説明

立体多角ボイスコイル、振動板及び平面スピーカー

【課題】高い音圧を発生させることが可能なボイスコイル、該ボイスコイルを内蔵する振動板、及び該振動板を用いた平面スピーカーを提供する。
【解決手段】立体多角ボイスコイル11は、振動板12に対して略垂直方向に積み重ねて形成されており、隣接する永久磁石13の側面間に配置されている。このように、永久磁石13で発生される磁力の最も強い位置に立体多角ボイスコイル11を配置させることにより、立体多角ボイスコイル11を固定している振動板12に最も効率よく駆動力を発生させることができ、その結果音圧を上げることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面スピーカー、及び該平面スピーカーのボイスコイル並びに該ボイスコイルが形成された振動板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から用いられているコーンスピーカーの概略構造を図6に示す。図6(a)はコーンスピーカー100の断面図であり、(b)はコーンスピーカー100に内蔵されているボイスコイル102の斜視図である。コーンスピーカー100は、円筒101に巻きつけられたボイスコイル102とコーン型ヨーク103の底面に固定された永久磁石108との間に働く駆動力で、円筒101に連結されたコーン型振動板105が振動する構造となっている。
【0003】
ボイスコイル102は、図6(b)に示すように、専用巻線機を用いて線状導体116を円筒101上に巻き付け、これを接着固定して形成している。ボイスコイル102に対して直角方向に磁力106が流れるように磁気回路が配置され、円筒101の中心軸方向に駆動力107が発生する構造となっている。
【0004】
一方、上記のコーンスピーカーに比べて大幅に小型化が可能なスピーカーとして、平面スピーカーが従来から知られている(例えば特許文献1)。従来の平面スピーカーの概略構造を図7に示す。図7(a)は平面スピーカー110の断面図であり、(b)は平面スピーカー110に内蔵されているボイスコイル内蔵平面振動板111の平面図である。
振動板111に内蔵されているボイスコイル112は、振動板111に対して平行に内蔵又は密着しており、このボイスコイル112に対して平行に極性の異なる磁石113が複数配置されて磁気回路が形成され、この磁気回路の漏洩磁場114を利用して振動板111上のボイスコイル112が上下の駆動力107を発生する構造となっている。
【特許文献1】特開2003−284187号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の平面スピーカーに関しては、以下のような問題があった。ボイスコイル内蔵平面振動板を用いた平面スピーカーは、極性の異なる磁石が配置された磁気回路の漏洩磁場を利用している為、磁束密度が弱い部分にボイスコイルが配置されている構造となっており、その結果音圧が低くなってしまうという問題があった。
そこで、本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、高い音圧を発生させることが可能なボイスコイル、該ボイスコイルを内蔵する振動板、及び該振動板を用いた平面スピーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の第1の態様は、所定の振動板上に線状導体を配索して形成されるボイスコイルであって、前記振動板に対し垂直方向に前記線状導体を積み重ねて形成されていることを特徴とする立体多角ボイスコイルである。
【0007】
第2の態様は、交互に極性を変えて配設された複数の磁石の間に配置され、前記磁石から受ける駆動力が同一方向となるよう前記線状導体の配索の方向が決定されていることを特徴とする立体多角ボイスコイルである。
【0008】
第3の態様は、前記線状導体が1本の連続した導体であって、前記線状導体を所定の配線パターンで配索しながら所定回数積み重ねて形成されていることを特徴とする立体多角ボイスコイルである。
【0009】
第4の態様は、前記磁石を囲うように前記線状導体を配索してループを形成し、該ループを複数個積み重ねて形成されていることを特徴とする立体多角ボイスコイルである。
【0010】
第5の態様は、前記線状導体を所定の配線パターンで配索されたFPC(Flexible Printed Circuit)を所定枚数積み重ねて形成されていることを特徴とする立体多角ボイスコイルである。
【0011】
第6の態様は、前記線状導体を所定の配線パターンで所定本数配索されたFPC(Flexible Printed Circuit)を、前記複数の磁石の間に垂直方向に配置して形成されていることを特徴とする立体多角ボイスコイルである。
【0012】
第7の態様は、第1の態様から第6の態様のいずれか1項に記載の立体多角ボイスコイルを所定の板材上に載置して形成されている、あるいは前記板材の内部に内包させて形成されていることを特徴とする振動板である。
【0013】
