説明

竹繊維を混紡した農業用ネット

【課題】天然の有機繊維のみで無害であり、植物の支持に対して充分に強度があり、抗菌作用を有し、編網工程の編成製造が容易で安価な農業用ネットを提供する。
【解決手段】編網機によって編網される有結節を有する農業用ネットであって、ネットの糸は綿繊維に対して竹繊維を5〜25重量%を混紡した撚糸であり、綿繊維と竹繊維のの繊維長をほぼ同じ繊維長に揃えてから混紡し、竹繊維の原料竹は竹の節を除いた長さに切断して、予め竹節部分を除去してから解繊した繊維を使用する竹繊維を混紡した農業用ネット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物のツル、例えば、長芋、きゅうり、豆等のツルが上方に巻き付き生育つき支持する竹繊維を混紡したと農業用ネットに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用ネットにはその使用目的に応じて様々な種類のものがあるが、長芋、きゅうり、豆等のツルが上方に巻き付き、ツルや茎を支持する農業用ネットがある。これらの植物のツルを支持する農業用ネットは、比較的大きな網目であることから、1本毎の荷重が大きく、更に、植物が生育するにしたがい重量が増すことから強度が必要となる。
従来、多くの農業用ネットは、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の合成樹脂からなるモノフィラメントやフラットヤーン、テープヤーンを用いて構成されていたが、近時、使用後に適正に廃棄処分をしなければならないことが義務づけられている。前記合成樹脂はむやみに焼却すると有害ガスを発生する事があるため処分がしにくいという問題がある。また、特に近年、農業従事者の高齢化も進んでいるため、使用後の農業用ネットを回収して、処分をするというのは負担のかかる作業になりつつある。
このため、合成樹脂繊維を使用しない農業用ネットが提案され、、特許文献1では麻繊維で構成した野菜用ネットが、特許文献2では綿繊維を使用した長芋用ネットが、特許文献3には生分解性繊維からなる植物誘引ネットが、特許文献4には天然の有機繊維等のパルプの紙紐を主材とした農業用ネットで、共に、可燃性で土中埋没で容易に腐食する農業用ネットが提案されている。
なお、編網機としては、特許文献5に示されるような、両端を太めの糸を編み込む構成が知られている。
【0003】
【特許文献1】実開平3−22645号公報
【特許文献2】特許第3342247号公報
【特許文献3】特開2004−337116号公報
【特許文献4】特開2005−295934号公報
【特許文献5】特開2005−298985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の特許文献1のような、麻繊維で構成した野菜用ネットは、強度もあり自然界に無害であるが高価であり、通常1度の使用だけで廃棄する農業用ネットとしては不向きであり、特許文献2の綿繊維を使用した長芋用ネットは、安価であるが強度が不足し、雨水を吸収すると乾きにくく処理作業が負担となり、特許文献3の生分解性繊維からなる植物誘引ネットは、コストが大幅に上昇して、1回だけの農業用ネットとしては不向きであり、特許文献4には天然の有機繊維等のパルプの紙紐を主材とした農業用ネットは、土中での腐食が早く自然に戻るが、主材がパルプであるので、長芋用のネットととなると強度が必ずしも充分ではなく、強度を確保するとなると太くしなければならず、戸外の使用においては雨水を吸水するので重量が増えて乾燥も遅く、廃棄する際の回収・処分する作業が大きな負担作業となるといった問題点があった。
また、天然の有機繊維等のパルプ、特に、竹パルプを使用することを開示されているが、竹パルプは柔軟性がなく編網機によって編網するとなると、スムーズに編成できず、また、繊維屑も大量に発生するといった問題点があった。
また、長芋、きゅうり、豆等の育成において、植物に有害な病原菌から守らなければならないが、抗菌作用のある農業用ネットも切望されていた。
さらに、これらの農業用ネットで重要なことは、一度農作物の育成に使用すると、ツル等が農業用ネットに絡みつくので再利用は困難で、1シーズンで廃棄することなることから、安価でなければならないといった問題点があった。
