説明

窒化物蛍光体の製造方法

【課題】 窒化物蛍光体を製造するに際して、より安価で簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】 蛍光体原料を焼成する工程を有する窒化物蛍光体の製造方法であって、該蛍光体原料として、アルカリ土類金属水素化物を用いることを特徴とする窒化物蛍光体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価で簡便な窒化物蛍光体の製造方法に関するものである。詳しくは、蛍光体原料として、アルカリ土類金属水素化物を用いた窒化物蛍光体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(light emitting diode。以下、適宜「LED」と略称する。)等の光源と蛍光体とを組み合わせた半導体発光装置が実用化されており、これらに用いられる各色蛍光体の開発も各種行なわれている。
このうち、赤色発光をする窒化物蛍光体として、(Mg,Ca,Sr,Ba)Siに代表される母体結晶構造を有するものやCaAlSiNに代表される母体結晶構造を有するものが知られている(特許文献1及び2参照)。これらの蛍光体原料としては、アルカリ土類金属窒化物が用いられているが、該化合物は高価であるため、工業的な生産の際にはより安価な原料の使用が求められる。
【0003】
この問題を解決するための一方策として、特許文献3には、合金原料を用いた蛍光体の製造方法が記載されている。
また、特許文献4には、安価なアルカリ土類金属炭酸塩を原料として用いる際に、炭素存在下で焼成を行う蛍光体の製造方法(以下、「カルボサーマル法」とも言うことがある。)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−515655号公報
【特許文献2】特開2005−336253号公報
【特許文献3】WO2006/106948号公開パンフレット
【特許文献4】特表2007−511452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようにアルカリ土類金属窒化物よりも安価な原料を用いた製造方法の出現が従来より望まれている中、上記特許文献3の方法は、合金を窒化する際に詳細な発熱の制御が必要であり、工業生産時の安全性の問題から、より簡便な方法の出現が望まれる。
また、特許文献4のようなカルボサーマル法では、得られた蛍光体中に炭素元素が混入することにより輝度の低下を招くため、高輝度の蛍光体を得るには炭素の混入を減らすための細かな製造条件の制御が必要であり、より簡便な方法の出現が望まれる。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、窒化物蛍光体を製造するに際して、より安価で簡便な製造方法を見出すことを第1の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、アルカリ土類金属窒化物よりも安価な原料となりうる化合物のうち、アルカリ土類金属水素化物を原料として用い窒化物蛍光体を製造した場合に、特別な操作を行なわずとも、アルカリ土類金属窒化物を用いた場合と同程度以上の発光ピーク強度を有する蛍光体が得られることを見出した。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(3)を要旨とするものである。
(1)蛍光体原料を焼成する工程を有する窒化物蛍光体の製造方法であって、該蛍光体原
料として、アルカリ土類金属水素化物を用いることを特徴とする窒化物蛍光体の製造方法。
(2)窒化物蛍光体がニトリドシリケート又はニトリドアルミノシリケートであることを特徴とする上記(1)の蛍光体の製造方法。
(3)アルカリ土類金属水素化物がCaH、BaH及びSrHからなる群より選ばれるものであることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光ピーク強度を従来と同程度以上としつつも、より安価で簡便な窒化物蛍光体の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1及び比較例1の各蛍光体のXRDスペクトルとCaSiのJCPDSパターンを示す図である。
【図2】本発明の実施例1及び比較例1の各蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【図3】本発明の実施例1及び比較例1の各蛍光体の残光特性を示す図である。
【図4】本発明の実施例2、3及び比較例2の各蛍光体のXRDスペクトルを示す図である。
【図5】本発明の実施例2、3及び比較例2の各蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【図6】本発明の実施例2〜8の各蛍光体の発光ピーク強度を示す図である。
【図7】本発明の実施例2及び実施例9〜14の各蛍光体の発光ピーク強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施の形態や例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
また、本明細書における色名と色度座標との関係は、すべてJIS規格に基づく(JIS Z8110及びZ8701)。
【0011】
なお、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち1種又は2種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。例えば、「(Ca,Sr,Ba)Al:Eu」という組成式は、「CaAl:Eu」と、「SrAl:Eu」と、「BaAl:Eu」と、「Ca1−xSrAl:Eu」と、「Sr1−xBaAl:Eu」と、「Ca1−xBaAl:Eu」と、「Ca1−x−ySrBaAl:Eu」とを全て包括的に示しているものとする(但し、前記式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)。
