説明

窒素含有金属粉末の製造方法

【課題】製造ごとの窒素含有金属粉末の窒素含有量のばらつきを容易に抑えることができる窒素含有金属粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の窒素含有金属粉末の製造方法は、溶融した希釈塩中にて、タンタル化合物またはニオブ化合物を、還元剤を用いて還元させるに際して、溶融した希釈塩中で溶融可能な成形用材料で固体状窒素含有化合物が成形された窒素供給剤を添加する。また、本発明の窒素含有金属粉末の製造方法は、溶融した希釈塩中にて、金属塩を還元剤と反応させて還元し、前記金属を生成させる方法において、前記金属塩がタンタル化合物またはニオブ化合物であって、前記金属塩と前記還元剤と前記希釈液とを含む反応融液に、窒素含有ガスを所定量導入して、前記金属を生成させるとともに、前記金属に窒素を含有させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタル電解コンデンサまたはニオブ電解コンデンサの製造に用いられる窒素含有金属粉末を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の電子回路で使用されるコンデンサとして、低電圧駆動、高周波化、低ノイズ化を達成する目的で、低ESRかつ高容量のタンタル電解コンデンサまたはニオブ電解コンデンサを使用することがある。
タンタル電解コンデンサは、タンタル粉末を化成処理することにより表面に誘電体膜を形成し、電解液や導電性ポリマー等からなる電解質層を介して誘電体膜にカソード電極を接続することにより製造される。ニオブ電解コンデンサについても同様の方法により製造される。
近年、さらなる高容量化を実現するために、タンタル粉末またはニオブ粉末(以下、「タンタル粉末等」という。)の表面積が大きくされている。ところが、タンタル粉末等の表面積が大きくなると、表面に吸着した酸素量が増えるため、コンデンサ製造時において、誘電体膜の漏れ電流の原因になる結晶性酸化物の生成量が多くなっていた。また近年、高容量を実現するために、使用電圧に対して誘電体膜を薄くする傾向にあるから、漏れ電流がより生じやすくなっている。したがって、コンデンサの高容量化を図ると、漏れ電流が大きくなり、信頼性が損なわれるおそれがあった。
【0003】
そこで、酸素の影響を抑え、高容量コンデンサの信頼性を向上させるために、タンタル粉末等に窒素を含有させることが提案されている。
窒素を含有するタンタル粉末等を製造する方法としては、例えば、特許文献1に、溶融した希釈塩中にて、タンタルのフッ化カリウム塩またはニオブのフッ化カリウム塩を、還元剤を用いて還元させながら、溶融した希釈塩中に窒素含有ガスをバブリングにより導入する方法が開示されている。
また、特許文献2には、溶融した希釈塩中にて、タンタルのフッ化カリウム塩またはニオブのフッ化カリウム塩を、還元剤を用いて還元させながら、溶融した希釈塩の液面上に窒素含有ガスを流通する方法が開示されている。
タンタル粉末の製造においては、溶融した希釈塩中で還元して得た粉末をさらに熱処理して取り扱い易い凝集粒子に調製することが一般に行われている。そのため、特許文献1,2に記載の方法のように、熱処理の前にタンタル粉末等に窒素を適度に含有させると、熱処理の際の表面積の低下を抑制でき、コンデンサとした際の信頼性が向上するものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4049964号公報
【特許文献2】特許第4187953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載の製造方法では、制御可能な条件を完全に同一にして製造しても、窒素含有金属粉末中の窒素含有量が製造ごとに大きく異なることがあった。窒素含有金属粉末の窒素含有量が一定しないと、窒素含有金属粉末の機械的物性や得られる電解コンデンサの性能が一定せず、品質低下を招くおそれがあった。
【0006】
また、タンタルキャパシタ用のタンタル粉末は、比表面積や一次粒子径などの特性によって、必要とされる窒素含有量が異なるため、窒素含有量を所望量に容易に調整できる手段が求められていた。しかし、特許文献1,2の記載の窒素供給方法では、得られる窒素含有金属粉末の窒素含有量が所望量から大きくずれることがあった。
【0007】
そこで、本発明の第1の目的は、製造ごとの窒素含有金属粉末の窒素含有量のばらつきを容易に抑え、窒素含有量を容易に調整できる窒素含有金属粉末の製造方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、得られる窒素含有金属粉末の窒素含有量を容易に適正な範囲内に調整できる窒素含有金属粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が調べた結果、特許文献1,2に記載の製造方法で製造ごとに窒素含有金属粉末の窒素含有量がばらつくのは、溶融した希釈塩に取り込まれる窒素ガス量が異なることが原因であることを見出した。すなわち、特許文献1,2に記載の製造方法では、微細で均一な一次粒子を得るために、充分に攪拌して希釈塩中に投入した原料を素早く均一に分散させているが、制御可能な条件を完全に同一にしても、攪拌状態を一定に制御することは難しい。そのため、製造ごとに、希釈塩の窒素ガス取り込み量が過剰または不足になり、窒素含有金属粉末の窒素含有量が異なってしまうものと推測される。
そして、この知見に基づき、第1の目的を達成すべく、攪拌状態の違いが発生しても溶融した希釈塩中の窒素量に違いが生じにくい窒素の供給方法について検討した結果、以下の第1の発明および第2の発明に到達した。
【0009】
第1の発明は以下の[1]〜[3]の態様を有するものである。
[1] 溶融した希釈塩中にて、タンタル化合物またはニオブ化合物を、還元剤を用いて還元させるに際して、溶融した希釈塩中で溶融可能な成形用材料で固体状窒素含有化合物が成形された窒素供給剤を添加することを特徴とする窒素含有金属粉末の製造方法。
[2] 前記成形用材料が前期固体状窒素含有化合物を被覆している[1]に記載の窒素含有金属粉末の製造方法。
[3] 前記成形用材料が前記希釈塩と同一成分である[1]または[2]に記載の窒素含有金属粉末の製造方法。
【0010】
第2の発明は以下の[4]〜[6]の態様を有するものである。
[4]溶融した希釈塩中にて、タンタル化合物またはニオブ化合物を、還元剤を用いて還元させるに際して、前記溶融した希釈塩にタンタル化合物またはニオブ化合物と還元剤とを添加して得た反応融液に窒素含有ガスを所定量供給することを特徴とする窒素含有金属粉末の製造方法。
[5]前記窒素含有ガスを、窒素含有ガスが充填された容器を備える窒素含有ガス供給手段から供給することを特徴とする[4]に記載の窒素含有金属粉末の製造方法。
[6]前記反応融液の内部に窒素含有ガスを直接供給することを特徴とする[4]または[5]に記載の窒素含有金属粉末の製造方法。
【0011】
また、本発明者らは、窒素を供給しながらタンタルのフッ化カリウム塩またはニオブのフッ化カリウム塩を還元する際の攪拌条件によって、得られる窒素含有金属粉末における窒素含有量が変わることを見出した。そして、その知見に基づき、第2の目的を達成すべく、攪拌速度および攪拌翼の形状についてさらに検討した結果、以下の第3の発明に到達した。
【0012】
第3の発明は以下の[7]〜[8]の態様を有するものである。
[7]溶融した希釈塩中にて、タンタル化合物またはニオブ化合物を、還元剤を用いて還元させるに際して、前記溶融した希釈塩にタンタル化合物またはニオブ化合物と還元剤とを添加して得た反応融液より上側に窒素含有ガスを供給すると共に、前記反応融液を、回転方向の断面端の曲率半径が3〜10mmの攪拌翼により回転数100〜200回転/分で攪拌することを特徴とする窒素含有金属粉末の製造方法。
