説明

筆記板用油性マーキングペンインキ組成物

【課題】筆記板の材質に関わらず、長期間を経過した後であっても筆跡を確実に擦過消去できる筆記板用油性マーキングペンインキ組成物を提供する。
【解決手段】顔料と、樹脂と、少なくともケトン系溶剤或いはエステル系溶剤を含む有機溶剤と、インキ組成物全量中2.0〜15.0質量%の範囲で添加される数平均分子量が250〜1500であるポリブテンとを含んでなる筆記板用油性マーキングペンインキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記板用油性マーキングペンインキ組成物に関する。詳細には、筆記板の材質に関わらず、筆跡を確実に消去でき、又長期間放置された筆跡も消去具による軽い擦過で完全に消去することができる筆記板用油性マーキングペンインキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ホーロー、ガラス、金属或いは熱可塑性又は熱硬化性プラスチック等の素材からなる筆記板(ホワイトボード)に用いられる筆記板用油性インキは、有機溶剤、顔料、樹脂と共に、剥離剤といわれる添加剤が配合されている。前記剥離剤を配合した筆記板用インキとしては、一塩基酸エステル、脂肪酸トリグリセリド、高級脂肪族炭化水素、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルを配合した消去性マーキングペンインキ組成物(例えば、特許文献1参照)、カルボキシル化ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、脂肪酸エステル、非イオン系界面活性剤を配合した筆記板用マーキングインキ(例えば、特許文献2参照)、或いは常温で液状のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル及びポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルを配合した筆記板用消去性インキ組成物(例えば、特許文献3参照)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平8−6062号公報
【特許文献2】特許第2851641号公報
【特許文献3】特許第3075633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献記載の筆記板用油性インキ組成物は、筆記板の材質によっては消去性が悪く、強く擦過しないと消去できなかったり、筆跡形成後、長時間経過したものにおいては、強く擦過しても筆跡が完全に消去できずに残ってしまうことがあった。
本発明は筆記板の材質に関わり無く良好な消去性を示し、筆跡が長期に亘って放置された場合でも消去具により数回擦過することにより、消え残り無く完全に消去可能な筆記板用油性マーキングペンインキ組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、顔料と、樹脂と、有機溶剤と、ポリブテンを含んでなる筆記板用油性マーキングペンインキ組成物を要件とする。
更に、前記ポリブテンの数平均分子量が250〜1500の範囲にあること、前記ポリブテンが、インキ組成物全量中2.0〜15.0質量%の範囲で添加されること、前記有機溶剤が少なくともケトン系溶剤或いはエステル系溶剤を含むこと、又、前記樹脂が、少なくとも塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を含むことを要件とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、筆記板の材質に関わらず、筆跡を形成してから長期間経過した後であっても、筆跡を確実に擦過消去できる筆記板用油性マーキングペンインキ組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、剥離剤としてポリブテンをインキ中に添加することにより、優れた消去性が得られるものである。
前記ポリブテンはイソブテンとノルマルブテンを重合して得られる液状ポリマーで、末端に二重結合を一個有するが、該二重結合を水素添加したものも使用できる。
前記ポリブテンは各種分子量のものが市販されているが、本発明においては数平均分子量が250〜1500の範囲から選ばれる。数平均分子量が250未満の場合、インキに十分な剥離性を付与することができず、筆跡の消去性顔料不満足なものとなってしまう。又数平均分子量が1500を超えるとインキが過度に粘稠となり、消去具で擦過した際に著しい抵抗感を示し実用には適さない。
前記ポリブテンは数平均分子量が250〜1500の範囲から選ぶことが好ましいが、300〜800の範囲がより好適な消去性を付与できる。
【0008】
前記ポリブテンはインキ組成物全量中2.0〜15.0質量%の範囲で添加される。2.0質量%より少ない添加量では十分な消去性が得られない。又、15.0質量%を超えて添加した場合、インキの粘度が高くなりすぎインキ追従性が悪くなったり、筆跡が白化(空気中の水分を吸収して白くなる現象)しやすくなる等の不具合が発生する。
前記ポリブテンの配合量はインキ組成物全量中2.0〜15.0質量%が好ましいが3.0〜10.0質量%がより好ましい。
【0009】
前記ポリブテンは数社から各種グレードの製品が市販されている。具体的にはLV−7、LV−50、LV−100,HV−15、HV−35、HV−50、HV−100、HV−300〔以上 新日本石油(株)製〕、0H、5H、10H−T、15H、100H、300H、15R、35R、100R、300R〔以上 出光石油化学(株)製〕、ポリブテン0N、ポリブテン06N、ポリブテン015N、ポリブテン3N、ポリブテン5N、ポリブテン10N、ポリブテン30N、ニュ-グライドM、ニューグライドU〔以上 日油(株)製〕等を挙げることができる。
【0010】
また、前記ポリブテンと共に、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルの硫酸エステル及びポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル又はこれらの塩から選ばれる一種又は二種以上を併用することが好ましい。前記エステルや塩を併用することで、表面材質がホーロー、金属のような無機材質、熱硬化型メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル樹脂、ポリプロピレン、フッ素樹脂等の各種の筆記板に筆記した場合においても、その表面素材に関わらず筆記直後はもちろん、長期間放置された筆跡であってもより容易に消去可能となる。
更に、その他汎用の剥離剤である、カルボン酸エステル類、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等を併用することもできる。
【0011】
前記顔料としては、従来より油性インキに適用される汎用の顔料が適宜用いられる。
具体的には、カーボンブラック、群青、二酸化チタン顔料等の無機顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、スレン顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、スレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料等の有機顔料、アルミニウム粉やアルミニウム粉表面を着色樹脂で処理した金属顔料、透明又は着色透明フィルムにアルミニウム等の金属蒸着膜を形成した金属光沢顔料、フィルム等の基材に形成したアルミニウム等の金属蒸着膜を剥離して得られる厚みが0.01〜0.1μmの金属顔料、金、銀、白金、銅から選ばれる平均粒子径が5〜30nmのコロイド粒子、蛍光顔料、蓄光性顔料、熱変色性顔料、芯物質として天然雲母、合成雲母、ガラス片、アルミナ、透明性フィルム片の表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したパール顔料等が挙げられる。
前記顔料は一種又は二種以上を併用してもよく、インキ組成物中3〜40重量%の範囲で用いられる。
また、前記顔料と共に汎用の染料、例えば、カラーインデックスにおいてソルベント染料として分類される有機溶剤可溶性染料等を併用することができる。
【0012】
前記有機溶剤は、揮発性(低沸点)の有機溶剤が好適に用いられ、ホワイトボードに筆記しても筆跡の乾燥性に優れるため、筆記直後の筆跡を手触した際、未乾燥のインキが手に付着したり、筆記面上の筆跡を形成していない空白部分を汚染する等の不具合を生じることなく、良好な筆跡を形成できる。
前記有機溶剤としてはn−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭化水素系有機溶剤、メチルイソブチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン等のケトン系有機溶剤、ギ酸n−ブチル、ギ酸イソブチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系有機溶剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルグリコール等のグリコール系溶剤、ベンジルアルコール、γ−ブチロラクトン等を例示でき、主溶剤(全溶剤中の50重量%以上を占める)として用いることが好ましい。
【0013】
また、前記有機溶剤と共に低級脂肪族アルコール系溶剤又はグリコールエーテル系溶剤を併用することもできる。
前記低級脂肪族アルコール系溶剤としてはメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、グリコールエーテル系溶剤としてはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等を挙げることができる。
これらの溶剤のうち特にケトン系溶剤およびエステル系溶剤は、ポリブテンの溶解安定性に優れ好ましく用いられる。
【0014】
前記樹脂は、筆記面への筆跡定着性やインキの粘性を付与するために用いられ、更に、前記剥離剤と共に作用して筆跡の擦過消去性を向上させるものである。
前記樹脂としては、例えば、エチルセルロースやアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合樹脂等のビニル系樹脂等が用いられる。
本発明においてケトン系溶剤およびエステル系溶剤を選択した場合、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂が、顔料分散性、消去性に優れ、好ましい。
【0015】
更に、本発明のインキ組成物には、必要に応じて上記成分以外に、筆跡白化防止剤、耐乾燥性付与剤、防錆剤、粘度調整剤、顔料分散剤、界面活性剤等の各種添加剤を使用できる。
前記添加剤はいわゆる慣用的添加剤と呼ばれるもので、公知の化合物から適宜必要に応じて使用することができる。
【0016】
前記インキ組成物は、ペン先を筆記先端部に装着したマーキングペンに充填して実用に供される。
マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ等のマーキングペン用ペン先を筆記先端部に装着し、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、筆記先端部にインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させて筆記先端部に所定量のインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容して、弁機構により筆記先端部に所定量のインキを供給する構造のマーキングペンが挙げられる。
なお、前記マーキングペンは、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式のマーキングペンの他、ノック式、回転式、スライド式等の出没機構を有し、軸筒内にペン先を収容可能な出没式のマーキングペンであってもよい。
【実施例】
【0017】
以下の表に筆記板用油性マーキングペンインキ組成物の組成を示す。尚、表中の数値は重量部を示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表中の注番号に沿って原料の内容を以下に示す。
(1)BASF社製、商品名:マイクロリスブラックC−K(C.I.ピグメントブラック7を塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体に分散させた加工顔料)
(2)BASF社製、商品名:マイクロリスブルーA3R−K(青色顔料を塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体に分散させた加工顔料)
(3)富士色素(株)製、商品名:フジASブラック(黒色顔料をブチラール樹脂中に分散させた加工顔料)
(4)日油(株)製、商品名:ニューグライドM
(5)日油(株)製、商品名:ポリビス06N
(6)日油(株)製、商品名:ポリビス10N
(7)第一工業製薬(株)製、商品名:プライサーフA−208B
(8)日光ケミカルズ(株)製、商品名:AKYPO RLM45
(9)東邦化学工業(株)製、商品名:フォスファノールRL310
(10)日光ケミカルズ(株)製、商品名:PBC−31
【0020】
インキの調製
攪拌用容器中に溶剤と加工顔料を入れ、高速羽根型ミキサーにて20℃で3時間攪拌した後、残りの添加剤(剥離剤等)を投入し、更に1時間攪拌することによりインキ組成物を得た。
【0021】
マーキングペンの作製
前記実施例及び比較例のインキ組成物を市販のマーキングペン(パイロットコーポレーション製;WBMAR−L)に各5g充填することで油性マーキングペンを得た。
前記マーキングペンを用いて以下の試験を行なった。
【0022】
消去性試験
各マーキングペンを用いて、各種筆記板(ホワイトボード)に5個連続して丸を書き、筆記直後の筆跡及び30日放置後の筆跡に対して、乾いた布で軽く擦過した際の消去性を目視により観察した。
尚、前記筆記板としては、表面光沢値70°グロスのホーロー板、基板表面にメラミン樹脂を塗装したもの、基板表面にアクリル樹脂を塗装したもの、基板表面にポリエステル樹脂を塗装したものを使用した。
試験結果を以下の表に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
尚、表中の記号の評価は以下の通りである。
消去性試験
○:筆跡残りなく消去できる。
△:筆跡の一部が残る。
×:筆跡の半分以上が消去できず残る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、樹脂と、有機溶剤と、ポリブテンを含んでなる筆記板用油性マーキングペンインキ組成物。
【請求項2】
前記ポリブテンの数平均分子量が250〜1500の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の筆記板用油性マーキングペンインキ組成物。
【請求項3】
前記ポリブテンが、インキ組成物全量中2.0〜15.0質量%の範囲で添加されることを特徴とする請求項1又は2に記載の筆記板用油性マーキングペンインキ組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤が、少なくともケトン系溶剤或いはエステル系溶剤を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の筆記板用油性マーキングペンインキ組成物。
【請求項5】
前記樹脂が、少なくとも塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の筆記板用油性マーキングペンインキ組成物。


【公開番号】特開2011−256227(P2011−256227A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129612(P2010−129612)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】