説明

窒化処理方法及びそれに用いる窒化処理装置

【課題】鋼材の表面硬度のバラツキを小さくして確実に所望の硬度が得られる窒化処理方法及び窒化処理装置を提供する。
【解決手段】窒化処理装置6内に、アンモニアと酸素とを含む雰囲気を導入し、所定の温度範囲に加熱する。窒化処理装置6内の酸素濃度を測定し、測定された酸素濃度に基づいて窒化処理装置6内の酸素濃度を調整する。予め鋼材の表面硬度と酸素濃度との関係に基づいて、必要な酸素濃度の範囲を設定し、測定された酸素濃度が設定範囲より大きければ窒化処理装置内6に導入される酸素の量を低減し、小さければ酸素の量を増加する。窒化処理装置内を加熱する加熱手段と、アンモニアガス導入手段22と、酸素ガス導入手段23aと、窒化処理装置6内の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段35aと、酸素濃度測定手段35aにより検出された酸素濃度に基づいて窒化処理装置6内の酸素濃度を調整する酸素濃度調整手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機用ベルト等に用いられるマルエージング鋼等の鋼材の窒化処理方法及びそれに用いる窒化処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の無段変速機(CVT)の動力伝達のために、複数の金属リングを積層して積層リングを形成し、該積層リングを所定形状のエレメントに組み付けて保持したCVT用ベルトが知られている。
【0003】
前記積層リングを形成する金属リングは、マルエージング鋼等のNi、Moを含む低炭素鋼からなり、例えば前記低炭素鋼の薄板を長方形に切断し、該薄板を長辺に沿って丸め、短辺側の端部同士を溶接して円筒状のドラムを形成した後、該ドラムを所定幅に裁断して無端状の金属リングとする。そして、前記金属リングを圧延して0.1〜0.3mm程度の厚さとした後、さらに所定の周長に周長補正することにより製造されている。
【0004】
前記マルエージング鋼は、適温に加熱してマルテンサイト状態において時効硬化を生じさせることにより、高強度、高靱性を兼ね備えることができる超強力鋼であるので、前記金属リングに賞用される。しかし、前記金属リングを積層した積層リングからなるCVT用ベルトを前記CVTの動力伝達のために用いる場合には、該CVT用ベルトがV溝間隔を変換自在の1対のプーリ間に張設されて用いられる。従って、前記金属リングは、前記CVT用ベルトが前記プーリ間を走行するときには直線状態となり、該プーリに沿って走行するときには湾曲状態となり、前記直線状態と湾曲状態との繰り返しにより過酷な曲げ変形を加えられる。
【0005】
そこで、前記金属リングは、さらに耐摩耗性、耐疲労強度を備えることが必要とされ、このために前記時効硬化後の金属リングに表面硬化処理を施すことが行われている。前記表面硬化処理は、一般に、前記金属リングに窒化処理を施して、該金属リング表面に窒化層を形成することにより行われる。前記窒化処理としては、例えば、ガス窒化処理またはガス軟窒化処理がある。
【0006】
前記ガス窒化処理またはガス軟窒化処理によれば、アンモニアの分解により生じる窒素がマルエージング鋼の金属組織中に浸透し、前記金属リングの表面に窒化層を形成して硬化させる。この結果、前記金属リングの耐摩耗性、耐疲労強度を向上させることができる。
【0007】
前記ガス窒化処理またはガス軟窒化処理の際にアンモニアの分解を促進して、優れた硬度を備える窒化層を形成するために、例えば、鋼材料を、アンモニア40〜90容量%、酸素0.2〜3容量%を含み、残部が窒素からなる雰囲気下、500〜600℃の温度に120〜360時間保持する技術が知られている。前記技術によれば、窒化ガスとして窒素ガスとアンモニアガスと酸素ガスとからなる3成分系の混合ガスを用いることにより、処理表面の硬度が向上し、耐摩耗性、耐擦傷性等の表面強度特性を長期間維持できるとされている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
また、前記アンモニアの分解によれば窒素と同時に水素が生成するが、本発明者らの検討によれば、前記水素の分圧が高くなると前記アンモニアの分解が抑制されたり、水素が窒素と再結合するために、窒化が阻害される。このとき、前記窒化ガスが酸素を含んでいると、前記水素を該酸素と結合させ、水の状態として系外に除去できるので、アンモニアの分解が促進されるものと考えられる。