【0012】
1、窒化物蛍光体
本発明の製造方法で得られる窒化物蛍光体は、アルカリ土類金属元素とN元素とを母体結晶構造に含有している公知の窒化物蛍光体であれば任意のものが挙げられる。中でも、Si元素をさらに含有する、ニトリドシリケート及びニトリドアルミノシリケートが好ましく挙げられる。
【0013】
上記窒化物蛍光体のアニオン元素としては、N元素のほかに、O元素及び/又はハロゲン元素を含有していても良いが、なかでも、下記式(A)で表されるようなアルカリ土類
金属元素よりも酸素のモル数が小さい蛍光体の製造に適用するのが好ましい。
a×(1-b)a×b (A)
(式(A)中、Mは2価の陽イオンとなる元素、Rは付活元素、Tは3価の陽イオンとなる元素、Xは4価の陽イオンとなる元素、Nは窒素、Oは酸素、Zは1価の陰イオンとなる元素を示し、a、b、c、d、e、f及びgはそれぞれ下記の数値範囲を満たす値である。
0.5≦a≦3、
0<b<1、
0≦c≦1.5、
0.5≦d≦8、
e=((a×2+c×3+d×4)/3)−2f−g
0≦f≦3、
0≦g≦3、
f≦a)
このうち、Mの具体例としてMg、Ca、Sr、Ba及びZn並びにそれらの組合せが挙げられる。また、Rの具体例としてEu、Ce、Pr、Yb、Tm及びMn並びにそれらの組合せが挙げられる。また、Tの具体例としてAl、Ga、Sc、Y、La、Gd及びLu並びにそれらの組合せが挙げられ、Xの具体例としてSi及びGe並びにそれらの組合せが挙げられ、Zの具体例としてF、Cl、Br及びI並びにそれらの組合せが挙げられる。
【0014】
本発明の製造方法を適用するのが好ましい窒化物蛍光体の具体例としては、後述の式(I)〜(VI)で表される蛍光体に加え、BaSiON10、SrSiAlON等が挙げられる。
すなわち、アルカリ土類金属元素より酸素含有量の多いBaSiの場合には、3BaO+Si+3SiOという原料の組み合わせでも合成できるのに対して、BaSiON10の合成のためには、例えば、BaO+Ba+2Siという原料の組み合わせによりBaが必要となるため、安価で入手容易な原料を用いて簡便に製造することができると言う本発明の製造方法の利点を享受できる効果が大きい。
【0015】
従って、本発明の製造方法で得られる窒化物蛍光体としては、組成式中の酸素原子の量が少ないものの方がより好ましく、後述の式(I)〜(VI)で表される蛍光体のような理想的な母体結晶の組成式では酸素を含まない窒化物蛍光体に適用することが特に好ましい。
また、本発明の窒化物蛍光体としては、その性能に影響を与えない限りにおいて、一般式中の窒素原子の一部が酸素原子やハロゲン原子に置き換わっていても良い。この場合、酸素原子の含有量としては、窒素原子、酸素原子及びハロゲン原子の合計モル数に対して、10モル%以下、好ましくは3モル%以下、より好ましくは1モル%以下である。また、ハロゲン原子の含有量としては通常、窒素原子、酸素原子及びハロゲン原子の合計モル数に対して、1モル%以下である。
【0016】
上記ニトリドシリケート蛍光体の好ましい具体例としては、下記一般式(I)〜(IV)で表される母体結晶構造を有する蛍光体が挙げられる。
ここで、式(I)の蛍光体は前述の式(A)の組成式において、a=2、c=0、d=5、e=8の場合に相当し、式(II)の蛍光体は前述の式(A)の組成式において、a=1、c=0、d=7、e=10の場合に相当し、式(III)の蛍光体は前述の式(A)の組成式において、2.5<a+c<3.5、d=6、e=11の場合に相当し、式(IV)の蛍光体は前述の式(A)の組成式において、a=1、c=1、d=4、e=7の場合に相当する。
【0017】
M12−2xR12xSi (I)
(上記式(I)中、M1はアルカリ土類金属元素を示し、R1は少なくともEuを含有し、Ce、Eu、Mn、Yb、Pr、Tm及びTbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素を示し、xは0<x<1で表される範囲の数値である。)
M21−xR2Si10 (II)
(上記式(II)中、M2はアルカリ土類金属元素を示し、R2は少なくともEuを含有し、Ce、Eu、Mn、Yb、Pr、Tm及びTbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素を示し、xは0<x<1で表される範囲の数値である。)
M3x’R33ySi11 (III)
(上記式(III)中、M3は少なくともLa及びアルカリ土類金属元素を含有し、La、Gd、Lu、Y及びSc及びアルカリ土類金属元素からなる群より選ばれる少なくとも2種類以上の元素を示し、R3は少なくともCeを含有し、Ce、Eu、Mn、Yb、Pr及びTbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素を示し、x’は2.5<x’<3.5で表される範囲の数値であり、yは0<y<1で表される範囲の数値である。)
M41−xR4M4’Si (IV)
(上記式(IV)中、M4はアルカリ土類金属元素を示し、R4は少なくともEuを含有し、Ce、Eu、Mn、Yb、Pr及びTbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素を示し、M4’はLa、Gd、Y、Lu及びScからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素を示し、xは0<x<1で表される範囲の数値である。)
