第2族元素の酸化物の電解方法及びその装置
【課題】第2族元素の酸化物を簡便に電解する方法及びその装置を提供する。
【解決手段】第2族元素の酸化物の電解方法では、まず、第2族元素のイオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素の酸化物及び安定なラジカル骨格(例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリドキシルラジカル(TEMPOラジカル))を有する化合物を含む正極とを、非水系のイオン伝導体に離間して配置する。次に、正負極間に直流電圧を印加することにより正極中の第2族元素の酸化物を電解して負極上に析出させる。第2族元素の酸化物としては、酸化マグネシウムや酸化カルシウムなどが挙げられる。
【解決手段】第2族元素の酸化物の電解方法では、まず、第2族元素のイオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素の酸化物及び安定なラジカル骨格(例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリドキシルラジカル(TEMPOラジカル))を有する化合物を含む正極とを、非水系のイオン伝導体に離間して配置する。次に、正負極間に直流電圧を印加することにより正極中の第2族元素の酸化物を電解して負極上に析出させる。第2族元素の酸化物としては、酸化マグネシウムや酸化カルシウムなどが挙げられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第2族元素の酸化物の電解方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や電子メール端末などの携帯型情報機器の市場が急速に拡大しつつある。また、環境問題やエネルギー危機の観点からハイブリッド車や電気自動車への期待が高まっている。こうした背景を踏まえ、高エネルギーの蓄電デバイスが求められており、リチウムイオン電池が本命視されている。しかしながら、地表に存在する元素比を反映するクラーク数は0.006であり、大量にリチウムが消費される状況になるとコストの急騰などを招く恐れがある。一方、マグネシウムの標準電極電位は−2.375Vと低く、軽量である上、リチウムに比べて安価で取り扱いが容易であり、かつ資源的にも豊富である(クラーク数1.93)。こうした利点により、マグネシウムが容易に製造でき、電池に適用できれば、安価な電池を提供することが可能となる。また、カルシウムの標準電極電位は−2.847Vと低く、軽量である上、リチウムに比べて安価で取り扱いが容易であり、かつ資源的にも豊富である(クラーク数3.39)。こうした利点により、カルシウムが容易に製造でき、電池に適用できれば、安価な電池を提供することが可能となる。
【0003】
マグネシウムは、例えば酸化マグネシウムを原料とする電解法によって製造される。具体的には、酸化マグネシウムを適当な融点降下剤と共に融点を2800℃未満に下げて溶融させたあと、その状態で電解することによってマグネシウムを製造する方法が知られている。あるいは、炭素と混合した酸化マグネシウムを700℃以上の温度で塩素化することにより塩化マグネシウムを製造し、この塩化マグネシウムを溶融状態で電解することによってマグネシウムを製造する方法も知られている(特許文献1,2参照)。
【0004】
また、カルシウムは、酸化カルシウムの溶融塩電解法などにより製造される。溶融塩電解法では、塩化カルシウム、フッ化カルシウムとともに酸化カルシウムを電解浴槽内に入れ、900℃近くまで加熱して、その後電圧を印加することにより、酸化カルシウムを分解する(特許文献3,4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−210520
【特許文献2】特開平2−243510
【特許文献3】特開2006−16633
【特許文献4】特開2006−45669
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの電解法では、数100℃以上の高温下で行う必要があり、簡便とは言い難かった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、第2族元素の酸化物を簡便に電解する方法及びその装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、金属マグネシウムからなる負極と安定なラジカル骨格であるニトロキシルラジカルを有する化合物及び酸化マグネシウムを含む正極とを非水系のマグネシウムイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加したところ、酸化マグネシウムが電解されることを見いだし、本発明を完成するに至った。また、金属カルシウムからなる負極と安定なラジカル骨格であるニトロキシルラジカルを有する化合物及び酸化カルシウムを含む正極とを非水系のカルシウムイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加したところ、酸化カルシウムが電解されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の電解方法は、
第2族元素の酸化物の電解方法であって、
第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加することにより前記正極中の第2族元素酸化物を電解して前記負極上に第2族元素金属を析出させるものである。
【0010】
また、本発明の電解装置は、
第2族元素の酸化物の電解装置であって、
第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置した電解槽と、
前記電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安定なラジカル骨格を有する化合物が第2族元素の酸化物の還元触媒として機能するため、第2族元素の酸化物を低温(例えば100℃未満)で簡便に電解することができる。ここで、第2族元素をマグネシウムとしたときに、電解時に正極及び負極で起こる反応を下記式に示す。酸化マグネシウムは、通常、数100℃以上の高温下でないと電解されないが、本発明の酸化マグネシウムの電解方法においては、正極に含まれる安定なラジカル骨格を有する化合物がレドックス反応(図1参照)を起こすから、これが酸化マグネシウムの分解を促進し、低温であっても電解が進行したものと推察される。なお、レドックス反応は、Mg基準で、3.0〜3.2Vで起こると予想される。
[正極]2MgO → 2Mg2++O2+4e-
[負極]Mg2++2e- → Mg
【0012】
また、第2族元素をカルシウムとしたときに、電解時に正極及び負極で起こる反応を下記式に示す。酸化カルシウムは、通常、数100℃以上の高温下でないと電解されないが、本発明の酸化カルシウムの電解方法においては、正極に含まれる安定なラジカル骨格を有する化合物がレドックス反応(図1参照)を起こすから、これが酸化カルシウムの分解を促進し、低温であっても電解が進行したものと推察される。
[正極]2CaO → 2Ca2++O2+4e-
[負極]Ca2++2e- → Ca
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】安定なラジカル骨格を有する化合物のレドックス反応の説明図である。
【図2】酸化マグネシウム電解装置の説明図である。
【図3】実施例1の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図4】実施例2の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図5】実施例3の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図6】実施例4の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図7】各比較例の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図8】実施例5の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図9】実施例6で用いた電気化学セルの説明図である。
【図10】実施例6で充電終了後に解体した電気化学セルの写真である。
【図11】充電試験前後における酸化マグネシウムを含む正極のXPSスペクトルである。
【図12】実施例10の定電流定電圧充電での電流の経時変化を表すグラフである。
【図13】実施例10及び比較例4,5の定電流定電圧充電での電流の経時変化を表すグラフである。
【図14】実施例11の定電流定電圧充電での電流の経時変化を表すグラフである。
【図15】比較例6の定電流定電圧充電での電流の経時変化を表すグラフである。
【図16】実施例12の定電流定電圧充電での電流の経時変化を表すグラフである。
