説明

立体駐車場の床構造

【課題】高剛性で、充分な強度と耐久性を有し、施工管理が容易な立体駐車場の床構造を短期の施工期間で得る。
【解決手段】駐車場の外周を囲むように、支柱1を複数立設して配置する。隣接する支柱1間に駐車場の外周を囲むように外梁2を設ける。外梁2によって囲まれた駐車場の内側に支柱1間にわたり梁3を設ける。梁3間にかけ渡して所定のプレストレスが導入されたプレキャストコンクリート板を敷設する。プレキャストコンクリート板の上面にコンクリートを打設して床スラブ4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体駐車場の床構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
立体駐車場において、車両の収納効率を高めると共に場内の視界を向上させ、同時に車路の充分な強度と耐久性を確保できる床構造として、ポストテンション方式のプレストレストコンクリート梁およびポストテンション方式のプレストレストコンクリートからなる床スラブを用いた駐車場の床構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3119635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているポストテンション方式のプレストレストコンクリート(PC)を用いる技術では、施工現場において、PC鋼材を凹形状に湾曲した弛緩状態で張設し、そこにコンクリートの打設を行い、コンクリートが完全に硬化した後にPC鋼材を緊張させてコンクリートにストレスを加えるという複雑な工程をとるため、施工工期が長くなり、施工コストが高くなるという問題がある。また、施工現場でPC鋼材を緊張させてコンクリートに所定のストレスを加える作業は、慎重に行う必要があるため施工管理も容易ではない。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、充分な強度と耐久性を確保できるとともに、資材の節約と工期の短縮により、現場作業能率が向上し管理項目の削減により品質管理も容易な立体駐車場の床構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
[1] 駐車場の外周に配置された支柱によって支持された床スラブと、前記床スラブ上に形成された車室グリッドおよび車路とからなる立体駐車場の床構造において、前記支柱間に前記床スラブを支持する梁が設けられ、前記床スラブは、前記梁間に敷設された、所定のプレストレスが導入されたプレキャストコンクリート板と、前記プレキャストコンクリート板の上面に打設されたコンクリートとにより構成されている立体駐車場の床構造。
[2] 前記プレキャストコンクリート板の横断面がチャンネル形状または突起の付いた形状である前記[1]記載の立体駐車場の床構造。
【0007】
以下に、参考例を示す。
[3] 所定間隔をあけて互いに平行に複数並列して配設された壁列が、所定間隔をあけて複数配置され、床スラブが支持されるとともに、前記床スラブ上に車室グリッドおよび車路が形成された立体駐車場の床構造であって、前記壁列は鉄筋コンクリート構造の耐力壁からなり、前記床スラブは、前記耐力壁間に設けられた中空スラブからなり、前記中空スラブは、鉄筋コンクリート内に埋め込まれたボイドによって中空部が設けられている鉄筋コンクリートスラブからなり、前記耐力壁と前記中空スラブとの接合部は、前記耐力壁を構成する鉄筋コンクリートと前記中空スラブを構成する鉄筋コンクリートとが一体となり剛接合されていることを特徴とする立体駐車場の床構造。
【発明の効果】
【0008】
(1)上記[1][2]においては、床スラブは支柱および梁を形成することによって成り立っている。梁間に敷設されたプレキャストコンクリート板に所定のプレストレスが導入されているので、高剛性であるともに、長期クリープたわみが極めて少なくひび割れに対して強いことから、充分な強度と耐久性を確保することができる。
【0009】
(2)梁間に敷設したプレキャストコンクリート板に所定のプレストレスが導入されているので、高剛性であり、梁間の距離が長くとも支保工なしで床スラブの施工ができ、支保工を設置する工程が不要である。
【0010】
(3)プレキャストコンクリート板を用いているので、施工現場での硬化時間が省略され、施工工期が大幅に短縮される。
【0011】
(4)施工現場でPC鋼材を緊張させてコンクリートに所定のストレスを加えるという慎重に行う必要がある作業が不要であるので、施工管理が容易である。
【0012】
(5)上記[3]の参考例おいて、駐車スペース間に耐力壁を設け、耐力壁間に中空スラブを設けたこの構造形式は、一般的に「ボイドラーメン構造」と呼ばれている。この構造形式の特徴は、プレキャストコンクリート板と異なり、在来中空スラブの特性であるスラブの下端引張に対して有効であり、これを利用し、耐力壁と中空スラブとを剛接合することにより、壁とスラブとからなるラーメン架構を形成できる。