【0009】
前記窒化処理は、前記金属リングを収容した加熱炉等の窒化処理装置内に前記窒化ガスを導入することにより行われるが、前記窒化ガスは、アンモニア、酸素、窒素をそれぞれの容器から、予め所定の混合比となるように設定された所定の流量で該加熱炉内に導入される。
【0010】
しかしながら、アンモニア、酸素、窒素をそれぞれ所定の流量で前記加熱炉内に導入すると、前記金属リングの表面硬度のバラツキが大きくなるという不都合がある。
【特許文献1】特開昭62−270761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる不都合を解消して、鋼材の表面硬度のバラツキを小さくして確実に所望の硬度を得ることができる窒化処理方法及びそれに用いる窒化処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願は、特願2004−27471(以下、原出願という)の分割出願であり、本発明は原出願の請求項1における各工程の処理の順序を規定したものである。
【0013】
本発明者らの検討によれば、アンモニア、酸素、窒素をそれぞれ所定の流量で窒化処理装置内に導入したのでは、該装置内で設定通りの混合比が得られるとは限らないことが判明した。これは、窒化処理を連続して行う場合に、前回のアンモニアが装置内に残留していたり、窒化処理の回数を重ねる毎に装置内が還元されたり、鋼材から酸素が発生したりするためと考えられる。
【0014】
そこで、本発明の窒化処理方法は、前記目的を達成するために、窒化処理装置内に、少なくともアンモニアと酸素とを所定の濃度で含む雰囲気を導入し、鋼材を該雰囲気下、所定の処理温度範囲に所定の処理時間保持して窒化処理する窒化処理方法において、該窒化処理装置内に、少なくともアンモニアと酸素とを所定の濃度で含む雰囲気を導入する工程と、該雰囲気を導入した後、該窒化処理装置内を所定の温度範囲に加熱する工程と、該温度範囲に加熱した後、該窒化処理装置内の酸素濃度を測定する工程と、測定された酸素濃度に基づいて該装置内の酸素濃度を調整する工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の窒化処理方法では、窒化処理装置内に、少なくともアンモニアと酸素とを所定の濃度で含む雰囲気を導入し、該雰囲気が導入された該窒化処理装置内を所定の温度範囲に加熱した後、該窒化処理装置内の酸素濃度を測定する。そして、測定された酸素濃度に基づいて前記窒化処理装置内の酸素濃度を調整するので、該装置内での環境に関わらず、該装置内のアンモニアと酸素との濃度が確実に設定された混合比になる。
【0016】
従って、本発明の窒化処理方法によれば、鋼材の表面硬度のバラツキを小さくして、確実に所望の硬度を得ることができる。
【0017】
前記窒化処理装置内の酸素濃度の調整は、予め求められた鋼材の表面硬度と該窒化処理装置内の酸素濃度との関係に基づいて、所定の表面硬度を得るために必要な該窒化処理装置内の酸素濃度の範囲を設定し、測定された酸素濃度が設定された酸素濃度の範囲より大きければ該窒化処理装置内に導入される酸素の量を低減し、測定された酸素濃度が設定された酸素濃度の範囲より小さければ該窒化処理装置内に導入される酸素の量を増加することにより行うことができる。
【0018】
本発明の窒化処理方法は、鋼材を、少なくともアンモニアと酸素とを所定の濃度で含む雰囲気下、所定の温度範囲に所定時間保持して窒化処理する窒化処理装置において、該窒化処理装置内を加熱して所定の処理温度範囲に保持する加熱手段と、アンモニアガスを該窒化処理装置内に導入するアンモニアガス導入手段と、酸素ガスを該窒化処理装置内に導入する酸素ガス導入手段と、該窒化処理装置内の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段と、該酸素濃度測定手段により検出された酸素濃度に基づいて該窒化処理装置内の酸素濃度を調整する酸素濃度調整手段とを備えることを特徴とする窒化処理装置により、有利に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1はCVT用ベルトとして用いられる金属リングの製造工程を模式的に示す工程説明図、図2は本実施形態の窒化処理装置の構成を示すシステム構成図である。また、図3は図2の窒化処理装置における空気の導入量と窒化処理装置内の酸素濃度との関係を示すグラフ、図4は金属リングの表面硬度と窒化処理装置内の酸素濃度との関係を示すグラフである。