【0005】
本発明の課題は、前記の問題点に鑑みてなされたもので、天然の有機繊維のみで編まれたもので自然に有害あってはならず、植物の支持に対して充分に強度があり、抗菌作用を有し、編網工程の編成製造が容易で安価な農業用ネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、竹繊維を混紡した農業用ネットにおいて、編網機によって編網される農業用ネットであって、該ネットの糸は綿繊維に対して竹繊維を5〜25重量%を混紡した撚糸であることを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の竹繊維を混紡した農業用ネットにおいて、前記編網機によって編網される農業用ネットは、有結節を有する農業用ネットであることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の竹繊維を混紡した農業用ネットにおいて、前記撚糸は、綿繊維と竹繊維との繊維長をほぼ同じ繊維長に揃えてから混紡することを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1乃至3に記載の竹繊維を混紡した農業用ネットにおいて、前記竹繊維の原料竹は竹の節を除いた長さに切断して、予め竹節部分を除去してから解繊した繊維を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の竹繊維を混紡した農業用ネットによれば、天然の有機繊維のみで編網される農業用ネットであるから、使用廃棄に際しては土中に埋め腐食により自然に戻すことができ、抗菌作用があって植物に有害な病原菌が付着することがなく、かつ、植物の支持に対して充分に強度があり、竹繊維が抗菌作用を有するから、作物の栽培において病原菌を排除する。
また、竹繊維の混紡率を低くして綿繊維を混入したことにより、撚糸の柔軟性が増し編網機での編成が容易となり、製造過程の竹繊維の繊維屑の量が少なく、かつ、綿繊維よりも高価な竹繊維の量も減るので製造コストも安価にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の好適な竹繊維を混紡した農業用ネットの実施例を図を参照して説明する。
図1は、本竹繊維を混紡した農業用ネット1を、長芋生育用のネットとして用いたもので、全体の形状は前記特許文献5に示されるような編網機で編網したもので、従来ポリプロ繊維の農業用ネットと概略同じであり、両端の高さ2m程度ポールPに掛け渡し、この農業用ネット1に、例えば長芋Nのツルが生育にしたがって上方に絡みつき、長芋の根元を掘ることを容易にしている。また、農業用ネット1の上端側はポールでも、ロープでも、特許文献5のような太めの異糸でもよく、要は農業用ネット1を支えられればよい。
この農業用ネット1は、従来の蛙又結節等の有結節2を編成する編網機によって製造され、全体の大きさは高さ2.16cmで長さが185mであり、1目3の大きさが1辺24cmの正方形(角目)或いは菱形(菱目)である。この網目の大きさは、通常18〜24cmで、長芋の生育する品目によって適宜選択される。
本実施例の農業用ネット1は編網機に経糸と横糸を供給して編成されるが、前記有結節2は、図2に示されるように、経糸41と横糸42とを二重の有結節21を有する所謂ダブルノットで、強固に網目を固定し、且つ製造コストも安価である。
本実施例の竹繊維の製造に使用する糸は、綿繊維に対して竹繊維を5〜25重量%を混紡した撚糸を使用し、400デニールの撚糸を3本撚り合わせ、更に、この撚り合わされた合糸を3本撚り合わせて、400デニールの撚糸を合計9(3×3)本撚り合わせたものである。この400デニールの撚糸を9本としたのは、実際の長芋用に使用した場合に、6本だと強度不足であり、9本程度で十分な強度が得られるからである。
【0009】
本発明の重要な特徴の1つは竹繊維を使用することであり、竹は2年で生育し土壌破壊も防げ、環境保護にも寄与するので、竹繊維を使用することは、この点からも有望である。
原料となる竹の種類によって得られる繊維長や強度が異なるが、通常、竹繊維の繊維長が短く、強度がある竹繊維を得るには、原料竹の選別、繊維を製造する方法に工夫を要する。原料となる竹の種類は600〜1000種類あるといわれるが、少なくとも35mm以上の繊維長が必要である。
本実施例では、太くて多量の繊維があり、効率よく竹繊維が取り出せるので、原料の竹として孟宗竹を使用した。
[竹繊維の製造]
竹繊維の製造は、以下(1)〜(6)の順の工程で行う。
(1)原料となる孟宗竹を伐採する。
(2)先端部分を切り取り、表皮を取り除く。これは、良質の繊維とはならないので取り除く。
(3)竹の節を除いた長さに切断する。これは、竹の節の部分は繊維の強度が極度に低下するので予め除去しておく。
なお、繊維長35mm以下を得るには従来の竹繊維製造方法で充分であるが、最終的に繊維長35〜40mmの比較的長いものを得るためには、予め竹の節を除去しておくことが重要な製造工程である。
(4)苛性ソーダーを添加した水中に、70〜72時間入れて軟化させ、軟化により粗解繊されたら加圧ローラからなる粗解繊機械にかけ粗解繊する。
なお、竹繊維は余り細くなると引張強度が低下するので、所定の太さに粗解繊機械を設定する。
(5)更に、水酸化ナトリウーム等の解繊薬品(従来品)を添加した水中に8〜10時間入れて解繊(繊維化)し、解繊後に不純物を除去し、水中より取り出して乾燥する。
(6)解繊した竹材を洗浄して付着している薬剤を除き、得られた竹繊維の中から、繊維長が35〜40mmの竹繊維だけを選別して揃え、本実施例では38mmの繊維長だけを揃える。この38mmは竹繊維長としては長めであるが、粗解繊機械を設定や孟宗竹の産地等によって厳選し、前記工程を行えば、歩留まりよく製造することが可能である。
なお、竹繊維は薄茶色を有し、精紡上がりも淡い薄茶色のため、従来の竹繊維工程では、通常、漂白処理等を行うが、本実施例では、ネット使用後に土中に埋めて自然に返すことことから、不必要な薬剤は排除し、無用な工程を要してコスト高になることを避けるために、敢えて漂白処理等は行わない。ただし、必要であれば、漂白等の仕上げ工程を行えばよい。
【0010】
[ネット用撚糸の製造]
次に、竹繊維と綿繊維を混紡してネット用撚糸を、以下(7)〜(10)の順の工程で製造する。
(7)混紡する綿繊維は、前記(6)で揃えた竹繊維の繊維長38mmに合わせて、同じ長さの38mmの綿繊維を用意する。これは、混紡する全ての繊維の繊維長を均一にすることで、撚り上がった糸も均一の撚糸となり強度が増す。
ここで、竹繊維の繊維長が35〜40mmとしたのは、繊維長35mm以下では撚糸にした場合に農業用のネットとして充分な強度が得られず、繊維長40mm以上は竹繊維の繊維長としては事実上不可能であるからであり、綿繊維の繊維長をこれに合わせたのは、前述したように、混紡する全ての繊維の繊維長を均一にすることで、撚り上がった糸も均一の撚糸となり、強度が増すからである。
(8)同じ繊維長38mmの竹繊維20重量%と綿繊維重量80%とを均一に混合する。
(9)以後は、通常の綿糸紡績工程と同様で、流綿から粗紡績、精紡工程を経て撚糸を仕上げる。
(10) 以上のような工程で、農業用ネットとして求められる強度を有する撚糸であって、竹繊維20重量%と綿繊維重量80%とが混紡された撚糸が得られ、得られた400デニールの撚数(S撚り)3T/cm撚糸を合糸機で合計9(3×3)本撚り合わせて、農業用のネット用撚糸を仕上げる。
この仕上げた撚糸の引張り強さは、8442cN(gf)(試験方法JIS−L−1095.引張速度25cm/分.つかみ間隔25cm)であり、充分に長芋ネットの荷重に耐えるものであった。
【0011】
[農業用ネット(長芋用)の製造]
最後に、仕上がったネット用撚糸を、次の(11)工程で農業用ネットとして製造する。
(11)ネットに編成する編網機は、従来の有結節である蛙又結節を編成する網巾2.16cmの編網機によって製造した。この結節はシングルノットでもダブルノットでも良いが、本実施例では網目の固定を確実にするため、ダブルノットで製造した。
ここで、竹繊維の特徴として静電気が起こり難く、静電気の少ない綿や絹でも1000Vであるのに対して、竹は84V程度であるので、これを綿繊維に混紡することによって、静電気が綿100%より低くでき、絡みつきが防止できるので編成がし易く、農業用ネットとしても有利である。
【0012】
また、ダブルノットは二重の有結節を有するので、使用する糸は柔軟性が要求され、竹繊維に綿繊維を混入することにより、竹繊維単独より柔軟性が増すが、竹繊維50重量%と綿繊維重量50%の混紡糸では、まだ糸切れや編み針に糸が絡み編網機で編成することは困難であり、竹繊維30重量%と綿繊維重量70%の混紡糸では編成は可能であったが、竹繊維の繊維屑や付着物が大量に発生し、編網効率が下がり混紡の限界であり、付着物の発生も少なく、編網機の稼働が許容できる範囲は、竹繊維25重量%以下であり、綿繊維重量75%以上であった。
もっとも、無結節の編網機の編成でも、竹繊維の繊維屑や付着物の発生は少なくなるが、基本的には同じ傾向であり、編網機の稼働が許容できる範囲は、竹繊維25重量%以下であり、綿繊維重量75%以上であった。このような範囲の混紡撚糸は、ダブルノットである二重結節を有する編網の農業用ネットにおいては特に有利である。
【0013】
このように、綿糸を混紡するのは、竹繊維が多いと柔軟性に欠け、そのままでは、編網機にかけても上手く編成できず、編網機のトラブルも多くなり、竹繊維屑も大量に発生するので、これを避けるために、綿繊維を混紡することによって、混紡糸に柔軟性を付与して、これらの問題を防ぐためである。
また、付随的効果として、竹繊維自体が高価であるので、竹繊維が混紡比率が小さいと、それだけネット自体の価格が安価になるからである。ただし、余り竹繊維の混紡比率が低くなると、撚糸の強度を上げることも、竹繊維が有する抗菌作用も認められなくなるので、竹繊維の混紡比率は最低5%が限度である。
【0014】
以上のように、上記実施例の竹繊維を混紡した農業用ネットは、天然の有機繊維のみで編網される農業用ネットであるから、使用廃棄に際しては土中に埋め腐食により自然に戻すことができ、抗菌作用があって植物に有害な病原菌が付着することがなく、かつ、植物の支持に対して充分に強度があり、竹繊維が抗菌作用を有しており作物の栽培においては病原菌を排除し、また、竹繊維は土中に埋めた場合に土に還る促進剤の役目があり、綿100%の撚糸の場合よりも早く腐食して土に帰り、更に、竹繊維の混紡率を低くして編網機での編成が容易となり、製造過程の竹繊維の繊維屑の量が少なく、かつ、綿繊維よりも高価である竹繊維の量も減るので全体としての製造コストも安価にすることができる。
なお、本発明の特徴を損なうものでなければ、上述した実施例に限定されるものでないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例の農業用ネットの使用例の斜視図。
【図2】図1の二重の有結節2を拡大した図。
【符号の説明】
【0016】
1…農業用ネット
2…有結節
21…二重結節
3…網目
41…経糸
42…緯糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
編網機によって編網される農業用ネットであって、
該ネットの糸は綿繊維に対して竹繊維を5〜25重量%を混紡した撚糸であることを特徴とする竹繊維を混紡した農業用ネット。
【請求項2】
前記編網機によって編網される農業用ネットは、有結節を有する農業用ネットであることを特徴とする請求項1に記載の竹繊維を混紡した農業用ネット。
【請求項3】
前記撚糸は、綿繊維と竹繊維との繊維長をほぼ同じ繊維長に揃えてから混紡することを特徴とする請求項1又は2に記載の竹繊維を混紡した農業用ネット。
【請求項4】
前記竹繊維の原料竹は竹の節を除いた長さに切断して、予め竹節部分を除去してから解繊した繊維を使用することを特徴とする請求項1乃至3に記載の竹繊維を混紡した農業用ネット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−306958(P2008−306958A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156126(P2007−156126)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(506001181)
【Fターム(参考)】