説明

突然変異した膜タンパク質をコードするウイルス

【課題】ワクチン内の弱毒化した組換インフルエンザ・ウイルスの提供。
【解決手段】膜タンパク質突然変異遺伝子を含むウイルスの調製方法と、その方法で得られたウイルスが提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
細胞膜は脂質分子の二重層からなり、その中にタンパク質が埋め込まれている。細胞膜の脂質二重層は内部が疎水性であるため、たいていの極性分子が通過する際の障壁として機能し、それゆえ細胞の生存にとって極めて重要である。小さな水溶性分子を細胞または細胞内コンパートメントに出し入れするのが簡単になるよう、そのような膜は担体タンパク質とチャネル・タンパク質を備えている。イオン・チャネルは細胞の多くの機能(例えば電気による筋細胞の興奮や、神経系における電気シグナルの伝達)にとって不可欠である(Albertsらによる概説、1994年)。イオン・チャネルはあらゆる動物細胞、植物細胞、微生物に存在しているだけでなく、ウイルスにおいても同定されている(Ewart他、1996年;Piller他、1996年;Pinto他、1992年;Schubert他、1996年;Sugrue他、1990年;Sunstrom他、1996年)。ウイルスでは、イオン・チャネルがウイルスのライフサイクルにおいて重要な役割を果たしていると考えられている。
【0002】
インフルエンザA型ウイルスは、エンベロープを有するマイナス鎖ウイルスであり、8本のRNAセグメントが核タンパク質(NP)とともにキャプシドで囲まれている(LambとKrugによる概説、1996年)。ウイルスの膜には、ヘマグルチニン(赤血球凝集素)(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、M2という3つのタンパク質が存在している。HAとNAの細胞外ドメイン(外ドメイン)は極めて変化しやすいのに対し、M2のは本質的にどのインフルエンザA型ウイルスでも同じである。ウイルスのライフサイクルには、一般に、細胞表面の受容体に付着してその細胞の中に侵入し、ウイルスの核酸のコーティングを取り去った後、その細胞内でウイルスの遺伝子を複製するというプロセスが含まれる。ウイルスのタンパク質と遺伝子の新しいコピーが合成された後、これらの要素が組み立てられて子孫のウイルス粒子となり、細胞の外に出る(RoizmanとPaleseによる概説、1996年)。ウイルスのさまざまなタンパク質がこれらステップのそれぞれにおいて役割を果たしている。インフルエンザA型ウイルスでは、イオン・チャネル活性を有するM2タンパク質(Pinto他、1992年)が、ウイルスのライフサイクルの初期段階における宿主細胞への侵入とウイルスのRNAのアンコーティングの間に機能すると考えられている(MartinとHelenius、1991年;Heleniusによる概説、1992年;Sugrue他、1990年)。ビリオンがエンドサイトーシスを終えると、ビリオンに付随するM2イオン・チャネル(ホモ四量体ヘリックス束)を通ってプロトンがエンドソームからビリオンの内部へと流入できるようになるため、酸に対して不安定なM1タンパク質-リボ核タンパク質複合体(RNP)の相互作用が妨げられ、その結果として細胞質へのRNPの放出が促進されると考えられている(Heleniusによる概説、1992年)。さらに、HAが細胞内で開裂するいくつかのインフルエンザ株(例えばA/トリインフルエンザ/ロストック/34)では、M2イオン・チャネルがトランス-ゴルジ網のpHを上昇させることで、トランス-ゴルジ網の内部が低pH条件であるためにHAのコンホメーションが変化するのを阻止すると考えられている(Hay他、1985年;Ohuchi他、1994年;TakeuchiとLamb、1994年)。
【0003】
M2タンパク質がイオン・チャネル活性を有するという証拠は、アフリカツメガエルの卵母細胞でそのタンパク質を発現させて膜電流を測定することによって得られた(Pinto他、1992年;Wang他、1993年;Holsinger他、1994年)。M2タンパク質膜貫通(TM)ドメインにおける特別な変化がチャネルの動態とイオン選択性を変化させたが、これは、M2のTMドメインがイオン・チャネルの穴を構成しているという強力な証拠である(Holsinger他、1994年)。実際、M2のTMドメインそれ自体がイオン・チャネルとして機能することができる(DuffとAshley、1992年)。M2タンパク質のイオン・チャネル活性は、インフルエンザ・ウイルスのライフサイクルにとって不可欠であると考えられている。なぜならM2のイオン・チャネル活性を阻害するアマンタジンヒドロクロリド(Hay他、1993年)は、ウイルスの複製を抑制する(KatoとEggers、1969年;Skehel他、1978年)からである。
【0004】
オルトミクソウイルス科のメンバーであるインフルエンザB型ウイルスのゲノムは、11種類のタンパク質をコードする8本のマイナス鎖RNAセグメントからなる。これらタンパク質のうちの9つは、インフルエンザA型ウイルスでも見いだされている。それは、3つのRNA依存性RNAポリメラーゼ・サブユニット(PB1、PB2、PA)、ヘマグルチニン(HA)、核タンパク質(NP)、ノイラミニダーゼ(NA)、マトリックス・タンパク質(M1)、2つの非構造タンパク質(NS1とNS2)である。2つのタンパク質NBとBM2はインフルエンザB型ウイルスに特有である。NBはRNAのセグメント6によってコードされており(セグメント6はNAもコードする)、BM2はセグメント7によってコードされている。
【0005】
インフルエンザB型ウイルスのNBタンパク質は、タイプIIIの内在性膜タンパク質であり、ウイルスに感染した細胞の表面に豊富に発現し(Betakova他、1996年;Shaw他、1983年;Shaw他、1984年)、ビリオンに組み込まれている(Betakova他、1996年;Brassard他、1996年)。この小さなタンパク質(アミノ酸100個)は、18残基からなるN末端エクトドメインと、22残基からなる膜貫通ドメインと、60残基からなる細胞質尾部とを含んでいる(Betakova他、1996年;Williams他、1986年)。膜電流を測定した以前の研究と、インフルエンザA型ウイルスのM2タンパク質とのアナロジー(Fischer他、2000年;Fischer他、2001年;Sunstrom他、1996年)とから、NBタンパク質はイオン・チャネル・タンパク質として機能すると考えられた。しかし脂質二重層系に基づいたNBタンパク質の電気生理学的測定は実施するのが難しい。つまり、細胞内でイオン・チャネル活性を持たないと考えられている疎水性ドメインを含むタンパク質やペプチドが、脂質二重層の内部でチャネルとしての記録を生み出す可能性がある(Lear他、1988年;Tosteson他、1988年;Tosteson他、1989年)。さらに、Fischerら(2001年)とSunstromら(1996年)の研究では、アマンタジンでインフルエンザB型ウイルスを抑制できないにもかかわらず、そのアマンタジンを用いるとNBタンパク質によるチャネル活性が失われることが証明された。そのため、利用できる証拠は、NBタンパク質がイオン・チャネル活性を持つという考え方に疑問を突きつけている。
【0006】
ウイルスの感染に対する免疫は、感染した細胞の表面またはビリオンに提示される抗原に対する免疫応答の進展に依存する。ウイルスの表面抗原がわかっている場合には、効力のあるワクチンを作ることができる。表面にはいくつかの抗原が存在している可能性があるが、そのうちのほんのいくつかだけが免疫を中和させる。ワクチンを作る1つの方法は、ウイルスを“弱毒化する”というものである。これは、通常は、感染性ウイルスを外来宿主の中に入れ、非常に毒性の強い株を同定することによってなされる。一般に、外来宿主の中にいるその非常に毒性の強い株は、本来の宿主の中では毒性がより小さく、優れたワクチン候補も同様である。というのも、優れたワクチン候補は、液性IgGと局所的IgAの形態の効果的な免疫応答を生じさせるからである。
【0007】
一般に、インフルエンザ・ワクチンは、増殖して高力価になることのできる弱毒化した生きたウイルス、または死んだウイルスから調製されてきた。生きたウイルスを用いたワクチンは、免疫系のあらゆる相を活性化し、防御抗原のそれぞれに対する免疫応答を促進する。すると不活化ワクチンの調製中に発生する可能性のある、防御抗原を選択的に破壊するという困難な作業が不要になる。それに加え、生きたウイルスを用いたワクチンによって生じる免疫は、不活化ワクチンと比較すると、一般に、持続期間がより長く、より効果的で、交差反応がより多い。さらに、生きたウイルスを用いたワクチンは、不活化したウイルスを用いたワクチンよりも安価に製造できる。しかし弱毒化したウイルスに含まれる突然変異はよくわかっていないことがしばしばあり、そのような突然変異はウイルスの抗原遺伝子に存在しているように見える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで必要とされているのは、ワクチン用の弱毒化した組み換えインフルエンザ・ウイルス(例えば所定の突然変異を有する弱毒化したウイルス)を調製する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により、機能性膜タンパク質またはその機能性の部分をコードしない膜タンパク質突然変異遺伝子(例えば、タイプIII内在性膜タンパク質突然変異遺伝子などの内在性膜タンパク質突然変異遺伝子)を含む、単離および/または精製した組み換えインフルエンザ・ウイルスが提供される。本発明により、膜タンパク質遺伝子が欠損した、単離および/または精製した組み換えインフルエンザ・ウイルスも提供される。機能性膜タンパク質(例えば内在性膜タンパク質)が組み換えインフルエンザ・ウイルスに欠けていることで、in vitroでは複製されるがin vivoでは弱毒化される組み換えインフルエンザ・ウイルスが提供される。一実施態様では、この組み換えウイルスは、1つ以上の突然変異を有する膜タンパク質突然変異遺伝子を含んでいて、その突然変異ために、この遺伝子が細胞内で転写および/または翻訳されるときに機能性膜タンパク質またはその機能性の部分を生み出すことができない。別の一実施態様では、膜タンパク質突然変異遺伝子は、機能性膜タンパク質をコードする対応する膜タンパク質遺伝子と比べたときに少なくとも2つの突然変異を含んでおり、その突然変異のうちの少なくとも1つは、そのタンパク質の膜貫通ドメインに対応する領域に存在していない。例えば、膜タンパク質突然変異遺伝子は、細胞内で転写および/または翻訳されるとき、機能性の遺伝子産物を産生しない、および/または野生型膜タンパク質のレベルよりも少なく産生する(例えば約50%、10%、1%未満、検出不能)、および/または(例えばC末端に野生型配列が存在しておらず、先端部が欠けた膜タンパク質になる結果として)対応する野生型(機能性)膜タンパク質の活性の約50%未満(約10%未満であることが好ましく、約1%未満であることがさらに好ましい)である膜タンパク質突然変異体を産生する。本発明の一実施態様では、膜タンパク質突然変異遺伝子は、対応する野生型膜タンパク質と比べると、少なくとも1つのアミノ酸置換をコードする。一実施態様では、置換が、開始メチオニンから約1〜50残基までの位置(あるいはその間の任意の整数の位置、例えば開始メチオニンから1〜20残基まで、あるいは1〜3残基までの位置)にある。好ましい一実施態様では、少なくとも1つの置換が開始メチオニンの位置にある。別の一実施態様では、膜タンパク質突然変異遺伝子は、開始メチオニンから約1〜50残基までの位置(あるいはその間の任意の整数の位置、例えば開始メチオニンから1〜20残基までの位置)に1つ以上の終止コドンを持つ。さらに別の一実施態様では、膜タンパク質突然変異遺伝子は、1個以上のヌクレオチドの欠失を1ヶ所以上含んでいる。一実施態様では、膜タンパク質突然変異遺伝子は、この遺伝子のコード領域に存在する第1コドンから約150ヌクレオチドまでの位置(例えば1、2、3〜150ヌクレオチドの位置、またはその間の任意の整数の位置)に、1個以上のヌクレオチドの欠失を1ヶ所以上含んでいる。一実施態様では、膜タンパク質突然変異遺伝子は、1個以上のヌクレオチドの挿入を1ヶ所以上含んでいる。一実施態様では、膜タンパク質突然変異遺伝子は、この遺伝子のコード領域に存在する第1コドンから約150ヌクレオチドまでの位置(例えば1、2、3〜150ヌクレオチドの位置、またはその間の任意の整数の位置)に、1個以上のヌクレオチドの挿入を1ヶ所以上含んでいる。このような挿入および/または欠失によって膜タンパク質遺伝子のリーディング・フレームが変化することが好ましい。さらに別の一実施態様では、膜タンパク質突然変異遺伝子は、2つ以上の突然変異を含んでいる(例えば、開始コドンのヌクレオチドが1個置換されている結果としてメチオニン以外のアミノ酸のコドンになる置換、開始コドンのヌクレオチドが1個置換されている結果として終止コドンになる置換、コード配列のヌクレオチドが1個置換されている結果として終止コドンになる置換、コード配列における1個以上のヌクレオチドの欠失、コード配列における1個以上のヌクレオチドの挿入、あるいはこれらの任意の組み合わせを含む)。一実施態様では、膜タンパク質突然変異遺伝子がベクターの中に存在していて、プロモータ(例えばRNAポリメラーゼIプロモータ(ヒトRNAポリメラーゼIプロモータなど)、RNAポリメラーゼIIプロモータ、RNAポリメラーゼIIIプロモータ、T7プロモータ、T3プロモータなど)と機能上リンクしている。別の一実施態様では、膜タンパク質突然変異遺伝子がベクターの中に存在していて、転写終止配列(例えばRNAポリメラーゼI転写終止配列、RNAポリメラーゼII転写終止配列、RNAポリメラーゼIII転写終止配列、リボザイムなど)とリンクしている。
【0010】
この明細書に記載したように、インフルエンザB型ノックアウト・ウイルスを、リバース・ジェネティックスと、in vitroおよびin vivoでテストしたそのウイルスの増殖特性その他の特性とによって作った。NBタンパク質を発現しない突然変異体は細胞培養物の中では野生型ウイルスと同じくらい効率的に複製されたのに対し、マウスでは、野生型ウイルスでの知見と比べて増殖が限定されていた。したがってNBタンパク質は、細胞培養物の中ではインフルエンザB型ウイルスの複製にとって不可欠ではないが、マウスの体内では効率的な増殖を促進する。in vivoではNBノックアウト・ウイルスの増殖が減ったがin vitroではそうでなかったゆえ、この突然変異ウイルスは、インフルエンザ生ワクチンの開発に役立つ可能性がある。
【0011】
