説明

端末システム異常検出装置、端末システム異常検出方法、端末システム並びにプログラム

【課題】従来のプロトコルアナライザによるプロトコル解析では検出の困難な伝送線の接続不良等の異常を検出することのできる端末システム異常検出装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る端末システム異常検出装置は、複数の端末が伝送線10で接続されて構成された端末システム1の異常を検出する端末システム異常検出装置20であって、伝送線10を介して複数の端末と信号の送受信を行う通信部36と、複数の端末から送信された信号の信号レベルを計測する信号レベル計測部33と、予め求められている伝送線10を伝搬する信号の信号レベルの減衰量に基づいて、基準信号レベルを求める基準信号レベル決定部52と、複数の端末のうちの所定の端末から受信した信号の信号レベルと基準信号レベルを比較して、前記伝送線の異常を判定する異常判定部55と、を備えることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端末システム異常検出装置、端末システム異常検出方法、端末システム並びにプログラムに関し、特に他の種類の端末システム異常検出装置では検出することが難しい端末システムの異常を検出することのできる端末システム異常検出装置及びこれを用いた端末システム異常検出方法、端末システム並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の建物内で用いられる一般的な空調システム等の端末システムは、室外機、室内機、リモコンといった複数の端末が金属製のツイストペア線である伝送線に接続しており、所定のプロトコルに従って信号を通信することにより動作している。
【0003】
このような空調システム等の端末システムの設置作業において、設置後の動作確認で空調機等が正常に動作しないことがある。このような動作不良の原因として、例えば適切な冷媒量を充填しなかったといった冷媒系の問題や、空調機の基板やモータの初期不良といった機械・電気系の問題があるが、その他に伝送線の配線ミス等により通信ができないといった通信系の問題が挙げられる。
【0004】
上記のような通信系の異常の原因究明には、専用のプロトコルアナライザが用いられる。このプロトコルアナライザを伝送線に接続し、動作中の空調システム等の端末システムで通信されている信号を取得して、この信号のシーケンスを解析したり、任意の空調機に信号を送信して、応答信号の有無を確認したりすることにより異常の原因を調査していく。
【0005】
従来のプロトコルアナライザ(通信システム異常検出装置)では、伝送路上の信号を所定のプロトコルに従って解析し、所定のプロトコルとは異なる形で信号が通信されていることを検出した場合、オシロスコープにトリガーを出力し、その時の信号波形を取得するようにしていた(例えば、特許文献1参照)。所定のプロトコルとは異なる信号の例としては、例えばショートパケット(信号が途切れること)、フレームチェックコードエラー、応答なしエラー等が挙げられる。
【0006】
なお、従来の一般的なプロトコルアナライザは、プロトコルの異常のみを検出するものが多い。しかし、特許文献1に示すプロトコルアナライザでは、プロトコル異常時の信号波形を同時に取得するようにしているので、信号波形を物理的に解析することができ、従来の一般的なプロトコルアナライザでは原因の特定が困難であった異常も短時間で解決することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−318471号公報(第1頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来のプロトコルアナライザでは(例えば、特許文献1参照)、プロトコル解析で異常が検出できる場合や、全く通信ができない場合に効果を発揮するものの、プロトコル解析では正常と判断されてしまうような軽度の異常を検出することは困難であるという問題点があった。
【0009】
例えば、伝送線を空調機の端子台に接続する時に、十分に端子台に接続されず接触不良が起こっていたとする。このような接触不良が通信に支障をきたさない程度であれば、従来のプロトコルアナライザの解析では異常は見逃されてしまう。しかし、接触不良の個所で信号は減衰し、外部や空調機からのノイズの影響により通信失敗が起こりやすくなり、信号の再送によるトラフィック増加の原因となる。また、時間経過とともに端子台から伝送線が完全に外れ、周囲にある電源配線等をショートさせる可能性もある。
【0010】
本発明は、上記のような問題点を鑑みてなされたものであり、従来のプロトコルアナライザによるプロトコル解析では検出の困難な伝送線の接続不良等の異常を検出することのできる端末システム異常検出装置及びこれを用いた端末システム異常検出方法、端末システム並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明に係る端末システム異常検出装置は、複数の端末が伝送線で接続されて構成された端末システムの異常を検出する端末システム異常検出装置であって、前記伝送線を介して前記複数の端末と信号の送受信を行う通信手段と、前記複数の端末から送信された信号の信号レベルを計測する信号レベル計測手段と、予め求められている前記伝送線を伝搬する前記信号の信号レベルの減衰量に基づいて、基準信号レベルを求める基準信号レベル決定手段と、前記複数の端末のうちの所定の端末から受信した信号の信号レベルと、前記基準信号レベルを比較して、前記伝送線の異常を判定する異常判定手段と、を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る端末システム異常検出装置では、従来のプロトコルアナライザでは検出が困難であった伝送線の接続不良といった軽度の異常も検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態1に係る端末システムの模式的な構成を示すシステム構成図である。
【図2】伝送線を流れる信号の信号波形の例を示した図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る端末システム異常検出装置の物理的構成を示した構成図である。
【図4】端末システム異常検出装置の演算部が実現する機能を説明するための機能ブロック図である。
【図5】端末インピーダンス記憶部が記憶する複数の端末の入力インピーダンス及び出力インピーダンスの内容の例を示した図である。
【図6】伝送線減衰量記憶部が記憶する各伝送線の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量の内容の例を示した図である。
【図7】端末システム異常検出装置が検出した検出結果の例を示す図である。
【図8】端末システム異常検出装置を用いた端末システム異常検出方法の手順を示したフローチャートである。
【図9】図1に示す端末システムにおいて、冷媒配管の全長を算出するために必要な構成を示す構成図である。
【図10】図9に示す端末システムの等価回路を示した図である。
