説明

第3級ブタノールの製造方法

【課題】少なくともイソブチレンと1−ブテンとを含有する炭化水素混合物から高濃度の第3級ブタノールを高収率で得ると同時に、その残渣から分離される1−ブテン中のイソブチレンの含量を最少にして品位を向上し、しかも使用した水和触媒中の第3級ブタノールを事実上完全に除去して反復使用可能にする第3級ブタノールの製造方法を提供する。
【解決手段】ヘテロポリ酸の水溶液をイソブチレンの水和触媒として使用した上で、加圧、加熱下、向流的に複数段階で炭化水素混合物と接触反応させて得られた第3級ブタノールを含有する触媒水溶液層から高濃度の第3級ブタノールを直列に配置された二個の蒸留器で完全に回収するか、または一個の蒸留器で残された触媒水溶液中の第3級ブタノールを昇温分解して、触媒水溶液を反復使用可能にする事を特徴とする第3級ブタノールの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は第3級ブタノールの製造方法に関する。さらに詳細にはナフサの分解反応の生成物から分離された炭素数が4からなる炭化水素群から1,3−ブタジエンを選択的に分離除去した残渣中に含有されるイソブチレンを触媒存在下に効率的に水和させて、さらにこの炭化水素残渣中のイソブチレン含量を最少にする事の出来る第3級ブタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナフサの分解生成物から分離された炭素数が4である炭化水素混合物には多種類の炭化水素類が含有されている。その中で産業上、殊に化学工業上有用なものとしては1,3−ブタジエン、イソブチレンおよび1−ブテンが挙げられる。ここで、1,3−ブタジエンは合成ゴムまたはプラスチックスの原料として既に古くから利用されてきた。また、イソブチレンからはブチルゴム、プラスチックの安定剤類、ガソリンのオクタン価向上剤、第3級ブタノール、メタクリル酸、メタクリル酸エステル類などが誘導され、広く利用されている。さらに、1−ブテンは2−ブテンと共に第2級ブタノールまたはメチルエチルケトンなどに誘導され利用されていたが、最近、これがポリオレフィンと称されるプラスチックスの原料として使用されるようになって、特に注目され、需要が漸次拡大されつつある状況である。しかし、この分野に使用される1−ブテンには比較的に高純度の品位が要求され、殊にイソブチレンの混在は嫌われている。従って、炭素数が4である炭化水素混合物から1−ブテンを高純度で分離回収する事は新しい課題となり、とりわけ、炭化水素混合物からイソブチレンを触媒の存在下で水和して第3級ブタノールに変換して分離除去する方法においては、その後で分離される1−ブテン中に混入するイソブチレンの量が特に多く、この課題が重要視されるようになっている。
【0003】
ナフサの分解生成物から分離された炭素数が4である炭化水素混合物からは順次有用な炭化水素類が分離回収される。先ず、1,3−ブタジエンが分離回収される。これはジメチルホルムアミドなどの溶剤による選択的な抽出法が採用されていて、1,3−ブタジエンが分離除去された残渣には殆ど1,3−ブタジエンは含有されない。この残渣は当業界ではスペントBBまたはRaffinate−I(以下、本明細書においてはR−Iと称する。)と称されている。続いて、R−Iからはイソブチレンが除去される。イソブチレンはアルコール類、特にメタノールと反応させて第3級ブチルエーテルに変換してから分離除去されるか、これを水和させて第3級ブタノールにして分離除去されるかの二つの方法が取られている。イソブチレンが回収除去された残渣はRaffinate−II(以下、本明細書においてはR−IIと称する。)と称されていて1−ブテンが多く含有されている。既に説明した通り、高純度の1−ブテンはポリオレフィン類の原料として最近、需要を伸ばしつつあって重要である。これは通常、蒸留法によってR−IIから回収分離される。ただし、R−II中に含有されているイソブチレンは蒸留法では1−ブテンと分離する事が困難である。そして、R−I中のイソブチレンを第3級ブタノールに変換して除去する方法においては最終、1−ブテン中に残存するイソブチレンの量が比較的に多く、これを効率的に減少させる事は従来、さらに困難であった。
