説明

立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法

【課題】 立体模様が表現された回折格子記録媒体を作成する。
【解決手段】 XYZ三次元座標系におけるXY平面上に記録面Sxy、YZ平面上に投影面Syz、Z軸上に基準軸Rを設定し、立体模様の原画像となる三次元構造体Mを設定する。記録面Sxy上に多数の画素の配列を定義し、個々の画素の中心に基準点P(x,y,0)を定義する。この基準点P(x,y,0)の真上にある三次元構造体Mの表面上の標本点Q(x,y,z)を求める。標本点Qの位置において法線ベクトルNを求め、これを投影面Syzに投影して得られる投影ベクトルNと基準軸Rとの交差角ξを求め、θ=ξ/2なる方位角θを定義する。基準点Pに位置する画素には、X軸に対して方位角θをなす方向を向いた格子線を配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付ける。記録面Sxy上に割り付けられた多数の画素パターンに応じた回折格子を、物理的記録媒体上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法に関し、特に、回折格子が形成された微細な画素パターンの集合体により立体感のあるモチーフを表現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
クレジットカード、預金通帳、金券などの偽造を防止するための手段として、ホログラムシールが利用されている。また、ビデオテープや高級腕時計などの商品についても、海賊版が出回るのを防止するために、ホログラムシールが利用されている。この他、装飾用、販売促進用といった目的にも、ホログラムシールが利用されている。
【0003】
このようなホログラムシールを作成する本来の方法は、レーザ光を用いて干渉縞を形成させる光学的なホログラム撮影法である。すなわち、記録対象となる原画像(二次元画像や三次元物体)を用意し、2つに分岐させたレーザ光の一方をこの原画像に照射し、その反射光と分岐したもう一方のレーザ光とを干渉させてその干渉縞を感光材に記録するのである。こうしてホログラム原版が作成できたら、この原版を用いて、プレスの手法によりホログラムシールを量産することができる。
【0004】
これに対して、ホログラムシールを作成する簡便な方法として、物理的媒体上に回折格子パターンを形成する方法がある。この方法では、画像は、干渉縞パターンではなく、回折格子パターンとして記録されるため、この方法で記録された媒体は本来の「ホログラム」にはなっていないが、一般には、広義に「ホログラムシール」と呼ばれることが多い。本願では、このような媒体に対しては、「ホログラム」という言葉を用いず、「回折格子記録媒体」という言葉を用いることにする。
【0005】
最近は、電子線描画によって回折格子パターンを形成する技術が確立されてきたため、上述した回折格子記録媒体によって、印刷を上回る解像度をもったパターン形成が可能である。また、回折格子記録媒体は、本来のホログラム作成方法(光学的な撮影方法)によって形成した画像に比べて、より明るく、微細表現に富んだ鮮明な画像が得られるというメリットがある。たとえば、下記の特許文献1には、個々の画素の内部に回折格子を形成することにより、所望のモチーフを表現した回折格子記録媒体を作成する方法が開示されている。また、特許文献2には、階調をもった二次元カラー画像を表現した回折格子記録媒体を作成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−337622号公報
【特許文献2】特開平8−021909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1,2に開示された手法によって回折格子記録媒体を作成すると、任意のモチーフが表現された媒体を作成することが可能になり、しかも本来のホログラムの手法によって作成した媒体に比べて、より明るく、微細表現に富んだ鮮明な画像が得られるというメリットがある。しかしながら、回折格子記録媒体上に形成されるパターンは光学的な干渉縞パターンではなく、あくまでも単なる回折格子パターンであるため、原理的に三次元立体像を表現することはできない。すなわち、上述した特許文献1,2に開示された手法は、あくまでも二次元平面上の原画像を回折格子記録媒体上に表現することしかできない。
【0008】
そこで本発明は、立体模様が表現された回折格子記録媒体を作成する新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明の第1の態様は、立体模様が表現された回折格子記録媒体を作成する方法において、
所定の記録面と、所定の基準軸と、この基準軸を含む所定の投影面と、立体模様の原画像となる三次元構造体と、を設定する条件設定段階と、
記録面上に、所定面積をもった多数の画素の配列を定義し、個々の画素についてそれぞれ基準点Pを定義する画素定義段階と、
三次元構造体の表面上に、記録面への所定方向への投影像が各基準点Pとなるような標本点Qをそれぞれ定義する標本点定義段階と、
各標本点Qのそれぞれについて法線ベクトルNを求め、この法線ベクトルNを投影面に対して所定方向に投影して得られる投影ベクトルNと基準軸との交差角ξを求める交差角決定段階と、
各基準点Pについて、対応する標本点Qについて求められた交差角ξに応じた方位角θを定義する方位角定義段階と、
記録面上に定義された個々の画素に、記録面上に定義された所定の参照方向Uに対して、当該画素の基準点Pについて定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付ける画素パターン割付段階と、
各画素に割り付けられた画素パターンに応じた回折格子を、記録媒体上に形成する回折格子形成段階と、
を行うようにしたものである。
【0010】
(2) 本発明の第2の態様は、上述の第1の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
条件設定段階で、記録面に対して直交する基準軸を設定し、この基準軸に平行な方向から見たときに隠面が生じない構造をもった三次元構造体を設定し、交差角ξが、−90°≦ξ≦+90°の範囲となるように設定するようにしたものである。
【0011】
(3) 本発明の第3の態様は、上述の第1または第2の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
方位角定義段階で、方位角θを、θ=k・ξ(ただし、kは1未満の定数)なる式に基づいて定義し、方位角θが交差角ξに対して線形関係を維持するようにしたものである。
【0012】
(4) 本発明の第4の態様は、上述の第1〜第3の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
条件設定段階で、XYZ三次元座標系のXY平面に記録面を設定し、YZ平面に投影面を設定し、Z軸を基準軸に設定し、XYZ三次元座標系上の幾何学立体を三次元構造体として設定し、
標本点定義段階で、標本点QのZ軸方向への投影像が基準点Pとなるように標本点Qを定義し、
交差角決定段階で、法線ベクトルNのX軸方向への投影像が投影ベクトルNとなるように投影ベクトルNを求めるようにしたものである。
【0013】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第1〜第4の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
画素パターン割付段階で、離散的に定義された複数n通りの方位角θを設定し、参照方向Uに対してn通りの方位角θをなす方向を向いた格子線を配置してなる回折格子をそれぞれ有する複数n通りの画素パターンを予め定義し、n通りのうちの第i番目の方位角θiと第(i+1)番目の方位角θ(i+1)について、θi≦θ≦θ(i+1)なる条件を満たす方位角θが定義された画素に対して、「1−(θ−θi)/(θ(i+1)−θi)」なる確率で、第i番目の画素パターンを選択し、「(θ−θi)/(θ(i+1)−θi)」なる確率で、第(i+1)番目の画素パターンを選択し、選択されたいずれか一方の画素パターンを当該画素に割り付けるようにしたものである。
【0014】
(6) 本発明の第6の態様は、上述の第1〜第5の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
条件設定段階で、原画像となる三次元構造体として、表面に階調情報が付与された階調立体画像を設定し、
画素パターン割付段階で、標本点Qのもつ階調情報が、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素に割り付けられる画素パターン上の格子占有領域の面積によって表現されるようにしたものである。
【0015】
(7) 本発明の第7の態様は、上述の第1〜第6の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
条件設定段階で、原画像となる三次元構造体として、表面に色情報が付与されたカラー立体画像を設定し、
画素パターン割付段階で、標本点Qのもつ色情報が、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素に割り付けられる画素パターン上の格子線の配置ピッチによって表現されるようにしたものである。
【0016】
(8) 本発明の第8の態様は、上述の第7の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
画素パターン割付段階で、記録面上の個々の画素に、原画像がもつ複数の色成分のうちのいずれか1成分のみを担当させ、個々の画素に、標本点Qに付与された色情報に関して、「担当する色成分に応じた格子線配置ピッチ」をもった回折格子が「担当する色成分の濃度値に応じた面積」をもった格子占有領域に形成された画素パターンを割り付けるようにしたものである。
【0017】
(9) 本発明の第9の態様は、上述の第7の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
画素パターン割付段階で、記録面上の個々の画素を複数の副画素に分割し、個々の副画素に、原画像がもつ複数の色成分のうちのいずれか1成分のみを担当させ、個々の副画素に、標本点Qに付与された色情報に関して、「担当する色成分に応じた配置ピッチ」をもった回折格子が「担当する色成分の濃度値に応じた面積」をもった格子占有領域に形成された画素パターンを割り付けるようにしたものである。
【0018】
(10) 本発明の第10の態様は、上述の第1〜第5の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
回折格子記録媒体に対して所定方向から白色の再生用照明光を照射し、これを所定の観察方向から観察した場合に、赤色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第1の格子線ピッチと、緑色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第2の格子線ピッチと、青色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第3の格子線ピッチと、を定義し、
画素パターン割付段階で、記録面上の個々の画素を複数の副画素に分割し、個々の画素を構成する副画素を少なくとも3つのグループに分け、第1のグループに所属する副画素には、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を第1の格子線ピッチで配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付け、第2のグループに所属する副画素には、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を第2の格子線ピッチで配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付け、第3のグループに所属する副画素には、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を第3の格子線ピッチで配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付けるようにしたものである。
【0019】
(11) 本発明の第11の態様は、上述の第1〜第5の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
回折格子記録媒体に対して所定方向から白色の再生用照明光を照射し、これを所定の観察方向から観察するという観察条件を複数m通り設定し、
複数m通りの観察条件のそれぞれについて、赤色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第1の格子線ピッチと、緑色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第2の格子線ピッチと、青色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第3の格子線ピッチと、を定義し、
画素パターン割付段階で、記録面上の個々の画素を複数の副画素に分割し、個々の画素を構成する副画素に、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を、定義したいずれかの格子線ピッチで配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付け、複数m通りの観察条件のいずれの条件で観察した場合にも、赤色領域の1次回折光、緑色領域の1次回折光、青色領域の1次回折光が観察方向に生じるようにしたものである。
【0020】
(12) 本発明の第12の態様は、上述の第11の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
第i番目(1≦i≦m)の観察条件について定義された3通りの格子線ピッチと、第j番目(1≦j≦m)の観察条件について定義された3通りの格子線ピッチと、に関して、その一部分について同一の格子線ピッチを重複して定義するようにしたものである。
