説明

等速自在継手の外側継手部材製造方法

【課題】カップ部品のフランジ部材の取付部の旋削量を削減することができ、カップ部品とフランジ部材との接合強度の向上を図ることが可能な等速自在継手の外側継手部材製造方法を提供する。
【解決手段】大径部3と小径部4とが交互に配設された筒状の本体部13と、本体部13の一方の開口部を塞ぐ底部12とを有するカップ部品1と、カップ部品1の底部12に外嵌されるフランジ部材2とを備えた等速自在継手の外側継手部材の製造方法である。底部12の大径部対応外径面を切欠いて、外径がカップ部品1の大径部3の内径よりも大きくかつ大径部3の外径よりも小さい嵌合部8を形成し、フランジ部材2の内径面を嵌合させる。カップ部品8の外径面15とフランジ部材2の内径面16を接合必要範囲Wとし、接合必要範囲以外を接合不可範囲Xとする。接合不可範囲Xにおける溶接熱源を接合必要範囲よりも径方向にずらせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械等の動力伝達装置に使用される等速自在継手の外側継手部材製造方法に関し、特に摺動式トリポード型等速自在継手の外側継手部材製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手(トリポード型等速自在継手)は、外側継手部材と、内側継手部材としてのトリポード部材と、トルク伝達部材としてのローラを主要な構成要素としている。
【0003】
前記外側継手部材には、カップ部品と、このカップ部品から突設するように外嵌固定されるフランジ部材とを備えたものがある。カップ部品は内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝が形成してある。このカップ部品は、軸方向断面で見ると、大径部と小径部が交互に現れる非円筒形状である。すなわち、カップ部品は、大径部と小径部とを形成することによって、その内周面に、軸方向に延びる3本の前記トラック溝が形成される。
【0004】
このような外側継手部材を形成する場合、カップ部品とフランジ部材とを冷間鍛造や熱間鍛造等にて一体的に形成する方法がある(特許文献1)。また、図6や図7に示すように、フランジ部材102とカップ部品101とを別々に製造して接合する方法もある。すなわち、接合する方法は、カップ部品101にフランジ部材102の取付部108(フランジ部材102が嵌合する凸部)を形成し、この取付部108にフランジ部材102を外嵌(圧入)する。そして、その嵌合部を円形溶接軌跡で溶接することによって、カップ部品101にフランジ部材102を取付けるものである。
【特許文献1】特開平7−185730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載のものでは、冷間鍛造の場合、加工度が大きくなる為、フランジの成形が困難である。熱間鍛造では、鍛造工程後に内部形状をブローチ加工等の別加工をする必要があり、製造工数が多くなる。また、内部形状の精度を高めたカップ部品を製造するにあたり、ブローチ加工工程後に行う熱処理の変形を、ブローチ加工工程に変形量をフィードバックして内部形状を加工することが考えられるが、ブローチ加工の加工形態により困難である。
【0006】
また、フランジ部材102とカップ部品101とを別々に製造して接合する場合、従来においては、円形溶接のために、カップ部品101とフランジ部材102との取付部108の径を、外側継手部材の小径部104の外径よりも小さくしていた。このため、小径の取付部108を設けるためには、カップ部品101の底部112の外周面を旋削する必要があり、旋削量が多くなっていた。また、カップ部品101とフランジ部材102との接合径が小さくなるので、カップ部品101とフランジ部材102との接合強度が低下する問題もあった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて、カップ部品の取付部の旋削量を削減することができ、カップ部品とフランジ部材との接合強度の向上を図ることが可能な等速自在継手の外側継手部材溶製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の等速自在継手の外側継手部材製造方法は、大径部と小径部とが周方向に沿って交互に配設された筒状の本体部と、この本体部の一方の開口部を塞ぐ底部とを有するカップ部品と、このカップ部品の底部に外嵌されて接合されるリング状のフランジ部材とを備えた等速自在継手の外側継手部材の製造方法において、前記底部の大径部対応外径面を切欠いて、外径が前記カップ部品の大径部の内径よりも大きくかつ大径部の外径よりも小さい嵌合部を周方向に沿って複数個形成して、この嵌合部に前記フランジ部材の内径面を嵌合させ、嵌合部の外径面とこれに対応するフランジ部材の内径面との間を接合必要範囲とするとともに、接合必要範囲以外を接合不可範囲として、溶接時に、この接合不可範囲における溶接熱源を接合必要範囲よりも径方向にずらせて、連続した溶接軌跡形状でカップ部品とフランジ部材とを一体化するものである。