【0004】
R−I中のイソブチレンを水和させて第3級ブタノールを製造するに際して使用される触媒としては、大別して二種類が知られている。その一つは硫酸またはスルホン酸類であり、これは特許文献1または特許文献2などの各公報に詳しい。他の一つはりんモリブデン酸またはりんタングステン酸などのヘテロポリ酸と称される強酸性物質であって、特許文献3、特許文献4または特許文献5などの各公報に詳しい。特に、特許文献6にはモリブデン、タングステンまたはバナジウムを縮合配位元素としたヘテロポリ酸のイソブチレンに対する水和触媒としての利点が詳述されていて、さらに、高価なヘテロポリ酸水溶液の反復使用についての説明もあるが、触媒の反復使用におけるR−II中のイソブチレン含量を減少させる対策に付いては認識されていない。また、特許文献7には連続蒸留法による第3級ブタノールの蒸留についての説明があるが、この方法によれば、蒸留塔頂から取り出す第3級ブタノールの濃度を充分に保ちながら、蒸留塔底から取り出す触媒水溶液中に残存する第3級ブタノール含量を0.2重量%以下にする事は困難であるとされている。そして、この方法によって回収された触媒水溶液を反復使用する時、R−II中のイソブチレン含有量を3重量%以下に保つ事の困難性は既に知られている。
【特許文献1】特開平8−40956号公報
【特許文献2】特開2005−220092号公報
【特許文献3】特公昭58−39134号公報
【特許文献4】特開2000−44497号公報
【特許文献5】特開2000−44502号公報
【特許文献6】特公昭58−39134号公報
【特許文献7】特開2000−44502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナフサ分解反応の生成物から分離された炭素数が4である炭化水素混合物から1,3−ブタジエンを選択的に回収除去した残渣すなわちR−I中に存在するイソブチレンを反復使用可能な水和触媒を反復使用し効率的に水和して高濃度の第3級ブタノールを高収率で製造すると同時に、その炭化水素残渣すなわちR−II中に残存するイソブチレン量を最少にして、これから引き続き分離回収される1−ブテンの品位をポリオレフィン類の原料として好ましい程度に向上させる事が第一の課題であり、高濃度の第3級ブタノールの濃度は80重量%以上である事が好ましい。次に、反復使用される触媒水溶液に含有される第3級ブタノール量を第一の課題を満足させる事の出来る程度にまで減少させる事が第二の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、モリブデンまたはタングステンを縮合配位元素とするヘテロポリ酸水溶液を水和触媒として使用した上で、触媒水溶液を加圧、加熱下、向流的に複数段階で、少なくともイソブチレンと1−ブテンとを含有する炭化水素類と接触反応させて得られる第3級ブタノールを含有する触媒水溶液から第3級ブタノールを事実上完全に蒸留回収して、触媒水溶液を反復使用する事を特徴とする第3級ブタノールの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
発明の実施態様、実施例、比較例および参考例から理解されるように、本発明は反復使用可能な触媒を使用して、R−Iから効率的に高濃度第3級ブタノールが製造されると同時に副生するR−II中のイソブチレンの含有量を最少にして、続いてこれから分離される1−ブテンの品位が向上される効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
