブ回路に接続される。患者側では、換気用チューブは通常、患者の下気道への直接的かつ確実なアクセスを可能にする気管換気カテーテルまたはチューブに接続される。気管カテーテルは、気管壁と気管換気チューブシャフトとの間をシールし、肺の陽圧換気を可能にする膨張式のシーリングバルーン要素、すなわち「カフ」を備えている。
【0003】
一般的に、患者に対して、気管壁の造孔術により気管に直接挿管される気管切開チューブに切り替える決定がなされるまでは、気管カテーテルの一種である、口から挿管される気管内チューブ(ETチューブ)が何日間も使用される。気管内チューブは、いくつかの研究において、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発症率の増加と関連付けられている。そこで、VAPの発生率を減少させるために、気管切開術がよく用いられるようになってきており、かつ入院中の早い時期に行われるようになってきている。
【0004】
気管切開手技は、気管へのアクセスを可能にするために、首(頸部)の皮膚に切開部を形成することを伴う。気管は生体器官としては特に高い柔軟性及び弾性を有するので、気管壁の一部を切除して開口部を形成するよりも、気管壁に小孔を形成した後にその小孔を拡張する方が、早期に治癒することが分かっている。皮膚の切開後、止血鉗子または他の手段を用いて皮下組織を分離して気管へアクセスできるようにし、その後、指診によって気管軟骨輪の位置を見つける。通常はETチューブ内に気管支鏡を挿入し、その後、気管支鏡の光によって切開部位を経皮的に照らすことができるようになるまで、気管からETチューブを引き出していく。シース付きの針を用いて、気管壁を外側から穿刺する。通常は、第2気管軟骨輪と第3の気管軟骨輪との間を穿刺する。シースを残して針を抜去し、針の代わりに可撓性ガイドワイヤ(Jワイヤとも呼ばれる)を挿入し、その後、シースを抜去する。気管壁を傷つけないように、気管支鏡を使用して気管の内側から手技の進行を観察する。ガイドワイヤに沿わせて小型(例えば14フレンチ)の初期拡張器を導入して気管壁に形成された瘻孔の初期拡張を行い、その後、初期拡張器を抜去する。次に、ガイドワイヤに沿わせてより小型(例えば8フレンチ)のガイディングカテーテルを導入する(注:フレンチは、外周寸法が同一の非円形チューブは同一の切開部に適合するという理論に基づく外周寸法である。1フレンチは、約0.33mmまたは0.013インチである)。
【0005】
ガイディングカテーテルの導入後、より大型の第1の拡張器、例えばクック・メディカル社(Cook Medical Inc.)製のブルーライノ(Blue Rhino)(登録商標)拡張器(特許文献1も参照されたい)などをガイドワイヤに沿わして配置し、ガイディングカテーテル及び第1の拡張器を一体として瘻孔内を前進させ、瘻孔の拡張を行う。クック・メディカル社は、気管切開チューブの挿管をより容易にするために、若干の過拡張を推奨している。拡張後、第1の拡張器を抜去し、その後、気管切開チューブ(内側カニューレは抜去されている)の内側にぴったりと嵌合し、かつ気管切開チューブの遠位端から約2cm延出するように構成された第2の拡張器を用いて、ガイドカテーテルに沿わせて気管切開チューブを導入する。ガイドカテーテル、第2の拡張器及び気管切開チューブを一体として瘻孔内を前進させる。気管切開チューブが適切な挿管深さに達したら、気管切開チューブを通じて第2の拡張器、ガイドカテーテル及びガイドワイヤを抜去し、気管切開チューブ内に内側カニューレを挿入し、その後、気管切開チューブをベンチレータに接続する。このようにして手技は完了する。
【0006】
上述の説明から理解され得るように、現在最先端の気管切開術は、手技が成功裏に完了するまでに、多数のステップと、多数の器具の挿入及び抜去を伴う。この期間のほとんどの間、患者はベンチレータから切り離されており、従って呼吸していない。加えて、現在の気管開口術キットでは多数の器具が用いられているため、前記器具が誤って非無菌状態となり使用不能となる可能性は大きい。そのような場合には、患者にETチューブを再挿管しなければならない。また、たとえ手技が順調に進行したとしても、患者が呼吸していない期間はかなり長く、約7分間またはそれ以上にも及ぶ。このことは、特に、最適な健康状態にない患者(たいがいの患者はそうである)にとっては、明らかに大きな問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,637,435号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
