説明

立体印刷物および立体印刷物の製造方法

【課題】 簡易な構成で優れた立体画像を形成する立体印刷物を提供すること。
【解決手段】 規則性を有する規則模様を印刷した透過性シート20に対して、折り曲げ部21を介してその下側に位置する下面シート22と、その下面シート22の上方に位置する上面シート23とを備えるとともに、透過性シート20の一部に一般画像30を印刷した立体印刷物10であって、折り曲げ部21とは反対側の端部に位置する下面シート22における下面接地部22aと、その下面接地部22aに対応する位置に設けた上面シート23における上面接地部23aとを、折り曲げ部21を堺目として折り曲げられることで、下面シート22における下面接地部22a以外の部位と上面シート23における上面接地部23a以外の部位との間にモアレ形成用空間50を形成するように固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体画像を形成する印刷物に関し、特に、モワレを利用して立体画像を形成した立体印刷物および立体印刷物の製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シートやシールなどに代表される印刷物において、印刷物を見る角度や距離に応じて印刷された画像が立体的に見える立体印刷物が知られている。この立体印刷物として、シリンドリカルレンズ(かまぼこ状の微細レンズ)の集合体からなるレンチキュラーレンズを貼り合わせ、そのレンチキュラーレンズの作用により、立体感を形成している技術が広く採用されている。すなわち、立体印刷物は、所定の画像が印刷された複数のレンチキュラーレンズを重ね合わせて一枚の印刷物(以下、レンチキュラー印刷物と表記する)として形成されることになる。
上記のレンチキュラーレンズを用いた技術としては、透過型レンチキュラー印刷物と合わせ用印刷物との組み合わせ体があり、これは、透過型レンチキュラー印刷物と合わせ用印刷物との組み合わせを変化させることにより、多数の絵柄の合成が可能となる技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−275754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、レンチキュラー印刷物を用いた場合、以下のような不都合が生じていた。前述したように、レンチキュラー印刷物は、複数の画像シートを重ね合わせて一枚の印刷物として形成されている。したがって、一枚当たりに掛かるコストは、通常の印刷物に比べると高くなってしまう。
また、レンチキュラー印刷物をシール機能付きの印刷物とした場合、レンチキュラー印刷物を貼り合わせる被対象物の形状が平面状ではなく、曲面状であったり、角部を有している形状の場合には、貼り付けることが実質的には不可能となっていた。これは、レンチキュラー印刷物は、通常の印刷物よりも厚みがあるため、レンチキュラー印刷物を折り曲げて貼るような形態には適していないからである。
したがって、上述した問題点を解消した上での立体印刷物の技術が望まれていた。すなわち、簡易な構成で優れた立体画像を形成する立体印刷物であり、被対象物の形状にも柔軟に対応可能な立体印刷物が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記した問題点に鑑みなされたものである。すなわち、本願発明の目的は、簡易な構成で優れた立体画像を形成する立体印刷物であり、被対象物の形状にも柔軟に対応可能な立体印刷物を提供することにある。
請求項1から請求項7に記載の発明は、簡易な構成で優れた立体画像を形成する立体印刷物であり、被対象物の形状にも柔軟に対応可能な立体印刷物を提供する。
請求項8に記載の発明は、簡易な構成で優れた立体画像を形成する立体印刷物であり、被対象物の形状にも柔軟に対応可能な立体印刷物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1記載の本発明では、規則性を有する規則模様を印刷した透過性シート(20)に対して、折り曲げ部(21)を介してその下側に位置する下面シート(22)と、その下面シート(22)の上方に位置する上面シート(23)とを備えるとともに、前記透過性シート(20)の一部に一般画像(30)を印刷した立体印刷物(10)を提供する。
すなわち、前記折り曲げ部(21)とは反対側の端部に位置する下面シートにおける下面接地部(22a)と、その下面接地部(22a)に対応する位置に設けた上面シート(23)における上面接地部(23a)とを、前記折り曲げ部(21)を堺目として折り曲げられることで、下面シート(22)における下面接地部(22a)以外の部位と上面シート(23)における上面接地部(23a)以外の部位との間にモアレ形成用空間(50)を形成するように固定した立体印刷物に係る。