【図17】充電試験前後における酸化カルシウムを含む正極のXPSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電解方法は、第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加することにより、正極中の第2族元素酸化物を電解して負極上に第2族元素金属を析出させるものである。また、本発明の電解装置は、第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素の酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置した電解槽と、電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置と、を備えたものである。第2族元素としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムなどが挙げられ、このうちマグネシウム及びカルシウムが好ましい。
【0015】
例えば、第2族元素をマグネシウムとしたときには、本発明の酸化マグネシウムの電解方法は、マグネシウムイオンを吸蔵放出可能な負極と酸化マグネシウム及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極とを非水系のマグネシウムイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加することにより正極中の酸化マグネシウムを電解して負極上に析出させるものである。また、本発明の酸化マグネシウム電解装置は、マグネシウムイオンを吸蔵放出可能な負極と酸化マグネシウム及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極とを非水系のマグネシウムイオン伝導体に離間して配置した電解槽と、電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置と、を備えたものである。
【0016】
また、第2族元素をカルシウムとしたときには、本発明の酸化カルシウムの電解方法は、カルシウムイオンを吸蔵放出可能な負極と酸化カルシウム及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極とを非水系のカルシウムイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加することにより正極中の酸化カルシウムを電解して負極上に析出させるものである。また、本発明の酸化カルシウム電解装置は、カルシウムイオンを吸蔵放出可能な負極と酸化カルシウム及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極とを非水系のカルシウムイオン伝導体に離間して配置した電解槽と、電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置と、を備えたものである。
【0017】
本発明において、負極は、第2族元素のイオンを吸蔵放出可能なものである。例えば、第2族元素をマグネシウムとしたときには、負極は、マグネシウムイオンを吸蔵放出可能なものであり、このような負極としては、金属マグネシウムのほかに、マグネシウムアルミニウム、マグネシウムシリコン、マグネシウムガリウムなどのマグネシウム合金などを用いることもできる。また、第2族元素をカルシウムとしたときには、負極は、カルシウムイオンを吸蔵放出可能なものであり、このような負極としては、金属カルシウムのほかに、カルシウムアルミニウム、カルシウムシリコンなどのカルシウム合金などを用いることもできる。また、銅、錫、シリコンなどの金属上に第2族元素を析出させることもできる。
【0018】
本発明において、正極は、第2族元素の酸化物(例えば酸化マグネシウムや酸化カルシウム)及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含むものである。安定なラジカル骨格を有する化合物は、第2族元素の酸化物の還元触媒として機能する。ここで、安定なラジカル骨格とは、ラジカルとして存在している時間の長いものをいい、例えば電子スピン共鳴分析で測定されたスピン密度が1019spins/g以上、好ましくは1021spins/g以上としてもよい。こうした安定なラジカル骨格としては、例えば、ニトロキシルラジカルを有する骨格、オキシラジカルを有する骨格、窒素ラジカルを有する骨格、硫黄ラジカルを有する骨格、炭素ラジカルを有する骨格及びホウ素ラジカルを有する骨格からなる群より選ばれたものが好ましい。具体的には、式(1)〜(9)に示すようなニトロキシルラジカルを有する骨格、式(10)に示すようなフェノキシラジカル(オキシラジカル)を有する骨格、式(11)〜(13)に示すようなヒドラジルラジカル(窒素ラジカル)を有する骨格、式(14),(15)に示すような炭素ラジカルを有する骨格などが挙げられる。このうち、特にニトロキシルラジカルを有する骨格が好ましく、例えば、2,2,6,6−テトラアルキル−1−オキシルピペリジニル骨格(式(1)参照)、2,2,5,5−テトラアルキル−1−オキシルピロリニル骨格(式(2)参照)及び2,2,5,5−テトラアルキル−1−オキシルピロリジニル骨格(式(3)参照)からなる群より選ばれたものが好ましい。また、安定なラジカル骨格を有する化合物の使用量は、正極の総重量に対して0.1〜60重量%とするのが好ましく、20〜40重量%とするのがより好ましい。0.1重量%未満では第2族元素の酸化物の還元を十分促進しないおそれがあり、60重量%を超えると集電が十分にできなくなるおそれがある。
【0019】
【化1】
【0020】
安定なラジカル骨格を有する化合物は、ポリマーが安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物であってもよいし、多環式芳香環が安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物であってもよい。前者の場合には、正極から流出しにくいため長期にわたって酸化マグネシウムの還元触媒機能を発揮することができ、後者の場合には、正極中で個々に分散して存在しやすいため酸化マグネシウムの還元触媒機能を十分発揮することができる。ポリマーとしては、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどが挙げられる。多環式芳香環としては、例えばナフタレンやフェナレン、トリフェニレン、アントラセン、ペリレン、フェナントレン、ピレンなどが挙げられる。ポリマーや多環式芳香環は、ラジカル骨格に直接連結していてもよいし、エステル結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合、カルバミド結合、エーテル結合及びスルフィド結合からなる群より選ばれたものをスペーサとし該スペーサを介してラジカル骨格に連結していてもよい。式(16)はポリマー(ポリプロピレン)がスペーサ(エステル結合)を介して安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物の一例であり、式(17)は多環式芳香環(ピレン)がスペーサ(アミド結合)を介して安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物の一例である。
【0021】
【化2】
【0022】
本発明において、正極は、第2族元素の酸化物や安定なラジカル骨格を有する化合物のほかに、導電助剤やバインダを所定量混合した後、プレス成形して形成してもよい。具体的には、導電助剤100重量部に対し、バインダ3〜10重量部であればよい。また、混合方法としては、N−メチルピロリドンなどの溶媒下でカーボン粉末、バインダとともに湿式混合してもよいし、乳鉢やボールミルなどを使って乾式混合してもよい。ここで、導電助剤としては、ケッチェンブラックなどの公知のカーボン粉末を用いることができる。また、バインダとしては、ポリフッ化ビリニデンやポリテトラエチレンフルオライド、ポリアクリロニトリルなどを用いることができる。プレス成形する際には、電気を集電することのできる基板上にプレス成形してもよい。こうした基板としては、ステンレス鋼(例えばSUS)や白金、ニッケル、アルミニウムなどの金属板やメッシュ板を用いることができる。
【0023】
