説明

立体造形物、立体造形物の製造方法、及び、立体造形物を製造するための液状組成物

【課題】立体造形物の製造に適した液状組成物を提供する。
【解決手段】インクジェット印刷装置において使用される、立体造形物を製造するための液状組成物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、MP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含み、あるいは又、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含み、あるいは又、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上である多孔質炭素材料を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立体造形物、立体造形物の製造方法、及び、立体造形物を製造するための液状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
立体造形とは、所望の立体構造体(立体構造物)を種々の装置を利用して作製する手法である。立体造形物の製造方法には種々の方式があるが、主な方式として、光造形方式、シート積層造形方式、粉体造形方式、ダイレクト造形方式を挙げることができる。ここで、光造形方式とは、光硬化型の樹脂に高出力レーザを照射して或る厚さの形状を形成するといった操作を繰り返すことで、積層構造を有する三次元形状を造形する方法である。シート積層造形方式とは、薄いシート材料を層状に切り抜き、接着して積層することで、三次元形状を造形する方法である。粉体造形方式とは、粉末材料を層状に敷き詰めて或る厚さの形状を形成するといった操作を繰り返すことで、積層構造を有する三次元形状を造形する方法である。これらの方式においては、後処理で、余分な光硬化型の樹脂やシート材料、粉末材料を取り除く工程が必要とされる。
【0003】
一方、ダイレクト造形方式とは、液状の材料を噴射して積層させるといった操作を繰り返すことで、三次元形状を造形する方法である。特に、インクジェット印刷装置を利用したダイレクト造形方式は、市販のインクジェット印刷装置を用いて、ステージ上の基体を恰も印刷をするように動作させるため、他の造形方式と比較して、大がかりな装置を必要としない、後処理が少ない、無駄になる材料が少ない、微小な立体造形物の作製に有利等の種々の利点を有する。特に、電子機器や医療材料など、プロセスの簡便化、コストの低減、微細構造制御が必要とされる分野においては、ダイレクト造形方式の応用が有用であると考えられている。
【0004】
ダイレクト造形方式の立体造形物の製造方法のための原料として、屡々、光硬化性液状樹脂組成物が使用される(例えば、特開2010−155926参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−155926
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許公開公報に開示された技術にあっては、所望のパターンでインクジェット印刷装置の吐出ノズル部から光硬化性液状樹脂組成物を吐出させ、この組成物から成る樹脂薄層(光硬化性液状樹脂組成物層)を形成した後、光源から硬化光を照射して樹脂薄層を硬化させるといった作業を繰り返す。それ故、相当な回数の硬化光の照射を行わなくてはならず、作業が繁雑である。
【0007】
従って、本開示の目的は、簡素な工程に基づく立体造形物の製造方法、係る立体造形物の製造方法によって得られる立体造形物、係る立体造形物の製造に適した液状組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る、インクジェット印刷装置において使用される、立体造形物を製造するための液状組成物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、MP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む。
【0009】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る、インクジェット印刷装置において使用される、立体造形物を製造するための液状組成物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法(NLDFT法,Non Localized Density Functional Theory 法)によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む。
【0010】
上記の目的を達成するための本開示の第3の態様に係る、インクジェット印刷装置において使用される、立体造形物を製造するための液状組成物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上である多孔質炭素材料を含む。
【0011】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る立体造形物の製造方法は、本開示の第1の態様に係る液状組成物をインクジェット印刷装置の吐出ノズル部から吐出する工程を、複数回、繰り返し、以て、基体上に立体造形物を構築する。
【0012】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る立体造形物の製造方法は、本開示の第2の態様に係る液状組成物をインクジェット印刷装置の吐出ノズル部から吐出する工程を、複数回、繰り返し、以て、基体上に立体造形物を構築する。
【0013】
上記の目的を達成するための本開示の第3の態様に係る立体造形物の製造方法は、本開示の第3の態様に係る液状組成物をインクジェット印刷装置の吐出ノズル部から吐出する工程を、複数回、繰り返し、以て、基体上に立体造形物を構築する。
【0014】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る立体造形物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、MP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成されている。
【0015】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る立体造形物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成されている。
【0016】
上記の目的を達成するための本開示の第3の態様に係る立体造形物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成されている。
【発明の効果】
【0017】