【0007】
(用語説明)
「透過性シート(20)」とは、透明フィルムなどに代表されるシート状の被印刷体である。この透過性シート(20)としては、例えば、非常に薄いフィルムシートを用いる。
「規則模様」とは、ドットや線などが規則正しく配列されて形成された模様のことである。上面シート(23)および下面シート(22)に印刷されているが、折り曲げ部(21)を形成する前であれば、上面シート(23)および下面シート(22)は連続した一枚のシートであるので、一般には上面シート(23)および下面シート(22)を別々に印刷するのではなく、一工程で印刷される。
「一般画像(30)」とは、文字や模様などによって形成された画像のことである。また、この一般画像(30)が印刷される「透過性シートの一部」とは、下面シート(22)の一部であってもよいし、上面シート(23)の一部であってもよいし、下面シート(22)および上面シート(23)を跨って印刷されていてもよい。
また、他の請求項で特定するが、規則模様の角度のみを変更して形成した画像も含まれる。
「折り曲げ部(21)」とは、下面シート(22)と上面シート(23)との間の境目に設けられた折り曲げ線のことである。
「モアレ形成用空間(50)」とは、透過性シート(20)に規則模様が印刷され、その規則模様が重なり合うことによって発生するモアレを形成するために設けた空間のことである。
モアレ形成用空間(50)を形成するパターンとしては、フラットな下面シート(22)に対して上面シート(23)が膨らむような場合、フラットな上面シート(23)に対して下面シート(22)が膨らむような場合、下面シート(22)または上面シート(23)のいずれかまたは双方が波打ったような形状をなしている場合などがある。
【0008】
(作用)
透過性シート(20)の上面シート(23)および下面シート(22)に規則模様を印刷する。また、透過性シートの一部に一般画像を印刷する。下面シート(22)の下面接地部(22a)と上面シート(23)の上面接地部(23a)とを折り曲げ部(21)を堺目として折り曲げる。下面接地部(22a)以外の部位と上面接地部(23a)以外の部位との間にモアレ形成用空間(50)が形成されるように固定する。
すなわち、下面接地部(22a)と上面接地部(23a)とをモアレ形成用空間(50)が形成されるように固定させることで、上面シート(23)と下面シート(22)の規則模様が重なりあってモアレが発生する。このため、モアレ形成用空間(50)を介して透過性シート(20)を見ると、3D効果を生じる。つまり、透過性シート(20)に規則模様を印刷し、モアレ形成用空間(50)を設けて重ねるだけの簡易な構成で、従来のようなレンチキュラー印刷物を用いることなく、立体画像を形成する立体印刷物(10)を提供することができる。また、透過性シート(20)は、薄いフィルムシートで形成されているため、比較的自由に変形が可能となり、被対象物の形状に応じて貼りあわせることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の立体印刷物を限定したものであり、
前記上面接地部(23a)には、上面接地部(23a)の端部を折り返すことによって断面V字形をなす細長の糊シロ(24)が設けられ、その糊シロ(24)は前記下面接地部(22a)に対し、糊シロ(24)以外の部位と下面接地部(22a)以外の部位との間にモアレ形成用空間(50)を形成するように固定したことを特徴とする。
【0010】
(用語説明)
「糊シロ」とは、下面接地部(22a)と上面接地部(23a)とを固定する際に、ゆとりをもたせるために形成したものである。断面V字形をなすには、例えば透過性シート(20)の熱可塑性樹脂などの材質を採用することによって容易に達成できる。糊シロ(24)は端部から所定間隔にて折り曲げて形成されるため、モアレ形成用空間(50)に厚みが生じるようになる。
(作用)
請求項2に記載の発明によれば、上面接地部(23a)に設けられた糊シロ(24)は、下面接地部(22a)に対し、糊シロ(24)以外の部位と下面接地部(22a)以外の部位との間にモアレ形成用空間(50)が形成されるように固定する。このように形成することで、下面接地部(22a)と上面接地部(23a)との固定作業が容易になる。また、立体印刷物(10)の全体のフォルムとしても丸みを帯びた形状となり、美観的にも優れている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の立体印刷物を限定したものであり、
