説明

窒化物系複合セラミックス

【課題】SiやAlNの放電加工が可能である窒化物系複合セラミックスを提供する。
【解決手段】金属炭化物や窒化物を副成分として加えることで導電性を持たせる技術が提案されてきたが、炭化物や窒化物(SiまたはAlN)中に1〜35体積%の導電性セラミックスを組織中に導電性セラミックスが凝集した5μm以上の粗大粒がない組織の窒化物系複合セラミックス焼結体を得ることにより、半導体用保持機器、光学位置測定用反射鏡、精密部品加工用の治具、精密なプレス、打ち抜き金型、放熱部材や熱伝導部材、ヒーターや静電チャックへなどに適した窒化物複合セラッミクスの焼結体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な組織を有する窒化物と炭化物からなる複合セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、Siはその硬度、破壊靭性の高さ、耐摩耗性等から切削工具や造管用ロール、耐摩耗部材、耐熱部材などとして一般的に量産されている。Si単体は難焼結材であり、量産されている材料については、SiにAl、Y、AlN、TiNなどの焼結助材を数%添加しているのが一般的な組成である。前記助材はSiの粒界に存在するか、Siと一部固溶体を作り、焼結温度を下げる。

また、AlNについては、機械的性能に特筆点はないが、熱伝導率は他のセラミックスと比較して高く、150〜250W/m・Kである。耐熱性も高いために、高温での熱伝導材や放熱部材などとして用いられている。

前記SiおよびAlNは単体での電気抵抗率が1×1012(Ω・cm)以上の絶縁体であるために、放電加工ができず、焼結体の形状が限定されるという難点があった。

Si、AlNと導電性添加物とを複合化することの利点はさまざまあるが、最も重要なのは電気的特性の点である。その他の利点としては、熱膨張率の調整、SiおよびAlN粒成長の抑制、クラックの進展阻害効果による強度や靭性の改善、それに伴う割れ、欠け、チッピングの防止があげられる。

こういったSiおよびAlNと導電性添加物を複合することにより、材料の靭性、強度、耐チッピング性や焼結性をかね揃えた複合材料は多数提案されてきた。Siについての代表的な文献を、特許文献1および特許文献2から引用する。

特許文献1にはSi中に0.5〜30%の4a〜6a族金属化合物を添加しており、電気伝導度が10−3−1・cm−1)以下で放電加工可能な焼結体が提案されている。原料粉末は平均粒子径1μm以下である。
特許文献2にはSi粉末に酸化物の焼結助材を0.05〜5%、およびTi,Ta、Hf、W、Mo,Zr、Crの化合物を1〜25体積%加えた導電性Si材が開示されている。

またAlNについては特許文献3および特許文献4から引用する。
特許文献3にはAlNを主成分として、Ti、Zr化合物を0.1%以上分散したAlN抵抗体を有するヒーターが提案されている。このヒーターは電気抵抗率が1(Ω・cm)以下であるとの記載がある。
特許文献4には、主成分が非導電性セラミックスのAlNであり、4a〜6a族金属化合物を含有するセラミックス複合体が開示されている。

【特許文献1】特開昭57−200265号公報
【特許文献2】特開昭58−041771号公報
【特許文献3】特開平04−308680号公報
【特許文献4】特開平01−133968号公報 通常、複合セラミックスは下記方法で製造される。 混合はボールミルやアトライター、ブラストミルなどを用いて行うが、両粉末が均一に混合される必要がある。 乾燥・造粒は静置乾燥やスプレードライヤーを用いて行うのが一般的である。 プレス成形は、金型プレスや冷間静水圧プレス(CIP)法を用いる。こうして得られた圧粉体に必要であれば中間加工を行う。 圧粉体を焼結する方法は、雰囲気炉、真空炉、加圧炉、大気炉、ホットプレス炉などを用いるのが旧来の方法だが、通電プラズマ焼結など新しい焼結法も一般的になっている。より高い密度を得るためには、熱間静水圧プレス(HIP)をこの焼結工程の後で行えば良い。 以上が最も一般的な複合セラミックスを得る工程である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、前記先行技術に記載の技術では解決できない用途が目立ってきた。
たとえば、Si系のセラミックスは、半導体用保持機器、光学位置測定用反射鏡、精密部品加工用の治具、精密なプレス、打ち抜き金型などへの利用が盛んにある。これらの中でも、特に金型として利用される場合には、複雑な形状を要求されることが多い。Siは単体では絶縁体で放電加工ができず、硬質、高靭性なために機械的加工も困難である。