【0021】
(13) 本発明の第13の態様は、上述の第10〜第12の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
条件設定段階で、原画像となる三次元構造体として、表面に階調情報が付与された階調立体画像を設定し、
画素パターン割付段階で、標本点Qのもつ階調情報が、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素を構成する各副画素に割り付けられる画素パターン上の格子占有領域の面積によって表現されるようにしたものである。
【0022】
(14) 本発明の第14の態様は、上述の第1〜第5の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
条件設定段階で、原画像となる三次元構造体にマッピングするための二次元画像を設定し、
画素パターン割付段階で、二次元画像がマッピングされた領域に位置する標本点Qについては、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素に、格子線が第1の範囲内のピッチで配置された回折格子を有する画素パターンを割り付け、二次元画像がマッピングされていない領域に位置する標本点Qについては、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素に、格子線が第1の範囲とは異なる第2の範囲内のピッチで配置された回折格子を有する画素パターンを割り付けるようにしたものである。
【0023】
(15) 本発明の第15の態様は、上述の第1〜第5の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法において、
条件設定段階で、原画像として、複数n個の三次元構造体を設定し、
画素パターン割付段階で、格子線の配置ピッチとして、複数n通りの範囲内のピッチを定義し、記録面上の個々の画素を複数の副画素に分割し、個々の副画素に、複数n通りの属性のうちのいずれか1つを設定し、第i番目の属性を有する副画素には、第i番目の三次元構造体に基づいて定義された方位角θに応じた方向を向いた格子線を第i番目の範囲内のピッチで配置した画素パターンを割り付けるようにしたものである。
【0024】
(16) 本発明の第16の態様は、上述の第1〜第15の態様に係る立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法における回折格子形成段階以外の各段階の処理を、専用プログラムを組み込んだコンピュータに実行させるようにしたものである。
【0025】
(17) 本発明の第17の態様は、上述の第1〜第15の態様に係る作成方法によって、立体模様が表現された回折格子記録媒体を作成するようにしたものである。
【0026】
(18) 本発明の第18の態様は、立体模様が表現された回折格子パターンのデータを生成する装置において、
オペレータの指示に基づいて、所定の記録面と、所定の基準軸と、この基準軸を含む所定の投影面と、立体模様の原画像となる三次元構造体と、を設定する条件設定部と、
記録面上に、所定面積をもった多数の画素の配列を定義し、個々の画素についてそれぞれ基準点Pを定義する画素定義部と、
三次元構造体の表面上に、記録面への所定方向への投影像が各基準点Pとなるような標本点Qをそれぞれ定義する標本点定義部と、
各標本点Qのそれぞれについて法線ベクトルNを求め、この法線ベクトルNを投影面に対して所定方向に投影して得られる投影ベクトルNと基準軸との交差角ξを求める交差角決定部と、
各基準点Pについて、対応する標本点Qについて求められた交差角ξに応じた方位角θを定義する方位角定義部と、
記録面上に定義された個々の画素に、記録面上に定義された所定の参照方向Uに対して、当該画素の基準点Pについて定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付ける画素パターン割付部と、
各画素に割り付けられた画素パターンに基づいて、記録面上に形成された回折格子パターンのデータを生成するデータ生成部と、
を設けるようにしたものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る方法によれば、三次元構造体を原画像として用い、この原画像を回折格子によって物理的媒体上に記録することができるため、立体模様が表現された回折格子記録媒体を作成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】回折格子記録媒体による表現対象となるモノクロ画像のパターンおよび画素情報の一例を示す図である。
【図2】回折格子記録媒体に用いられる画素パターンの基本構成を示す図である。
【図3】図1に示すモノクロ画像を図2に示す画素パターンを用いて記録した回折格子記録媒体を示す図である。
【図4】図3に示す回折格子記録媒体を作成するための割り付け処理の概念を示す図である。
【図5】格子線配置角度θを変えることにより得られる種々の画素パターンの例を示す図である。
【図6】格子線配置ピッチpを変えることにより得られる種々の画素パターンの例を示す図である。
【図7】回折格子から得られる回折光の観測方向と波長との関係を説明するための図である。
【図8】格子占有領域Vの面積を変えることにより得られる種々の画素パターンの例を示す図である。
【図9】回折格子記録媒体を作成するために用意した各原色RGBごとの画素パターンの一例を示す図である。
【図10】回折格子記録媒体を作成するために利用する画素領域マトリックスの一例を示す図である。
【図11】図10(a) に示す画素領域マトリックスに基づいて、実際に画素パターンを割り付けた状態を示す図である。
【図12】回折格子記録媒体において表現されるもとのカラー階調画像の画素配列および各原色ごとの画素値の一例を示す図である。
【図13】図12に示す各画素値に対して、間引処理を実行した後の状態を示す図である。
【図14】図13に示す間引処理によって残った画素値の配列を示す図である。
【図15】図14に示す画素値配列に基づいて、各画素に所定の画素パターンを割り付けた一例を示す図である。
【図16】図12に示す各画素について、それぞれ3行3列からなる9つの副画素を定義した状態を示す図である。
【図17】図16において定義した各副画素に、所定の画素値を対応づけた状態を示す図である。
【図18】同一の回折格子記録媒体上に2つのカラー階調画像を重複記録するための第1の手法を示す図である。
【図19】同一の回折格子記録媒体上に2つのカラー階調画像を重複記録するための2つの手法の原理を示す図である。
【図20】同一の回折格子記録媒体上に2つのカラー階調画像を重複記録するための第2の手法を示す図である。
【図21】本発明に係る回折格子記録媒体の作成方法の基本手順を示す流れ図である。
【図22】図21に示す流れ図のステップS1におけるXYZ三次元座標系上の設定要素を示す斜視図である。
【図23】図21に示す流れ図のステップS2において定義された画素配列の一例を示す斜視図である。
【図24】図21に示す流れ図のステップS3における標本点Qの定義方法の一例を示す斜視図である。
【図25】図21に示す流れ図のステップS4における交差角ξの決定方法の一例を示す斜視図である。
【図26】図21に示す流れ図のステップS5において定義された方位角θの意味合い示す平面図である。
【図27】図21に示す流れ図のステップS6における割付対象となる画素パターンのバリエーションの一例を示す平面図である。
【図28】白色再生画像を得るために、3行3列からなる9つの副画素を定義し、各副画素に画素パターンを配置した状態を示す平面図である。
【図29】階調をもった白色再生画像を得るために、3行3列からなる9つの副画素を定義し、各副画素に画素パターンを配置した状態を示す平面図である。
【図30】三次元構造体上に二次元画像をマッピングする例を示す正面図である。
【図31】XYZ三次元座標系上に空間的に重複する2種類の三次元構造体を定義した例を示す斜視図である。
【図32】本発明に係る回折格子パターンデータの生成装置の基本構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。本発明は、前掲の特許文献1,2などに開示されている技術、すなわち、回折格子が形成された微細な画素パターンの集合体により二次元原画像上のモチーフを表現する技術を、三次元の原画像にまで拡張する新たな手法を提案するものである。そこで、ここでは便宜上、本発明の説明に入る前に、前掲の特許文献1,2などに開示されている二次元の原画像を用いる例を簡単に説明しておく。以下に述べる§1〜§5は、この公知の従来技術の説明であり、本発明の実施形態の説明は、その後の§6〜§8で行うことにする。
【0030】
<<< §1.モノクロ画像を表現した回折格子記録媒体 >>>
はじめに、前掲の特許文献1(特開平6−337622号公報)に開示されている基本的なモデル、すなわち、図1(a) に示すような比較的単純なモノクロ画像(英文字の「A」を示す)を回折格子記録媒体上に表現する方法について説明する。なお、以下の回折格子記録媒体の作成方法は、コンピュータを用いて実施することを前提としたものであり、これから説明する各処理は、いずれもコンピュータを用いて実行される。
【0031】
まず、図1(a) に示すモノクロ画像に対応する画像データとして、図1(b) に示すようなモノクロ画像の画素情報を用意する。ここに示す例では、7行7列に画素が配列されており、各画素は「0」または「1」のいずれかの画素値をもっており、いわゆる二値画像を示す情報となる。このような情報は、いわゆる「ラスター画像データ」と呼ばれている一般的な画像データであり、通常の作画装置によって作成することができる。あるいは、紙面上に描かれたデザイン画をスキャナ装置によって取り込むことにより、このようなモノクロ画像画素情報を用意してもかまわない。
【0032】
続いて、図2に示すように、所定線幅dの格子線を所定ピッチpおよび所定角度θで所定の格子占有領域V内に配置した画素パターンを定義する。ここで、格子占有領域Vは1つの画素を構成する領域であり、実際には非常に微小な要素になる。別言すれば、図1(a) ,(b) に示した原画像上の7×7の配列における1つ1つの画素に相当した大きさのものになる。この例では、格子占有領域Vとして、縦×横が30μm×25μmの大きさの長方形を用いているが、もちろん、正方形(たとえば、20μm×20μm)や円などの他の形状のものを用いてもよい。
【0033】
この格子占有領域V内に配置される格子線Lの線幅dおよびピッチpも光の波長に準じた微小な寸法をもったものであり、この実施例では、線幅d=0.6μm、ピッチp=1.2μmである。要するに、格子線Lは回折格子としての機能を果たす線幅dおよびピッチpで配置されている必要がある。格子線Lの配置角度θは、所定の参照方向に対して設定された角度である。本明細書では、図示するような方向にX軸およびY軸をとったXY座標系を定義し、X軸を参照方向として格子線Lの配置角度θ(本願では、方位角θと呼んでいる)を表わすことにする。このような画素パターンも、コンピュータ上では画像データとして用意されることになる。なお、この画素パターンの画像データは、「ラスター画像データ」として用意してもよいし(この場合は、モノクロ画像を構成する1つ1つの画素が、更に微小な画素によって表現されることになる)、あるいは、格子線Lを構成する四角形の4頂点の座標値を指定することにより格子線Lの輪郭線を定義した「ベクトル画像データ」として用意してもよい。データ量を抑えるためには、後者の方が好ましい。
【0034】
次に、図1(b) に示すようなモノクロ画像の画素情報における各画素値に基づいて、図2に示すような画素パターンを所定の画素に対応づけ、各画素位置に、対応する画素パターンを割り付ける処理を行う。具体的には、図1(b) に示すモノクロ画像の画素情報において、画素値が「1」である画素のそれぞれに図2の画素パターンを対応づける。画素値が「0」である画素には、画素パターンは対応づけられない。こうして対応づけられた画素位置に、それぞれ画素パターンを配置してゆく。いわば、図1(b) に示す配列を壁に例えれば、この壁の中の「1」と描かれた各領域に、図2に示すようなタイルを1枚ずつ貼り付ける作業を行うことになる。この結果、図3に示すような画像パターンが得られる。この画像パターンが最終的に回折格子記録媒体に記録されるパターンである。図1(a) に示すモノクロ画像がそのまま表現されているが、1つ1つの画素は回折格子で構成されており、回折格子としての視覚的な効果が得られることになる。
【0035】
もっとも、図2に示すような画素パターンを「タイル」として割り付ける処理は、コンピュータ内での画像処理として行われる。この処理は、たとえば、図4に示すように、モノクロ画像全体に対応する画像の左下位置に座標原点Oをとった場合、割り付けるべき画素位置に基づいたオフセット量a,bを演算により求め、画像データとしての割付処理を行えばよい。このような演算処理の結果、図3に示すようなパターンを示す画像データが得られるので、この画像データに基づいて、図3に示すようなパターンをフィルムなどの上に物理的に出力すれば、所望の回折格子記録媒体が作成できることになる。実際には、コンピュータで作成した画像データを電子ビーム描画装置に与え、電子ビームにより図3に示すようなパターンを原版上に描画し、この原版を用いてプレスの手法で回折格子記録媒体(いわゆる「ホログラムシール」)を大量生産することになる。
【0036】
<<< §2.画素パターンの種類 >>>
上述した§1では、図1(a) に示すようなモノクロ画像を表現した回折格子記録媒体を作成するために、図2に示すような単一の画素パターンを割り付ける例を説明した。これに対して、前掲の特許文献2(特開平8−021909号公報)などには、階調画像やカラー画像を記録する手法が開示されている。そのためには、複数種類の画素パターンを用意しておき、これらを選択的に割り付ける手法を採る必要がある。図2に示す画素パターンは、所定の方位角θにより、所定の線幅dをもった格子線Lを、所定のピッチpで、所定の格子占有領域V内に配置したものである。ここで、方位角θ、線幅d、ピッチp、格子占有領域V、といった各パラメータを変えると、それぞれ異なる画素パターンが得られる。
【0037】