本発明において、非水系のイオン伝導体としては、支持塩を含む非水系電解液を用いることができる。支持塩としては、例えば、第2族元素をMとすると、パークロレート塩(M(ClO4)2)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩(M[N(CF3SO2)2])、トリフルオロメタンスルホネート塩(M(CF3SO3)2)、フルオロブタンスルホネート塩(M(C4F9SO3)2)、有機アルミン酸塩などの公知の第2族元素を含む塩を用いることができる。第2族元素をマグネシウムとした場合、支持塩としては、マグネシウムパークロレート(Mg(ClO4)2)、マグネシウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Mg[N(CF3SO2)2])、マグネシウムトリフルオロメタンスルホネート(Mg(CF3SO3)2)、マグネシウムフルオロブタンスルホネート(Mg(C4F9SO3)2)、有機アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。第2族元素をカルシウムとした場合、支持塩としては、カルシウムパークロレート(Ca(ClO4)2)、カルシウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Ca[N(CF3SO2)2])、カルシウムトリフルオロメタンスルホネート(Ca(CF3SO3)2)、カルシウムフルオロブタンスルホネート(Ca(C4F9SO3)2)、有機アルミン酸カルシウムなどが挙げられる。非水系電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ガンマブチルラクトン、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジメトキシエタンなど従来の二次電池やキャパシタに使われる環状エステル、鎖状エステル、鎖状エーテル又はそれらの混合溶媒を用いることができる。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであればよく、0.3〜0.6Mであれば好ましい。また、マグネシウムイオン伝導体としては、そのほかにイオン性液体やゲル電解質、固体電解質などを用いてもよい。イオン性液体としては、トリメチルプロピルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどを用いることができる。また、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及びアセトニトリルなどを用いることができる。ゲル電解質としては、公知のゲル電解質を用いることができ、例えば、ポリフッ化ビリニデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子化合物やアミノ酸誘導体、ソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてなるゲル電解質などが挙げられる。
【0024】
本発明の第2族元素の酸化物の電解装置は、電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置を備えている。この電圧印加装置は、正負極間に直流電圧を印加可能なものであれば特に限定されず、定電流充電や定電圧充電を実行可能なものとしてもよい。
【0025】
以上詳述した本実施形態の第2族元素の酸化物の電解方法及び第2族元素の酸化物の電解装置では、第2族元素の酸化物を低温(例えば100℃未満)で簡便に電解することができる。この理由は、図1に示すように、安定なラジカル骨格を有する化合物が、比較的低温において第2族元素の酸化物の還元触媒として機能するためであると推察される。図1は、安定なラジカル骨格を有する化合物のレドックス反応の説明図である。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
酸化マグネシウム還元触媒として、前出の式(16)に示すラジカルポリマーを用いた。このラジカルポリマーは、Chem. Phys. Lett. Vol.359, p351(2002)に従い、2、2‘−アゾビスイソブチロニトリルを開始剤として、2,2、6,6―テトラメチルピペリジンメタクリレートモノマーの重合を行い、続いて、3−クロロパーベンゾイックアシッドで酸化することにより得られた。このラジカルポリマーは数平均分子量9.2万、重量平均分子量22.9万であった。このラジカルポリマーは、ラジカル骨格として2,2,6,6−テトラメチルピペリドキシルラジカル(TEMPOラジカル)を有しているが、TEMPOラジカルは安定なラジカル骨格として知られている(例えば特開2002−151084参照)。
【0027】
正極は次のようにして作製した。まず、酸化マグネシウム(Aldrich製、99%)220mg(電極材料あたり41.8重量%)、式(16)のラジカルポリマー123mg(電極材料あたり23重量%)、ケッチェンブラック(三菱化学ECP6000)143mg、テフロンパウダー(ダイキン工業製、「テフロン」は登録商標、以下同じ)41mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシートを作製した。そのシート5mgをSUSメッシュ(ニコラ製)に圧着して正極とした。負極は、10mm角、厚さ0.2 mmの金属マグネシウム(和光純薬工業製)を用いた。そして、図2に示す電解槽にアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で正極と負極を離間して配置した。電解液としては、0.5モル/リットルのマグネシウムパークロレートのプロピレンカーボネート・ジエチルカーボネート(体積混合比1:1)を用意し、この電解液を電解槽へ15mL注入した。その後、アルゴン雰囲気下で電解槽を蓋で密閉した。この結果、電解槽のうち電解液の上部空間はアルゴン溜めとなる。
【0028】
このようにして組み立てた電解槽を北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、正極と負極の間で0.01mA(10μA)の電流(正極材料あたり2mA/g)を流して、25℃にて3.3Vまで定電流充電を行い、引き続き3.3Vを維持するように定電圧充電を行った。充電は合計100時間行った。電流値の経時変化を図3に示す。図3から測定された電気量は0.34mAhであった。なお、電気量は図3の電流曲線と縦軸と横軸とによって囲まれる面積であるが、電流計の検出限界のベースラインが1μA付近にあるため、実際には電流曲線と縦軸とベースラインとによって囲まれる面積から電気量を求めた。充電中、負極の表面には金属マグネシウムが細かい凹凸形状となって析出した。この結果から、充電中に酸化マグネシウムは電解によりマグネシウムイオンと酸素イオンになり、負極上に金属マグネシウムが析出することが支持される。
【0029】
[実施例2]
実施例1において、和光純薬工業の重質酸化マグネシウムを用いた以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を行った。電流値の経時変化を図4に示す。図4から測定された電気量は0.21mAhであった。この結果から、製造メーカーにかかわらず、酸化マグネシウムを電解できることがわかった。
【0030】
[実施例3]
実施例1において、式(16)のラジカルポリマーの割合を36重量%、充電時間を140時間とした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を行った。電流値の経時変化を図5に示す。図5から測定された電気量は0.57mAhであった。この結果から、ラジカルポリマーの割合が多いほど酸化マグネシウムが電解しやすい傾向にあるといえる。
【0031】
[実施例4]
実施例1において、充電電流を0.005mA、充電時間を300時間とした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を行った。電流値の経時変化を図6に示す。図6から測定された電気量は0.95mAhであった。この結果から、充電電流が小さいほど酸化マグネシウムが電解しやすい傾向にあるといえる。
【0032】
[比較例1]
実施例2において、酸化マグネシウム還元触媒に電解二酸化マンガン(三井鉱山製)を10重量%を用いて、酸化マグネシウムを含まないとした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を試みた。電流値の経時変化を図7に示す。図7から測定された電気量は0.001mAhであった。
【0033】
[比較例2]
実施例2において、正極にラジカルポリマーだけを含み(20重量%)、酸化マグネシウムを含まないとした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を試みた。電流値の経時変化を図7に示す。図7から測定された電気量は0.018mAhであった。各実施例で測定された電気量はこの比較例2に比べて格段に高かったが、これは酸化マグネシウムの電解の有無によって生じたといえる。
【0034】
[比較例3]
実施例2において、還元触媒に電解二酸化マンガン(三井鉱山製)を10重量%を用いて、酸化マグネシウムを32重量%含むとした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を試みた。電流値の経時変化を図7に示す。図7から測定された電気量は0.031mAhであった。この結果から、各実施例で用いたラジカルポリマーの酸化マグネシウムの還元能力は、電解二酸化マンガンに比べて格段に高いといえる。
【0035】
[実施例5]
実施例1において、正極の集電体としてPtメッシュ(ニラコ製)を用い、充電時間を140時間とした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を試みた。電流値の経時変化を図8に示す。図8から測定された電気量は0.63mAhであった。この結果から、正極集電体として各種の金属が使用可能であることがわかる。
【0036】
[実施例6]
実施例3において、図9のF型電気化学セルを用いた以外は、実施例3と同様にして充電を行った。なお、正極と負極との間には絶縁樹脂が介在している。図10の写真は試験終了後に解体した電気化学セルを正極側からみたものである。正極のメッシュ(集電体)の内側に気泡(矢印、酸素)がみえる。この酸素は酸化マグネシウムが分解して生じたものと考えられる。
【0037】
[実施例7]