気管切開チューブの挿管をより迅速かつ安全に行うことができるデバイスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
気管壁の穿孔、ガイドワイヤの挿入及び初期拡張を迅速に行うことを可能にする穿孔拡張器を提供する。本発明の穿孔拡張器は、シース(鞘)と、シース内に延在しかつシースの遠位端及び近位端の両方を越えて延出する針と、イントロデューサ拡張器(introducer dilator)とを含む。針(の近位端)は、シース及び/またはイントロデューサ拡張器の近位端に着脱可能に結合させることができる。針は、気管壁を穿刺するのに用いられ、シースが瘻孔に入るまで、瘻孔内を前進させられる。その後、シースを瘻孔内に残したままで、シース及びイントロデューサ拡張器から針を抜去し、針の代わりにガイドワイヤ(Jワイヤ)を挿入する。
【0010】
針をシース及び/またはイントロデューサ拡張器の近位端から離脱させたら、シースはイントロデューサ拡張器内でスライド移動可能となる。針で穿刺して形成した初期穿孔を拡張するために、イントロデューサ拡張器を気管瘻孔内へ挿入する。イントロデューサ拡張器を気管瘻孔内に挿入するとき、シースはイントロデューサ拡張器内に向かってスライド移動するか、あるいは、気管内に向かってさらに前進する。気管後壁と当接したとき、シースは屈曲するか、あるいは、近位方向に後退してイントロデューサ拡張器内へ戻る。拡張器の配置及びその後の瘻孔の拡張を伴うあらゆる手技が、この新規なデバイスの恩恵を受けることができるできるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の穿孔拡張器の分解図であり、各部品の関係を示している。
【図2】本発明の穿孔拡張器を組み立てた状態を示す図である。
【図3】本発明の穿孔拡張器に含まれるイントロデューサ拡張器の断面図である。
【図4】本発明の穿孔拡張器に含まれる針で気管壁を穿刺した後の穿孔拡張器を示す図である。
【図5】針を取り外した状態の穿孔拡張器を示す図である。この後、シースはイントロデューサ拡張器内に向かって近位方向に移動させられる。
【図6】瘻孔を拡張するために、針を取り外したイントロデューサ拡張器を瘻孔に向かって移動させた状態の穿孔拡張器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
気管開口術は、患者が気管を通じて直接的に呼吸することを可能にする救命手技である。気管切開術はまた、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発症を予防または抑制することができると多くの人々に考えられている。しかし残念ながら、上記の救命手技は、比較的時間がかかり、現在の技術では多数のステップ及び器具を必要とし、それらの器具は、手技を成功裏に完了するためには無菌状態に維持しかつ適切に機能しなればならない。この救命手技は、上記の「発明の概要」の欄に記載したデバイス、すなわち、本発明の穿孔拡張器を使用することにより、大幅に向上させることができる。加えて、本発明の穿孔拡張器は、救急気管切開術に使用することもできる。なお、本明細書中で使用される用語「気管開口術(tracheostomy)」は、用語「気管切開術(tracheotomy)」も含むことを意図している。
【0013】
本発明のデバイス(穿孔拡張器)は、本明細書の導入部で説明した手技に使用される多数の器具に取って代わるものである。本発明のデバイスは、互いに別体をなす針、シース及びイントロデューサ拡張器に取って代わるものであり、針が食道や他の組織ではなく気管に入ったことを確認するために、患者の気管に対して吸引を行うことを可能にする。本発明のデバイスは、手技中の任意の時点で前記手技の手順を完全に逆転させることができるように設計されている(当然ながら、最初の気管壁の穿刺過程は除く)。本発明の穿孔拡張器の本体部は、針の抜去後に再び必要となったときに、針を再導入することを可能にする。
【0014】