たとえば、格子線の方位角θを変えると、図5に示すような種々の画素パターンP1〜P5が得られる。この5種類の画素パターンP1〜P5では、方位角が、θ=0°,30°,60°,90°,120°と5通りに異なっている(実際の格子線は所定の幅をもったものであるが、図示の便宜上、以下の図では格子線を単なる線で示すことにする)。この5種類の画素パターンP1〜P5では、回折光が観測される方向が異なる。すなわち、回折光は、基本的には、格子線の配置方向に対して直角な方向に得られるので、仮に、このような5種類の画素パターンP1〜P5を同一の媒体上に形成したとすると、この媒体を肉眼で観測するときの視線の角度によって、観測される画素パターンが異なることになる。たとえば、ある角度では、画素パターンP1が観測され、別な角度では、画素パターンP2が観測されることになる。もっとも、実際には散乱光も観測されるため、特定の視線角度で特定の画素パターンが完全に観測されなくなることはない。
【0038】
それでは、格子線のピッチpを変えるとどうであろう。たとえば、図6に示すように、ピッチが、p=0.8μm,0.9μm,1.0μm,1.1μm,1.2μmと5通りに異なった5種類の画素パターンP6〜P10を用意してみる。いずれも格子線の方位角はθ=0°と共通である。これらの画素パターンがどのように観測されるかを検討するために、図7の側面図を参照してみる。ここでは、回折格子記録媒体100上に、画素パターンP6〜P10のいずれかが記録されているものとし、この回折格子記録媒体100の垂直上方から白色光を当てながら、この白色光の照射方向に対して角度φだけ傾いた方向から観測を行うものとする。このような回折現象については、
p・sinφ = n・λ
なるブラッグの式が知られている。ここで、pは回折格子のピッチ、φは回折角、λはこの回折角φの方向に得られる回折光の波長、nは回折光の次数である。したがって、観測方向を固定し(φが一定)、1次の回折光(n=1)だけを考慮することにすれば、この固定された観測方向において観測される回折光の波長λは、回折格子のピッチpに基づいて一義的に定まることになる。
【0039】
ここでは、より具体的な数値で考えてみる。たとえば、図7において、φ=30°となるような観測方向から観測する場合を考える。すると、sinφ=1/2となるので、1次回折光についてのn=1の場合に、上述の式は、
p・(1/2) = λ
となる。すなわち、この観測方向においては、回折格子ピッチpの(1/2)の波長をもった1次回折光が観測されることになる。これを図6に示す画素パターンP6〜P10に当てはめてみると、結局、画素パターンP6〜P10からは、それぞれ400nm,450nm,500nm,550nm,600nmの回折光が観測されることになる。 続いて、格子占有領域Vを変えた場合を考えてみる。たとえば、図8に示すように、格子占有領域Vの面積が異なる5種類の画素パターンP11〜P15を用意してみる。いずれも外枠は、この画素パターンを割り付ける対象となる画素の領域を示している。画素パターンP11では、格子占有領域Vの面積が0に設定されているため、この画素パターンを画素に割り付けても、回折格子は全く形成されないことになる。これに対して、画素パターンP15では、格子占有領域Vの面積は外枠の画素の面積と等しく設定されているため、この画素パターンを画素に割り付ければ、画素の領域全域に回折格子が形成されることになる(§1で述べた例では、いずれもこのように画素の領域と格子占有領域Vとを一致させることが前提であった)。画素パターンV12〜V14は、これらの中間段階に対応するものである。
【0040】
この5種類の画素パターンP11〜P15では、格子線の方位角θおよびピッチpは共通であり、回折格子が形成されている領域(格子占有領域V)の面積が異なっているだけである。このような面積の相違は、輝度の相違として観測されることは容易に理解できよう。各画素パターンから得られる回折光の総量は、回折格子が形成されている領域の面積に比例するため、より広い領域に回折格子が形成されている画素パターンほど、その画素パターンから得られる回折光の量は多くなり、輝度が高くなるのである。この他、格子線の線幅dを変えることにより、複数種類の画素パターンを用意してもよい。
【0041】
<<< §3.カラー階調画像を表現した回折格子記録媒体 >>>
続いて、カラー階調画像を表現する手法を説明する。いま、多数の画素から構成される一般的なカラー階調画像(ラスター画像)を考える。このカラー階調画像を構成する個々の画素は、所定の色成分ごとに所定の画素値をもっている。このようなカラー階調画像を回折格子記録媒体上に表現するには、個々の画素の色成分を、回折格子の格子線の配置ピッチにより表現し、個々の画素の画素値成分を、回折格子が形成されている格子占有領域の面積により表現すればよい。
【0042】
この原理をより具体的な例で説明しよう。一般的なカラー階調画像は、三原色の色成分ごとに画素値をもった画素の集合として定義される。以下、R,G,Bという三原色の各色成分ごとに、8ビットの画素値(0〜255)をもたせた画素によって、カラー階調画像が定義されている典型的な例について考える。既に述べたように、図6において、画素パターンP10は波長600μm、画素パターンP8は波長500nm、画素パターンP6は波長400nmの回折光を特定の観測方向(図7における回折角φ=30°の観測方向)に提示する。これらの波長は、R,G,Bなる三原色の各波長にほぼ一致する。したがって、このような観測方向における1次回折光の観測を意図している限りにおいては、Rなる色成分についてはピッチ1.2μmの画素パターンにより表現することができ、Gなる色成分についてはピッチ1.0μmの画素パターンにより表現することができ、Bなる色成分についてはピッチ0.8μmの画素パターンにより表現することができる。
【0043】
一方、8ビットの画素値(0〜255)は、図8に示すように、格子占有領域Vの面積が異なる複数の画素パターンによって表現することができる。すなわち、図8に示す5種類の画素パターンP11〜P15において、外枠となる画素の領域に対する格子占有領域Vの面積比を、それぞれ、(0/255),(64/255),(128/255),(192/255),(255/255)と設定しておけば、これらの画素パターンは、それぞれ画素値0,64,128,192,255に対応することになる。実際には、図8に示す5通りの画素パターンではなく、0〜255に対応した256通りの画素パターンを用意すればよい。もっとも、面積比の異なる何通りの画素パターンを用意すべきかは、表現すべきカラー階調画像の各色成分ごとの階調値の数に応じて適宜設定すればよい。8ビットの階調であれば、この例のように256通り(28通り)を用意する必要があるが、4ビットの階調でよければ、16通り(24通り)を用意するだけですむ。
【0044】
結局、R,G,Bという三原色の各色成分ごとに、8ビットの画素値(0〜255)をもたせた画素によってカラー階調画像を表現するためには、3×256=768通りの画素パターンを用意しておけばよいことになる。図9は、このようにして用意した画素パターンのイメージを示す図である(便宜上、0〜255の256通りの画素値のうちの5通りの画素値についての画素パターンを代表として示してある)。原色R用の画素パターンR0〜R255には、いずれもピッチp=1.2μmで回折格子が形成されており、原色G用の画素パターンG0〜G255には、いずれもピッチp=1.0μmで回折格子が形成されており、原色B用の画素パターンB0〜B255には、いずれもピッチp=0.8μmで回折格子が形成されている。また、各原色用の256通りの画素パターンは、格子占有領域の全画素領域に対する面積比がそれぞれ(0/255)〜(255/255)となっている。
【0045】
このように768通りの画素パターンを用意しておけば、RGBの三原色のうちの任意の色成分についての任意の画素値に対応した画素パターンを提供することができる。なお、この768通りの画素パターンは、いずれも方位角θは同一(この例では、θ=0°)となっている。これは、特定の観測方向から観測した場合に、この768通りの画素パターンのいずれについても回折光が得られる必要があるためである。もっとも、実際には方位角θが多少異なっても、同一の観測方向から回折光が観測できるので、このように同一の観測方向から回折光が観測できるという条件の範囲内で、方位角は多少異なっていてもかまわない。
【0046】
なお、図9に示す例では、いずれも各格子占領領域の左上隅を、各画素の左上隅に揃えて配置しているが、必ずしもこの位置に揃えて配置する必要はなく、右下隅位置を揃えたり、中央に配置したり、自由に配置を設定することができる。
【0047】
三原色からなるカラー階調画像を表示する場合、画像全体に三原色の分布が均一になっていないと自然な表示を行うことができない。そこで、ここに示す例では、図10に示すような画素領域マトリックスを定義し、このマトリックスに従って、各原色用の画素パターンを配置するようにしている。いずれも3行3列からなる画素領域マトリックスであるが、図10(a) に示す画素領域マトリックスでは、1行目に、RGBなる三原色が順番に配置され、2行目以後は、前の行の配置を右方向にずらしている。これに対し、図10(b) に示す画素領域マトリックスでは、2行目以降は、前の行の配置を左方向にずらしている。いずれの画素領域マトリックスを用いても、均一な三原色分布が得られる。
【0048】
このように画素領域マトリックスを定義したら、この画素領域マトリックスを縦横に多数配列することにより多数の画素を形成する。そして、個々の画素の領域内に、この画素領域マトリックスに示されている原色用の画素パターンを配置するようにする。こうすれば、画像全体において、均一な三原色分布が得られることになる。図11は、単一の画素領域マトリックスに対して、それぞれ画素パターンを配置した例である。各画素には、種々の画素パターンが配置されているが、図10(a) に示す画素領域マトリックスの色配列に従った配置がなされている。
【0049】
画素領域マトリックスは、図10に示したものに限定されるものではなく、少なくとも用いる色の数(この例の場合は3)に対応した数の画素をもったマトリックスであれば、どのようなマトリックスを用意してもかまわない。ただし、各色に強弱の差ができないように、単位画素領域マトリックス内における各色の数を等しくするのが好ましく、単位画素領域マトリックス内において、各色が均一に分布しているようなマトリックスにするのが好ましい。図10に示す例では、9つの画素内にRGBのいずれの色も3個ずつ配置されており、かつ、均一に分布している。
【0050】
<<< §4.カラー階調画像を表現した回折格子記録媒体の作成方法 >>>
続いて、カラー階調画像を記録した回折格子記録媒体を作成する具体的な方法についての説明を以下に行う。はじめに、カラー階調画像をラスターデータの形式で用意する。ここでは、図12に示すように、6行6列に配列された36個の画素からなるカラー階調画像を例にとって説明する。実際には、より大きな画素配列をもったカラー階調画像を用いるのが一般的である。このようなカラー階調画像は、グラフィックアプリケーションソフトウエアを用いてコンピュータにより発生させることもできるし、スキャナ装置などを用いて原画をデジタルデータとして入力することにより用意することもできる。
【0051】
図12に示すように、このカラー階調画像を構成する36個の画素は、それぞれ、RGBの三原色についての画素値をもっている。たとえば、1行1列目の画素は、原色Rについての画素値R(1,1)と、原色Gについての画素値G(1,1)と、原色Bについての画素値B(1,1)と、を有し、一般に、i行j列目の画素は、原色Rについての画素値R(i,j)と、原色Gについての画素値G(i,j)と、原色Bについての画素値B(i,j)と、を有する。これらの画素値は、ここに示す例では、いずれも8ビットで表され、0〜255のいずれかの値をもっているものとする。
【0052】
こうして用意した6行6列の原画像上の画素に対応して、画素パターンを割り付ける記録面上にも6行6列に配列された画素を用意する。そして、原画像上のi行j列目の画素と、記録面上のi行j列目の画素とを1対1に対応させ、記録面上の各画素には、対応する原画像上の画素のもつ画素値に基づいて選択された1つの画素パターンを割り付けるのである。ただし、1つの画素は、3つの色成分についてそれぞれ画素値をもっているので、各画素について、3つの色成分のうちの1成分のみを担当させるようにする。担当外の2つの色成分の画素値は、最終的に作成された回折格子記録媒体には反映されないことになる。別言すれば、3つの色成分の画素値情報のうち2つは間引きされることになる。この色成分の間引きは、カラー階調画像の全領域について、担当色として残った色成分の分布が均一になるように行う。図12に示すカラー階調画像に対して、このような間引きを行った一例を図13に示す。二本線で抹消された画素値が担当外として間引きされた色成分であり、残った画素値が担当色として選択された色成分である。この図13に示す担当色の選択は、図10(a) に示す画素領域マトリックスに基づいて、行ったものである。すなわち、図10(a) に示す画素領域マトリックスを縦横に2つずつ配置して6行6列の配列を作り、図12に示す画素配列に対応づけ、各画素について、画素領域マトリックス内に示された色成分を担当色として残すようにしたのである。その結果、図13において抹消されずに残った3つの色成分の分布は均一になっている。
【0053】
このような間引処理を行えば、1つの画素は担当色として選択された色成分についての1つの画素値のみをもつことになる。そこで、この原画像上の6行6列の画素に対応して用意した記録面上の6行6列の画素のそれぞれに、対応する画素のもつ画素値に応じた画素パターンを割り付けるのである。たとえば、図13に示す間引処理の結果、原画像としては図14に示すような6行6列の画素配列が得られるので、図15に示すように、記録面上に6行6列の画素配列を用意し、各画素内に、たとえば、図15に示されているような特定の画素パターンを割り付けるのである。より具体的に説明すれば、図14における1行1列目の画素値R(1,1)=「64」の場合は、図9に示す768通りの画素パターンの中の画素パターンR64を選択し、この画素パターンR64を図15における1行1列目の画素に割り付けることになる。図15は、画素値R(1,1)=「64」、画素値G(1,2)=「192」、画素値B(1,3)=「128」、画素値R(1,4)=「0」、…、といった具体的な場合を例として示したものである。