【図11】周波数特性測定部が測定する測定用信号、反射信号、合成信号の時間変化を示すグラフである。
【図12】冷媒配管の全長Lが50mである場合に、測定用信号の周波数を変えて測定した周波数特性データを示すグラフである。
【図13】冷媒配管に分岐がある場合の端末システムの模式的な構成を示す模式図である。
【図14】冷媒配管の長さや特性を用いたシミュレーションにより算出された周波数特性データを示すグラフである。
【図15】周波数特性データから抽出した反共振周波数と、冷媒配管に分岐がない場合に用いた方法で算出したその周波数における冷媒配管の全長の関係を示した図である。
【図16】図15の周波数特性データ及び冷媒配管の長さから実際の冷媒配管の全長を求める方法を示す図である。
【図17】冷媒配管長算出部が周波数特性データから、冷媒配管の全長を算出するアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図18】本発明の実施形態2に係る端末システムの模式的な構成を示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1に係る端末システムについて添付の図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態1に係る端末システムは、この端末システムの異常を検出するための端末システム異常検出装置を備えている。なお、本実施形態では端末システムの例として、複数の空調機を備えた空調システムについて説明するが、本実施形態の端末システムは照明システム等のその他の端末システムにも適用することができる。
【0015】
図1は、本発明の実施形態1に係る端末システム1の模式的な構成を示すシステム構成図である。本発明の実施形態1に係る端末システム1は空調システムであり、端末としての室外機2、室内機3a、3b、3cと、室内機3a、3b、3cを操作するためのリモコン4a、4b、4cを備えている。なお本実施形態に係る端末システム1には、室内機及びリモコンがそれぞれ3つずつ備えられているが、室内機及びリモコンの数が任意の数でよいことは言うまでもない。
【0016】
また本実施形態に係る端末システム1は、室外機2と各室内機3a、3b、3cを接続する伝送線10、室外機2と各室内機3a、3b、3cを接続し、室外機2と各室内機3a、3b、3cの間で冷媒を循環させるための冷媒配管11を備えている。このように本実施形態に係る端末システム1は、複数の端末としての室外機2、室内機3a、3b、3cが伝送線10によって接続されることにより構成されている。
【0017】
さらに本実施形態に係る端末システム1は、伝送線10に接続され、端末システム1の異常を検出するための端末システム異常検出装置20、冷媒配管11に接続された周波数特性測定部21、冷媒配管11の全長を算出するための冷媒配管長算出部22を備えている。
【0018】
端末システム異常検出装置20は、複数の端末(室外機2、室外機3a、3b、3c等)が伝送線10によって接続されて構成された端末システム1の異常を検出するものである。本実施形態では、特に端末システム1の伝送線10の接続不良等の異常を検出するようになっている。
【0019】
また周波数特性測定部21は、冷媒配管11に対して複数の周波数の検査信号を送り、冷媒配管11を伝搬する複数の周波数の検査信号とその検査信号に対応する反射信号との合成信号の信号レベルを検出する周波数特性測定手段として機能する。
【0020】
さらに冷媒配管長算出部22は、周波数特性測定部21が検出した合成信号の信号レベルに基づいて、冷媒配管11の全長を算出する冷媒配管長算出手段として機能する。なお、周波数特性測定部21と冷媒配管長算出部22を用いて冷媒配管11の全長を求める方法については、後に説明する。
【0021】
室外機2や室内機3a、3b、3c等の空調機は、通信機能を備えており、伝送線10を介して所定のプロトコルに従い、リモコン4a、4b、4cからの制御信号や端末システム異常検出装置20からの検査信号を受信して、それらの信号に対して応答信号を送信できるようになっている。
【0022】
室外機2、室内機3a、3b、3c、リモコン4a、4b、4c、端末システム異常検出装置20等の各端末は、例えば1から255までの固有のアドレスが割り当てられており、このアドレスによって個々の端末の識別が可能となっている。図1に示す例では、室外機2のアドレスを1、室内機3aのアドレスを3、端末システム異常検出装置20のアドレスを100というような形でアドレスが設定されている。
【0023】
また伝送線10は、例えば金属製のツイストペア線からなる。この伝送線10には、室外機2、室内機3a、3b、3c等の端末を制御・操作するための情報がシリアルデータに変調された信号が流れる(伝搬)する。
【0024】
図2は、伝送線10を流れる信号の信号波形の例を示した図である。図2に示す信号波形は、デューティー比50%のAMI(Alternative Mark Inversion code)方式で変調されたものであり、伝送線10の間の電圧を測定したものである。
【0025】
図2に示す例では、1ビットデータが1の場合、正又は負の方向に交互に電圧が印加され、0の場合は電圧が印加されない。本実施形態では、1ビットデータが1の場合の信号の絶対値を信号レベルとする。建物内等の空調システムにおける通信速度は、9600bps(Bit Per Second)が一般的である。なお変調方式として、NRZ(Non Return Zero)方式やRZ(Return Zero)方式といった別の変調方式を用いることもできる。
【0026】
本実施形態において、室外機2、室内機3a、3b、3c等の端末が送信する信号の信号レベルは、いずれの端末も固定されている。しかし、これらの端末から送信された信号の信号レベルは、伝送線10の抵抗成分により減衰する。この信号レベルの減衰量は、伝送線10の長さと伝送線10の材料の種類等に依存し、伝送線10の単位長さ当たりの減衰量は、伝送線10の種類が同じであれば一定となる。従って、伝送線10全体の信号レベルの減衰量は、一般的に伝送線10の長さに比例する。
【0027】
また、室外機2、室内機3a、3b、3c等の端末の入力インピーダンスが低い場合等には、それらの端末自体が信号レベルの減衰の要因となり、端末の数が多くなるほど減衰量が増加する。
【0028】
ある端末1から別の端末2へ信号を送信したときの信号レベルの減衰量Gは、端末1から端末2までの伝送線長をL、伝送線の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量をD、任意の端末iの入力インピーダンスに起因した減衰量をEi、伝送線に接続されている全端末数をnとして、以下の式で表される。
【0029】

G=L×D+(E1+E2+・・・+En)・・・(式1)
【0030】
なお上記の式1は、信号を送信する端末の出力インピーダンスや端末iの出力インピーダンス等を無視した仮の式である。しかし式1から、端末iの入力インピーダンスによる信号レベルの減衰量は、接続される端末の数が多くなるほど増加することが分かる。なお正確な信号レベルの減衰量は、信号を送信する端末の出力インピーダンス等を加味したより複雑な計算式で算出する必要がある。