【0013】
(6)駐車スペース間に耐力壁を設け、床スラブとして在来の中空スラブを使用するこの構造形式は、支柱および梁が不要であり、柱型および梁型のない空間を造ることが可能である。従って、柱型の省略によるデッドスペースの低減および梁型の省略による階高の低減を可能とする。また、建物がマッチ箱の様な連続ボックスにて形成されるので型枠工事の簡略化および施工性の向上を図ることができる。
【0014】
(7)中空スラブは、現場打ちコンクリートスラブにボイドを埋め込むことにより必要度の低い断面の中央部に孔をあけて荷重を低減することができ、孔の方向では曲げに対して有効なI型梁の集合体としている。
【0015】
(8)駐車スペース間に設けられる耐力壁は、鉛直荷重を支持すると同時に中空スラブと剛接合された壁の厚さ方向については水平力を負担する柱の集合体としている。また、この壁は厚さ方向にて応力を負担させるので通常の耐力壁より壁厚が厚くなる傾向にあるので建物の階数が多い場合は壁の中央部に中空管を埋め込むことにより荷重の低減を図ることが可能である。
【0016】
(9)この構造形式で問題となるのが、柱や梁に比べて薄い床(中空スラブ)と耐力壁とによってラーメン架構を形成しているので地震時における水平剛性の低下であるが、この問題については建物外周部の手すりを鉄筋コンクリート造りとし、これを建物の剛性を向上させる梁として活用することにより解決可能である。また、中空スラブと耐力壁との接合部、いわゆる接合部パネルの剪断耐力の低下については、中空スラブ端部にハンチを設けることにより解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態としての、駐車場の基準階の床構造を示す概略平面図、図2は、図1のA−A線断面図、図3は、図2のB−B線断面図、図4は、この実施形態において用いるプレキャストコンクリート板を示す斜視図である。
【0019】
図1に示すように、駐車場の外周を囲むように、支柱1が複数立設されて配置されている。隣接する支柱1と支柱1との間には、駐車場の外周を囲むように、外梁2が水平に設けられている。外梁2によって囲まれた駐車場の内側には、図1に示す右側の支柱1と左側の支柱1との間にわたり、梁3が水平に設けられている。
【0020】
梁3の上面には、図3、図4に示すような、プレストレスが導入されたプレキャストコンクリート板10が、梁3と梁3との間にかけ渡されており、このように梁3と梁3との間にかけ渡されたプレキャストコンクリート板10は、図1に示す左側の外梁2から右側の外梁2まで複数枚整列して敷設されている。図3、図4に示すように、プレキャストコンクリート板10のリブ部分にはPC鋼材11が配置され、かくして、プレストレスが導入されている。
【0021】
図3、図4に示すように、本実施形態においては、溝を有する、凹状の、横断面がチャンネル形状のプレキャストコンクリート板が用いられている。図4に示すように、プレキャストコンクリート板10の単体は、2つの溝を有するように2列に構成されており、このように、プレキャストコンクリート板10のひとつひとつは容易に搬送可能な大きさなので、敷設作業が容易である。
【0022】
このように敷設された複数のプレキャストコンクリート板10の上面には、互いに直交して配置された上端筋21、および、下端連結筋22(端部のみ)が配筋され、コンクリート20が打設されている。このようにして打設されたコンクリート20とプレキャストコンクリート板10とにより、床スラブ4が形成される。このようなコンクリート20とプレキャストコンクリート板10とによりハーフPC床板が構成される。更に、床スラブ4上には、車室グリッドおよび車路が形成されて駐車場の床構造が構成される。図1に示すように、立体駐車場には多数の駐車室5が形成される。
【0023】
本実施の形態においては、プレキャストコンクリート板10に所定のプレストレスが導入されており、更に、断面係数が高いチャンネル形状の断面であることから、非常に高い剛性を備えた床構造となっており、充分な強度と耐久性を確保できる。
【0024】
また、プレキャストコンクリート板10を用いることにより、梁3と梁3との間の距離が長くとも支保工を用いずに床スラブの施工をすることができ、支保工を設置する工程が不要である。更に、施工現場でのコンクリート硬化時間が省略されることから、施工工期が大幅に短縮される。例えば、特許文献1に記載の発明のような工法では10日間かかっていたものが約半分の5日間に短縮される。
【0025】
さらに、施工現場でPC鋼材を緊張させてコンクリートに所定のストレスを加えるという慎重に行う必要がある作業が不要であるので、施工管理も容易である。
【実施例1】
【0026】
