説明

等速自在継手

【課題】等速自在継手の冷却効果を高め、かつ高作動角で使用した場合においても長期間にわたり優れた潤滑性を維持できる低コストの等速自在継手を提供する。
【解決手段】外方部材2と、該外方部材2の内径面に設けられたトラック溝2aと、該トラック溝2aに沿って転動するトルク伝達部材4と、該トルク伝達部材4に回転トルクを伝達するシャフト6と、上記外方部材2の開口側端面を覆うシール構造部材8とを備え、ブーツを有さない等速自在継手1であって、シール構造部材8は、シャフト6が貫通する開口部を有し、等速自在継手1はその内部に、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、該樹脂成分はゴム状弾性を有する樹脂またはゴムによって形成され、発泡・硬化して多孔質化した固形物である発泡固形潤滑剤7が封入されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車、産業用機械、事務機器等の動力伝達系において使用される等速自在継手(ジョイント)に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車や産業用機械などに代表されるほとんどの機械の摺動部や回転部において潤滑剤が使用されている。潤滑剤は大別して液体潤滑剤と固形潤滑剤に分けられるが、潤滑油を増ちょうさせて保形性を持たせたグリースや、液体潤滑剤を保持してその飛散や垂れ落ちを防止できる固形潤滑剤も知られている。
【0003】
例えば、潤滑油やグリースに、超高分子量ポリオレフィン、またはウレタン樹脂およびその硬化剤を混合し、樹脂の分子間に液状の潤滑成分を保持させて徐々に滲み出る物性を持たせた固形潤滑剤が知られている(特許文献1〜特許文献3参照)。また、ポリウレタン原料であるポリオールとジイソシアネートとを潤滑成分中で反応させた自己潤滑性のポリウレタンエラストマーが知られている(特許文献4参照)。このような固形潤滑剤は、軸受に封入して固化させると、潤滑油を徐々に滲み出させるものであり、これを用いると潤滑油の補充のためのメンテナンスが不要になり、水分の多い厳しい使用環境や強い慣性力の働く環境などでも軸受寿命の長期化に役立つ場合が多い。
【0004】
このような固形潤滑剤を、等速自在継手の駆動部のような圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し加わる部位に使用すると、圧縮や屈曲に追従して変形させるために非常に大きな力が必要になり、または非常に大きな応力が固形潤滑剤に加わって、それを保持する部分にも機械的強度が必要になる。しかし、固形潤滑剤の強度と充填率は通常、相反するものであるので、潤滑剤を高充填率で保持することが困難であり、長寿命化を妨げる可能性がある。
【0005】
そのため、圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し起こるような部位においても簡便に使用可能な固形潤滑剤が求められている。この対処例として、発泡した柔軟な樹脂の気孔内に潤滑油を保持させた含油発泡体を軸受や等速ジョイントの内部に充填して使用する含油固形潤滑剤が知られている(特許文献5参照)。また、この含油固形潤滑剤は潤滑油保持力が小さいことから、気孔内だけではなく樹脂の分子間内にも潤滑油を吸蔵することができ潤滑油保持力を向上させた発泡固形潤滑剤も提案されている(特許文献6参照)。
【0006】
一方、等速ジョイントは、ジョイント内に封入される潤滑剤の流出防止、および水や塵埃等の侵入防止を目的として、蛇腹形状のブーツを有している。蛇腹形状のブーツを有する等速ジョイントでは、山部や谷部において疲労や摩耗による損傷が生じる場合があることから、これらの軽減を図ったブーツも提案されている(特許文献9参照)。
【0007】
ブーツとしては、固定型等速ジョイントに装着されたCRブーツや樹脂ブーツ(特許文献7および特許文献8参照)が知られているが、これらのブーツを示す図にはジョイント外輪内面からブーツ側への潤滑剤の流出防止機構が存在しないことが確認できる。また、仕切り板や被膜を形成することでブーツ側への潤滑成分の流出を抑制する自在継手も提案されている(特許文献12参照)。また、CRブーツに用いられているワンタッチ式ブーツバンド(特許文献10参照)や、樹脂ブーツに適用されている左右加締式バンドが知られている(特許文献11参照)。
