説明

立方体再結晶集合組織を有するニッケル系の半製品及びその製造方法及び使用

本発明は、再結晶立方体集合組織を有するニッケル系の半製品及びその製造方法及びその使用に関する。この半製品は、例えば高度に微細構造の配向を有する物理化学的被覆用の基材として使用可能である。このような基材は、例えば高温超電導の分野で使用されるようなセラミック被覆用の支持体として適している。この使用は、この場合、超伝導磁石、変圧器、モーター、断層撮影装置又は超伝導電流路において行われる。本発明の根底をなす課題は、高度に微細構造の配向を有する物理化学的被覆用の基材として使用する際に改善された使用特性を有するニッケル系の半製品を開発することであった。特に、前記半製品は、高度で熱安定性の立方体集合組織を有しかつ粒界溝の形成は十分に抑制されるのが好ましい。前記課題は、半製品の材料がマイクロアロイの範囲内でAg添加物を含有し、Ag添加物が最大で0.3Atom%であることにより解決される。この半製品は、例えば高度に微細構造の配向を有する物理化学的被覆用の基材として使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方体再結晶集合組織を有するニッケル系の半製品及びその製造方法に関する。
【0002】
この半製品は、例えば高度に微細構造の配向を有する物理化学的被覆用の基材として使用可能である。このような基材は、例えば高温超電導の分野で使用されるようなセラミック被覆用の支持体として適している。この使用は、この場合、超伝導磁石、変圧器、モーター、断層撮影装置又は超伝導電流路において行われる。
【0003】
面心立方格子を有する多結晶金属、例えばニッケル、銅及びアルミニウムは、予め圧延によって著しく冷間加工された後に、後続する再結晶時に立方体層(Wuerfellage)を有する特徴的な集合組織を形成することができることは公知である(G. Wassermann著:Texturen metallischer Werkstoffe, Springer, Berlin, 1939)。このように集合組織形成された金属ベルト、特にニッケルベルトは、金属被覆、セラミック緩衝層及びセラミック超伝導層用の基材としても使用される(US 5,741, 377)。支持体材料としてのこのような金属ベルトの適性は、集合組織形成の達成可能な程度及び被覆方法を作業する温度の範囲内での前記集合組織の安定性に決定的に依存する。
【0004】
Ni−Cr、Ni−Cr−V、Ni−Cu及び類似の合金からなる高温超電導体を製造するための既に集合組織形成された半製品は公知である(US 5,964, 966; US 6,106, 615)。
【0005】
この目的のためにMo及びWを有するNi合金も公知である(DE 100 05 861 C1)
この公知の半製品は次の欠点を有する:
− ニッケルは冷間加工及び焼き鈍しによる再結晶化の後に、粗大な結晶粒構造を形成する傾向が強く、前記の粗大な結晶粒構造は高度な立方体集合組織の達成に不利である、
− 冷間加工されたNi−ベルトは、特に高温(800〜1150℃)での熱処理による再結晶化の際に粒界溝を形成する傾向が強い、
− 前記粒界溝は高度な二軸の立方体集合組織の形成を著しく阻害する、
− 粒界溝を有する支持体材料は、エピタキシャル層析出のための、例えば緩衝層及び超伝導層のための基材としてあまり適していない。
【0006】
本発明の根底をなす課題は、高度に微細構造の配向を有する物理化学的被覆用の基材として使用するための改善された使用特性を有するニッケル系の半製品を開発することであった。特に、前記半製品は、高度でかつ熱安定性の立方体集合組織を有するのが好ましくかつ粒界溝の形成は十分に抑制されるのが好ましい。前記の課題中には、前記半製品の製造方法の開発も含まれる。
【0007】
前記課題は、半製品の材料がマイクロアロイの範囲内でAg添加物を含有し、Ag添加物が最大で0.3Atom%であることにより解決される。
【0008】
本発明の有利な実施態様の場合には、前記Ni合金は合金元素としてMo及び/又はWを含有することができる。
【0009】