[8]攪拌翼の回転数を140〜170回転/分にするすることを特徴とする[7]に記載の窒素含有金属粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明および第2の発明の窒素含有金属粉末の製造方法では、製造ごとの窒素含有金属粉末の窒素含有量のばらつきを容易に抑え、窒素含有量を容易に調整できる。
第3の発明の窒素含有金属粉末の製造方法では、得られる窒素含有金属粉末の窒素含有量を容易に適正な範囲内に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の窒素含有金属粉末の製造方法の第1、第3の実施形態で使用される反応装置の一例を示す概略図である。
【図2】図1に示す反応装置で使用される攪拌翼を説明する図である。
【図3】本発明の窒素含有金属粉末の製造方法の第2の実施形態で使用される反応装置の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の窒素含有金属粉末の製造方法の第2の実施形態で使用されるシール手段の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「窒素含有金属粉末」
本発明の窒素含有金属粉末の製造方法で製造される窒素含有金属粉末中の窒素の形態としては、窒素が金属に固溶している状態であることが好ましい。ここで、金属としては、ニオブ、タンタル、ニオブ−タンタル合金からなる群より選ばれる少なくとも一種であると、これを固体電解コンデンサのアノード電極原料として使用した場合、高容量のコンデンサが得られるため好ましい。
金属に窒素が固溶すると、金属結晶の格子定数が変化する。よって、金属への窒素の固溶は、X線回折ピークの位置のシフトによって確認することができる。例えば、タンタルに3000ppmの窒素が固溶すると、金属タンタルの(110)面の面間隔d=0.23375nmが、d=0.23400nmへと、約0.1%増加する。
窒素含有金属粉末中の窒素の形態としては、窒素が金属とで形成した結晶性窒化物の形態も挙げられるが、結晶性窒化物が増加すると、コンデンサの漏れ電流が増加するため、好ましくない。
【0016】
窒素含有金属粉末の窒素含有量は、好ましくは500〜10000ppm、より好ましくは800〜6000ppmであり、さらに好ましくは1000〜4000ppmである。
ここで、窒素含有量は、以下の方法により求められた値である。たとえば、市販の酸素/窒素分析計(堀場製作所EMGA520)を使用して、ヘリウムガス中、試料をインパルス融解加熱し、発生ガスをTCD(熱伝導度法)で定量する方法(JIS H1685)などで求められる。
窒素含有金属粉末の窒素含有量が500ppm以上であれば、窒素含有金属粉末を焼結する際に適度に焼結速度を抑制でき、コンデンサに適した空孔を形成することができる。一方、窒素の含有量が10000ppm以下であれば、窒素含有金属粉末中の窒素の分布を均一にでき、窒化物結晶の増加を抑制でき、コンデンサの漏れ電流を小さくできる。
窒素含有金属粉末の含有量を前記範囲にするためには、例えば、後述する製造方法において、窒素供給剤または窒素導入量を、原料となるタンタル化合物またはニオブ化合物(以下、「金属原料」という。)中の金属の質量に対して目的とする窒素含有量相当にすればよい。さらに、窒素含有金属粉末の窒素含有量の精度を必要とする場合には、金属原料中の金属の質量に対して目的とする窒素含有量を100質量%とした際の窒素供給量を100〜500質量%で調整すればよい。
ここで、窒素供給量は、窒素含有金属粉末の回収率や添加された窒素の効率を考慮して決めることが好ましい。例えば、金属原料の量と得られる窒素含有金属粉末の量には回収率の差があり、反応温度が低い場合や、反応時間が短い場合や、目的とする窒素含有量が多い場合には窒素供給量を多く設定する必要があり、好ましくは100〜300質量%に設定し、さらに好ましくは100〜150質量%に設定する。
窒素含有量2000ppmの窒素含有タンタル粉末を製造したい場合には、例えば、後述する製造方法において、金属塩として200kgのフッ化タンタル酸カリウム(KTaF)を使用し、回収率および窒素効率を100%とすると、標準状態(STP)で約150L(185g)の窒素を導入すればよい。
【0017】
窒素含有金属粉末のBET法により測定された比表面積は、より高容量のコンデンサが得られることから、1.0m/g以上であることが好ましい。具体的に、金属がタンタルの場合には、1.0〜10.0m/gであることが好ましく、金属がニオブの場合には、2.0〜20.0m/gであることが好ましい。
また、窒素含有金属粉末中の窒素量[ppm]をW、比表面積[m/g]をSとした際に、W/Sが150〜3000であることが好ましく、150〜2000であることがより好ましい。W/Sが150以上であれば、窒素添加による効果が充分に発揮され、漏れ電流がより少なくなり、3000以下であれば、結晶性窒化物の生成を防止できる。特に、Sが大きくなるに従って熱処理等で使用する温度が低下するため、金属がタンタルの場合に、S=1.3〜1.6ではW/S=1500〜2500、S=1.6〜1.9ではW/S=1000〜1900、S=2.0〜2.5ではW/S=700〜1100、S=2.8〜3.2ではW/S=500〜900、S=3.2〜4.0ではW/S=400〜600、S=4.2〜5.0ではW/S=300〜500、S=5.0〜10.0ではW/S=150〜300が好ましい。
【0018】
また、窒素含有金属粉末は、モード径(最大頻度径)が30〜150μmであることが好ましい。ここで、粒子径は、窒素含有金属粉末が、比表面積に対応する微細な一次粒子の凝集による多孔質粉末となっている場合に、その多孔質粉末を、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の粒子径である。窒素含有金属粉末のモード径が前記範囲にあれば、取り扱いが良好で、よりコンデンサに適したものとなる。
【0019】
「窒素含有金属粉末の製造方法」
以下、本発明の窒素含有金属粉末の製造方法の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に示すものであり、本発明を限定するものではない。
【0020】
<第1の実施形態>
第1の実施形態は、第1の発明の窒素含有金属粉末の製造方法についての実施形態である。
【0021】
(反応装置)
本実施形態の窒素含有金属粉末の製造方法では、図1に示す反応装置1を用いる。
反応装置1は、反応器10aと、反応器10aの上面に設けられた金属原料投入口20、還元剤投入口30および窒素供給剤投入口40と、反応器10aの内部を攪拌する攪拌機50とを具備する。
【0022】
攪拌機50は、攪拌翼51と、攪拌翼51を固定する回転軸52と、回転軸52を回転駆動させるモータ53とを備える。本実施形態では、攪拌翼51として、図2に示すような、水平方向に対して傾斜するように配置された2枚のピッチドパドル翼が用いられている。
【0023】
本実施形態では、攪拌翼51の幅Wが均一になっている。攪拌翼51の幅Wは、攪拌翼51の回転半径に対して好ましくは10〜50%、より好ましくは15〜25%にされている。攪拌翼51の幅Wが、攪拌翼51の回転半径に対して10%以上であれば、微細で均一な一次粒子を得るために、充分に攪拌して希釈塩中に投入した原料を素早く均一に分散させる攪拌翼として機能することが充分期待でき、50%以下であれば、攪拌抵抗が過度にならずに攪拌翼として機能するための回転数を達成できる。