【0054】
こうして、図15に示す36個の画素のすべてに、それぞれ特定の画素パターンが割り付けられれば、これら個々の画素パターンを合成したパターンが、媒体に記録すべき回折格子パターンとなる。図15に示す各色成分ごとの画素パターンの割り付け態様は、図10(a) に示す画素領域マトリックスに従ったものになっており、各色成分についての画素パターンの分布が均一になっている。このような回折格子パターンを媒体上に形成し、前提となった所定の観測方向から観測すれば、もとのカラー階調画像が観測されることになる。
【0055】
なお、上述した方法(以下、第1の方法と呼ぶ)では、もとのカラー階調画像に用意された画素値のいくつかは間引きされ、最終的に作成された回折格子記録媒体には、もとのカラー階調画像の一部の情報しか反映されないことになり、画質が低下することになる。もとのカラー階調画像がもっていたすべての情報を回折格子記録媒体上に反映し、画質の低下を防ぐためには、次のような別法(以下、第2の方法と呼ぶ)をとることもできる。この第2の方法の場合においても、前述の第1の方法と同様に、原画像として図12に示すような6行6列の画素からなるカラー階調画像が用意されたものとしよう。こうして用意した原画像上の6行6列の画素に対応して、記録面上にも同様に6行6列の画素配列を定義するが、このとき、記録面上の個々の画素をそれぞれ3行3列に配列された副画素に分割する。
【0056】
図16は、このような分割処理後の記録面上の画素配列を示している。実線で示した6行6列の配列は、図12の原画像上の画素配列に対応したものであり、破線で示した3行3列の配列は、1つの画素を分割して得られた9つの副画素の配列を示すものである。結局、図16に示す例の場合、記録面上に36×9個の副画素が定義されたことになる。
【0057】
続いて、この図16に示す個々の副画素に対して、図10(a) に示す画素領域マトリックスを適用して、図12に示す各画素の各色成分ごとの画素値を対応させる。図17は、このような対応づけを行った結果を示す部分拡大図である。たとえば、1行1列目の画素に対応する9つの副画素には、原色Rについての画素値R(1,1)と、原色Gについての画素値G(1,1)と、原色Bについての画素値B(1,1)とが、画素領域マトリックスの色配置に基づいてそれぞれ対応づけられている。3つの原色成分についての画素値は、9つの副画素のいずれかに対応づけられ、間引かれることはない。この後は、各副画素に対応づけられた画素値に基づいて、個々の副画素の内部にそれぞれ特定の画素パターンを割り付ければよい。たとえば、画素値R(1,1)=「64」であれば、図17において、R(1,1)と記された3か所の副画素には、画素パターンR64が割り付けられることになる。
【0058】
この第2の方法によって、前述の第1の方法で作成した回折格子記録媒体と同じ寸法の記録媒体を作成しようとする場合には、第1の方法で定義した1画素の(1/9)の大きさの副画素を定義する必要がある。このため、画素パターンも(1/9)の大きさのものを用意する必要があり、第1の方法と比べて、より微細なパターン形成技術が必要になる。しかしながら、画素値の間引きは行われないため、高画質のカラー階調画像記録が可能になる。
【0059】
<<< §5.複数のカラー階調画像を記録する方法 >>>
§4で述べた例は、単一のカラー階調画像を記録した回折格子記録媒体についてのものであった。ここでは、複数のカラー階調画像を1枚の回折格子記録媒体に重畳して記録するための手法について説明する。
【0060】
§4で述べた例では、図9に示すように、768通りの画素パターンを用意し、これらを適宜選択しながら各画素に割り付けていた。この768通りの画素パターンは、格子線の配置ピッチpや格子占有領域Vの面積がそれぞれ異なるが、格子線の方位角θは一定で、この例の場合、すべての画素パターンについてθ=0°(図の水平方向)に設定されている。
【0061】
複数のカラー階調画像を記録する場合には、各カラー階調画像ごとに、格子線の配置角度が異なった画素パターンを用意すればよい。たとえば、第1のカラー階調画像を記録するために、図9に示すような方位角θ=0°の768通りの画素パターンを用意し、第2のカラー階調画像を記録するために、方位角θ=45°の768通りの画素パターンを用意すれば、第1のカラー階調画像は方位角θ=0°の回折格子を用いて記録され、第2のカラー階調画像は方位角θ=45°の回折格子を用いて記録されることになる。したがって、同一の媒体上に第1のカラー階調画像と第2のカラー階調画像とが重畳して記録されていたとしても、第1の観測方向から観測すれば第1のカラー階調画像が観測され、第2の観測方向から観測すれば第2のカラー階調画像が観測されるようになる。
【0062】
ところで、同一の媒体上に2つのカラー階調画像を重畳して記録するといっても、2つの回折格子自体が重なってしまっては、所期の回折現象を得ることができなくなる。少なくとも格子占有領域は空間的に重ならないように配置しなければならない。このような配置は、たとえば、図18に示すような配置方法を採れば実現できる。この図18に示す例では、3行3列に配列された各画素について、左上部分に第1のカラー階調画像のための格子占有領域(方位角θ=0°)が配置され、右下部分に第2のカラー階調画像のための格子占有領域(方位角θ=45°)が配置されている。いわば、1つの画素内の格子占有領域以外の空領域を有効利用した配置方法である。ただし、この配置方法では、画素値の自由度は若干阻害される。すなわち、2つのカラー階調画像において、同じ位置の画素の同じ色成分の画素値の和が所定値を越えると、左上部分に配置した格子占有領域と右下部分に配置した格子占有領域とが、部分的に重なり合ってしまうために問題が生じる。したがって、このような問題が生じないように、2つのカラー階調画像の各画素の画素値をうまく設定してやる必要がある。
【0063】
別な方法として、2つのカラー階調画像についての画素を完全に別個独立に定義してやる方法がある。すなわち、上述の方法では、図19(a) に示すように、同一の画素領域の左上部分に第1の画像Iを割り当て、右下部分に第2の画像IIを割り当てていたが、この方法では、図19(b) に示すように、1つの画素を4つの副画素(破線で示す)に分割し、左上および右下の副画素には第1のカラー階調画像Iを割り当て、左下および右上の副画素には第2のカラー階調画像IIを割り当てるのである。この場合、もとのカラー階調画像に対して、記録面上には図20に示すような6行6列の副画素の配列が定義され、個々の副画素に所定の画素パターンが割り付けられることになる。ここで、RI,GI,BIと記した副画素には、第1のカラー階調画像Iを表現するための画素パターン(方位角θ=0°)が割り付けられ、RII,GII,BIIと記した副画素には、第2のカラー階調画像IIを表現するための画素パターン(方位角θ=45°)が割り付けられることになる。この方法では、2つのカラー階調画像の各画素の画素値についての制約はないが、回折格子が形成されていない空領域の有効利用ができないため、前述した方法に比べて、全体的な画像の輝度は低下する。
【0064】
<<< §6.本発明に係る回折格子記録媒体の作成方法 >>>
これまで述べてきた従来の回折格子記録媒体の作成方法は、いずれも原画像として、二次元平面画像を用いる例であった。本発明は、この従来の手法を拡張し、原画像として三次元立体画像を用い、立体模様が表現された回折格子記録媒体を作成する新たな手法を提案するものである。もちろん、本発明で作成される回折格子記録媒体は、基本的にはこれまで述べてきた従来の手法で作成された回折格子記録媒体と同様に、記録面上に定義された個々の画素に、所定の回折格子からなる画素パターンを割り付けたものであるから、記録面上には三次元立体画像の光学的干渉縞が形成されているわけではない。別言すれば、本発明に係る方法で作成された回折格子記録媒体は、本来のホログラムではない。したがって、本来のホログラムの原理による三次元立体の再生像が得られるわけではない。しかしながら、以下に述べる手法で回折格子記録媒体を作成すると、原画像となった三次元立体画像の表面形状の情報を、格子線の方位角θとして表現することができるようになるため、原画像の三次元構造に応じた立体的な模様の表現が可能になる。すなわち、ホログラムのような完全な立体像の再生はできないが、原画像の立体的なモチーフを立体模様として疑似的に表現することが可能になる。
【0065】
図21は、本発明に係る回折格子記録媒体の作成方法の基本手順を示す流れ図である。図示のとおり、この手順は、ステップS1:条件設定段階、ステップS2:画素定義段階、ステップS3:標本点定義段階、ステップS4:交差角決定段階、ステップS5:方位角定義段階、ステップS6:画素パターン割付段階、ステップS7:回折格子形成段階によって構成されている。以下、これら各ステップの内容を順次説明する。なお、これら各ステップのうち、ステップS1〜S6はコンピュータを利用して実施される手順である。
【0066】
ステップS1の条件設定段階は、所定の記録面と、所定の基準軸と、この基準軸を含む所定の投影面と、立体模様の原画像となる三次元構造体と、を設定する段階である。ここで、記録面は、回折格子記録媒体に形成すべき回折格子パターンを記録するための面であり、基準軸および投影面は、回折格子の方位角を決定するプロセスで用いる投影像を形成するための要素である。これらの設定は、実際には、コンピュータ上にXYZ三次元座標系を定義することによって行うことができる。
【0067】
図22は、このXYZ三次元座標系上の設定要素を示す斜視図である。図示のとおり、この例の場合、XY平面上に記録面Sxyが設定され、YZ平面上に投影面Syzが設定され、Z軸が基準軸Rに設定されている。もちろん、記録面Sxyおよび投影面Syzは、必ずしもこのような位置に設定する必要はないが、実用上は、三次元直交座標系上における2軸を含む面として設定し、かつ、両者が直交するような設定を行うのが好ましい。また、このXYZ三次元座標系上に、立体模様の原画像となる三次元構造体Mが設定されている。この三次元構造体Mは、たとえば、多数のポリゴンからなる構造体として定義することができ、コンピュータ上では、これら各ポリゴンを示すデータ(たとえば、各ポリゴンの頂点座標を示すデータ)として取り扱うことができる。もっとも、単純な幾何学立体を三次元構造体Mとして定義するのであれば、単純な式によって立体形状を表現することも可能である。また、複雑な形状を有する三次元構造体Mについては、パラメトリック曲面による表現を用いて定義することもできる。
【0068】
続いて、ステップS2の画素定義段階では、記録面上に、所定面積をもった多数の画素の配列が定義され、更に、個々の画素についてそれぞれ基準点Pが定義される。図23は、XYZ三次元座標系のXY平面上に設定された記録面Sxy上に、矩形状の画素配列を定義した例を示す斜視図である。個々の画素は、X軸およびY軸に沿った行列上に配列されている。後述するように、この1つの画素内には、図2に示すような画素パターン(回折格子が形成されたパターン)が割り付けられることになる。なお、図2の平面図では、X軸が横方向の軸となっているのに対して、図23の斜視図では、Y軸が横方向の軸となっているため、図2に示す画素パターンが若干縦長の形状をしているのに対して、図23に示す記録面Sxy上の個々の画素は、若干横長の形状をしている。ここでは、図23において、i行j列目に位置する画素を画素A(i,j)と呼ぶことにする。
【0069】
このステップS2で定義される個々の画素は、実際には非常に微小な要素になり、この例では、Y軸方向の幅が30μm×X軸方向の幅が25μmとなっている。もちろん、個々の画素として、正方形(たとえば、20μm×20μm)や円などの他の形状のものを用いてもよい。実用上は、肉眼で個々の画素を認識できないようにするため、1つの画素の縦および横の寸法は、20μm×20μm以下にするのが好ましい。
【0070】
また、図示の実施形態の場合、個々の画素の中心位置に基準点Pを定義している。たとえば、画素A(i,j)に対しては、基準点P(x,y,0)が定義されている。基準点Pは、個々の画素の代表位置を示すためのものであり、図示の基準点P(x,y,0)は、画素A(i,j)の代表位置の座標値が(x,y,0)であることを示している。なお、基準点Pは、必ずしも画素の中心位置に定義する必要はなく、たとえば、各画素の左上角の位置を基準点とするような定義も可能である。
【0071】
続くステップS3の標本点定義段階では、三次元構造体Mの表面上に、個々の画素の基準点Pに対応した標本点Qが定義される。ここで、標本点Qは、三次元構造体Mの表面上の点であって、かつ、記録面Sxyへの所定方向への投影像が各基準点Pとなるような点として定義される。
【0072】
図24は、このステップS3で行われる標本点Qの定義方法の一例を示す斜視図である。図示の例では、画素A(i,j)の基準点P(x,y,0)に対して、標本点Q(x,y,z)が定義されている。標本点Q(x,y,z)は、三次元構造体Mの表面上の1点であり、かつ、記録面Sxyへの所定方向への投影像が基準点P(x,y,0)となるような点である。ここに示す実施形態は、記録面Sxyに対する投影方向としてZ軸方向を設定しているので、標本点Q(x,y,z)をZ軸方向に投影したときに記録面Sxy上に現れる投影像が基準点P(x,y,0)ということになる。
【0073】
このように、記録面Sxyに対する投影方向としてZ軸方向を設定すると、記録面Sxy上の任意の基準点P(x,y,0)に対応する標本点Q(x,y,z)は、幾何学的な演算により容易に決定することができる。すなわち、基準点P(x,y,0)を通り、Z軸に平行な直線を定義し、当該直線と三次元構造体Mの表面との交点を標本点Q(x,y,z)とすればよい。なお、そのような交点が複数存在する場合には、たとえば、記録面Sxyに最も近い交点(あるいは、最も遠い交点でもよい)を標本点Qとするように予め決めておけばよい。
【0074】
次のステップS4の交差角決定段階では、各標本点Qのそれぞれについて法線ベクトルNを求め、この法線ベクトルNを投影面Syzに対して所定方向に投影して得られる投影ベクトルNと基準軸Rとの交差角ξが求められる。図25は、交差角ξの決定方法の一例を示す斜視図である。図25に示す例では、標本点Q(x,y,z)についての法線ベクトルNが示されている。この法線ベクトルNは、標本点Q付近の微小面(三次元構造体Mの表面の一部を構成する面)に対して垂直外側に向かうベクトルとして定義できる。このように、三次元構造体M上の1点についての法線ベクトルを求める手法は公知の手法であるため、ここでは詳しい説明は省略する。
【0075】
この法線ベクトルNは、その各座標軸方向成分(nx,ny,nz)によって表現することができる。ここに示す実施形態では、YZ平面を投影面Syzとし、法線ベクトルNのX軸方向への投影像が投影ベクトルNとなるように投影ベクトルNを求めることにしているため、この法線ベクトルNをX軸に沿ってYZ平面に投影した投影像が、投影ベクトルNとして得られることになる。図示のとおり、投影ベクトルNは、標本点Q(x,y,z)を投影面Syz(YZ平面)に投影して得られる投影点Q(0,y,z)を起点とし、投影面Syzに含まれるベクトルであり、いわば、法線ベクトルNのY軸方向成分およびZ軸方向成分の情報のみをもったベクトルということができる。
【0076】
ここに示す実施形態では、Z軸を基準軸Rとしているため、この投影ベクトルNとZ軸とのなす角が交差角ξとして得られることになる。なお、交差角ξは符号をもった角度として定義するようする。たとえば、図25に示すように、二次元YZ座標系において、投影ベクトルNがZ軸を時計回りに回転した方向を向いている場合には交差角ξは正の値をとり、反時計回りに回転した方向を向いている場合には交差角ξは負の値をとるように定義する。こうして求められた交差角ξは、法線ベクトルNのY軸方向成分とZ軸方向成分との符号を考慮した割合を示す情報をもった量ということができ、標本点Q付近の微小面の傾斜に関する情報が含まれていることになる。この場合、交差角ξは、−180°≦ξ≦+180°の範囲内の角度として定義される。
【0077】
続くステップS5の方位角定義段階では、記録面Sxy上の各基準点Pについて、対応する標本点Qについて求められた交差角ξに応じた方位角θが定義される。図25に示す例の場合、基準点P(x,y,0)について、対応する標本点Q(x,y,z)について求められた交差角ξに応じて、所定の方位角θが定義されることになる。ここに示す実施形態場合は、方位角θを、θ=ξ/2なる関係式で定義するようにしている。したがって、たとえば、ξ=70°であった場合は、方位角θ=35°となり、ξ=−50°であった場合は、方位角θ=−25°となる。
【0078】
図25には1つの基準点P(x,y,0)しか示されていないが、もちろん、記録面Sxy上には、図24に示すように多数の画素が定義されており、個々の画素のそれぞれについて所定の基準点Pが定義されており、これら個々の基準点Pについて、それぞれ対応する標本点Qが求められ、この標本点Qについて求められた交差角ξに応じた方位角θがそれぞれ定義されることになる。
【0079】
なお、方位角θは、投影ベクトルNについて求められた交差角ξに関連した角度として定義できれば、どのような定義を行ってもかまわないが、三次元構造体Mの立体形状をできるだけ正確に表現する上では、方位角θが交差角ξに対して線形関係を維持するように設定するのが好ましい。具体的には、θ=k・ξ(ただし、kは1未満の定数)なる式に基づいて方位角θを定義すれば、方位角θの絶対値が交差角ξの絶対値より大きくなることはないので、取り扱い上便利である。上述したとおり、ここでは、k=1/2に設定し、θ=ξ/2なる式により方位角θを定義した例について述べることにする。
【0080】
図26は、こうして定義された方位角θの意味合いを示す平面図である。図26の点P(x,y,0)は、図25に示す基準点P(x,y,0)である。図示のとおり、基準点P(x,y,0)上には、方位ベクトルWが求められているが、この方位ベクトルWは、所定の参照方向Uに対して方位角θをなす方向を向いた記録面Sxy上のベクトルとして定義されるものである。上述したように、ここに述べる例では、方位角θは、θ=ξ/2なる式により定義される。そこで、参照方向UとしてX軸正方向をとったとすれば、図26に示すような方向ベクトルWが、投影点P(x,y,0)について定義されることになる。参照方向Uは、最終的に形成される格子線の向きの基準を決めるパラメータとして機能するだけであり、記録面Sxy上の方向であれば、どのような方向に定義しても実質的な差はない。
【0081】
結局、図24に示す1つの画素A(i,j)について、その代表位置を示す基準点P(x,y,0)が定義され、図25に示すように、この基準点P(x,y,0)に対応する標本点Q(x,y,z)が求められ、この標本点Q(x,y,z)の位置に立てた法線ベクトルNの投影像である投影ベクトルNに基づいて交差角ξが求められ、この交差角ξに基づいて方位角θが得られることになる。結局、図24に示す多数の画素のそれぞれについて、所定の方位ベクトルWが決定されることになる。この方位ベクトルWは、個々の画素に割り付けるべき画素パターン上の格子線の配置方向を示すパラメータとなる。
【0082】
前述したように、交差角ξを、−180°≦ξ≦+180°の範囲内の角度として定義し、方位角θをθ=ξ/2なる式により定義すると、得られる方位角θは、−90°≦ξ≦+90°の範囲内の角度となる。図27は、個々の画素に割り付けるべき画素パターンのバリエーションの一例を示す平面図である。たとえば、図27に「θ=30°」と記した画素パターンは、格子線の配置角度(方位角)がX軸に対して+30°だけ傾斜している回折格子からなるパターンである。図27には代表的ないくつかの方位角θに対応する画素パターンのみしか示されていないが、もちろん実際には、必要に応じたバリエーションの画素パターンが用意されることになる。
【0083】
ステップS6の画素パターン割付段階では、記録面Sxy上に定義された個々の画素に、当該画素の基準点Pについて定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を配置してなる回折格子を有する画素パターンが割り付けられる。すなわち、図24に示すように、記録面Sxy上に定義された多数の画素のそれぞれについて、図27に示すような多数のバリエーションからなる画素パターンのいずれかが割り付けられる。その結果、記録面Sxy上には、多数の画素パターンの集合体が形成されることになる。
【0084】
最後のステップS7における回折格子形成段階では、各画素に割り付けられた画素パターンに応じた回折格子が、物理的な記録媒体上に形成される。前述したとおり、図21の流れ図におけるステップS1〜S6はコンピュータによって実行される手順であり、最後のステップS7の処理は、コンピュータから出力される回折格子パターンデータに基づいて、フィルムなどの物理的な記録媒体上に回折格子を形成する処理ということになる。具体的には、たとえば、コンピュータで作成した回折格子パターンデータを電子ビーム描画装置に与え、電子ビームにより回折格子のパターンを原版上に描画し、この原版を用いてプレスの手法で回折格子記録媒体(いわゆる「ホログラムシール」)を大量生産することができる。
【0085】
結局、§1〜§5で述べた従来の手法で作成された回折格子記録媒体も、この§6で述べた方法で作成された回折格子記録媒体も、多数の画素に、それぞれ回折格子からなる画素パターンを割り付けた構成という点では共通するが、前者では、回折格子記録媒体上の個々の画素に割り付けられる画素パターンが、二次元平面上の原画像の個々の画素の濃度値を表現する機能を有していたのに対して、後者では、回折格子記録媒体上の個々の画素に割り付けられる画素パターンが、三次元構造体Mの対応部分の表面の微小面の傾斜に関する情報を表現する機能を有していることになる。その結果、後者を観察した場合、原画像となった三次元構造体Mをモチーフとした立体模様が観察されることになる。
【0086】
要するに、本発明に係る手法では、三次元構造体Mの表面各部の傾斜に関する情報が記録面に投影され、回折格子の格子線の方位角θとして表現されることになるため、立体模様の再現が可能になるものと本願発明者は考えている。もちろん、実際に観察される内容は、ホログラムのような本来の立体像ではなく、立体感を感じさせる模様が再現されるだけであるが、本来のホログラムに比べて、より明るく、微細表現に富んだ鮮明な画像が得られるというメリットがあり、偽造防止用、装飾用、販売促進用といった用途のホログラムシールなどに用いるには十分な実用性が得られる。
【0087】
<<< §7.本発明の種々の実施形態 >>>
続いて、本発明を実施する上での種々の変形例に係る実施形態を述べておく。
【0088】
(1)三次元構造体Mの形状
これまで述べた基本的な実施形態では、三次元構造体Mの形状については特に限定を行わなかったが、図24の斜視図に示されているように、1つの基準点P(x,y,0)に対しては、ただ1点の標本点Qのみが定義される。具体的には、記録面Sxy上の任意の基準点P(x,y,0)に対応する標本点Q(x,y,z)は、基準点P(x,y,0)を通り、Z軸に平行な直線を定義し、当該直線と三次元構造体Mの表面との交点として定義される。そのような交点が複数存在する場合には、たとえば、記録面Sxyに最も近い交点や、最も遠い交点などを選択することになる。したがって、もし交点が複数存在する場合に、記録面Sxyに最も近い交点を標本点Qとする運用を採る場合、記録面Sxy側から見て隠面となる部分は、たとえ三次元構造体Mの表面情報が定義されていたとしても用をなさないことになる。
【0089】
したがって、実用上は、ステップS1の条件設定段階で、記録面Sxyに対して直交する基準軸R(図24に示す例の場合、Z軸)を設定し、この基準軸Rに平行な方向から見たときに隠面が生じない構造をもった三次元構造体Mを設定するのが好ましい。また、この場合、交差角ξが、−90°≦ξ≦+90°の範囲となるように設定すると、方位角θの範囲をより限定することができるので好ましい。交差角ξは、図25に示す例の場合、Z軸正方向と投影ベクトルNとのなす角度として、時計回り方向を正、反時計回り方向を負とする定義を行っている。したがって、三次元構造体Mとして、たとえば、上に凸の半球状の構造体(厚みがない伏せた椀状構造体)を用いれば、交差角ξは、−90°≦ξ≦+90°の範囲となる。この場合、方位角θ=ξ/2なる設定を行えば、方位角θの分布範囲は、−45°≦θ≦+45°の範囲となる。
【0090】
実用上は、このように方位角θの分布範囲を90°程度の範囲内に抑えるようにするのが好ましい。図27に示す例では、−90°≦θ≦+90°の範囲、すなわち、方位角θの分布範囲が180°の範囲内に広がっているが、実際には、これだけの範囲に方位角θが分布していると、回折格子記録媒体を一方向から観察すると、多くの画素パターンからの回折光が視点位置に到達しないことになり、画面全体の輝度が低下してしまう。方位角θの分布範囲を−45°≦θ≦+45°程度に抑えると、回折格子記録媒体を一方向から観察しても、比較的多くの画素パターンからの回折光が視点位置まで到達することになり、比較的明るい画像が再現される。
【0091】
(2)離散的な方位角設定
ステップS5の方位角定義段階では、理論上、様々な方位角が定義される。たとえば、
方位角θ=ξ/2なる設定を行った場合、ステップS4で求められた交差角ξが、ξ=62.5°だったとすると、ステップS5で求まる方位角θは、θ=31.25°になる。この場合、ステップS6の画素パターン割付段階では、方位角θ=31.25°をもった回折格子を有する画素パターンをそのまま割り付けることは可能である。上述したとおり、ステップS6までの手順は、コンピュータ上の演算処理として実行される手順であるので、方位角θの値は、コンピュータが取り扱うことが可能な有効桁数の範囲内で、任意の値を用いることができる。
【0092】
しかしながら、ステップS7の回折格子形成段階は、物理的な媒体上に実際に回折格子を形成する段階であり、たとえば、「方位角θ=31.25°をもった回折格子」のように、任意の方位角をもった回折格子をそのまま正確に形成することが困難なケースも少なくない。形成すべき回折格子のピッチは1μm前後のオーダーであるため、通常は、電子線描画装置を用いた描画により、物理的な媒体上に回折格子を形成するプロセスが実行される。ところが、この電子線描画装置の描画解像度には限度があるため、「方位角θ=31.25°をもった回折格子」のような任意の方位角をもった回折格子を正確に形成することは困難である。
【0093】
このため、実際には、ステップS6の画素パターン割付段階では、離散的に定義された複数n通りの方位角θを設定し、参照方向Uに対してこのn通りの方位角θをなす方向を向いた格子線を配置してなる回折格子をそれぞれ有する複数n通りの画素パターンを予め定義しておき、これらn通りの画素パターンの中から、個々の画素に最適な画素パターンを選択して割り付ける処理を行わざるを得ない。たとえば、方位角θの分布範囲が、−45°≦θ≦+45°の範囲となる場合、1°単位で離散的な方位角θを設定すれば、−45°,−44°,−43°,…,−2°,−1°,0°,1°,2°,…,43°,44°,45°の合計91通りの方位角を設定し、合計91通りの画素パターンのいずれかを割り付ける処理を行うことになる。
【0094】
このように、離散的に定義された方位角をもったいくつかの画素パターンを選択的に割り付ける場合、ステップS5で定義された方位角θが2つの隣接する離散値の間の値をとるときには、隣接する両離散値に対応する画素パターンを確率的に選択する手法をとるとよい。
【0095】
たとえば、ステップS5でθ=31.25°なる方位角が定義された場合、2つの隣接する離散値は、θ=31°とθ=32°であるから、方位角θ=31°をもつ回折格子を有する第1の画素パターンか、方位角θ=32°をもつ回折格子を有する第2の画素パターンか、のいずれか一方を選択して割り付けることになる。この場合、「1つの画素に対する最適割付」という観点では、より近い方の離散値θ=31°に着目し、方位角θ=31°をもつ回折格子を有する第1の画素パターンを選択して割り付ければよい。しかしながら、よりマクロ的な見地に立つと、ステップS5でθ=31.25°なる方位角が定義された画素が100個存在したとすると、この100個すべてに第1の画素パターンを割り付けるのは好ましくない。この場合、θ=31.25°と方位角θ=31°との偏差が0.25°であり、θ=31.25°と方位角θ=32°との偏差が0.75°であるから、100個の画素のうち、75個については第1の画素パターンを割り付け、残りの25個については第2の画素パターンを割り付けるようにすれば、端数の「0.25°」の部分を反映させた割り付けを行うことができる。
【0096】
結局、一般論として述べれば、ステップS6の画素パターン割付段階で、離散的に定義された複数n通りの方位角θを設定し、参照方向Uに対してこのn通りの方位角θをなす方向を向いた格子線を配置してなる回折格子をそれぞれ有する複数n通りの画素パターンを予め定義しておき、これらn通りの画素パターンの中から、個々の画素に最適な画素パターンを選択して割り付ける処理を行う場合、次のような方法で、割付対象となる画素パターンを選択すればよい。
【0097】
すなわち、n通りのうちの第i番目の方位角θiと第(i+1)番目の方位角θ(i+1)について、θi≦θ≦θ(i+1)なる条件を満たす方位角θがステップS6で定義された画素に対しては、「1−(θ−θi)/(θ(i+1)−θi)」なる確率で、第i番目の画素パターンを選択し、「(θ−θi)/(θ(i+1)−θi)」なる確率で、第(i+1)番目の画素パターンを選択し、選択されたいずれか一方の画素パターンを当該画素に割り付けるようにすればよい。この場合、θ=θiであったとすると、確率1で第i番目の画素パターンが選択され、θ=θ(i+1)であったとすると、確率1で第(i+1)番目の画素パターンが選択されることになり、両者の中間的な値であったとすると、その位置に応じた確率で、第i番目の画素パターンもしくは第(i+1)番目の画素パターンが選択されることになる。
【0098】
(3)階調画像・カラー画像への対応
§6で説明した基本的な実施形態では、個々の画素に割り付けられる画素パターンを決定する要因は、原画像となる三次元構造体Mの表面の傾斜の情報のみであった。別言すれば、上述した基本的な実施形態では、三次元構造体Mの表面の傾斜の情報は、記録面Sxy上において回折格子の方位角θ、すなわち、格子線の配置方向という形で表現されることになるが、三次元構造体Mの表面がもつ階調値や色の情報は、記録面Sxy上の回折格子としては表現されることはなかった。
【0099】
しかしながら、§2で述べたとおり、記録面Sxy上の個々の画素に割り付ける画素パターンには、様々なバリエーションがあり、これらのバリエーションを利用すれば、本発明の手法を階調画像・カラー画像へ対応させることが可能である。本発明に係る手法では、画素パターンにおける格子線の配置角度は、方位角θとして規定されてしまい、これを任意に設定することはできない。これは、本発明の場合、格子線の配置角度によって、原画像となる三次元構造体Mの表面の傾斜の情報を表現しているためである。しかし、格子線の配置ピッチや、格子占有領域の面積は、原画像となる三次元構造体Mの表面の傾斜の情報とは無関係であるため、任意に設定することが可能である。図6に示す画素パターンのバリエーションで述べたとおり、格子線の配置ピッチを変えることにより、色の表現が可能になり、図8に示す画素パターンのバリエーションで述べたとおり、画素の全領域に対する格子占有領域Vを変えることにより、階調表現(観察時の輝度の変化)が可能になる。
【0100】
そこで、ステップS1の条件設定段階で、原画像となる三次元構造体Mとして、表面に階調情報が付与された階調立体画像を設定するようにし、ステップS6の画素パターン割付段階で、標本点Qのもつ階調情報が、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素に割り付けられる画素パターン上の格子占有領域の面積によって表現されるようにすれば、本発明に係る手法を階調画像に適用させることが可能になる。たとえば、図25に示す例において、基準点P(x,y,0)に位置する画素に割り付けられる画素パターンは、標本点Qのもつ階調値に応じた面積をもった格子占有領域内に、方位角θ=ξ/2の向きに格子線を配置した画素パターンということになる。
【0101】
同様に、ステップS1の条件設定段階で、原画像となる三次元構造体Mとして、表面に色情報が付与されたカラー立体画像を設定するようにし、ステップS6の画素パターン割付段階で、標本点Qのもつ色情報が、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素に割り付けられる画素パターン上の格子線の配置ピッチによって表現されるようにすれば、本発明に係る手法をカラー画像に適用させることが可能になる。たとえば、図25に示す例において、基準点P(x,y,0)に位置する画素に割り付けられる画素パターンは、標本点Qのもつ色情報に応じた配置ピッチで、方位角θ=ξ/2の向きに格子線を配置した画素パターンということになる。
【0102】
もっとも、§3で述べたように、カラー画像における色表現は、通常、R,G,Bなどの複数の色成分によってなされる。この場合、Rなる色成分についてはピッチ1.2μmの画素パターンにより表現することができ、Gなる色成分についてはピッチ1.0μmの画素パターンにより表現することができ、Bなる色成分についてはピッチ0.8μmの画素パターンにより表現することができる。しかしながら、1つの画素パターン内には、回折格子を構成する必要上、同一ピッチで格子線を配置せざるを得ないので、1つの画素パターンでは1つの色表現しか行うことができない。§4では、これに対する対処法として2通りの方法を説明した。本発明に係る手法においても、この2通りの方法が有効である。
【0103】
第1の方法は、図13に示すように、記録面上に定義された個々の画素について、三原色R,G,Bのうちのいずれか1つの色成分のみを担当させ、担当外の色成分についての情報を間引きする方法である。この第1の方法を採る場合には、ステップS6の画素パターン割付段階で、記録面Sxy上の個々の画素に、原画像Mがもつ複数の色成分のうちのいずれか1成分のみを担当させ、個々の画素に、標本点Qに付与された色情報に関して、「担当する色成分に応じた格子線配置ピッチ」をもった回折格子が「担当する色成分の濃度値に応じた面積」をもった格子占有領域に形成された画素パターンを割り付けるようにすればよい。もちろん、このときの画素パターンの格子線の配置方向は、ステップS5で定義された方位角θが示す方向になる。
【0104】
たとえば、図25に示す例において、基準点P(x,y,0)に位置する画素に割り付けられる画素パターンは、標本点Qのもつ三原色R,G,Bのうちの当該画素が担当する色成分の濃度値に応じた面積をもつ格子占有領域内に、担当する色成分に応じた配置ピッチで、方位角θ=ξ/2の向きに格子線を配置した画素パターンということになる。
【0105】
一方、第2の方法は、図17に示すように、記録面上に定義された個々の画素を複数の副画素に分割し、個々の副画素にそれぞれ異なる画素パターンを割り付ける方法である。この第1の方法を採る場合には、ステップS6の画素パターン割付段階で、記録面Sxy上の個々の画素を複数の副画素に分割し、個々の副画素に、原画像Mがもつ複数の色成分のうちのいずれか1成分のみを担当させ、個々の副画素に、標本点Qに付与された色情報に関して、「担当する色成分に応じた配置ピッチ」をもった回折格子が「担当する色成分の濃度値に応じた面積」をもった格子占有領域に形成された画素パターンを割り付けるようにすればよい。もちろん、このときの画素パターンの格子線の配置方向は、ステップS5で定義された方位角θが示す方向になる。
【0106】
たとえば、図25に示す例において、基準点P(x,y,0)に位置する画素は、合計9個の副画素に分割される。ここで、この9個の副画素のうちの3つは色成分Rを担当し、他の3つは色成分Gを担当し、残りの3つは色成分Bを担当することになる。たとえば、色成分Rを担当することになった副画素に割り付けられる画素パターンは、標本点Qのもつ三原色R,G,Bのうちの担当する色成分Rの濃度値に応じた面積をもつ格子占有領域内に、担当する色成分Rに応じた配置ピッチで、方位角θ=ξ/2の向きに格子線を配置した画素パターンということになる。
【0107】
(4)白色再生画像が得られる媒体への適用
商業的に利用される回折格子記録媒体では、意匠的な見地から、白色の再生画像が得られる記録媒体の需要も少なくない。本発明は、このような白色再生画像が得られる回折格子記録媒体を作成する場合にも適用可能である。
【0108】
§2で述べたとおり、図7に示すような照明環境において、φ=30°となるような観察方向から観察する場合、1次回折光についてのブラッグの式は、
p・(1/2) = λ
となる。ここで、pは回折格子のピッチ、λは回折角φの方向に得られる回折光の波長である。日常生活では、ほぼ白色に近い照明環境で回折格子記録媒体の観察が行われるのが一般的なので、図7において、上方から照射されている照明光が白色光であると考えれば、格子線ピッチp=1.2μmの回折格子の場合、λ=0.6μm(赤色領域)の光が観察され、格子線ピッチp=1.0μmの回折格子の場合、λ=0.5μm(緑色領域)の光が観察され、格子線ピッチp=0.8μmの回折格子の場合、λ=0.4μm(青色領域)の光が観察されることになる点は、これまでも述べたとおりである。
【0109】
人間の眼は、赤色・緑色・青色の三原色の光を混合して観察したときに、これを白色として認識する性質をもっているので、上記3通りの格子線ピッチをもった回折格子を有する3通りの画素パターンを配置した記録媒体を作成し、これを図7に示す観察条件下(φ=30°)で観察すれば、白色再生画像が得られることになる。実用上は、観察条件が若干異なっていたとしても、全体的に白っぽい再生画像が得られる。そこで、1つの画素を複数の副画素に分割し、この複数の副画素に、それぞれ3通りの画素パターンを配置するようにすれば、白色再生画像が得られる媒体を作成することができる。
【0110】
たとえば、図24に示す例の場合、XY平面上に定義された1つの画素A(i,j)に割り付けられる画素パターンの回折格子は、格子線の向きが方位角θ(基準点P(x,y,0)について定義された方位角)と定められるが、格子線ピッチは任意に設定することができる。
【0111】
そこで、この1つの画素A(i,j)を図28(a) に示すように、3行3列のマトリックス状に配置された合計9個の副画素に分割する。そして、このマトリックスにおける第1行第1列目、第2行第2列目、第3行第3列目の副画素を第1のグループに所属する副画素R(i,j)とし、第1行第2列目、第2行第3列目、第3行第1列目の副画素を第2のグループに所属する副画素G(i,j)とし、第1行第3列目、第2行第1列目、第3行第2列目の副画素を第3のグループに所属する副画素B(i,j)とする。ここで、第1のグループに所属する副画素R(i,j)内には、赤色領域の光が再生されるように、格子線ピッチp=1.2μmの回折格子を有する画素パターンを割り付け、第2のグループに所属する副画素G(i,j)内には、緑色領域の光が再生されるように、格子線ピッチp=1.0μmの回折格子を有する画素パターンを割り付け、第3のグループに所属する副画素B(i,j)内には、青色領域の光が再生されるように、格子線ピッチp=0.8μmの回折格子を有する画素パターンを割り付けるようにすれば、9個の各副画素には、図28(b) に示すような画素パターンの割り付けが行われることになる。
【0112】
この図28(b) に示す9個の副画素は、全体として、図24に示す1画素A(i,j)を構成するものであり、各副画素内に形成されている回折格子の格子線の向きは、基準点P(x,y,0)について定義された方位角θとなっている。ただ、格子線ピッチが、所定の照明環境下において所定の観察方向に対して、三原色R,G,Bの再生光を生じさせるピッチとなっているため、この画素A(i,j)は全体として白色の画素として観察されることになる。なお、各グループに所属する副画素の配置は、必ずしも図28(a) に示すとおりの配置にする必要はないが、人間の眼で観察したときに、1つの画素が全体的に白色の画素として観察できるようにするためには、各グループの副画素が、できるだけバラバラに離散的に配置されるように考慮するのが好ましい。
【0113】
結局、一般論として説明すれば、本発明を白色再生画像が得られる媒体へ適用するためには、まず、回折格子記録媒体に対して所定方向から白色の再生用照明光を照射し、これを所定の観察方向から観察する標準的な観察環境(たとえば、図7において、φ=30°とする観察環境)を設定し、このような標準的な観察環境において、赤色領域の1次回折光を前記観察方向へ生じさせる第1の格子線ピッチと、緑色領域の1次回折光を前記観察方向へ生じさせる第2の格子線ピッチと、青色領域の1次回折光を前記観察方向へ生じさせる第3の格子線ピッチと、を定める。上述の具体例の場合は、第1の格子線ピッチが1.2μm、第2の格子線ピッチが1.0μm、第3の格子線ピッチが0.8μmに設定されている。
【0114】
一方、画素パターン割付段階では、記録面上の個々の画素を複数の副画素に分割し、個々の画素を構成する副画素をそれぞれ3つのグループに分け、第1のグループに所属する副画素には、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を前記第1の格子線ピッチで配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付け、第2のグループに所属する副画素には、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を前記第2の格子線ピッチで配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付け、第3のグループに所属する副画素には、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を前記第3の格子線ピッチで配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付けるようにすればよい。
【0115】
もちろん、本発明は、階調をもった白色再生画像が得られる媒体へも適用可能である。この場合は、条件設定段階で、原画像となる三次元構造体として、表面に階調情報が付与された階調立体画像を設定し、画素パターン割付段階で、標本点Qのもつ階調情報が、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素を構成する各副画素に割り付けられる画素パターン上の格子占有領域の面積によって表現されるようにすればよい。
【0116】