【0031】
また、端末1が送信する信号レベルをH、端末2が受信する信号レベルをIとすると、以下の式が成り立つ。なお以下の式も、式1と同様に仮の式である。
【0032】

I=H−G=H−L×D−(E1+E2+・・・+En)・・・(式2)

(但し、式1及び式2には、信号を送信した端末xの入力インピーダンスに起因する減衰量Exは含まない。)
【0033】
端末システム1における伝送線10の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量、送信端末から受信端末までの長さ、伝送線10に接続する端末ごとの入力インピーダンスに起因する信号レベルの減衰量を事前に知ることができれば、式2を用いて受信端末が受信する信号レベルの理論値を算出することができる。
【0034】
次に、端末システム異常検出装置20を含む端末全般の受信動作について説明する。端末は伝送線10に流れる信号の中から自己宛の信号を受信し、信号に含まれる内容に従った動作を行う。
【0035】
信号レベルが小さ過ぎる信号に対しては、端末がそもそも信号を検出できなかったり、データ異常のある信号を受信したりすることがある。従来のプロトコルアナライザは、所定のシーケンスに従った信号を受信できない、又はデータ異常のある信号を受信したといったプロトコル異常に基づいて端末システムの異常を検出している。
【0036】
しかし、プロトコル異常が起こらない軽度の端末システムの異常をプロトコルアナライザは検出できない。本実施形態に係る端末システム異常検出装置20では、上記の信号レベルの算出値と実際に受信した信号の信号レベルとを比較し、プロトコル異常が起こらない軽度の端末システムの異常を検出することができる。
【0037】
しかし、本実施形態に係る端末システム異常検出装置20でも、所定の値より小さい信号レベルの信号から正確な異常検出を行うことはできない。以下、このような正常な受信ができる信号レベルの所定の値を最小受信信号レベルと呼ぶこととする。
【0038】
図3は、本発明の実施形態1に係る端末システム異常検出装置20の物理的構成を示した構成図である。本実施形態に係る端末システム異常検出装置20は、演算部31、記憶部32、信号レベル計測部33、入力部34、表示部35、通信部36を備えている。
【0039】
演算部31は、例えばCPU(Central Processing Unit)から構成され、記憶部32に記憶された制御プログラム等を読み込むことにより、後述する様々な機能を実現する。
【0040】
また記憶部32は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリから構成される。記憶部32は、例えば演算部31が実行する制御プログラムを記憶する他、演算部31の一時的な作業領域として機能したり、後述する伝送線10の全長や伝送線10の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量を記憶したりする。
【0041】
通信部36は、伝送線10を介して複数の端末(室外機2、室内機3a、3b、3c等)と信号の送受信を行う通信手段として機能する。端末システム1では、上述のように各端末に固有のアドレスが設定されており、各端末から端末システム異常検出装置20(図1ではアドレス100)へ信号が送信されると、通信部36がその信号を受信して信号を受信した旨を演算部31に通知する。また例えば、信号が他の端末宛のアドレスである場合や、プロトコルが不正な場合にはその信号を破棄する等の処理を行う。
【0042】
また信号レベル計測部33は、端末から送信された信号の信号レベルを計測する信号レベル計測手段として機能する。信号レベル計測部33は、通信部36が受信した端末システム異常検出装置20宛の信号の信号レベルを計測し、この信号レベルを内部バッファ(図3において図示せず)等に記憶させる。
【0043】
入力部34は、例えばキーボードやマウス等のインターフェースから構成され、後述する伝送線10の全長や伝送線10の識別情報(種類、型番等)、伝送線10に接続される端末の数等を入力することができるようになっている。なお本実施形態では、入力部34は、少なくとも伝送線10の全長と、伝送線10の識別情報を含むネットワーク情報を入力する入力手段として機能する。また、場合によってはさらに伝送線10に接続される端末の数を入力する入力手段として機能するようになっている。
【0044】
表示部35は、例えば液晶ディスプレイ等の表示装置から構成され、端末システム異常検出装置20の演算部31が検出した伝送線10の異常等の検出結果を表示する。なお表示部35には、伝送線10の異常の検出結果の他に、端末システム異常検出装置20のユーザが操作するのに必要な様々な情報を表示することもできる。
【0045】
図4は、端末システム異常検出装置20の演算部31が実現する機能を説明するための機能ブロック図である。なお図4に示す様々な機能は、演算部31が記憶部32に記憶されたプログラムや種々のデータを読み込むこと等により実現される。また図4では、演算部31が実現する機能に関係する記憶部32、信号レベル計測部33の機能についても説明する。
【0046】
図4に示すように、演算部31が行う機能には、ネットワーク情報受付部51、基準信号レベル決定部52、検査信号送信部53、応答信号監視部54、異常判定部55が含まれる。また記憶部32が行う機能には、端末インピーダンス記憶部61、伝送線減衰量記憶部62、基準信号レベル記憶部63、検出結果記憶部65が含まれる。さらに信号レベル計測部33の内部バッファが行う機能には、受信信号レベル記憶部64が含まれる。
【0047】
ネットワーク情報受付部51は、入力部34に入力された伝送線10の全長、伝送線10の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量、伝送線10に接続される端末の数、伝送線10の識別情報(種類、型番等)についてのネットワーク情報を受け付ける。なお伝送線10に接続される端末の数は、端末の種類ごとにその数を入力できるようにしてもよい。
【0048】
端末インピーダンス記憶部61は、複数の端末の入力インピーダンス及び出力インピーダンスを記憶する端末インピーダンス記憶手段として機能する。なお本実施形態では、端末インピーダンス記憶部61が端末の種類ごとにその入力インピーダンス及び出力インピーダンスを記憶しているものとする。
【0049】
図5は、端末インピーダンス記憶部61が記憶する複数の端末の入力インピーダンス及び出力インピーダンスの内容の例を示した図である。図5に示すように端末インピーダンス記憶部61は、室外機、室内機等の端末の種類ごとにその入力インピーダンス及び出力インピーダンスを記憶している。
【0050】
伝送線減衰量記憶部62は、各伝送線10の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量を記憶する。本実施形態では伝送線減衰量記憶部62が、伝送線10の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量を伝送線10の種類ごとに記憶しているものとする。