第8の態様は、複数の磁石が交互に極性を変えて配設された磁気回路と対向する位置に配置され、前記立体多角ボイスコイルが隣接する前記磁石の間に位置するよう配置されていることを特徴とする振動板である。
【0014】
第9の態様は、第4の態様に記載の立体多角ボイスコイルが、前記板材上の前記磁石を囲う位置に配置されていることを特徴とする振動板である。
【0015】
第10の態様は、前記立体多角ボイスコイルが、前記磁気回路の中心軸に対して線対称、または前記磁気回路の中心に対して点対称となるように配置されていることを特徴とする振動板である。
【0016】
第11の態様は、第7の態様から第10の態様のいずれか1項に記載の振動板を備えることを特徴とする平面スピーカーである。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、磁力の最も強い部分に配置可能な立体多角ボイスコイル、該立体多角ボイスコイルを内蔵した振動板、および該振動板を用いて音圧を高めた平面スピーカーを提供することができる。
また、前記立体多角ボイスコイルを内部に結線部分を有しない一体構造とすることにより、信頼性の高い平面スピーカーを実現することが可能となる。さらに、前記立体多角ボイスコイルを振動板上に対称に配置することにより、音のひずみを小さくできるといった効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図面を参照して本発明の好ましい実施の形態における立体多角ボイスコイル、振動板及び平面スピーカーの構成について詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
平面スピーカーの音圧を上げるためには、コーンスピーカーと同様に、永久磁石が発生する磁力の強い位置にボイスコイルを配置する必要がある。平面スピーカーでは、複数の永久磁石が磁極を交互に反転させながら平面状に配置されており、このように形成された磁気回路で磁力が最も強い位置は、隣接する前記永久磁石の側面間に位置している。
【0019】
そこで、本発明の立体多角ボイスコイルは、上記の隣接する前記永久磁石の側面間に配置されるようにしている。本発明の第1の実施の形態に係る立体多角ボイスコイル、振動板、及び平面スピーカーを図1に示す。図1において、(a)は本実施形態の立体多角ボイスコイル11を用いた振動板12及び平面スピーカー10を示す断面図であり、(b)は振動板12及び該振動板12に配索されている立体多角ボイスコイル11の配置を示す平面図である。
【0020】
立体多角ボイスコイル11は、振動板12に対して略垂直方向に積み重ねて形成されており、隣接する永久磁石13の側面間に配置されている。このように、永久磁石13で発生される磁力の最も強い位置に立体多角ボイスコイル11を配置させることにより、立体多角ボイスコイル11を固定している振動板12に最も効率よく駆動力を発生させることができ、その結果音圧を上げることが可能となる。
【0021】
図1(b)は、立体多角ボイスコイル11を振動板12上に配置する一実施例を示している。同図では立体多角ボイスコイル11が、永久磁石13の1つを囲むように略正方形のリングを形成しており、本実施例では極性が同じ永久磁石13のみに前記リングを配置するようにしている。各リングに流れる電流方向は、前記駆動力の方向が前記リングのすべてで同じになるように決定するのが好ましく、これにより前記駆動力をさらに効率よく発生させることができるといった効果が得られる。
【0022】
なお、図1に示すような立体多角ボイスコイル11を形成する方法として、例えば図2に示すような方法がある。同図では、平面状の板材16の所定の位置にコイル17を平面状に配索しておき、コイル15が複数本密接に配索されている位置の中心を押し出して溝18が形成されるよう成型加工して立体多角ボイスコイル11及び振動板12を形成している。
【0023】
本発明の第2の実施の形態に係る立体多角ボイスコイル、振動板、及び平面スピーカーを図3に示す。同図において、(a)は本実施形態の立体多角ボイスコイル21を用いた振動板22及び平面スピーカー20を示す断面図、(b)は振動板22及び該振動板22に配索されている立体多角ボイスコイル21の配置を示す斜視図、(c)は永久磁石13に発生する磁力方向と立体多角ボイスコイル21の巻き方向及び駆動力との関係を説明する斜視図である。
【0024】
本実施形態では、極性の異なるものを含めてすべての永久磁石13を囲むように前記リングを形成して立体多角ボイスコイル21を構成している。前記リングの各辺は、永久磁石13で発生される磁力23の最も強い位置に配置される。
【0025】
図3(c)に示すように、本実施形態では、前記各リングに発生する駆動力24の方向がすべて同じになるように、前記各リングに流れる電流の向きを対向する位置の永久磁石13の極性によって変えている。すなわち、前記各リングの巻き方向25を極性(磁力方向23)によって逆方向にしている。これにより、立体多角ボイスコイル21に働く駆動力24の向きをすべて一定にすることができる。