反復使用可能な触媒を反復使用して、R−I中のイソブチレンを選択的に水和させ、その結果、R−IIに残存するイソブチレンの含有量を最少にする事が本発明の第一の課題である。ここで、イソブチレンの最少の含有量とはR−IIに対して1重量%以下、より好ましくは0.7重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以下である。ちなみに、R−Iの代表的な組成はイソブチレン42重量%(以下、重量を省略する。)、1−ブテン30%、2−ブテン15%、n−ブタン7%、イソブタン2%およびその他合計で4%である。従って、この組成のR−Iを水和処理して、R−II中のイソブチレンの残存量を0.5%にしたと仮定すれば、このR−IIの組成はイソブチレン0.5%、1−ブテン51.5%、2−ブテン25.7%、n−ブタン12%、イソブタン3.4%およびその他合計で6.9%であると算出される。実験結果もこれと相似であって、このR−IIから蒸留法によって分離回収される1−ブテンの純度は99%以上が保たれる。
【0009】
イソブチレンの水和反応によって第3級ブタノールを生成させる反応は可逆反応であり、触媒の種類の如何に関わらず、平衡関係は一定である。その化学量論的な平衡点は反応温度に支配される。そして、この反応は発熱反応であり、反応温度の低い方が平衡点は生成系側に移動する。ただ、低過ぎる温度での反応は反応速度が小さいので工業的な採用は困難である。本発明の実施においての好ましい反応温度は30ないし80℃さらに好ましくは、40ないし70℃の範囲である。反応温度が30℃未満の時は水和反応速度が極めて緩慢であり、80℃を超える時には少量の第2級ブタノールの生成が認められ、さらに触媒寿命が短縮される傾向があり、不利である。
【0010】
通常、R−Iと触媒水溶液との水和反応は複数段階で向流接触的に行なわれる。ここで、反復再使用される触媒水溶液中の第3級ブタノールの残存量が多い時には、R−Iと触媒水溶液との量比の如何、向流的接触反応の段数の如何に関わらず、本発明が課題としているR−II中のイソブチレンの量を最少にする事は困難である。反復使用される触媒水溶液の第3級ブタノールの望ましい含有量は0.2ないし0.01重量%、さらに好ましくは0.1ないし0.01重量%である。またR−Iと触媒水溶液の向流的接触反応の実効段数は3段階以上、好ましくは4段階以上である。実効段数が3段階未満である時、R−II中のイソブチレンの量を最少にしようとするにはR−Iに対する触媒水溶液の使用量を過大にする必要があって、実際的ではない。
【0011】
本発明の実施に好ましい水和触媒はヘテロポリ酸と称されるもののすべてが包含され得るが、実際にはりんモリブデン酸またはりんタングステン酸の二種類が安定性が良く最も好ましく使用される。そしてこの水和触媒として使用されるヘテロポリ酸水溶液の濃度は20ないし75重量%の範囲である事が好ましく、さらに触媒活性の安定性を向上させると共に、反応機器の腐食を防止する目的で少量のりん酸を加える事は好ましい。
【0012】
R−Iと触媒水溶液との向流的な接触水和反応において、イソブチレンの最終水和段階、つまり回収再使用触媒水溶液中の第3級ブタノール含有量とR−II中のイソブチレンとの量的な関係は簡単に割り出せそうではあるが、反応の平衡論的な議論は反応系が均一である時にのみ正確であって、本発明の実施形態のように油層と水層とに分離する反応系では、多くの実験結果からしか正確には知りえない事である。本発明者等の多くの実験によれば、向流的な複数段階の水和反応において、R−Iからのイソブチレンの最終水和段階、すなわち回収触媒水溶液の最初の使用段階で回収触媒水溶液中に残存する第3級ブタノールの量が0.2重量%を超える時には、複数段階の向流的な水和反応の段数の多さに関わらず、本発明が目指しているR−II中のイソブチレンの含量を1重量%以下、つまり、R−II中の1−ブテン100重量部に対して、イソブチレンを1.5重量部以下に保つのは困難である。本発明が目指しているR−II中の残存イソブチレンの含有量は1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下、最も好ましくは0.3重量%以下であって、これを実現するには反復使用する触媒水溶液中に残存する第3級ブタノールの量は0.2重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下、最も好ましくは0.05重量%以下であるべきである。これは、多くの実験結果によって判明した平衡関係に関わる量的な関係である。
【0013】