【0051】
図6は、伝送線減衰量記憶部62が記憶する各伝送線10の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量の内容の例を示した図である。図6に示すように伝送線減衰量記憶部62は、伝送線の種類(線種)ごとに単位長さ当たりの信号レベルの減衰量を記憶している。
【0052】
基準信号レベル決定部52は、上記のネットワーク情報に基づいて基準信号レベルを求める。ここでの基準信号レベルとは、端末システム1において、任意の端末が送信した信号を端末システム異常検出装置20にて受信する信号レベルの推定値であり、端末間の長さ等から求める(例えば、式2)。
【0053】
本実施形態では、端末システム1において、伝送線10の全長と等しい距離離れた位置に端末を配置したと仮定し、この端末が送信した信号が端末システム異常検出装置20で受信される信号の信号レベルを基準信号レベルに用いている。
【0054】
本実施形態では、基準信号レベル決定部52が記憶部32に記憶された伝送線10の全長と、伝送線減衰量記憶部62に記憶された各伝送線10の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量とを用いて、伝送線10の全長分、離れた位置に接続された端末間の信号レベルの減衰量を求める。そして、伝送線10の全長分離れた位置に接続された端末間の信号レベルの減衰量に基づいて基準信号レベルを算出する。
【0055】
実際の端末システム1の複数の端末は、伝送線10の全長より離れて接続されることはないため、上記の基準信号レベルより小さい信号レベルの信号は正常ではないと推定される。従って、基準信号レベルより小さい信号レベルの信号を通信部36が受信した場合、その信号を送信した端末と端末システム異常検出装置20の間の伝送線10に接続不良があり、それにより正常な接続時よりも大きく信号が減衰したと考えられる。
【0056】
なお伝送線10の全長は、例えば入力部34から入力された値を用いることができるが、本実施形態では後述の周波数特性測定部21と冷媒配管長算出部22を用いて算出された冷媒配管11の全長を伝送線10の全長として基準信号レベルを求める。
【0057】
なお基準信号レベル決定部52において、基準信号レベルを、記憶部32の端末インピーダンス記憶部61に記憶された複数の端末の入力インピーダンス及び出力インピーダンスと、伝送線10の全長と、伝送線10の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量を用いて求められる信号レベルの減衰量に基づいて、基準信号レベルを求めることもできる。これにより、より正確に基準信号レベルを求めることができる。
【0058】
さらに基準信号レベル決定部52において、入力部34に入力された伝送線10の全長と、各伝送線10の識別情報とに基づいて、基準信号レベルを求めることもできる。上記の識別情報によって伝送線10の種類を特定でき、伝送線減衰量記憶部62には単位長さ当たりの信号レベルの減衰量が伝送線10の種類ごとに記憶されているため、伝送線10の全長についての信号レベルを求めることができる。
【0059】
またネットワーク情報として、伝送線10の全長と各伝送線10の識別情報以外に伝送線10に接続される端末の数を入力させ、基準信号レベル決定部52において、ネットワーク情報と、伝送線減衰量記憶部62が記憶する各伝送線10の単位長さ当たりの減衰量と、端末インピーダンス記憶部61が記憶する複数の端末の入力インピーダンス及び出力インピーダンスとに基づいて、基準信号を求めることもできる。これにより、より正確に伝送線10の全長についての信号レベルを求めることができる。
【0060】
基準信号レベル記憶部63は、基準信号レベル決定部52が求めた基準信号レベルを記憶する。
【0061】
検査信号送信部53は、通信部36を介して所定の端末のアドレス宛に検査信号を送信する。この検査信号には、所定の端末に対して応答信号を返信するよう要求する信号が含まれており、検査信号を受信した少なくとも一つの端末は応答信号を端末システム異常検出装置20へ送信する。
【0062】
応答信号監視部54は、検査信号に対応する応答信号を通信部36が受信するかどうかを監視している。検査信号を送信した端末から応答信号を受信した場合には、その旨を異常判定部55に通知する。
【0063】
検査信号を送信してから一定時間以内に検査信号を送信した端末から応答信号を受信しない場合にもその旨を異常判定部55に通知する。
【0064】
受信信号レベル記憶部64は、信号レベル計測部33が計測した端末システム異常検出装置20宛の信号の信号レベルを記憶する。なお、受信信号レベル記憶部64は、例えば信号レベル計測部33の内部バッファから構成される。
【0065】
異常判定部55は、複数の端末のうち所定の端末から受信した信号の信号レベルと、基準信号レベル記憶部63に記憶された基準信号レベルとを比較して、伝送線10の異常を判定する。本実施形態では、異常判定部55に応答信号を受信した旨が通知された場合、応答信号の信号レベルと上記の基準信号レベルを比較して、端末システム異常検出装置20と対象となる端末との間の伝送線10に接続不良等の異常がないかを判定する。
【0066】
応答信号の信号レベルが基準信号レベル以上であれば「正常」、基準信号レベルに満たない場合は、「接続不良」と判定する。また、応答信号を受信していない旨を通知された場合には、「未検出」と判定する。異常判定部55の検出結果は、検出結果記憶部65に記憶させる。
【0067】
検出結果記憶部65は、端末ごとの検出結果を記憶する。この検出結果は、例えば表示部35に出力され、端末システム1の設置業者等は表示された内容を元に伝送線10のどこに接不良等の異常があるかを推定する。
【0068】
図7は、端末システム異常検出装置20が検出した検出結果の例を示す図である。なお、図7に示すアドレスは、図1の端末システム1の各端末のアドレスに対応する。
【0069】
図7に示す検出結果によれば、端末システム異常検出装置20とリモコン4a(アドレス2)との間の伝送線10に異常が疑われる。さらに他の端末の検出結果は正常であるため、伝送線10の分岐部分の接続不良や端末システム異常検出装置20の接続不良ではなく、リモコン4aの端子台への接続不良である可能性が高いことが推測される。なおアドレス8の端末は存在しないので、未検出となっている。
【0070】
図8は、端末システム異常検出装置20を用いた端末システム異常検出方法の手順を示したフローチャートである。なお図8に示す端末システム異常検出方法の手順は、記憶部32に記憶され、演算部31で実行されるプログラムの手順と同様である。
【0071】
まず、端末システム異常検出装置20の電源が起動されると、記憶部32のRAMの初期化、通信部36における端末システム異常検出装置20のアドレス(アドレス100)の設定といった初期化処理を行う(S101)。
【0072】