【0020】
本実施形態では、鋼材としてCVT用ベルトとして用いられるマルエージング鋼製金属リングの窒化処理を行う場合を例として説明する。
【0021】
前記金属リングを製造する際には、まず、図1示のようにマルエージング鋼の薄板1をベンディングしてループ化したのち、端部同士を溶接して円筒状のドラム2を形成する。このとき、前記マルエージング鋼は溶接の熱により時効硬化を示すので、ドラム2の溶接部分2aの両側に硬度の高い部分が出現する。
【0022】
そこで、次に、ドラム2を真空炉3に収容して820〜830℃の温度に20〜60分間保持することにより第1の溶体化処理を行い、硬度ムラを除去する。前記第1の溶体化処理が終了したならば、ドラム2を真空炉3から搬出し、所定幅に裁断して金属リングWを形成する。
【0023】
前記のようにして形成された金属リングWは、次に圧下率40〜50%で圧延される。金属リングWは、前記圧延により0.2mmの厚さとされ、表面から30μm程度の厚さで圧延組織が形成されている。そこで、圧延された金属リングWを、加熱炉4に収容して第2の溶体化を行うことにより、前記圧延組織を消滅させると共に、均一な金属結晶粒を形成させる。
【0024】
溶体化された金属リングWは、次に周長補正した後、加熱炉5に収容し、440〜480℃の範囲の温度に60〜120分間保持して時効処理を行う。そして、前記時効処理が終了したならば、金属リングWを加熱炉5内で冷却し、窒化装置6に移送して、窒化処理を行う。
【0025】
図2に示すように、本実施形態の窒化処理装置6は、第1置換室11、予熱室12、窒化処理室13、冷却室14、第2置換室15を備えている。前記各室は、相互の境界に上下動自在の扉(図示せず)を備え、該扉を開閉することにより相互に連通可能とされている。また、第1置換室11は予熱室12と反対側に上下動自在の搬入扉(図示せず)を備え、第2置換室15は冷却室14と反対側に上下動自在の搬出扉(図示せず)を備えている。尚、前記各扉は、通常の状態ではいずれも閉鎖されている。
【0026】
また、窒化処理装置6は、前記各室で処理を行いながら、第1置換室11から第2置換室15方向に金属リングWを断続的に搬送する搬送手段(図示せず)を備え、予熱室12と、窒化処理室13とは、それぞれ室内を加熱する加熱手段(図示せず)を備えている。
【0027】
窒化処理装置6は、さらに、窒素ガス供給源16、ハロゲン化物ガス供給源17、アンモニアガス供給源18、空気(酸素ガス)供給源19を備えている。窒素ガス供給源16は、窒素ガス導管20に接続されており、窒素ガス導管20から分岐する窒素ガス支管20aが第1置換室11に、窒素ガス支管20bが予熱室12に、窒素ガス支管20cが窒化処理室13に、窒素ガス支管20dが冷却室14に、窒素ガス支管20eが第2置換室15に、それぞれ接続されている。
【0028】
また、ハロゲン化物ガス供給源17はハロゲン化物ガス導管21を介して予熱室12に接続されており、アンモニアガス供給源18はアンモニアガス導管22を介して窒化処理室13に接続されている。さらに、空気供給源19は、空気導管23に接続されており、空気導管23から分岐する空気支管23aが窒化処理室13に、空気支管23bが冷却室14にそれぞれ接続されている。
【0029】
第1置換室11は、大気放出部24に接続された排気管25を備えている。排気管25の途中には第1置換室11内の雰囲気を排出する高真空ポンプ26と、排気中の酸素濃度を測定する酸素センサ27とが設けられている。
【0030】
予熱室12は、排ガス燃焼装置28に接続された排気管29を備え、排気管29の途中には予熱室12内の雰囲気を排出する低真空ポンプ30と、排気中の酸素濃度を測定する酸素センサ31とが設けられている。排ガス燃焼装置28は、燃焼ガス導管32を介して大気放出部24に接続されている。
【0031】
窒化処理室13は、排ガス燃焼装置28に接続された排気管33を備え、排気管33の途中には窒化処理室13内の雰囲気を排出する低真空ポンプ34と、排気中の酸素濃度を測定する酸素センサ35とが設けられている。また、窒化処理室13は、窒化処理室13内の雰囲気中の酸素濃度を測定する酸素センサ35aを備えている。排気管33は、排気管33から分岐して排ガス燃焼装置28に接続された排気支管33aを備え、排気支管33aの途中には排気中のアンモニア濃度を測定するアンモニア分析計36が設けられている。
【0032】