実施例5において、電解液を0.5モル/リットルのマグネシウムパークロレートを溶解したジメチルスルホキシド溶液とした以外は実施例5と同様にして電解槽を作製し充電を行った。実施例7において測定された電気量は0.76mAhであった。
【0038】
[実施例8]
実施例5において、電解液を0.5モル/リットルのマグネシウムパークロレートを溶解したメチルプロピルピペリジニウムトリフルオロメチルスルホニルイミド溶液とした以外は実施例5と同様にして電解槽を作製し充電を行った。実施例8において測定された電気量は0.43mAhであった。
【0039】
[実施例9]
実施例5において、電解液を0.5モル/リットルのマグネシウムパークロレートを溶解したプロピレンカーボネート・アセトニトリル溶液(体積混合比3:7)とした以外は実施例5と同様にして電解槽を作製し充電を行った。実施例9において測定された電気量は0.68mAhであった。実施例7〜9の結果から、各種の電解液が使用可能であることがわかる。
【0040】
実施例1において、充電試験前と充電試験後で正極上に含まれるマグネシウムの量をXPS法(X線光電子分光法)により測定した。XPSの測定は、XPS測定装置(アルバックファイ製PHI−5500MC)を用いて、X線源としてMgKαを用いて行った。図11は、充電試験前後における酸化マグネシウムを含む正極のXPSスペクトルである。図11に示すように、マグネシウムに由来するシグナル強度が充電試験後において減少しており、酸化マグネシウムが分解されていることが明らかとなった。
【0041】
[実施例10]
次に、酸化カルシウムの電解について実験した。正極は次のようにして作製した。まず、酸化カルシウム(和光純薬工業製、99%)220mg(電極材料あたり41.8重量%)、化合物式(16)のラジカルポリマー123mg(電極材料あたり23重量%)、ケッチェンブラック(三菱化学製ECP)143mg、テフロンパウダー(ダイキン工業製)41mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシートを作製した。そのシート5mgをPtメッシュ(ニコラ製)に圧着して正極とした。負極には金属カルシウム(Aldrich製)を用いた。図2に示す電解槽にアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で正極と負極とを離間して配置した。電解液としては、0.5モル/リットルのカルシウムパークロレートのプロピレンカーボネート・ジエチルカーボネート(体積混合比1:1)を用意し、この電解液を電解槽へ15mL注入した。
【0042】
このようにして組み立てた電解槽を北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、正極と負極の間で0.01mAの電流(正極材料あたり2mA/g)を流して、25℃にて3.8Vまで定電流充電を行い、引き続き、3.8Vを維持するように定電圧充電を行った。充電は合計50時間行った。電流値の経時変化を図12に示す。図12から測定された電気量は0.195mAhであった。また、実施例10において、電流を0.005mAとし、充電時間を96時間として測定した電流値の経時変化を図13に示す。図13から測定された電気量は0.235mAhであった。この結果から、充電中に酸化カルシウムは電解によりカルシウムイオンと酸素イオンになり、負極上に金属カルシウムが析出することが支持される。
【0043】
[比較例4]
実施例10において、触媒であるラジカルポリマーを除いた以外は、実施例10と同様にして電解槽を作製したものを比較例4とした。この比較例4において、電流を0.005mAとし、充電時間を96時間として測定した電流値の経時変化を図13に示す。図13から測定された電気量は0.0021mAhであった。
【0044】
[比較例5]
実施例10において、触媒であるラジカルポリマーを含み(電極材料あたり20重量%)、酸化カルシウムを含まないとした以外は実施例10と同様にして電解槽を作製したものを比較例5とした。この比較例5において、電流を0.005mAとし、充電時間を96時間として測定した電流値の経時変化を図13に示す。図13から測定された電気量は0.0018mAhであった。
【0045】
[実施例11]
実施例10において、正極のPtメッシュの代わりにステンレス(SUS)メッシュ(ニラコ製)を用いた以外は実施例10と同様にして電解槽を作製したものを実施例11とした。この実施例11において、充電電流を0.005mA、充電時間を140時間として測定した電流値の経時変化を図14に示す。図14から測定された電気量は0.274mAhであった。
【0046】
[比較例6]
実施例10において、還元触媒に電解二酸化マンガン(三井鉱山製)を10重量%を用いて、酸化カルシウムを32重量%含むとした以外は実施例10と同様にして電解槽を作製したものを比較例6とした。この比較例6において、電流を0.005mAとし、充電時間を96時間として測定した電流値の経時変化を図15に示す。図15から測定された電気量は0.0084mAhであった。この結果から、各実施例で用いたラジカルポリマーの酸化マグネシウムの還元能力は、電解二酸化マンガンに比べて格段に高いといえる。
【0047】
[実施例12]
正極部材として、酸化カルシウム(Aldrich製、99.9%)66.1mg(電極材料あたり37.8重量%)、化合物式(16)のラジカルポリマー40.1mg(電極材料あたり23.0重量%)、ケッチェンブラック(三菱化学製ECP)52.7mg、テフロンパウダー(ダイキン工業製)15.8mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシートを作製した。そのシート5mgをPtメッシュ(ニコラ製)に圧着して正極とした。負極には金属カルシウム(Aldrich製)を用いた。電解液には、0.5モル/リットルのカルシウムパークロレートのプロピレンカーボネート・アセトニトリル(体積混合比1:1)を用意し、この電解液を電解槽へ15mL注入した。次に、上述した実施例と同様に、正極と負極の間で0.005mAの電流を流して、3.8Vまで定電流充電させ、引き続き、3.8Vで、充電時間の合計が100時間になるように定電圧充電した。この測定した電流値の経時変化を図16に示す。図16から測定された電気量は0.238mAhであった。
【0048】
電流を0.005mAとし、充電時間を96時間として測定した実施例10において、充電試験前と充電試験後で正極上に含まれるカルシウムの量をXPS法(X線光電子分光法)により測定した。XPSの測定は、マグネシウムと同様に行った。図17は、充電試験前後における酸化カルシウムを含む正極のXPSスペクトルである。図17に示すように、カルシウムに由来するシグナル強度が充電試験後において減少しており、酸化カルシウムが分解されていることが明らかとなった。
【0049】
なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、金属酸化物を電解する産業に利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、第2族元素の酸化物の電解方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や電子メール端末などの携帯型情報機器の市場が急速に拡大しつつある。また、環境問題やエネルギー危機の観点からハイブリッド車や電気自動車への期待が高まっている。こうした背景を踏まえ、高エネルギーの蓄電デバイスが求められており、リチウムイオン電池が本命視されている。しかしながら、地表に存在する元素比を反映するクラーク数は0.006であり、大量にリチウムが消費される状況になるとコストの急騰などを招く恐れがある。一方、マグネシウムの標準電極電位は−2.375Vと低く、軽量である上、リチウムに比べて安価で取り扱いが容易であり、かつ資源的にも豊富である(クラーク数1.93)。こうした利点により、マグネシウムが容易に製造でき、電池に適用できれば、安価な電池を提供することが可能となる。また、カルシウムの標準電極電位は−2.847Vと低く、軽量である上、リチウムに比べて安価で取り扱いが容易であり、かつ資源的にも豊富である(クラーク数3.39)。こうした利点により、カルシウムが容易に製造でき、電池に適用できれば、安価な電池を提供することが可能となる。
【0003】
マグネシウムは、例えば酸化マグネシウムを原料とする電解法によって製造される。具体的には、酸化マグネシウムを適当な融点降下剤と共に融点を2800℃未満に下げて溶融させたあと、その状態で電解することによってマグネシウムを製造する方法が知られている。あるいは、炭素と混合した酸化マグネシウムを700℃以上の温度で塩素化することにより塩化マグネシウムを製造し、この塩化マグネシウムを溶融状態で電解することによってマグネシウムを製造する方法も知られている(特許文献1,2参照)。
【0004】
また、カルシウムは、酸化カルシウムの溶融塩電解法などにより製造される。溶融塩電解法では、塩化カルシウム、フッ化カルシウムとともに酸化カルシウムを電解浴槽内に入れ、900℃近くまで加熱して、その後電圧を印加することにより、酸化カルシウムを分解する(特許文献3,4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−210520
【特許文献2】特開平2−243510
【特許文献3】特開2006−16633
【特許文献4】特開2006−45669