次に入力部34から入力されたネットワーク情報を、ネットワーク情報受付部51が受け付け(S102)、基準信号レベル決定部52に送る。このときの伝送線10の全長は、後述する冷媒配管長算出部22が算出した冷媒配管11の全長を伝送線10の全長として用いてもよいし、別の手段で伝送線10の全長が分かる場合には、入力部34から直接入力するようにしてもよい。また入力部34に入力する種類ごとの端末の数は、その端末の入力インピーダンスが十分大きく信号の減衰にほとんど影響を与えない場合には入力しなくてもよい。
【0073】
そして、基準信号レベル決定部52は、上記の伝送線10の全長、ネットワーク情報、複数の端末の入力インピーダンス及び出力インピーダンス、伝送線10に接続される端末の数等に基づいて基準信号レベルを求める(S103)。また、求められた基準信号レベルを基準信号レベル記憶部63に記憶させる。
【0074】
次に、検査信号の宛先であるアドレス(以下、TAという)を1に初期化する(S104)。
【0075】
それから、検査信号送信部53はTAが示す端末宛に検査信号を送信する(S105)。
【0076】
そして応答信号監視部54は、通信部36が受信した信号がTAが示すアドレスの端末が送信した応答信号かどうかを判定する(S106)。その後、正しいアドレスの端末からの応答信号であった場合には(S106、YES)、応答信号を受信した旨を異常判定部55に通知し、S108の処理へ進む。所定時間以内に検査信号の送信された端末からの応答信号がない場合には(S106、NO)、応答信号が受信できなかった旨を異常判定部55に通知しS107へ進む。
【0077】
S107では、異常判定部55がTAが示す端末を「未検出」と判定し、検出結果記憶部65に記憶させる(S107)。
【0078】
S108では、異常判定部55が受信信号レベル記憶部64の記憶している応答信号の信号レベルと基準信号レベルとを比較し、応答信号の信号レベルが基準信号レベル以上の場合に「正常」、応答信号の信号レベルが基準信号レベルより小さい場合には「接続不良」と判定し、その検出結果を検出結果記憶部65に記憶させる。その後、処理はS109へ進む。S107及びS108で検出結果記憶部65に記憶させた検出結果は、表示部35に表示される。
【0079】
S109では、すべての端末について異常判定部55による異常の判定が行われたかどうかを判断する(S109)。
【0080】
S109においてすべての端末について異常判定部55による判定が行われていない場合には(S109、NO)、TAをインクリメント(TAを1つ増やすこと)し(S110)、S105に戻って検査信号を送信して伝送線10の異常の判定を繰り返す。S109においてすべての端末について異常の判定が行われていると判断された場合には(S109、YES)、伝送線10の異常を検出する処理を終了する。
【0081】
上記のように本実施形態に係る端末システム異常検出装置20では、基準信号レベル決定部52が基準信号レベルを求めて、異常判定部55が応答信号の信号レベルと基準信号レベルを比較することにより伝送線10の異常の有無を判定する。このため、従来のプロトコルアナライザでは検出が困難であった接続不良等の伝送線10の異常を検出することが可能となる。
【0082】
ここで、本実施形態の端末システム1に備えられた周波数特性測定部21と冷媒配管長算出部22によって、冷媒配管11の全長を算出する方法について説明する。一般的な空調システムでは、伝送線10と冷媒配管11は並行して配置されている場合が多いため、伝送線10の全長と冷媒配管11の全長は、ほぼ同じであるとみなすことができる。本実施形態では、基準信号レベル決定部52が冷媒配管11の全長を伝送線10の全長として基準信号レベルを求める。
【0083】
図9は、図1に示す端末システム1において、冷媒配管11の全長を算出するために必要な構成を示す構成図である。ここではまず、冷媒配管11の全長を算出する方法の基本モデルについて説明する。なお図9に示す端末システム1は、室内機が1つだけになっている。
【0084】
図9に示す端末システム1は空調システムであり、室外機2、室内機3、冷媒配管11を構成するガス配管11aと液配管11b、フィルタ12a、12b、周波数特性測定部21、冷媒配管長算出部22を備えている。なお図10では、上記の構成要素以外の構成要素は省略している。図9に示す端末システム1は、冷媒配管11に分岐のない最も単純な構成である。図9における冷媒配管11の全長はL[m]であるとする。
【0085】
図9に示す端末システム1は一般的な空調システムと同様に、室外機2と室内機3が2本の平行に配置された金属製の冷媒配管11(ガス配管11a、液配管11b)によって接続され、冷媒配管11の内部の冷媒を循環させることにより空調動作を行っている。
【0086】
周波数特性測定部21は、室外機2の近くでガス配管11aと液配管11bに接続しており、冷媒配管11の周波数特性を測定する。周波数特性測定部21は、複数の周波数の測定用信号を冷媒配管11のガス配管11aと液配管11bに送り、同時に測定用信号とその測定用信号に対応する反射信号との合成信号の信号レベルを検出する。具体的には、周波数特性測定部21は測定用信号の信号レベルと計測した合成信号の信号レベルの比であるゲイン値を求め、このゲイン値を内部バッファ等に記憶させる。
【0087】
周波数特性測定部21は、測定用信号の周波数を様々に変えて同様の処理を行い、周波数ごとのゲイン値を求めて、冷媒配管11の周波数特性を測定する。そして周波数特性を記録した周波数特性データを、冷媒配管長算出部22や表示部35等に出力する。なお、周波数特性測定部21は、例えばネットワークアナライザで構成することができる。
【0088】
フィルタ12aは、周波数特性測定部21の接続箇所より室外機2側でガス配管11aを包むように取り付けられている。このフィルタ12aは、測定用信号の周波数に対して十分大きいインピーダンスをガス配管11aに持たせることができ、測定用信号が室外機2に流れ込むことを防ぐ役割を持つ。
【0089】
フィルタ12bは、周波数特性測定部21の接続箇所より室外機2側で液配管11bを包むように取り付けられている。このフィルタ12bは、測定用信号の周波数に対して十分大きいインピーダンスを液配管11bに持たせることができ、測定用信号が室外機2に流れ込むことを防ぐ役割を持つ。
【0090】
なおフィルタ12a、12bは、例えばフェライトコアで構成することができる。これにより、測定用信号を室外機2から室内機3へと冷媒配管11上で伝搬させることが可能となる。
【0091】
冷媒配管長算出部22は、周波数特性測定部21から取得した周波数特性データに基づいて、冷媒配管11の全長を算出する。なお、冷媒配管11の全長の算出方法については後述する。
【0092】
上記の構成では、ガス配管11aと液配管11bを1対の導線とみなすことができる。そして、室外機2の近傍に周波数特性測定部21を接続することにより、冷媒配管11の周波数特性を測定することが可能となり、冷媒配管11の全長を算出することができる。
【0093】