前記下面接地部(22a)には、下面接地部(22a)の端部を折り返した細長の糊シロが設けられ、その糊シロは前記上面接地部(23a)に対し、糊シロ以外の部位と上面接地部(23a)以外の部位との間にモアレ形成用空間(50)を形成するように固定したことを特徴とする。
【0012】
(作用)
請求項3に記載の発明によれば、下面接地部(22a)に設けられた糊シロは、上面接地部(23a)に対し、糊シロ以外の部位と上面接地部(23a)以外の部位との間にモアレ形成用空間(50)が形成されるように固定する。
本発明は、請求項2の発明で特定した糊シロの位置を上下反対としたものである。すなわち、請求項2および請求項3で特定するように、下面接地部(22a)または上面接地部(23a)のどちらか一方に形成されていれば良いし、両方に設けられていてもよい。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3に記載の立体印刷物を限定したものであり、前記下面シート(22)に印刷された規則模様と上面シート(23)に印刷された規則模様とは、同一の規則模様で形成されていることを特徴とする。
【0014】
(作用)
請求項4に記載の発明によれば、上面シート(23)の規則模様と下面シート(22)の規則模様を同一の規則模様で形成する。同一の規則模様とすることで、確実にモアレが発生し、優れた立体画像を形成することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の立体印刷物を限定したものであり、
前記一般画像(30)は、上面シート(23)の上面および裏面に印刷され、
上面に印刷された一般画像(31)の模様形状と、裏面に印刷された一般画像(32)の模様形状とが異なるように形成されるとともに、前記上面シート(23)の上面に印刷された一般画像(31)は、裏面に印刷された一般画像(32)が透視できないように形成されていることを特徴とする。
例えば、前記上面シート(23)の上面に印刷された一般画像(31)は、不透明な画像として一般画像(32)を透視できないようにする。それによって、折り曲げ部(21)の折り返しを戻さなければ、裏面に印刷された一般画像(32)がどのような印刷内容であるかを確認することができない。
【0016】
(作用)
請求項5に記載の発明によれば、折り曲げ部(21)によって上面シート(23)が下面シート(23)に覆い被さった状態では、前記上面シート(23)の上面に印刷された一般画像(31)のみを目視でき、裏面に印刷された一般画像(32)がどのような印刷内容であるかを確認することができない。そのため、折り曲げ部(21)の折り返しを戻す、例えば糊シロ(24)を剥がすことで、「クジ引き」などの用途として利用可能となる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の立体印刷物を限定したものであり、
前記一般画像(30)は、前記規則模様の角度のみを変更した不規則模様として形成されていることを特徴とする。
【0018】
(作用)
請求項6に記載の発明によれば、一般画像を規則模様の角度のみを変更した不規則模様として形成する。このように形成すると、角度のみを変更して不規則模様とした一般画像は、角度のみが変更されている形態であるため、透過性シートに印刷された規則模様と一般画像との区別が困難となる。このため、例えば、立体印刷物を用いたセキュリティ用途などに利用することもできる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載の立体印刷物を限定したものであり、
前記透過性シート(20)は、接着機能を有するセパレートシート上に設けられていることを特徴とする。
【0020】
(作用)
請求項7に記載の発明によれば、セパレートシート上の透過性シート(20)は、セパレートシートが接着機能を有しているため、被対象物に接着することが可能となる。このため、例えば、販促向けのPOPとしても良いし、玩具用のシールなどに用いても良い。
【0021】
請求項8に記載の発明は、折り曲げ部を介してその下側に位置する下面シートと、その下面シートの上方に位置する上面シートから形成された透過性シートに規則性を有する規則模様を印刷する手順と、その透過性シート上の一部に一般画像を印刷する手順と、 前記折り曲げ部とは反対側の端部に位置する下面シートにおける下面接地部と、その下面接地部に対応する位置に設けた上面シートにおける上面接地部とを、前記折り曲げ部を堺目として折り曲げる手順と、下面シートにおける下面接地部以外の部位と上面シートにおける上面接地部以外の部位との間にモアレ形成用空間を形成するように固定する手順とによって立体印刷物を製造する方法に係る。