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの電解法では、数100℃以上の高温下で行う必要があり、簡便とは言い難かった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、第2族元素の酸化物を簡便に電解する方法及びその装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、金属マグネシウムからなる負極と安定なラジカル骨格であるニトロキシルラジカルを有する化合物及び酸化マグネシウムを含む正極とを非水系のマグネシウムイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加したところ、酸化マグネシウムが電解されることを見いだし、本発明を完成するに至った。また、金属カルシウムからなる負極と安定なラジカル骨格であるニトロキシルラジカルを有する化合物及び酸化カルシウムを含む正極とを非水系のカルシウムイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加したところ、酸化カルシウムが電解されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の電解方法は、
第2族元素の酸化物の電解方法であって、
第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加することにより前記正極中の第2族元素酸化物を電解して前記負極上に第2族元素金属を析出させるものである。
【0010】
また、本発明の電解装置は、
第2族元素の酸化物の電解装置であって、
第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置した電解槽と、
前記電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安定なラジカル骨格を有する化合物が第2族元素の酸化物の還元触媒として機能するため、第2族元素の酸化物を低温(例えば100℃未満)で簡便に電解することができる。ここで、第2族元素をマグネシウムとしたときに、電解時に正極及び負極で起こる反応を下記式に示す。酸化マグネシウムは、通常、数100℃以上の高温下でないと電解されないが、本発明の酸化マグネシウムの電解方法においては、正極に含まれる安定なラジカル骨格を有する化合物がレドックス反応(図1参照)を起こすから、これが酸化マグネシウムの分解を促進し、低温であっても電解が進行したものと推察される。なお、レドックス反応は、Mg基準で、3.0〜3.2Vで起こると予想される。
[正極]2MgO → 2Mg2++O2+4e-
[負極]Mg2++2e- → Mg
【0012】
また、第2族元素をカルシウムとしたときに、電解時に正極及び負極で起こる反応を下記式に示す。酸化カルシウムは、通常、数100℃以上の高温下でないと電解されないが、本発明の酸化カルシウムの電解方法においては、正極に含まれる安定なラジカル骨格を有する化合物がレドックス反応(図1参照)を起こすから、これが酸化カルシウムの分解を促進し、低温であっても電解が進行したものと推察される。
[正極]2CaO → 2Ca2++O2+4e-
[負極]Ca2++2e- → Ca
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】安定なラジカル骨格を有する化合物のレドックス反応の説明図である。
【図2】酸化マグネシウム電解装置の説明図である。
【図3】実施例1の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図4】実施例2の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図5】実施例3の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図6】実施例4の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図7】各比較例の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図8】実施例5の定電流定電圧充電における電流の経時変化を表すグラフである。
【図9】実施例6で用いた電気化学セルの説明図である。
【図10】実施例6で充電終了後に解体した電気化学セルの写真である。
【図11】充電試験前後における酸化マグネシウムを含む正極のXPSスペクトルである。
【図12】実施例10の定電流定電圧充電での電流の経時変化を表すグラフである。
【図13】実施例10及び比較例4,5の定電流定電圧充電での電流の経時変化を表すグラフである。
【図14】実施例11の定電流定電圧充電での電流の経時変化を表すグラフである。
【図15】比較例6の定電流定電圧充電での電流の経時変化を表すグラフである。
【図16】実施例12の定電流定電圧充電での電流の経時変化を表すグラフである。
【図17】充電試験前後における酸化カルシウムを含む正極のXPSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電解方法は、第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加することにより、正極中の第2族元素酸化物を電解して負極上に第2族元素金属を析出させるものである。また、本発明の電解装置は、第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素の酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置した電解槽と、電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置と、を備えたものである。第2族元素としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムなどが挙げられ、このうちマグネシウム及びカルシウムが好ましい。
【0015】
例えば、第2族元素をマグネシウムとしたときには、本発明の酸化マグネシウムの電解方法は、マグネシウムイオンを吸蔵放出可能な負極と酸化マグネシウム及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極とを非水系のマグネシウムイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加することにより正極中の酸化マグネシウムを電解して負極上に析出させるものである。また、本発明の酸化マグネシウム電解装置は、マグネシウムイオンを吸蔵放出可能な負極と酸化マグネシウム及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極とを非水系のマグネシウムイオン伝導体に離間して配置した電解槽と、電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置と、を備えたものである。
【0016】
また、第2族元素をカルシウムとしたときには、本発明の酸化カルシウムの電解方法は、カルシウムイオンを吸蔵放出可能な負極と酸化カルシウム及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極とを非水系のカルシウムイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加することにより正極中の酸化カルシウムを電解して負極上に析出させるものである。また、本発明の酸化カルシウム電解装置は、カルシウムイオンを吸蔵放出可能な負極と酸化カルシウム及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極とを非水系のカルシウムイオン伝導体に離間して配置した電解槽と、電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置と、を備えたものである。
【0017】
本発明において、負極は、第2族元素のイオンを吸蔵放出可能なものである。例えば、第2族元素をマグネシウムとしたときには、負極は、マグネシウムイオンを吸蔵放出可能なものであり、このような負極としては、金属マグネシウムのほかに、マグネシウムアルミニウム、マグネシウムシリコン、マグネシウムガリウムなどのマグネシウム合金などを用いることもできる。また、第2族元素をカルシウムとしたときには、負極は、カルシウムイオンを吸蔵放出可能なものであり、このような負極としては、金属カルシウムのほかに、カルシウムアルミニウム、カルシウムシリコンなどのカルシウム合金などを用いることもできる。また、銅、錫、シリコンなどの金属上に第2族元素を析出させることもできる。
【0018】