【0009】
本発明の等速自在継手の外側継手部材製造方法では、嵌合部の外径面とこれに対応するフランジ部材の内径面との間を接合必要範囲とすることにより、溶接軌跡形状の径は大きくなる。すなわち、嵌合部の外径は、カップ部品の大径部の内径よりも大きくかつ大径部の外径よりも小さく設定されるので、小径部に対応させた場合の溶接軌跡形状よりも大きくなる。また、カップ部品の嵌合部の径が大きくなるので、嵌合部を形成する際の旋削量を削減することができる。また、カップ部品は底部付き冷間鍛造品を使用する為、熱処理工程後の変形量をカップ成形時の工具にフィードバックすることができ、カップ部品の内部精度を向上させることが可能である。
【0010】
接合不可範囲における溶接熱源を、接合必要範囲よりも、径方向外方にずらせてフランジ部材に対応させたり、径方向内方にずらせてカップ部品の小径部に対応させたりすることができる。また、接合必要範囲の溶接軌跡を、カップ部品の大径部の最大径の80%以上100%未満の径とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、溶接軌跡形状の径は大きくなって、接合強度の向上を図ることができる。また、嵌合部を形成する場合の旋削量を削減することができ、作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。また、溶接開始位置を接合不可範囲で開始することにより、溶接開始・終了部で生じやすい溶接欠陥を接合必要範囲上での発生を防止できることや、連続溶接することにより、溶接開始・終了部に生じやすい溶接欠陥の発生割合が減少でき、溶接速度の高速化が可能である。さらに、接合不可範囲において、溶接熱源を接合必要範囲よりも外径側のフランジ側にずらせた場合、カップ部品への入熱量を低減させることができる。このように、カップ部品への入熱量が低減されることによって、カップ部品の寸法変化及び硬度低下を抑えることができ、フランジ部材との取付精度の向上を図ることができる。また、カップ部品においてトラック溝と精度が出ているカップ部品の形状が崩れる(変化する)のを防止し、必要な接合強度を得ることが可能となる。これにより、カップ部品の寸法変化や形状の変形による崩れを補正するための加工を低減又は省略することができ、加工費の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係るトリポード型等速自在継手の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
【0013】
等速自在継手(トリポード型等速自在継手)は、外側継手部材と、内側継手部材としてのトリポード部材と、トルク伝達部材としてのローラを主要な構成要素としている。
【0014】
前記外側継手部材は、カップ部品1と、このカップ部品1から突設するように外嵌固定されるフランジ部材2とを備える。カップ部品1は内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝5が形成してある。このカップ部品1は、軸方向断面で見ると、大径部3と小径部4が交互に現れる非円筒形状の本体部13と、この本体部13の一方の開口部を塞ぐ底部12とからなる。このように、本体部13に大径部3と小径部4とを形成することによって、その内周面に、軸方向に延びる3本の前記トラック溝5が形成され、外周面に周方向に沿って所定ピッチに凹窪部7が形成されている。
【0015】
フランジ部材2は、平板リング状体の円盤であって、周方向に沿って所定ピッチ(例えば120°)で貫通孔11が設けられており、この貫通孔11を介して外側継手部材を他の部材に取付けることができる。
【0016】
カップ部品1とフランジ部材2との接合は、図1や図2に示すように、フランジ部材2をカップ部品1に外嵌することにより取付けられる。すなわち、図3に示すように、底部12の外周面を旋削して、カップ部品1にフランジ部材2の取付部(嵌合部)8を周方向に沿って複数個(大径部3に対応した数)形成する。嵌合部8の外径を、カップ部品1の大径部3の内径よりも大きく、大径部3の外径よりも小さく設定している。この際、嵌合部8の外径(後述する接合必要範囲Wの溶接軌跡の径)をカップ部品1の大径部3の最大径の80%以上100%未満の径とする。