そこで本発明により、本発明の組み換えウイルスを含むワクチンまたは免疫原性組成物と、そのワクチンまたは免疫原性組成物を用いて脊椎動物を免疫化する方法、または脊椎動物で免疫応答を誘導する方法がさらに提供される。一実施態様では、本発明の組み換えウイルスは、インフルエンザA型ウイルスからの遺伝子を含んでいる。別の一実施態様では、本発明の組み換えウイルスは、インフルエンザB型ウイルスからの遺伝子を含んでいる。さらに別の一実施態様では、本発明の組み換えウイルスは、インフルエンザC型ウイルスからの遺伝子を含んでいる。さらに別の一実施態様では、本発明の組み換えウイルスは、インフルエンザA型ウイルス、B型ウイルス、C型ウイルス、またはその任意の組み合わせからの1つ以上の遺伝子を含んでいる。例えばこの組み換えウイルスは、B/Lee/40、B/Shiga/T30/98、B/Mie/1/93、B/Chiba/447/98、B/Victoria/2/87、B/Yamanashi/166/98、B/Nagoya/20/99、B/Kouchi/193/99、B/Saga/S172/99、B/Kanagawa、B/Lusaka/432/99、B/Lusaka/270/99、B/Quebec/74204/99、B/Quebec/453/98、B/Quebec/51/98、B/Quebec/465/98、B/Quebec/511/98(登録番号は、AB036873、AB03672、AB036871、AB036870、AB036869、AB036868、AB036867、AB036866、D14855、D14543、D14542、AB059251、AB059243、NC002209、AJ419127、AJ419126、AJ419125、AJ419124、AJ419123であり、その開示内容は参考としてこの明細書に具体的に組み込まれているものとする)のNB遺伝子に由来するNB突然変異遺伝子を含むことができる。一実施態様では、NB遺伝子の突然変異によってNA遺伝子の配列が変化しない。別の一実施態様では、NB遺伝子の突然変異はNA遺伝子の配列を変化させるが、対応する突然変異していないNA遺伝子によってコードされているNAと実質的に同じ活性を持つNAが産生される。この明細書では、“実質的に同じ活性”という表現に、対応する完全長ポリペプチドよりも例えば約0.1%、1%、10%、30%、50%(例えば100%またはそれ以上)大きな活性が含まれる。
【0012】
対応する野生型膜タンパク質遺伝子と比べて、機能性膜タンパク質またはその機能性の部分をコードしない膜タンパク質遺伝子変異体を含む組み換えインフルエンザ・ウイルスの調製方法も提供される。この方法は、複数のインフルエンザ・ベクター(例えば膜タンパク質遺伝子変異体を含むベクター)を含む組成物に宿主細胞を接触させて組み換えウイルスを作る操作を含んでいる。例えばインフルエンザB型の場合、その組成物は、a)転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPB1のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPB2のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのHAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNPのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNAおよびNBのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター(ただしNBのcDNA配列は、機能性のNB膜タンパク質をコードする対応するNB遺伝子と比べたときに少なくとも2つの突然変異を含んでおり、その突然変異のうちの1つは膜貫通ドメインには存在しておらず、突然変異遺伝子にその突然変異が存在していると、その突然変異遺伝子が宿主細胞の中で転写されて翻訳されたとき、機能性膜タンパク質またはその機能性の部分を産生せず、場合によっては機能性のNAタンパク質を産生する)、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのMのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNSのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクターの中から選択した少なくとも2つのベクターと、b)インフルエンザ・ウイルスのPAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのPB1をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのPB2をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNPをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのHAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのM1をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのM2をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNSをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクターの中から選択した少なくとも2つのベクターとを含んでいる。
【0013】
本発明によりさらに、上記複数のベクターを含む組成物と、その組成物または本発明の単離した組み換えウイルスとの接触によって例えば感染性ウイルスを産生させる宿主細胞とが提供される。あるいは宿主細胞は、それぞれのベクター、またはベクター群の一部と順番に接触させることもできる。
【0014】
インフルエンザ・ウイルスB/Lee/40の少なくとも1つのタンパク質をコードする単離および/または精製した核酸分子(ポリヌクレオチド)、またはその一部、またはその核酸分子の相補体がさらに提供される。一実施態様では、単離および/または精製したその核酸分子は、HA、NA、PB1、PB2、PA、NP、M、NS、またはその一部で配列ID番号1〜8のうちの1つによってコードされている対応するポリペプチドと実質的に同じ活性を持つ部分をコードする。この明細書では、“実質的に同じ活性”という用語には、対応する完全長ポリペプチドよりも例えば約0.1%、1%、10%、30%、50%(例えば100%またはそれ以上)大きい活性が含まれる。一実施態様では、単離および/または精製した核酸分子は、アミノ酸配列が配列ID番号1〜8のうちの1つによってコードされているポリペプチドと少なくとも80%(例えば90%、92%、95%、97%、99%)連続して同一性のポリペプチドをコードする。一実施態様では、単離および/または精製した核酸分子は、核酸配列が配列ID番号1〜8のうちの1つと少なくとも50%(例えば60%、70%、80%、90%、またはそれ以上)連続して同一性のヌクレオチド配列またはその相補体を含んでおり、単離および/または精製したその核酸分子が配列ID番号1〜8のうちの1つのコード配列と相同である場合には、アミノ酸配列が配列ID番号1〜8のうちの1つによってコードされているポリペプチドと少なくとも80%(例えば90%、92%、95%、97%、99%)連続して同一性のポリペプチドをコードする。別の一実施態様では、インフルエンザ・ウイルスB/Lee/40の少なくとも1つのタンパク質をコードする単離および/または精製した核酸分子、またはその一部、またはその核酸分子の相補体は、配列ID番号1〜8のうちの1つまたはその相補体と、非ストリンジェント条件、中程度のストリンジェント条件、ストリンジェント条件いずれかのもとでハイブリダイズする。例えば以下の条件を利用できる:7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と、0.5MのNaPO4と、1mMのEDTAとを用いて50℃にてハイブリダイズさせ、2×SSCと0.1%SDSの中で50℃にて洗浄する。より望ましいのは、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と、0.5MのNaPO4と、1mMのEDTAとを用いて50℃にてハイブリダイズさせ、1×SSCと0.1%SDSの中で50℃にて洗浄することであり、それ以上に望ましいのは、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と、0.5MのNaPO4と、1mMのEDTAとを用いて50℃にてハイブリダイズさせ、0.5×SSCと0.1%SDSの中で50℃にて洗浄することであり、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と、0.5MのNaPO4と、1mMのEDTAとを用いて50℃にてハイブリダイズさせ、0.1×SSCと0.1%SDSの中で50℃にて洗浄することが好ましく、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と、0.5MのNaPO4と、1mMのEDTAとを用いて50℃にてハイブリダイズさせ、0.1×SSCと0.1%SDSの中で65℃にて洗浄することがさらに好ましい。
【0015】
本発明の核酸分子を使用し、インフルエンザのタンパク質を発現させること、および/または(例えば他のインフルエンザ・ウイルスの遺伝子も含め、他のウイルスの遺伝子との)キメラ遺伝子を調製すること、および/または組み換えウイルスを調製することができる。そこで本発明により、単離したポリペプチドと、組み換えウイルスと、インフルエンザ・ウイルスB/Lee/40の配列を含む核酸分子または組み換えウイルスと接触した宿主細胞も提供される。このようなポリペプチド、組み換えウイルス、宿主細胞は、治療に用いて例えば保護免疫応答を誘導すること、または遺伝子治療で用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】確立したリバース・ジェネティックス系の概略図である。RNPトランスフェクション法(A)では、in vitroで合成したvRNAを用い、精製したNPタンパク質とポリメラーゼ・タンパク質をRNPの中で組み立てる。細胞にRNPをトランスフェクトした後、ヘルパー・ウイルスを感染させる。RNAポリメラーゼI法(B)では、RNAポリメラーゼIプロモータと、救うvRNAをコードするcDNAと、RNAポリメラーゼIターミネータとを含むプラスミドを細胞にトランスフェクトする。RNAポリメラーゼIによる細胞内転写によって合成vRNAが産生されるので、ヘルパー・ウイルスを感染させるときにそのvRNAを子孫のウイルス粒子にパッケージングする。両方の方法を用い、形質転換ウイルス(すなわちクローニングしたcDNAに由来するRNAを含むもの)を、ヘルパー・ウイルスの集団から選択する。
【図2】RNAポリメラーゼI構造体を作るための概略図である。インフルエンザ・ウイルスからのcDNAをPCRで増幅し、BsmBIで消化させ、クローニングし、ヒトRNAポリメラーゼIプロモータ(P)と、マウスRNAポリメラーゼIターミネータ(T)とを含むpHH21ベクター(E. Hoffmann、博士論文、ユストゥス、リービッヒ大学、ギーセン、ドイツ国)のBsmBI部位に入れた。ターミネータ配列(T*)の上流にあるチミジン・ヌクレオチドは、インフルエンザ・ウイルスのRNAの3'末端を表わしている。インフルエンザA型ウイルスの配列を太字で示してある(配列ID番号10〜19と28〜29)。
【図3】セグメント化されたマイナス鎖RNAウイルスを作るために提案するリバース・ジェネティックス法。RNAポリメラーゼIプロモータと、ウイルスの8本あるRNAセグメントのそれぞれに対するcDNAと、RNAポリメラーゼIターミネータとを含むプラスミドを、タンパク質発現プラスミドとともに細胞にトランスフェクトする。感染性ウイルスは、PA、PB1、PB2、NPを発現させるプラスミドを用いて作れるが、残ったすべての構造タンパク質(括弧にくくって示してある)が発現すると、作るウイルスによるが、ウイルスの産生効率が大きくなる。
【図4】NAセグメントに導入した突然変異の図。突然変異を太字で示してある(-は欠失;*は挿入)。図に示した数字は、ヌクレオチドの位置である(配列ID番号20〜27)。
【図5A】NBタンパク質の発現を分析した結果。(A)感染したMDCK細胞内のNBタンパク質を免疫蛍光アッセイによって検出した結果。B/LeeRGは、B/LeeRGに感染した細胞;WSNは、A/WSN/33に感染した細胞;対照は、感染していない細胞;#1、#2、#3は、それぞれBLeeNBstop#1、BLeeNBstop#2、BLeeNBstop#3に感染した細胞である。
【図5B】NBタンパク質の発現を分析した結果。(B)ウイルスに感染したMDCK細胞の中でNBタンパク質を免疫沈降アッセイによって検出した結果。放射性標識したNBタンパク質を、ウサギ抗NBペプチド血清を用いて免疫沈降させ、勾配が4〜20%のポリアクリルアミド・ゲル上で分析した。#1は、BLeeNBstop#1に感染した細胞のライセート;#2は、BLeeNBstop#2に感染した細胞のライセート;#3は、BLeeNBstop#3に感染した細胞のライセート;Cは感染していない細胞のライセートである。分子量マーカー(kDa)が示してある。
【図6】B/LeeRGと突然変異ウイルスの増殖曲線。MDCK細胞にウイルス(0.001PFU)を感染させ、37℃にてインキュベートした。感染後、図に示した経過時間のときに、ウイルスの力価を上澄の中で測定した。数値は、3回の測定に関する平均(±標準偏差)である。
【図7−1】インフルエンザ・ウイルスB/Lee/40の配列(配列ID番号1〜8)。
【図7−2】図7−1の続き。
【図7−3】図7−2の続き。
【図7−4】図7−3の続き。
【図7−5】図7−4の続き。
【図7−6】図7−5の続き。
【図7−7】図7−6の続き。
【図7−8】図7−7の続き。
【図7−9】図7−8の続き。
【図7−10】図7−9の続き。
【図7−11】図7−10の続き。
【図7−12】図7−11の続き。
【図7−13】図7−12の続き。
【図7−14】図7−13の続き。
【図7−15】図7−14の続き。
【図7−16】図7−15の続き。
【図7−17】図7−16の続き。
【図7−18】図7−17の続き。
【図7−19】図7−18の続き。
【図7−20】図7−19の続き。
【図7−21】図7−20の続き。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
【0018】
この明細書では、“単離および/または精製した”という表現は、本発明のベクター、プラスミド、ウイルスをin vitroで調製、および/または単離、および/または精製することを意味するため、そのベクター、プラスミド、ウイルスはin vivoの物質とは無関係であり、in vitroの物質から実質的に精製される。本発明の単離したウイルス製剤は、一般に、in vitroで培養、増殖させることによって得られるため、他の感染性媒体を実質的に含んでいない。この明細書では、“実質的に含んでいない”という表現は、特定の感染性媒体が、その媒体を検出する標準的な方法を利用したときに検出レベル以下であることを意味する。“組み換え”ウイルスは、in vitroで操作した(例えば組み換えDNA技術を利用してウイルスのゲノムを変化させた)ウイルスである。
【0019】
この明細書では、“組み換え核酸”、“組み換えDNA配列”、“組み換えDNAセグメント”という用語は、ある供給源に由来する核酸(例えばDNA)、またはある供給源から単離された核酸であって、その後in vitroで化学的に変化させることができるため、その核酸の配列が天然の配列とは異なっているもの、あるいは天然の配列が元のゲノムにおいて存在するであろう位置にないものを意味する。
【0020】
ある供給源に“由来する”DNAの一例は、有用な断片として同定された後、それが化学的に合成されて実質的に純粋な形態になったDNA配列であろう。ある供給源に“由来する”そのようなDNAの一例は、化学的な手段で(例えば制限エンドヌクレアーゼを使用して)その供給源から切除または除去し、本発明で使用するために遺伝子工学の手法でさらに操作する(例えば増幅する)ことのできる有用なDNA配列であろう。
【0021】
“非ストリンジェント”条件には、30〜35%のホルムアミドと、1MのNaClと、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む緩衝溶液を用いて37℃にてハイブリダイズさせ、1×〜2×SSC(20×SSC=3.0MのNaCl/0.3Mのクエン酸三ナトリウム)の中で50〜55℃にて洗浄するという条件が含まれる。
【0022】
“中程度のストリンジェント”条件には、40〜45%のホルムアミドと、1.0MのNaClと、1%SDSを含む緩衝溶液を用いて37℃にてハイブリダイズさせ、0.5×〜1×SSCの中で55〜60℃にて洗浄するという条件が含まれる。
【0023】
サザン・ブロットまたはノーザン・ブロットにおいて相補的な残基が100個を超える相補的な核酸をフィルタ上でハイブリダイズさせるための“ストリンジェント”条件は、50%のホルムアミド(例えば50%のホルムアミドと、1MのNaClと、1%SDSの中での37℃でのハイブリダイゼーション)と、0.1×SSCの中での60〜65℃における洗浄が含まれる。
【0024】
比較のため配列をアラインメントさせる方法は、従来技術において周知である。例えば任意の2つの配列の間のパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて実現できる。そのような数学的アルゴリズムの好ましい具体例は、MyersとMillerのアルゴリズム、1988年;Smithらの局所ホモロジー・アルゴリズム、1981年;NeedlemanとWunschのホモロジー・アラインメント・アルゴリズム、1970年;PearsonとLipmanの類似性検索法、1988年;KarlinとAltschulのアルゴリズム、1990年;KarlinとAltschulによるその改変版、1993年などである。
【0025】
配列を比較して配列の同一性を調べるには、これら数学的アルゴリズムをコンピュータ化したものを利用できる。その具体例としては、PC/遺伝子プログラムに含まれているCLUSTAL(インテリジェネティックス社(マウンテン・ヴュー、カリフォルニア州)から入手できる);ALIGNプログラム(バージョン2.0)と、ウィスコンシン遺伝学ソフトウエア・パッケージ、バージョン8(遺伝学コンピュータ・グループ(GCG)、575 サイエンス・ドライヴ、マディソン、ウィスコンシン州、アメリカ合衆国から入手できる)に含まれているGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、TFASTAなどがある。これらのプログラムを用いたアラインメントは、デフォルト・パラメータを利用して実行することができる。CLUSTALプログラムについては、Higgins他、1988年;Higgins他、1989年;Corpet他、1988年;Huang他、1992年;Pearson他、1994年による詳しい説明がある。ALIGNプログラムは、MyersとMiller(上記文献)のアルゴリズムに基づいている。Altschulら(1990年)のBLASTプログラムは、KarlinとAltschul(上記文献)のアルゴリズムに基づいている。
【0026】
BLAST分析を行なうためのソフトウエアは、国立バイオテクノロジー情報センターを通じて公開されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。このアルゴリズムは、まず最初に、調べる配列に含まれている長さがWのワードの中から、データベースに含まれている配列の中で長さがそれと同じワードとアラインメントしたときに何らかの正値の閾値Tと一致するかその閾値Tを満たすものを同定することにより、高得点の配列ペア(HSP)を同定する操作を含んでいる。Tは、近傍ワード得点閾値と呼ばれる(Altschul他、1990年)。最初に見つかったこれら近傍ワードのヒットは、その近傍ワードを含むより長いHSPの検索を開始するための手がかりとなる。次に、ワードのヒットをそれぞれの配列に沿って両方の方向に拡張するという操作を、累積アラインメント得点が増大する限り続ける。累積得点は、ヌクレオチド配列に関しては、パラメータM(一致した残基のペアに関する報酬得点;常に正の値)とN(一致しない残基に関する罰点;常に負の値)を用いて計算される。アミノ酸配列関しては、得点マトリックスを用いて累積得点を計算する。ヒットしたワードのそれぞれの方向への延長は、アラインメントの累積得点が、到達する最大値から量Xだけ離れたとき、または負の得点になる残基のアラインメントが1つ以上累積することで累積得点がゼロまたはそれ以下になったとき、または配列の末端に到達したときに停止させる。
【0027】
BLASTアルゴリズムは、パーセント配列同一性を計算するだけでなく、2つの配列間の類似度の統計的分析も実行する(例えばKarlinとAltschul、1993年を参照のこと)。BLASTアルゴリズムによって与えられる類似度の1つの指標は、2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列が偶然に一致する確率の1つの目安である最小和確率(P(N))である。例えばテストする核酸配列が参照配列と類似していると考えられるのは、テストする核酸配列を参照核酸配列と比較したときの最小和確率が約0.1未満(約0.01未満であることがより好ましく、約0.001未満であることが最も好ましい)のときである。
【0028】
比較を目的としてギャップのあるアラインメントを得るには、Altschulら(1997年)が記載しているように、(BLAST2.0に含まれる)ギャップ付きBLASTを用いることができる。あるいは(BLAST2.0に含まれる)PSI-BLASTを用いて繰り返し検索を行ない、離れた分子間の関係を検出することもできる。Altschulらの上記文献を参照のこと。BLAST、ギャップ付きBLAST、PSI-BLASTを用いる場合には、代表的なプログラム(例えば、ヌクレオチド配列に関するBLASTN、タンパク質に関するBLASTX)のデフォルト・パラメータを用いることができる。(ヌクレオチド配列に関する)BLASTNプログラムは、デフォルトとしてワード長(W)を11、期待値(E )を10、カットオフを100、M=5、N=-4にし、両方の鎖を比較する。アミノ酸に関しては、BLASTPプログラムが、デフォルトとしてワード長(W)を3、期待値(E )を10にし、BLOSUM62得点マトリックスを使用する(HenikoffとHenikoff、1989年)。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照のこと。アラインメントは、目視によって手で実行することもできる。
【0029】
配列を比較するには、一般に1つの配列が参照配列となり、テスト配列をその参照配列と比較する。配列比較アルゴリズムを用いる場合には、テスト配列と参照配列をコンピュータに入力し、必要な場合には続いて座標を指定し、配列アルゴリズム・プログラムのパラメータを指定する。すると配列比較アルゴリズムは、指摘したプログラム・パラメータに基づき、参照配列に対するテスト配列のパーセント配列同一性を計算する。
【0030】
オルトミクソウイルス
【0031】
インフルエンザ・ウイルス
【0032】
インフルエンザA型ウイルスは、8本の一本鎖マイナス・センス・ウイルスRNA(vRNA)からなるゲノムを持っており、そのRNAが合計で10種類のタンパク質をコードする。インフルエンザ・ウイルスのライフサイクルは、HAが宿主細胞の表面にあるシアル酸含有受容体と結合することによって始まり、その後、受容体を媒介としたエンドサイトーシスが起こる。後期エンドソーム内の低pHがトリガーとなってHAのコンホメーションがシフトし、その結果としてHA2サブユニット(いわゆる融合ペプチド)のN末端が露出する。この融合ペプチドによってウイルスの膜とエンドソームの膜の融合が始まり、マトリックス・タンパク質(M1)とRNP複合体が細胞質に放出される。RNPは、vRNAを包んでいる核タンパク質(NP)と、ウイルスのポリメラーゼ複合体(PAタンパク質、PB1タンパク質、PB2タンパク質で構成されている)とからなる。RNPは核に運ばれ、そこで転写と複製が起こる。RNAポリメラーゼ複合体は、異なる3つの反応の触媒となる。それは、5'キャップと3'ポリA構造を有するmRNAの合成と、完全長相補的RNA(cRNA)の合成と、cDNAを鋳型として用いたゲノムvRNAの合成である。次に、新たに合成されたvRNA、NP、ポリメラーゼが組み立てられてRNPとなって核の外に出ていき、細胞膜へと輸送され、そこで子孫のウイルス粒子の出芽が起こる。ノイラミニダーゼ(NA)タンパク質は、シアリルオリゴ糖からシアリル酸を取り去ることで新たに組み立てられたビリオンを細胞の表面から放出してウイルス粒子が自己凝集するのを防止するという極めて重要な役割を感染の後期に果たす。ウイルス粒子はタンパク質-タンパク質相互作用とタンパク質-vRNA相互作用をするが、これら相互作用の性質はほとんどわかっていない。
【0033】
インフルエンザB型ウイルスとインフルエンザC型ウイルスは構造的にも機能的にもインフルエンザA型ウイルスと似ているが、いくつかの違いが存在している。例えばインフルエンザB型ウイルスは、イオン・チャネル活性を有するM2タンパク質を持たない。しかしCM1タンパク質がこの活性を持っているようである。イオン・チャネル・タンパク質の活性は、従来技術でよく知られた方法で測定できる。例えばHolsinger他(1994年)とWO 01/79273を参照のこと。
【0034】
本発明で利用できる細胞系とインフルエンザ・ウイルス
【0035】
本発明によれば、インフルエンザ・ウイルスの効果的な複製をサポートする任意の細胞(例えば、インフルエンザ・ウイルスにとっての受容体である1つ以上のシアル酸の発現レベルが低下した突然変異細胞)を本発明で用いることができる。本発明の方法で得られたウイルスは、遺伝子再集合ウイルスにすることができる。
【0036】
細胞は、WHOによって保証された細胞系、またはWHOによる保証が可能な細胞系であることが好ましい。そのような細胞系を保証する条件は、少なくとも1つの系統に関し、増殖特性、免疫学的マーカー、ウイルスの感受性、腫瘍原性、保管条件が明らかになっていることのほか、動物、卵、細胞培養物でのテストがなされていることである。このような特性を利用することにより、検出可能な偶発的な媒体が細胞に検出可能なレベルで含まれていないことを確認する。国によっては、核学も必要とされる。さらに、ワクチンの製造に用いるのと同じ継代レベルの細胞において腫瘍原性がテストされていることが好ましい。ウイルスは、ワクチンを製造するため不活化または弱毒化する前に、安定した結果を示すことが明らかになっている方法で精製することが好ましい(例えば世界保健機関、1982年を参照のこと)。
【0037】
最終製品の純度に関する適切なテストを含められるよう、使用する細胞系の特徴を完全に明らかにすることが好ましい。本発明で用いる細胞の特徴を明らかにするのに使用できるデータとしては、(a)出所、由来、継代記録に関する情報;(b)増殖と形態的特徴に関する情報;(c)偶発的な媒体のテスト結果;(d)その細胞を他の細胞系の中で明確に認識することを可能にする顕著な特徴(例えば生化学的、免疫学的、細胞遺伝学的なパターンなど);(e)腫瘍原性に関するテスト結果などがある。使用する宿主細胞の継代数、または集合二倍化の回数は、できるだけ少ないことが好ましい。
【0038】
細胞内で産生されたウイルスは、ワクチンまたは遺伝子療法製剤にする前によく精製することが好ましい。一般に、精製手続きにより、細胞DNA、他の細胞成分、偶発的な媒体が広範囲に除去される。DNAを広範囲に分解または変性させる手続きも利用することができる。例えばMizrahi、1990年を参照のこと。
【0039】
ワクチン
【0040】
本発明のワクチンは、任意の病原体の糖タンパク質を含む免疫原性タンパク質(例えば1種類以上の細菌、ウイルス、酵母、真菌からの免疫原性タンパク質)を含むことができる。そこで一実施態様では、本発明のインフルエンザ・ウイルスとして、インフルエンザ・ウイルスまたは他のウイルス病原体(例えばレンチウイルス(HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスなど)、ヘルペスウイルス(CMV、HSVなど)、口蹄疫ウイルス)のためのワクチン・ベクターが可能である。
【0041】
完全なビリオン・ワクチンは、限外濾過によって濃縮した後、ゾーン遠心分離またはクロマトグラフィによって精製する。精製の前または後に、例えばホルマリンまたはβ-プロピオラクトンを用いてそのワクチンを不活化する。
【0042】
サブユニット・ワクチンは、精製した糖タンパク質を含んでいる。このようなワクチンは、以下のようにして調製できる。洗剤で処理することによって断片化したウイルス懸濁液を用い、例えば超遠心分離によって表面抗原を精製する。したがってサブユニット・ワクチンは、主としてHAタンパク質を含んでおり、NAも含んでいる。使用する洗剤としては、例えば、カチオン洗剤(ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(Bachmeyer、1975年)など)、アニオン洗剤(デオキシコール酸アンモニウム(LaverとWebster、1976年;Webster他、1977年)、非イオン洗剤(トリトンX100という名称で市販されているものなど)が可能である。ヘマグルチニンは、ビリオンをプロテアーゼ(例えばブロメリン)で処理した後、GrandとSkehel(1972年)が記載しているような方法で精製して単離することもできる。
【0043】
スプリット・ワクチンは、脂質を溶かす媒体で処理したビリオンを含んでいる。スプリット・ワクチンは、以下のようにして調製することができる。上記のようにして得られた精製ウイルス(不活化したもの、または不活化していないもの)の水性懸濁液を、撹拌しながら脂質溶媒(例えばエチルエーテルまたはクロロホルム)と洗剤で処理する。ウイルスのエンベロープの脂質を溶かすと、ウイルス粒子の断片化が起こる。元の脂質環境が除去されたヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼと、コアまたはその分解産物とで主として構成されているスプリット・ワクチンを含む水相を回収する。次に、残った感染性粒子の不活化がまだなされていない場合には不活化を行なう。
【0044】
不活化ワクチン
【0045】
本発明の不活化インフルエンザ・ウイルス・ワクチンは、本発明の複製ウイルスを公知の方法(例えばホルマリンまたはβ-プロピオラクトンを用いた処理)で不活化することによって得られる。本発明で使用できる不活化ワクチンのタイプとしては、全ウイルス(WV)ワクチンまたはサブビリオン(SV)(スプリット)ワクチンが挙げられる。WVワクチンは、不活化した元のウイルスを含んでいるのに対し、SVワクチンは、脂質を含むウイルスのエンベロープを可溶化する洗剤で精製したウイルスを破壊した後、残ったウイルスを化学的に不活化したものを含んでいる。
【0046】
さらに、使用可能なワクチンとしては、単離した表面タンパク質HAとNAを含むものが可能である。そのようなワクチンのことを表面抗原ワクチンまたはサブユニット・ワクチンと呼ぶ。一般に、SVワクチンと表面抗原(すなわち精製したHAまたはNA)ワクチンに対する応答は似ている。伝染性ウイルスと免疫上関係するNA抗原と、関係のないHAとを含む実験的不活化WVワクチンは、従来のワクチンよりも効果が少ないように見える(Ogra他、1977年)。
【0047】
弱毒生ワクチン
【0048】