本発明において、正極は、第2族元素の酸化物(例えば酸化マグネシウムや酸化カルシウム)及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含むものである。安定なラジカル骨格を有する化合物は、第2族元素の酸化物の還元触媒として機能する。ここで、安定なラジカル骨格とは、ラジカルとして存在している時間の長いものをいい、例えば電子スピン共鳴分析で測定されたスピン密度が1019spins/g以上、好ましくは1021spins/g以上としてもよい。こうした安定なラジカル骨格としては、例えば、ニトロキシルラジカルを有する骨格、オキシラジカルを有する骨格、窒素ラジカルを有する骨格、硫黄ラジカルを有する骨格、炭素ラジカルを有する骨格及びホウ素ラジカルを有する骨格からなる群より選ばれたものが好ましい。具体的には、式(1)〜(9)に示すようなニトロキシルラジカルを有する骨格、式(10)に示すようなフェノキシラジカル(オキシラジカル)を有する骨格、式(11)〜(13)に示すようなヒドラジルラジカル(窒素ラジカル)を有する骨格、式(14),(15)に示すような炭素ラジカルを有する骨格などが挙げられる。このうち、特にニトロキシルラジカルを有する骨格が好ましく、例えば、2,2,6,6−テトラアルキル−1−オキシルピペリジニル骨格(式(1)参照)、2,2,5,5−テトラアルキル−1−オキシルピロリニル骨格(式(2)参照)及び2,2,5,5−テトラアルキル−1−オキシルピロリジニル骨格(式(3)参照)からなる群より選ばれたものが好ましい。また、安定なラジカル骨格を有する化合物の使用量は、正極の総重量に対して0.1〜60重量%とするのが好ましく、20〜40重量%とするのがより好ましい。0.1重量%未満では第2族元素の酸化物の還元を十分促進しないおそれがあり、60重量%を超えると集電が十分にできなくなるおそれがある。
【0019】
【化1】
【0020】
安定なラジカル骨格を有する化合物は、ポリマーが安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物であってもよいし、多環式芳香環が安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物であってもよい。前者の場合には、正極から流出しにくいため長期にわたって酸化マグネシウムの還元触媒機能を発揮することができ、後者の場合には、正極中で個々に分散して存在しやすいため酸化マグネシウムの還元触媒機能を十分発揮することができる。ポリマーとしては、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどが挙げられる。多環式芳香環としては、例えばナフタレンやフェナレン、トリフェニレン、アントラセン、ペリレン、フェナントレン、ピレンなどが挙げられる。ポリマーや多環式芳香環は、ラジカル骨格に直接連結していてもよいし、エステル結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合、カルバミド結合、エーテル結合及びスルフィド結合からなる群より選ばれたものをスペーサとし該スペーサを介してラジカル骨格に連結していてもよい。式(16)はポリマー(ポリプロピレン)がスペーサ(エステル結合)を介して安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物の一例であり、式(17)は多環式芳香環(ピレン)がスペーサ(アミド結合)を介して安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物の一例である。
【0021】
【化2】
【0022】
本発明において、正極は、第2族元素の酸化物や安定なラジカル骨格を有する化合物のほかに、導電助剤やバインダを所定量混合した後、プレス成形して形成してもよい。具体的には、導電助剤100重量部に対し、バインダ3〜10重量部であればよい。また、混合方法としては、N−メチルピロリドンなどの溶媒下でカーボン粉末、バインダとともに湿式混合してもよいし、乳鉢やボールミルなどを使って乾式混合してもよい。ここで、導電助剤としては、ケッチェンブラックなどの公知のカーボン粉末を用いることができる。また、バインダとしては、ポリフッ化ビリニデンやポリテトラエチレンフルオライド、ポリアクリロニトリルなどを用いることができる。プレス成形する際には、電気を集電することのできる基板上にプレス成形してもよい。こうした基板としては、ステンレス鋼(例えばSUS)や白金、ニッケル、アルミニウムなどの金属板やメッシュ板を用いることができる。
【0023】
本発明において、非水系のイオン伝導体としては、支持塩を含む非水系電解液を用いることができる。支持塩としては、例えば、第2族元素をMとすると、パークロレート塩(M(ClO4)2)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩(M[N(CF3SO2)2])、トリフルオロメタンスルホネート塩(M(CF3SO3)2)、フルオロブタンスルホネート塩(M(C4F9SO3)2)、有機アルミン酸塩などの公知の第2族元素を含む塩を用いることができる。第2族元素をマグネシウムとした場合、支持塩としては、マグネシウムパークロレート(Mg(ClO4)2)、マグネシウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Mg[N(CF3SO2)2])、マグネシウムトリフルオロメタンスルホネート(Mg(CF3SO3)2)、マグネシウムフルオロブタンスルホネート(Mg(C4F9SO3)2)、有機アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。第2族元素をカルシウムとした場合、支持塩としては、カルシウムパークロレート(Ca(ClO4)2)、カルシウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Ca[N(CF3SO2)2])、カルシウムトリフルオロメタンスルホネート(Ca(CF3SO3)2)、カルシウムフルオロブタンスルホネート(Ca(C4F9SO3)2)、有機アルミン酸カルシウムなどが挙げられる。非水系電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ガンマブチルラクトン、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジメトキシエタンなど従来の二次電池やキャパシタに使われる環状エステル、鎖状エステル、鎖状エーテル又はそれらの混合溶媒を用いることができる。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであればよく、0.3〜0.6Mであれば好ましい。また、マグネシウムイオン伝導体としては、そのほかにイオン性液体やゲル電解質、固体電解質などを用いてもよい。イオン性液体としては、トリメチルプロピルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどを用いることができる。また、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及びアセトニトリルなどを用いることができる。ゲル電解質としては、公知のゲル電解質を用いることができ、例えば、ポリフッ化ビリニデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子化合物やアミノ酸誘導体、ソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてなるゲル電解質などが挙げられる。
【0024】
本発明の第2族元素の酸化物の電解装置は、電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置を備えている。この電圧印加装置は、正負極間に直流電圧を印加可能なものであれば特に限定されず、定電流充電や定電圧充電を実行可能なものとしてもよい。
【0025】
以上詳述した本実施形態の第2族元素の酸化物の電解方法及び第2族元素の酸化物の電解装置では、第2族元素の酸化物を低温(例えば100℃未満)で簡便に電解することができる。この理由は、図1に示すように、安定なラジカル骨格を有する化合物が、比較的低温において第2族元素の酸化物の還元触媒として機能するためであると推察される。図1は、安定なラジカル骨格を有する化合物のレドックス反応の説明図である。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
酸化マグネシウム還元触媒として、前出の式(16)に示すラジカルポリマーを用いた。このラジカルポリマーは、Chem. Phys. Lett. Vol.359, p351(2002)に従い、2、2‘−アゾビスイソブチロニトリルを開始剤として、2,2、6,6―テトラメチルピペリジンメタクリレートモノマーの重合を行い、続いて、3−クロロパーベンゾイックアシッドで酸化することにより得られた。このラジカルポリマーは数平均分子量9.2万、重量平均分子量22.9万であった。このラジカルポリマーは、ラジカル骨格として2,2,6,6−テトラメチルピペリドキシルラジカル(TEMPOラジカル)を有しているが、TEMPOラジカルは安定なラジカル骨格として知られている(例えば特開2002−151084参照)。
【0027】