本発明の穿孔拡張器20の分解図である図1を参照して、本発明の穿孔拡張器20は3つの主要部品を含み、比較的剛性の中空のイントロデューサ拡張器1と、ルーメンまたはカニューレを有するより柔軟な内側シース2と、針3とを含む。針3はシース2よりも剛性が高い。針3の遠位端14は面取りされており、患者の首に所望の瘻孔を初期穿孔するのを容易にするための刃先を有していることが望ましい。針3は中空であることが望ましいが、針3を通じてのガイドワイヤの挿入が所望されない場合は中空でなくてもよい。針3の近位端は、ハブ4の中心に取り付けられる。ハブ4は、少なくとも2つの役割を果たし、国際標準(ISO)規格のルアーフィッティング5を介してのシリンジとの接続を可能にするという役割と、針がイントロデューサ拡張器に取り付けられている間に、(針3が挿入されている)シース2がイントロデューサ拡張器1内でスライド移動しないようにするための固定器具として機能するという役割を果たす。
【0015】
図1に示すイントロデューサ拡張器1は、指で把持しやすい外面を有しているが、この特定の外面形状は単に可能性のある実施形態を示唆するものであり、限定を意図するものではない。把持をより容易するために、イントロデューサ拡張器1の外面を凹凸を形成してもよい。イントロデューサ拡張器1は、その軸方向に沿って延在する内部キャビティを有する。内部キャビティは、シース内に針が存在しないときに、シース2がイントロデューサ拡張器1内で端から端まで移動することができるように、シースよりも大きい幅を有する。イントロデューサ拡張器1は、その遠位端及び近位端の両方に、シース2が長手方向(軸方向)を貫通することができる大きさの開口を有する。
【0016】
シース2は、針3をシース2の近位端から挿入し、針3が十分な長さを持っているという条件において、針3の一部がシース2の近位端から延出したままで、針3がシース2を貫通してシース2の遠位端から延出することができるように、その軸方向を貫通するカニューレを有する。シース2は、一般的に柔軟であり、イントロデューサ拡張器1内で、ねじれることなく曲げることができる。
【0017】
針3は、上述したようにシース2のカニューレ内に抜去可能に実質的に収容され、シース2の遠位端及び近位端を越えて延出する。針3は、シース2内に配置されたときは、シース2の移動に対する抵抗を提供する(詳細については後述する)。シース2から針3を抜去すると、イントロデューサ拡張器1内でのシース2の移動に対する抵抗が除去され、シース2がイントロデューサ拡張器1内でイントロデューサ拡張器1の軸方向に沿って端から端までスライド移動することが可能となる。
【0018】
ハブ4は、着脱可能な任意の適切な結合手段によって、イントロデューサ拡張器1の近位端18と結合させる。例えば、一実施形態では、ねじ込み式結合機構が用いられるが、ルアー式結合方機構、バヨネット式結合機構、または他の結合機構を用いることもできる。本発明のデバイスを組み立てるためには、針3をシース2に挿入した後、シース2及び針3をイントロデューサ拡張器1に挿入する。そして、ハブ4をイントロデューサ拡張器1の近位端18と結合させる。完全に組み立てられた状態のデバイス20を図2に示す。イントロデューサ拡張器内に配置されたシース2は、近位側係止部8(後述する)及びハブ4の機能によって、針3及びイントロデューサ拡張器1のいずれに対しても移動することができない。
【0019】
この実施形態では、シース2は、近位側係止部8を有する内側ハブ6を含む。針3のハブ4は、シース2の近位端10と当接することによって、シース2の近位方向への移動を妨げる。近位側係止部8は、イントロデューサ拡張器1の遠位端18の内面と当接することにより、シース2の遠位方向への移動を制限する。このようにして、シース2は、常に、イントロデューサ拡張器1の中央キャビティ(内部キャビティ)12内に留まることとなる。また、本発明のデバイス20を完全に組み立てたとき、シース2の遠位端(先端)11が針3の刃面14と互いに重なり合うことが防がれる。
【0020】
針3の近位端はハブ4の径方向中央に結合されているので、針3がシース2内に挿入されており、かつ、シース2がイントロデューサ拡張器1内に挿入されているとき、針3のハブ4は、シース2及び針3をイントロデューサ拡張器1内で径方向中央に位置させる役割を果たす。上述したように気管壁を穿孔した後に、針3をシース2の近位端から引き出すとき、突起部9によって、シース2が針と共に近位方向に引き出されることが阻止される。ガイドワイヤ15を挿入するための位置を維持するために、針3を引き出すときにシース2の遠位端11がイントロデューサ拡張器1内に留まることは重要であり、そのために、突起部9は、針3を抜去するときにシース2が軸方向に摺動することを阻止する。突起部9は、シース2がイントロデューサ拡張器1の中央に位置するときにのみ、すなわち、針3がシース2内に存在するときにのみ、イントロデューサ拡張器1の内面に形成されたリング21(図3)に対する軸方向摺動抵抗を付与する。剛性の針3を柔軟性のシース2から抜去した後は、シース2は中央キャビティ12内で若干凹むことが可能となるため、バンブ9はリング21と当接して係止されず、リング21を通過することができるようになる。このことにより、シース2がイントロデューサ拡張器1内で近位方向へ移動することが可能となる。なお、突起部とリングとからなる係止機構は、例示的な一実施形態に過ぎず、シースが針と共に引き出されるのを防ぐために別の方法を用いてもよいことに留意されたい。一例としては、シースの外周面に形成した複数の溝と、イントロデューサ拡張器の内面に形成した突起とからなる係止機構を用いて、シースが針と共に引き出されるのを防ぐようにすることもできる。
【0021】
上述したように、針3を抜去した後は、シース2はイントロデューサ拡張器1の中央に保持されず中空キャビティ12内で端から端まで凹むことができ、それにより、突起部9はリング21と当接して係止されることがなくなるので、イントロデューサ拡張器1内でのシース2の近位方向への移動は、遠位側係止部7がリング21と当接することによってのみ制限される。初期の組み立てのためにイントロデューサ拡張器1へのシース2の挿入を可能にするために、すなわち、シース2をイントロデューサ拡張器1に挿入するときに遠位側係止部7がリング21を摺動通過できるように、遠位側係止部7は若干面取りしてもよい。しかし、これは一方向性の加工であり、針3の存在の有無に関わらず、遠位側係止部7とリング21との相互作用によって、シース2が近位方向へ移動してイントロデューサ拡張器1から抜け出ることが阻止される。繰り返すが、シースがイントロデューサ拡張器から引き出されるのを阻止するための他の機構を考案することも可能であり、それらも本発明の精神及び要旨に含まれるものとする。
【0022】
中空針を使用する実施形態において、針3で首を穿孔して瘻孔を形成した後、針3が気管16内に実際に入ったことを確認するために、シリンジ(図示せず)をハブ4の近位端19に取り付けて気管に対する吸引を行うことができる(図4)。この実施形態では、シリンジをハブ4に取り付けるのに、標準的なルアーフィッティング結合機構(leur fitting)5を使用しているが、当業者に公知の他の適切な手段を用いてもよい。針3が実際に気管16内に入っていると判断されたら、ハブ4をイントロデューサ拡張器1から取り外し、ハブ4及びそれに結合された針3を近位方向へ移動させて抜去することにより、針3を気管16から引き出し、さらには、シース2及びイントロデューサ拡張器1からも引き出す。シース2及びイントロデューサ拡張器1は、図5に示すように、シース2の一部が気管16内に位置するような配置に保たれる。その後、針3の代わりにガイドワイヤ15または「Jワイヤ」が、イントロデューサ拡張器1及びシース2を通じて気管16内に挿入される(図5)。ガイドワイヤ15は、シース2の近位開口端10から、シース2の中央カニューレすなわちルーメン17を通じて気管16に挿入される。近位開口端10は、針3及びファイドワイヤ15の挿入を容易にするために漏斗状の形状であり得るが、近位開口部10の形状を特定の形状に限定することは意図していない。
【0023】
ガイドワイヤ15を適所に配置したら、イントロデューサ拡張器1を瘻孔内へ、及び患者の気管16内に向かってある程度の距離移動させることによって瘻孔の拡張を行う(図6)。シース2及びイントロデューサ拡張器1の自由摺動性、すなわち、シース2がイントロデューサ拡張器1内に向かってスライド移動可能であることに起因して、イントロデューサ拡張器1を挿入したとき、シース2は瘻孔に対して静止した状態に保たれる。この状態は、遠位側係止部7によって、イントロデューサ拡張器1に対するシース2の移動(シースの近位方向の移動)が制限されるまで持続される。イントロデューサ拡張器1を前方(遠位方向)へ瘻孔に達するまで移動させる間にシース2を瘻孔内で静止した状態に保つことができるというこの特徴により、シース2が瘻孔で摺動して患者の内部組織を傷つける可能性を減少させることができると考えられる。あるいは、イントロデューサ拡張器1を気管16内に向かって移動させるときに、シース2を気管内に向かってさらにスライド移動させるようにしてもよい。シース2は、挿入時に気管16の後壁18と当接したときに曲がることができるように、イントロデューサ拡張器1よりも比較的柔軟な材料から作製され得る。あるいは、シース2はイントロデューサ拡張器1と同じ柔軟性を有する材料から作製されるが、イントロデューサ拡張器1よりも柔軟性が高くなるように、シース2の壁部はイントロデューサ拡張器1の壁部よりも薄く形成される。瘻孔を拡張した後、必要に応じて、追加的な拡張器の挿入を容易にするためにガイドワイヤ15のみを適所に残して、デバイス20の残りの部分を患者から除去する。
【0024】
手技中の任意の時点で、上記したステップを逆戻し(手順を逆の順で行い)、デバイス20を気管から抜去することができる。このことによって、手技の逆戻しまたは即時停止を必要とするような予期しない複雑な状況が生じた場合に、医療専門家が柔軟に対応しかつ制御することが可能となる。
【0025】
製造を容易にするために、デバイス20の構成部品を複数の互いに別体をなすパーツとして作製し、それらの部品を組み立てて最終デバイス20を製造するようにしてもよい。図1を見ると分かるように、デバイス20の各部品は、互いに別体をなす構成部品として示されている。破線は、組み立てステップを示すことを意図しており、針3をシース2に挿入し、その後、イントロデューサ拡張器1に挿入する。これは単に、デバイスを製造する1つの手段または示唆を意図するものであり、本発明の概念の限定や制限を意味するものではない。
【0026】
イントロデューサ拡張器は、気管を穿孔するのに使用されるので、比較的剛性の材料から作製されることが望ましい。イントロデューサ拡張器の作製に使用されるポリマーの相対的硬さは、当業者に既知の一連のスケールであるショア硬さによって測定することができる。硬さは、相対的硬さを測定するために特別に開発された装置であり、通常はASTM D2240基準に基づいて実施される、「デューロメータ」と呼ばれる装置を使用して測定することができる。ショアA及びショアD硬さの各デューロメータスケールにおいては、数値が大きいほどポリマーは硬い。ショアAスケール及びショアDスケールは、互いに異なる種類のポリマーに用いられる。一般的に、ショアAスケールは、柔らかい(エラストマー性が高い)ポリマーに用いられ、ショアDスケールは、硬いポリマーに用いられる。ショアAスケールとショアDスケールとを比較すると、ショアD硬さの数値がショアA硬さの数値よりも小さい場合でも、一般的に、ショアD硬さの方が硬い。例えば、ショア硬さ55Dは、通常、ショア硬さ90Dよりも硬い。本発明の穿孔拡張器は、55D〜75Dのショア硬さを有することが望ましい。
【0027】
本発明のデバイスの構成部品は、当業者に公知の材料を用いて作製される。そのような材料には、ポリオレフィン、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンブロックコポリマー、SBSジブロックエラストマー、SEBSトリブロックエラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、及びそれらの配合物もしくは混合物が含まれる。特に好適なポリマーは、ポリエチレンである。一実施形態では、本発明の拡張器は、シェブロン・フィリップス・ケミカル社(Chevron Phillips Chemical Co.)から入手可能なMarlex(登録商標)9018高密度ポリエチレンから作製され得る。シースに好適なポリマーは、BPソルベイ社(BP Solvay)製のFortiflex(登録商標)高密度ポリエチレンである。針は、一般的に、304または316ステンレススチールから作製される。
【0028】
上述した実施形態において説明した特徴の多くは随意的なものであり、本発明の穿孔拡張器は、それらの随意的な特徴が存在しない場合でも十分に機能することができるであろう。例えば、シースの突起部とイントロデューサ拡張器のリングとからなる係止機構を用いずに、別のシステムを用いて針を抜去するときにシースをイントロデューサ拡張器内に保持することもできる。例えば、シースの外周面とイントロデューサ拡張器の内周面との間の摩擦力を利用した別のシステムを代わりに用いることができる。所望であれば、シリンジ結合は省略してもよい。単純なタブ式結合機構や、ルアー式結合機構またはバヨネット式結合機構などの別の結合方式によって、針のハブをイントロデューサ拡張器に結合させるようにしてもよい。あるいは、穿孔中に、気管開口術を実施する者の親指や他の指によって針を適所に保持するようにしてもよい。