上記ニトリドアルミノシリケート蛍光体の好ましい具体例としては下記一般式(V)〜(VI)で表される母体結晶構造を有する蛍光体が挙げられる。ここで、式(V)の蛍光体は前述の式(A)の組成式において、a=1、c=1、d=1、e=3の場合に相当し、式(VI)の蛍光体は前述の式(A)の組成式において、a=1、c=1、d=4、e=7の場合に相当する。
【0018】
M51−xR5AlSiN (V)
(上記式(V)中、M5はアルカリ土類金属元素を示し、R5は少なくともEuを含有し、Ce、Eu、Mn、Yb、Pr及びTbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素を示し、xは0<x<1で表される範囲の数値である。)
M61−xR6AlSi (VI)
(上記式(IV)中、M6はアルカリ土類金属元素を示し、R6は少なくともEuを含有し、Ce、Eu、Mn、Yb、Pr及びTbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素を示し、xは0<x<1で表される範囲の数値である。)
上記式(I)、(II)、(V)及び(VI)で表される蛍光体は、波長380〜460nmといった近紫外〜青色領域の光によって励起され、赤色発光するものである。具体的には、波長455nmの光で励起した場合の発光スペクトルにおける発光ピーク波長が、通常570nm以上、好ましくは590nm以上、より好ましくは600nm以上、更に好ましくは610nm以上であり、通常、700nm以下、好ましくは680nm以下、より好ましくは665nm以下のものである。
【0019】
また、発光ピークの半値幅は、通常60nm以上、好ましくは65nm以上、より好ましくは70nm以上であり、通常、125nm以下、好ましくは120nm以下、より好ましくは115nm以下である。
また、上記式(III)で表される蛍光体は、波長380〜460nmといった近紫外〜青色領域の光によって励起され、黄色発光するものである。具体的には、波長455nmの光で励起した場合の発光スペクトルにおける発光ピーク波長が、通常500nm以上、好ましくは520nm以上、より好ましくは530nm以上であり、通常、600nm以下、好ましくは580nm以下、より好ましくは570nm以下のものである。
【0020】
また、発光ピークの半値幅は、通常50nm以上、好ましくは60nm以上、より好ましくは70nm以上であり、通常、150nm以下、好ましくは140nm以下、より好ましくは130nm以下である。
また、上記式(IV)で表される蛍光体は、波長380〜460nmといった近紫外〜青色領域の光によって励起され、緑色発光するものである。具体的には、波長455nmの光で励起した場合の発光スペクトルにおける発光ピーク波長が、通常480nm以上、好ましくは500nm以上、より好ましくは510nm以上であり、通常、570nm以下、好ましくは550nm以下、より好ましくは540nm以下のものである。
【0021】
また、発光ピークの半値幅は、通常40nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上であり、通常、100nm以下、好ましくは90nm以下、より好ましくは80nm以下である。
尚、該蛍光体を波長455nmの光で励起するには、例えば、GaN系LEDを用いることができる。また、本発明で得られる蛍光体の発光スペクトルの測定、並びにその発光ピーク波長、ピーク相対強度及びピーク半値幅の算出は、例えば、日本分光社製FP−6500といったような蛍光測定装置を用いて行うことができる。
【0022】
2、窒化物蛍光体の製造方法
上記窒化物蛍光体は、通常、蛍光体構成元素を含有する蛍光体原料を混合焼成するといった公知の方法で製造されるが、本発明の製造方法は、原料としてアルカリ土類金属水素化物を用いることを特徴とする。
[2−1.アルカリ土類金属水素化物]
上記アルカリ土類金属水素化物としては、通常、窒化物蛍光体の組成に依存し、CaH、BaH、SrH等任意に用いることができるが、このうち好ましくはCaH、BaH又はSrH2であり、より好ましくはCaH又はBaHであり、特に好まし
くはCaHである。
【0023】
該アルカリ土類金属水素化物は後述のアルカリ土類金属元素源となる原料の一部を置き換えて用いても良いし、アルカリ土類金属元素源となる原料の全てとしてアルカリ土類金属水素化物を用いても良いが、全てをアルカリ土類金属水素化物とする方が好ましい。
加えて、アルカリ土類金属水素化物の使用量を、目的とする蛍光体組成の理論量よりも過剰とすることの方が好ましい。
【0024】
この場合、蛍光体組成の理論量に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、また、通常12重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲で過剰に用いるのが良い。
[2−2.蛍光体原料]
本発明の蛍光体の製造に使用される蛍光体原料は、上述の通り、蛍光体構成元素を含有する単体及び化合物などが挙げられ、中でも好適な例としては、金属、合金、イミド化合物、アミド化合物、酸窒化物、窒化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物等が挙げられる。蛍光体原料は、これらの中から、各蛍光体の種類に応じて、反応性や、焼成時におけるNO、SO等の発生量の低さ等を考慮して、公知の原料から適宜選択すればよい。
【0025】
また、蛍光体原料中に含まれる不純物としては、蛍光体の性能に影響を与えない限りにおいて、特に限定されない。ただし、Fe、Co、Cr及びNiに関しては、通常1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、特に好ましくは1ppm以下であるものが用いられる。
また、各蛍光体原料の重量メジアン径としては、通常0.1μm以上、好ましくは0.