【0026】
本発明の第3の実施の形態に係る立体多角ボイスコイル及び振動板を図4に示す。同図において、(a)は本実施形態の立体多角ボイスコイル31を用いた振動板32を示す斜視図、(b)は立体多角ボイスコイル31の配線方向を説明する平面図、(c)は別の配線方向を説明する平面図である。
【0027】
本実施形態では、立体多角ボイスコイル31が連続する1本の線状導体で形成されており、同じ配線パターンを所定回数だけ重ねて立体化している。すなわち、本実施形態の立体多角ボイスコイル31は、連続する1本の線状導体を用いて、いわゆる一筆書きの方法で形成されている。
【0028】
図4(a)に示す配線パターンで立体多角ボイスコイル31を形成する場合、前記線状導体は図4(b)に示すような向きで順次配索される。そして、このように形成された立体多角ボイスコイル31は、対称軸33及び34に対して線対称となっている。このように、立体多角ボイスコイル31の配線パターンが対称性を有する場合には、振動板32にバランス良く駆動力を発生させることができ、音の歪みを小さくすることが可能となるといった効果が得られる。
【0029】
一筆書きの方法で前記線状導体を配索する配線パターンとしては、図4(a)、(b)に示す本実施形態の立体多角ボイスコイル31の配線パターンだけでなく、例えば、隣接する永久磁石13で形成されるすべての間隔に立体多角ボイスコイルが配置されるような別の配線パターンとすることもできる。この場合の、前記線状導体の配線方向を図4(c)に示した。同図に示す前記配線パターンの場合には、図4(b)に示すような対称性は得られない。
【0030】
図4に示すように、立体多角ボイスコイル31が、連続する1本の線状導体を用いて一筆書きの方法で形成される場合には、立体多角ボイスコイル31の途中で結線が形成されていないことから、信頼性の高いボイスコイルを提供することが可能となる。
その一方で、立体多角ボイスコイル31を形成するために、前記線状導体を所定の配線パターンで所定回数だけ積み重ねて立体化させる場合、積み重なる前記線状導体間は接着されていないため、前記のように積み重ねて立体化させるのが困難であった。
そこで、自己融着線を用いて立体多角ボイスコイル31を形成する一実施例を、図5を用いて説明する。
【0031】
図5は、前記線状導体を所定の配線パターンで所定回数だけ積み重ねて立体多角ボイスコイル31を形成するための治具を示している。図5(a)に示す治具41は、立体多角ボイスコイル31と対向する位置に配置される永久磁石13と同じ配置で、立方体42が配置されたものである。立方体42の側面に沿って自己融着線43を前記所定回数配索し、その後所定の溶剤で隣接する自己融着線43同士を固着させることで、立体多角ボイスコイル31を形成することができる。
【0032】
図5(b)は、立体多角ボイスコイル31を形成するための別の治具を示す斜視図である。同図に示す治具44は、ピン45を所定間隔の定ピッチで配置しており、ピン45に自己融着線43を巻き付け、その後、その後所定の溶剤で隣接する自己融着線43同士を固着させることで、立体多角ボイスコイル31を形成することができる。
治具41または44を用いて形成される立体多角ボイスコイル31は、コイルの途中に結線部分を形成しないことから、結線不良や断線といった不具合が発生するおそれがなくなり、高い信頼性の立体多角ボイスコイル31を提供することができる。また、治具41または44を用いることで作業性も大幅に改善される。
【0033】
立体多角ボイスコイル31を形成するさらに別の方法として、前記線状導体を所定の配線パターンで配索されたFPC(Flexible Printed Circuit)を所定枚数積み重ねることで立体多角ボイスコイル31を形成することも可能である。
あるいは、前記線状導体を所定の配線パターンで所定本数配索されたFPC(Flexible Printed Circuit)を、前記複数の磁石13の間に垂直方向に配置して立体多角ボイスコイル31を形成することも可能である。
【0034】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る立体多角ボイスコイル、振動板及び平面スピーカーの一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における立体多角ボイスコイル、振動板及び平面スピーカーの細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る立体多角ボイスコイル、振動板、及び平面スピーカーを示す図である。図1(a)は立体多角ボイスコイル、振動板及び平面スピーカーの断面図であり、(b)は振動板及び立体多角ボイスコイルの配置を示す平面図である。
【図2】図2は、図1に示す立体多角ボイスコイルを形成する方法を示す断面図を示す。