実施形態では、プレキャストコンクリート板として、横断面がチャンネル形状のものを用いているが、実施例1として、図5に示すような、横断面が突起の付いた形状のものを用いても同様の効果を得ることができる。図5において、12は、リブ部分にPC鋼材13が配置されたプレキャストコンクリート板である。23は、プレキャストコンクリート板12の上面に打設されたコンクリート、24は、上端主筋、25は、上端配力筋である。
【実施例2】
【0027】
また、図6に示す実施例2においては、横断面が突起の付いた形状のものを用いているが、プレキャストコンクリート板15のリブ間に中空部30が設けられている。16は、リブ部分に配置されたPC鋼材、26は、プレキャストコンクリート板15の上面に打設されたコンクリート、27は、上端主筋、28は、上端配力筋、29は、FR板である。
【実施例3】
【0028】
また、場合によっては、断面係数は多少低下するが、図7に示すような、フラットな断面のプレキャストコンクリート板を用いることもできる。実施例3を示す図7において、17は、PC鋼材18が配置されたフラットな断面のプレキャストコンクリート板である。31は、プレキャストコンクリート板17の上面に打設されたコンクリート、32は、トラス筋、33は、型枠よりなる中空部である。
【0029】
図8〜14は、この発明の参考例に係る駐車場の床構造を示す図面であり、図8は、駐車場の基準階の床構造を示す一部切欠き平面図、図9は、図8のC−C線断面図、図10は、図8のD−D線断面図、図11、図12は、耐力壁と中空スラブとの接合部を説明する側面断面図、図13は、耐力壁および中空スラブを示す一部切欠き平面図、図14は、中空スラブを構成するI型梁を説明する中空スラブの部分断面図である。
【0030】
耐力壁41は、鉄筋46が配筋された鉄筋コンクリート44による鉄筋コンクリート構造からなり、5階分の高さ(5階は屋上)を有しており、駐車スペースのために必要な所定間隔をあけて地上から鉛直に立設されている。耐力壁41aは互いに平行に複数並列して配設され、耐力壁41bも互いに平行に複数並列して配設され、また、これら耐力壁41aが並んだ列と41bが並んだ列同士も所定間隔をあけて互いに平行となっている。
【0031】
耐力壁41間には、屋上も含めて(1階を除き)各階の高さにおいて、中空スラブ42が水平に設けられている。中空スラブ42は、鉄筋47が配筋されたコンクリート45内に並列して埋め込まれている、ボイド48からなる中空管によって中空部(孔)が設けられている鉄筋コンクリートスラブである。なお、図8、図13の一部切欠き平面図は、コンクリート45内に埋め込まれたボイド48の向きを示している。図8に示すように、中空スラブ42は、ボイド48の向きを変えて配置することもできる。また、図13は、図8とはボイド48の配列および向きが異なっている。ボイド48として、断面が円形のボイドやワインディングパイプを用いる。図13に示すように、ボイド48の何本かを中実48aとしてもよい。このようにしてコンクリート45内に埋め込まれたボイド48によって中空部(孔)が設けられた中空スラブ42が形成される。この中空スラブ42は、図14に示すようにボイド48とコンクリート45とによって構成されるI型梁の集合体となっている。
【0032】
耐力壁41と中空スラブ42との接合部においては、図11、図12に示すように、耐力壁41を構成する鉄筋46が配筋された鉄筋コンクリート44と、中空スラブ42を構成する鉄筋コンクリート45とが一体となっており、かくして、耐力壁41と中空スラブ42とが剛接合されている。また、地震時には接合部に大きな剪断力が生じるので、中空スラブ42の端部の下部にはハンチ43が設けられている。
【0033】
参考例において床スラブに用いられるコンクリート中空スラブ42は、プレキャストコンクリート板と異なり、スラブの下端引張に対しても有効であることが知られている。この特性を利用し、耐力壁41と中空スラブ42とをその接合部において剛接合することにより、耐力壁41と中空スラブ42とからなるラーメン架構が形成される。
【0034】
このような中空スラブ42からなる床スラブ6上には、車室グリッドおよび車路が形成され、駐車場の床構造が構成される。車室グリッドおよび車路は、スラブ梁構造体で形成した床構造とする。
【0035】
参考例に示す構造形式は、耐力壁41が柱(柱壁)として機能するとともに梁としても機能するので、柱および梁の使用を不要とする。また、耐力壁と中空スラブとから構成されているので、柱および梁型のない空間を造ることが可能であり、柱型の省略によるデッドスペースの低減および梁型の省略による階高の低減が可能である。更に、立体駐車場の建物がマッチ箱の様な連続ボックスにて形成されるので、型枠工事の簡略化および施工性の向上を図ることができる。
【0036】
中空スラブ42は、図13、図14に示すように、コンクリート45にボイド48を埋め込むことにより必要度の低い断面の中央部に孔(中空部)をあけて荷重を低減することができ、孔の方向では曲げに対して有効なI型梁(図14参照)を集合した集合体である。