【0022】
(作用)
請求項8に記載の発明によれば、透過性シートの上面シートおよび下面シートに規則模様を印刷する。その透過性シート上の一部に一般画像を印刷する。下面シートの下面接地部と上面シートの上面接地部とを折り曲げ部を堺目として折り曲げる。下面接地部以外の部位と上面接地部以外の部位との間にモアレ形成用空間が形成されるように固定する。
上記のような製造方法とすることで、透過性シートの内部にはモアレ形成用空間が形成され、透過性シートを折り曲げることで、空間を介して重なり合った規則模様が立体画像を形成することになる。このため、モアレ形成用空間を介して透過性シートを見ると、立体的効果を生じる。また、透過性シートは、非常に薄いフィルムシートで形成されているため、比較的自由に変形が可能となり、被対象物の形状に応じて貼りあわせることもできる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1から請求項7に記載の発明によれば、簡易な構成で優れた立体画像を形成する立体印刷物であり、被対象物の形状にも柔軟に対応可能な立体印刷物を提供することができた。
請求項8に記載の発明によれば、簡易な構成で優れた立体画像を形成する立体印刷物であり、被対象物の形状にも柔軟に対応可能な立体印刷物の製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。ここで使用する図面は、図1から図7である。図1は、立体印刷物の構成を示した平面図であり、図2は、図1の透過性シートを折り曲げた状態を示した平面図であり、図3は、立体印刷物を側面から見た斜視図であり、図4は、立体印刷物の正面図であり、(a)および(b)は、それぞれ視点角度を変えて見た場合の3D効果を示した図であり、図5は、立体印刷物の正面図であり、(a)および(b)は、線数と視点角度を変えて見た場合の立体画像の見え方を示した図である。
【0025】
(第一実施形態)
図1に示すように、立体印刷物10は、セパレートシート90上に規則性を有する規則模様が印刷された透過性シート20が貼られており、全体として立体印刷物10を形成している。透過性シート20は、透過性シート20の略中央部に折り曲げ部21が設けられ、この折り曲げ部21を介してその下側に位置する下面シート22と、その下面シート22の上方に位置する上面シート23とを備え、透過性シート20の一部に一般画像30が印刷されている。また、折り曲げ部21とは反対側の端部に位置する下面シート22における下面接地部22aと、その下面接地部22aに対応する位置に設けた上面シート23における上面接地部23aとを、折り曲げ部21を堺目として折り曲げることで、下面シート22における下面接地部22a以外の部位と上面シート23における上面接地部23a以外の部位との間にモアレ形成用空間50が形成されるように固定している。
ここで、「規則模様」とは、ドットや線などが規則正しく配列されて形成された模様のことであり、本実施形態では、線を用いている。規則模様は、上面シート23および下面シート22に印刷されているが、折り曲げ部21を形成する前であれば、上面シート23および下面シート22は連続した一枚のシートであるので、一般には上面シート23および下面シート22を別々に印刷するのではなく、一工程で印刷されることになる。
また、「透過性シート」とは、透明フィルムなどに代表されるシート状に形成された被印刷体のことである。本実施形態の透過性シートには、非常に薄いフィルムシートを用いている。
セパレートシート90は、透過性のフィルムシートで形成されており、透過性シート20が貼られた面とは反対となる裏面にシール機能(接着機能)が設けられている。このシール機能は、例えば、立体印刷物10を被対象物に貼り付けたりする場合に利用される。
【0026】
下面シート22および上面シート23には、複数の一般画像30が印刷されている。この一般画像30は、上面シート23の上面に印刷された一般画像31と、上面シート23の裏面に印刷された一般画像32と、下面シート22の裏面に印刷された一般画像33とによって構成されている。また、上面シート23の上面および裏面に印刷され、上面に印刷された一般画像31の模様形状と、裏面に印刷された一般画像32の模様形状とが異なるように形成され、上面シート23の上面に印刷された一般画像31は、裏面に印刷された一般画像32が透視できないように形成されている。