【0029】
本発明の穿孔拡張器の正確なサイズは様々であり得るが、いくつかの推奨基準を満たす必要がある。本発明の穿孔拡張器は、例えば、全長が25cm未満、より具体的には18cm未満であり、重量が約20グラム未満、より具体的には10グラム未満である必要がある。本発明の穿孔拡張器は、生体適合性を有している必要があり、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DEHP)を含まないこと、及び、動物由来産物を含まないことが望ましい。針は、サイズが1〜15フレンチ(0.33〜4.95mm)、より具体的には2〜8フレンチ(0.66〜2.64mm)、望ましくは約4.5フレンチ(1.49mm)であり得、本発明のデバイスにおける最も長い構成部品であるべきである。シースは、針よりもサイズが若干大きく、サイズが約1〜15フレンチ(0.33〜4.95mm)、より具体的には約2〜8フレンチ(0.66〜2.64mm)、望ましくは約6フレンチ(1.98mm)である。イントロデューサ拡張器は、サイズが5〜20フレンチ(1.65〜6.6mm)、より具体的には11〜18フレンチ(3.63〜5.94mm)、望ましくは約14フレンチ(4.62mm)であり、長さが約40〜70mm、より具体的には45〜65mm、望ましくは約50〜55mmであり得る。図1において見ることができるように、シースとイントロデューサ拡張器との境目を滑らかにするために、イントロデューサ拡張器の遠位端はテーパ状に形成されている。本発明の穿孔拡張器の各構成部品を互いに分離させるのに要する力は30ニュートン以下であることが望ましい。ガイドワイヤは、直径が約0.052インチ(0.020cm)であり、2ニュートン以下の力で本発明の穿孔拡張器を通過させることができるものであるべきである。
【0030】
一実施形態では、イントロデューサ拡張器は長さが86mmであり、シースはイントロデューサ拡張器の遠位端から45mm延出し、針はシースの遠位端から5mm延出する。針は、外径が1.5mmであり、内径が1.2mmであり得る。シースは、外径が2mmであり、内径が1.7mmであり得る。シースの突起部9は、シースの外面から0.2mmの突出している。シースの近位側係止部8及び遠位側係止部7は、シースの外面から0.3mmの延出している。イントロデューサ拡張器は、外径が4.7mmであり、リング部21以外の部分での内径が3.5mmであり得る。イントロデューサ拡張器のリング部21での内径は2.8mmであり得る。
【0031】
当業者に理解されるように、本発明の変更形態及び変形形態は当業者の能力の範囲内にあると考えられる。本発明者らは、そのような変更形態及び変形形態が本発明の範囲内にあることを意図している。また、本発明の範囲は、本明細書に開示されている特定の実施形態に限定されるものと解釈されるべきではなく、先述の開示を踏まえて添付の請求項にのみ従うものであると理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿孔拡張器であって、
針と、シースと、イントロデューサ拡張器とを含んでおり、
前記シースは、前記針を前記シースの近位端から挿入し、前記シースを貫通させ、かつ前記シースの遠位端を越えて延出させることができるように、該シースの軸方向全長に延在するカニューレを有し、
前記シースは前記イントロデューサ拡張器に挿入され、前記イントロデューサ拡張器の遠位端を越えて延出し、
前記イントロデューサ拡張器は、その軸方向に沿って延在し、前記シース内に前記針が存在しないときに前記シースが該イントロデューサ拡張器内で端から端まで移動することができるように前記シースよりも広い幅を有する内部キャビティ及び、前記シースが該イントロデューサ拡張器を軸方向に貫通することができる大きさの開口を有する近位端及び遠位端を有し、
前記イントロデューサ拡張器内に挿入された前記シース内に前記針が配置されているときは、前記針によって前記シースの移動に対する抵抗が提供され、前記イントロデューサ拡張器及び前記シースから前記針を抜去したときは、前記イントロデューサ拡張器内での前記シースの移動に対する抵抗が除去され、前記シースが前記イントロデューサ拡張器内で前記イントロデューサ拡張器の軸方向に沿って端から端までスライド移動することができるように構成したことを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項2】
請求項1に記載の穿孔拡張器であって、
前記針の近位端は、前記イントロデューサ拡張器の近位端に着脱可能に結合されることを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項3】
請求項1に記載の穿孔拡張器であって、
前記針がカニューレを有することを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項4】
請求項3に記載の穿孔拡張器であって、
前記針の前記カニューレは、前記針によって患者の気管壁を穿刺した後に、患者の気管に対して吸引を行うのに使用することができることを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項5】
請求項1に記載の穿孔拡張器であって、
前記針は、瘻孔を形成すべく気管壁を穿刺するのに用いられ、
前記瘻孔の形成後、前記針は前記瘻孔内に前記シースが前記瘻孔内に挿入される深さまで挿入され、
その後、前記シースを前記瘻孔内に位置させたままで、前記針を抜去し前記針の代わりにガイドワイヤを前記シース内に挿入するようにしたことを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項6】
請求項5に記載の穿孔拡張器であって、
前記イントロデューサ拡張器を前記瘻孔内へ移動させるようにしたことを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項7】
請求項1に記載の穿孔拡張器であって、
前記イントロデューサ拡張器のサイズが5〜20フレンチ(1.65〜6.6mm)であることを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項8】
請求項1に記載の穿孔拡張器であって、
前記イントロデューサ拡張器のサイズが14フレンチ(4.62mm)であることを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項9】
請求項1に記載の穿孔拡張器であって、
前記針のサイズが1〜15フレンチ(0.33〜4.95mm)であることを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項10】
気管開口術を実施するための穿孔拡張器であって、
11〜18フレンチ(3.63〜5.94mm)のサイズ及び45〜65mmの長さを有するイントロデューサ拡張器と、
前記イントロデューサ拡張器によって囲繞され、前記イントロデューサ拡張器の遠位端を超えて延在するシースと、
前記シース内に抜去可能に配置され、2〜8フレンチ(0.66〜2.64mm)のサイズを有し、カニューレを有し、かつ前記シースの遠位端を超えて延在する針とを含むことを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項11】
請求項10に記載の穿孔拡張器であって、
前記カニューレが、患者の気管に対して吸引を行うのに使用することができることを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項12】
請求項10に記載の穿孔拡張器であって、
前記針は、患者の気管壁を穿刺するのに使用され、穿刺後は前記シース及び前記イントロデューサ拡張器から抜去されることを特徴とする穿孔拡張器。
【請求項13】
請求項10に記載の穿孔拡張器であって、
前記記イントロデューサ拡張器が前記針に着脱可能に結合されることを特徴とする穿孔拡張器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−528603(P2012−528603A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512477(P2012−512477)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/IB2010/051884
【国際公開番号】WO2010/140068
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【Fターム(参考)】