冷却室14は、大気放出部24に接続された排気管37を備え、第2置換室15は、大気放出部24に接続された排気管38を備えている。排気管38の途中には第2置換室15内の雰囲気を排出する高真空ポンプ39と、排気中の酸素濃度を測定する酸素センサ40とが設けられている。
【0033】
さらに窒化処理装置6は、前記各扉の開閉、加熱手段、搬送手段、各ガス供給源16,17,18,19、各真空ポンプ26,30,34,39、排ガス燃焼装置28の作動を制御する制御装置(図示せず)を備えている。また、前記制御手段は、各酸素センサ27,31,35,35a,40、アンモニア分析計36に接続されて、検出信号が入力されるようになっている。前記制御装置として、例えばCPU、ROM、RAM等を備えるコンピュータ等を用いることができる。
【0034】
次に、本実施形態の窒化処理装置6の作動について説明する。
【0035】
窒化処理装置6では、まず、図示しない制御装置により、第1置換室11の図示しない搬入扉を開き、図示しない搬送手段により、金属リングWを第1置換室11内に搬入する。次いで、前記制御装置は、前記搬入扉を閉鎖して高真空ポンプ26を作動させ、排気管25を介して第1置換室11内の雰囲気を大気放出部24に排気する。同時に窒素供給源16から、窒素導管20、窒素支管20aを介して、第1置換室11内に窒素を導入する。そして、前記制御装置は、酸素センサ27で検出される酸素濃度が所定の値未満になったならば、第1置換室11内の雰囲気が窒素ガスで置換されたものと判断し、高真空ポンプ26を停止する。
【0036】
次に、前記制御装置は、第1置換室11と予熱室12との間の図示しない扉を開き、前記搬送手段により前記金属リングWを予熱室12に移送する。前記金属リングWが予熱室12に収容されたならば、第1置換室11と予熱室12との間の扉を閉鎖し、図示しない加熱手段により、予熱室12内を加熱して、450〜500℃の範囲の温度に昇温する。
【0037】
このとき、予熱室12内の雰囲気は、窒素供給源16から、窒素導管20、窒素支管20bを介して導入される窒素ガスと、ハロゲン化物ガス供給源17から、ハロゲン化物ガス導管21を介して導入されるハロゲン化物ガスとにより、ハロゲン化物ガス1.0〜20.0容量%を含み残部が窒素からなる混合ガス雰囲気に置換されている。そこで、金属リングWは、その表面が前記ハロゲン化物ガスにより活性化され、窒化処理室13での窒化処理が容易になる。
【0038】
予熱室12内の雰囲気の置換は、まず、前記制御装置が低真空ポンプ30を作動させることにより、予熱室12内の雰囲気を排気管29、排ガス燃焼装置28、燃焼ガス導管32を介して大気放出部24に放出する。そして、前記制御装置は、酸素センサ31で検出される酸素濃度が所定の値未満になったならば、低真空ポンプ30を停止させ、窒素供給源16とハロゲン化物ガス供給源17とから、それぞれ窒素ガス、ハロゲン化ガスを予熱室12内に導入する。
【0039】
次に、前記制御装置は、予熱室12内が450〜500℃の範囲の温度に昇温されたならば、予熱室12と窒化処理室13との間の図示しない扉を開き、前記搬送手段により前記金属リングWを窒化処理室13に移送する。そして、前記金属リングWが窒化処理室13に収容されたならば、予熱室12と窒化処理室13との間の扉を閉鎖して、前記金属リングWを30〜120分の処理時間が経過するまで、窒化処理室13内に保持して窒化処理を行う。
【0040】
このとき、窒化処理室13内には、窒素供給源16から、窒素導管20、窒素支管20cを介して窒素ガスが、アンモニアガス供給源18から、アンモニアガス導管22を介してアンモニアガスが、空気供給源19から、空気導管23、空気支管23aを介して空気がそれぞれ導入されて、第1の混合ガス雰囲気に置換されている。また、窒化処理室13内は、図示しない加熱手段により450〜500℃の範囲の温度に加熱されている。
【0041】
窒化処理室13内の雰囲気の置換は、まず、低真空ポンプ34を作動させることにより、窒化処理室13内の雰囲気を排気管33、排気支管33a、排ガス燃焼装置28、燃焼ガス導管32を介して大気放出部24に放出し、同時に、窒素ガス、アンモニアガス、空気を窒化処理室13内に導入するようにして行う。このとき、前記窒素ガス、アンモニアガス、空気は、前記制御装置により、アンモニアガス50〜90容量%、酸素0.1〜0.9容量%を含み残部が窒素からなる組成となる流量で窒化処理室13内に導入される。しかし、窒化処理室13内では、前回窒化処理のアンモニアが残留していたり、窒化処理室13内が還元されたり、金属リングWから酸素が発生したりするために、雰囲気の組成が前記範囲になっているとは限らない。