例えば、上面シート23の上面に印刷された一般画像31は、不透明な画像として一般画像32を透視できないようにする。それによって、折り曲げ部21の折り返しを戻さなければ、裏面に印刷された一般画像32がどのような印刷内容であるかを確認することができない。そのため、折り曲げ部21の折り返しを戻す、具体的には糊シロ24を剥がすことで、「クジ引き」などの用途として利用可能となる。
なお、一般画像30は透過性シートの一部に印刷されるが、これは下面シート22の一部であってもよいし、上面シート23の一部であってもよいし、下面シート22および上面シート23を跨って印刷されていてもよい。
【0027】
図2を参照して透過性シート20の詳細を説明する。透過性シート20は、透過性または半透過性の材質によって形成された透明フィルムであり、透過性シートのほぼ全面に対し、規則模様が印刷されている。なお、本実施形態における規則模様は、角度が±0度の複数の縦線により形成されているが、規則模様自体は特に限定されるものではない。すなわち、規則正しく分布されていれば良く、例えば、横線、斜線およびドット状の模様などとしても良い。図2に示すように、過性シート20を平面視で見ると、折り曲げ部21が幅方向にわたって伸びている。本実施形態では、この折り曲げ部21を基準として下方を下面シート22とし、上方を上面シート23と定義している。つまり、下面シート22および上面シート23は同一の規則模様で形成されていることになる。
【0028】
次に、上面シート23を折り曲げた形態について説明する。透過性シート20は、上面シート23を折り曲げ部21を介して図1の手前側(下面シート22側)に折り曲げることで、図2に示すような形態となる。折り曲げる際には、下面シート22の下面接地部22aに上面シート23の上面接地部23aがモアレ形成用空間50を形成するように固定されることになる。
本実施形態の上面接地部23aの形状としては、上面接地部23aの端部を折り返すことによって断面V字形をなす細長の糊シロ24を設けている。ここで、「糊シロ」とは、下面接地部22aと上面接地部23aとを固定する際に、ゆとりをもたせるために形成したものである。断面V字形をなすには、例えば透過性シート20の熱可塑性樹脂などの材質を採用することによって容易に達成できる。
糊シロ24は端部から所定間隔にて折り曲げて形成されるため、モアレ形成用空間50に厚みが生じるようになる。この糊シロ24は、折り返し部24bを基準として図1の手前側に折り返され、図3に示すような形態となる。つまり、糊シロ24は、下面接地部22aに固定することで、透過性シート20にモアレ形成用空間50が形成されることになる。なお、糊シロ24は、下面接地部22aに設けるようにしても良い。
【0029】
モアレ形成用空間50は、対向する両側面が開放され、上面シート23が半円を描いた形態となっている。ここで、「モアレ形成用空間」とは、透過性シートに規則模様が印刷され、その規則模様が重なり合うことによって発生するモアレを形成するために設けられた空間のことである。モアレ形成用空間50を形成するパターンとしては、フラットな下面シート22に対して上面シート23が膨らむような場合、フラットな上面シート23に対して下面シート22が膨らむような場合、下面シート22または上面シート23のいずれかまたは双方が波打ったような形状をなしている場合などがある。
つまり、下面シート22に上面シート23を固定すると、下面シート22と上面シート23とが重なりモアレが発生する。なお、モアレとは、規則正しい模様を重ね合わせたとき、画素(ドット)が相互に干渉することによりできる周期的な縞状のパターンのことである。
【0030】
以下、立体印刷物10におけるモアレについての考察結果である。
図4に、図3の正面図であって、下面シート22と上面シート23とを重ねることにより立体画像が発生した形態を概略的に示す。図4(a)は、立体印刷物10を正面から見た様子を示している。つまり、規則模様が印刷された下面シート22および上面シート23をモアレ形成用空間50を介して重ねると、透過性シート20の規則模様が立体的に見える立体画像となる。また、図4(b)は、図4(a)よりも視点角度を緩やかにして正面から見た図である。視点角度を変更してみると、図4(a)の立体画像とは異なり、左右反対になることが分かる。
【0031】
また、図5(a),(b)は、透過性シート20に印刷された規則模様において、規則模様の線数を増やした形態を示している。図5においても、図4と同様に視点角度を異ならせることによって、(a)と(b)とでは異なる立体画像が発生していることが分かる。この他、図示は省略するが、規則模様の線数や角度を変更することで、木目調の立体画像に見える場合もあった。