本開示にあっては、使用する多孔質炭素材料の比表面積の値、各種細孔の容積の値、細孔分布が規定されているので、即ち、本開示にあっては、特異な細孔構造を有する多孔質炭素材料に基づき液状組成物を調製するので、液状組成物の安定した吐出が可能となり、柱状形状を始めとする種々の立体造形物を容易に作製することができる。これは、特異な微細構造を有する多孔質炭素材料を原料としているが故に、液状組成物に含まれる溶媒が適切に蒸発、拡散される結果、所望の立体造形物の作製が可能になると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例1及び比較例1の液状組成物を用いて得られた立体造形物の写真である。
【図2】図2の(A)及び(B)は、実施例1の液状組成物を用いて得られた立体造形物の写真である。
【図3】図3は、実施例1における多孔質炭素材料の累計細孔容積測定結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1における多孔質炭素材料の累計細孔容積測定結果を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1における多孔質炭素材料の、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の第1の態様〜第3の態様に係る立体造形物、立体造形物の製造方法、及び、立体造形物を製造するための液状組成物、全般に関する説明
2.実施例1(本開示の第1の態様〜第3の態様に係る立体造形物、立体造形物の製造方法、及び、立体造形物を製造するための液状組成物)、その他
【0020】
[本開示の第1の態様〜第3の態様に係る立体造形物、立体造形物の製造方法、及び、立体造形物を製造するための液状組成物、全般に関する説明]
本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液状組成物、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る立体造形物の製造方法における液状組成物(以下、これらの液状組成物を総称して、『本開示の液状組成物等』と呼ぶ場合がある)、あるいは、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る立体造形物において、多孔質炭素材料は、ケイ素の含有率が5質量%以上の植物由来の材料を原料としている形態とすることができる。
【0021】
上記の好ましい形態を含む本開示の液状組成物等にあっては、更に、アセチレンジオール等のエチレンオキサイドを含む各種界面活性剤、あるいは、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等の1,2−アルカンジオールに代表される浸透剤(これらの界面活性剤あるいは浸透剤は、本開示の液状組成物等の濡れ性を制御するために用いられる)や、グリセリン、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等の保湿剤(インクジェット印刷装置の吐出ノズル部の乾燥を防ぎ、本開示の液状組成物等の吐出性を向上させるために用いられる)が含まれている構成とすることができる。溶媒として、水、あるいは、グリセリン、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等の保湿剤を含む水溶性溶媒を挙げることができるし、界面活性剤や浸透剤は、場合によっては、溶媒に包含される。本開示の液状組成物等にあっては、熱や光によって硬化する硬化剤は、一切、不要である。
【0022】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液状組成物あるいは立体造形物の製造方法にあっては、立体造形物によって細胞培養足場材が構成される。また、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様〜第3の態様に係る立体造形物にあっては、基体に対して成形された立体造形物が、細胞培養足場材を構成する。但し、基体は、特に限定されるものではなく、好ましくは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート(PC)樹脂;ポリエーテルスルホン(PES)樹脂;ポリメチルメタクリレート(ポリメタクリル酸メチル,PMMA)樹脂;ポリビニルアルコール(PVA)樹脂;ポリビニルフェノール(PVP)樹脂;ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリフッ化ビニリデン樹脂;テトラアセチルセルロース樹脂;ブロム化フェノキシ樹脂;アラミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリスルフォン樹脂;アクリル樹脂;エポキシ樹脂;フッ素樹脂;シリコーン樹脂;ジアセテート樹脂;トリアセテート樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;環状ポリオレフィン樹脂等で例示されるプラスチック基板やフィルム、シートを挙げることができるし、金属、酸化物、ガラス、石英基板等の無機基板を挙げることができる。ガラス基板として、例えば、ソーダガラス基板、耐熱ガラス基板、石英ガラス基板を挙げることができる。更には、基体として、骨や爪、生体組織や粘膜、皮膚、細胞シート、寒天、高分子ゲル等を挙げることもできる。また、立体造形物は、細胞培養足場材に限定されるものではなく、その他、例えば、電磁波吸収効果を有する構造体、各種センサーの電極を例示することができる。
【0023】
本開示の第1の態様〜第3の態様に係る立体造形物の製造方法にあっては、先ず、従来の積層造形装置で行われているのと同様に、目的とする立体造形物の形状を複数の層状の形状に分割した形状データを作成する。そして、この層状の形状データに基づき、所望の場所・位置に、インクジェット印刷装置の吐出ノズル部から液状組成物を吐出して、この液状組成物から、自然乾燥若しくは強制乾燥により、柱状立体物を得る。次いで、次の場所・位置に同じように液状組成物を吐出して、柱状立体物を得る。これを繰り返して、1層分の薄層を形成することができる。柱状の立体物を繋げるためには、吐出ノズル部を或る程度の周期で移動させながら、液状組成物を吐出させればよい。以上を繰り返すことにより、目的とする立体造形物を得ることができる。インクジェット印刷装置は、周知のインクジェット印刷装置と同様の構成とすることができる。
【0024】
上述したとおり、本開示の液状組成物等において、多孔質炭素材料は、好ましくは、ケイ素の含有率が5質量%以上の植物由来の材料を原料としているが、具体的には、植物由来の材料として、米(稲)、大麦、小麦、ライ麦、稗(ヒエ)、粟(アワ)等の籾殻や藁、珈琲豆、茶葉(例えば、緑茶や紅茶等の葉)、サトウキビ類(より具体的には、サトウキビ類の絞り滓)、トウモロコシ類(より具体的には、トウモロコシ類の芯)、果実の皮(例えば、ミカンやバナナの皮等)、あるいは又、葦、茎ワカメを挙げることができるが、これらに限定するものではなく、その他、例えば、陸上に植生する維管束植物、シダ植物、コケ植物、藻類、海草を挙げることができる。尚、これらの材料を、原料として、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。また、植物由来の材料の形状や形態も特に限定はなく、例えば、籾殻や藁そのものでもよいし、あるいは乾燥処理品でもよい。更には、ビールや洋酒等の飲食品加工において、発酵処理、焙煎処理、抽出処理等の種々の処理を施されたものを使用することもできる。特に、産業廃棄物の資源化を図るという観点から、脱穀等の加工後の藁や籾殻を使用することが好ましい。これらの加工後の藁や籾殻は、例えば、農業協同組合や酒類製造会社、食品会社、食品加工会社から、大量、且つ、容易に入手することができる。
【0025】
本開示の液状組成物等あるいは立体造形物における多孔質炭素材料(以下、『本開示における多孔質炭素材料』と呼ぶ場合がある)の原料を、ケイ素(Si)を含有する植物由来の材料とする場合、具体的には、限定するものではないが、上述したとおり、ケイ素(Si)の含有率が5質量%以上である植物由来の材料を原料とする一方、多孔質炭素材料は、ケイ素(Si)の含有率が、5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下であることが望ましい。
【0026】
本開示における多孔質炭素材料は、例えば、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化した後、酸又はアルカリで処理することによって得ることができる。このような本開示における多孔質炭素材料の製造方法(以下、単に、『多孔質炭素材料の製造方法』と呼ぶ場合がある)において、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化することにより得られた材料であって、酸又はアルカリでの処理を行う前の材料を、『多孔質炭素材料前駆体』あるいは『炭素質物質』と呼ぶ。
【0027】
多孔質炭素材料の製造方法において、酸又はアルカリでの処理の後、賦活処理を施す工程を含めることができるし、賦活処理を施した後、酸又はアルカリでの処理を行ってもよい。また、このような好ましい形態を含む多孔質炭素材料の製造方法にあっては、使用する植物由来の材料にも依るが、植物由来の材料を炭素化する前に、炭素化のための温度よりも低い温度(例えば、400゜C〜700゜C)にて、酸素を遮断した状態で植物由来の材料に加熱処理(予備炭素化処理)を施してもよい。これによって、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を抽出することが出来る結果、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。尚、酸素を遮断した状態は、例えば、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気とすることで、あるいは又、真空雰囲気とすることで、あるいは又、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とすることで達成することができる。また、多孔質炭素材料の製造方法にあっては、使用する植物由来の材料にも依るが、植物由来の材料中に含まれるミネラル成分や水分を減少させるために、また、炭素化の過程での異臭の発生を防止するために、植物由来の材料をアルコール(例えば、メチルアルコールやエチルアルコール、イソプロピルアルコール)に浸漬してもよい。尚、多孔質炭素材料の製造方法にあっては、その後、予備炭素化処理を実行してもよい。不活性ガス中で加熱処理を施すことが好ましい材料として、例えば、木酢液(タールや軽質油分)を多く発生する植物を挙げることができる。また、アルコールによる前処理を施すことが好ましい材料として、例えば、ヨウ素や各種ミネラルを多く含む海藻類を挙げることができる。
【0028】
多孔質炭素材料の製造方法にあっては、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化するが、ここで、炭素化とは、一般に、有機物質(本開示における多孔質炭素材料にあっては、植物由来の材料)を熱処理して炭素質物質に変換することを意味する(例えば、JIS M0104−1984参照)。尚、炭素化のための雰囲気として、酸素を遮断した雰囲気を挙げることができ、具体的には、真空雰囲気、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とする雰囲気を挙げることができる。炭素化温度に至るまでの昇温速度として、限定するものではないが、係る雰囲気下、1゜C/分以上、好ましくは3゜C/分以上、より好ましくは5゜C/分以上を挙げることができる。また、炭素化時間の上限として、10時間、好ましくは7時間、より好ましくは5時間を挙げることができるが、これに限定するものではない。炭素化時間の下限は、植物由来の材料が確実に炭素化される時間とすればよい。また、植物由来の材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。植物由来の材料を予め洗浄してもよい。あるいは又、得られた多孔質炭素材料前駆体や多孔質炭素材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。あるいは又、賦活処理後の多孔質炭素材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。更には、最終的に得られた多孔質炭素材料に殺菌処理を施してもよい。炭素化のために使用する炉の形式、構成、構造に制限はなく、連続炉とすることもできるし、回分炉(バッチ炉)とすることもできる。
【0029】
多孔質炭素材料の製造方法において、上述したとおり、賦活処理を施せば、孔径が2nmよりも小さいマイクロ細孔(後述する)を増加させることができる。賦活処理の方法として、ガス賦活法、薬品賦活法を挙げることができる。ここで、ガス賦活法とは、賦活剤として酸素や水蒸気、炭酸ガス、空気等を用い、係るガス雰囲気下、700゜C乃至1400゜Cにて、好ましくは700゜C乃至1000゜Cにて、より好ましくは800゜C乃至1000゜Cにて、数十分から数時間、多孔質炭素材料を加熱することにより、多孔質炭素材料中の揮発成分や炭素分子により微細構造を発達させる方法である。尚、より具体的には、加熱温度は、植物由来の材料の種類、ガスの種類や濃度等に基づき、適宜、選択すればよい。薬品賦活法とは、ガス賦活法で用いられる酸素や水蒸気の替わりに、塩化亜鉛、塩化鉄、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、硫酸等を用いて賦活させ、塩酸で洗浄、アルカリ性水溶液でpHを調整し、乾燥させる方法である。
【0030】