【0042】
そこで、窒化処理装置6では、酸素センサ35aにより窒化処理室13内の雰囲気中の酸素濃度を実測し、酸素センサ35aの検出信号に基づいて、前記制御装置が空気供給源19から窒化処理室13内に導入される空気の流量を調整する。
【0043】
前記調整は、具体的には次のようにして行う。まず、窒化処理室13内が清浄な状態で、空気供給源19から窒化処理室13内に空気を導入し、このときの空気の導入量と酸素センサ35aにより検出される窒化処理室13内の酸素濃度との関係を求めておく。本実施形態では、前記空気の導入量と窒化処理室13内の酸素濃度とは、図3に示すように、比例関係にある。
【0044】
次に、窒化処理室13内が清浄な状態でアンモニアガスを前記範囲としたときに、空気供給源19から窒化処理室13内に導入される空気の導入量を変量して、それぞれの場合に窒化された金属リングWの表面硬度を求める。そして、前記表面硬度と、空気供給源19から窒化処理室13内に導入される空気の導入量に対応する酸素濃度との関係を求め、図4に示すようなグラフを作成する。
【0045】
図4に示すグラフによれば、所望の表面硬度の範囲Hを得るために必要な酸素濃度Cの範囲がわかる。そこで、前記制御装置は、酸素濃度の範囲Cを設定範囲とし、該設定範囲に対して、酸素センサ35aの実測値の方が大きければ空気供給源19から窒化処理室13内に導入される空気の流量を低減し、実測値の方が小さければ前記空気の流量を増加させるように調整して、雰囲気の組成が前記範囲になるようにする。
【0046】
前記窒化処理は、まず、窒化処理室13内を前記第1の混合ガス雰囲気下、前記450〜500℃の範囲の温度に保持することにより、金属リングWの表面に窒化層を形成させる。そして、前記処理時間の1/3〜1/2が経過したならば、再び低真空ポンプ34を作動させることにより、窒化処理室13内の第1の混合ガスを排気管33、排気支管33a、排ガス燃焼装置28、燃焼ガス導管32を介して大気放出部24に放出する。同時に、窒素供給源16とアンモニアガス供給源18とから、それぞれ窒素ガス、アンモニアガスを窒化処理室13内に導入する。そして、アンモニア分析計36で検出されるアンモニア濃度が、0〜25容量%の範囲になったならば、低真空ポンプ34を停止させる。この結果、窒化処理室13内の雰囲気が、アンモニアガス0〜25容量%を含み残部が窒素からなる第2の混合ガス雰囲気に置換される。
【0047】
前記窒化処理は、次に、前記処理時間が経過するまで、窒化処理室13内を前記第2の混合ガス雰囲気下、前記450〜500℃の範囲の温度に保持することにより、金属リングWの窒化を完了させる。
【0048】
次に、前記制御装置は、前記所定時間が経過して前記窒化処理が終了したならば、窒化処理室13と冷却室14との間の図示しない扉を開き、前記搬送手段により前記金属リングWを冷却室14内に移送する。そして、前記金属リングWが冷却室14に収容されたならば、窒化処理室13と冷却室14との間の扉を閉鎖して、冷却処理を行う。
【0049】
前記冷却処理は、窒素供給源16から、窒素導管20、窒素支管20dを介して導入される窒素ガスと、空気供給源19から、空気導管23、空気支管23bを介して導入される空気とにより、冷却室14内が室温に冷却されるまで行われる。前記窒素ガスと空気とは、排気管37を介して大気放出部24に排気される。
【0050】
次に、前記制御装置は、冷却室14内が室温まで冷却されたならば、冷却室14と第2置換室15との間の図示しない扉を開き、前記搬送手段により前記金属リングWを第2置換室15内に移送する。そして、前記金属リングWが第2置換室15に収容されたならば、冷却室14と第2置換室15との間の扉を閉鎖して、第2置換室15内の雰囲気を窒素雰囲気に置換する。
【0051】
第2置換室15内の雰囲気の置換は、高真空ポンプ39を作動させ、排気管38を介して第2置換室15内の雰囲気を大気放出部24に排気すると同時に、窒素供給源16から、窒素導管20、窒素支管20eを介して、第2置換室15内に窒素を導入することにより行う。そして、酸素センサ40で検出される酸素濃度が所定の値未満になったならば、前記制御装置は、第2置換室15内の雰囲気が窒素ガスで置換されたものと判断し、高真空ポンプ39を停止する。
【0052】