5μm以上であり、通常30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは3μm以下のものが用いられる。このために、蛍光体原料の種類によっては予めジェットミル等の乾式粉砕機で粉砕を行っても良い。これにより、各蛍光体原料の原料混合物中での均一分散化を図り、かつ、蛍光体原料の表面積増大による原料混合物の固相反応性を高めることができ、不純物相の生成を抑えることが可能となる。特に、窒化物原料の場合には、反応性の観点から他の蛍光体原料より小粒径のものを用いることが好ましい。
このうち、上記一般式(I)〜(VI)で表される母体結晶構造を有する蛍光体の原料として好ましくは以下のようなものが挙げられる。
【0026】
〔M1〜M6およびM4’で表される元素の原料の説明〕
本発明は、アルカリ土類金属元素原料としてアルカリ土類金属水素化物を用いることを特徴とするものである。これ以外のアルカリ土類金属元素原料を併用する場合は、アルカリ土類金属元素の酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物又は窒化物を使用することができるが、このうち好ましくはハロゲン化物又は窒化物が挙げられる。中でも原料の入手のしやすさ及び価格の面からハロゲン化物が好ましい。
【0027】
また、La、Gd、Lu、Y及びScの原料としては、これらの金属元素の酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物又は窒化物が挙げられ、このうち好ましくはハロゲン化物又は窒化物が挙げられる。中でも原料の入手のしやすさ及び価格の面からハロゲン化物が好ましい。
〔R1〜R6で表される元素の原料の説明〕
R1〜R6は付活元素である。該付活元素の原料としては、これらの元素の酸化物、ハロゲン化物又は窒化物が挙げられ、このうち原料の入手のしやすさ及び価格の面から好ましくは酸化物又はハロゲン化物が挙げられる。このうち、原料中の酸素原子の量を制御する必要がある場合には、ハロゲン化物を用いることが好ましい。
【0028】
〔Al原料の説明〕
Alの原料(Al源)としては、Al又はAlNが挙げられ、このうち好ましくはAlNである。
〔Si源の説明〕
Siの原料(Si源)としては、SiC、SiO又はSi挙げられ、このうち好ましくはSi34である。また、Siとしては反応性の点から、粒径が小さく、発光効率の点から純度の高いものが好ましい。
【0029】
[2−2.蛍光体の製造方法:混合工程]
目的組成が得られるように蛍光体原料を秤量し、これらを混合してから焼成することにより、本発明の蛍光体が得られる。なお、この際、混合はボールミル等を用いて十分に混合することが好ましい。
上記混合手法としては、特に限定はされないが、原料としてアルカリ土類金属水素化物を用いるため、具体的には、下記(A)に記載されたような公知の乾式混合手法を任意に用いることができる。また、これらの各種条件については、例えば、ボールミルにおいて2種の粒径の異なるボールを混合して用いる等、公知の条件が適宜選択可能である。
【0030】
(A)例えばハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機、又は、乳鉢と乳棒等を用いる粉砕と、例えばリボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機、又は、乳鉢と乳棒を用いる混合とを組み合わせ、前述の蛍光体原料を粉砕混合する乾式混合法。
また、上記混合・粉砕時には、必要に応じて、蛍光体原料を篩いにかけても良い。この場合、各種市販の篩いを用いることが可能であるが、金属メッシュ等の金属製のものよりもナイロンメッシュ等の樹脂製のものを用いる方が、不純物混入防止の点で好ましい。
【0031】
また、原料としてアルカリ土類金属水素化物を用いる場合には、該水素化物が水分により劣化しないように、例えばアルゴンガス、窒素ガス等の不活性気体を充填し、水分管理されたグローブボックスでミキサー混合することが好ましい。
さらに、混合を行う際、その雰囲気中の水分は、10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、10ppm以下が更に好ましく、1ppm以下が特に好ましい。また、酸素は、1%以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、100ppm以下が更に好ましく、10ppm以下が特に好ましい。
【0032】
[2−3.蛍光体の製造方法:焼成工程]
得られた混合物を焼成することにより、蛍光体を得る。この焼成は、蛍光体原料をルツボ等の容器に充填し、所定温度、雰囲気下で焼成することが好ましい。
容器としては、各蛍光体原料との反応性の低い材料からなるルツボ又はトレイ等の耐熱容器を用いることが好ましい。このような焼成時に用いる耐熱容器の材質としては、例えば、アルミナ、石英、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素等のセラミックス;白金、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ等の金属、あるいは、それらを主成分とする合金;カーボン(グラファイト)などが挙げられる。ここで、石英製の耐熱容器は、比較的低温、すなわち、1200℃以下での熱処理に使用することができ、好ましい使用温度範囲は1000℃以下である。
【0033】
このような耐熱容器の例として、好ましくは窒化ホウ素製、グラファイト製、窒化珪素製、炭化珪素製、白金製、モリブデン製、タングステン製、タンタル製の耐熱容器が挙げられ、より好ましくは窒化ホウ素製、グラファイト製、及びモリブデン製のものが挙げられる。中でも蛍光体中に混入する炭素量を低減させる必要がある場合には、窒化ホウ素製又はモリブデン製のものが好ましい。
焼成時の昇温過程においては、その一部で減圧条件下とすることが好ましい。具体的には、好ましくは室温以上であって、且つ、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1200℃以下、更に好ましくは1000℃以下の温度となっているいずれかの時点において、減圧状態(具体的には、通常10−2Pa以上0.1MPa未満の範囲)とすることが好ましい。中でも、系内を減圧下後で後述する不活性ガス又は還元性ガスを系内に導入し、その状態で昇温を行うことが好ましい。
【0034】
このとき、必要に応じて、目的とする温度で1分以上、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上保持しても良い。保持時間は通常5時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは1時間以下である。
焼成温度としては、各蛍光体の種類によって、適宜、公知の製造方法と同様の温度を採用することができるが、例えば、上記式(I)〜(VI)で表される化合物の場合には、1600℃前後の焼成温度で結晶性の良好な粉体が得られる。従って、通常1300℃以上、より好ましくは1400℃以上の温度であり、また、通常2000℃以下、好ましくは1900℃以下の温度である。
【0035】
焼成雰囲気としては特に制限されないが、通常、不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気下で行われる。ここで、前述の通り、付活元素の価数としては、Euとしては2価、Ceとしては3価のものが多い方が好ましいため、還元雰囲気であるのが好ましい。なお、不活性ガス及び還元性ガスは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0036】
不活性ガス及び還元性ガスとしては、例えば、一酸化炭素、水素、窒素、アルゴン、メタン、アンモニア等が挙げられる。このうち、窒素ガス雰囲気下であることが好ましく、より好ましくは水素ガス含有窒素ガス雰囲気下である。上記窒素(N)ガスとしては、
純度99.9%以上を使用することが好ましい。水素含有窒素を用いる場合、電気炉内の酸素濃度を20ppm以下に下げることが好ましい。さらに、雰囲気中の水素含有量は1体積%以上が好ましく、2体積%以上がさらに好ましく、また、100体積%以下の水素ガスを用いても良いが、10体積%以下が好ましく、5体積%以下がより好ましい。雰囲気中の水素の含有量は、高すぎると安全性が低下する可能性があり、低すぎると十分な還元雰囲気を達成できない可能性があるからである。
【0037】
また、上記不活性ガス及び還元性ガスは昇温開始前に導入してもよいし、昇温途中に導入してもよいし、焼成温度到達時に導入を行っても良いが、昇温開始前又は昇温途中に導入するのが好ましい。
また、これらの不活性ガス及び還元性ガス流通下で焼成を行う場合には、通常0.1〜10リットル/分の流量の下、焼成が行われる。
【0038】
また、焼成時間は、焼成時の温度や圧力等によっても異なるが、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上である。また、焼成時間は長い方が好ましいが、通常100時間以下、好ましくは50時間以下、より好ましくは24時間以下、さらに好ましくは12時間以下である。
焼成時の圧力は、焼成温度等によっても異なるため特に限定されないが、通常1×10−5Pa以上、好ましくは1×10−3Pa以上、より好ましくは0.01MPa以上、さらに好ましくは0.1MPa以上であり、また、上限としては、通常5GPa以下、好ましくは1GPa以下、より好ましくは200MPa以下、さらに好ましくは100MPa以下である。このうち、工業的には大気圧〜1MPa程度がコスト及び手間の点で簡便であり好ましい。
【0039】
なお、焼成工程においては、例えば蛍光体原料の一部または全部を混合焼成して得られる焼成物など、原料混合物以外の蛍光体前駆体を原料混合物に合わせて、またはそれらを原料混合物に代えて、焼成するようにしても良い。
[2−4.フラックス]
本発明の蛍光体は、その焼成工程において、反応系にフラックスを共存させてもよい。フラックスの種類は特に制限されないが、例としては、NHCl、NHF・HF等のハロゲン化アンモニウム;NaCO、LiCO等のアルカリ金属炭酸塩;LiCl、NaCl、KCl、CsCl、LiF、NaF、KF、CsF、等のアルカリ金属ハロゲン化物;CaCl、BaCl、SrCl、CaF、BaF、SrF等のアルカリ土類金属ハロゲン化物;EuCl、LaCl3、CeCl3、EuF、LaF3、CeCl3等の希土類金属ハロゲン化物;CaO、SrO、BaO等のアルカリ土類金属酸化物;B、HBO、Na、K等のホウ素酸化物、ホウ酸及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩化合物;LiPO、NHPO、BaHPO、Zn(PO等のリン酸塩化合物;AlF等のハロゲン化アルミニウム;ZnCl、ZnBr、ZnFといったハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛、ホウ酸亜鉛、リン酸亜鉛等の亜鉛化合物;Bi等の周期表第15族元素化合物;LiN、Ca、Sr、Ba、SrN、BaN、BN等のアルカリ金属、アルカリ土類金属又は第13族元素の窒化物などが挙げられる。
【0040】
中でもアルカリ金属化合物を用いるのが好ましい。このうちアルカリ金属の窒化物を用いることが更に好ましく、LiNを用いることが特に好ましい。
フラックスの使用量は、蛍光体原料の種類やフラックスの種類等によっても異なるが、各フラックス毎に通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは3重量%以上であり、また、通常18重量%以下、好ましくは15重量%以下、より好ましくは12重量%以下の範囲である。
【0041】
なお、フラックスは一種のみを使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。二種以上を組み合わせて用いる場合、フラックスの使用量は全体で通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下である。また全体で通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上である。
【0042】
[2−5.多段焼成]
焼成工程において固相反応をより進行させ、結晶性を向上させるために、焼成工程を1段ではなく多段に分割して行なってもよい。例えば、混合工程により得られた原料混合物をまず一次焼成した後(第一の焼成工程)、必要に応じてボールミル等で再度粉砕してから、再度焼成する(第二の焼成工程)という操作を1回以上行う方法が挙げられる。再度の焼成(第二の焼成工程)は、二次焼成、三次焼成というように何回行うようにしてもよい。この際、一次焼成した焼成物は、その焼成物だけで後段の焼成に導入してもよいし、前述の蛍光体原料の一部を混合焼成したものを粉砕し、そこに残りの原料を混合して焼成するという態様をとることもできる。
【0043】
焼成における温度、時間等の条件は、基本的に上述の焼成工程の欄に記載した条件と同様であるが、蛍光体の種類に応じて、各工程の焼成温度及び/又は時間等の条件を変更しても良い。
なお、フラックスは一次焼成の前に混合してもよいし、二次焼成以降の焼成前に混合してもよい。また、雰囲気等の焼成条件も一次焼成と二次焼成以降とで変更してもよい。
このときの焼成条件としては、前述に記載と同様の範囲で適宜選択して行われる。ただし、連続した2つの焼成工程における焼成温度のうち、後段の焼成温度の方を高い温度とする工程を少なくとも1回以上有している方が、蛍光体の結晶成長が促進され、結晶性を高めることが可能になり好ましい。
【0044】
[2−7.後処理]
上述の焼成工程の加熱処理後は、必要に応じて、粉砕、洗浄、乾燥、分級処理等をすることにより、その重量メジアン径D50が、通常0.01μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、また、通常100μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下の範囲のものを得ることができる。
【0045】
尚、上記重量メジアン径D50とは、頻度基準粒度分布曲線により得られる値である。前記頻度基準粒度分布曲線は、レーザー回折・散乱法により粒度分布を測定し得られるものである。具体的には、分散剤を含む水溶液中に蛍光体を分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所 LA−300)により、粒径範囲0.1μm〜600μmにて測定し、得られたものである。この頻度基準粒度分布曲線において、積算値が50%のときの粒径値を重量メジアン径D50とする。
【0046】
〔粉砕処理〕
粉砕処理は、例えば得られた蛍光体が所望の粒径になっていない場合に、焼成物に対して行う。粉砕処理方法としては、特に限定されない。例えば、蛍光体原料の混合工程の説明の項に記載した乾式粉砕方法の他湿式粉砕方法も使用できるが、生成した蛍光体結晶の破壊を抑え、二次粒子の解砕等の目的とする処理を進めるためには、例えば、アルミナ、窒化珪素、ZrO、ガラス等の容器中にこれらと同様の材質又は鉄芯入りウレタン等のボールを入れてボールミル処理を10分〜24時間程度の間で行うのが好ましい。この場合、有機酸やヘキサメタリン酸などのアルカリリン酸塩等の分散剤を0.05〜2重量%用いても良い。
【0047】
〔洗浄処理〕
洗浄処理は、例えば、脱イオン水等の水、エタノール等の有機溶剤、アンモニア水等のアルカリ性水溶液などで行うことができる。また、使用されたフラックス等の蛍光体の表面に付着した不純物相を除去し発光特性を改善するなどの目的のために、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸などの無機酸;又は、酢酸などの有機酸の水溶液を使用することもできる。この場合、酸性水溶液中で洗浄処理した後に、水で更に洗浄することが好ましい。
【0048】
洗浄の程度としては、洗浄後の蛍光体を重量比で10倍の水に分散後、1時間静置して得られる上澄み液のpHが中性(pH7〜9程度)であることが好ましい。塩基性、又は酸性に偏っていると、後述の液体媒体等と混合するときに液体媒体等に影響を与えてしまう可能性があるためである。
また、上記洗浄の程度は、洗浄後の蛍光体を重量比で10倍の水に分散後、1時間静置して得られる上澄み液の電気電導度でも表すことができる。前記電気伝導度は、発光特性の観点からは低いほど好ましいが、生産性も考慮すると通常10mS/m以下、好ましくは5mS/m以下、より好ましくは4mS/m以下となるまで洗浄処理を繰り返し行なうことが好ましい。
【0049】
電気伝導度の測定方法としては、当該蛍光体の10重量倍の水中で所定時間、例えば10分間撹拌して分散させた後、1時間静置することにより、水よりも比重の重い蛍光体粒子を自然沈降させ、このときの上澄み液の電気伝導度を東亜ディケーケー社製電気伝導度計「EC METER CM−30G」等を用いて測定すればよい。洗浄処理、及び電気伝導度の測定に用いる水としては、特に制限はないが、脱塩水又は蒸留水が好ましい。中でも特に電気伝導度が低いものが好ましく、通常0.0064mS/m以上、また、通常1mS/m以下、好ましくは0.5mS/m以下のものを用いる。なお、電気伝導度の測定は、通常室温(25℃程度)にて行なう。
また、洗浄処理は、例えば、第一の焼成工程と第二の焼成工程との間に行う洗浄工程と同様にして行うことができる。
【0050】
〔分級処理〕
分級処理は、例えば、水篩や水簸処理を行う、あるいは、各種の気流分級機や振動篩など各種の分級機を用いることにより行うことができる。中でも、ナイロンメッシュによる乾式分級と、水簸処理とを組み合わせて用いると、重量メジアン径20μm程度の分散性の良い蛍光体を得ることができる。
【0051】
また、ここで、水篩や水簸処理では、通常、水媒体中に0.1〜10重量%程度の濃度で蛍光体粒子を分散させる、また、蛍光体の変質を抑えるために、水媒体のpHを、通常4以上、好ましくは5以上、また、通常9以下、好ましくは8以下とする。また、上記のような重量メジアン径の蛍光体粒子を得るに際して、水篩及び水簸処理では、例えば50μm以下の粒子を得てから、30μm以下の粒子を得るといった、2段階での篩い分け処理を行う方が作業効率と収率のバランスの点から好ましい。また、下限としては、通常1μm以上、好ましくは5μm以上のものを篩い分けるといった処理を行うのが好ましい。
【0052】
〔表面処理〕
得られた本発明の蛍光体を用いて、後述の方法で発光装置を製造する際には、耐湿性等の耐候性を一層向上させるために、又は後述する発光装置の蛍光体含有部における樹脂に対する分散性を向上させるために、必要に応じて、蛍光体の表面を異なる物質で被覆する等、公知の表面処理方法を行っても良い。
【0053】
3、本発明の製造方法で得られる蛍光体の用途
本発明の製造方法で得られる窒化物蛍光体は、蛍光体としての公知の用途に任意に用いることができるが、波長380〜460nmといった近紫外〜青色領域の光によって励起
することができるため、中でも例えば、発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)等の半導体発光素子のようなこれらの光を発光する光源と組合せることにより、照明装置、液晶ディスプレイ用光源等の白色発光装置に使用した場合に優れた発光装置として用いることも好ましい。
【0054】
この場合、上記半導体発光素子としては公知のものを任意に用いることができるが、中でもGaN系のものが好ましい。
また、発光装置の発光色に応じて、必要に応じて上記窒化物蛍光体以外の蛍光体とを組み合わせて用いても良い。その場合には、蛍光体は半導体発光装置に用いられる公知のバインダー樹脂に混合し、発光素子上に設置すればよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(各種物性値の測定方法)
<発光スペクトル測定>
(株)日立ハイテクノロジーズ製、分光蛍光光度計F−4500により 室温において、
455nm励起の発光スペクトルを測定し、それより、発光ピーク波長、発光ピーク強度、半価幅及び色度座標(x、y)を算出した。
【0056】
<XRD測定>
粉末X線回折測定(XRD)は、Cu−Kα管球を備えた理学電機製粉末X線回折測定装置RINT2200型により行った。
<酸素含有量分析>
固体中窒素酸素分析装置(株)堀場製作所製EMGA-550型)を用いて測定した。
【0057】
<残光特性の測定>
測定サンプルを分光蛍光光度計F−4500の所定位置にセットしたのち、測定プログラムFL Solutionにおいて、測定モードを「時間変化」とし、励起波長を254nm、蛍光波長(検出波長)を600nm、測定時間を600s、初期待ち時間を600s、励起側スリットを10.0nm、受光側スリットを10.0nm、ホトマル電圧を400V、レスポンスを0.01sとした。
【0058】
励起光のシャッターを開き、測定プログラムを動作させた。初期待ち時間の600s経過後、手動で励起光シャッターを閉じ、所定時間における発光強度の時間変化測定を行った。このとき、励起光遮断直前(励起光照射中)の発光強度を1として規格化をした。
(実施例1)
原料としてCaH(関東化学(株)製、純度>95%)、Eu(信越化学工業(株)製、純度>99.9%)、Tm(信越化学工業(株)製、純度>99.9%)、Si(宇部興産(株)製、純度:O<1.26wt%、β−Si<5wt%)、をCa:Eu:Tm:Si=1.99:0.005:0.005:5のモル比になるように良く混合した。これを窒化ホウ素るつぼに入れ、高周波電気炉(富士電波工業(株)製FTR−10−20VH型、周波数20kHz、最大出力10kW)を用いて窒素雰囲気で1650℃で4時間加熱した。
【0059】
得られた粉末を1.6mol/Lの硝酸に入れて3時間撹拌することで、未反応原料や酸化生成物を除去した。これを脱水、乾燥することでCaSi:Eu,Tm蛍光体を得た。得られた蛍光体について粉末XRDを測定した。結果を図1(a)に示す。図1(c)のCaSiの粉末XRDパターン(JCPDS−ICDD−PDF、 82−2489)と良く一致し、この結晶相が得られていることがわかる。
【0060】
また、実施例1及び後述の比較例1の各蛍光体の455nm励起における発光スペクトルと254nm励起における残光特性を測定した結果をそれぞれと図2及び3に示した。
また、発光ピーク波長などの発光特性を表1にまとめた。ここで、相対ピーク強度は比較例1の発光ピーク強度を100とした場合の相対値で示した。
このように、CaHを使用しても、Caを使用した蛍光体より発光強度の点で遜色なく、かつ、残光時間が長い蛍光体が得られることがわかった。