たとえば、ある1つの画素A(i,j)についての標本点Qのもつ階調値が100%の場合は、図28(b) に示すような画素パターンの割り付けを行えばよいが、階調値が70%の場合は、図29(a) に示すような画素パターンの割り付けを行い、階調値が50%の場合は、図29(b) に示すような画素パターンの割り付けを行えばよい。図29(a) の場合、いずれの副画素にも、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線(そのピッチは前述した3通り)が配置されているが、画素パターン上の格子占有領域の面積は、副画素の全面積の70%となっている。同様に、図29(b) の場合、画素パターン上の格子占有領域の面積は、副画素の全面積の50%となっている。
【0117】
この場合、1つの画素A(i,j)を構成する合計9個の副画素についての格子占有領域の面積は等しいため、当該1つの画素A(i,j)全体は白色の画素として観察されることになる。しかしながら、隣接画素A(i,j+1)を構成する合計9個の副画素についての格子占有領域の面積は、画素A(i,j)を構成する合計9個の副画素についての格子占有領域の面積とは異なるため、隣接する画素間に濃淡の差が観察されることになり、再生画像全体としては、階調をもった白色再生画像が観察される。
【0118】
なお、1つの画素を構成する副画素の配列は、必ずしも3行3列のマトリックスにする必要はない。たとえば、6行6列のマトリックスでもかまわない。また、1つの画素を構成する副画素の数は、必ずしも3の倍数にする必要はない。たとえば、5行5列の副画素マトリックスを定義すると、1つの画素が25個の副画素に分割されることになる。この場合、8個の副画素を第1のグループ、8個の副画素を第2のグループ、9個の副画素を第3のグループに所属させれば、三原色を構成する各色の表示面積は正確には等しくならないが、実用上は、大きな支障は生じない。
【0119】
以上、図7に示すような特定の観察条件、すなわち、回折格子記録媒体100の記録面に立てた法線方向から白色の再生用照明光を照射し、回折角φ=30°となるような観察方向から1次回折光を観察することを前提として、白色再生画像が得られるような設計方法を述べた。しかしながら、実用上は、このような特定の観察条件での観察が必ず行われるわけではなく、どのような条件で観察されるかは、観察時の照明環境や観察者の観察態様に依存して定まる事項である。もちろん、この特定の観察条件から多少外れた状態で観察を行ったとしても、ある程度、白っぽい再生像が得られるので、実用上は大きな問題にはならない。ただ、白色再生画像が得られる観察条件をより緩やかにするためには、予め複数m通りの観察条件を設定しておき、このm通りの観察条件のいずれで観察した場合にも、理想的な白色再生画像が得られるような設計をするのが好ましい。
【0120】
たとえば、図7に示すように、回折格子記録媒体100の記録面に立てた法線方向から白色の再生用照明光を照射し、1次回折光の回折角φ=30°となる観察方向から観察する場合を第1の観察条件とし、同じく法線方向から白色の再生用照明光を照射し、1次回折光の回折角φ=15°となる観察方向から観察する場合を第2の観察条件として、2通りの観察条件を設定した場合を考えてみる。
【0121】
§2で述べたとおり、1次回折光についての回折格子ピッチpと波長λとの間には、
p・sinφ = λ
なる関係式が成り立つので、φ=30°(第1の観察条件)の場合、sinφ=0.5を代入して、
p・(0.5) = λ
なる関係が得られる。したがって、上述したとおり、第1の格子線ピッチを1.2μm、第2の格子線ピッチを1.0μm、第3の格子線ピッチを0.8μmに設定した場合、第1の観察条件における観察方向には、それぞれ波長λ=0.6μm(赤色領域)、波長λ=0.5μm(緑色領域)、波長λ=0.4μm(青色領域)の1次回折光が得られることになり、白色再生画像が得られることになる。
【0122】
一方、φ=15°(第2の観察条件)の場合、sinφ=0.26を代入して、
p・(0.26) = λ
なる関係が得られる。したがって、たとえば、第1の格子線ピッチを2.30μm、第2の格子線ピッチを1.92μm、第3の格子線ピッチを1.54μmに設定した場合、第2の観察条件における観察方向には、それぞれ波長λ=0.6μm(赤色領域)、波長λ=0.5μm(緑色領域)、波長λ=0.4μm(青色領域)の1次回折光が得られることになり、やはり白色再生画像が得られることになる。
【0123】
そこで、1つの画素を6個の副画素に分割し、3個の副画素には、第1の観察条件(φ=30°)を前提としたときに赤色、緑色、青色領域の1次回折光が得られるように、それぞれ1.2μm、1.0μm、0.8μmの格子線ピッチをもった回折格子を割り付け、残りの3個の副画素には、第2の観察条件(φ=15°)を前提としたときに赤色、緑色、青色領域の1次回折光が得られるように、それぞれ2.30μm、1.92μm、1.54μmの格子線ピッチをもった回折格子を割り付けるようにすると、第1の観察条件においても、第2の観察条件においても、赤色、緑色、青色領域の1次回折光が得られるようになる。
【0124】
具体的には、第1の観察条件の場合、6個の副画素から観察方向へ向かう回折光の波長は、それぞれ1.15μm,0.96μm,0.77μm,0.6μm,0.5μm,0.4μmとなる。ここで、1.15μm,0.96μm,0.77μmは赤外領域の光であり、人間の眼には見えないので、結局、0.6μm,0.5μm,0.4μmによって白色再生画像が形成されることになる。一方、第2の観察条件の場合、6個の副画素から観察方向へ向かう回折光の波長は、それぞれ0.6μm,0.5μm,0.4μm,0.31μm,0.26μm,0.21μmとなる。ここで、0.31μm,0.26μm,0.21μmは紫外領域の光であり、人間の眼には見えないので、結局、0.6μm,0.5μm,0.4μmによって白色再生画像が形成されることになる。
【0125】
このように、個々の画素を構成する副画素を少なくとも3つのグループに分け、第1のグループに所属する副画素には、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を第1の格子線ピッチで配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付け、第2のグループに所属する副画素には、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を第2の格子線ピッチで配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付け、第3のグループに所属する副画素には、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を第3の格子線ピッチで配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付けるようにすれば、複数m通りの観察条件を設定した場合であっても、個々の観察条件ごとに、3通りの格子線ピッチをもった副画素からの白色再生画像が得られることになる。
【0126】
もちろん、観察条件は2通りに限定されるものではなく、3通り以上の観察条件を設定することも可能である。一般論としては、回折格子記録媒体に対して所定方向から白色の再生用照明光を照射し、これを所定の観察方向から観察するという観察条件を複数m通り設定した場合は、この複数m通りの観察条件のそれぞれについて、赤色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第1の格子線ピッチと、緑色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第2の格子線ピッチと、青色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第3の格子線ピッチと、を定義すればよい。そして、画素パターン割付段階で、記録面上の個々の画素を複数の副画素に分割し、個々の画素を構成する副画素に、当該画素について定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を、定義したいずれかの格子線ピッチで配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付け、複数m通りの観察条件のいずれの条件で観察した場合にも、赤色領域の1次回折光、緑色領域の1次回折光、青色領域の1次回折光が観察方向に生じるようにすればよい。
【0127】
なお、複数m通りの観察条件ごとに定義した格子線ピッチは、一部が重複していてもかまわない。たとえば、第1の観察条件としてφ=30°を設定し、第2の観察条件としてφ=23.5°を設定した場合を考えてみよう。この場合、第1の観察条件では、sin30°=0.5から、
p・(0.5) = λ
なる関係式が成り立ち、第2の観察条件では、sin23.5°=0.4から、
p・(0.4) = λ
なる関係式が成り立つ。したがって、第1の観察条件を前提としたときの3通りの格子線ピッチとして、1.2μm、1.0μm、0.8μmを定義すれば、それぞれ波長λ=0.6μm(赤色領域)、波長λ=0.5μm(緑色領域)、波長λ=0.4μm(青色領域)の1次回折光が得られ、白色再生画像が得られる。一方、第2の観察条件を前提としたときの3通りの格子線ピッチとして、1.4μm、1.2μm、1.0μmを定義すれば、それぞれ波長λ=0.56μm(赤色領域)、波長λ=0.48μm(緑色領域)、波長λ=0.4μm(青色領域)の1次回折光が得られ、白色再生画像が得られる。
【0128】
このような設定を行った場合、副画素に割り付けるべき回折格子の格子ピッチは6通りではなく、1.4μm、1.2μm、1.0μm、0.8μmの4通りで足りる。すなわち、第1の観察条件において白色再生画像の生成に寄与するピッチは、1.2μm、1.0μm、0.8μmの3通り、第2の観察条件において白色再生画像の生成に寄与するピッチは、1.4μm、1.2μm、1.0μmの3通りとなり、一部が重複した形になるので(1.2μmと1.0μmが重複している)、4通りのピッチで十分なのである。したがって、1つの画素を構成する副画素数は4で足りることになり、1画素を4分割して副画素を定義すればよい。
【0129】
第1の観察条件で観察した場合、4個の副画素から観察方向へ向かう回折光の波長は、それぞれ0.7μm,0.6μm,0.5μm,0.4μmとなる。ここで、0.7μmは赤外領域の光であり、人間の眼には見えないので、結局、0.6μm,0.5μm,0.4μmによって白色再生画像が形成されることになる。一方、第2の観察条件で観察した場合、4個の副画素から観察方向へ向かう回折光の波長は、それぞれ0.56μm,0.48μm,0.4μm,0.32μmとなる。ここで、0.32μmは紫外領域の光であり、人間の眼には見えないので、結局、0.56μm,0.48μm,0.4μmによって白色再生画像が形成されることになる。
【0130】
このように、複数m通りの観察条件を設定し、そのそれぞれについて、赤色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第1の格子線ピッチと、緑色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第2の格子線ピッチと、青色領域の1次回折光を観察方向へ生じさせる第3の格子線ピッチと、を定義する際には、第i番目(1≦i≦m)の観察条件について定義された3通りの格子線ピッチと、第j番目(1≦j≦m)の観察条件について定義された3通りの格子線ピッチと、に関して、その一部分について同一の格子線ピッチを重複して定義することができる。
【0131】
(5)二次元画像のマッピング
ここでは、原画像となる三次元構造体Mの表面に、別途用意した二次元画像をマッピングする変形例を述べる。たとえば、図30に示すような三次元構造体の表面に、「A」なるロゴ文字からなる二次元画像をマッピングする場合を考えてみよう。このように、三次元構造体の表面に、ロゴなどの二次元画像をマッピングする手法は、三次元CGの分野でよく利用されている。
【0132】
説明の便宜上、ここでは、三次元空間の背景部分には画素値0が与えられており、三次元構造体の部分には画素値1が与えられており、ロゴを構成する二次元画像の部分には画素値2が与えられている単純な場合を考える。ロゴは、二次元画像であるため、三次元構造体にマッピングしたとしても、三次元構造体の形状自体には何ら変化はない。ただ、三次元構造体の表面におけるロゴがマッピングされた部分(図に破線の文字「A」で示す部分)の画素値が2に変化することになる。
【0133】
このようなケースでは、標本点Qの位置の画素値が1の場合(ロゴ部分でない場合)と、2の場合(ロゴ部分の場合)とで、記録面上の画素に割り付ける画素パターンの格子線の配置ピッチを異ならせるようにすれば、ロゴの部分を三次元構造体の他の部分とは異なる色で表現した再生像が得られるようになる。
【0134】
たとえば、図25に示す例において、基準点P(x,y,0)に位置する画素に割り付けられる画素パターンとして、標本点Qのもつ画素値が1の場合には、方位角θ=ξ/2の向きに、ピッチ1.0μmで格子線を配置した画素パターンを割り付け、標本点Qのもつ画素値が2の場合には、方位角θ=ξ/2の向きに、ピッチ1.2μmで格子線を配置した画素パターンを割り付けるようにすれば、三次元構造体Mの立体模様が緑色で観察され、その上にマッピングされた文字「A」なるロゴが赤色で観察できるようになる。
【0135】
もちろん、三次元構造体Mとして色情報をもった立体画像を用い、ロゴを示す二次元画像としても色情報をもった平面画像を用いることも可能である。この場合、たとえば、ロゴを示す二次元画像には、黄〜赤の範囲内の色情報をもたせ、三次元構造体Mには、緑〜青〜紫の範囲内の色情報をもたせ、ロゴに対応する部分の画素には、1.1〜1.2μmの範囲内のピッチで格子線を配置した画素パターンを割り付けるようにし、残りの部分の画素には、0.8〜1.0μmの範囲内のピッチで格子線を配置した画素パターンを割り付けるようにすればよい。
【0136】
すなわち、一般論として説明すれば、ステップS1の条件設定段階で、原画像となる三次元構造体にマッピングするための二次元画像を設定するようにし、ステップS6の画素パターン割付段階で、この二次元画像がマッピングされた領域に位置する標本点Qについては、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素に、格子線が第1の範囲内のピッチで配置された回折格子を有する画素パターンを割り付け、二次元画像がマッピングされていない領域に位置する標本点Qについては、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素に、格子線が第1の範囲とは異なる第2の範囲内のピッチで配置された回折格子を有する画素パターンを割り付けるようにすればよい。
【0137】
(6)複数原画像の重複記録
§5では、複数のカラー階調画像を重複して記録する手法を述べたが、このような手法は本発明に係る方法にも適用可能である。そのためには、ステップS1の条件設定段階で、原画像として、複数n個の三次元構造体を設定し、ステップS6の画素パターン割付段階で、格子線の配置ピッチとして、複数n通りの範囲内のピッチを定義し、記録面上の個々の画素を複数の副画素に分割し、個々の副画素に、複数n通りの属性のうちのいずれか1つを設定し、第i番目の属性を有する副画素には、第i番目の三次元構造体に基づいて定義された方位角θに応じた方向を向いた格子線を第i番目の範囲内のピッチで配置した画素パターンを割り付けるようにすればよい。
【0138】
本発明では、格子線の配置角度は方位角θによって規定されてしまうため、任意に変更することはできない。そこで、個々の原画像ごとに、格子線の配置ピッチを変えることにより、各原画像が別個に観察できるようにしている。格子線の配置ピッチを変えると、回折角も変わるため、ある視線方向から観察すると、主として第1の原画像が明るく観察され、別な視線方向から観察すると、主として第2の原画像が明るく観察される、というように、主たる観察対象を視線角度ごとに変えるような態様が可能になる。
【0139】
たとえば、図31(a) ,(b) に示す例のように、2通りの原画像として、三次元構造体M1,M2を設定した場合を考えてみよう。これら三次元構造体M1,M2は、XYZ三次元座標系上に空間的に重複して定義された原画像である。この場合、たとえば、図25に示す例において、基準点P(x,y,0)に位置する画素は、図19(b) に示すように合計4個の副画素に分割される。この4個の副画素のうち、左上の副画素と右下の副画素には「画像I」なる属性が設定され、左下の副画素と右上の副画素には「画像II」なる属性が設定される。そして、「画像I」なる属性が与えられた副画素には、第1の原画像となる三次元構造体M1に基づいて定義された方位角θに応じた方向を向いた格子線を第1の範囲内のピッチ(たとえば、0.8〜0.9μm)で配置した画素パターンを割り付けるようにし、「画像II」なる属性が与えられた副画素には、第2の原画像となる三次元構造体M2に基づいて定義された方位角θに応じた方向を向いた格子線を第2の範囲内のピッチ(たとえば、1.0〜1.1μm)で配置した画素パターンを割り付けるようにすればよい。
【0140】
<<< §8.本発明に係る回折格子パターンデータの生成装置 >>>
最後に、本発明に係る回折格子パターンデータの生成装置の基本構成を、図32に示すブロック図を参照しながら説明しておく。この図32に示す装置は、図21に示す流れ図におけるステップS1〜S6までの処理を実施する機能をもった装置であり、実際には、コンピュータに専用のプログラムを組み込むことにより実現できる。
【0141】
図示のとおり、この装置は、条件設定部10、画素定義部20、標本点定義部30、交差角決定部40、方位角定義部50、画素パターン割付部60、データ生成部70なる構成要素からなり、立体模様が表現された回折格子パターンのデータを生成する機能を有する。
【0142】
条件設定部10は、図21のステップS1「条件設定段階」を実行するための構成要素であり、オペレータの指示に基づいて、所定の記録面と、所定の基準軸と、この基準軸を含む所定の投影面と、立体模様の原画像となる三次元構造体と、を設定する機能を有している。
【0143】
画素定義部20は、図21のステップS2「画素定義段階」を実行するための構成要素であり、記録面上に、所定面積をもった多数の画素の配列を定義し、個々の画素についてそれぞれ基準点Pを定義する機能を有している。
【0144】
標本点定義部30は、図21のステップS3「標本点定義段階」を実行するための構成要素であり、三次元構造体の表面上に、記録面への所定方向への投影像が各基準点Pとなるような標本点Qをそれぞれ定義する機能を有している。
【0145】
交差角決定部40は、図21のステップS4「交差角決定段階」を実行するための構成要素であり、各標本点Qのそれぞれについて法線ベクトルNを求め、この法線ベクトルNを投影面に対して所定方向に投影して得られる投影ベクトルNと基準軸との交差角ξを求める機能を有している。
【0146】
方位角定義部50は、図21のステップS5「方位角定義段階」を実行するための構成要素であり、各基準点Pについて、対応する標本点Qについて求められた交差角ξに応じた方位角θを定義する機能を有している。
【0147】
画素パターン割付部60は、図21のステップS6「画素パターン割付段階」を実行するための構成要素であり、記録面上に定義された個々の画素に、記録面上に定義された所定の参照方向Uに対して、当該画素の基準点Pについて定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付ける機能を有している。
【0148】
データ生成部70は、各画素に割り付けられた画素パターンに基づいて、記録面上に形成された回折格子パターンのデータを生成する機能を有している。
【0149】
なお、各構成要素が実行する具体的な処理内容は、§6で説明したとおりであり、ここでは詳しい説明は省略する。
【符号の説明】
【0150】
10:条件設定部
20:画素定義部
30:標本点定義部
40:交差角決定部
50:方位角定義部
60:画素パターン割付部
70:データ生成部
100:回折格子記録媒体
A:記録面上の画素
B:原色青
d:格子線の線幅
G:原色緑
i,j:順番を示すパラメータ
L:格子線
M,M1,M2:原画像となる三次元構造体
N:標本点Qの位置に立てた三次元構造体の法線ベクトル
:法線ベクトルNの投影像
P:基準点
P1〜P15…画素パターン
p:格子線のピッチ
Q:三次元構造体の表面上に定義された標本点
:標本点Qの投影像
R:原色赤/基準軸
S1〜S7:流れ図の各ステップ
Sxy:記録面(XY平面)
Syz:投影面(YZ平面)
U:記録面上の参照方向
V:格子占有領域
W:格子線の配置方向
X,Y,Z:三次元座標系の各座標軸
ξ:法線ベクトルNの投影像Nと基準軸Rとの交差角
θ:格子線の向きを示す方位角
φ:回折角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体模様が表現された回折格子記録媒体を作成する方法であって、
所定の記録面と、所定の基準軸と、この基準軸を含む所定の投影面と、立体模様の原画像となる三次元構造体と、を設定する条件設定段階と、
前記記録面上に、所定面積をもった多数の画素の配列を定義し、個々の画素についてそれぞれ基準点Pを定義する画素定義段階と、
前記三次元構造体の表面上に、前記記録面への所定方向への投影像が前記各基準点Pとなるような標本点Qをそれぞれ定義する標本点定義段階と、
前記各標本点Qのそれぞれについて法線ベクトルNを求め、この法線ベクトルNを前記投影面に対して所定方向に投影して得られる投影ベクトルNと前記基準軸との交差角ξを求める交差角決定段階と、
前記各基準点Pについて、対応する標本点Qについて求められた前記交差角ξに応じた方位角θを定義する方位角定義段階と、
前記記録面上に定義された個々の画素に、前記記録面上に定義された所定の参照方向Uに対して、当該画素の基準点Pについて定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付ける画素パターン割付段階と、
各画素に割り付けられた画素パターンに応じた回折格子を、記録媒体上に形成する回折格子形成段階と、
を有することを特徴とする立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の作成方法において、
条件設定段階で、記録面に対して直交する基準軸を設定し、この基準軸に平行な方向から見たときに隠面が生じない構造をもった三次元構造体を設定し、交差角ξが、−90°≦ξ≦+90°の範囲となるように設定することを特徴とする立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の作成方法において、
方位角定義段階で、方位角θを、θ=k・ξ(ただし、kは1未満の定数)なる式に基づいて定義し、方位角θが交差角ξに対して線形関係を維持するようにすることを特徴とする立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の作成方法において、
条件設定段階で、XYZ三次元座標系のXY平面に記録面を設定し、YZ平面に投影面を設定し、Z軸を基準軸に設定し、前記XYZ三次元座標系上の幾何学立体を三次元構造体として設定し、
標本点定義段階で、標本点QのZ軸方向への投影像が基準点Pとなるように標本点Qを定義し、
交差角決定段階で、法線ベクトルNのX軸方向への投影像が投影ベクトルNとなるように投影ベクトルNを求めることを特徴とする立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の作成方法において、
画素パターン割付段階で、離散的に定義された複数n通りの方位角θを設定し、参照方向Uに対して前記n通りの方位角θをなす方向を向いた格子線を配置してなる回折格子をそれぞれ有する複数n通りの画素パターンを予め定義し、n通りのうちの第i番目の方位角θiと第(i+1)番目の方位角θ(i+1)について、θi≦θ≦θ(i+1)なる条件を満たす方位角θが定義された画素に対して、「1−(θ−θi)/(θ(i+1)−θi)」なる確率で、第i番目の画素パターンを選択し、「(θ−θi)/(θ(i+1)−θi)」なる確率で、第(i+1)番目の画素パターンを選択し、選択されたいずれか一方の画素パターンを当該画素に割り付けることを特徴とする立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の作成方法において、
条件設定段階で、原画像となる三次元構造体として、表面に階調情報が付与された階調立体画像を設定し、
画素パターン割付段階で、標本点Qのもつ階調情報が、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素に割り付けられる画素パターン上の格子占有領域の面積によって表現されるようにすることを特徴とする立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の作成方法において、
条件設定段階で、原画像となる三次元構造体にマッピングするための二次元画像を設定し、
画素パターン割付段階で、前記二次元画像がマッピングされた領域に位置する標本点Qについては、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素に、格子線が第1の範囲内のピッチで配置された回折格子を有する画素パターンを割り付け、前記二次元画像がマッピングされていない領域に位置する標本点Qについては、当該標本点Qの投影像である基準点Pに位置する画素に、格子線が前記第1の範囲とは異なる第2の範囲内のピッチで配置された回折格子を有する画素パターンを割り付けることを特徴とする立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の作成方法において、
条件設定段階で、原画像として、複数n個の三次元構造体を設定し、
画素パターン割付段階で、格子線の配置ピッチとして、複数n通りの範囲内のピッチを定義し、記録面上の個々の画素を複数の副画素に分割し、個々の副画素に、複数n通りの属性のうちのいずれか1つを設定し、第i番目の属性を有する副画素には、第i番目の三次元構造体に基づいて定義された方位角θに応じた方向を向いた格子線を第i番目の範囲内のピッチで配置した画素パターンを割り付けることを特徴とする立体模様が表現された回折格子記録媒体の作成方法。
【請求項9】
立体模様が表現された回折格子パターンのデータを生成する装置であって、
オペレータの指示に基づいて、所定の記録面と、所定の基準軸と、この基準軸を含む所定の投影面と、立体模様の原画像となる三次元構造体と、を設定する条件設定部と、
前記記録面上に、所定面積をもった多数の画素の配列を定義し、個々の画素についてそれぞれ基準点Pを定義する画素定義部と、
前記三次元構造体の表面上に、前記記録面への所定方向への投影像が前記各基準点Pとなるような標本点Qをそれぞれ定義する標本点定義部と、
前記各標本点Qのそれぞれについて法線ベクトルNを求め、この法線ベクトルNを前記投影面に対して所定方向に投影して得られる投影ベクトルNと前記基準軸との交差角ξを求める交差角決定部と、
前記各基準点Pについて、対応する標本点Qについて求められた前記交差角ξに応じた方位角θを定義する方位角定義部と、
前記記録面上に定義された個々の画素に、前記記録面上に定義された所定の参照方向Uに対して、当該画素の基準点Pについて定義された方位角θをなす方向を向いた格子線を配置してなる回折格子を有する画素パターンを割り付ける画素パターン割付部と、
各画素に割り付けられた画素パターンに基づいて、前記記録面上に形成された回折格子パターンのデータを生成するデータ生成部と、
を備えることを特徴とする立体模様が表現された回折格子パターンデータの生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2012−93781(P2012−93781A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−283564(P2011−283564)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2007−7704(P2007−7704)の分割
【原出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】