以上の理由から、本発明の第一の課題と第二の課題は不可分であり、本発明の第二の課題は効率的に高濃度の第3級ブタノールを採取すると同時に、回収触媒水溶液に残存する第3級ブタノールの量を最少にする事である。
【0014】
この課題の解決方法の一つは蒸留方法の工夫である。水和反応の完結した触媒水溶液から一挙に蒸留して高濃度の第3級ブタノールを得ると同時に触媒水溶液に残存する第3級ブタノールの量を第一の課題を満足させる程度迄に減少させる事は困難である。その理由は、この課題を満足させるには過大な精留塔とこれを運転するための過大な還流比とが必要であって、装置の建設コストおよび運転の熱効率の二点で得策でないからである。故に、本発明では触媒水溶液からの第3級ブタノールの蒸留を二段階に分けて行なう事によって、この課題を解決する方法を見い出した。すなわち、最初の蒸留器では蒸留塔頂から高濃度の第3級ブタノールが得られる範囲の蒸留を行い、塔底から排出される触媒水溶液に残存する少々の第3級ブタノールは次の蒸留器に導いて蒸留し、この蒸留塔頂から得られる比較的に低濃度の第3級ブタノールは最初の蒸留器に返して、塔底から排出される触媒水溶液に残存する第3級ブタノールの量を最少にする方法である。この二段階の蒸留設備は連続式にも回分式にも設計する事が出来るが、大規模な工業生産では連続式である事が好ましい。また、この課題の解決方法の他の一つは、第3級ブタノールを含有する触媒水溶液から得られる第3級ブタノールが高濃度である範囲に蒸留をとどめ、塔底から排出される触媒水溶液中に残存する第3級ブタノールは加熱してイソブチレンに変換する事によって、第一の課題の解決に適した反復使用可能な第3級ブタノールの含有量が最少である触媒水溶液を得る方法である。
【0015】
既に述べたように、R−I中に含有されるイソブチレンを触媒水溶液を使用して、複数段階での向流的水和反応で得られた第3級ブタノールは蒸留によって触媒水溶液から分離回収される。蒸留は通常、100ないし500ヘクトパスカルの減圧下で実施される。100ヘクトパスカル未満の圧力での蒸留ではその操作温度も低く逆反応による第3級ブタノールのイソブチレンへの分解反応が防止されて好ましいが、過度の減圧による蒸留設備の精留塔やコンデンサーが過大となって、必ずしも得策とは言えない。また、500ヘクトパスカルを超える圧力での蒸留では操作温度も高く、第3級ブタノールのイソブチレンへの分解反応が促進されると同時に触媒寿命を短縮させる傾向があって、好ましくない。
【0016】
本発明の工業的な実施においては、触媒水溶液とR−Iとの複数段階での向流的接触水和反応の設備および第3級ブタノールを含有した触媒水溶液からの高濃度の第3級ブタノールの蒸留設備の二つが必要である。これらは非連続式または連続式の二様に設計する事が出来るが、運転の経済性の見地からは両設備共に連続式である事が好ましく、さらにこの二つの設備は連結して運転されるように、その処理能力を同等に設計される事が好ましい。故に、この見地に立てば触媒水溶液からの第3級ブタノールの連続蒸留は二段階で直列的に連結されている事が最も好ましい。
【0017】
触媒水溶液とR−Iとの複数段階での向流的接触水和反応では実効段数が3以上、より好ましくは4以上である事が求められる。これは、本発明がR−Iからイソブチレンを水和抽出した残渣、すなわちR−II中のイソブチレンの含有量を最少にする課題を掲げている特殊性に原因している。ちなみに、従来この課題は無視されていて、通常、二段階の向流的接触水和反応が実施されていて、R−II中のイソブチレンの含量を3重量%以下に抑える事は困難であった。さらに、この課題を無視すれば、回収反復使用される触媒水溶液中の第3級ブタノールの含有量についても問題視する必要はなく、引いては触媒水溶液からの第3級ブタノールの蒸留にも特別の配慮の必要がなかった。向流的接触水和反応の実効段数が3未満である時には、通常実施されるR−Iと触媒水溶液の量比および反応条件の範囲内ではR−II中に残存するイソブチレンの含有量を本発明が求めている範囲内に収める事は出来ない。
【0018】