弱毒生インフルエンザ・ウイルス・ワクチンを使用し、公知の方法に従ってインフルエンザ・ウイルスの感染を予防または治療することもできる。弱毒化は、公知の方法(例えばMurphy、1993年を参照のこと)を利用し、弱毒化したドナー・ウイルスからの弱毒化した遺伝子を、複製した単離体または遺伝子再集合ウイルスに移す単一のステップで実現することが好ましい。インフルエンザA型ウイルスに対する抵抗力は糖タンパク質HAとNAに対する免疫応答の進展によって決まるため、これら表面抗原をコードする遺伝子は、遺伝子再集合ウイルスまたは増殖能の大きな臨床単離体からのものである必要がある。弱毒化した遺伝子は、弱毒化した親に由来する。この方法では、弱毒化させる遺伝子は、糖タンパク質HAとNAをコードしないことが好ましい。さもないと、これら遺伝子を、ウイルス臨床単離体の表面抗原を有する遺伝子再集合体に移せない可能性がある。
【0049】
多くのドナー・ウイルスについて、インフルエンザ・ウイルスを弱毒化する能力の再現性がこれまでに評価されている。その一例として、A/AnnArbor(AA)/6/60(H2N2)低温適応(ca)ドナー・ウイルスを利用して弱毒ワクチンを製造することができる(例えばEdwards、1994年;Murphy、1993年を参照のこと)。さらに、弱毒化した生の遺伝子再集合ウイルス・ワクチンは、caドナー・ウイルスを本発明の伝染性複製ウイルスとペアにすることによって作ることができる。次に、弱毒化したA/AA/6/60(H2N2)caドナー・ウイルスの表面抗原を有するウイルスの複製を抑制するH2N2抗血清の存在下で、(伝染性ウイルスの複製を制限する)25℃にて子孫の遺伝子再集合体を選択する。
【0050】
一連のH1N1とH3N2の遺伝子再集合体をヒトで評価したところ、(a)感染性、(b)血清マイナスの子どもと免疫感受性のある成人にとっての弱毒化、(c)免疫学的な安定性、(d)遺伝子の安定性に関して満足すべきものであることがわかった。ca遺伝子再集合体の免疫原性は、その遺伝子再集合体の複製レベルと並行関係にある。したがって新しい野生型ウイルスがcaドナーの移植可能な6つの遺伝子を取得するとそのウイルスが再現性よく弱毒化され、そのウイルスを感受性のある成人と子どもへのワクチン接種に用いることができる。
【0051】
他の弱毒化突然変異を部位指定突然変異誘発によってインフルエンザ・ウイルスの遺伝子に導入し、その遺伝子を有する感染性ウイルスを救うことができる。弱毒化突然変異は、ゲノムの非コード領域とコード領域に導入することができる。このような弱毒化突然変異は、HAやNA以外の遺伝子(例えばPB2ポリメラーゼ遺伝子)にも導入できる(Subbarao他、1993年)。したがって、部位指定突然変異誘発によって導入した弱毒化突然変異を有する新しいドナー・ウイルスも作ることができ、A/AA/6/60(H2N2)caドナー・ウイルスで説明したのと同様にして、そのような新しいドナー・ウイルスを用いて弱毒化した生のH1N1ワクチン候補やH3N2ワクチン候補を減らすことができる。同様に、他の公知の適切な弱毒化ドナー株を本発明のインフルエンザ・ウイルスで遺伝子再集合体にし、哺乳動物への接種に適した弱毒ワクチンを得ることができる(Enami他、1990年;Muster他、1991年;Subbarao他、1993年)。
【0052】
このような弱毒化ウイルスは、元の臨床単離体の遺伝子と実質的に同じ抗原性決定基をコードするウイルス由来遺伝子を保持していることが好ましい。その理由は、弱毒ワクチンの目的が、ウイルスの元の臨床単離体と実質的に同じ抗原性を提供すると同時に、感染性を弱くすることで、そのワクチンが、接種された哺乳動物に最少の変化しか起こさず、深刻な発病状態を誘導することがないようにすることだからである。
【0053】
したがってウイルスは、公知の方法に従って弱毒化または不活化し、製剤化し、ワクチンとして投与することにより、動物(例えば哺乳動物)に免疫応答を誘導することができる。そのような弱毒ワクチンまたは不活化ワクチンが、臨床単離体またはその臨床単離体に由来する増殖能の大きな株と同様の抗原性を保持しているかどうかを調べる方法は、従来技術でよく知られている。公知のそのような方法として、抗血清または抗体を用い、ドナー・ウイルスの抗原性決定基を発現するウイルスを除去する方法;化学的選択法(例えばアマンタジンまたはリマンタジン);HAとNAの活性化と抑制;(例えばプローブ・ハイブリダイゼーションやPCRで)DNAをスクリーニングし、弱毒化したウイルスに抗原性決定基(例えばHA遺伝子またはNA遺伝子)が存在していないことを確認する方法などがある。例えばRobertson他、1988年;Kilbourne、1969年;Aymard-Henry他、1985年;Robertson他、1992年を参照のこと。
【0054】
医薬組成物
【0055】
本発明の医薬組成物は、接種、非経口投与、経口投与に適していて、弱毒化インフルエンザ・ウイルスまたは不活化インフルエンザ・ウイルスを含んでおり、場合によってはさらに、殺菌した水性または非水性の溶液、懸濁液、エマルジョンも含んでいる。この組成物は、従来技術で知られているように、助剤または賦形剤をさらに含むことができる。例えばBerkow他、1987年;Goodman他、1990年;『エーヴリーの薬剤治療』、1987年;Osol、1980年;Katzung、1992年を参照のこと。本発明の組成物は、一般に、1回ごとの用量(単位用量)の形態で提供される。
【0056】
従来のワクチンは、一般に、組成物の中に入るそれぞれの株からのヘマグルチニンを約0.1〜200μg(10〜15μgが好ましい)含んでいる。本発明によるワクチン組成物の主成分となるワクチンは、A型、B型、C型のいずれか、またはこれらの任意の組み合わせ(例えば、これら3つの型のうちの少なくとも2つ、異なる少なくとも2つの亜型、少なくとも2つの同じ型、少なくとも2つの同じ亜型、異なる単離体または遺伝子再集合体)を含むことができる。ヒト・インフルエンザA型ウイルスには、H1N1、H2N2、H3N2という亜型がある。
【0057】
非経口投与のための製剤としては、殺菌した水性または非水性の溶液、懸濁液、エマルジョンなどが挙げられ、その製剤には、従来技術で知られている助剤または賦形剤が含まれていてもよい。非水性溶媒の具体例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えばオリーブ油)、注射可能な有機エステル(例えばオレイン酸エチル)である。基剤または吸蔵性被覆剤を用いて皮膚への透過性を高め、抗原の吸収を促進することができる。経口投与のための液体投与形態は、一般に、その液体投与形態を含有するリポソーム溶液にすることができる。リポソームを懸濁させる適切な形態としては、従来技術で一般に用いられている不活性な希釈剤(例えば精製水)を含むエマルジョン、懸濁液、溶液、シロップ、エリキシルなどがある。このような組成物は、不活性な希釈剤の他に、アジュバント、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、甘味剤、風味剤、着香剤を含むこともできる。例えばBerkow他、1992年;Goodman他、1990年;Avery、1987年;Osol、1980年;Katzung、1992年を参照のこと。
【0058】
本発明の組成物を個人に投与する場合、その組成物は、塩、緩衝液、アジュバント、あるいはその組成物の効果を改善する上で望ましい他の物質をさらに含むことができる。ワクチンでは、特定の免疫応答を増大させることが可能な物質であるアジュバントを用いることができる。通常は、アジュバントと組成物を混合した後に免疫系に提示するか、あるいは別々に免疫系に提示するが、免疫化する生物の同じ部位に提示する。ワクチン組成物で使用するのに適した材料の具体例は、Osol(1980年)に挙げられている。
【0059】
ワクチンにおける異原性は、少なくとも2つのインフルエンザ・ウイルス株(例えば2〜50株)について複製したインフルエンザ・ウイルスを混合することによって与えられる。最近の抗原性組成物を含むインフルエンザA型またはB型ウイルス株が好ましい。本発明によれば、ワクチンは、従来技術で知られている方法を利用し、インフルエンザ・ウイルスの単一株におけるさまざまな変異に対するものを提供できる。
【0060】
本発明の医薬組成物は、少なくとも1種類の化学療法用化合物をさらに含んでいてもよい。例えば遺伝子治療のためには、免疫抑制剤、消炎剤、免疫促進剤が含まれていてもよく、ワクチンのためには、化学療法用物質として、例えばγグロブリン、アマンタジン、グアニジン、ヒドロキシベンゾイミダゾール、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、腫瘍壊死因子α、チオセミカルバルゾン、メチサゾン、リファンピン、リバビリン、ピリミジン類似体、プリン類似体、ホスカルネット、ホスホノ酢酸、アシクロビル、ジデオキシヌクレオシド、プロテアーゼ阻害剤、ガンシクロビルなどが含まれていてもよい。例えばKatzung(1992年)と、その中の798〜800ページと680〜681ページに引用されている参考文献をそれぞれ参照のこと。
【0061】
本発明の組成物は、内毒素を含まない、わずかだがいろいろな量のホルムアミドと、安全でこの組成物を投与される生物に望ましくない効果を与えないことがわかっている保存剤も含むことができる。
【0062】
医薬品の目的
【0063】
組成物(またはそれから誘導される抗血清)を投与するのは、“予防”または“治療”が目的である。予防が目的である場合には、ワクチンとしての本発明の組成物を、病原体の感染による何らかの症状が現われる前に与える。この組成物を予防のために投与すると、その後のあらゆる感染の予防または軽減に役立つ。予防が目的である場合には、本発明の遺伝子治療用組成物を、疾患の何らかの症状が現われる前に与える。この組成物を予防のために投与すると、この疾患に付随する1つ以上の症状の予防または軽減に役立つ。
【0064】
治療が目的である場合には、実際に感染の症状が検出されたときに弱毒化ウイルス・ワクチンまたは不活化ウイルス・ワクチンを与える。この組成物を治療のために投与すると、実際のあらゆる感染を軽減させるのに役立つ。例えばBerkow他、1992年;Goodman他、1990年;Avery、1987年;Katzung、1992年を参照のこと。治療が目的である場合には、遺伝子治療用組成物を、疾患の症状または徴候が検出されたときに与える。この化合物を治療のために投与すると、その疾患の症状または徴候を軽減するのに役立つ。
【0065】
したがって本発明の弱毒化ウイルス・ワクチン組成物または不活化ウイルス・ワクチン組成物は、(予期される感染の予防または軽減を目的として)感染する前、または実際の感染が始まった後に投与することができる。同様に、遺伝子治療では、この組成物を、異常または疾患の何らかの症状が現われる前、または1つ以上の症状が検出された後に与えることができる。
【0066】
組成物は、投与がレシピエントによって許容される場合に、“薬理学的に許容可能である”と言われる。そのような薬剤は、投与量が生理学的に有意である場合に、“治療に有効な量”が投与されたと言われる。本発明の組成物は、その存在によってレシピエントに検出可能な生理学的な変化が起こる場合(例えば感染性インフルエンザ・ウイルスの少なくとも1つの株に対する少なくとも1つの一次または二次の液性免疫応答または細胞性免疫応答が増大する場合)に生理学的に有意である。
【0067】
与えられる“防御”は絶対的である必要はない。すなわちインフルエンザの感染が完全に予防されたり根絶されたりする必要はなく、対照となる患者群と比較して統計的に有意な改善があればよい。防御は、インフルエンザ・ウイルスの感染症状の重さまたは進行速度を緩和することに限られる可能性がある。
【0068】
医薬品の投与
【0069】
本発明の組成物は、受動免疫化または能動免疫化により、1種類以上の病原体(例えば1種類以上のインフルエンザ・ウイルス株)に対する抵抗力を与えることができる。能動免疫化では、不活化または弱毒化した生ワクチン組成物を宿主(例えば哺乳動物)に予防的に投与し、その投与に対する宿主の免疫応答によって感染および/または疾患から保護する。受動免疫化では、誘導した抗血清を回収し、少なくとも1種類のインフルエンザ・ウイルス株による感染が疑われるレシピエントに投与する。本発明の遺伝子治療用組成物は、能動免疫化により、望む遺伝子産物の量を予防または治療が可能なレベルにすることができる。
【0070】
一実施態様では、ワクチン投与の時期と量に関し、免疫応答が起こってメスと(母体の胎盤またはミルクを通じて抗体が受動的に組み込まれることを通じて)胎児または新生児の両方を保護するのに役立つのに十分であるような条件下で、ワクチンを(妊娠または分娩のとき、またはその前に)哺乳動物のメスに与える。
【0071】
したがって本発明には、異常または疾患(例えば少なくとも1種類の病原体株による感染)を予防または軽減する方法が含まれる。この明細書では、ワクチンは、投与することによって疾患の症状または状態が全体的または部分的に軽減(すなわち抑制)されるか、疾患に対する全体的または部分的な免疫が個人にできるとき、その疾患を予防または軽減すると言われる。この明細書では、遺伝子治療用組成物は、投与することによって疾患の症状または状態が全体的または部分的に軽減(すなわち抑制)されるか、疾患に対する全体的または部分的な免疫が個人にできるとき、その疾患を予防または軽減すると言われる。
【0072】
本発明の不活化または弱毒化した少なくとも1種類のインフルエンザ・ウイルス、またはその組成物は、すでに説明した医薬組成物を利用し、目的を実現する任意の手段で投与することができる。
【0073】
例えば、このような組成物は、さまざまな非経口経路で投与することができる。例えば、皮下、静脈内、皮膚内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、口内、経皮などの経路がある。非経口投与は、ボーラスの注射、または時間をかけた少量ずつの輸液によることが可能である。本発明の医薬組成物を投与する好ましい方法は、筋肉内投与または皮下投与である。例えばBerkow他、1992年;Goodman他、1990年;Avery、1987年;Katzung、1992年を参照のこと。
【0074】
インフルエンザ・ウイルスに関係する病状を予防、抑制、治療するための典型的な投薬計画は、この明細書に記載したワクチン組成物の有効量を投与する操作を含んでいる。その場合、1回だけ投与したり、増量していく投与または追加投与として、1週間〜約24ヶ月の期間にわたって繰り返し投与したりする。
【0075】
本発明によれば、組成物の“有効量”とは、望む生物学的効果を得るのに十分な量である。有効な投与量は、レシピエントの年齢、性別、健康状態、体重や、現在受けている治療があればその種類、治療の頻度、望む効果の性質によって異なる。以下に示す有効投与量の範囲は、本発明を制限することを目的としておらず、好ましい投与量の範囲を表わしている。しかし最も好ましい投与量の範囲は、当業者であればわかっているように、個々の対象に合わせて当業者が決定することになろう。例えばBerkow他、1992年;Goodman他、1990年;Avery、1987年;Ebadi、1985年;Katzung、1992年を参照のこと。
【0076】
哺乳動物(例えばヒト)または成鳥にとっての弱毒化ウイルス・ワクチンの投与量は、約103〜107プラーク形成単位(PFU)/kgにすることができる。不活化ワクチンの投与量は、ヘマグルチニン・タンパク質を約0.1〜200μg(例えば50μg)にすることができる。しかし投与量は、既存のワクチンを出発点として使用して従来法で決まる安全かつ有効な量にすべきである。
【0077】