正極は次のようにして作製した。まず、酸化マグネシウム(Aldrich製、99%)220mg(電極材料あたり41.8重量%)、式(16)のラジカルポリマー123mg(電極材料あたり23重量%)、ケッチェンブラック(三菱化学ECP6000)143mg、テフロンパウダー(ダイキン工業製、「テフロン」は登録商標、以下同じ)41mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシートを作製した。そのシート5mgをSUSメッシュ(ニコラ製)に圧着して正極とした。負極は、10mm角、厚さ0.2 mmの金属マグネシウム(和光純薬工業製)を用いた。そして、図2に示す電解槽にアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で正極と負極を離間して配置した。電解液としては、0.5モル/リットルのマグネシウムパークロレートのプロピレンカーボネート・ジエチルカーボネート(体積混合比1:1)を用意し、この電解液を電解槽へ15mL注入した。その後、アルゴン雰囲気下で電解槽を蓋で密閉した。この結果、電解槽のうち電解液の上部空間はアルゴン溜めとなる。
【0028】
このようにして組み立てた電解槽を北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、正極と負極の間で0.01mA(10μA)の電流(正極材料あたり2mA/g)を流して、25℃にて3.3Vまで定電流充電を行い、引き続き3.3Vを維持するように定電圧充電を行った。充電は合計100時間行った。電流値の経時変化を図3に示す。図3から測定された電気量は0.34mAhであった。なお、電気量は図3の電流曲線と縦軸と横軸とによって囲まれる面積であるが、電流計の検出限界のベースラインが1μA付近にあるため、実際には電流曲線と縦軸とベースラインとによって囲まれる面積から電気量を求めた。充電中、負極の表面には金属マグネシウムが細かい凹凸形状となって析出した。この結果から、充電中に酸化マグネシウムは電解によりマグネシウムイオンと酸素イオンになり、負極上に金属マグネシウムが析出することが支持される。
【0029】
[実施例2]
実施例1において、和光純薬工業の重質酸化マグネシウムを用いた以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を行った。電流値の経時変化を図4に示す。図4から測定された電気量は0.21mAhであった。この結果から、製造メーカーにかかわらず、酸化マグネシウムを電解できることがわかった。
【0030】
[実施例3]
実施例1において、式(16)のラジカルポリマーの割合を36重量%、充電時間を140時間とした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を行った。電流値の経時変化を図5に示す。図5から測定された電気量は0.57mAhであった。この結果から、ラジカルポリマーの割合が多いほど酸化マグネシウムが電解しやすい傾向にあるといえる。
【0031】
[実施例4]
実施例1において、充電電流を0.005mA、充電時間を300時間とした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を行った。電流値の経時変化を図6に示す。図6から測定された電気量は0.95mAhであった。この結果から、充電電流が小さいほど酸化マグネシウムが電解しやすい傾向にあるといえる。
【0032】
[比較例1]
実施例2において、酸化マグネシウム還元触媒に電解二酸化マンガン(三井鉱山製)を10重量%を用いて、酸化マグネシウムを含まないとした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を試みた。電流値の経時変化を図7に示す。図7から測定された電気量は0.001mAhであった。
【0033】
[比較例2]
実施例2において、正極にラジカルポリマーだけを含み(20重量%)、酸化マグネシウムを含まないとした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を試みた。電流値の経時変化を図7に示す。図7から測定された電気量は0.018mAhであった。各実施例で測定された電気量はこの比較例2に比べて格段に高かったが、これは酸化マグネシウムの電解の有無によって生じたといえる。
【0034】
[比較例3]
実施例2において、還元触媒に電解二酸化マンガン(三井鉱山製)を10重量%を用いて、酸化マグネシウムを32重量%含むとした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を試みた。電流値の経時変化を図7に示す。図7から測定された電気量は0.031mAhであった。この結果から、各実施例で用いたラジカルポリマーの酸化マグネシウムの還元能力は、電解二酸化マンガンに比べて格段に高いといえる。
【0035】
[実施例5]
実施例1において、正極の集電体としてPtメッシュ(ニラコ製)を用い、充電時間を140時間とした以外は実施例1と同様にして電解槽を作製し充電を試みた。電流値の経時変化を図8に示す。図8から測定された電気量は0.63mAhであった。この結果から、正極集電体として各種の金属が使用可能であることがわかる。
【0036】
[実施例6]
実施例3において、図9のF型電気化学セルを用いた以外は、実施例3と同様にして充電を行った。なお、正極と負極との間には絶縁樹脂が介在している。図10の写真は試験終了後に解体した電気化学セルを正極側からみたものである。正極のメッシュ(集電体)の内側に気泡(矢印、酸素)がみえる。この酸素は酸化マグネシウムが分解して生じたものと考えられる。
【0037】
[実施例7]
実施例5において、電解液を0.5モル/リットルのマグネシウムパークロレートを溶解したジメチルスルホキシド溶液とした以外は実施例5と同様にして電解槽を作製し充電を行った。実施例7において測定された電気量は0.76mAhであった。
【0038】
[実施例8]
実施例5において、電解液を0.5モル/リットルのマグネシウムパークロレートを溶解したメチルプロピルピペリジニウムトリフルオロメチルスルホニルイミド溶液とした以外は実施例5と同様にして電解槽を作製し充電を行った。実施例8において測定された電気量は0.43mAhであった。
【0039】
[実施例9]
実施例5において、電解液を0.5モル/リットルのマグネシウムパークロレートを溶解したプロピレンカーボネート・アセトニトリル溶液(体積混合比3:7)とした以外は実施例5と同様にして電解槽を作製し充電を行った。実施例9において測定された電気量は0.68mAhであった。実施例7〜9の結果から、各種の電解液が使用可能であることがわかる。
【0040】
実施例1において、充電試験前と充電試験後で正極上に含まれるマグネシウムの量をXPS法(X線光電子分光法)により測定した。XPSの測定は、XPS測定装置(アルバックファイ製PHI−5500MC)を用いて、X線源としてMgKαを用いて行った。図11は、充電試験前後における酸化マグネシウムを含む正極のXPSスペクトルである。図11に示すように、マグネシウムに由来するシグナル強度が充電試験後において減少しており、酸化マグネシウムが分解されていることが明らかとなった。
【0041】
[実施例10]
次に、酸化カルシウムの電解について実験した。正極は次のようにして作製した。まず、酸化カルシウム(和光純薬工業製、99%)220mg(電極材料あたり41.8重量%)、化合物式(16)のラジカルポリマー123mg(電極材料あたり23重量%)、ケッチェンブラック(三菱化学製ECP)143mg、テフロンパウダー(ダイキン工業製)41mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシートを作製した。そのシート5mgをPtメッシュ(ニコラ製)に圧着して正極とした。負極には金属カルシウム(Aldrich製)を用いた。図2に示す電解槽にアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で正極と負極とを離間して配置した。電解液としては、0.5モル/リットルのカルシウムパークロレートのプロピレンカーボネート・ジエチルカーボネート(体積混合比1:1)を用意し、この電解液を電解槽へ15mL注入した。
【0042】
このようにして組み立てた電解槽を北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、正極と負極の間で0.01mAの電流(正極材料あたり2mA/g)を流して、25℃にて3.8Vまで定電流充電を行い、引き続き、3.8Vを維持するように定電圧充電を行った。充電は合計50時間行った。電流値の経時変化を図12に示す。図12から測定された電気量は0.195mAhであった。また、実施例10において、電流を0.005mAとし、充電時間を96時間として測定した電流値の経時変化を図13に示す。図13から測定された電気量は0.235mAhであった。この結果から、充電中に酸化カルシウムは電解によりカルシウムイオンと酸素イオンになり、負極上に金属カルシウムが析出することが支持される。
【0043】
[比較例4]
実施例10において、触媒であるラジカルポリマーを除いた以外は、実施例10と同様にして電解槽を作製したものを比較例4とした。この比較例4において、電流を0.005mAとし、充電時間を96時間として測定した電流値の経時変化を図13に示す。図13から測定された電気量は0.0021mAhであった。
【0044】
[比較例5]
実施例10において、触媒であるラジカルポリマーを含み(電極材料あたり20重量%)、酸化カルシウムを含まないとした以外は実施例10と同様にして電解槽を作製したものを比較例5とした。この比較例5において、電流を0.005mAとし、充電時間を96時間として測定した電流値の経時変化を図13に示す。図13から測定された電気量は0.0018mAhであった。
【0045】
[実施例11]