触媒水溶液とR−Iとの向流的接触水和反応は両者が共に液体である必要から加圧出来る設備内で行なわれる。触媒はヘテロポリ酸と称されるもので、りんモリブデン酸またはりんタングステン酸が使用されるが、触媒の回収反復使用においてりんタングステン酸がより長寿命であり最も好ましい。この触媒水溶液の濃度は30ないし75重量%であり、より好ましくは40ないし70重量%の範囲である。そして、接触するR−Iと触媒水溶液の量比は1対1ないし1対5の範囲である事が好ましい。接触を密にする目的で両者は充分にかきまぜられる。反応温度は30ないし80℃より好ましくは40ないし70℃の範囲である。各段階でのR−Iと触媒水溶液との接触時間はイソブチレン量と第3級ブタノールがほぼ平衡値に達する事が好ましく、反応温度がより高い程短時間であり、より低い程長時間が必要であって、0.5ないし6時間である事が好ましい。R−IまたはR−IIと触媒水溶液は静置すれば二層に分離するので、それぞれを採取する事は容易である。連続式の向流的接触水和反応装置は二つの方式が採用しうる。その一つは攪拌機付きの反応器と静置分離槽とを交互に必要な段数だけ組み合わせた設備であり、R−Iと触媒水溶液とを向流的に接触反応させる事が出来る。他の一つは連続向流抽出器と類似の装置であって、その装置上部から重液である触媒水溶液を注入し、下部から軽液であるR−Iを注入して、途中二液が充分に接触するようにかきまぜられる。こうして、装置上部からはイソブチレンが除去されたR−IつまりR−IIが排出され、装置下部からは、第3級ブタノールを含有した触媒水溶液が排出される。二液の排出はその比重差を利用して自動的に行なわれ、且つ装置内に滞留するR−Iと触媒水溶液の量比を一定に保つ事が出来る。前者は装置の設計が容易であり、さらに各段階の水和反応温度が変えられる利点があるが、その運転はやや複雑である。一方、後者は設備の設計がやや複雑ではあるが、その運転は一旦その条件を設定すれば容易である。
【0019】
設備の運転に際しては高濃度の第3級ブタノールを蒸留して残った触媒水溶液には、イソブチレンの水和に消費された水と高濃度の第3級ブタノールに含有されている水とが不足している。触媒水溶液を反復使用するには不足した水を補給する事が必要である。水の補給は触媒水溶液の比重を測定しながら、正確に行なう事が出来る。ちなみに、65重量%のりんタングステン酸の比重は2.22である。
【実施例】
【0020】
本発明をさらに明確にするために、具体的な実施例、比較例および参考例を挙げて説明する。ただし、実施例は説明の明確さと理解の容易さに資するために非連続的な方法についてのみ説明するが、これは本発明を限定するものではない。なお、例中、「%」は重量%を表すものとする。
【0021】
(実施例1)
(実施例1−1)
かきまぜ機、温度計、圧力計、液体注入口および底部に排出口の付いた内容積20,000mlのステンレススチール製のオートクレーブにその組成がイソブチレン:42%、1−ブテン:30%、2−ブテン:15%、n−ブタン:7%、イソブタン:2%およびその他:4%であるR−Iを4,338g圧入した。これをかきまぜながら、反応機内の温度を60℃にした。この中にりんタングステン酸9,100g、85%りん酸91gおよび水4,809gからなる触媒水溶液を毎分673.9gの速度で機内の温度を60℃に保ちながら圧入した。その後30分間かきまぜてから、かきまぜ機を停止して30分間静置した。分離した触媒水溶液層だけを注意深く底部から排出して、これを3回使用済みの触媒水溶液として密閉出来る内容積10,000mlの容器に保存した。反応機の中にはR−Iからイソブチレンが1回水和除去されたR−I’と仮称する炭化水素が残されている。これをかきまぜながら、反応機を60℃に保ちつつ、先に調製したのと同じ触媒水溶液を同じ速度で圧入した。その後、同様に30分間かきまぜてから、30分間静置して、下層の触媒水溶液を排出して、これを2回使用済みの触媒水溶液として別の内容積10,000mlの容器に保存した。反応機の中にはR−I’からイソブチレンがさらに1回水和除去されたR−I’’と仮称する炭化水素が残されている。再びこれをかきまぜながら、反応機を40℃に保ちつつ、先に調製したのと同じ触媒水溶液を同じ速度で圧入した。その後、90分かきまぜてから、30分間静置した。下層の触媒水溶液を排出して、これを1回使用済みの触媒水溶液として内容積10,000mlの容器に保存した。反応機内に残された炭化水素はR−IIとして、−10℃に冷却した容器に取出し、その組成の分析に供した。分析の結果はイソブチレン:0.28%、1−ブテン:51%、2−ブテン:26%、n−ブタン:12%、イソブタン:3.6%そしてその他:7%であった。