図10は、図9に示す端末システム1の等価回路を示した図である。ここで、周波数特性測定部21が測定する冷媒配管11の周波数特性の特徴について説明する。図9に示す端末システム1では、周波数特性測定部21を交流の信号源、ガス配管11aと液配管11bは2本の平行な長さL[m]の導線とみなすことができ、図11に示す等価回路もそのようになっている。また図10に示す等価回路は、室内機2の金属製の筐体を介してガス配管11aと液配管11bが電気的に短絡している回路である。
【0094】
周波数特性測定部21から出力された測定用信号は、冷媒配管11を伝搬し、冷媒配管11の末端に接続された室内機3に到達する。室内機3では、ガス配管11aと液配管11bが電気的に短絡しているため、測定用信号の位相が反転した反射信号が冷媒配管11上を逆方向に伝搬していく。周波数特性測定部21では、測定用信号と、測定用信号及び測定用信号に対応する反射信号の合成信号の比(ゲイン値)を測定していることになる。
【0095】
冷媒配管11の全長がL[m]で、測定用信号の波長がL=nλ/2(λ/2、λ、3λ/2、・・・、nλ/2:nは整数)の関係にあるとき、周波数特性測定部21の測定している位置において、測定用信号と反射信号の信号レベルが正負逆となり、合成信号の信号レベルが理想的には0となる。従って、周波数特性測定部21の測定するゲイン値も0となる。
【0096】
図11は、周波数特性測定部21が測定する測定用信号、反射信号、合成信号の時間変化を示すグラフである。図12に示すように、上記の条件下では合成信号が理想的には0となるが、実際には冷媒配管11の抵抗成分やインダクタ成分等により反射信号が減衰するため、合成信号の信号レベルは0とはならない。しかし、他の周波数の測定用信号の場合と比べると合成信号の信号レベルは著しく減少する。このように、合成信号の信号レベル又はゲイン値が著しく減少する現象は、反共振と呼ばれている。
【0097】
本実施形態では、反共振が起きる測定用信号の周波数を反共振周波数と呼ぶこととする。ここで、周波数f[Hz]の測定用信号の波長λ[m]は、λ=c/f(cは電気信号の伝搬速度で、3.0×10[m/s])で表される。
【0098】
図12は、冷媒配管11の全長Lが50[m]である場合に、測定用信号の周波数を変えて測定した周波数特性データを示すグラフである。図12に示すグラフでは、測定用信号の周波数が3MHzのときに反共振が起こり、ゲイン値が著しく小さくなっていることが分かる。また6MHz、9MHz・・・といった高調成分でも同様に反共振が起こっている。従って、冷媒配管11の周波数特性を測定し、周波数特性データから抽出した最小反共振周波数fから、冷媒配管11の全長LがL=λ/2(λ=c/f)として求められる。
【0099】
図13は、冷媒配管11に分岐がある場合の端末システム1の模式的な構成を示す模式図である。なお図13では、室外機2、室内機3a、3b、冷媒配管11、周波数特性測定部21以外の構成要素を省略して示している。
【0100】
冷媒配管11に分岐がない場合には、上記のような方法で冷媒配管11の全長を算出することができる。しかし図13に示すように、冷媒配管11に分岐がある場合には、上記の方法で複数の室内機3a、3bに接続している冷媒配管11の全長を算出することは困難である。
【0101】
周波数特性測定部21から出力された測定用信号は、短絡している室内機3aだけでなく、冷媒配管11の分岐点からもいくらかの反射をする。また分岐先の冷媒配管11の長さが異なるため、反共振が起こる周波数が複雑になる。
【0102】
図13に示す端末システム1では、室外機2と室内機3a及び室内機3bが全長290mの冷媒配管11によって接続されている。周波数特性測定部21は室外機2の近傍に接続され、図示しないフィルタが冷媒配管11に取り付けられている。
【0103】
図14は、冷媒配管11の長さや特性を用いたシミュレーションにより算出された周波数特性データを示すグラフである。図14では、冷媒配管11に分岐がない場合と異なり、高調成分以外の反共振周波数が含まれていることが分かる。
【0104】
図15は、周波数特性データから抽出した反共振周波数と、冷媒配管11に分岐がない場合に用いた方法で算出したその周波数における冷媒配管11の全長の関係を示した図である。図15の上段は、冷媒配管11に分岐がある場合の周波数特性データから抽出した反共振周波数fnである。また図15の下段は、冷媒配管11に分岐がない場合に用いた式(Ln=λn/2(λn=c/fn))を適用して算出した各反共振周波数fnに対応する冷媒配管11の長さLnである。
【0105】
図16は、図15の周波数特性データ及び冷媒配管11の長さから実際の冷媒配管11の全長を求める方法を示す図である。図16に示すように、最小反共振周波数と、最小反共振周波数より高い周波数の反共振周波数の高調成分を除いた反共振周波数について、冷媒配管11に分岐がない場合の方法を適用して求めた冷媒配管11の長さの総和が、ほぼ冷媒配管11の全長となっている。図16では、周波数5MHzまでの周波数特性データしか用いていないが、この方法でこれ以上の周波数を加味して算出されるLnは小さく、冷媒配管11の全長に誤差程度の影響しか与えないため、無視してもよい。
【0106】
ここでは、冷媒配管11に分岐のある場合の冷媒配管11の全長の算出方法について、図13に示す端末システム1を例に説明したが、冷媒配管11の全長や分岐点が異なるケースについてもほぼ同様の結果が得られている。
【0107】
図17は、冷媒配管長算出部22が周波数特性データから、冷媒配管11の全長を算出するアルゴリズムを示したフローチャートである。図17を用いて、冷媒配管11に分岐がある場合を含めた冷媒配管11の全長の算出方法について説明する。
【0108】
まず、冷媒配管長算出部22は、周波数特性測定部21から取得した周波数特性データを参照し、最小反共振周波数fを抽出して、この最小反共振周波数を内部バッファ等に記憶させる(S201)。
【0109】
次に、最小反共振周波数から所定の周波数まで(例えば、最小反共振周波数の10倍の周波数)の間に存在するすべての反共振周波数(f、f、・・・)を抽出し、内部バッファ等に記憶させる(S202)。
【0110】
そして、冷媒配管11に分岐があるかどうかを判定する(S203)。冷媒配管11に分岐があるかどうかを判定するには、例えばS202で抽出した反共振周波数がすべてS201で抽出した最小反共振周波数の整数倍である場合には、冷媒配管11に分岐がないと判定し(S203、分岐なし)、S204へ進む。他の場合には、冷媒配管11に分岐があると判定して(S203、分岐あり)、S205へ進む。
【0111】
S204では、最小反共振周波数fから以下の式を用いて冷媒配管11の全長を算出して(S204)、処理を終了する。
【0112】

L[m]=λ/2=c/f[Hz]/2 (c=3.0×10[m])(式3)
【0113】
S205では、S202で抽出した反共振周波数の中から、これらの反共振周波数の高調成分でない反共振周波数を抽出する(S205)。
【0114】
そして、S205で抽出した反共振周波数fごとに、下記の式を用いてLを算出する(S206)。
【0115】

=λ/2=c/f[Hz]/2 (c=3.0×10[m/s])(式4)
【0116】
それから、S206で算出したLの総和を冷媒配管11の全長L[m]として、処理を終了する。
【0117】
本実施形態では、上記のように従来のプロトコルアナライザでは検出が困難だった接続不良等の伝送線10の異常を検出することが可能となる。また、冷媒配管11の全長を上記の方法で算出すれば、室内機3a、3b等に特別な測定装置を取り付けずに、冷媒配管11の全長を算出することができる。
【0118】
また本実施形態では、冷媒配管11の全長を伝送線10の全長として基準信号レベルを求める。このため、空調機の取り替え工事の際に前回の設計情報が入手できない場合や、設計情報とは異なる配置で工事が行われた場合等に、本実施形態の方法は有効である。なお、事前に冷媒配管11の全長又は伝送線10の全長が分かる場合には、上記の冷媒配管11の全長の算出方法を使用しなくてもよい。
【0119】
(実施形態2)
図18は、本発明の実施形態2に係る端末システム1の模式的な構成を示すシステム構成図である。本実施形態に係る端末システム1は、端末システム異常検出装置20、室外機2等に距離計測部71a〜71iが備えられている。
【0120】
その他の端末システム1の構成については、実施形態1に係る端末システムと同様であるため説明を省略する。また本実施形態に係る端末システム異常検出装置20の構成も、実施形態1に係るものと同様であるため説明を省略する。本実施形態では、実施形態1と異なる部分を中心に説明する。
【0121】
実施形態1では、基準信号レベルを求めるのに伝送線10の全長を用いていた。しかし、端末システム異常検出装置20と端末が近くに配置されている場合、元々の信号減衰量が小さく、基準信号レベルとの間に大きな差がある。このため、例えば接続不良による信号レベルの減衰があったとしても、応答信号の信号レベルが基準信号レベル以上となり、正常と判断してしまう場合がある。
【0122】
本実施形態では、端末システム異常検出装置20と各々の端末との伝送線10の長さを測定し、端末ごとに求められた基準信号レベルと応答信号の信号レベルとを比較することにより、接続不良等の伝送線10の異常を検出する端末システム1について説明する。
【0123】
図18に示す端末システム1では、端末システム異常検出装置20に距離計測部71aが備えられている。また伝送線10の分岐点にも、距離計測部71bが取り付けられている。さらに室外機2、室内機3a、3b、3c、リモコン4a、4b、4cにもそれぞれ距離計測部71c〜71iが備えられている。なお距離計測部71a〜71iは、端末システム異常検出装置20から各端末までの距離を計測する距離計測手段として機能する。
【0124】
ここで、端末システム異常検出装置20と各端末までの伝送線10の長さを測定する方法について説明する。まず、距離計測部71aは伝送線10の分岐点に設置してある距離計測部71bとの距離Labを測定する。
【0125】
次に距離計測部71aは、距離計測部71bに対して距離計測部71bと距離計測部71cまでの距離Lbcを測定するように指示を出す。ここでLabとLbcを加算した値が、距離計測部71aから室外機2までの距離Lacであり、これを端末システム異常検出装置20から室外機2までの伝送線10の長さとする。同様の方法で、端末システム異常検出装置20から各端末までの距離を測定し、それを端末システム異常検出装置20から各端末までの伝送線10の長さとする。
【0126】
距離計測部71a〜71iは、無線通信機能を備えており、データの送受信だけでなく、端末間の距離を計測することが可能となっている。無線通信による距離の測定方法には、例えばTOA(Time Of Arrival)方式がある。TOA方式は、送信端末から受信端末までの電波伝搬時間を測定し、距離に換算する方式である。
【0127】
また無線通信による距離の計測方法として、電波の電界強度を測定して距離に換算するRSSI(Received Signal Strength Indication)方式や、異なる2端末からの電波の伝搬時間の差により距離を求めるTDOA(Time Difference Of Arrival)方式がある。本実施形態では上記の3つの方式のうちいずれかの方式を用いて、端末システム異常検出装置20から各端末までの距離を計測する。
【0128】
本実施形態では、図8のS103において基準信号レベル決定部52が、距離計測部71a〜71iの計測した距離を、端末システム異常検出装置20と各端末までの伝送線10の長さとして基準信号レベルを求める。
【0129】
そして本実施形態では、図8のS108において異常判定部55が、各端末から受信した応答信号の信号レベルと、端末ごとに算出された基準信号レベルを比較して、伝送線10の異常を判定する。このように、端末ごとの基準信号レベルを用いるため、きめの細かい伝送線10の異常の判定が可能となる。
【0130】
本実施形態では、端末システム異常検出装置20と各端末までの伝送線10の長さから端末ごとの基準信号レベルを求めるため、端末システム異常検出装置20と端末の距離が近い場合でも接続不良等の伝送線10の異常を検出することが可能となる。
【0131】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうる様々な変更、改良が含まれることは言うまでもない。例えば、本発明に係る端末システム異常検出装置20は、照明システム等の他の端末システムにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0132】
1 端末システム
2 室外機
3 室内機
3a、3b、3c 室内機
4a、4b、4c リモコン
10 伝送線
11 冷媒配管
11a ガス配管
11b 液配管
12a、12b フィルタ
20 端末システム異常検出装置
21 周波数特性測定部
22 冷媒配管長算出部
31 演算部
32 記憶部
33 信号レベル計測部
34 入力部
35 表示部
36 通信部
51 ネットワーク情報受付部
52 基準信号レベル決定部
53 検査信号送信部
54 応答信号監視部
55 異常判定部
61 端末インピーダンス記憶部
62 伝送線減衰量記憶部
63 基準信号レベル記憶部
64 受信信号レベル記憶部
65 検出結果記憶部
71a〜71i 距離計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の端末が伝送線で接続されて構成された端末システムの異常を検出する端末システム異常検出装置であって、
前記伝送線を介して前記複数の端末と信号の送受信を行う通信手段と、
前記複数の端末から送信された信号の信号レベルを計測する信号レベル計測手段と、
予め求められている前記伝送線を伝搬する前記信号の信号レベルの減衰量に基づいて、基準信号レベルを求める基準信号レベル決定手段と、
前記複数の端末のうちの所定の端末から受信した信号の信号レベルと、前記基準信号レベルを比較して、前記伝送線の異常を判定する異常判定手段と、
を備えることを特徴とする端末システム異常検出装置。
【請求項2】
前記端末システム異常検出装置は、少なくとも一つの端末に検査信号を送信し、前記異常判定手段は、前記検査信号を送信された端末から送信された応答信号の信号レベルと前記基準信号レベルを比較して、前記伝送線の異常を判定することを特徴とする請求項1に記載の端末システム異常検出装置。
【請求項3】
前記伝送線の全長と、前記伝送線の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量とを記憶する記憶手段を備え、
前記基準信号レベル決定手段は、少なくとも前記伝送線の全長と前記伝送線の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量とを用いて求められる信号レベルの減衰量に基づいて、前記基準信号レベルを算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の端末システム異常検出装置。
【請求項4】
前記記憶手段は、前記複数の端末の入力インピーダンス及び出力インピーダンスを記憶し、
前記基準信号レベル決定手段は、前記伝送線の全長と、前記伝送線の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量と、前記複数の端末の入力インピーダンス及び出力インピーダンスとを用いて求められる信号レベルの減衰量に基づいて、前記基準信号レベルを求めることを特徴とする請求項3に記載の端末システム異常検出装置。
【請求項5】
少なくとも前記伝送線の全長と、各伝送線の識別情報を含むネットワーク情報とを入力する入力手段と、
前記各伝送線の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量を記憶する伝送線減衰量記憶手段と、
を備え、
前記基準信号レベル決定手段は、前記ネットワーク情報と、各伝送線の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量とに基づいて、前記基準信号レベルを求めることを特徴とする請求項3に記載の端末システム異常検出装置。
【請求項6】
前記端末システム異常検出装置は、前記複数の端末の入力インピーダンス及び出力インピーダンスを記憶する端末インピーダンス記憶手段を備え、
前記ネットワーク情報は、前記伝送線に接続される端末の数を含み、
前記基準信号レベル決定手段は、前記ネットワーク情報と、前記伝送線減衰量記憶手段が記憶する各伝送線の単位長さ当たりの信号レベルの減衰量と、前記端末インピーダンス記憶手段が記憶する前記複数の端末の入力インピーダンス及び出力インピーダンスとに基づいて、前記基準信号レベルを求めることを特徴とする請求項5に記載の端末システム異常検出装置。
【請求項7】
前記複数の端末は、少なくとも空調機の室外機及び空調機の室内機を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の端末システム異常検出装置。
【請求項8】
前記空調機の室外機と前記空調機の室内機は冷媒配管で接続され、前記基準信号レベル決定手段は、前記冷媒配管の全長を前記伝送線の全長として前記基準信号レベルを求めることを特徴とする請求項7に記載の端末システム異常検出装置。
【請求項9】
前記冷媒配管に対して複数の周波数の測定用信号を送り、前記冷媒配管を伝搬する前記複数の周波数の測定用信号とその測定用信号に対応する反射信号との合成信号の信号レベルを検出する周波数特性測定手段と、
前記周波数特性測定手段が検出した合成信号の信号レベルに基づいて、前記冷媒配管の全長を算出する冷媒配管長算出手段と、
を備えることを特徴とする請求項8に記載の端末システム異常検出装置。
【請求項10】
前記端末システム異常検出装置及び前記各端末は、前記端末システム異常検出装置から前記複数の端末の各端末までの距離を計測する距離計測手段を備え、
前記基準信号レベル決定手段は、前記距離計測手段の計測した距離を、前記端末システム異常検出装置と前記複数の端末の各端末までの伝送線の長さとして前記基準信号レベルを求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の端末システム異常検出装置。
【請求項11】
前記距離計測手段は、TOA(Time Of Arrival)、RSSI(Received Signal Strength Indication)、又はTDOA(Time Difference Of Arrival)のいずれかの方式を用いて、前記端末システム異常検出装置から前記複数の端末の各端末までの距離を計測することを特徴とする請求項10に記載の端末システム異常検出装置。
【請求項12】
前記基準信号レベル決定手段は、前記端末システム異常検出装置と前記複数の端末の各端末までの伝送線の長さに基づいて、前記端末ごとに前記基準信号レベルを決定し、
前記異常判定手段は、前記複数の端末の各端末から受信した信号の信号レベルと、前記端末ごとに算出された前記基準信号レベルを比較して、前記伝送線の異常を判定することを特徴とする請求項10又は11に記載の端末システム異常検出装置。
【請求項13】
複数の端末が伝送線で接続されて構成された端末システムの異常を検出する端末システム異常検出方法であって、
予め求められている前記伝送線を伝搬する前記信号の信号レベルの減衰量に基づいて、基準信号レベルを求める基準信号レベル決定ステップと、
前記複数の端末のうちの所定の端末から受信した信号の信号レベルを計測し、この計測された信号レベルと前記基準信号レベルを比較して、前記伝送線の異常を判定する異常判定ステップと、
を含むことを特徴とする端末システム異常検出方法。
【請求項14】
複数の端末が伝送線で接続されて構成された端末システムの異常を検出する端末システム異常検出装置を有し、
前記端末システム異常検出装置は、
前記伝送線を介して前記複数の端末と信号の送受信を行う通信手段と、
前記複数の端末から送信された信号の信号レベルを計測する信号レベル計測手段と、
予め求められている前記伝送線を伝搬する前記信号の信号レベルの減衰量に基づいて、基準信号レベルを求める基準信号レベル決定手段と、
前記複数の端末のうちの所定の端末から受信した信号の信号レベルと、前記基準信号レベルを比較して、前記伝送線の異常を判定する異常判定手段と、
を備えることを特徴とする端末システム。
【請求項15】
複数の端末が伝送線で接続されて構成された端末システムの異常を検出する端末システム異常検出装置を制御するコンピュータに、
前記伝送線を介して前記複数の端末と信号の送受信を行う通信手段に対して、前記複数の端末と信号の送受信を行わせる機能と、
前記複数の端末から送信された信号の信号レベルを計測する信号レベル計測手段に対して、前記信号レベルを計測させる機能と、
予め求められている前記伝送線を伝搬する前記信号の信号レベルの減衰量に基づいて、基準信号レベルを求める機能と、
前記複数の端末のうちの所定の端末から受信した信号の信号レベルと、前記基準信号レベルを比較して、前記伝送線の異常を判定する機能と、
を実現させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−130346(P2011−130346A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289215(P2009−289215)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】