攪拌翼51の長手方向の長さ(回転半径)は、反応器10aの内径に対して30〜80%であることが好ましく、40〜70%であることがより好ましい。攪拌翼51の長手方向の長さが、反応器10aの内径に対して30%以上であれば、微細で均一な一次粒子を得るために、充分に攪拌して希釈塩中に投入した原料を素早く均一に分散させる攪拌翼として充分であり、80%以下であれば、攪拌抵抗が過度になって望ましくない乱流が発生するのを防止できる。
【0024】
攪拌翼51は、長さ方向の全体にわたって、水平方向に対する角度θが30〜90°で傾斜していることが好ましい。前記範囲の角度θで傾斜したピッチドパドル翼で攪拌すると、攪拌翼51から反応器10aの内周面に向かう流れである吐出流が多く、上下方向で内容物を循環させる流れである循環流(軸流)が少なくなる。このような攪拌状態では、生成した窒素含有金属粉末を反応器10aの下部に沈降させて、新たに投入される金属原料との反応を抑制できるため、得られる窒素含有金属粉末の粗大粒子化を防止できる。
【0025】
図2に示すように、攪拌翼51の表面51aと側面51bとの角Cは、丸みを帯びた形状になっていることが好ましい。例えば、攪拌翼回転方向の断面端で曲率半径のない部分の厚みが20mm〜30mmの場合、角Cの曲率半径が3〜10mmであることが好ましい。角Cの曲率半径が3mm以上かつ10mm以下であれば、窒素含有金属粉末の窒素含有量をより均一化できる。
【0026】
(製造方法)
本実施形態の窒素含有金属粉末の製造方法では、まず、上記反応装置1の反応器10aに希釈塩を充填する。
ここで、希釈塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、フッ化カリウム等などが使用される。希釈塩は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
希釈塩の量は、後述する金属原料と還元剤の合計質量に対して2〜10倍の質量にすることが好ましい。希釈塩の量が金属原料と還元剤の合計質量に対して2倍以上であれば、金属原料の濃度を適度に低くでき、反応速度を抑えて、得られる窒素含有金属粉末の粗大化を防止できる。一方、希釈塩の量が金属原料と還元剤の合計質量に対して10倍以下であれば、反応速度の過度な低下を防ぎ、充分な生産性を確保できる。
【0027】
次いで、アルゴン等の希ガスを反応器10aに導入して空気を排除し、反応器10aを加熱して希釈塩を溶融する(以下、溶融した希釈塩のことを「溶融塩」という。)。溶融後、モータ53により回転軸52を介して攪拌翼51を回転させて、溶融塩を攪拌する。
加熱温度は750〜900℃であることが好ましい。加熱温度が750℃以上であれば、希釈塩を充分に溶融でき、900℃以下であれば、エネルギーの過剰な消費を抑えつつ希釈塩を溶融できる。
【0028】
希釈塩を溶融する際の攪拌翼51の回転数は100〜200回転/分であることが好ましく、120〜160回転/分であることがより好ましい。希釈塩を溶融する際の攪拌翼51の回転数が100回転/分以上であれば、温度分布が充分均一になり、200回転/分以下であれば、経済的な動力で攪拌が可能である。
【0029】
次いで、金属原料投入口20から金属原料を反応器10aの内部に投入すると共に、窒素供給剤投入口40または金属原料投入口20から、溶融塩中で溶融する成形用材料で固体状窒素含有化合物が成形された窒素供給剤を反応器10aの内部に投入する。その窒素供給剤の投入では、例えば、目的とする量を予め金属原料と混合して供給する方法、金属原料とは別にロードセルを設置して同時または時間差を付けて供給する方法、スクリューフィーダ等で連続的または断続的に、金属原料と同時または別に供給する方法等を適用することができる。
投入された金属原料は、攪拌により拡散しつつ溶融塩中で溶融する。また、投入された窒素供給剤は、攪拌により拡散しつつ、まず、成形用材料が溶融し、その後、露出した固体状窒素含有化合物が溶融し、分散する。これにより、溶融塩中に窒素が供給される。
【0030】
金属原料は、タンタル化合物またはニオブ化合物である。タンタル化合物としては、タンタルのフッ化カリウム塩(KTaF)またはハロゲン化物(例えば、五塩化タンタル、低級塩化タンタル等)が挙げられる。
ニオブ化合物としては、ニオブのフッ化カリウム塩(KNbF,KNbF)またはハロゲン化物(例えば、五塩化ニオブ、低級塩化ニオブ等)が挙げられる。
【0031】
窒素供給剤に含まれる固定状窒素含有化合物としては、例えば、塩化アンモニウム、尿素、ヒドラジン、アジ化物などが挙げられる。
成形用材料の具体例としては、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、などが挙げられる。これらの中でも、溶融塩の組成に影響を与えないことから、溶融塩(希釈塩)と同一成分が好ましい。成形用材料を使用せずに窒素供給剤を投入することも可能であるが、窒素供給剤が溶融塩に溶解するまでにガス化することで発生した窒素のバブリングや溶融塩表面との再接触をできるだけ少なくするためには成形用材料を使用することが好ましい。
【0032】
窒素供給剤における固体状窒素含有化合物の含有量は25〜95質量%であることが好ましく、35〜85質量%であることがより好ましい。固体状窒素含有化合物の含有量が25質量%以上であれば、少ない添加量で充分に窒素を供給でき、95質量%以下であれば、溶融塩に達するまで窒素供給剤形状が保たれることで、固体状窒素含有化合物が露出する速度を抑えることができる。
窒素供給剤のモード径は0.5〜20mmであることが好ましく、1〜8mmであることがより好ましい。窒素供給剤のモード径が20mm以下であれば、速やかに拡散させることができ、0.5mm以上であれば、取り扱い性に優れる。
【0033】
窒素供給剤の調製方法としては、例えば、固体状窒素含有化合物と成形用材料を混合した後に打錠機等で円柱形状や球形状等に成形する方法、固体状窒素含有化合物と成形用材料を水やアルコール等でペースト状に混練した後に押し出し成形機等で成形し乾燥する方法、固体状窒素含有化合物の塊状物を核として水やアルコール等をバインダに成形用材料をコーティング装置等で被覆する方法、固体状窒素含有化合物のスプレークーリング等で得られた固形物にバインダを用いずハイブリダイザー(奈良機械製)等で成形用材料を被覆する方法、等が挙げられる。
【0034】
窒素供給剤または窒素の添加量は、使用する窒素供給剤の種類によっても異なるが、金属原料中の金属の質量に対して目的とする窒素含有量を導入すればよい。さらに、窒素含有金属粉末の窒素含有量の精度を必要とする場合は、窒素含有金属粉末の回収率や添加された窒素の効率を考慮し、金属原料中の金属の質量に対して目的とする窒素含有量を100質量%とした際の窒素供給量を100〜500質量%で調整することが好ましい。
【0035】
金属原料および窒素供給剤を添加する際の攪拌翼51の回転数は100〜200回転/分であることが好ましく、140〜170回転/分であることがより好ましい。金属原料および窒素供給剤を添加する際の攪拌翼51の回転数が100回転/分以上であれば、反応器10aの全体に窒素供給剤をより拡散させることができる。しかし、200回転/分を超えて攪拌しても、高回転にする効果は飽和するため無益である。
【0036】
次いで、還元剤投入口30から還元剤を反応器10aの内部に投入し、還元剤により金属原料を還元させる。
還元により生成した金属タンタルまたは金属ニオブは容易に溶融塩中の窒素を取り込み、タンタルと窒素とが固溶した固溶体またはニオブと窒素とが固溶した固溶体を生成する。生成した固溶体は溶融塩よりも比重が大きいため、反応器10aの下部に沈降する。
【0037】
還元剤としては、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、これらの水素化物などを使用することができる。これらの中でも、ナトリウムが好ましい。
【0038】