前記半製品上には、本発明により、>90%の集合組織割合を有する、立方体集合組織形成されたNiO層が存在することができる。この層は拡散バリアとして適していて、特に酸化条件下で質的に高い価値の被覆の製造を可能にする。
【0010】
本発明によるAg添加物を用いて、高度な立方体集合組織の形成は促進されかつ半製品のNi表面上での粒界溝の熱による形成は抑制される。更に、Ag添加物は、半製品上に高度な立方体集合組織を備えたNiO層を成長させることを可能にする。
【0011】
本発明による半製品の製造方法は、まず、機械的合金を含めた溶融冶金的又は粉末冶金的な方法で、最大で0.3Atom%のマイクロアロイの範囲内でAg添加物を含有している工業的純度のNi又はNi合金からなる半製品を製造することを特徴とする。その後で、この半製品は熱間加工し、引き続き高度な冷間加工により>80%の厚さの減少率でベルト又は平面ワイヤに加工される。最後に、この半製品を焼き鈍して再結晶させて立方体集合組織を達成する。
【0012】
この再結晶させる焼き鈍しの後又はその間に、こうして製造された半製品は、本発明の場合に立方体集合組織形成されたNiO層を成長させる目的で酸化性の雰囲気中で熱処理することができる。
【0013】
前記半製品は、本発明の場合に、高度な微細構造の配向を有する物理化学的被覆用の基材として、特にワイヤ状の又はベルト状の高温超電導体の製造のために使用することができる。
【0014】
本発明を、次に本発明の成果のある試験を示す実施例を用いて更に詳説する。この試験結果の一部を図1及び2及び下記の表1に示す。
【0015】
実施例1
Ni純度99.9Atom%の工業的純度のニッケルを、銀0.01Atom%を合金して金型に注ぎ込んだ。インゴットを1000℃で四角形寸法(22×22)mmの寸法に圧延し、均質に焼き鈍し、急冷した。引き続き、この四角形材料を切削により仕上げ加工して、圧延による引き続く冷間加工のために無欠陥の表面を得た。この冷間加工は、80%を越えて厚さを減少させる圧下率で実施され、この場合99.6%で実施される。生じるニッケルベルトは、80μmの厚さを有し、かつ高度に圧延により集合組織形成されていた。その後に、550℃で酸化しないガス雰囲気中で30分間の焼き鈍し処理を行った。
【0016】
この結果は、図1による写真からも明らかなように、極めて鋭い再結晶集合組織であった。立方体層を有するクリスタリットの割合は98%であり、小角度粒界の割合は同様に98%であった。X線回折の場合の(111)極の強度の半値幅はFWHM=4.4°であった。
【0017】
実施例2
Ni純度99.9Atom%の工業的純度のニッケルを、銀0.01Atom%を合金して真空誘導炉中で融解させて、金型に注ぎ込んだ。インゴットを1000℃で四角形寸法(22×22)mmの寸法に圧延し、均質に焼き鈍し、急冷した。引き続き、この四角形材料を切削により仕上げ加工して、圧延による引き続く冷間加工のために無欠陥の表面を得た。この冷間加工を、80%を越えて厚さを減少させる圧下率で実施し、この場合99.6%で実施した。生じるニッケルベルトは、80μmの厚さを有し、かつ高度に圧延により集合組織形成されていた。その後に、550℃で還元性のガス雰囲気中で30分間の焼き鈍し処理を行った。
【0018】
この結果はほとんど完全な立方体再結晶集合組織であった。引き続き、このベルトを純粋な酸素ガス中で1150℃で5分間の酸化を行った。
【0019】
生じたニッケル酸化物層は立方体集合組織を有し、その際、結晶粒の97%は立方体層を有していた。この集合組織はニッケルベルトの集合組織に対して45°回転していた(図2参照)。(111)極のこのFWHM値は6.2°であった。
【0020】
実施例3
工業的純度のニッケルを、銀0.1%を合金して融解させ、金型に注ぎ込んだ。インゴットを1100℃で四角形寸法(22×22)mmの寸法に圧延し、均質に焼き鈍し、急冷した。引き続き、この四角形材料を切削により仕上げ加工して、圧延による引き続く冷間加工のために無欠陥の表面を得た。この冷間圧延を、85%の厚さ減少の圧下率で実施した。生じたニッケルベルトは3mmの厚さを有し、引き続き850℃で30分間の焼き鈍し処理を行って再結晶させた。その後、この表面を清浄化し、このベルトを80μmの厚さに冷間加工した。引き続き、850℃で45分間、還元性の雰囲気中で焼き鈍して立方体集合組織を作成した。