実施例10において、正極のPtメッシュの代わりにステンレス(SUS)メッシュ(ニラコ製)を用いた以外は実施例10と同様にして電解槽を作製したものを実施例11とした。この実施例11において、充電電流を0.005mA、充電時間を140時間として測定した電流値の経時変化を図14に示す。図14から測定された電気量は0.274mAhであった。
【0046】
[比較例6]
実施例10において、還元触媒に電解二酸化マンガン(三井鉱山製)を10重量%を用いて、酸化カルシウムを32重量%含むとした以外は実施例10と同様にして電解槽を作製したものを比較例6とした。この比較例6において、電流を0.005mAとし、充電時間を96時間として測定した電流値の経時変化を図15に示す。図15から測定された電気量は0.0084mAhであった。この結果から、各実施例で用いたラジカルポリマーの酸化マグネシウムの還元能力は、電解二酸化マンガンに比べて格段に高いといえる。
【0047】
[実施例12]
正極部材として、酸化カルシウム(Aldrich製、99.9%)66.1mg(電極材料あたり37.8重量%)、化合物式(16)のラジカルポリマー40.1mg(電極材料あたり23.0重量%)、ケッチェンブラック(三菱化学製ECP)52.7mg、テフロンパウダー(ダイキン工業製)15.8mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシートを作製した。そのシート5mgをPtメッシュ(ニコラ製)に圧着して正極とした。負極には金属カルシウム(Aldrich製)を用いた。電解液には、0.5モル/リットルのカルシウムパークロレートのプロピレンカーボネート・アセトニトリル(体積混合比1:1)を用意し、この電解液を電解槽へ15mL注入した。次に、上述した実施例と同様に、正極と負極の間で0.005mAの電流を流して、3.8Vまで定電流充電させ、引き続き、3.8Vで、充電時間の合計が100時間になるように定電圧充電した。この測定した電流値の経時変化を図16に示す。図16から測定された電気量は0.238mAhであった。
【0048】
電流を0.005mAとし、充電時間を96時間として測定した実施例10において、充電試験前と充電試験後で正極上に含まれるカルシウムの量をXPS法(X線光電子分光法)により測定した。XPSの測定は、マグネシウムと同様に行った。図17は、充電試験前後における酸化カルシウムを含む正極のXPSスペクトルである。図17に示すように、カルシウムに由来するシグナル強度が充電試験後において減少しており、酸化カルシウムが分解されていることが明らかとなった。
【0049】
なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、金属酸化物を電解する産業に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2族元素の酸化物の電解方法であって、
第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加することにより前記正極中の第2族元素酸化物を電解して前記負極上に第2族元素金属を析出させる、
電解方法。
【請求項2】
前記第2族元素は、マグネシウム又はカルシウムである、請求項1に記載の電解方法。
【請求項3】
前記正極には、前記第2族元素酸化物として酸化マグネシウムが含まれており、
前記負極は、金属マグネシウムである、請求項1に記載の電解方法。
【請求項4】
前記正極には、前記第2族元素酸化物として酸化カルシウムが含まれており、
前記負極は、金属カルシウムである、請求項1に記載の電解方法。
【請求項5】
前記安定なラジカル骨格は、ニトロキシルラジカルを有する骨格である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解方法。
【請求項6】
前記安定なラジカル骨格を有する化合物は、ポリマーが前記安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解方法。
【請求項7】
前記安定なラジカル骨格を有する化合物は、多環式芳香環が前記安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解方法。
【請求項8】
第2族元素の酸化物の電解装置であって、
第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置した電解槽と、
前記電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置と、
を備えた電解装置。
【請求項9】
前記第2族元素は、マグネシウム又はカルシウムである、請求項8に記載の電解装置。
【請求項10】
前記正極には、前記第2族元素酸化物として酸化マグネシウムが含まれており、
前記負極は、金属マグネシウムである、請求項8に記載の電解装置。
【請求項11】
前記正極には、前記第2族元素酸化物として酸化カルシウムが含まれており、
前記負極は、金属カルシウムである、請求項8に記載の電解装置。
【請求項12】
前記安定なラジカル骨格は、ニトロキシルラジカルを有する骨格である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の電解装置。
【請求項13】
前記安定なラジカル骨格を有する化合物は、ポリマーが前記安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物である、請求項8〜12のいずれか1項に記載の電解装置。
【請求項14】
前記安定なラジカル骨格を有する化合物は、多環式芳香環が前記安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物である、請求項8〜12のいずれか1項に記載の電解装置。
【請求項1】
第2族元素の酸化物の電解方法であって、
第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置し、正負極間に直流電圧を印加することにより前記正極中の第2族元素酸化物を電解して前記負極上に第2族元素金属を析出させる、
電解方法。
【請求項2】
前記第2族元素は、マグネシウム又はカルシウムである、請求項1に記載の電解方法。
【請求項3】
前記正極には、前記第2族元素酸化物として酸化マグネシウムが含まれており、
前記負極は、金属マグネシウムである、請求項1に記載の電解方法。
【請求項4】
前記正極には、前記第2族元素酸化物として酸化カルシウムが含まれており、
前記負極は、金属カルシウムである、請求項1に記載の電解方法。
【請求項5】
前記安定なラジカル骨格は、ニトロキシルラジカルを有する骨格である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解方法。
【請求項6】
前記安定なラジカル骨格を有する化合物は、ポリマーが前記安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解方法。
【請求項7】
前記安定なラジカル骨格を有する化合物は、多環式芳香環が前記安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解方法。
【請求項8】
第2族元素の酸化物の電解装置であって、
第2族元素イオンを吸蔵放出可能な負極と、第2族元素酸化物及び安定なラジカル骨格を有する化合物を含む正極と、を非水系のイオン伝導体に離間して配置した電解槽と、
前記電解槽内の正負極間に直流電圧を印加可能な電圧印加装置と、
を備えた電解装置。
【請求項9】
前記第2族元素は、マグネシウム又はカルシウムである、請求項8に記載の電解装置。
【請求項10】
前記正極には、前記第2族元素酸化物として酸化マグネシウムが含まれており、
前記負極は、金属マグネシウムである、請求項8に記載の電解装置。
【請求項11】
前記正極には、前記第2族元素酸化物として酸化カルシウムが含まれており、
前記負極は、金属カルシウムである、請求項8に記載の電解装置。
【請求項12】
前記安定なラジカル骨格は、ニトロキシルラジカルを有する骨格である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の電解装置。
【請求項13】
前記安定なラジカル骨格を有する化合物は、ポリマーが前記安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物である、請求項8〜12のいずれか1項に記載の電解装置。
【請求項14】
前記安定なラジカル骨格を有する化合物は、多環式芳香環が前記安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物である、請求項8〜12のいずれか1項に記載の電解装置。
【図2】
【図9】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図9】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−106356(P2010−106356A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202083(P2009−202083)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]