【0017】
また、フランジ部材2は内径面16の径を、嵌合部8の外径と同一または嵌合部8の外径より僅かに小さく設定する。このため、フランジ部材2をカップ部品1の取付部8に外嵌(圧入)することができる。
【0018】
そして、フランジ部材2を取付部8に嵌合させた状態では、嵌合部8の外径面15とこれに対応するフランジ部材2の内径面16とが接触乃至近接し、嵌合部8間(小径部4に対応した部位)においては、カップ部品1の外径面とフランジ部材2の内径面16との間に隙間Sが形成される。
【0019】
このため、嵌合部8の外径面15とこれに対応するフランジ部材2の内径面16との間が接合必要範囲Wとなるとともに、接合必要範囲W以外が接合不可範囲Xとなる。
【0020】
次に、前記のような構成を有する外側継手部材において、カップ部品1とフランジ部材2とを接合する方法を説明する。まず、カップ部品1の嵌合部8にフランジ部材2を外嵌する。次に、溶接開始・終了部で生じやすい溶接部表面の凹等の欠陥を接合必要範囲W上で発生させない為、接合不可範囲Xの所定点(溶接始点)から溶接熱源(例えば、レーザ)を、例えば時計方向に移動させ、接合必要範囲Wにおける嵌合部8の外径面15とこれに対応するフランジ部材2の内径面16を溶接して一体化し、接合不可範囲Xに達すれば、溶接熱源をカップ部品1の小径部4に合わせるように内径側に移動させる。その後、次の接合必要範囲Wに達すれば、溶接熱源をカップ部品1の大径部3に合わせるように外径側に移動させる。
【0021】
以後同様に溶接熱源を移動させることによって、カップ部品1とフランジ部材2とを接合一体化できる。その際形成される溶接軌跡17aは、嵌合部8の外径面15とこれに対応するフランジ部材2の内径面16とから成る接合必要範囲Wの溶接軌跡18aと、この溶接軌跡18a以外の接合不可範囲Xの溶接軌跡19a(接合必要範囲Wの溶接軌跡18aよりも内径側となる)とを交互に配設した花形溶接軌跡形状(連続溶接)となる。この際、接合必要範囲Wの溶接軌跡が、カップ部品1の大径部3の最大径の80%以上100%未満の径となる。なお、接合不可範囲Xの溶接軌跡19aにおいては溶接線が形成されるが、実際には、外側継手部材1とフランジ部材2とが接合されるものではない。
【0022】
このように、第1実施形態の等速自在継手の外側継手部材製造方法では、溶接軌跡形状の径は大きくなって、カップ部品1とフランジ部材2との接合範囲が増加することにより、接合強度の向上を図ることができる。また、嵌合部8の径が大きいので、嵌合部8を形成する場合の旋削量を削減することができ、作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。また、溶接開始位置を接合不可範囲Xで開始することにより、溶接開始・終了部で生じやすい溶接欠陥を接合必要範囲W上での発生を防止できることや、連続溶接することにより、溶接開始・終了部に生じやすい溶接欠陥の発生割合が減少でき、溶接速度の高速化が可能である。
【0023】
特に、接合必要範囲Wの溶接軌跡18aが、カップ部品1の大径部3の最大径の80%以上100%未満の径となるので、溶接軌跡17aの径を確実に大きく確保することができ、接合強度の一層の向上を図ることができる。
【0024】
次に、図4と図5は第2実施形態を示す。溶接開始・終了部で生じやすい溶接部の凹等の欠陥を接合必要範囲W上で発生させない為、接合不可範囲Xの所定点(溶接始点)から溶接熱源を例えば時計方向に移動させ、この接合必要範囲Wにおける嵌合部8の外径面15とこれに対応するフランジ部材2の内径面16を溶接し、接合不可範囲Xに達すれば、溶接熱源をフランジ部材2に合わせるように外径側に移動させる。その後、次の接合必要範囲Wに達すれば、溶接熱源をカップ部品1の大径部3に合わせるように内径側に移動させる。
【0025】
以後同様に溶接熱源を移動させることによって、カップ部品1とフランジ部材2とを接合一体化できる。その際形成される溶接軌跡17bは、嵌合部8の外径面15とこれに対応するフランジ部材2の内径面16とから成る接合必要範囲Wの溶接軌跡18bと、この溶接軌跡18b以外の接合不可範囲Xの溶接軌跡19b(接合必要範囲Wの溶接軌跡18bよりも外径側となる)とを交互に配設した花形溶接軌跡形状(連続溶接)となる。この場合も、接合必要範囲Wの溶接軌跡が、カップ部品1の大径部3の最大径の80%以上100%未満の径となる。なお、接合不可範囲Xの溶接軌跡19bにおいては溶接線が形成されるが、実際には、外側継手部材1とフランジ部材2とが接合されるものではない。
【0026】