次に、前記制御装置は、第2置換室15内の雰囲気が窒素雰囲気に置換されたならば、図示しない搬出扉を開き、前記搬送手段により、金属リングWを窒化処理装置6から搬出する。この結果、表面に窒化層が形成されて所望の範囲の硬度を備える金属リングWが得られる。
【0053】
尚、本実施形態では、ハロゲン化物ガス供給源17を設け、予熱室12にハロゲン化物ガスを導入するようにしているが、予熱室12にハロゲン化物ガスを導入しないようにしてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、空気供給源19を設け、窒化処理室13に空気を導入して第1の混合ガスを形成させるようにしているが、空気に代えて他の酸素含有ガスを導入するようにしてもよく、純酸素ガスを導入するようにしてもよい。
【0055】
また、予熱室12の雰囲気はハロゲン化物を含み、窒化処理室13の雰囲気はアンモニアガスを含んでおり、そのまま排出すると大気汚染の原因となることが懸念される。しかし、本実施形態の窒化処理装置6では、予熱室12の雰囲気と、窒化処理室13の雰囲気とは、いずれも排ガス燃焼装置28で燃焼されて無害化された上で、大気放出部24に放出されるので、大気汚染の原因となることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】CVT用ベルトとして用いられる金属リングの製造工程を模式的に示す工程説明図。
【図2】本発明の窒化処理装置の構成を示すシステム構成図。
【図3】図2の窒化処理装置における空気の導入量と窒化処理装置内の酸素濃度との関係を示すグラフ。
【図4】金属リングの表面硬度と窒化処理装置内の酸素濃度との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0057】
6…窒化処理装置、 13…窒化処理室、 20c…窒素ガス導入手段、 22…アンモニアガス導入手段、 23a…酸素ガス導入手段、 35a…酸素濃度測定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化処理装置内において、少なくともアンモニアと酸素とを所定の濃度で含む雰囲気下で、鋼材を該雰囲気下、所定の処理温度範囲に所定の処理時間保持して窒化処理する窒化処理方法であって、
該窒化処理装置内に、前記雰囲気を導入する工程と、
該雰囲気を導入した後、該窒化処理装置内を所定の温度範囲に加熱する工程と、
該温度範囲に加熱した後、該窒化処理装置内の酸素濃度を測定する工程と、
測定された酸素濃度に基づいて該窒化処理装置内の酸素濃度を調整する工程とを備えることを特徴とする窒化処理方法。
【請求項2】
前記窒化処理装置内の酸素濃度の調整は、
予め求められた鋼材の表面硬度と該窒化処理装置内の酸素濃度との関係に基づいて、所定の表面硬度を得るために必要な該窒化処理装置内の酸素濃度の範囲を設定し、
前記測定された酸素濃度が前記設定された酸素濃度の範囲より大きければ該窒化処理装置内に導入される酸素の量を低減し、
前記測定された酸素濃度が前記設定された酸素濃度の範囲より小さければ該窒化処理装置内に導入される酸素の量を増加することにより行うことを特徴とする請求項1記載の窒化処理方法。
【請求項3】
鋼材を、少なくともアンモニアと酸素とを所定の濃度で含む雰囲気下、所定の温度範囲に所定時間保持して窒化処理する窒化処理装置において、
該窒化処理装置内を加熱して所定の処理温度範囲に保持する加熱手段と、アンモニアガスを該窒化処理装置内に導入するアンモニアガス導入手段と、酸素ガスを該窒化処理装置内に導入する酸素ガス導入手段と、該窒化処理装置内の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段と、該酸素濃度測定手段により検出された酸素濃度に基づいて該窒化処理装置内の酸素濃度を調整する酸素濃度調整手段とを備えることを特徴とする窒化処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−308767(P2008−308767A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207288(P2008−207288)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【分割の表示】特願2004−27471(P2004−27471)の分割
【原出願日】平成16年2月4日(2004.2.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】