還元剤の添加量は、使用する金属原料の種類によっても異なるが、金属原料との反応当量以上であれば、金属原料を充分に還元できるが、金属原料を残らず還元するために若干過剰に使用することも可能である。
【0039】
溶融塩に金属原料および還元剤を添加して得た反応融液は、攪拌翼51により攪拌する。その際の攪拌翼51の回転数は100〜200回転/分であることが好ましく、140〜170回転/分であることがより好ましい。還元の際の攪拌翼51の回転数が100回転/分以上であれば、反応器10aの全体に窒素供給剤をより拡散させた状態で金属原料を還元させることができ、200回転/分以下であれば、反応器10aの下部に生成した窒素含有金属粉末をより速やかに沈降させることができる。また、還元の際の攪拌翼51の回転数を調整することで窒素含有金属粉末に含有される窒素量を調整することができる。
【0040】
上記の金属原料および窒素供給剤の投入および還元剤の投入は、所定の回数繰り返す。これにより、反応器10aの下部にタンタルと窒素とが固溶した固溶体またはニオブと窒素とが固溶した固溶体を堆積させる。
その後、金属原料、窒素供給剤および還元剤の投入を停止し、溶融塩を冷却する。次いで、反応器10aの下部に堆積した集塊を水洗し、酸洗して、溶融塩を除去し、乾燥させる。
酸洗の際に使用する酸としては、例えば、硝酸、塩酸、フッ酸等の鉱酸や過酸化水素水が挙げられる。
乾燥の際の乾燥温度は80〜150℃であることが好ましい。乾燥温度が80℃以上であれば、短時間で充分に乾燥させることができ、150℃以下であれば、乾燥時のエネルギー消費量を少なくできる。
以上の製造方法により、窒素含有金属粉末を得ることができる。
【0041】
(熱処理)
得られた窒素含有金属粉末は、熱処理および/または脱酸素処理を施してもよい。
熱処理は、上記製造方法により得た窒素含有金属粉末を加熱する処理である。この熱処理により、窒素含有金属粉末を凝集させて凝集粒子を形成させることができる。
熱処理温度は800〜1400℃であることが好ましく、900〜1200℃がさらに好ましい。熱処理温度が800℃以上であれば、短時間で充分に凝集させることができ、1400℃以下であれば、過度な粗大化を防止できる。
熱処理時間は0.1〜2時間であることが好ましい。熱処理時間が0.1時間以上であれば、充分に凝集させることができるが、2時間で凝集はほぼ完結しているため、それより長い時間をかけるのは無益である。
また、熱処理の際には、あらかじめ窒素含有金属粉末に、バインダとして機能する水を添加して造粒し乾燥してもよい。水を添加することによって、強固に凝集させることができる。さらに、高表面積を維持しながら凝集させることができることから、水には、窒素含有金属粉末に対して10〜300ppm程度のリン、ホウ素等をあらかじめ添加しておくことが好ましい。
加熱雰囲気は、例えば、真空雰囲気、希ガス雰囲気、窒素含有ガス雰囲気などにすることができる。このうち、窒素含有ガス雰囲気とした場合には、熱処理においても、窒素含有金属粉末にさらに窒素を含有させることができる。したがって、上記製造方法により得た窒素含有金属粉末の窒素含有量が不足している場合には、熱処理でさらに窒素を含有させることにより微調整できる。ここで、窒素含有ガスとしては、例えば、窒素ガス、アンモニアガスなどが使用される。
【0042】
(脱酸素処理)
脱酸素処理は、希ガス雰囲気中、上記製造方法により得た窒素含有金属粉末または熱処理で得た凝集粒子に、自然酸化膜より過剰に含まれる酸素を還元剤に反応させて除去する処理である。
脱酸素処理においては、還元剤の反応と共に、窒素ガス、アンモニアガス等の窒素含有ガスを供給して、窒素含有金属粉末にさらに窒素を含有させてもよい。特に、窒素含有金属粉末の窒素含有量が所望量よりも不足した場合、脱酸素処理の際に、目的の窒素含有量との差に相当する窒素量の窒素含有ガスを供給し、反応させて、目的の窒素含有量に調整することができる。
窒素含有ガスを供給した場合、供給した窒素含有ガスの窒素のほぼ全量が金属に取り込まれるため、目的の窒素含有量に応じて窒素含有ガスの供給量が設定される。
なお、ここで供給する窒素量が所望量全体の30質量%以上より多くなると、窒化物の結晶が生成し、コンデンサとしての性能を低下させるおそれがあるため、脱酸素処理にて供給する窒素含有量はできる限り少なくし、還元での窒素添加精度を高くすることが好ましい。
【0043】
脱酸素処理に用いられる還元剤としては、窒素含有金属粉末の製造の際に用いた還元剤と同様のものでもよいが、特にマグネシウムが好ましい。
脱酸素処理の温度は、還元剤の融点以上沸点以下であることが好ましい。脱酸素処理の温度が還元剤の融点以上沸点以下であれば、適度に還元剤を揮発させることができる。還元剤がマグネシウムの場合は650〜1000℃が好ましく、700〜890℃がさらに好ましい。
脱酸素処理は1回であってもよいが、充分に脱酸素するためには、2回以上繰り返すことが好ましい。
【0044】
脱酸素処理後には脱酸素処理を行う装置に窒素を供給しないことが好ましい。脱酸素処理後に脱酸素処理装置に窒素を供給すると、窒化物の結晶が生成しやすくなる。
【0045】
(作用効果)
本製造方法で溶融塩に添加する窒素供給剤は、上述したように、溶融塩中にて成形用材料が溶融してから固体状窒素含有化合物が溶融するため、溶融塩への窒素供給速度が抑えられている。そのため、穏やかに攪拌しても、窒素供給剤あるいは固体状窒素含有化合物の状態で溶融塩中に充分に拡散させることができ、溶融塩内で均一に窒素を発生させることができる。また、溶融塩に導入する窒素量が一定量に調整されることで金属原料と窒素との過度な接触が避けられる。したがって、タンタルまたはニオブに取り込まれる窒素量は攪拌状態に依存しにくいため、製造ごとの窒素含有金属粉末の窒素含有量のばらつきを容易に抑えることができる。そして、製造ごとの窒素含有金属粉末の窒素含有量のばらつきが小さくなるため、タンタルキャパシタ用のタンタル粉が、その特性毎に求められる窒素含有量を任意に調整することが可能になる。
【0046】
<第2の実施形態>
第2の実施形態は、第2の発明の窒素含有金属粉末の製造方法についての実施形態である。
(反応装置)
本実施形態の窒素含有金属粉末の製造方法では、図3に示す反応装置2を用いる。
本実施形態の反応装置2は、反応器10bと、反応器10bの上面に設けられた金属原料投入口20および還元剤投入口30と、攪拌機50と、反応器10bの内部に不活性ガスを導入する不活性ガス導入管60と、反応器10bに窒素含有ガスを供給する窒素含有ガス供給手段70と、反応器10bの内部が所定圧力になるようにシールするシール手段80とを具備する。
本実施形態で使用される攪拌機50は、第1の実施形態で使用する攪拌機50と同様のものである。すなわち、本実施形態で使用する攪拌翼51の幅W、長手方向の長さ(回転半径)は、第1の実施形態で使用する攪拌翼51の幅W、長手方向の長さと同様である。
【0047】
本実施形態においても、攪拌翼51の角度θは、30〜90°であることが好ましい。攪拌翼51の角度θを調整することで、窒素含有金属粉末に含有される窒素量を調整することができる。攪拌翼51の角度θを大きくする程、溶融塩に金属原料および還元剤を添加して得た反応融液Sが回転軸52を中心にして渦を巻き、攪拌翼51の一部が反応融液Sの外に露出して反応融液Sの液面をせん断するようになる。このせん断によって、液面と接触する窒素が反応融液Sの中に微細な気泡として取り込まれる。したがって、攪拌翼51の角度θを大きくする程、窒素含有金属粉末に含有される窒素量を多くすることができる。特に、角度θを30°以上にすると、窒素含有金属粉末に含有される窒素量をより多くすることができる。
また、角度θが30〜90°であれば、第1の実施形態と同様に、生成した窒素含有金属粉末を反応器10bの下部に沈降させて、新たに投入される金属原料との反応を抑制できるため、得られる窒素含有金属粉末の粗大粒子化を防止できる。