一方、AlNはSiに比べれば硬さや靭性が低く、昜加工材料であるが、逆に焼結体の端部が加工時や使用時にチッピングや欠けを起こしやすい。AlNもまた、Siと同様に電気加工は不能である。AlNの用途としては、放熱部材や熱伝導部材のほかに、ヒーターや静電チャックへの応用例も増えている。

そこで、引用文献にあるように、金属炭化物や窒化物を副成分として加えることで導電性を持たせる技術が提案されてきたが、導電性添加物である炭化物や窒化物は、粒子が粗大になると加工時や使用時に炭化物/窒化物の粒子の脱落が頻繁に起こる。これは、炭化物/窒化物の粗大粒子が5μmを越えている場合に顕著に見られる。

本発明が解決しようとする課題は、これらの窒化物セラミックスに電気加工が十分にできる程度に導電性を持たせ、なおかつ導電性炭化物/窒化物の粗大粒子の発生を防ぐことである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の目的は、窒化物であるSiおよびAlNセラミックスについて、下記特徴を有する材料を得るものである。
1.導電性添加物を加え、電気加工ができる程度の導電性(1×10−1(Ω・cm)以下)を有すこと。
2.焼結体中の導電性添加物の最大粒子径および長径が5μm以下であること。この場合の長径とは、非球状の粒子の最も長い距離を指す。

これらについて説明を加えれば、下記のようになる。
1.導電性添加物の含有量は、焼結体の特性が得られる範囲にて混合する必要がある。ところが、この導電性添加物である炭化物や窒化物の粒子同士の結合は剥離を起こしやすく、粒子径が大きくなるにしたがって、この傾向は強くなる。そのために炭化物/窒化物はより微細に分散される必要がある。
組成については、導電性添加物が1体積%以下の添加では十分な導電性を得ることは難しく、35体積%を超える量添加すれば、SiやAlNの利点が活かされなくなるばかりでなく、導電性粒子が粗大な結晶になりやすくなり、反って求める性質が得られなくなる。導電性添加物としては、TiN,TiC、TaC、NbC、WC、Cr、VCから1種以上を選択することが特に適している。
2.導電性添加物である炭化物や窒化物は、粒子が粗大になると加工時や使用時に炭化物/窒化物の粒子の脱落が頻繁に起こる。これは、炭化物/窒化物の粗大粒子が5μm(直径または長径)を越えている場合に見られる。よって、この5μm以上の導電性添加物が発生しない方法として、導電性添加物の原料粉末の平均粒子径が200nm以下とした。
【発明の効果】
【0005】
金属炭化物や窒化物を副成分として加えることで導電性を持たせる技術が提案されてきたが、導電性添加物である炭化物や窒化物(SiまたはAlN)中に1〜35体積%の導電性セラミックスを組織中に導電性セラミックスが凝集した5μm以上の粗大粒がない組織の焼結体を得ることにより、半導体用保持機器、光学位置測定用反射鏡、精密部品加工用の治具、精密なプレス、打ち抜き金型、放熱部材や熱伝導部材、ヒーターや静電チャックへなどに適した窒化物分焼結体を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。
【実施例1】
【0007】
(原料・粉末)
主成分であるSiおよびAlNの原料粉末として、平均粒子径1.0μm以下、更に望ましくは0.5μm以下の原料粉末を準備する。また、1〜35体積%を占める導電性添加物である炭化物および窒化物としては、平均粒子径が10nm〜200nmの微細粉末を用いる。
焼結時に導電性添加物粒子は粒成長する(逆に導電性添加物が粒成長をしない条件では、緻密化が十分に進行しない)。焼結時の炭化物粒子の粒成長を見越して、原料粉末では前記範囲とすることが必要である。この平均粒子径範囲であれば、1500℃〜1900℃程度で、焼結および緻密化が十分に進行した後でも、焼結後の導電性粒子の最大粒子径を5μm以下に制御することができる。200nmを越える原料粉末を使用すれば、十分に緻密な焼結体(理論密度比99%以上)とした場合、導電性添加物が全体的に連続する構造を取るため、5μm以下に制御することは不可能である。
10nm未満の導電性添加物粒子の原料粉末は、それを得ることが非常に難しくなるために、工業的に利用しづらい状況である(この粒子径を排除するものではない)。導電性添加物の微細粉の製造方法は、有機金属含有物を溶媒にて液体状にし、それに炭素源/窒素源を加えて炉内で炭化処理する方法や、機械的なミリング、ジェット粉砕など、十分な粒子径がえられるのであればその手段は問わない。
導電性添加物の原料の粒子径、組成をさまざま変えて実験した条件を表1および表2に示す。焼結温度は、温度条件をさまざま変えて高密度を得た際の温度である。