【0061】
さらに、この蛍光体の酸素含有量は、0.29重量%であり、後述の比較例1の蛍光体に比べて、酸素含有量が少なく、発光ピーク波長も長波長側にシフトした。これは、CaHの還元作用によるものと考えられる。
このことより、原料としてCaHを使用することは、発光ピーク波長(発光色)の調整にも利用することができることがわかる。
(比較例1)
原料としてCaHの代わりにCa(Aldrich社製)を用いたこと以外は実施例1と同様の手順を行い、比較例1の蛍光体を得た。得られた蛍光体について粉末XRDを測定した。結果を図1(b)に示す。図1(c)のCaSiの粉末XRDパターン(JCPDS−ICDD−PDF, 82−2489)と良く一致し、この結晶相が得られていることがわかる。また、得られた蛍光体の455nm励起における発光スペクトルと254nm励起における残光特性を測定した結果をそれぞれと図2及び3に示し、
発光ピーク波長などの発光特性を表1にまとめた。さらに、この蛍光体の酸素含有量は、0.54重量%だった。
【0062】
【表1】

【0063】
(実施例2)
Eu(信越化学工業(株)製、純度>99.9%)、CaH(関東化学(株)製、純度>95%)、AlN(和光純薬(株)製、粒子サイズ80nm)及び、Si(宇部興産(株)製、純度:O<1.26wt%、β−Si<5wt%)をガス循環式真空グローブボックス(雰囲気:窒素、酸素および水蒸気含有量が数PPM以下)中で、組成比がCa:Eu:Al:Si=0.98:0.02:1:1となるように秤量後、メノウ乳鉢を用いて十分乾式混合した。
【0064】
これを窒化ホウ素製ルツボ内に入れ、高周波電気炉(富士電波工業(株)製FTR−10−20VH型、周波数20kHz、最大出力10kW)中、ZrB発熱体(ルツボ形状)を用いて、窒素ガス雰囲気中、1600℃で6時間加熱した。得られた試料はメノウ乳鉢で解砕後、1.6mol/Lの硝酸水溶液で洗浄した。得られた蛍光体の粉末XRDを測定した結果を図4に、455nm励起での発光スペクトルを図5に、また、発光ピーク波長などの発光特性を表2に、酸素含有量を表3に示す。ここで、相対ピーク強度は比較例2の発光ピーク強度を100とした場合の相対値で示した。
【0065】
(比較例2)
原料としてCaHの代わりにCa(Aldrich社製)を用いたこと以外は実施例2と同様の手順を行い、比較例2の蛍光体を得た。得られた蛍光体の粉末XRDを測定した結果を図4に、455nm励起での発光スペクトルを図5に、また、発光ピーク波長などの発光特性を表2に、酸素含有量を表3に示す。
【0066】
(実施例3)
原料混合の際にLiN(アルドリッチ(株)製)を全体の3重量%添加したこと以外は実施例2と同様の手順を行い、実施例3の蛍光体を得た。得られた蛍光体の粉末XRDを測定した結果を図4に、455nm励起での発光スペクトルを図5に、また、発光ピーク波長などの発光特性を表2に、酸素含有量を表3に示す。
図4からいずれの場合もCaAlSiN構造の蛍光体が得られていることがわかった。
【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
これらの結果から、CaHを使用しても、Caを使用した蛍光体より発光強度の点で遜色ない蛍光体が得られることがわかった。
さらに、CaHを使用した蛍光体の酸素含有量は、比較例2の蛍光体に比べて少なく、発光ピーク波長も長波長側にシフトした。これは、CaHの還元作用によるものと考えられる。このことから発光ピーク波長(発光色)の調整にも利用でき、より深い赤色の蛍光体を得ることが出来るため、高NTSC比の発光装置が得られるものと考えられる。
【0070】
さらに、アルカリ金属元素フラックスであるLiNを共存させることにより、発光ピーク強度を高くすることができることがわかった。これは、LiNを添加することによって、蛍光体の結晶性を向上させることができたためと考えられる。
(実施例4〜8)
LiNの添加量を変えた以外は実施例3と同様の手順を行い、実施例4〜8の蛍光体を得た。これらの蛍光体の相対発光ピーク強度の変化を図6に示した。
図からわかるように、LiNの添加量を最適化することにより発光強度をさらに増大させることができることがわかる。
【0071】
(実施例9〜14)
実施例2の手順において、CaHの添加量を化学量論比より多くすることにより実施例9〜14の蛍光体を得た。得られた蛍光体の相対発光ピーク強度の変化を図7に示した。このように特定量のCaHを原料混合物に過剰に添加することにより発光特性が改善することがわかった。過剰のCaHは、焼成時にフラックスとして働き、蛍光体の結晶性を向上させたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、窒化物蛍光体を工業的に安価に製造する際に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体原料を焼成する工程を有する窒化物蛍光体の製造方法であって、該蛍光体原料として、アルカリ土類金属水素化物を用いることを特徴とする窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
窒化物蛍光体がニトリドシリケート又はニトリドアルミノシリケートであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
アルカリ土類金属水素化物がCaH、BaH及びSrHからなる群より選ばれるものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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