なお、モアレ形成用空間50を設けることなく、下面シート22と上面シート23とを重ねた場合でもモアレは発生するものの、立体画像にはならず、一般的な印刷工程などで発生するモアレと同一のものであった。
【0032】
すなわち、上記の考察結果から明らかなように、透過性シート20に規則模様を印刷し、モアレ形成用空間50を設けて重ねるだけの簡易な構成で、従来のようなレンチキュラーレンズを使用したレンチキュラー印刷物を用いることなく、立体画像を形成する立体印刷物を提供することができた。
また、透過性シート20は、セパレートシート90に貼り付けられており、セパレートシート90の裏面のシール機能によって被対象物に接着が可能となっている。透過性シート20およびセパレートシート90ともに、非常に薄いフィルムシートで形成されているため、比較的自由に変形が可能となり、被対象物の形状に応じて貼りあわせることができる。例えば、被対象物の形状が円柱状であり、被対象物の周回に立体印刷物10を貼り付ける場合でも、レンチキュラーレンズのような厚みがないため、容易に貼り付けが可能となる。
【0033】
なお、図4および図5に示した図は、あくまで一例であり、立体画像は限定されるものではない。また、立体画像は、明暗などの周辺環境、見る人の視点距離および視点角度など、様々な要因によって同一に見えるものではない。ただし、個人差はあるものの、正常な視力をもった人であれば立体感が感じられる印刷物である。
【0034】
(第二実施形態)
次に本発明の第二実施形態について図6を参照して説明する。第二実施形態における立体印刷物100は、規則性を有する規則模様が印刷された透過性シート20に対して、折り曲げ部21を介してその下側に位置する下面シート22と、その下面シート22の上方に位置する上面シート23とを備え、透過性シート20の一部に一般画像30が印刷され、折り曲げ部21とは反対側の端部に位置する下面シート22における下面接地部22aと、その下面接地部22aに対応する位置に設けた上面シート23における上面接地部23aとを、折り曲げ部21を堺目として折り曲げることで、下面シート22における下面接地部22a以外の部位と上面シート23における上面接地部23a以外の部位との間にモアレ形成用空間50(図6では図示せず)が形成されるように固定された点は、上述した第一実施形態と全く同様である。しかしながら、本実施形態ではセパレートシート90および上面接地部23aの端部を折り返した細長の糊シロ24を無くし、シンプルな構成としている点が第一実施形態の立体印刷物とは異なる。
【0035】
すなわち、立体画像を形成するために必要となるモアレ形成用空間50は、下面接地部22aおよび上面接地部23aのみで固定させている。このようにすれば、立体印刷物の製造工程の簡略化に寄与する。
【0036】
(第三実施形態)
次に本発明の第三実施形態について図7を参照して説明する。第三実施形態における立体印刷物200は、上述した第二実施形態と同様であるが、一般画像の形状が異なっている。すなわち、立体印刷物200に印刷された一般画像30aは、透過性シート20に印刷された規則模様の角度に対し、角度を変更した不規則模様として形成されている一般画像30aは、角度のみが変更されている形態であるため、下面シート22または上面シート23を重ね合わせる前の状態(図6の状態)では、透過性シート20の規則模様と一般画像30aとの区別を瞬時に視認することが困難となる。このため、立体印刷物200を用いたセキュリティ用シートとして利用することもできる。
【0037】
例えば、小売店などでよく使用される商品割引券の整合性の確認に用いた例を説明する。予め立体印刷物200の作成段階で、不透明な一般画像としてキャンペーン内容や商品案内などの消費者にアピールする文面や画像を印刷する。一方、それらと同一領域に商品割引券を発行した年月日、有効期限および店独自のマークなどを印刷しておく。これは、透過性シート20の規則模様に角度のみを変更した不規則模様とする。小売店は、チェック用に下面シート22を保管しておき、消費者が商品割引券を利用する際に重ね合わせることで、不規則模様の確認を行うことで不正利用を防止する。また、小売店のチェック用シートに上面シート23に印刷した一般画像(商品割引券を発行した年月日、有効期限および店独自のマーク)と同一の模様を印刷しておいても良い。このようにすれば、重ね合わせた時のズレなどによって精度を高めることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る立体印刷物を示す平面図である。