このため、第2実施形態の等速自在継手の外側継手部材製造方法では、前記第1実施形態の製造方法と同様の作用効果を奏する。特に、接合不可範囲Xにおいて、溶接熱源を接合必要範囲Wよりも外径側のフランジ側にずらせるので、カップ部品1への入熱量が低減する。このように、カップ部品1への入熱量が低減されることによって、カップ部品1の寸法変化及び硬度低下を抑えることができ、フランジ部材2との取付精度の向上を図ることができる。また、カップ部品1においてトラック溝5と精度が出ているカップ部品1の形状が崩れる(変化する)のを防止し、必要な接合強度を得ることが可能となる。これにより、外側継手部材の寸法変化や形状の変形による崩れを補正するための加工を低減又は省略することができ、加工費の低減を図ることができる。なお、図4や図5に示す外側継手部材において、図1と図2に示す外側継手部材と同様の構成については、図1や図2と同一符号を付してその説明を省略する。
【0027】
また、本発明の第3実施形態として、図1と図2に示す製造方法と、図4と図5に示す製造方法とを組み合わせたものであってもよい。すなわち、この第3実施形態においては、接合不可範囲Xにおける溶接軌跡のうち、内径側にずらせる図1の方法にて生じる軌跡を第1溶接軌跡とし、外径側にずらせる図4の方法にて生じる軌跡を第2溶接軌跡として、これらの軌跡が混在するように溶接することになる。
【0028】
このため、この第3実施形態の製造方法であっても、図1等に示す製造方法と同様の作用効果を奏する。
【0029】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、溶接を開始する始点は、接合不可範囲X内としてもよい。さらに、溶接熱源の移動方向も時計回りに限るものではなく、反時計回りであってもよい。また、溶接する場合、溶接熱源側(溶接棒側)を移動させても、逆に外側継手部材側を移動させてよい。さらに、溶接方法としては、レーザ溶接、電子ビーム溶接、摩擦攪拌接合、アーク溶接、ガス溶接、TIG溶接、ロウ付け等、材料等に応じて最適な溶接方法を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す外側継手部材の背面図である。
【図2】前記図1の外側継手部材の縦断面図である。
【図3】前記図1のカップ部品の背面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示す外側継手部材の背面図である。
【図5】前記図4の外側継手部材の縦断面図である。
【図6】従来の外側継手部材の背面図である。
【図7】従来の外側継手部材の縦断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 カップ部品
2 フランジ部材
3 大径部
4 小径部
8 嵌合部
12 底部
13 本体部
15 外径面
16 内径面
W 接合必要範囲
X 接合不可範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径部と小径部とが周方向に沿って交互に配設された筒状の本体部と、この本体部の一方の開口部を塞ぐ底部とを有するカップ部品と、このカップ部品の底部に外嵌されて接合されるリング状のフランジ部材とを備えた等速自在継手の外側継手部材の製造方法において、前記底部の大径部対応外径面を切欠いて、外径が前記カップ部品の大径部の内径よりも大きくかつ大径部の外径よりも小さい嵌合部を周方向に沿って複数個形成して、この嵌合部に前記フランジ部材の内径面を嵌合させ、嵌合部の外径面とこれに対応するフランジ部材の内径面との間を接合必要範囲とするとともに、接合必要範囲以外を接合不可範囲として、溶接時に、この接合不可範囲における溶接熱源を接合必要範囲よりも径方向にずらせて、連続した溶接軌跡形状でカップ部品とフランジ部材とを一体化することを特徴とする等速自在継手の外側継手部材製造方法。
【請求項2】
前記接合不可範囲における溶接熱源を、接合必要範囲よりも径方向内方にずらせてカップ部品の小径部に対応させることを特徴とする請求項1の等速自在継手の外側継手部材製造方法。
【請求項3】
前記接合不可範囲における溶接熱源を、接合必要範囲よりも径方向外方にずらせて前記フランジ部材に対応させることを特徴とする請求項1の等速自在継手の外側継手部材製造方法。
【請求項4】
前記接合必要範囲の溶接軌跡を、前記カップ部品の大径部の最大径の80%以上100%未満の径とすることを特徴とする請求項2又は請求項3の等速自在継手の外側継手部材製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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