【0037】
耐力壁41は、鉛直荷重を支持すると同時に中空スラブ42と剛接合され、耐力壁41の厚さ方向については水平力を負担する柱の集合体としている。また、この耐力壁41は、厚さ方向にて応力を負担させるので、通常の耐力壁より壁厚が厚くなる傾向にあるため、建物の階数が多い場合は壁の中央部に中空管を埋め込むことにより荷重の低減を図ることができる。
【0038】
この構造形式で問題となるのは、柱や梁に比べて薄い床および壁によってラーメン架構を形成しているので、地震時における水平剛性の低下である。そこで、この問題については、駐車場建物の外周部の手すりを鉄筋コンクリート造りとし、これを建物の剛性を向上させる梁として活用することにより解決することができる。また、中空スラブ42と耐力壁41との接合部、いわゆる接合部パネルの剪断耐力の低下については、中空スラブ端部にハンチ43を設けることにより解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態としての駐車場の基準階の床構造を示す概略平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図2のB−B線断面図である。
【図4】本発明の実施形態において用いる横断面がチャンネル形状のプレキャストコンクリート板を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施例1において用いる横断面が突起の付いた形状のプレキャストコンクリート板を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施例2において用いる横断面が突起の付いた形状のプレキャストコンクリート板を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施例3において用いるフラット断面のプレキャストコンクリート板を示す斜視図である。
【図8】本発明の参考例としての駐車場の基準階の床構造を示す一部切欠き平面図である。
【図9】図8のC−C線断面図である。
【図10】図8のD−D線断面図である。
【図11】参考例において用いる耐力壁と中空スラブとの接合部を説明する側面断面図である。
【図12】参考例において用いる耐力壁と中空スラブとの接合部を説明する側面断面図である。
【図13】参考例において用いる耐力壁および中空スラブを示す一部切欠き平面図である。
【図14】参考例において用いる中空スラブを構成するI型梁を説明する中空スラブの部分断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 支柱
2 外梁
3 梁
4 床スラブ
5 駐車室
6 床スラブ
10 プレキャストコンクリート板
11 PC鋼材
12 プレキャストコンクリート板
13 PC鋼材
14 プレキャストコンクリート板
15 プレキャストコンクリート板
16 PC鋼材
17 プレキャストコンクリート板
18 PC鋼材
20 コンクリート
21 上端筋
22 下端連結筋
23 コンクリート
24 上端主筋
25 上端配力筋
26 コンクリート
27 上端主筋
28 上端配力筋
29 FR板
30 中空部
31 コンクリート
32 トラス筋
33 中空部
41 耐力壁
42 中空スラブ
43 ハンチ
44 コンクリート
45 コンクリート
46 鉄筋
47 鉄筋
48 ボイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駐車場の外周に配置された支柱によって支持された床スラブと、前記床スラブ上に形成された車室グリッドおよび車路とからなる立体駐車場の床構造において、前記支柱間に前記床スラブを支持する梁が設けられ、前記床スラブは、前記梁間に敷設された、所定のプレストレスが導入されたプレキャストコンクリート板と、前記プレキャストコンクリート板の上面に打設されたコンクリートとにより構成されていることを特徴とする立体駐車場の床構造。
【請求項2】
前記プレキャストコンクリート板の横断面がチャンネル形状または突起の付いた形状である請求項1記載の立体駐車場の床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−190319(P2008−190319A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122997(P2008−122997)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【分割の表示】特願2004−261866(P2004−261866)の分割
【原出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(505025999)パーキングプロ株式会社 (1)