【図2】透過性シートを折り曲げた状態を示した平面図である。
【図3】本発明に係る立体印刷物を側面から見た斜視図である。
【図4】立体印刷物の正面図であり、(a)および(b)は、それぞれ視点角度を変えた場合に見える立体画像を比較した図である。
【図5】立体印刷物の正面図であり、(a)および(b)は、それぞれ線数および視点角度を変えた場合に見える立体画像を比較した図である。
【図6】第二実施形態の立体印刷物を示す平面図である。
【図7】第三実施形態の立体印刷物を示す平面図である。
【符号の説明】
【0039】
10,100,200 立体印刷物
20 透過性シート
21 折り曲げ部
22 下面シート
22a 下面接地部
23 上面シート
23a 上面接地部
24 糊シロ
24a 折り返し部
30,30a,31,32,33 一般画像
50 モアレ形成用空間
90 セパレートシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
規則性を有する規則模様を印刷した透過性シートに対して、折り曲げ部を介してその下側に位置する下面シートと、 その下面シートの上方に位置する上面シートとを備えるとともに、 前記透過性シートの一部に一般画像を印刷した立体印刷物であって、
前記折り曲げ部とは反対側の端部に位置する下面シートにおける下面接地部と、その下面接地部に対応する位置に設けた上面シートにおける上面接地部とを、前記折り曲げ部を堺目として折り曲げられることで、下面シートにおける下面接地部以外の部位と上面シートにおける上面接地部以外の部位との間にモアレ形成用空間を形成するように固定したことを特徴とする立体印刷物。
【請求項2】
前記上面接地部には、上面接地部の端部を折り返すことによって断面V字形をなす細長の糊シロが設けられ、その糊シロは前記下面接地部に対し、糊シロ以外の部位と下面接地部以外の部位との間にモアレ形成用空間を形成するように固定したことを特徴とする請求項1記載の立体印刷物。
【請求項3】
前記下面接地部には、下面接地部の端部を折り返した細長の糊シロが設けられ、その糊シロは前記上面接地部に対し、糊シロ以外の部位と上面接地部以外の部位との間にモアレ形成用空間を形成するように固定したことを特徴とする請求項1記載の立体印刷物。
【請求項4】
前記下面シートに印刷された規則模様と上面シートに印刷された規則模様とは、同一の規則模様で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の立体印刷物。
【請求項5】
前記一般画像は、上面シートの上面および裏面に印刷され、
上面に印刷された一般画像の模様形状と、裏面に印刷された一般画像の模様形状とが異なるように形成されるとともに、前記上面シートの上面に印刷された一般画像は、裏面に印刷された一般画像が透視できないように形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の立体印刷物。
【請求項6】
前記一般画像は、前記規則模様の角度のみを変更した不規則模様として形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の立体印刷物。
【請求項7】
前記透過性シートは、接着機能を有するセパレートシート上に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の立体印刷物。
【請求項8】
折り曲げ部を介してその下側に位置する下面シートと、その下面シートの上方に位置する上面シートから形成された透過性シートに規則性を有する規則模様を印刷する手順と、
その透過性シート上の一部に一般画像を印刷する手順と、
前記折り曲げ部とは反対側の端部に位置する下面シートにおける下面接地部と、その下面接地部に対応する位置に設けた上面シートにおける上面接地部とを、前記折り曲げ部を堺目として折り曲げる手順と、
下面シートにおける下面接地部以外の部位と上面シートにおける上面接地部以外の部位との間にモアレ形成用空間を形成するように固定する手順と、
を備えたことを特徴とする立体印刷物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−91444(P2006−91444A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277155(P2004−277155)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(501128003)株式会社横浜巧芸 (3)
【Fターム(参考)】