また、表には特に記載していないが、この場合のSiおよびAlNとは、純粋な窒化物に限定するものでなく、MgO、Y、SiO、CaO、TiO、希土類元素酸化物など、公知の酸化物の焼結助材として用いられる物質は、その量が特に大きくない場合は(全体の3体積%以下)、本発明の範囲であることを付記しておく。
なお、SiおよびAlNの原料粉の平均粒子径は、0.5μmで統一している。
【0008】
【表1】

【0009】
【表2】

【0010】

(成形・焼結)
成形はプレス成形にて、所望の形を得ることができる。圧粉体に工作機にて中間加工も行うことができる。得られた成形体を、非還元雰囲気の炉にて1500〜1900℃程度で焼結が可能である。雰囲気はNガスや非酸化性ガスを用いて、10気圧程度で加圧する方法がより望ましい。本実験では焼結温度を調整し、理論密度比で十分な密度が得られる条件を探し、その温度で焼結をした結果である。
また、目的物が平板状であれば、HP(ホットプレス)を用いて成形、焼結を同時に行うことも可能である。この際の温度は1400〜1800℃、雰囲気はN雰囲気とした。ホットプレスの圧力は、300MPaで統一した。
さらに上記いずれの場合でも、焼結後にHIP処理を行うことで、更にポアを少なくすることもできる。
表1および表2に示す組成、焼結条件で焼結した焼結体をその相対密度(対理論密度比)、電気抵抗率を測定した。また、観察によって、粗大粒(5μmを越えるもの)の有無の判断を行った。なお、最大距離は光学顕微鏡でラップ研磨された断面、1mmを観察することで行った。
これらの結果を表3および表4に示す。
【0011】
【表3】

【0012】
【表4】

【0013】
表1〜表4の試料で*印のつく番号は、本発明の範囲外の比較例である

(評価 組織・ラップ面粗度)
表3および表4に示す、本発明の試料は5μm以上の導電性添加物の粗大粒子が見られず、また電気抵抗率も1×10−2(Ω・cm)以下と、安定的に型彫放電加工およびワイヤー放電加工が可能であった。

一方、試料番号に「*」を付与した比較例は、本発明の範囲外である。
*試料1は導電性添加物(TaC)量が少なかったために、粗大粒のない緻密な焼結体は得られたが、焼結体に導電性は得られなかった。
*試料6は導電性添加物(TaC)量が多すぎたために、導電性添加物が全体に連続したために、20μmを越える粗大粒が発生した。
*試料14は導電性添加物の粉末時点での大きさが大きすぎるために、20μmを越える粗大粒子が発生する一方で、導電性も得られなかった。
*試料16と*試料19は、それぞれ実施例の試料17と試料20と同じ導電性粒子を添加したものだが、焼結条件が違う。*試料16と*試料19は焼結条件が緻密化するのに不十分であったために、十分緻密な組織が得られなかった。これは、添加物微粒子の焼結が不足しているために起こるもので、電気抵抗率も高い値を示した。
また、本発明の実施例のすべての試料で、導電性粒子とそれに最も近い他の導電性粒子との距離は2μm以下であり、微細な粒子が均一に分散していることがわかった。微視的な視点からも組織は均質であり、このことから表面粗さの改善が期待できる。また均質であるために、強度的に弱く破壊の起点になる部分が無いために、物理特性も向上する。さらに、放電加工での電圧値が一定で、加工用ワイヤーが切断するなどの不都合が起きない。

本発明の窒化物系複合セラミックスで、Si複合セラミックスは、チッピング、割れや脱粒などの不具合を生じることなく、半導体用保持機器、光学位置測定用反射鏡、精密部品加工用の治具、精密なプレス、打ち抜き金型などの材料として適しており、放電加工も可能であった。
また、AlN複合セラミックスは、放熱部材や熱伝導部材のほかに、ヒーターや静電チャックへの使用にも、十分耐えるものであり、放電加工も可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は以下に示す用途に利用可能である。
レンズ成形型、半導体製造用治具、静電チャック、切削工具、刃物、電圧非直線抵抗体、真空チャック、半導体保持具、発熱体、ヒートシンク、摺動部材、精密金型、光学用反射鏡、高温用部材、耐摩耗用部材、摺動部材、ベアリング、ガスセンサー、圧電性素子、溶融金属容器、スライディングノズル、浸漬ノズルなど。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiまたはAlN中に1〜35体積%の導電性セラミックス(電気抵抗率が1×10−2(Ω・cm)以下)が微細分散した窒化物系複合セラミックスであって、
組織中に導電性セラミックスが凝集した5μm以上の粗大粒がなく、
放電加工が可能であることを特徴とする窒化物系複合セラミックス。