本開示における多孔質炭素材料の表面に対して、化学処理又は分子修飾を行ってもよい。化学処理として、例えば、硝酸処理により表面にカルボキシ基を生成させる処理を挙げることができる。また、水蒸気、酸素、アルカリ等による賦活処理と同様の処理を行うことにより、多孔質炭素材料の表面に水酸基、カルボキシ基、ケトン基、エステル基等、種々の官能基を生成させることもできる。更には、多孔質炭素材料と反応可能な水酸基、カルボキシ基、アミノ基等を有する化学種又は蛋白質とを化学反応させることでも、分子修飾が可能である。
【0031】
多孔質炭素材料の製造方法にあっては、酸又はアルカリでの処理によって、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去する。ここで、ケイ素成分として、二酸化ケイ素や酸化ケイ素、酸化ケイ素塩といったケイ素酸化物を挙げることができる。このように、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去することで、高い比表面積を有する多孔質炭素材料を得ることができる。場合によっては、ドライエッチング法に基づき、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去してもよい。
【0032】
本開示における多孔質炭素材料には、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)や、リン(P)、硫黄(S)等の非金属元素や、遷移元素等の金属元素が含まれていてもよい。マグネシウム(Mg)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、カリウム(K)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、カルシウム(Ca)の含有率として0.05質量%以上3質量%以下、リン(P)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、硫黄(S)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下を挙げることができる。尚、これらの元素の含有率は、比表面積の値の増加といった観点からは、少ない方が好ましい。多孔質炭素材料には、上記した元素以外の元素を含んでいてもよく、上記した各種元素の含有率の範囲も、変更し得ることは云うまでもない。
【0033】
本開示における多孔質炭素材料にあっては、各種元素の分析を、例えば、エネルギー分散型X線分析装置(例えば、日本電子株式会社製のJED−2200F)を用い、エネルギー分散法(EDS)により行うことができる。ここで、測定条件を、例えば、走査電圧15kV、照射電流10μAとすればよい。
【0034】
本開示における多孔質炭素材料は、細孔(ポア)を多く有している。細孔として、孔径が2nm乃至50nmの『メソ細孔』、孔径が50nmを超える『マクロ細孔』、及び、孔径が2nmよりも小さい『マイクロ細孔』が含まれる。具体的には、メソ細孔として、例えば、20nm以下の孔径の細孔を多く含み、特に、10nm以下の孔径の細孔を多く含んでいる。本開示における多孔質炭素材料にあっては、BJH法による細孔の容積は0.1cm3/グラム以上であるが、好ましくは0.2cm3/グラム以上、より好ましくは0.3cm3/グラム以上、一層好ましくは0.5cm3/グラム以上であることが望ましい。また、MP法による細孔の容積は0.1cm3/グラム以上であるが、好ましくは0.2cm3/グラム以上、より好ましくは0.3cm3/グラム以上、一層好ましくは0.5cm3/グラム以上であることが望ましい。また、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計は0.1cm3/グラム以上であるが、好ましくは、0.2cm3/グラム以上、より好ましくは、0.3cm3/グラム以上であることが望ましい。更には、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上であるが、好ましくは、0.2以上であることが望ましい。
【0035】
本開示における多孔質炭素材料において、窒素BET法による比表面積の値(以下、単に、『比表面積の値』と呼ぶ場合がある)は、より一層優れた機能性を得るために、好ましくは50m2/グラム以上、より好ましくは100m2/グラム以上、更に一層好ましくは400m2/グラム以上であることが望ましい。
【0036】
窒素BET法とは、吸着剤(ここでは、多孔質炭素材料)に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより吸着等温線を測定し、測定したデータを式(1)で表されるBET式に基づき解析する方法であり、この方法に基づき比表面積や細孔容積等を算出することができる。具体的には、窒素BET法により比表面積の値を算出する場合、先ず、多孔質炭素材料に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより、吸着等温線を求める。そして、得られた吸着等温線から、式(1)あるいは式(1)を変形した式(1’)に基づき[p/{Va(p0−p)}]を算出し、平衡相対圧(p/p0)に対してプロットする。そして、このプロットを直線と見なし、最小二乗法に基づき、傾きs(=[(C−1)/(C・Vm)])及び切片i(=[1/(C・Vm)])を算出する。そして、求められた傾きs及び切片iから式(2−1)、式(2−2)に基づき、Vm及びCを算出する。更には、Vmから、式(3)に基づき比表面積asBETを算出する(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第62頁〜第66頁参照)。尚、この窒素BET法は、JIS R 1626−1996「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に準じた測定方法である。
【0037】
a=(Vm・C・p)/[(p0−p){1+(C−1)(p/p0)}] (1)
[p/{Va(p0−p)}]
=[(C−1)/(C・Vm)](p/p0)+[1/(C・Vm)] (1’)
m=1/(s+i) (2−1)
C =(s/i)+1 (2−2)
sBET=(Vm・L・σ)/22414 (3)
【0038】
但し、
a:吸着量
m:単分子層の吸着量
p :窒素の平衡時の圧力
0:窒素の飽和蒸気圧
L :アボガドロ数
σ :窒素の吸着断面積
である。
【0039】
窒素BET法により細孔容積Vpを算出する場合、例えば、求められた吸着等温線の吸着データを直線補間し、細孔容積算出相対圧で設定した相対圧での吸着量Vを求める。この吸着量Vから式(4)に基づき細孔容積Vpを算出することができる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第62頁〜第65頁参照)。尚、窒素BET法に基づく細孔容積を、以下、単に『細孔容積』と呼ぶ場合がある。
【0040】
p=(V/22414)×(Mg/ρg) (4)
【0041】
但し、
V :相対圧での吸着量
g:窒素の分子量
ρg:窒素の密度
である。
【0042】
メソ細孔の孔径は、例えば、BJH法に基づき、その孔径に対する細孔容積変化率から細孔の分布として算出することができる。BJH法は、細孔分布解析法として広く用いられている方法である。BJH法に基づき細孔分布解析をする場合、先ず、多孔質炭素材料に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより、脱着等温線を求める。そして、求められた脱着等温線に基づき、細孔が吸着分子(例えば窒素)によって満たされた状態から吸着分子が段階的に着脱する際の吸着層の厚さ、及び、その際に生じた孔の内径(コア半径の2倍)を求め、式(5)に基づき細孔半径rpを算出し、式(6)に基づき細孔容積を算出する。そして、細孔半径及び細孔容積から細孔径(2rp)に対する細孔容積変化率(dVp/drp)をプロットすることにより細孔分布曲線が得られる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第85頁〜第88頁参照)。
【0043】
p=t+rk (5)
pn=Rn・dVn−Rn・dtn・c・ΣApj (6)
但し、
n=rpn2/(rkn−1+dtn2 (7)
【0044】
ここで、
p:細孔半径
k:細孔半径rpの細孔の内壁にその圧力において厚さtの吸着層が吸着した場合のコア半径(内径/2)
pn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの細孔容積
dVn:そのときの変化量
dtn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの吸着層の厚さtnの変化量
kn:その時のコア半径
c:固定値
pn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの細孔半径
である。また、ΣApjは、j=1からj=n−1までの細孔の壁面の面積の積算値を表す。
【0045】
マイクロ細孔の孔径は、例えば、MP法に基づき、その孔径に対する細孔容積変化率から細孔の分布として算出することができる。MP法により細孔分布解析を行う場合、先ず、多孔質炭素材料に窒素を吸着させることにより、吸着等温線を求める。そして、この吸着等温線を吸着層の厚さtに対する細孔容積に変換する(tプロットする)。そして、このプロットの曲率(吸着層の厚さtの変化量に対する細孔容積の変化量)に基づき細孔分布曲線を得ることができる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第72頁〜第73頁、第82頁参照)。
【0046】
JIS Z8831−2:2010 「粉体(固体)の細孔分布及び細孔特性−第2部:ガス吸着によるメソ細孔及びマクロ細孔の測定方法」、及び、JIS Z8831−3:2010 「粉体(固体)の細孔分布及び細孔特性−第3部:ガス吸着によるミクロ細孔の測定方法」に規定された非局在化密度汎関数法(NLDFT法)にあっては、解析ソフトウェアとして、日本ベル株式会社製自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP−MAX」に付属するソフトウェアを用いる。前提条件としてモデルをシリンダ形状としてカーボンブラック(CB)を仮定し、細孔分布パラメータの分布関数を「no−assumption」とし、得られた分布データにはスムージングを10回施す。
【0047】
多孔質炭素材料前駆体を酸又はアルカリで処理するが、具体的な処理方法として、例えば、酸あるいはアルカリの水溶液に多孔質炭素材料前駆体を浸漬する方法や、多孔質炭素材料前駆体と酸又はアルカリとを気相で反応させる方法を挙げることができる。より具体的には、酸によって処理する場合、酸として、例えば、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム等の酸性を示すフッ素化合物を挙げることができる。フッ素化合物を用いる場合、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分におけるケイ素元素に対してフッ素元素が4倍量となればよく、フッ素化合物水溶液の濃度は10質量%以上であることが好ましい。フッ化水素酸によって、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分(例えば、二酸化ケイ素)を除去する場合、二酸化ケイ素は、化学式(A)又は化学式(B)に示すようにフッ化水素酸と反応し、ヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)あるいは四フッ化ケイ素(SiF4)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。そして、その後、洗浄、乾燥を行えばよい。
【0048】
SiO2+6HF → H2SiF6+2H2O (A)
SiO2+4HF → SiF4+2H2O (B)
【0049】
また、アルカリ(塩基)によって処理する場合、アルカリとして、例えば、水酸化ナトリウムを挙げることができる。アルカリの水溶液を用いる場合、水溶液のpHは11以上であればよい。水酸化ナトリウム水溶液によって、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分(例えば、二酸化ケイ素)を除去する場合、水酸化ナトリウム水溶液を熱することにより、二酸化ケイ素は、化学式(C)に示すように反応し、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。また、水酸化ナトリウムを気相で反応させて処理する場合、水酸化ナトリウムの固体を熱することにより、化学式(C)に示すように反応し、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。そして、その後、洗浄、乾燥を行えばよい。
【0050】
SiO2+2NaOH → Na2SiO3+H2O (C)
【0051】
あるいは又、本開示における多孔質炭素材料として、例えば、特開2010−106007に開示された空孔が3次元的規則性を有する多孔質炭素材料(所謂、逆オパール構造を有する多孔質炭素材料)、具体的には、1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料、好ましくは、巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されており、あるいは又、巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料を用いることもできる。
【実施例1】
【0052】
実施例1は、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る立体造形物、立体造形物の製造方法、及び、立体造形物を製造するための液状組成物に関する。
【0053】
インクジェット印刷装置において使用される、実施例1の立体造形物を製造するための液状組成物(一種のインクであり、以下、単に、『実施例1の液状組成物』と呼ぶ場合がある)は、本開示の第1の態様に係る立体造形物を製造するための液状組成物に則って表現すると、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、MP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む。
【0054】
また、インクジェット印刷装置において使用される、実施例1の液状組成物は、本開示の第2の態様に係る立体造形物を製造するための液状組成物に則って表現すると、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む。
【0055】
更には、インクジェット印刷装置において使用される、実施例1の液状組成物は、本開示の第3の態様に係る立体造形物を製造するための液状組成物に則って表現すると、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上である多孔質炭素材料を含む。
【0056】
実施例1にあっては、ケイ素の含有率が5質量%以上の植物由来の材料を原料としている。具体的には、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を米(稲)の籾殻とした。そして、実施例1における多孔質炭素材料は、原料としての籾殻を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得られる。以下、実施例1の液状組成物の調製方法を説明する。
【0057】
実施例1の液状組成物の製造においては、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化した後、酸又はアルカリで処理することによって、多孔質炭素材料を得た。即ち、先ず、籾殻に対して、不活性ガス中で加熱処理(予備炭素化処理)を施す。具体的には、籾殻を、窒素気流中において500゜C、3時間、加熱することにより炭化させ、炭化物を得た。尚、このような処理を行うことで、次の炭素化の際に生成されるであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(5リットル/分)において5゜C/分の昇温速度で800゜Cまで昇温させた。そして、800゜Cで1時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却した。尚、炭素化及び冷却中、窒素ガスを流し続けた。次に、この多孔質炭素材料前駆体を46容積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することで酸処理を行った後、水及びエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄した。次いで、120°Cにて乾燥させた後、窒素気流中で900゜Cまで昇温させた。そして、900゜Cで水蒸気気流中にて3時間加熱させることで賦活処理を行うことで、実施例1における多孔質炭素材料を得ることができた。こうして得られた実施例1における多孔質炭素材料のケイ素(Si)の含有率は、1質量%以下であった。
【0058】
次いで、こうして得られた多孔質炭素材料に基づき、以下の表1に示す組成の液状組成物を調製した。具体的には、表1に示す各種原料を超音波照射処理及び機械的撹拌処理に基づき混合することで調製した。また、比較例1として、東海カーボン株式会社製の自己分散型のカーボンブラック[AquaBlack 162」から成る液状組成物を用いた。
【0059】
[表1]

【0060】
比表面積及び細孔容積を求めるための測定機器として、BELSORP−mini(日本ベル株式会社製)を用い、窒素吸脱着試験を行った。測定条件として、測定平衡相対圧(p/p0)を0.01〜0.99とした。そして、BELSORP解析ソフトウェアに基づき、比表面積及び細孔容積を算出した。また、メソ細孔及びマイクロ細孔の細孔分布は、上述した測定機器を用いた窒素吸脱着試験を行い、BELSORP解析ソフトウェアによりBJH法及びMP法に基づき算出した。更には、非局在化密度汎関数法(NLDFT法)に基づく解析にあっては、日本ベル株式会社製自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP−MAX」付属のソフトウェアを使用した。尚、測定に際しては、試料の前処理として、200゜Cで3時間の乾燥を行った。
【0061】
実施例1における多孔質炭素材料及び比較例1におけるカーボンブラックについて、比表面積及び細孔容積を測定したところ、表2に示す結果が得られた。尚、表2中、「比表面積」及び「全細孔容積」は、窒素BET法による比表面積及び全細孔容積の値を指し、単位はm2/グラム及びcm3/グラムである。また、「MP法」、「BJH法」は、MP法による細孔(マイクロ細孔)の容積測定結果、BJH法による細孔(メソ細孔〜マクロ細孔)の容積測定結果を示し、単位はcm3/グラムである。累計細孔容積の測定結果を図3及び図4に示し、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布の測定結果を図5に示す。また、実施例1における多孔質炭素材料及び比較例1におけるカーボンブラックにおいて、全細孔の容積総計に対する3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、以下のとおりであった。
実施例1:0.143 (全細孔の容積総計:2.182cm3/グラム)
【0062】
[表2]
比表面積 全細孔容積 MP法 BJH法
実施例1 1120 1.02 0.461 0.672
【0063】
実施例1の立体造形物の製造方法は、実施例1の液状組成物をインクジェット印刷装置の吐出ノズル部から吐出する工程を、複数回、繰り返し、以て、基体上に立体造形物を構築する。
【0064】
そして、実施例1の立体造形物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、MP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成されている。あるいは又、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成されている。あるいは又、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成されている。
【0065】
実施例1にあっては、市販のインクジェット印刷装置を使用した。そして、表1に示した各種液状組成物を、試験のため、基体であるインクジェット用紙上に吐出して立体造形物を得た。
【0066】