【0021】
実施例4
工業的純度のニッケル粉末を、タングステン粉末4.0Atom%及び銀粉末0.1Atom%の添加下で粉末冶金的に加工した。この場合、プレス成形、熱処理、熱間加工の後に、(12×12)mmの棒材が得られた。この表面を切削により仕上げ加工して、圧延による引き続く冷間加工のために無欠陥の表面を得た。この冷間圧延は(10×10)mmの寸法から出発して厚さ80μmの仕上がり寸法になるまで実施した。前記ベルトの縁部領域を除去して廃棄した。この得られたニッケルベルトを、引き続きまず550℃で還元性の雰囲気中で30分間焼き鈍し処理を行って再結晶させた。その後、このベルトを還元性の雰囲気中で1100℃で8分間の第2の焼き鈍しで処理して、熱的に高負荷可能な立方体層を調節した。
【0022】
次に記載する表1は、番号5及び6の支持体の値で、FWHM(111)値に関して先行技術(支持体番号1〜4)と比較して本発明によるAg添加の有利な影響を示した。
【0023】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による再結晶集合組織を示す写真。
【図2】本発明による立方体集合組織を示す写真(a)及びグラフ(b)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業的純度のNi又はニッケル合金からなる、立方体再結晶集合組織を有するニッケル系のベルト状の又は平面ワイヤ状の半製品において、前記材料はマイクロアロイの範囲内でAg添加物を含有し、前記Ag添加物は最大で0.01Atom%〜0.3Atom%であることを特徴とする、ニッケル系の半製品。
【請求項2】
Ni合金が合金元素としてMo及び/又はWを含有することを特徴とする、請求項1記載の半製品。
【請求項3】
半製品上に>90%の集合組織割合を有する立方体集合組織形成されたNiO層が存在することを特徴とする、請求項1又は2記載の半製品。
【請求項4】
まず、機械的合金を含めた溶融冶金的又は粉末冶金的な方法で、最大で0.3Atom%のマイクロアレイの範囲内でAg添加物を含有している工業的純度のNi又はNi合金からなる半製品を製造し、その後で前記半製品を熱間加工し、引き続き>80%の厚さの減少率の高度な冷間加工によりベルト又は平面ワイヤに加工し、最終的に前記半製品を再結晶させる焼き鈍しを行って立方体集合組織を生じさせることを特徴とする、請求項1又は2記載の半製品の製造方法。
【請求項5】
半製品を、再結晶させる焼き鈍しの後又はその間に、立方体集合組織形成されたNiO層を成長させる目的で酸化性の雰囲気中で熱処理することを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
高度に微細構造の配向を有する物理化学的被覆用の基材としての、特に平面ワイヤ状又はベルト状の高温超伝導体の製造のための、請求項1から3までのいずれか1項記載の半製品の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−505215(P2007−505215A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525826(P2006−525826)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052083
【国際公開番号】WO2005/024077
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(502098145)
【氏名又は名称原語表記】Leibniz−Institut fuer Festkoerper− und Werkstoffforschung Dresden e.V.
【住所又は居所原語表記】Helmholtzstrasse 20, D−01069 Dresden, Germany
【Fターム(参考)】