【図3】図3は、本発明の第2の実施の形態に係る立体多角ボイスコイル、振動板、及び平面スピーカーを示す図である。図3(a)は立体多角ボイスコイル、振動板及び平面スピーカーの断面図であり、(b)は振動板及び立体多角ボイスコイルの配置を示す斜視図、(c)は永久磁石に発生する磁力方向と立体多角ボイスコイルの巻き方向及び駆動力との関係を説明する斜視図である。
【図4】図4は、本発明の第3の実施の形態に係る立体多角ボイスコイル及び振動板を示す図である。図4(a)は立体多角ボイスコイル及び振動板を示す斜視図、(b)は立体多角ボイスコイルの配線方向を説明する平面図、(c)は別の配線方向を説明する平面図である。
【図5】図5は、立体多角ボイスコイルを形成するための治具を示す斜視図及びコイルの巻き方向を示す平面図である。図5(a)は複数の立方体から形成された治具を示す図であり、(b)は、複数のピンから形成された治具を示す図である。
【図6】図6は、従来のコーンスピーカーを示す概略構造図である。図6(a)はコーンスピーカーの断面図であり、(b)はコーンスピーカーに内蔵されているボイスコイルの斜視図である。
【図7】図7は、従来の平面スピーカーの概略構造図である。図7(a)は平面スピーカーの断面図であり、(b)は平面スピーカーに内蔵されているボイスコイル内蔵平面振動板の平面図である。
【符号の説明】
【0036】
10,20,30 平面スピーカー
11、21、31 立体多角ボイスコイル
12、22、32 振動板
13、113 永久磁石
14 エッジ
15 ヨーク
16 板材
17 コイル
18 溝
23 磁力方向
24 駆動方向
25 巻き方向
33,34 対称軸
41、44 治具
42 立方体
43 自己融着線
45 ピン
100 コーンスピーカー
101 円筒
102 ボイスコイル
103 コーン型ヨーク
104 エッジ
105 コーン型振動板
106 磁力
107 駆動力
108 永久磁石
110 平面スピーカー
111 ボイスコイル内蔵平面振動板
112 ボイスコイル
114 漏洩磁場
115 平面型のヨーク
116 線状導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の振動板上に線状導体を配索して形成されるボイスコイルであって、
前記振動板に対し垂直方向に前記線状導体を積み重ねて形成されている
ことを特徴とする立体多角ボイスコイル。
【請求項2】
交互に極性を変えて配設された複数の磁石の間に配置され、
前記磁石から受ける駆動力が同一方向となるよう前記線状導体の配索の方向が決定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の立体多角ボイスコイル。
【請求項3】
前記線状導体は1本の連続した導体であって、
前記線状導体を所定の配線パターンで配索しながら所定回数積み重ねて形成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の立体多角ボイスコイル。
【請求項4】
前記磁石を囲うように前記線状導体を配索してループを形成し、該ループを複数個積み重ねて形成されている
ことを特徴とする請求項2または請求項3のいずれか1項に記載の立体多角ボイスコイル。
【請求項5】
前記線状導体を所定の配線パターンで配索されたFPC(Flexible Printed Circuit)を所定枚数積み重ねて形成されている
ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項4のいずれか1項に記載の立体多角ボイスコイル。
【請求項6】
前記線状導体を所定の配線パターンで所定本数配索されたFPC(Flexible Printed Circuit)を、前記複数の磁石の間に垂直方向に配置して形成されている
ことを特徴とする請求項2または請求項4に記載の立体多角ボイスコイル。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の立体多角ボイスコイルを所定の板材上に載置して形成されている、あるいは前記板材の内部に内包させて形成されている
ことを特徴とする振動板。
【請求項8】
複数の磁石が交互に極性を変えて配設された磁気回路と対向する位置に配置され、
前記立体多角ボイスコイルが隣接する前記磁石の間に位置するよう配置されている
ことを特徴とする請求項7に記載の振動板。
【請求項9】
請求項4に記載の立体多角ボイスコイルが、前記板材上の前記磁石を囲う位置に配置されている
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の振動板。
【請求項10】
前記立体多角ボイスコイルが、前記磁気回路の中心軸に対して線対称、または前記磁気回路の中心に対して点対称となるように配置されている
ことを特徴とする請求項8または請求項9に記載の振動板。
【請求項11】
請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の振動板を備える
ことを特徴とする平面スピーカー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate