説明

窯業用原料の製造方法

【課題】極めて簡易な構成で、効率よくしかも経済的に無機質微小発泡中空球体を含有する窯業用原料を製造する方法を提供する。
【解決手段】窯業用泥漿をタンク内で撹拌するとともに、無機質微小発泡中空球体を水中で撹拌しつつ前記タンク下部より前記泥漿中に圧送して混合撹拌し、前記無機質微小発泡中空球体と泥漿との混合流体を前記タンクよりスプレードライヤに供給し、乾燥して、所定のパウダー状原料とすることを特徴とする窯業用原料の製造方法である。前記窯業用原料100重量%に対して、前記無機質微小発泡中空球体の含有量を5〜70重量%とすること、前記無機質微小発泡中空球体をフライアッシュバルーンとすることができる。また、前記窯業用原料をタイル原料とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機質微小発泡中空球体を含有する窯業用原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窯業製品は重くて割れやすく、製造や運送などにおける取り扱いが非常に困難であった。窯業製品の一例として、例えば建築用タイルなどは、建築物の外装、内装、床用等に用いられ、使用するタイルの数量に比例して重量も増大し、建築物の強度設計や施工面あるいは輸送コストなどに大きな影響を及ぼしていた。
【0003】
近年、前記のような点を改善するために、窯業製品の軽量化の開発が行われてきた。その中でも、タイル製品の軽量化においては、粘土、長石、陶石、珪石等を主に含有する窯業用原料にフライアッシュバルーンやシリカバルーンなどの無機質微小発泡中空球体を含有させることにより、従来のタイル製品よりも比重の小さい軽量化タイルを製造している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、フライアッシュバルーンやシリカバルーンなどの無機質微小発泡中空球体は、通常原料として用いられている粘土、長石、陶石等と比較して比重が小さいので、前記原料と無機質微小発泡中空球体を混合して泥漿を調製しようとしても、実際には、無機質微小発泡中空球体が泥漿中に均一に分散せず、分離してしまうなどの問題が生じていた。そのため、窯業用原料における、無機質微小発泡中空球体の含有量も制限されてしまうことが多かった。
【特許文献1】特開平11−43381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は前記の問題点を鑑みて、極めて簡易な構成で、効率よくしかも経済的に無機質微小発泡中空球体を含有する窯業用原料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、請求項1の発明は、窯業用泥漿をタンク内で撹拌するとともに、無機質微小発泡中空球体を水中で撹拌しつつ前記タンク下部より前記泥漿中に圧送して混合撹拌し、前記無機質微小発泡中空球体と泥漿との混合流体を前記タンクよりスプレードライヤに供給し、乾燥して、所定のパウダー状原料とすることを特徴とする窯業用原料の製造方法に係る。
【0007】
請求項2の発明は、前記窯業用原料100重量%に対して、前記無機質微小発泡中空球体の含有量が5〜70重量%である請求項1に記載の窯業用原料の製造方法に係る。
【0008】
請求項3の発明は、前記無機質微小発泡中空球体がフライアッシュバルーンである請求項1あるいは請求項2に記載の窯業用原料の製造方法に係る。
【0009】
請求項4の発明は、前記窯業用原料がタイル原料である請求項1ないし請求項3にいずれか記載のタイル原料の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明に係る窯業用原料の製造方法によると、窯業用泥漿をタンク内で撹拌するとともに、無機質微小発泡中空球体を水中で撹拌しつつ前記タンク下部より前記泥漿中に圧送して混合撹拌し、前記無機質微小発泡中空球体と泥漿との混合流体を前記タンクよりスプレードライヤに供給し、乾燥して、所定のパウダー状原料とすることを特徴とするので、無機質微小発泡中空球体が分離することなく、均一に分散された窯業用原料を製造することができる。
【0011】
請求項2の発明に係る窯業用原料の製造方法によると、前記窯業用原料100重量%に対して、前記無機質微小発泡中空球体を5〜70重量%含有するので、前記無機質微小発泡中空球体の含有量を適宜調製することで、軽量化、保水性あるいは断熱性の向上など、目的の性状を有する窯業製品を得るための窯業用原料を製造することができる。
【0012】
請求項3の発明に係る窯業用原料の製造方法によると、前記無機質微小発泡中空球体がフライアッシュバルーンであるので、前記フライアッシュバルーンは、通常、耐火度が高く、窯業製品の焼成温度で溶融して大きな焼成収縮が生じる可能性が少いため、寸法精度が比較的優れた窯業製品を得ることができる。
【0013】
請求項4の発明に係るタイル原料の製造方法によると、前記窯業用原料がタイル原料であるので、無機質微小発泡中空球体を含有させて、軽量化タイル、保水性タイルあるいは断熱性タイルなど用途に応じた性状を有するタイル原料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の窯業用原料の製造方法の一例を示す概略工程図で、図2は本発明の窯業用原料の製造方法の一実施例を表す概略斜視図である。
【0015】
図1に示したように、請求項1に係る発明は、主に粘土、長石、陶石、珪石などの原料を公知の手法により湿式粉砕・混合した窯業用泥漿をタンク内で撹拌する工程と、無機質微小発泡中空球体を水中で撹拌しつつ前記タンク下部より前記泥漿中に圧送して混合撹拌する工程と、前記無機質微小発泡中空球体と泥漿との混合流体を前記タンクよりスプレードライヤに供給し、乾燥して、所定のパウダー状原料とする工程とからなる。
【0016】
窯業用泥漿は、主に粘土、陶石、長石等の原料、水、添加剤等をボールミルに投入し、公知の手法により湿式粉砕・混合することにより得られる。例として、請求項4に規定するタイル原料用泥漿の場合を説明すると、原石・原土、水、媒溶剤等をボールミルに投入して、公知の手法により湿式粉砕・混合を行う。また、呈色が要求されるタイル製品の場合は、顔料も同時にボールミルに投入する場合がある。ここで、原石・原土とは、一般的にタイル原料として用いられている粘土、長石、陶石、珪石等をいう。また、媒溶剤とは、焼成の際に製品素地と反応してガラス層を形成するものを指し、主に炭酸カルシウム、タルク、ドロマイト、珪灰石、リン酸カルシウム、酸化亜鉛等が用いられる。以上のような、窯業用泥漿やタイル原料用泥漿を製造する際に用いられる原料等とその種類、含有量などは、目的とする陶器や磁器あるいはタイル等の窯業製品に応じて適宜選択される。
【0017】
得られた窯業用泥漿は、振動ふるいを掛けて未粉砕物質を除去するなどして、図2における泥漿タンク10内に貯蔵し、攪拌機40にて撹拌される。前記泥漿が沈殿するのを防ぐために、常時混合撹拌することが望ましい。ここで用いられるタンク10や攪拌機40については、窯業原料用泥漿を十分に撹拌できるものであれば、特に限定されない。
【0018】
一方、無機質微小発泡中空球体は、粘土、長石、陶石等の原料と比較して比重が小さいために、前記原料と同時に混合撹拌したのでは均一に分散させることが困難である。従って、前述の窯業用泥漿を製造するのとは別に、タンク20において無機質微小発泡中空球体と水を撹拌、混合させて、無機質微小発泡中空球体含有混合液25を調製する。このとき、前記無機質微小発泡中空球体含有混合液25中に無機質微小発泡中空球体を均一に混合させるために、あらかじめ、タンク20に所定量の水を投入し、攪拌機40にて撹拌しながら、徐々に無機質微小発泡中空球体を投入することが望ましい。また、無機質微小発泡中空球体の比重は水よりも軽いので、水中に分散した状態を維持するために常時撹拌しておくことが好ましい。攪拌機40は特に限定されないが、無機質微小発泡中空球体を水中に均一に分散させるために、インバーター55のついたモーター50を使用した高速攪拌機であることが望ましい。無機質微小発泡中空球体含有混合液25における、無機質微小発泡中空球体の固形分濃度は、スプレードライヤ乾燥時におけるパウダー状原料の経済的な取得の観点から、無機質微小発泡中空球体含有混合液100重量%に対して、50〜60重量%であることが好ましい。なお、無機質微小発泡中空球体をより分散しやすくするために、例えば、珪酸ソーダなどの分散剤を添加して撹拌することもできる。
【0019】
ここで、前記無機質微小発泡中空球体とは、無機質よりなる微小な中空球体(発泡体)であり、一例としてシラスバルーン、ガラスバルーン、フライアッシュバルーン、アルミノ・シリケート・バルーンなどが挙げられ、例えば軽量セメント用としても市販されており、目的とする窯業製品に応じて、無機質微小発泡中空球体の粒径や含有量などを適宜選択することができる。また、請求項2に規定するように、窯業製品の軽量化や断熱性の向上などの観点からは、スプレードライヤ乾燥後にパウダー状に得られた窯業用原料100重量%に対して、無機質微小発泡中空球体の含有量は5〜70重量%であることが好ましく、さらには10〜60重量%であることが好ましい。なお、請求項3に規定するように、窯業製品の寸法精度等の観点から、耐火性に優れ、タイルや陶磁器などの窯業製品の焼成温度でも溶融しないので、無機質微小発泡中空球体としてフライアッシュバルーンを用いることが好ましい。ここで、フライアッシュバルーンとは、主として、石炭を燃やす火力発電所などで発生する石炭灰のうち、微粉炭燃焼ボイラーの集塵機で捕集される粒状のものを分離精製等したものをいう。石炭の産地や組成、燃焼方式等によってその大きさ、耐火性、組成等が異なるが、例えば、粒径は1〜250μm、比重は0.6〜0.8程度であり、窯業製品の目的に応じたフライアッシュバルーンを使用することができる。
【0020】
タンク20において、水と無機質微小発泡中空球体を高速撹拌することにより得られた無機質微小発泡中空球体含有混合液25は、あらかじめ窯業用泥漿15を撹拌していた泥漿タンク10に、タンク下部11の供給口12に設けられたパイプ35bを通じて圧送される。このとき、無機質微小発泡中空球体の比重が小さいため、無機質微小発泡中空球体含有混合液25を泥漿タンク10に上から投入しただけでは、無機質微小発泡中空球体が分離してしまい、均一に分散されない。従って、ポンプ30などを使用することにより、前記無機質微小発泡中空球体含有混合液25をタンク下部11の供給口12に設けられたパイプ35bを通じて泥漿タンク10に圧送させる。窯業用泥漿15は粘土等の原料を含有し、ある程度の粘性があるので、前記無機質微小発泡中空球体含有混合液25が、一度前記窯業用泥漿15と混合されると、無機質微小発泡中空球体の分離が起こりにくくなる。そのため、タンク下部11から前記無機質微小発泡中空球体含有混合液25を圧送することで、前記混合液25を泥漿タンク10内で撹拌されている窯業用泥漿15と均一に混合することができる。
【0021】
なお、タンクの上部や中央部から無機質微小発泡中空球体含有混合液25を圧送すること自体は可能であるが、無機質微小発泡中空球体を窯業用泥漿15中に、より均一に分散させるためには、少なくとも、タンク10の上下方向の中央部よりも下部から圧送することが好ましい。また、無機質微小発泡中空球体含有混合液25を泥漿タンク10へタンク下部11より圧送させる工程において、無機質微小発泡中空球体含有混合液25を窯業用泥漿15に均一に分散させるために、泥漿タンク10における窯業用泥漿15と無機質微小発泡中空球体含有混合液25は、常時撹拌されていることが望ましい。
【0022】
次に、泥漿タンク10において、無機質微小発泡中空球体含有混合液25と窯業用泥漿15を攪拌機40により撹拌することによって、得られた混合流体は、タンク10の排出口13に設けたパイプ35aを通じてスプレードライヤに供給される。なお、泥漿タンク10における前記混合流体の排出口13の位置は特に限定されない。この実施例では、無機質微小発泡中空球体含有混合液25を泥漿タンク10へ圧送する供給口12と、タンク10内で窯業用泥漿15と無機質微小発泡中空球体含有混合液25を撹拌・混合して得られた混合流体をスプレードライヤへ供給する排出口13を別に設けた場合を示したが、前記無機質微小発泡中空球体含有混合液25の供給口12に配置するパイプ35bに、切替弁などを設けることにより排出口としても利用できる。なお、前記混合流体を泥漿タンク下部11の排出口13に設けたパイプ35aを通じてスプレードライヤに供給する工程において、前記混合流体が沈殿しないように、泥漿タンク10内の前記混合流体は、常時撹拌されていることが望ましい。
【0023】
前記混合流体をスプレードライヤにより乾燥して、パウダー状の窯業用原料を製造する。得られたパウダー状の窯業用原料の粒径や水分量は、特に限られず、目的の窯業製品に応じて適宜スプレードライヤの乾燥温度などの条件を調節することができる。請求項4に規定するタイル原料を製造する場合も、タイル製品の用途に応じてスプレードライヤの所条件を設定できるが、粒径は400μm程度、水分量は5〜8重量%とすることが望ましい。なお、パウダー状の窯業用原料は用途に応じて、機械的に圧縮粉砕して一定の大きさのものに再造粒することもできる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明における窯業用原料の製造方法を用いてタイル製品を製造した場合の一実施例を示す。なお、無機質微小発泡中空球体としてフライアッシュバルーンを用いた。ここで、フライアッシュバルーンは、SHIJIAZHUANG CENOSPHERE FACTORY製で、粒径が40メッシュ(ふるいの目開き425μm)95重量%通過、比重が0.35〜0.55、融点が1700℃、そして成分組成は、SiO2が52〜54重量%、Al23が36〜40重量%、CaOが2重量%、Ig.Lossが1.9重量%のものを使用した。下記所定の配合のタイル原料用泥漿をタンク内で撹拌し、それとは別に、水とフライアッシュバルーンを高速攪拌機を用いて撹拌して混合液を作製した。次に、タイル原料用泥漿をタンク内で撹拌しながら、フライアッシュバルーン含有混合液を泥漿タンク下部より圧送して、タイル原料用泥漿と撹拌して混合流体を調製した。
【0025】
[配合例1]
蛙目粘土27.8重量%、木節粘土19.0重量%、珪石1.0重量%、長石52.2重量%を原料とし、前記原料100重量%に対して媒溶剤3.5重量%を添加し、ボールミルにて公知の手法により湿式粉砕をして、泥漿タンクでタイル原料用泥漿の撹拌を行った。これとは別に、水40重量%、フライアッシュバルーンを60重量%として高速攪拌機を用いて混合液を調製した。なお、分散剤として、前記混合液100重量%に対して、珪酸ソーダを0.2重量%添加した。前記タイル原料用泥漿の固形分100重量%に対してフライアッシュバルーンが20重量%となるように、泥漿タンクにフライアッシュバルーン含有混合液を圧送し、混合流体を調製した。
【0026】
[配合例2]
蛙目粘土27.8重量%、木節粘土19.0重量%、珪石1.0重量%、長石52.2重量%を原料とし、前記原料100重量%に対して媒溶剤4.5重量%を添加し、ボールミルにて公知の手法により湿式粉砕をして、泥漿タンクでタイル原料用泥漿の撹拌を行った。これとは別に、水40重量%、フライアッシュバルーンを60重量%として高速攪拌機を用いて混合液を調製した。なお、分散剤として、前記混合液100重量%に対して、珪酸ソーダを0.2重量%添加した。前記タイル原料用泥漿の固形分100重量%に対してフライアッシュバルーンが50重量%となるように、泥漿タンクにフライアッシュバルーン含有混合液を圧送し、混合流体を調製した。
【0027】
前記所定の配合で調製した混合流体をスプレードライヤによって乾燥し、得られたパウダー状の窯業用原料を圧力200kg/cm2にて成形した。前記成形体を1250℃で焼成し、吸水率、比重及び熱伝導率の測定を行った。その結果を下記の表1に示す。また、比較として、無機質微小発泡中空球体を含有しない従来製品の磁器タイルの比重及び熱伝導率も表1に示す。表1から明らかなように、フライアッシュバルーンを20重量%あるいは50重量%含有する配合例1、2において、無機質微小発泡中空球体を含有しない従来製品の磁器タイルと比較して、比重が小さく、熱伝導率の低い値が得られ、軽量で断熱性のあるタイル製品が得られた。
【0028】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の窯業用原料の製造方法の一例を示す概略工程図である。
【図2】本発明の窯業用原料の製造方法の一実施例を表す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
10 泥漿タンク
11 タンク下部
12 供給口
13 排出口
15 窯業用泥漿
20 タンク
25 無機質微小発泡中空球体含有混合液
30 ポンプ
35a、35b パイプ
40 攪拌機
50 モーター
55 インバーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窯業用泥漿をタンク内で撹拌するとともに、
無機質微小発泡中空球体を水中で撹拌しつつ前記タンク下部より前記泥漿中に圧送して混合撹拌し、
前記無機質微小発泡中空球体と泥漿との混合流体を前記タンクよりスプレードライヤに供給し、
乾燥して、所定のパウダー状原料とすることを特徴とする窯業用原料の製造方法。
【請求項2】
前記窯業用原料100重量%に対して、
前記無機質微小発泡中空球体の含有量が5〜70重量%である
請求項1に記載の窯業用原料の製造方法。
【請求項3】
前記無機質微小発泡中空球体がフライアッシュバルーンである
請求項1あるいは請求項2に記載の窯業用原料の製造方法。
【請求項4】
前記窯業用原料がタイル原料である
請求項1ないし請求項3にいずれか記載のタイル原料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate