説明

等速ジョイントに用いられるインナ部材

【課題】等速ジョイントを構成するインナ部材の小型軽量化を図る。
【解決手段】等速ジョイント10は、3本の案内溝22a〜22cを内壁面に有した筒状のアウタカップ16と、前記アウタカップ16の内部に収容され、3本のトラニオン36a〜36cを有したインナ部材20とを含み、前記インナ部材20は、中央部に貫通したシャフト孔(結合孔)32の軸線と直交する一端面20a及び他端面20bが平面状に形成されると共に、前記トラニオン36a〜36cには、断面円弧状に形成された一組の球面部46a、46bが形成される。そして、球面部46a、46bの中心RCが、トラニオン36a〜36cの中心TCに対してオフセットして設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の駆動力伝達部において、一方の伝達軸と他方の伝達軸とを連結させ駆動力を伝達する等速ジョイントに用いられ、前記一方の伝達軸に連結された筒部に収容されると共に前記他方の伝達軸に連結されるインナ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、自動車の駆動力伝達部において、一方の伝達軸である第1シャフトと他方の伝達軸である第2シャフトとを連結して回転力を各車軸へと伝達する等速ジョイントを提案している。この等速ジョイントは、第1シャフトの端部に設けられた筒状の外側継手部材の内部に、第2シャフトに嵌合された内側継手部材が収容され、前記内側継手部材のトラニオンに回転体が回転自在に設けられている。そして、第1シャフトからの回転力が、外側継手部材及び内側継手部材を介して第2シャフトへと伝達され、前記第1シャフトと前記第2シャフトとが一体的に回転すると共に、前記内側継手部材が、前記外側継手部材の軸線方向に沿って変位する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4068824号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記の提案に関連してなされたものであり、小型軽量化を図ることが可能な等速ジョイントに用いられるインナ部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するために、本発明は、互いに離間して軸線方向に沿って延在する複数の案内溝を内周面に有し、第1伝達軸に連結される筒状のアウタ部材を有する等速ジョイントにおいて、前記アウタ部材の内部に挿入され第2伝達軸に連結されるインナ部材であって、
前記インナ部材は、前記第2伝達軸が嵌合されている円環部と、
前記円環部から前記案内溝に向かって半径外方向に膨出した複数のトラニオンと、
前記第2伝達軸の嵌合される結合孔と、
を備え、
前記トラニオンには、ホルダを介して回転体が回転自在に外嵌される断面円弧状の球面部と、前記結合孔の軸線方向と直交する一組の平面部とを有することを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、インナ部材を構成するトラニオンが、回転体を回転自在に保持するホルダが嵌合される断面円弧状の球面部を備えると共に、前記インナ部材には、第2伝達軸の連結される結合孔の軸線方向と直交した一組の平面部を備えている。
【0007】
従って、従来の等速ジョイントを構成するインナ部材と比較し、前記インナ部材の厚さ寸法を小さくすることができるため該インナ部材の小型軽量化を図ることができる。
【0008】
また、球面部の中心を、アウタ部材の中心と前記案内溝の中心とを通る軸線上に設けられた前記トラニオンの中心に対してオフセットして設けることにより、可動域を広げることができ、且つ、前記トラニオンが、軸線と直交方向に幅広状に形成され、円環部に対して確実且つ強固に接合されることとなり、前記トラニオンを含むインナ部材の剛性強度を向上することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0010】
すなわち、インナ部材を構成するトラニオンが、回転体を回転自在に保持するホルダが嵌合される断面円弧状の球面部を備え、前記インナ部材には、第2伝達軸の連結される結合孔の軸線方向と直交した一組の平面部を備えることにより、従来の等速ジョイントを構成するインナ部材と比較し、前記インナ部材の厚さ寸法を小さくすることができるため該インナ部材の小型軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係るインナ部材を有した等速ジョイントの縦断面図である。
【図2】図1に示す等速ジョイントの拡大断面図である。
【図3】図1に示すIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図2の等速ジョイントに対して従来技術に係る等速ジョイントの形状を対比させた拡大断面図である。
【図5】図1に示す等速ジョイントを構成するインナ部材の斜視図である。
【図6】変形例に係る等速ジョイントの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る等速ジョイントに用いられたインナ部材について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0013】
図1において、参照符号10は、本発明の実施の形態に係るインナ部材を有する等速ジョイントを示す。
【0014】
この等速ジョイント10は、図1〜図3に示されるように、一方の伝達軸である第1シャフト(第1伝達軸)12の一端部に一体的に連結され、開口部14を有する筒状のアウタカップ(アウタ部材)16と、他方の伝達軸である第2シャフト(第2伝達軸)18の一端部に固着され、前記アウタカップ16の孔部16a内に収納されるインナ部材20とを含む。
【0015】
アウタカップ16の内壁面には、軸線方向に沿って延在し、軸心の回りにそれぞれ約120度の間隔をおいて3本の案内溝22a〜22cが形成される。この案内溝22a〜22cは、それぞれフラットに形成された天井部24と、前記天井部24に略直交する平面によって形成され、後述するローラ52の外周面に接触する転動面26と、前記天井部24と転動面26とを接合する傾斜面28とを有する。
【0016】
天井部24は、アウタカップ16の中心Aから案内溝22a〜22cの幅寸法の中央を通る中心線(軸線)L1に対して略直交方向に延在すると共に、転動面26は、前記中心線L1と略平行に形成される。傾斜面28は、天井部24の両端部からアウタカップ16の中心A側へと若干傾斜している。なお、アウタカップ16の中心線L1は、該アウタカップ16に収容されるインナ部材20を構成するトラニオン36a〜36cの軸線と同一である。
【0017】
また、アウタカップ16の中心線L1と直交する案内溝22a〜22cの幅寸法B1は、図4に示されるように、上述した従来の等速ジョイント10A(図4中、二点鎖線形状)を構成する案内溝22a´(22b´、22c´)の幅寸法B2と比較して大きく設定される。これにより、天井部24の端部に接合された傾斜面28は、その転動面26との接合部位が前記アウタカップ16の外周面に近接した位置となる。
【0018】
さらに、天井部24を含む案内溝22a〜22cは、従来の等速ジョイント10Aを構成する案内溝22a´(22b´、22c´)と比較し、アウタカップ16の中心A側(半径内方向)となる位置に設けられている。
【0019】
これにより、各案内溝22a〜22cは、従来の等速ジョイント10Aと比較し、図1に示されるように、隣接する2つの案内溝22aと案内溝22b、案内溝22bと案内溝22c、案内溝22cと案内溝22aにおいて、最も幅方向外側に設けられた転動面26同士が互いに近接するようにそれぞれ設けられ、アウタカップ16において隣接する2つの案内溝に挟まれた部位が半径内方向に膨出した膨出部30となる。
【0020】
この膨出部30は、図4に示されるように、従来の等速ジョイント10Aの膨出部30´と比較して周方向(図4中、矢印C方向)に幅狭状に形成されるため、該膨出部30が小型化された分だけアウタカップ16の質量が軽量化される。
【0021】
インナ部材20は、図1〜図5に示されるように、中心に貫通したシャフト孔32を有するリング状のスパイダボス部(円環部)34と、前記スパイダボス部34の外周面に形成され、案内溝22a〜22cに向かって半径外方向に膨出し、軸心の回りに約120度の間隔をおいて設けられる3本のトラニオン36a〜36cとを備える。そして、トラニオン36a〜36cの外周面には、所定の曲率からなる断面円弧状の曲面部38が形成される。また、シャフト孔(結合孔)32の内周面には、軸線方向(図5中、矢印D方向)に沿ってスプライン溝40が形成され、第2シャフト18のスプライン部42が嵌合される。
【0022】
また、インナ部材20は、図3及び図5に示されるように、シャフト孔32の軸線方向(矢印D方向)に沿って所定厚さで形成され、該軸線L2と直交する一端面(平面部)20a及び他端面(平面部)20bが平面状に形成される。また、インナ部材20は、前記一端面20a及び他端面20bとスパイダボス部34の外周面とが緩やかな曲面で接合される。
【0023】
トラニオン36a〜36cは、シャフト孔32の軸線と直交する一組の平面部44a、44bがスパイダボス部34の一端面20a及び他端面20bと同一平面となるようにそれぞれ形成され、該平面部44a、44bと略直交する外側面には、断面円弧状に形成された一組の球面部46a、46bが形成される。球面部46a、46bは、図2に示されるように、その中心RCがトラニオン36a〜36cの中心TCから所定距離だけ該球面部46a、46b側へとオフセットした位置となる。
【0024】
そして、トラニオン36a〜36cには、それぞれリング状のホルダ48が外嵌され、断面平面状に形成された前記ホルダ48の内周面が、前記トラニオン36a〜36cの球面部46a、46bにそれぞれ摺接すると共に、平面部44a、44bに対しては非接触となる(図3参照)。すなわち、トラニオン36a〜36cは、ホルダ48の軸線方向に沿って摺動自在に設けられると共に、前記ホルダ48に対して所定角度だけ傾動自在に設けられる。
【0025】
また、トラニオン36a〜36cは、アウタカップ16の案内溝22a〜22cに対応して該トラニオン36a〜36cの軸線L1と直交方向に幅広状となるように形成されると共に、従来の等速ジョイント10Aを構成するインナ部材20と比較し、スパイダボス部34に近接した半径内方向に形成される(図4参照)。
【0026】
すなわち、トラニオン36a〜36cとスパイダボス部34との離間距離が、従来の等速ジョイント10Aと比較して小さく設定され、前記トラニオン36a〜36cがスパイダボス部34側(半径内方向)に向かって接近し、且つ、幅方向に拡幅した形状となる。
【0027】
そして、トラニオン36a〜36cは、ホルダ48の内周面に対して矢印E方向に所定角度だけ回動自在に設けられ、しかも、該トラニオン36a〜36cの軸線L1を回動中心として周方向(図2中、矢印F方向)に回動自在に設けられると共に、前記トラニオン36a〜36cは、ホルダ48の内周面に対して、上下方向(図2中、矢印G方向)に変位自在に設けられている。
【0028】
一方、ホルダ48の外周部には、複数のニードルベアリング50を介してリング状のローラ(回転体)52が外嵌される。このニードルベアリング50及びローラ52は、ホルダ48の環状溝に嵌着されたサークリップ54及びワッシャ56によって保持される。なお、ワッシャ56を用いることなく、ホルダ48に対してサークリップ54のみでニードルベアリング50及びローラ52を保持することも可能である。
【0029】
本発明の実施の形態に係るインナ部材20を有する等速ジョイント10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0030】
先ず、一方の伝達軸として機能する第1シャフト12が回転すると、その回転力は、アウタカップ16を介してインナ部材20へと伝達され、第2シャフト18が所定方向に回転する。すなわち、アウタカップ16の回転力は、案内溝22a〜22cに接触するローラ52及びニードルベアリング50を介して伝達され、さらに、前記ホルダ48の内周面に接触する球面部46a、46bを介してトラニオン36a〜36cへと伝達される。そして、トラニオン36a〜36cに嵌合される第2シャフト18が回転することとなる。
【0031】
この場合、第1シャフト12を有するアウタカップ16に対して第2シャフト18が所定角度傾斜すると、ホルダ48の内周面に対してトラニオン36a〜36cの球面部46a、46bが接触した状態を保持しながら、前記トラニオン36a〜36cは、図1に示されるように、トラニオン36a〜36cの中心TCを回動中心として矢印E方向に摺動変位する。
【0032】
さらに、トラニオン36a〜36cは、案内溝22a〜22cに沿って摺動するローラ52を介して該トラニオン36a〜36cの軸線L1と略直交する方向、すなわち、案内溝22a〜22cの長手方向(図3中、矢印H方向)に沿って変位する(図3参照)。このように、第1シャフト12の回転運動は、アウタカップ16に対する第2シャフト18の傾斜角度(ジョイント角)に影響されることなく該第2シャフト18に円滑に伝達される。
【0033】
以上のように、本実施の形態では、従来の等速ジョイント10Aと比較し、インナ部材20を構成するトラニオン36a〜36cは、断面円弧状の球面部46a、46bを備え、前記球面部46a、46bの中心RCが、アウタカップ16の中心Aと案内溝22a〜22cの中心とを通る中心線L1上に設けられた前記トラニオン36a〜36cの中心TCに対してオフセットして設けられる。そのため、トラニオン36a〜36cは、中心線L1と直交方向に幅広状に形成され、それに伴って、前記トラニオン36a〜36cの挿入される案内溝22a〜22cの幅方向が大きく形成される。その結果、アウタカップ16において、隣接する案内溝22a〜22cの間における肉を少なくすることができるため、前記アウタカップ16の軽量化を図ることができる。
【0034】
これにより、アウタカップ16において、隣接する案内溝22a〜22cの間となる膨出部30を小さくすることができ、前記アウタカップ16の肉抜きを行うことができるため、前記アウタカップ16の軽量化を図ることができる。
【0035】
また、トラニオン36a〜36cの幅寸法を大きく設定することにより、該トラニオン36a〜36cをスパイダボス部34に対して確実且つ強固に接合することができるため、該トラニオン36a〜36cを含むインナ部材20の剛性を向上させることができる。さらに、トラニオン36a〜36cを含むインナ部材20を、そのシャフト孔32の軸線と直交する一組の一端面20a及び他端面20bを有した平面状とすることにより、従来の等速ジョイント10Aと比較して前記インナ部材20の小型軽量化を図ることができ、しかも、上述したようにトラニオン36a〜36cの拡幅化によって剛性強度が確実に確保されると共に、可動域を広げることができる。
【0036】
また、上述した本実施の形態に係る等速ジョイント10では、インナ部材20を構成するトラニオン36a〜36cに球面部46a、46bを備え、その中心RCが、アウタカップ16の中心Aと案内溝22a〜22cの中心とを通る中心線L1上に設けられた前記トラニオン36a〜36cの中心TCに対してオフセットして設けられる構成について説明したが、これに限定されるものではない。
【0037】
例えば、図6に示される等速ジョイント100のように、球面部46a、46bの中心RCが、アウタカップ16の中心Aと案内溝22a〜22cの中心とを通る中心線L1上に設けられた前記トラニオン36a〜36cの中心TCと一致するようなインナ部材102を適用するようにしてもよい。
【0038】
なお、本発明に係る等速ジョイントに用いられるインナ部材は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0039】
10、100…等速ジョイント 12…第1シャフト
16…アウタカップ 18…第2シャフト
20、102…インナ部材 22a〜22c…案内溝
26…転動面 30…膨出部
32…シャフト孔 36a〜36c…トラニオン
44a、44b…平面部 46a、46b…球面部
48…ホルダ 52…ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離間して軸線方向に沿って延在する複数の案内溝を内周面に有し、第1伝達軸に連結される筒状のアウタ部材を有する等速ジョイントにおいて、前記アウタ部材の内部に挿入され第2伝達軸に連結されるインナ部材であって、
前記インナ部材は、前記第2伝達軸が嵌合されている円環部と、
前記円環部から前記案内溝に向かって半径外方向に膨出した複数のトラニオンと、
前記第2伝達軸の嵌合される結合孔と、
を備え、
前記トラニオンには、ホルダを介して回転体が回転自在に外嵌される断面円弧状の球面部と、前記結合孔の軸線方向と直交する一組の平面部とを有することを特徴とする等速ジョイントに用いられるインナ部材。
【請求項2】
請求項1記載のインナ部材において、
前記球面部の中心が、前記アウタ部材の中心と前記案内溝の中心とを通る軸線上に設けられた前記トラニオンの中心に対してオフセットして設けられることを特徴とする等速ジョイントに用いられるインナ部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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