具体的には、柱状の立体造形物を得た。得られた立体造形物の写真を図1に示す。尚、図1は、立体造形物を横から眺めたとき得られた立体造形物の写真であり、写真の下方に基体が位置し、基体上で、柱状の立体造形物が上方に向かって略垂直に伸びている。実施例1−A〜実施例1Dの液状組成物を用いた場合、柱状の立体造形物が得られた。一方、比較例1の液状組成物を用いた場合、柱状の立体造形物は得られず、立体造形物は球状となり、所望の立体造形物が得られなかった。
【0067】
比較例1の液状組成物にあっては、粒径数ナノメートルから数十ナノメートルの球状のカーボンブラックを原料としており、カーボンブラックを含有する液状組成物を吐出したとき、溶媒が乾燥するに従い、次第にカーボンブラックが密にパッキングされ、その結果、溶媒の乾燥が抑制され、結果として球状に膨れた構造体となり易いと考えられる。
【0068】
一方、実施例1−A〜実施例1−Dの液状組成物を用いた場合、液状組成物に含有される多孔質炭素材料は、細孔構造が発達しており、しかも、表面が凹凸形状であるが故に、液状組成物を吐出して積層する際に、基体に溶媒が浸透し易く、また、溶媒が空気中に拡散して乾燥し易いため、柱状形状の積層が可能になったと考える。しかも、実施例1−Dの液状組成物を吐出して得られた立体造形物の図1の写真に示すように、液状組成物の組成を調整することにより、安定した柱状形状の立体造形物の形成が可能であることも判った。
【0069】
また、立体造形物を横から眺めたとき得られた立体造形物の写真を図2の(A)に示すように、実施例1−Cの液状組成物を吐出した際に基体である台紙(写真の下方に位置する)を水平方向(図2の(A)の紙面に垂直な方向)に動かすことで、構造体の作製が可能であった。更には、立体造形物を横から眺めたとき得られた立体造形物の写真を図2の(B)に示すように、実施例1−B及び実施例1−Dの液状組成物を用い、基体をガラス基板とした場合であっても、柱状形状の立体造形物の形成が可能であることが判った。尚、基体であるガラス基板は写真の下方に位置し、カラス基板に立体造形物が反射した状態が写真に写り込んでいる。
【実施例2】
【0070】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2の立体造形物において、基体はガラス基板から成り、立体造形物は細胞培養足場材を構成する。細胞培養足場材にあっては、培養温度である37゜C前後に暖められた細胞培養足場材から、徐々に培養に必要な成分である放出物質が放出されることが重要である。実施例2にあっては、具体的には、粉末のポリ乳酸と実施例1−Dの液状組成物とを混合し、実施例1にて説明した立体造形物の製造方法で、ガラス基板を基体として用いて、細胞培養足場材としての立体造形物を製造した。細胞培養足場材は、概ね、多孔質構造といった3次元形状を有する。この細胞培養材料を構成する多孔質炭素材料に、細胞の成長因子となる蛋白質等を吸着、徐放させることで、細胞培養材料の上で細胞の培養を容易に、且つ、確実に行うことができる。具体的には、細胞培養に必要な細胞成長因子(例えば、上皮成長因子、インスリン様成長因子、トランスフォーミング成長因子、神経成長因子等)を細胞培養材料を構成する多孔質炭素材料に吸着させ、徐放させることで、効率よく各種細胞を培養することができた。
【0071】
以上、好ましい実施例に基づき本開示を説明したが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。実施例にあっては、多孔質炭素材料の原料として、籾殻を用いる場合について説明したが、他の植物を原料として用いてもよい。ここで、他の植物として、例えば、藁、葦あるいは茎ワカメ、陸上に植生する維管束植物、シダ植物、コケ植物、藻類及び海草等を挙げることができ、これらを、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。具体的には、例えば、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を稲の藁(例えば、鹿児島産;イセヒカリ)とし、多孔質炭素材料を、原料としての藁を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。あるいは又、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を稲科の葦とし、多孔質炭素材料を、原料としての稲科の葦を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。また、フッ化水素酸水溶液の代わりに、水酸化ナトリウム水溶液といったアルカリ(塩基)にて処理して得られた多孔質炭素材料においても、同様の結果が得られた。
【0072】
あるいは又、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を茎ワカメ(岩手県三陸産)とし、多孔質炭素材料を、原料としての茎ワカメを炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。具体的には、先ず、例えば、茎ワカメを500゜C程度の温度で加熱し、炭化する。尚、加熱前に、例えば、原料となる茎ワカメをアルコールで処理してもよい。具体的な処理方法として、エチルアルコール等に浸漬する方法が挙げられ、これによって、原料に含まれる水分を減少させると共に、最終的に得られる多孔質炭素材料に含まれる炭素以外の他の元素や、ミネラル成分を溶出させることができる。また、このアルコールでの処理により、炭素化時のガスの発生を抑制することができる。より具体的には、茎ワカメをエチルアルコールに48時間浸漬する。尚、エチルアルコール中では超音波処理を施すことが好ましい。次いで、この茎ワカメを、窒素気流中において500゜C、5時間、加熱することにより炭化させ、炭化物を得る。尚、このような処理(予備炭素化処理)を行うことで、次の炭素化の際に生成されるであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(10リットル/分)において5゜C/分の昇温速度で1000゜Cまで昇温する。そして、1000゜Cで5時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却する。尚、炭素化及び冷却中、窒素ガスを流し続ける。次に、この多孔質炭素材料前駆体を46容積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することで酸処理を行った後、水及びエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄する。そして、最後に乾燥させることにより、多孔質炭素材料を得ることができる。
【0073】
尚、本開示は、以下のような構成を取ることもできる。
[1]《液状組成物:第1の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、MP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む、インクジェット印刷装置において使用される、立体造形物を製造するための液状組成物。
[2]《液状組成物:第2の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む、インクジェット印刷装置において使用される、立体造形物を製造するための液状組成物。
[3]《液状組成物:第3の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上である多孔質炭素材料を含む、インクジェット印刷装置において使用される、立体造形物を製造するための液状組成物。
[4]多孔質炭素材料は、ケイ素の含有率が5質量%以上の植物由来の材料を原料としている[1]乃至[3]のいずれか1項に記載の立体造形物を製造するための液状組成物。
[5]更に、界面活性剤、浸透剤及び保湿剤が含まれている[1]乃至[4]のいずれか1項に記載の立体造形物を製造するための液状組成物。
[6]立体造形物によって細胞培養足場材が構成される[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の立体造形物を製造するための液状組成物。
[7]《立体造形物の製造方法の製造方法:第1の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、MP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む液状組成物をインクジェット印刷装置の吐出ノズル部から吐出する工程を、複数回、繰り返し、以て、基体上に立体造形物を構築する立体造形物の製造方法。
[8]《立体造形物の製造方法の製造方法:第2の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む液状組成物をインクジェット印刷装置の吐出ノズル部から吐出する工程を、複数回、繰り返し、以て、基体上に立体造形物を構築する立体造形物の製造方法。
[9]《立体造形物の製造方法の製造方法:第3の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上である多孔質炭素材料を含む液状組成物をインクジェット印刷装置の吐出ノズル部から吐出する工程を、複数回、繰り返し、以て、基体上に立体造形物を構築する立体造形物の製造方法。
[10]《立体造形物:第1の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、MP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成された立体造形物。
[11]《立体造形物:第2の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成された立体造形物。
[12]《立体造形物:第3の態様》
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成された立体造形物。
[13]
細胞培養足場材を構成する[10]乃至[12]のいずれか1項に記載の立体造形物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、MP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む、インクジェット印刷装置において使用される、立体造形物を製造するための液状組成物。
【請求項2】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む、インクジェット印刷装置において使用される、立体造形物を製造するための液状組成物。
【請求項3】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上である多孔質炭素材料を含む、インクジェット印刷装置において使用される、立体造形物を製造するための液状組成物。
【請求項4】
多孔質炭素材料は、ケイ素の含有率が5質量%以上の植物由来の材料を原料としている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の立体造形物を製造するための液状組成物。
【請求項5】
更に、界面活性剤、浸透剤及び保湿剤が含まれている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の立体造形物を製造するための液状組成物。
【請求項6】
立体造形物によって細胞培養足場材が構成される請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の立体造形物を製造するための液状組成物。
【請求項7】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、MP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む液状組成物をインクジェット印刷装置の吐出ノズル部から吐出する工程を、複数回、繰り返し、以て、基体上に立体造形物を構築する立体造形物の製造方法。
【請求項8】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む液状組成物をインクジェット印刷装置の吐出ノズル部から吐出する工程を、複数回、繰り返し、以て、基体上に立体造形物を構築する立体造形物の製造方法。
【請求項9】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上である多孔質炭素材料を含む液状組成物をインクジェット印刷装置の吐出ノズル部から吐出する工程を、複数回、繰り返し、以て、基体上に立体造形物を構築する立体造形物の製造方法。
【請求項10】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、MP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成された立体造形物。
【請求項11】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成された立体造形物。
【請求項12】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.1以上である多孔質炭素材料を含み、基体上に形成された立体造形物。
【請求項13】
細胞培養足場材を構成する請求項10乃至請求項12のいずれか1項に記載の立体造形物。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−35251(P2013−35251A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175278(P2011−175278)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】