複製ウイルス・ワクチン1回分の用量に含まれる免疫反応性HAの量は、適切な量(例えば1〜50μg)が含まれるように標準化すること、あるいはアメリカ合衆国公衆衛生サービス(PHS)が推奨する量にすることができる。PHSが推奨する量は、三才児で1成分当たり通常は15μg、より年長の子どもで1成分当たり7.5μgである。NAの量も標準化できるが、この糖タンパク質は、処理装置で精製して保管している間に不安定になる可能性がある(Kendal他、1980年;Kerr他、1975年)。ワクチン0.5mlごとに、約10〜500億個のウイルス粒子が含まれていることが好ましく、100億個のウイルス粒子を含んでいることがより好ましい。
【0078】
以下の実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0079】
材料と方法
【0080】
細胞とウイルス
【0081】
293Tヒト胚性腎臓細胞とマディン-ダービー・イヌ腎臓細胞(MDCK)を、それぞれ、10%ウシ胎児血清を補足したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の中と、5%ウシ新生児血清を含む改変イーグル培地(MEM)の中に維持した。すべての細胞を37℃にて5%CO2の中に維持した。インフルエンザ・ウイルスA/WSN/33(H1N1)とA/PR/8/34(H1N1)を、産み出されてから10日になる卵の中で増殖させた。
【0082】
プラスミドの構成
【0083】
RNAポリメラーゼI構造体を作るため、インフルエンザ・ウイルスA/WSN/33またはA/PR/8/34のRNAに由来するcDNAをクローニングし、RNAポリメラーゼIのプロモータ配列とターミネータ配列の間に導入した。簡単に説明すると、クローニングしたcDNAを、BsmBI部位を含むプライマーを用いてPCRで増幅し、BsmBIで消化させ、クローニングしてpHH21ベクターのBsmBI部位に入れた。このpHH21ベクターは、ヒトRNAポリメラーゼIプロモータと、マウスRNAポリメラーゼIターミネータを、BsmBI部位によって隔てられた状態で含んでいる(図2)。A/WSN/33株の遺伝子PB2、PB1、PA、HA、NP、NA、M、NSをPCRで増幅した。そのとき用いたプラスミドは、それぞれ、pSCWPB2、pGW-PB1、pSCWPA(以上、すべてロスアンジェルスにあるカリフォルニア大学のDebi Nayak博士から入手)、pWH17、pWNP152、pT3WNA15(Castrucci他、1992年)、pGT3WM、pWNS1である。インフルエンザA/PR/8/34のPB1遺伝子を、pcDNA774(PB1)(Perez他、1998年)を鋳型として用いて増幅した。遺伝子に望まない突然変異が含まれていないようにするため、PCR由来の断片を、自動シークエンサ(アプライド・バイオシステムズ社、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を製造者が勧めるプロトコルに従って用いてシークエンシングした。A/WSN/33ウイルスの遺伝子HA、NP、NA、M1をコードするcDNAを報告されているようにしてクローニングし(Huddleston他、1982年)、サブクローニングして(ニワトリのβ-アクチン・プロモータによって制御される)真核生物発現ベクターpCAGGS/MCS(Niwa他、1991年)に入れると、pEWSN-HA、pCAGGS-WSN-NP0/14、pCAGGS-WNA15、pCAGGS-WSN-M1-2/1がそれぞれ得られた。A/PR/8/34ウイルスからの遺伝子M2とNS2をPCRで増幅し、クローニングしてpCAGGS/MCSに入れると、pEP24cとpCA-NS2が得られた。最後に、pcDNA774(PB1)、pcDNA762(PB2)、pcDNA787(PA)を用い、サイトメガロウイルスのプロモータ(Perez他、1998年)の制御下でタンパク質PB2、PB1、PAを発現させた。
【0084】
感染性インフルエンザ粒子の産生
【0085】
トランスIT LT-1(パンヴェラ社、マディソン、ウィスコンシン州)を製造者の指示に従って用い、293T細胞(1×106個)に最大で17種類のプラスミドを異なる量トランスフェクトした。簡単に説明すると、DNAとトランスフェクション試薬を混合し(DNA1μgにつきトランスIT LT-1を2μl)、室温にて45分間にわたってインキュベートし、細胞に添加した。6時間後、DNA-トランスフェクション試薬混合物を、0.3%ウシ血清アルブミンと0.01%ウシ胎児血清とを含むオプティ-MEM(ギブコ/BRL社、ゲーザーズバーグ、メリーランド州)と置換した。トランスフェクション後のさまざまな時点でウイルスを上澄から回収し、MDCK細胞上で滴定した。この方法だとヘルパー・ウイルスが不要であるため、回収したトランスフェクタント・ウイルスを、プラークを精製することなく分析した。
【0086】
プラスミドをトランスフェクトした細胞のうちでウイルスを産生するものの割合の決定
【0087】
トランスフェクションの24時間後、293T細胞を0.02%のEDTAとともに単一細胞の中に分散させた。次に、この細胞懸濁液を10倍に希釈し、24ウエルのプレートに入れたMDCK細胞の集密的細胞単層に移した。ウイルスを血球凝集アッセイで検出した。
【0088】
免疫染色アッセイ
【0089】
インフルエンザ・ウイルスを感染させてから9時間後、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、3.7%パラホルムアルデヒド(を含むPBS)で室温にて20分間にわたって固定した。次に、その細胞を0.1%トリトンX-100で処理し、Neumannら(1997年)が記載しているようにして処理した。
【0090】
結果
【0091】
プラスミドが、ウイルスのRNAセグメントと、ポリメラーゼの3つのサブユニットと、NPタンパク質とを発現させることによる、感染性ウイルスの産生
【0092】
精製したビリオンから抽出したRNP混合物を細胞にトランスフェクトすると感染性ウイルス粒子になるとはいえ、in vitroで作った異なる8つのRNPとともに用いる場合には、この方法は効率的ではなさそうに見える。cDNAだけから感染性インフルエンザ・ウイルスを作るため、in vivoでウイルスの8つのRNPを産生させた。そこで、A/WSN/33ウイルスの完全長RNAに関するcDNAを含んでいて、それにヒトRNAポリメラーゼIプロモータとマウスNAポリメラーゼIターミネータが隣接しているプラスミドを調製した。原則として、これら8つのプラスミドを真核細胞にトランスフェクトすると、インフルエンザの8つのvRNAがすべて合成されるはずである。タンパク質発現プラスミドを同時にトランスフェクトすることによって産生されるタンパク質PB2、PB1、PA、NPは、vRNAを組み立てて機能性のvRNAにし、そのvRNAが複製され、転写されると、最終的に感染性インフルエンザ・ウイルスを形成するはずである(図3)。1×106個の293T細胞に、タンパク質発現プラスミド(pcDNA762(PB2)を1μg、pcDNA774(PB1)を1μg、pcDNA787(PA)を0.1μg、pCAGGS-WSN-NP0/14を1μg)と、RNAポリメラーゼIプラスミド(pPO1I-WSN-PB2、pPO1I-WSN-PB1、pPO1I-WSN-PA、pPO1I-WSN-HA、pPO1I-WSN-NP、pPO1I-WSN-NA、pPO1I-WSN-M、pPO1I-WSN-NSをそれぞれ1μg)をトランスフェクトした。使用するpcDNA787(PA)の量を減らすという決断は、以前の観察結果(Mena他、1996年)と、ウイルス様粒子(VLP)の最適な製造条件に関するデータ(データは示さない)に基づいている。293T細胞にトランスフェクトしてから24時間後、1mlにつき7×103PFUのウイルスが上澄の中に見つかった(実験1、表1)。これは、リバース・ジェネティックスによってプラスミドだけからインフルエンザA型ウイルスを作れることを初めて示す結果である。
【0093】
【表1】

【0094】
ウイルスのすべての構造タンパク質を同時発現させることによるインフルエンザ・ウイルスの産生効率
【0095】
ウイルスのNPタンパク質とポリメラーゼ・タンパク質が発現するだけでプラスミドによるインフルエンザ・ウイルスの産生には十分であるが、効率を改善することが可能であった。以前の研究では、ウイルスのすべての構造タンパク質(PB2、PB1、PA、HA、NP、NA、M1、M2、NS2)を発現させると、クロラムフェニコール-アセチルトランスフェラーゼ・レポータ遺伝子をコードする人工的vRNAを含むVLPが得られた(Mena他、1996年)。したがって、ウイルスのRNAを複製し転写するのに必要な構造タンパク質だけでなく、すべての構造タンパク質が利用できると、ウイルスの産生効率が改善される可能性がある。その目的で、T293細胞に、最適量(最適量は、VLPの産生から判断した;未公開データ)のウイルス・タンパク質発現プラスミド(pcDNA762(PB2)とpcDNA774(PB1)を1μg;pcDNA787(PA)を0.1μg;pEWSN-HA、pCAGGS-WSN-NP0/14、pCAGGS-WNA15を1μg;pCAGGS-WSN-M1-2/1を2μg;pCA-NS2を0.3μg;(M2のための)pEP24cを0.03μg)と、RNAポリメラーゼIプラスミド(それぞれ1μg)をトランスフェクトした(実験2、表1)。細胞の第2の集合に同じ一群のRNAポリメラーゼIプラスミドと、PA、PB1、PB2、NPだけを発現させるプラスミド(実験3、表1)、またはインフルエンザのすべての構造タンパク質を発現させるプラスミド(実験4、表1)をトランスフェクトしたが、遺伝子再集合ウイルスを作るため、PB1遺伝子だけはpPo1I-PR/8/34-PB1で置き換えた。WSNウイルスの収量は、トランスフェクトしてから24時間後の時点(実験1と2、表1)または36時間後の時点(データは示さない)で大きく異なってはいなかった。しかしインフルエンザ・ウイルスのすべての構造タンパク質を与えると、PR/8/34-PB1を用いた場合にウイルスの収量が10倍を超えることが見いだされた(実験3と4、表1)。タンパク質PA、PB1、PB2、NPを発現させるプラスミドのうちの1つが欠如した負の対照は、いかなるウイルスも産生しなかった(実験5〜8、表1)。したがって、産生されるウイルスが何であるかによるが、インフルエンザA型ウイルスのすべての構造タンパク質を発現させることにより、リバース・ジェネティックス法の効率が著しく改善された。
【0096】
次に、細胞にトランスフェクトした後のウイルス産生の時間変化を、A/PR/8/34-PB1遺伝子を有するウイルスの産生に用いる一群のプラスミドを用いて測定した。3回の実験のうちの2回で、トランスフェクションの24時間後にウイルスが最初に検出された。そのときに測定した>103PFU/mlという力価が、トランスフェクションの48時間後には>106PFU/mlになった(表2)。プラスミドをトランスフェクトした細胞のうちでウイルスを産生するものの割合を評価するため、293T細胞をトランスフェクションの24時間後にEDTA(0.02%)で処理して細胞を分散させた後、限界希釈実験を実施した。この実験では、この時点において、培養物の上澄中に遊離したウイルスは検出されなかった。これらの結果は、103.3個の細胞のうちの1個が感染性ウイルス粒子を産生したことを示している。
【0097】
【表2】

【0098】
NAタンパク質にFLAGエピトープを含むインフルエンザ・ウイルスの回収
【0099】
新しいリバース・ジェネティックス系によってインフルエンザA型ウイルスのゲノムに突然変異を導入できることを確認するため、NAタンパク質にFLAGエピトープを含むウイルス(Castrucci他、1992年)を作った。T293細胞に、NAタンパク質と、このタンパク質の頭部の根元に位置するFLAGエピトープとを両方とも含むRNAポリメラーゼIプラスミド(pPo1I-WSN-NA/FL79)とともに、必要なRNAポリメラーゼIプラスミドとタンパク質発現プラスミドをトランスフェクトした。回収したウイルス(PR8-WSN-FL79)が実際にNA/FLAGタンパク質を発現していないことを確認するため、PR8-WSN-FL79ウイルスまたはA/WSN/33野生型ウイルスを感染させた細胞の免疫染色アッセイを実施した。FLAGエピトープに対するモノクローナル抗体は、PR8-WSN-FL79ウイルスに感染した細胞を検出したが、野生型ウイルスに感染した細胞は検出しなかった。PR8-WSN-FL79ウイルスの回収は、タグの付いていない野生型ウイルスの場合と同じくらい効率的であった(データは示さない)。これらの結果は、新しいリバース・ジェネティックス系によってインフルエンザA型ウイルスのゲノムに突然変異を導入できることを示している。
【0100】
PA遺伝子に突然変異を含む感染性インフルエンザ・ウイルスの産生
【0101】
PA遺伝子に突然変異を含むウイルスを作るため、2つのサイレント突然変異を導入して制限エンドヌクレアーゼのための新しい認識配列を作った(mRNAの位置846のBsp120Iと、位置1284のPvuII)。以前は、信頼できる選択系がなかったためにこの遺伝子をリバース・ジェネティックスで改変することは不可能だった。トランスフェクタント・ウイルスPA-T846CとPA-A1284を回収した。回収したトランスフェクタント・ウイルスを、限界希釈を2回連続して行なうことにより生物学的にクローニングした。回収したウイルスが確かにPA遺伝子に突然変異を有するトランスフェクタントであることを確認するため、PA遺伝子のcDNAを逆転写酵素-PCRによって取得した。ウイルスPA-T846CとPA-A1284は、PA遺伝子に予想された突然変異を含んでいた。そのことは、新たに導入された制限部位が存在していることで証明された。同じウイルス・サンプルとプライマーを用いてPCRを行なうときに逆転写ステップなしだと、産物がまったく産生されなかった(データは示さない)。これは、PAのcDNAが、ウイルスを産生させるのに用いたプラスミドに由来するのではなく、実際にはvRNAに由来することを示している。これらの結果は、どのようにすればヘルパー・ウイルスなしで突然変異した遺伝子を含むウイルスを作って回収できるかを示している。
【0102】
考察
【0103】
この明細書に記載したリバース・ジェネティックス系により、クローニングしたcDNAだけからインフルエンザA型ウイルスを作ることができる。BridgenとElliott(1996年)もリバース・ジェネティックスを利用してブンヤウェラウイルス(ブンヤウイルス科)を作ったが、このウイルスはマイナス-センスRNAの3本のセグメントしか含んでおらず、産生効率は102PFU/107細胞と低かった。ウイルスの収量は実験ごとに異なるとはいえ、8本のセグメントを含むインフルエンザ・ウイルスに関して常に>103PFU/106細胞となることが観察された。これまでに説明したリバース・ジェネティックス系の効率が高いことにはいくつかの説明がある。in vitroでRNPを産生させる(Luytjes他、1989年)代わりに、RNAポリメラーゼIを用い、しかもウイルスのポリメラーゼ・タンパク質とNPタンパク質がプラスミドに制御されて発現することを利用し、vRNAの細胞内合成によってRNPをin vivoで産生させた。また、プラスミドのトランスフェクションが容易な293T細胞(Goto他、1997年)を使用することで、多数の細胞がウイルスの産生に必要なすべてのプラスミドを受け取ることが保証された。さらに、増殖している細胞の中で最も豊富に発現する酵素の1つであるRNAポリメラーゼIによって産生される多数の転写体が、系の全効率に寄与したように見える。これらの特徴により、vRNA転写体の数が対応して多くなり、十分な量のウイルス・タンパク質が得られることで、vRNAが覆われ、核の中でRNPが形成され、その複合体が細胞膜に出されてその場所で新しいウイルスが組み立てられて放出された。
【0104】
以前に確立されたリバース・ジェネティックス系(Enami他、1990年;Neumann他、1994年;Luytjes他、1989年;Pleschka他、1996年)はヘルパー・ウイルスの感染を必要とするため、少数のトランスフェクタントを多数のヘルパー・ウイルスの中から回収する選択法が必要とされる。このやり方は、cDNA由来の遺伝子のうちの1つを有するインフルエンザ・ウイルスを作るのに利用されてきた。すなわち、PB2(Subbarao他、1993年)、HA(Enami他、1991年;Horimoto他、1994年)、NP(Li他、1995年)、NA(Enami他、1990年)、M(Castrucci他、1995年;Yasuda他、1994年)、NS(Enami他、1991年)を有するインフルエンザ・ウイルスである。たいていの選択法は、遺伝子HAとNAに適用できる方法を除いて、増殖温度、宿主の範囲の制限、薬剤感受性のいずれかに依存しているため、遺伝子産物の機能分析を行なうためのリバース・ジェネティックスの有用さが制限される。信頼できる抗体によって制御される選択系が利用できるHA遺伝子とNA遺伝子の場合でさえ、増殖上の顕著な欠陥を有するウイルスを産生させることは難しい。それとは対照的に、この明細書に記載したリバース・ジェネティックス系はヘルパー・ウイルスなしに、任意の遺伝子セグメントに突然変異を含むトランスフェクタント、または増殖上の重大な欠陥を有するトランスフェクタントを産生させることができる。突然変異したPAタンパク質を持つトランスフェクタント・ウイルスを回収することの利点を図5に示してある。生きた任意の突然変異をインフルエンザA型ウイルスのゲノムに導入する技術があると、多数ある長年の課題(例えばウイルスのゲノムの非翻訳領域にある調節配列の性質、ウイルスのタンパク質の構造-機能の関係、宿主の範囲制限とウイルスの病原性の分子的基礎)を調べることができよう。
【0105】
不活化ウイルス・ワクチンを利用できるとはいえ、IgAと細胞傷害性T細胞の応答を局所的に誘導する能力が限られているというのが1つの理由となり、そのワクチンの効率は最適ではない。現在行なわれている低温適応生インフルエンザ・ワクチンの臨床試験によると、そのようなワクチンは弱毒化が最適になされているため、インフルエンザの症状を起こすことはなく、それでも防御免疫は誘導することが示唆される(KeitelとPiedra、1998年に概説がある)。しかし予備的な結果は、その生ウイルス・ワクチンが、最高の不活化ワクチンよりも顕著な効果があるわけではないことを示している(KeitelとPiedra、1998年に概説がある)ため、さらなる改善の余地がある。1つの可能性は、上に説明したリバース・ジェネティックス系を利用して低温適応ワクチンを変化させることであろう。あるいはリバース・ジェネティックスを利用することにより、スクラッチから出発して内部タンパク質をコードする遺伝子に多数の弱毒化突然変異を有する“マスター”インフルエンザA株を作ることもできよう。この明細書に記載したリバース・ジェネティックス系の最も魅力的な応用は、インフルエンザの新しいHA亜型またはNA亜型が関係する懸念がある世界的大流行の際に弱毒生ウイルス・ワクチンを素早く作ることであろう。
【0106】
この新しいリバース・ジェネティックス系により、ワクチン・ベクターとしてのインフルエンザ・ウイルスの利用が増えるであろう。ウイルスを操作し、インフルエンザ・ウイルスのタンパク質に加えて外来タンパク質または免疫原性エピトープを発現させる。例えば、第9セグメントとして外来タンパク質を有するウイルスを作り(Enami他、1991年)、それを生ワクチンとして利用できるであろう。インフルエンザ・ウイルスは細胞を媒介とした免疫応答と液性免疫応答を強く促進するだけでなく、ビリオン表面の多彩なHAタンパク質とNAタンパク質(例えば15種類のHA亜型と9種類のNA亜型、ならびにその伝染性変異体)も提供するため、標的となる同じ集団を繰り返して免疫化することができる。
【0107】
レポータ遺伝子をコードする人工的vRNAを有するインフルエンザVLPは、ワクシニア-T7ポリメラーゼ系を用いてウイルスの構造タンパク質とvRNAを発現させることによって作られてきた(Mena他、1996年)。リバース・ジェネティックスを利用すると、今や、vRNAの転写と複製に必要なタンパク質(すなわちPA、PB1、PB2、NP)をコードするvRNAと、興味の対象であるタンパク質をコードするvRNAとを含むVLPを作ることができる。このようなVLPは、遺伝子送達ビヒクルとして役に立つ可能性がある。重要なことだが、ウイルスの構造タンパク質をコードする遺伝子が欠けていると、VLPによる遺伝子治療の後に感染性ウイルスが産生されないことが保証されよう。インフルエンザ・ウイルスのゲノムは宿主の染色体と一体化しないため、VLP系は、短期間だけ細胞の形質導入が必要とされる場合の遺伝子治療に適しているであろう(例えばがんの治療)。アデノウイルス・ベクター(Kovesdi他、1997年)とは異なり、インフルエンザVLPは、HA変異体とNA変異体の両方を含むことができるため、標的とする集団を繰り返して治療できる。
【0108】
オルトミクソウイルス科には、インフルエンザA型、B型、C型ウイルスと、最近になって分類されたトゴトウイルスが含まれる。インフルエンザA型ウイルスをこの明細書に記載したクローニングされたcDNAだけから作る方法は、任意のオルトミクソウイルスに適用できるであろうし、おそらく他のセグメント化されたマイナス-センスRNAウイルス(ブンヤウイルス科、アレナウイルス科)にも適用できるであろう。技術的な制約なしでウイルスのゲノムを取り扱えることには、ウイルスのライフサイクルとその調節、ウイルスのタンパク質の機能、ウイルスの病原性の分子的メカニズムを研究する上で深い意味がある。
【実施例2】
【0109】
材料と方法
【0110】
細胞、ウイルス、抗体
【0111】
293Tヒト胚性腎臓細胞とマディン-ダービー・イヌ腎臓細胞(MDCK)を、それぞれ、10%ウシ胎児血清を補足したDMEMの中と、5%ウシ新生児血清を含むMEMの中に維持した。293T細胞系は、293細胞系の誘導体であり、その中にサル・ウイルス40T抗原の遺伝子が挿入されている(DuBridge他、1987年)。すべての細胞を37℃にて5%CO2の中に維持した。B/Lee/40ウイルスとその突然変異ウイルスを、産み出されてから10日になる卵の中で増殖させた。ウイルスを、分画遠心分離と、10〜50%スクロース勾配を通じた沈降とによってアラントイン流体から精製した。スカシガイのヘモシアニンと結合する合成ペプチドNKRDDISTPRAGVD(配列ID番号9;NBタンパク質のアミノ酸残基70〜83)に対する抗NBウサギ血清を作った。
【0112】
プラスミドの構成
【0113】
B/Lee/40ウイルスのcDNAを、ウイルスのRNAの保存されている3'末端と相補的なオリゴヌクレオチドを用いてウイルスのRNAを逆転写することによって合成した。BsmBI部位を含む遺伝子特異的なオリゴヌクレオチド・プライマーを用いてこのcDNAをPCRによって増幅し、PCR産物をクローニングしてpT7Bluebluntベクター(ノヴァジェン社、マディソン、ウィスコンシン州)に入れた。BsmBIによる消化の後、得られた断片をクローニングしてプラスミド・ベクターのBsmBI部位に入れた。このプラスミド・ベクターは、ヒトRNAポリメラーゼIプロモータと、マウスRNAポリメラーゼIターミネータを、BsmBI部位によって隔てられた状態で含んでいる。vRNAを発現させるプラスミドは、“Po1I”構造体と呼ばれる。B/Lee/40ウイルスの遺伝子PB2、PB1、PA、NPをコードするcDNAをクローニングして(ニワトリのβ-アクチン・プロモータによって制御される)真核生物発現ベクターpCAGGS/MCS(Kobasa他、1997年;Niwa他、1991年)に入れると、pCABLeePB2、pCABLeePB1、pCABLeePA、pCABLeeNPが得られた。これらは、それぞれタンパク質PB2、PB1、PA、NPを発現させる。
【0114】
NBノックアウト突然変異体を以下のようにして構成した。B/Lee/40NA遺伝子を含むPo1I構造体からPCRで突然変異したNA遺伝子(図4を参照のこと)を増幅した後、BsmBIで消化させた。BsmBIで消化させた断片をクローニングし、Po1IプラスミドのBsmBI部位に入れた。得られた構造体をpPo1BLeeNBstop#1、pPo1BLeeNBstop#2、pPo1BLeeNBstop#3と名づけた。これら構造体をすべてシークエンシングし、望まない突然変異が存在していないことを確認した。
【0115】
プラスミドをベースとしたリバース・ジェネティックス
【0116】
トランスフェクタント・ウイルスを以前に報告されているようにして作った(実施例1)。簡単に説明すると、12個のプラスミド(8本のRNAセグメントに関する8個のPo1I構造体と、ポリメラーゼ・タンパク質とNPに関する4つのタンパク質発現構造体)をトランスフェクション試薬(トランスIT LT-1(パンヴェラ社、マディソン、ウィスコンシン州))と混合し、室温にて10分間にわたってインキュベートし、0.3%ウシ血清アルブミンを含むオプティ-MEM(インヴィトロジェン社)の中で培養した1×106個の293T細胞に添加した。48時間後、上澄に含まれるウイルスを回収し、MDCK細胞の中で増幅してストック・ウイルスを作った。
【0117】
間接的免疫蛍光アッセイ
【0118】
細胞1個につき1〜約2プラーク形成単位(PFU)という多重感染度(MOI)でMDCK細胞にウイルスを感染させた。感染から8時間後、3%ホルムアミド溶液を用いて細胞を固定し、0.1%トリトンX-100を用いて浸透させた。一次抗体としてウサギ抗NBペプチド・ウサギ血清を用い、二次抗体としてFITCと共役した抗ウサギIgGを用いて抗原を検出した。
【0119】
免疫沈降
【0120】
感染から2時間後、インフルエンザB型ウイルスに感染したMDCK細胞(MOIが5PFU/細胞)を、[35S]メチオニンと[35S]システイン(それぞれ50μCi/ml)(トラン35S -ラベル;ICNバイオケミカルズ社)の混合物で2時間にわたって標識した。放射性標識した細胞を、10mMのトリス-HCl(pH7.5)と、100mMのNaClと、1mMのEDTAと、0.5%のトリトンX-100とを含むRIPA緩衝液の中で溶解させた後、遠心分離した。上澄に抗NBウサギ血清を添加し、4℃にて一晩にわたってインキュベートした。次にプロテインA-セファロース・ビーズを添加し、室温にて1時間にわたってインキュベートした。得られた免疫複合体を洗浄し、4〜20%の勾配にしたポリアクリルアミド・ゲル(ISCバイオエクスプレス社、ケースヴィル、ユタ州)の上で分離した。ゲルを乾燥させ、放射能写真撮影法で調べた。
【0121】
トランスフェクタント・ウイルスの複製特性
【0122】
MDCK細胞にウイルスを0.001PFUのMOIで感染させ、1mlにつき0.5μgのトリプシンMEM培地を含むMEM培地を上から注ぎ、37℃にてインキュベートした。MDCK細胞上でのプラーク・アッセイにおいて、上澄に感染性ウイルスが存在しているかどうかをさまざまな経過時間のときに調べた。
【0123】
実験的感染
【0124】
生後5週間のメスのBALB/cマウスをメトキシフランで麻酔し、ウイルス50μlを鼻腔内感染させた。マウスの50%致死率(MLD50)は、以前にGaoら(1999年)が記載しているようにして測定した。ウイルスの複製能力をマウスに鼻腔内感染させる(1×104PFU)ことによって測定し、感染3日後に、Bilselら(1993年)によって記載されているようにしてさまざま組織でウイルスの力価を測定した。
【0125】
結果
【0126】
リバース・ジェネティックスによるB/Lee/40ウイルスの産生
【0127】
ウイルスの複製におけるNBタンパク質の役割を明らかにするための第1ステップとして、プラスミドに基づいたリバース・ジェネティックス(Neumann他、1999年)を利用し、クローニングしたcDNAだけからB/Lee/40(B/Lee)ウイルスを作った。プラスミドは、B/Leeウイルスの8本のセグメントをすべてコードするcDNAを含んでいて、そのcDNAにはヒトRNAポリメラーゼIプロモータとマウスNAポリメラーゼIターミネータが隣接していた。次に、293T細胞に、B/Leeウイルスのタンパク質PA、PB1、PB2、NPを発現する4つのプラスミドと、B/Leeウイルスの8本のウイルスRNAセグメントの産生を指示する8つのプラスミドとをトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、ウイルス(B/LeeRGと名づける)を293T細胞の上澄から回収した(50%の組織培養物を感染させる量TCID50は103.5)。
【0128】
NBタンパク質をノックアウトしたウイルスは生きている
【0129】
このリバース・ジェネティックス系を利用し、NBタンパク質を発現しない突然変異ウイルスを作った。3つのPo1I突然変異構造体(pPo1BLeeNBstop#1、pPo1BLeeNBstop#2、pPo1BLeeNBstop#3と名づける)を調製した(図4)。すべての突然変異構造体において、NBタンパク質の開始コドンがATGからGCG(メチオニンからアラニン)へと変換され、NBタンパク質のアミノ酸位置41にあるコドンが、AAAからTAA(終止コドン)へと変化した。pPo1BLeeNBstop#2は、突然変異した開始コドンの下流にヌクレオチドの欠失を1つだけ含んでおり、それがNBタンパク質のリーディング・フレームを変化させることが予想された。pPo1BLeeNBstop#3は、突然変異した開始コドンの下流に挿入されたヌクレオチドを1つ含んでおり、これもNBタンパク質のリーディング・フレームを変化させることが予想された。293T細胞に、それぞれのNA突然変異Po1Iプラスミドと、他の7つのPo1Iプラスミドおよび4つのタンパク質発現プラスミドとをトランスフェクトしてから48時間後、pPo1BLeeNBstop#1、pPo1BLeeNBstop#2、pPo1BLeeNBstop#3を上澄から回収した(103.5TCID50)。これは、NBタンパク質のないすべてのウイルスが、野生型B/Leeウイルスと同じ効率で産生されたことを示している。上澄の中に存在するトランスフェクタント・ウイルスをMDCK細胞の中で増殖させ、ストック・ウイルスとして使用した。各ストック・ウイルスのNA遺伝子をシークエンシングすることにより、望む突然変異の安定性を確認し、追加の突然変異が導入されないようにした。
【0130】
上記の3つの突然変異ウイルスが予想通りNBタンパク質を発現しないことを確認するため、ウイルスに感染したMDCK細胞を用いて間接的免疫蛍光アッセイと免疫沈降アッセイを実施した(図5)。NBタンパク質を発現したB/LeeRGウイルスとは異なり、どの突然変異体もプラスではなかった。免疫沈降アッセイでは、NBタンパク質が1.8kDaのタンパク質(高マンノース形態)および約30〜50kDaのタンパク質(異種形態)として同定されたが、これは、以前に報告されている結果と一致している(Williams他、1986年;Williams他、1988年)。ウイルスBLeeNBstop#1を感染させたいくつかの細胞では、免疫蛍光アッセイにおいて、細胞質の染色が弱くてばらばらに広がっていた。これは、開始コドンが別のものになり、導入された終止コドンが読み飛ばされることによって短いNBペプチドが産生されたことを示唆している可能性がある。したがって3つの突然変異ウイルスのすべてが生きており、完全長NBタンパク質を発現しなかった。
【0131】
細胞培養物の中でのNBノックアウト・ウイルスの増殖特性
【0132】
MDCK細胞に、ウイルスB/LeeRG、BLeeNBstop#1、BLeeNBstop#2、BLeeNBstop#3のいずれかを、細胞1個当たりのMOIが0.001PFUとなるように感染させ、37℃にてインキュベートした。感染後のいろいろな時期に上澄を回収し、ウイルスの力価をMDCK細胞中でのプラーク・アッセイによって測定した。ウイルスBLeeNBstop#1、BLeeNBstop#2、BLeeNBstop#3は、増殖状態の時間変化がB/LeeRGと同様であり、ウイルスの力価は感染後36時間のときに107PFU/mlに達した(図6)。これらの結果は、細胞培養物の中でインフルエンザB型ウイルスの複製が何サイクルも行なわれ、NBタンパク質なしでよく増殖できることを示している。
【0133】
マウスの体内におけるNBノックアウト・ウイルスの複製
【0134】
in vivoにおけるインフルエンザB型ウイルスの複製においてNBが果たす役割を明らかにするため、野生型ウイルスと突然変異ウイルスのMLD50を比較した(表5)。NBノックアウト・ウイルスでのMLD50の値は、B/LeeRGでの値よりも少なくとも1桁大きかった。104PFUのウイルスを感染させたマウスの肺と鼻甲介(NT)におけるウイルス複製テスト(表3)において、B/LeeRGはどちらの部位でもよく増殖したのに対し、突然変異ウイルスの増殖は制限された。そのことは、ウイルスB/LeeRGの力価が一般に突然変異ウイルスの力価よりも1桁以上小さいことに示されている。したがってNBタンパク質は、細胞培養物の中での増殖には必要ないが、マウスの体内でインフルエンザB型ウイルスが効率的に複製されるためには重要であるように見える。
【0135】
【表3】

【0136】
考察
【0137】
上に説明したように、NBタンパク質は、細胞培養物の中での増殖にとって不可欠ではないが、in vivoでの効率的な複製を促進する。この点に関し、NBタンパク質はA/WSN/33インフルエンザ・ウイルスのM2タンパク質と似ている。ただしin vivoでの複製中にNBタンパク質を必要とする程度は、M2タンパク質ほどではないように見える。M2タンパク質の膜貫通ドメインと細胞質ドメインが欠けたA/WSN/33の突然変異体は、マウスにおいて非常に弱毒化し(Watanabe他、2001年)、M2タンパク質のアミノ酸残基29〜31をコードするヌクレオチドが欠けたA/Udorn/72(H3N2)の突然変異体は、細胞培養物の中でさえ弱毒化していた(Takeda他、2001年)。M2タンパク質のイオン・チャネル活性は実験的によくわかっている(Duff他、1992年;Holsinger他、1994年;Pinto他、1992年;Sugrue他、1990年;Sugrue他、1991年)が、そのような活性は、NBタンパク質では絶対的には証明されていない。したがって、インフルエンザB型ウイルスのNB機能への依存が限定的であることは、このウイルスが、インフルエンザA型ウイルスほどイオン・チャネル活性に依存していないか、NBタンパク質がイオン・チャネル活性以外の機能を持っていることを示唆しているのであろう。NBタンパク質は、インフルエンザB型株でよく保存されているため、自然な状態でのウイルスの複製にとってそのような機能が重要であるに違いない。
【0138】
現在のヒト・ワクチンは、ウイルス感染の程度を軽くするが、予防能力は限られている不活化ワクチンである。低温適応生インフルエンザ・ワクチンの臨床試験では、効果と安全性の両方に関して有望な結果が得られている(Abbasi他、1995年;Alexandrova他、1986年;Anderson他、1992年;Belshe他、1998年;Cha他、2000年;Hraber他、1977年;Obrosova-Serova他、1990年;Steinhoff他、1990年;Tomoda他、1995年;Wright他、1982年)。しかしインフルエンザB型ウイルスのマスター・ワクチン株の弱毒化に関する分子的基礎はわかっていない状態が続いている。したがって、わかっている弱毒化突然変異を含むインフルエンザB型ウイルスを作ることが重要である。HAとNA以外の遺伝子だけに弱毒化突然変異を含んでいて、ワクチンの製造にはHAとNAだけを野生株のもので置換する必要があるマスター・ワクチン株を作れれば理想的であろう。しかしリバース・ジェネティックスの発明により、ワクチンを製造するためにHA遺伝子とNA遺伝子を改変することでさえ、もはや難しくない。したがって細胞培養物の中でNBノックアウト・ウイルスには増殖上の欠陥が検出されなかったことを考慮すると、NBの発現をノックアウトする突然変異を、他の弱毒化突然変異とともにワクチン株に含めることができる。
【0139】
NBノックアウト・ウイルスの複製能力はMDCK細胞の中では互いに同等であったが、マウスの中では異なっていた。マウスにおける突然変異体間の複製能力に関するこの差は、NAの発現レベルの違いに起因している可能性がある。NAの発現をノックアウトするため、NAタンパク質の上流配列を変化させた。そのことによってNAタンパク質の発現レベルが変化し、その結果としてin vivoでの弱毒化がさまざまな程度になったと考えられる。
【0140】
これまでに、ウイルスの5つのタンパク質がイオン・チャネルとして機能することが報告されている。それは、インフルエンザA型ウイルスのM2タンパク質、インフルエンザB型ウイルスのNBタンパク質、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)のVpuとVpr、コレラ・ウイルスのKcvである(Ewart他、1996年;Piller他、1996年;Plugge他、2000年;Schubert他、1996年;Sugrue他、1990年;Sugrue他、1991年;Sunstrom他、1996年)。タンパク質VprとKcvは、ウイルスのライフサイクルにおいて重要な役割を果たすことが証明されている。HIV-1のVpu遺伝子を除去しても、in vitroではHIV-1の複製が完全に阻害されることはない。本研究では、NBタンパク質は、細胞培養物の中でのウイルスの増殖に必要ではないが、マウスの体内におけるインフルエンザB型ウイルスの効率的な複製には必要とされるらしいことを示した。したがって、NB突然変異を、場合によっては他の弱毒化突然変異とともに、ワクチン株の中に導入することができる。
【0141】
参考文献
【0142】
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【0143】
すべての出版物、特許、特許出願は、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。この明細書では、これまで本発明を好ましい実施態様を参照して説明し、説明を目的として多くの詳細な点を提示してきたが、当業者にとって、本発明には別の実施態様が可能であることや、この明細書に記載した詳細な点のいくつかを本発明の基本原理から逸脱することなく大幅に変更できることは明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性膜タンパク質またはその機能性の部分をコードしない膜タンパク質突然変異遺伝子を含む単離した組み換えウイルスであって、その膜タンパク質突然変異遺伝子が、機能性膜タンパク質をコードする対応する膜タンパク質遺伝子と比べて少なくとも2つの突然変異を含んでおり、その突然変異のうちの1つは、膜タンパク質遺伝子で膜貫通ドメインに対応する領域に存在していない、単離した組み換えウイルス。
【請求項2】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子が、少なくとも1つのアミノ酸置換をコードする、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項3】
少なくとも1つの突然変異が、開始メチオニン用コドンの位置に存在する置換をコードする、請求項2に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項4】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子に含まれる1つの突然変異が、開始メチオニン用コドンに対する終止コドンである、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項5】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子に含まれる1つの突然変異が、膜タンパク質のコード領域に存在する終止コドンである、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項6】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子が、1つ以上のヌクレオチドの欠失を含んでいる、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項7】
上記欠失によって膜タンパク質のリーディング・フレームが変化する、請求項6に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項8】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子が、1つ以上のヌクレオチドの挿入を含んでいる、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項9】
上記挿入によって膜タンパク質のリーディング・フレームが変化する、請求項8に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項10】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子が、1つ以上のヌクレオチドの欠失を含んでおり、アミノ酸置換を1つコードする、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項11】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子が、1つ以上のヌクレオチドの挿入を含んでおり、アミノ酸置換を1つコードする、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項12】
上記膜タンパク質が、インフルエンザA型ウイルスのM2タンパク質である、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項13】
上記膜タンパク質が、インフルエンザB型ウイルスのNBタンパク質である、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項14】
上記膜タンパク質が、インフルエンザC型ウイルスのCM1タンパク質である、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項15】
ある病原体の異種免疫原性タンパク質、または治療用タンパク質をさらに含んでいる、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項16】
ある病原体の異種免疫原性タンパク質遺伝子、または治療用タンパク質遺伝子をさらに含んでいる、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項17】
少なくとも1つの突然変異が、in vitroでのウイルスの複製は変化させないが、in vivoでのウイルスの弱毒化と関係している、請求項1に記載の単離した組み換えウイルス。
【請求項18】
請求項1に記載の単離した組み換えウイルスを含むワクチン。
【請求項19】
機能性膜タンパク質またはその機能性の部分をコードしない膜タンパク質突然変異遺伝子を含む組み換えウイルスを作る方法であって、
(i)a)転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPB1のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPB2のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのHAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNPのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNBおよびNAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター(ただしNBおよびNAのcDNA配列は、機能性膜タンパク質をコードする対応するNB遺伝子と比べたときにNB配列中に少なくとも2つの突然変異を含んでおり、その突然変異のうちの1つは膜貫通ドメインには存在しておらず、突然変異遺伝子にその突然変異が存在していると、その突然変異遺伝子が宿主細胞の中で転写されて翻訳されたとき、機能性膜タンパク質またはその機能性の一部を産生せず、場合によっては機能性のNAタンパク質を産生する)、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのMのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNSのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクターの中から選択した少なくとも2つのベクターと、
b)インフルエンザ・ウイルスのPAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのPB1をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのPB2をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNPをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのHAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのMをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNS2をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクターの中から選択した少なくとも2つのベクターと
を含む複数のインフルエンザ・ベクターに宿主細胞を接触させて組み換えインフルエンザ・ウイルスを作るステップと;
(ii)そのウイルスを単離するステップを含む方法。
【請求項20】
機能性膜タンパク質またはその機能性の部分をコードしない膜タンパク質突然変異遺伝子を含む組み換えウイルスを作る方法であって、
(i)a)転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPB1のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPB2のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのHAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNPのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのM1のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNSのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのM2のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター(ただし突然変異体M2のcDNAは、機能性膜タンパク質をコードする対応するM2遺伝子と比べたときに少なくとも2つの突然変異を含んでおり、その突然変異のうちの1つは膜貫通ドメインには存在しておらず、突然変異遺伝子にその突然変異が存在していると、その突然変異遺伝子が宿主細胞の中で転写されて翻訳されたとき、機能性膜タンパク質またはその機能性の部分を産生しない)の中から選択した少なくとも2つのベクターと、
b)インフルエンザ・ウイルスのPAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのPB1をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのPB2をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNPをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのHAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのM1をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNS2をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクターの中から選択した少なくとも2つのベクターと
を含む複数のインフルエンザ・ベクターに宿主細胞を接触させて組み換えインフルエンザ・ウイルスを作るステップと;
(ii)そのウイルスを単離するステップを含む方法。
【請求項21】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子が、少なくとも1つのアミノ酸置換をコードする、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子に含まれる1つの突然変異が、開始メチオニン用コドンに対する終止コドンである、請求項19または20に記載の方法。
【請求項23】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子に含まれる1つの突然変異が、膜タンパク質のコード領域に存在する終止コドンである、請求項19または20に記載の方法。
【請求項24】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子が、1つ以上のヌクレオチドの欠失を含んでいる、請求項19または20に記載の方法。
【請求項25】
上記欠失によって膜タンパク質のリーディング・フレームが変化する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子が、1つ以上のヌクレオチドの挿入を含んでいる、請求項19または20に記載の方法。
【請求項27】
上記挿入によって膜タンパク質のリーディング・フレームが変化する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1つの突然変異が、開始メチオニンの位置に存在する置換をコードする、請求項19または20に記載の方法。
【請求項29】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子が、1つ以上のヌクレオチドの欠失を含んでおり、少なくとも1つのアミノ酸置換をコードする、請求項19または20に記載の方法。
【請求項30】
上記膜タンパク質突然変異遺伝子が、1つ以上のヌクレオチドの挿入を含んでおり、アミノ酸置換を1つコードする、請求項19または20に記載の方法。
【請求項31】
脊椎動物を免疫化する方法であって、請求項1〜17のいずれか1項に記載の組み換えウイルスの有効量をその脊椎動物に接触させる操作を含む方法。
【請求項32】
上記脊椎動物がトリである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
上記脊椎動物が哺乳動物である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
上記脊椎動物がヒトである、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
a)転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPB1のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPB2のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのHAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNPのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNBおよびNAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター(ただしNBおよびNAのcDNA配列は、機能性膜タンパク質をコードする対応するNB遺伝子と比べたときにNB配列中に少なくとも2つの突然変異を含んでおり、その突然変異のうちの1つは膜貫通ドメインには存在しておらず、突然変異遺伝子にその突然変異が存在していると、その突然変異遺伝子が宿主細胞の中で転写されて翻訳されたとき、機能性膜タンパク質またはその機能性の部分を産生せず、場合によっては機能性のNAタンパク質を産生する)、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのMのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNSのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクターの中から選択した少なくとも2つのベクターと、
b)インフルエンザ・ウイルスのPAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのPB1をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのPB2をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNPをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのHAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNAをその機能性の一部DNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのMをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNS2をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクターの中から選択した少なくとも2つのベクターと
を含む複数のインフルエンザ・ベクターを含有する組成物。
【請求項36】
a)転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPB1のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのPB2のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのHAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNPのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNAのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのM1のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのNSのcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、転写終止配列と連結したインフルエンザ・ウイルスのM2のcDNAと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター(ただし突然変異体M2のcDNAは、機能性膜タンパク質をコードする対応するM2遺伝子と比べたときに少なくとも2つの突然変異を含んでおり、その突然変異のうちの1つは膜貫通ドメインには存在しておらず、突然変異遺伝子にその突然変異が存在していると、その突然変異遺伝子が宿主細胞の中で転写されて翻訳されたとき、機能性膜タンパク質またはその機能性の部分を産生しない)の中から選択した少なくとも2つのベクターと、
b)インフルエンザ・ウイルスのPAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのPB1をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのPB2をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNPをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのHAをその機能性の一部DNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNAをコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのM1をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクター、インフルエンザ・ウイルスのNS2をコードするDNAセグメントと作用可能式に連結したプロモータを含むベクターの中から選択した少なくとも2つのベクターと
を含む複数のインフルエンザ・ベクターを含有する組成物。
【請求項37】
アンチセンス方向になった興味の対象であるDNA断片と作用可能式に連結したプロモータを含むベクターをさらに含有する、請求項35または36に記載の組成物。
【請求項38】
上記ベクターが、ある病原体の免疫原性ポリペプチドまたはペプチド、あるいは治療用タンパク質をコードするDNA断片を含んでいる、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
請求項19または20に記載の方法によって調製した、単離ウイルス。
【請求項40】
請求項1または39に記載のウイルスを接触させた宿主細胞。
【請求項41】
インフルエンザ・ウイルスB/Leeの少なくとも1つのタンパク質をその機能性の一部配列を含む核酸セグメントを含有する単離したポリヌクレオチド、またはその一部、またはそのポリヌクレオチドの相補体であって、その単離したポリヌクレオチドが、HA、NA、PB1、PB2、PA、NP、M、NSをコードするか、あるいはその一部で配列ID番号1〜8のうちの1つによってコードされている対応するポリペプチドと実質的に同じ活性を持つ部分をその機能性の一部、単離したポリヌクレオチド。
【請求項42】
インフルエンザ・ウイルスB/Leeの少なくとも1つのタンパク質をその機能性の一部配列を含む核酸セグメントを含有する単離したポリヌクレオチド、またはその一部、またはそのポリヌクレオチドの相補体であって、その単離したポリヌクレオチドが、HA、NA、PB1、PB2、PA、NP、M、NSをコードするか、あるいはその一部で配列ID番号1〜8のうちの1つまたはその相補体とハイブリダイズする部分をコードする、単離したポリヌクレオチド。
【請求項43】
配列ID番号1〜8のうちの1つまたはその相補体と実質的に同じヌクレオチド配列を有する、請求項42に記載の単離したポリヌクレオチド。
【請求項44】
配列ID番号1〜8のうちの1つによってコードされているポリペプチドと実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードする、請求項42に記載の単離したポリヌクレオチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図7−5】
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【図7−6】
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【図7−7】
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【図7−8】
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【図7−9】
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【図7−10】
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【図7−11】
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【図7−12】
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【図7−13】
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【図7−14】
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【図7−15】
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【図7−16】
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【図7−17】
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【図7−18】
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【図7−19】
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【図7−20】
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【図7−21】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2011−177192(P2011−177192A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−111048(P2011−111048)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【分割の表示】特願2006−513125(P2006−513125)の分割
【原出願日】平成16年4月20日(2004.4.20)
【出願人】(506097988)ウィスコンシン アルムニ リサーチ ファンデイション (14)
【Fターム(参考)】