【0022】
温度計および実効段数が約20段の充填式蒸留塔の付いた内容積15,000mlの硬質ガラス製の蒸留器に保存していた3回使用済みの触媒水溶液および純水1,250gを仕込んだ。蒸留塔の上部には精密温度計、冷却器および還流比が変化されるような装置を取り付けた。また冷却器は真空器につないで、蒸留操作を200ヘクトパスカルの減圧下で確実に実施されるようにした。還流比を1対7にして蒸留を開始して、蒸留塔頂の温度が最初から7℃だけ上昇した点で第3級ブタノールのレシーバーを切り替えた。続いて第二のレシーバーに同じ還流比で蒸留塔頂の温度が59℃になるまでの留分を採取した。但し、第二段階の蒸留では、触媒水溶液の濃度の上昇と共に蒸留器内の温度が上昇したので、適宜純水を補った。最初のレシーバーの第3級ブタノールの濃度は82%であり、約2,500gが得られた。第二のレシーバーの第3級ブタノールの濃度は23%であって約1,100gが得られた。これを希薄第3級ブタノールとして、容器に保存した。蒸留器に残留した触媒水溶液は余分に濃縮されていたので、純水を補充して最初に調製した触媒水溶液と同じ比重に調整して、再生触媒水溶液として容器に保存した。この第3級ブタノール含有量は0.039%であった。
【0023】
(実施例1−2)
実施例1−1で使用した反応機にR−Iを4,338g圧入した。これをかきまぜながら反応機内の温度を60℃にした。ここで、実施例1−1で保存していた2回使用済みの触媒水溶液に純水86gを加えてから、実施例1−1と同様に毎分673.9gの速度で60℃の温度を保ちながら反応機に圧入した。その後30分かきまぜ、30分静置した。触媒水溶液だけを排出して3回使用済みの触媒水溶液として保存した。続いて、反応機内を60℃に保って、実施例1−1の1回使用済み触媒水溶液を同じ速度で圧入してから30分かきまぜ、30分静置した。触媒水溶液だけを排出して2回使用済みの触媒水溶液として保存した。反応機内の温度を40℃に保ちながら、実施例1−1の再生触媒水溶液を実施例1−1と同様に圧入して、その後、60分かきまぜ、30分静置した。触媒水溶液を排出して、1回使用済みの触媒水溶液として保存した。反応機に残されたR−II中のイソブチレン含量は0.32%であった。
【0024】
ここの3回使用済みの触媒水溶液に実施例1−1の希薄第3級ブタノールおよび純水400gを加えて、実施例1−1の蒸留操作と全く同様にして82%の高濃度第3級ブタノールが約2,900gおよび25%の希薄第3級ブタノールが約1,000g得られた。なお、82%の第3級ブタノール約2,900gは使用したR−Iから得られる理論量にほぼ同じであった。蒸留器に残された触媒水溶液には純水を加えて濃度を調整して、再生触媒水溶液として保存した。なお、この第3級ブタノール含量は0.043%であった。
【0025】
(実施例1−3)
実施例1−2と全く同様にして、実施例1−2で得られた2回使用済みの触媒水溶液に純水86gを加えてから、実施例1−2と同じ反応機に仕込まれたR−I中に温度60℃で圧入した。以降、実施例1−2と同じく、1回使用済みおよび再生触媒水溶液を用いて操作を行なった。ここで得られたR−IIのイソブチレンの含有量は0.31%であった。3回使用済みの触媒水溶液に実施例1−2で得られた希薄第3級ブタノールおよび純水500gを加えて実施例1−2と同じ条件で蒸留して、82%の第3級ブタノールが約2,900gと25%の第3級ブタノール約1,000gが得られた。蒸留器に残された触媒水溶液に純水を加えて濃度の調整を行った。この第3級ブタノールの含有量は0.036%であった。なお、さらに実施例1を続けたが、実施例1−3で完全に定常状態になったと認められ、同等の実験結果が得られた。
【0026】
(比較例1)
実施例1と同じ方法で得られた3回使用済みの触媒水溶液を実施例1で使用した蒸留器に仕込み、同じ条件で還流比1対0、つまり、還流しないで蒸留したところ、触媒水溶液中の第3級ブタノールの含有量を0.05%以下に抑えるには大量の留出量が必要であり、蒸留途中で蒸留器にしばしば純水を補充しなければならなかった。ここで得られた第3級ブタノールの濃度は31%であり、高濃度の第3級ブタノールを得るには再度の蒸留が必要であった。
【0027】
(参考例1)
実施例1−1で使用した3段階の触媒水溶液はそれぞれ新しく調製したものであって、当然第3級ブタノールは含有されていない。故にこれを本発明の参考例として考える事が出来る。なぜなら、本発明の課題の一つは第3級ブタノールを含有している触媒水溶液から、効率的に反復使用可能な触媒水溶液を再生する事であり、実施例1の各実施例の成果はほぼ同等であり、実施例1の方法が本発明の課題解決の手段として適切である事を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンまたはタングステンを縮合配位元素とするヘテロポリ酸水溶液を水和触媒として使用した上で、触媒水溶液を加圧、加熱下、向流的に複数段階で、少なくともイソブチレンと1−ブテンとを含有する炭化水素類と接触反応させて得られる第3級ブタノールを含有する触媒水溶液から第3級ブタノールを事実上完全に蒸留回収して、触媒水溶液を反復使用する事を特徴とする第3級ブタノールの製造方法。
【請求項2】
事実上完全に第3級ブタノールが回収され、反復使用される触媒水溶液の第3級ブタノールの含有量が0.2ないし0.01重量%である請求項1に記載の第3級ブタノールの製造方法。
【請求項3】
反復使用される触媒水溶液の第3級ブタノールの含有量が0.1ないし0.01重量%である請求項2に記載の第3級ブタノールの製造方法。
【請求項4】
ヘテロポリ酸がりんモリブデン酸またはりんタングステン酸である請求項1に記載の第3級ブタノールの製造方法。
【請求項5】
少なくともイソブチレンと1−ブテンとを含有する炭化水素類がナフサの分解反応の生成物から分離された炭素数が4である炭化水素群から1,3−ブタジエンを選択的に回収除去した残渣である請求項1に記載の第3級ブタノールの製造方法。
【請求項6】
触媒水溶液と少なくともイソブチレンと1−ブテンとを含有する炭化水素類との接触反応温度が30ないし80℃である請求項1に記載の第3級ブタノールの製造方法。
【請求項7】
向流的な複数段階の接触反応が少なくとも実効3段階である請求項1に記載の第3級ブタノールの製造方法。
【請求項8】
第3級ブタノールの蒸留回収操作を100ないし500ヘクトパスカルの減圧下で行なう請求項1に記載の第3級ブタノールの製造方法。
【請求項9】
第3級ブタノールの蒸留回収を二個の直列的に配置された連続蒸留器で行なう事を特徴とする請求項1に記載の第3級ブタノールの製造方法。
【請求項10】
少なくともイソブチレンと1−ブテンとを含有する炭化水素類から反復使用した触媒水溶液によってイソブチレンを水和して第3級ブタノールとして分離除去した炭化水素残渣に含有されるイソブチレン量が1−ブテン100重量部に対して1.5ないし0.2重量部である事を特徴とする請求項1に記載の第3級ブタノールの製造方法。
【請求項11】
炭化水素残渣に含有されるイソブチレン量が1−ブテン100重量部に対して1.0ないし0.3重量部である事を特徴とする請求項10に記載の第3級ブタノールの製造方法。

【公開番号】特開2008−63287(P2008−63287A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244252(P2006−244252)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【特許番号】特許第4048549号(P4048549)
【特許公報発行日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(504233720)松原産業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】