【0048】
攪拌翼51の角Cの曲率半径を調整することで窒素含有金属粉末に含有される窒素量を調整することができる。曲率半径の好ましい範囲は、攪拌翼51の厚みや角度θや回転数等によって異なるが、角Cの曲率半径を小さくすると、攪拌翼51で攪拌した際の攪拌レイノルズ数が大きくなる(すなわち乱流状態になる)ため、液面の表面更新が起こりやすくなる。そのため、溶融塩に取り込まれる窒素量が増加し、窒素含有金属粉末に含有される窒素量が多くなる。
このように攪拌翼51の曲率半径によって窒素含有金属粉末における窒素含有量が異なるため、目的とする窒素含有量に応じて曲率半径は適宜選択されるが、曲率半径のない部分の厚みに対して曲率半径が好ましくは10〜50%、より好ましくは10〜30%になるように選択される。例えば、曲率半径のない部分の厚みが20mm〜30mmの場合、曲率半径が3〜10mmであることが好ましい。
【0049】
反応器10bには、窒素含有ガス供給手段70に接続された窒素含有ガス導入管11および均圧管12と、シール手段80に接続された不活性ガス排出管13とが取り付けられている。
窒素含有ガス導入管11の反応器10b側の端部11aは、反応器10b内の希釈塩Sの液面よりも下に位置するように配設され、均圧管12の反応器10b側の端部12aは、希釈塩Sの液面よりも下に位置するように配設される。
【0050】
窒素含有ガス供給手段70は、金属等よりなる収縮不能かつ膨張不能な容器71と、容器71に収納され、樹脂等よりなる収縮可能かつ膨張可能な窒素含有ガス収容袋72とを具備する。
この窒素含有ガス供給手段70では、窒素含有ガス収容袋72から供給された窒素含有ガスが反応融液Sに取り込まれた際には、均圧管12を介して反応器10bから容器71内の窒素含有ガス収容袋72の外側に不活性ガスが流入するようになっている。したがって、窒素含有ガス収容袋72の内側と外側との圧力を略同等にでき、窒素含有ガスを供給し続けることができる。
【0051】
シール手段80は、不活性ガス排出管13に外部の空気が入り込まない構造を有するものである。本実施形態では、シール手段80は、上面81aに孔81bが形成され、低揮発液(例えば、油や流動パラフィン等)82が収容された容器81と、容器81内部の低揮発液82の液面に配置されたフロート蓋83とを具備するものである。
フロート蓋83の上部は空間部83aになっており、その空間部83aは容器81の内部と連通しておらず、不活性ガス排出管13を介して反応器10bの内部に連通するようになっている。また、フロート蓋83には底がなく、フロート蓋83の内部に低揮発液82が侵入するようになっており、フロート蓋83の内側に空間部83aと低揮発液82の界面が形成される。これにより液封状態にすることができ、不活性ガス排出管13に外部の空気が入り込まないようになっている。
【0052】
(製造方法)
本実施形態の窒素含有金属粉末の製造方法では、まず、反応装置2の反応器10bに希釈塩を充填する。ここで、希釈塩の種類および量は第1の実施形態と同様である。
次いで、アルゴン等の不活性ガス(窒素ガスを除く)を不活性ガス導入管60より反応器10bおよび窒素含有ガス供給手段70の容器71の内部に導入して空気を排除する。この際、窒素含有ガス導入管11は不図示のコックにより閉じられた状態とされている。
不活性ガスの導入量は、使用する反応器10bの容量等により適宜調整すればよいが、後述する窒素含有ガスの導入量を所定量に制御するためには、例えば、反応器10bの内部の圧力を、外気圧+1kPaとし、窒素含有ガス供給手段70の内部の圧力を反応器10bの内部の圧力+0.5〜2kPaに設定することが好ましい。
【0053】
次に、反応器10bを加熱して希釈塩を溶融して溶融塩を調製し、溶融後、モータ等の駆動手段(不図示)により攪拌翼51を回転させて溶融塩を攪拌する。加熱温度は第1の実施形態と同様である。
【0054】
第2の実施形態では、攪拌翼51の回転数を、回転軸52を中心とした渦巻きを形成して攪拌翼51の一部が露出するにように調整することが好ましい。
具体的には、窒素含有ガスを供給する際の攪拌翼51の回転数は100〜200回転/分であることが好ましく、140〜170回転/分であることがより好ましい。窒素含有ガスを供給する際の攪拌翼51の回転数が100回転/分以上であれば、反応器10bの全体に窒素供給剤をより拡散させることができる。しかし、200回転/分を超えて攪拌しても、高回転にする効果は飽和するため無益である。
また、高回転数にすると、金属原料および還元剤を溶融塩中に速やかに均一に分散させることができ、さらに、窒素と溶融塩との接触が促進されるため、窒素含有金属粉末の窒素含有量を増加させることができる。しかし、高速回転では気泡の取り込みも増加するため、窒素と溶融塩との接触のばらつきが発生する。また、高速回転になると回転軸のシール機構が複雑になり、高温反応でのシール性との両立が難しくなる。この点からも、攪拌翼51の回転数は100〜200回転/分が好ましい。
【0055】
続いて、金属原料投入口20から金属塩を反応器10bの内部に投入する。導入された金属塩は、攪拌により拡散しつつ溶融塩中で溶融し、次いで、還元剤投入口30から還元剤を反応器10bの内部に投入し、攪拌翼51により緩やかに攪拌する。その際、金属塩および還元剤としては、第1の実施形態で使用したものと同様のものが使用される。
【0056】
次いで、不図示のコックを開けて窒素含有ガス導入管11より窒素含有ガスを反応融液Sに導入する。
窒素含有ガスとしては、反応融液Sに窒素含有ガスを供給することができるものであればよく、例えば、窒素ガスを含有するガスや、加熱により窒素ガスを発生するアンモニア、尿素等の窒素発生ガスが挙げられる。
効率的に窒素を金属中に含有させるためには、窒素含有ガス中の窒素ガス濃度が50体積%以上であることが好ましく、そのようにするために、窒素濃度が約100%の純窒素やこれをアルゴン等で適宜希釈したものを使用することが好ましい。窒素含有ガス中の窒素ガス濃度が10体積%未満では、金属中に窒素を充分に含有させることができない場合がある。
【0057】
反応融液Sに供給する窒素含有ガスの量は、反応器10bの容量、反応融液Sの体積や、窒素含有ガス導入管11の端部11aの口径、目的とする窒素含有量、窒素含有ガス供給手段70に残存する窒素量などにより適宜選択すればよい。例えば、金属塩として200kgのKTaFを使用し、窒素含有金属粉末に2000ppmの窒素を含有させようとする場合には、少なくとも標準状態(STP)で約150L(185g)の窒素を導入する必要があり、そのためには、反応器10bの内部の圧力を、外気圧+1kPaとして、純度99.999体積%の窒素ガスを反応融液S(容量500L)に供給すればよい。
【0058】
上記の金属塩の投入および還元剤の投入は、所定の回数繰り返す。その際、窒素含有ガスを、窒素含有ガス導入管11から反応融液Sに供給し続ける。
本実施形態においては、窒素含有ガス導入管11の端部11aが、反応融液Sの液面よりも下に位置しているため、窒素含有ガスが窒素含有ガス導入管11の端部11a付近の反応融液Sに導入される。反応器10bの反応融液Sの上側の空間には不活性ガスが満たされているため、反応融液Sと窒素含有ガスとの接触は、実質的に窒素含有ガス導入管11の端部11a付近となる。
【0059】
反応融液S中での還元により生成した金属タンタルまたは金属ニオブは、導入された窒素含有ガスより容易に窒素を取り込み、タンタルと窒素が固溶した固溶体またはニオブと窒素が固溶した固溶体を生成する。生成した固溶体は溶融塩よりも比重が大きいため、反応器10bの下部に沈降する。
還元された金属と導入された窒素の固溶により、窒素含有ガス収容袋72内の窒素含有ガスは消費される。均圧管12によって反応器10bと容器71とが連通しているため、反応器10bから容器71にガスが流れ込み、その流れ込んだガスによって圧縮されて窒素含有ガス収容袋72の体積は減少する。これにより、窒素含有ガス収容袋72の内部が陰圧になることがなく、窒素含有ガス収容袋72から窒素含有ガスを供給し続けることができる。
【0060】
その後、金属塩および還元剤の投入、並びに、窒素含有ガスの導入を停止して、反応融液Sを冷却する。次いで、第1の実施形態と同様に、反応器10bの下部に堆積した集塊を水洗し、酸洗し、乾燥させて、窒素含有金属粉末を得る。得られた窒素含有金属粉末は、上記第1の実施形態と同様に、熱処理および/または脱酸素処理を施してもよい。
【0061】
(作用効果)
上記第2の実施形態の窒素含有金属粉末の製造方法では、窒素含有ガス収容袋72から窒素含有ガスを反応融液Sに供給するため、窒素含有ガスの供給量が制限されている。したがって、窒素含有金属粉末の窒素含有量が過剰になりにくい。そのため、窒素含有金属粉末の一次粒子を均一化および微細化しつつ、製造ごとの窒素含有量のばらつきを容易に抑えることができる。
【0062】
<第3の実施形態>
第3の実施形態は、第3の発明の窒素含有金属粉末の製造方法についての実施形態である。
(反応装置)
本実施形態の窒素含有金属粉末の製造方法では、第1の実施形態で使用した反応装置1を用いる。ただし、窒素供給剤投入口40を、窒素含有ガス供給口40とし、攪拌翼51については、攪拌翼回転方向の断面端の曲率半径が規定される。
すなわち、本実施形態では、攪拌翼51の回転方向の断面端(角C)の曲率半径が3〜10mm、好ましくは4〜7mmである。曲率半径が3mm未満であると、得られる窒素含有金属粉末の窒素含有量が過剰になることがあり、10mmを超えると、得られる窒素含有金属粉末の窒素含有量が不足することがある。
また、本実施形態では、攪拌翼51の、攪拌翼回転方向の断面端で曲率半径のない部分の厚みが20〜30mmであることが好ましい。
また、本実施形態においても、攪拌翼51は、第1の実施形態で使用する攪拌翼51と同様に、攪拌翼51の幅Wが攪拌翼51の回転半径に対して10〜50%であることが好ましい。また、長手方向の長さ(回転半径)が反応器10aの内径に対して30〜80%であることが好ましい。また、水平方向に対する角度θが30〜90°であることが好ましい。
【0063】
(製造方法)
本実施形態の窒素含有金属粉末の製造方法では、まず、反応器10aに希釈塩を充填する。ここで、希釈塩の種類および量は第1の実施形態と同様である。
次いで、アルゴン等の希ガスを反応器10aに導入して空気を排除し、反応器10aを加熱して希釈塩を溶融して、溶融塩を得る。そして、モータ53により回転軸52を介して攪拌翼51を回転させて、溶融塩を攪拌する。その際の加熱温度および攪拌翼の回転数は第1の実施形態と同様である。
次いで、金属原料投入口20から金属塩を反応器10aの内部に投入した後、還元剤投入口30から還元剤を反応器10aの内部に投入し、攪拌翼51に攪拌して、反応融液を得る。その際、金属塩および還元剤としては、第1の実施形態で使用したものと同様のものが使用される。
次いで、窒素含有ガス供給口40より窒素含有ガスを反応器10aの反応融液の上側に導入する。窒素含有ガスとしては、第2の実施形態で使用したものと同様のものが挙げられる。
【0064】
本実施形態では、窒素含有ガス供給の最中、攪拌翼51により、反応融液を、回転数100〜200回転/分、好ましくは140〜170回転/分で攪拌する。攪拌翼の回転数が100回転/分未満であると、得られる窒素含有金属粉末の窒素含有量が不足することがあり、200回転/分を超えると、得られる窒素含有金属粉末の窒素含有量が過剰になることがある。
【0065】
その後、金属塩および還元剤の投入、並びに、窒素含有ガスの導入を停止して、反応融液Sを冷却する。次いで、第1の実施形態と同様に、反応器10aの下部に堆積した集塊を水洗し、酸洗し、乾燥させて、窒素含有金属粉末を得る。得られた窒素含有金属粉末は、上記第1の実施形態と同様に、熱処理および/または脱酸素処理を施してもよい。
【0066】
(作用効果)
本発明者らが調べた結果、窒素含有ガス供給時の攪拌翼51の回転数を100〜200回転/分にし、攪拌翼51回転方向の断面端曲率半径を3〜10mmにすることで、得られる窒素含有金属粉末の窒素含有量を所望量に調整できる。攪拌翼51の形状や回転数は容易に調整できるから、本実施形態では、得られる窒素含有金属粉末の窒素含有量を容易に適正な範囲内に調整できる。
例えば、回転数を大きくすると、回転軸を中心にした反応融液の渦巻きが深くなり、攪拌翼51の一部が反応融液の外に露出して反応融液の液面をせん断するようになる。このせん断によって、液面と接触する窒素が反応融液の中に微細な気泡として取り込まれる。このせん断が適度でないと取り込まれる窒素量を調整することが容易ではなくなるが、攪拌翼51の形状を調整することで、適度なせん断の状態を調整することができる。
【0067】
<他の実施形態>
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。
第1の実施形態では、窒素供給剤を金属原料と共に反応器10aに投入したが、金属原料を投入する前に反応器10aに投入してもよいし、金属原料を投入した後に反応器10aに投入してもよい。
また、第1の実施形態においては、金属原料を予め溶融させ、溶融状態で反応器10aに投入してもよい。その場合、溶融状態の金属原料を窒素ガスで押し込んで供給してもよい。
また、攪拌翼51は厚みが不均一でもよいし、攪拌翼51の幅Wも不均一でもよい。例えば、攪拌翼51の先端に向かうにつれて幅広になっていてもよい。
また、攪拌翼51は、平板状でなくてもよく、例えば、回転時に攪拌翼51の先端が後方になるように湾曲していてもよいし、攪拌翼51の先端が上向きまたは下向きに折れ曲がっていてもよい。
また、攪拌翼51の長さ方向の全体にわたって角度θが30°〜90°で傾斜していなくてもよい。ただし、反応融液Sに窒素を取り込みやすいことから、攪拌翼51の長手方向の50%以上が30°〜90°で傾斜していることが好ましい。
また、上記実施形態で用いた攪拌翼51は、水平方向に対して傾斜したピッチドパドル翼に限らず、スクリュー翼、タービン翼、または特殊な形状の攪拌翼を用いることもできるが、構造が簡単で比較的低速での攪拌でも充分均一な攪拌を達成できることからパドル翼が適している。
【0068】
第2の実施形態において、シール手段80において、容器81に上面がなく、開放構造にされても構わない。
また、シール手段80の代わりに、図4に示すシール手段90を用いてもよい。シール手段90は、側壁が二重壁91aにされた下側容器91と、二重壁91aの間に差し込まれたフロート蓋92とを具備し、下側容器91の底面91bに不活性ガス排出管13が接続され、二重壁91aに低揮発液93が充填されたものである。このシール手段90では、下側容器91とフロート蓋92との隙間が低揮発液93によって液封されることにより、シール機能を発揮する。
【0069】
また、第2の実施形態において、反応器10bと窒素含有ガス供給手段70とが、窒素含有ガス導入管11および均圧管12を介して接続されていたが、反応器10bへの窒素含有ガスの供給量を制御できれば特に制限されない。例えば、均圧管12を用いずにガス流量計を設けて窒素含有ガスの供給量を制御してもよいし、容器71を加圧可能にすると共に均圧管12に差圧バルブを設けて、反応器10bと容器71との差圧に基づいて窒素含有ガスの供給量を制御してもよい。
また、容器71、窒素含有ガス収容袋72、窒素含有ガス導入管11および均圧管12を用いずに、上記シール手段90を用いて窒素含有ガス供給量を制限することもできる。すなわち、シール手段90においてフロート蓋92の質量を調整し、窒素含有ガスの供給量が所望量に達した際に安全弁のように窒素含有ガスが外部に抜け出るようにして、窒素含有ガス供給量を制限してもよい。シール手段90によって窒素含有ガス供給量を制限する場合には、窒素含有ガスを反応器10bの反応融液Sの上側に供給することが好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例1および比較例1により、第1の発明をより詳細に説明する。
【0071】
(実施例1)
図1に示す反応装置1の反応器10a(容量800L)にフッ化カリウム250kgと塩化カリウム250kgを投入し、200℃で1時間水分除去した後、800℃で溶融し、攪拌翼51を150回転/分で攪拌した。これにより、フッ化カリウムおよび塩化カリウムを溶融塩とした。
次いで、攪拌翼51の回転数を150回転/分に維持したまま、反応器10a内に窒素供給剤200g(粒径約700〜2500μm)を窒素供給剤投入口40から投入し5分後に、フッ化タンタルカリウム2.5kgを金属原料投入口20から投入し、窒素供給剤27g(粒径約700〜2500μm)を窒素供給剤投入口40から投入した。ここで、窒素供給剤としては、塩化アンモニウム18gをフッ化カリウム4.5gと塩化カリウム4.5gとの混合物を粒状に成形したものを用いた。
次いで、その1分後にナトリウム750gを還元剤投入口30から添加した。このときの攪拌翼51の回転数も150回転/分とした。
このフッ化タンタルカリウムと、フッ化カリウムおよび塩化カリウムで成形した塩化アンモニウム18gと、ナトリウムとの投入を40回繰り返した後、反応器10a内で沈降したタンタルと窒素との固溶体を水洗し、濃度5質量%のフッ酸水溶液を用いて酸洗し、120℃で乾燥して、窒素含有タンタル粉末(A1)を得た。
また、上記と全く同じ方法で窒素含有タンタル粉末(A2)〜(A10)を得た。
【0072】
(比較例1)
実施例1と同様にフッ化タンタルカリウムとナトリウムとの投入を、窒素供給剤を用いずに窒素ガスを窒素供給剤投入口40から連続的に溶融塩の液面上に30L/分で導入しながら、40回繰り返した後、実施例1と同様に窒素含有タンタル粉末(B1)を得た。
また、上記と全く同じ方法で窒素含有タンタル粉末(B2)〜(B10)を得た。
【0073】
[窒素含有タンタル粉末中の窒素含有量の測定]
実施例1および比較例1の各製造方法により得た窒素含有タンタル粉末(A1)〜(A10)および(B1)〜(B10)について、各々、以下の方法により窒素含有量 (ppm)を測定した。
すなわち、酸素/窒素分析計(堀場製作所EMGA520)を使用して、ヘリウムガス中、試料をインパルス融解加熱し、発生ガスをTCD(熱伝導度法)で定量する方法(JIS H1685)で求めた。測定結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
窒素供給源として、フッ化カリウムおよび塩化カリウムで成形した塩化アンモニウムを用いた実施例1の製造方法では、(A1)〜(A10)の窒素含有量の差が小さく、製造ごとの窒素含有タンタル粉末の窒素含有量のばらつきが小さかった。
これに対し、窒素供給源として、窒素ガスを用いた比較例1では、(B1)〜(B10)の窒素含有量の差が大きく、製造ごとの窒素含有タンタル粉末の窒素含有量のばらつきが大きかった。
【0076】
以下、実施例2,3および比較例2,3により、第2の発明をより詳細に説明する。
【0077】
(実施例2)
図3に示す反応装置2の反応器10b(容量800L)に、アルゴンガスを5L/分で導入して脱気し、フッ化カリウム250kgと塩化カリウム250kgを投入し、200℃で1時間水分除去した後、800℃で溶融し、攪拌翼51を150回転/分で攪拌した。これにより、フッ化カリウムおよび塩化カリウムを溶融塩とした。
次いで、攪拌翼51による攪拌を継続しながら、反応器10b内にフッ化タンタルカリウム2.5kgを金属原料投入口20から投入し、1分後に、ナトリウム750gを還元剤投入口30から添加した。2分間攪拌した後、窒素含有ガスとして純窒素ガス(純度99.999%)を、反応器の内圧+1.5kPaで、窒素含有ガス供給手段より反応融液Sに供給した。窒素含有ガス供給手段を用いることにより、窒素ガスの供給量を制限した。
このフッ化タンタルカリウムとナトリウムの投入を40回繰り返した。純窒素の総導入量は、フッ化タンタルカリウム100kgに対して、140gであった。反応終了後、反応器10b内で沈降したタンタルと窒素との固溶体を水洗し、濃度5質量%のフッ酸水溶液を用いて酸洗し、120℃で乾燥して、窒素含有タンタル粉末(A11)を得た。
また、上記と全く同じ方法で窒素含有タンタル粉末(A12)〜(A15)を得た。
【0078】
(実施例3)
図3に示す反応装置2の反応器10b(容量800L)に、アルゴンガスを5L/分で導入して脱気し、フッ化カリウム250kgと塩化カリウム250kgを投入し、200℃で1時間水分除去した後、800℃で溶融し、攪拌翼51を150回転/分で攪拌した。これにより、フッ化カリウムおよび塩化カリウムを溶融塩とした。
次いで、攪拌翼51による攪拌を継続しながら、反応器10b内にフッ化タンタルカリウム2.5kgを金属原料投入口20から投入し、1分後に、ナトリウム750gを還元剤投入口11bから添加した。2分間攪拌した後、窒素含有ガスとして純窒素ガス(純度99.999%)を、反応器10bの内圧+0.9kPaで、窒素含有ガス供給手段70より反応融液Sに導入した。窒素含有ガス供給手段70を用いることにより、窒素ガスの供給量を制限した。
このフッ化タンタルカリウムとナトリウムの投入を40回繰り返した。純窒素の総導入量は、フッ化タンタルカリウム100kgに対して、120gであった。反応終了後、生成したタンタルと窒素との固溶体を水洗し、濃度5質量%のフッ酸水溶液を用いて酸洗し、120℃で乾燥して、窒素含有タンタル粉末(A16)を得た。
また、上記と全く同じ方法で窒素含有タンタル粉末(A17)〜(A20)を得た。
【0079】
(比較例2)
図3に示す反応装置2における窒素含有ガス供給手段70を用いず、反応の間中、純窒素ガス(純度99.999%)を12L/分の流量で、反応融液Sの上側に導入し続けたこと以外は、実施例2と同様にして窒素含有タンタル粉末(B11)〜(B15)を得た。
【0080】
(比較例3)
図3に示す反応装置2における窒素含有ガス供給手段70を用いず、反応の間中、純窒素ガス(純度99.999%)を20L/分の流量で、反応融液Sに直接供給してバブリングさせたこと以外は、実施例2と同様にして窒素含有タンタル粉末(B16)〜(B20)を得た。
【0081】
[窒素含有タンタル粉末中の窒素含有量の測定]
実施例2,3および比較例2,3の各製造方法により得た窒素含有タンタル粉末(A11)〜(A20)および(B11)〜(B20)の窒素含有量 (ppm)を、実施例1および比較例1の窒素含有タンタル粉末と同様に測定した。測定結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
窒素含有ガス供給手段70を用いて窒素ガスの供給量を制限した実施例2の製造方法では、(A11)〜(A15)の窒素含有量の差が小さく、製造ごとの窒素含有金属タンタル粉末の窒素含有量のばらつきが小さかった。
窒素含有ガス供給手段70を用いて窒素ガスの供給量を制限した実施例3の製造方法についても、(A16)〜(A20)の窒素含有量の差が小さく、製造ごとの窒素含有タンタル粉末の窒素含有量のばらつきが小さかった。
これに対し、窒素含有ガス供給手段70を用いず、窒素ガスの供給量を制限しなかった比較例2の製造方法では、(B11)〜(B15)の窒素含有量の差が大きく、製造ごとの窒素含有タンタル粉末の窒素含有量のばらつきが大きかった。
窒素含有ガス供給手段70を用いず、窒素ガスの供給量を制限しなかった比較例3の製造方法についても、(B16)〜(B20)の窒素含有量の差が大きく、製造ごとの窒素含有タンタル粉末の窒素含有量のばらつきが大きかった。
【0084】
以下、実施例4〜9および比較例4〜8により、第3の発明をより詳細に説明する。
【0085】
(実施例4)
図1に示す反応装置1の反応器10a(容量800L)にフッ化カリウム250kgと塩化カリウム250kgを投入し、200℃で1時間水分除去した後、800℃で溶融し、攪拌翼51を用いて150回転/分で攪拌して、フッ化カリウムおよび塩化カリウムの溶融塩を得た。その際、攪拌翼として、先端に向かうにつれて幅広にされたピッチドパドル翼であり、回転半径が50cm、翼幅が回転軸側にて5cmで先端にて15cm、厚みが20mm均一、角度θが45°均一、角Cの曲率半径が3mmのものを用いた。
次いで、攪拌翼51の回転数を150回転/分に維持したまま、窒素ガスを窒素供給口40から連続的に溶融塩の液面上に15L/分で導入しながら、反応器10内にフッ化タンタルカリウム2.5kgを金属原料投入口20から投入し、その1分後にナトリウム750gを還元剤投入口30から添加した。このときの攪拌翼51の回転数も150回転/分とした。
このフッ化タンタルカリウムと、ナトリウムとの投入を40回繰り返した後、反応器10内で沈降したタンタルと窒素との固溶体を水洗し、フッ酸水溶液を用いて酸洗し、120℃で乾燥して、窒素含有タンタル粉末(A21)を得た。
【0086】
(実施例5)
窒素ガス供給時の攪拌翼51の角Cの曲率半径を5mmとし回転数を150回転/分としたこと以外は実施例4と同様にして、窒素含有タンタル粉末(A22)を得た。
【0087】
(実施例6)
窒素ガス供給時の攪拌翼51の角Cの曲率半径を10mmとし回転数を150回転/分としたこと以外は実施例4と同様にして、窒素含有タンタル粉末(A23)を得た。
【0088】
(実施例7)
窒素ガス供給時の攪拌翼51の角Cの曲率半径を5mmとし回転数を120回転/分としたこと以外は実施例4と同様にして、窒素含有タンタル粉末(A24)を得た。
【0089】
(実施例8)
窒素ガス供給時の攪拌翼51の角Cの曲率半径を10mmとし回転数を200回転/分としたこと以外は実施例4と同様にして、窒素含有タンタル粉末(A25)を得た。
【0090】
(実施例9)
窒素ガス供給時の攪拌翼51の角Cの曲率半径を5mmとし回転数を100回転/分としたこと以外は実施例4と同様にして、窒素含有タンタル粉末(A26)を得た。
【0091】
(比較例4)
窒素ガス供給時の攪拌翼51の厚みを20mmとし、角Cの曲率半径を3mmとし、回転数を210回転/分としたこと以外は実施例4と同様にして、窒素含有タンタル粉末(B21)を得た。
【0092】
(比較例5)
窒素ガス供給時の攪拌翼51の厚みを20mmとし、角Cの曲率半径を5mmとし、回転数を90回転/分としたこと以外は実施例4と同様にして、窒素含有タンタル粉末(B22)を得た。
【0093】
(比較例6)
窒素ガス供給時の攪拌翼51の厚みを20mmとし、角Cの曲率半径をほぼ0mmとし、回転数を150回転/分としたこと以外は実施例4と同様にして、窒素含有タンタル粉末(B23)を得た。
【0094】
(比較例7)
窒素ガス供給時の攪拌翼51の厚みを30mmとし、角Cの曲率半径をほぼ0mmとし、回転数を150回転/分としたこと以外は実施例4と同様にして、窒素含有タンタル粉末(B24)を得た。
【0095】
(比較例8)
窒素ガス供給時の攪拌翼51の厚みを30mmとし、角Cの曲率半径を15mmとし、回転数を150回転/分としたこと以外は実施例4と同様にして、窒素含有タンタル粉末(B24)を得た。
【0096】
なお、上記実施例4〜9および比較例4〜8では、窒素含有タンタル粉末の窒素含有量を1000〜4000ppmの範囲に調整することを目標とした。
【0097】
[窒素含有タンタル粉末中の窒素含有量の測定]
実施例4〜9および比較例4〜8の各製造方法により得た窒素含有タンタル粉末(A21)〜(A26)および(B21)〜(B25)の窒素含有量 (ppm)を、上述した酸素/窒素分析計を使用した方法により測定した。測定結果を表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
窒素ガス供給時の攪拌翼51の回転数を、各々、150回転/分、120回転/分、160回転/分とし、且つ、攪拌翼51の角Cの曲率半径を、各々、3mm、5mm、10mmとした実施例4〜9の製造方法では、窒素含有タンタル粉末の窒素含有量が目標の範囲に入っていた。
これに対し、 窒素ガス供給時の攪拌翼51の回転数を210回転/分とした比較例4の製造方法では、窒素含有タンタル粉末の窒素含有量が過剰であった。
窒素ガス供給時の攪拌翼51の回転数を90回転/分とした比較例5の製造方法では、窒素含有タンタル粉末の窒素含有量が不足していた。
攪拌翼51の角Cの曲率半径をほぼ0mmとした比較例6,7の製造方法では、窒素含有タンタル粉末の窒素含有量が過剰であった。
攪拌翼51の角Cの曲率半径を15mmとした比較例8の製造方法では、窒素含有タンタル粉末の窒素含有量が不足していた。
【符号の説明】
【0100】
1,2 反応装置
10a,10b 反応器
11 窒素含有ガス導入管
12 均圧管
13 不活性ガス排出管
20 金属原料投入口
30 還元剤投入口
40 窒素供給剤投入口(窒素含有ガス供給口)
50 攪拌機
51 攪拌翼
52 回転軸
53 モータ
60 不活性ガス導入管
70 窒素含有ガス供給手段
71 容器
72 窒素含有ガス収容袋
80,90 シール手段
81 容器
81a 上面
81b 孔
82 低揮発液
83 フロート蓋
91 下側容器
91a 二重壁
92 フロート蓋
93 低揮発液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した希釈塩中にて、タンタル化合物またはニオブ化合物を、還元剤を用いて還元させるに際して、溶融した希釈塩中で溶融可能な成形用材料を用いて固体状窒素含有化合物が成形された窒素供給剤を添加することを特徴とする窒素含有金属粉末の製造方法。
【請求項2】
前記成形用材料が前記希釈塩と同一成分である請求項1に記載の窒素含有金属粉末の製造方法。
【請求項3】
前記成形用材料が前記固体状窒素含有化合物を被覆している請求項1または2に記載の窒素含有金属粉末の製造方法。
【請求項4】
溶融した希釈塩中にて、タンタル化合物またはニオブ化合物を、還元剤を用いて還元させるに際して、前記溶融した希釈塩にタンタル化合物またはニオブ化合物と還元剤とを添加して得た反応融液に窒素含有ガスを所定量供給することを特徴とする窒素含有金属粉末の製造方法。
【請求項5】
前記窒素含有ガスを、窒素含有ガスが充填された容器を備える窒素含有ガス供給手段から供給することを特徴とする請求項4に記載の窒素含有金属粉末の製造方法。
【請求項6】
前記反応融液の内部に窒素含有ガスを直接供給することを特徴とする請求項4または5に記載の窒素含有金属粉末の製造方法。
【請求項7】
溶融した希釈塩中にて、タンタル化合物またはニオブ化合物を、還元剤を用いて還元させるに際して、前記溶融した希釈塩にタンタル化合物またはニオブ化合物と還元剤とを添加して得た反応融液より上側に窒素含有ガスを供給すると共に、前記反応融液を、回転方向の断面端の曲率半径が3〜10mmの攪拌翼により回転数100〜200回転/分で攪拌することを特徴とする窒素含有金属粉末の製造方法。
【請求項8】
攪拌翼の回転数を140〜170回転/分にするすることを特徴とする請求項7に記載の窒素含有金属粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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