【0008】
固定型および摺動型等速自在継手に従来ブーツが装着された状態を図10および図11に示す。
【0009】
図10は固定型等速自在継手のボールフィクストジョイント(以下、BJと記す)の一部切欠き断面図を示す。図10に示すように、BJ21は外方部材(外輪ともいう)22の内面および球形の内方部材(内輪ともいう)23の外面に軸方向の六本のトラック溝22a、23aを等角度に形成し、そのトラック溝22a、23a間に組み込んだトルク伝達部材24をケージ25で支持している。また、外方部材22と、球形の内方部材23と、トルク伝達部材24と、ケージ25と、シャフト26とに囲まれた空間にグリース29が封入され、このグリース29の流出防止のための蛇腹形状のブーツ30が設けられている。ブーツ30の一方の端部は外方部材22の開口側外周面を左右加締式バンド30aにより、また他の端部は外方部材22の開口側に対向するシャフト26の外周面を左右加締式バンド30bにより、それぞれ装着されている。
【0010】
図11は摺動型等速自在継手のトリポードジョイント(以下、TJと記す)の一部切欠き断面図を示す。図11に示すように、TJ31は外方部材(外輪ともいう)32の内面に軸方向の三本の円筒形トラック溝32aを等角度に形成し、外方部材32の内側に組み込んだトリポード部材33には三本の脚軸34aを設け、各脚軸34aの外側にトルク伝達部材である球面ローラ34を嵌合し、そのトルク伝達部材である球面ローラ34と脚軸34aとの間にニードル35を組み込んでトルク伝達部材である球面ローラ34を回転可能に、かつ軸方向にスライド可能に支持し、そのトルク伝達部材である球面ローラ34を上記トラック溝32aに嵌合してある。また、外方部材32と、トリポード部材33と、シャフト36とに囲まれた空間にグリース39が封入され、このグリース39の流出防止のための蛇腹形状のブーツ40が設けられている。ブーツ40の一方の端部は外方部材32の開口側外周面をワンタッチ式バンド40aにより、また他の端部は外方部材32の開口側に対向するシャフト36の外周面をワンタッチ式バンド40bにより、それぞれ装着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−41569号公報
【特許文献2】特開平6−172770号公報
【特許文献3】特開2000−319681号公報
【特許文献4】特開平11−286601号公報
【特許文献5】特開平9−42297号公報
【特許文献6】特開2007−177226号公報
【特許文献7】特開2005−337303号公報
【特許文献8】特開2007−239879号公報
【特許文献9】特開2005−83439号公報
【特許文献10】実開平7−38709号公報
【特許文献11】特開平8−159108号公報
【特許文献12】特開2008−32217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、現在、等速ジョイントにはブーツが使用されているが、連続駆動時にジョイント内において発生する熱が放熱され難いため、ジョイントの耐久性の低下が懸念される。また、等速ジョイント用ブーツとして使用されているCRブーツおよび樹脂ブーツは蛇腹形状を有しているため、高作動角時においては、ブーツが変形しブーツの山部同士が接触したり、ブーツの谷部とシャフトが接触したりする。このため、長期間使用するとこれらの部位において疲労や摩耗によりブーツが損傷し、内部の潤滑剤が外部へ流出してしまう場合があった。
【0013】
また、従来のブーツ形状では、回転時の遠心力によりジョイント内のグリースが外輪部材内面よりブーツ側に流出し、ジョイント内ではグリースが不足する。その結果、接触面のグリースが不足し、摩擦による発熱が増加し、接触面の早期剥離が生じる場合がある。グリース不足を起こさないために、ジョイント内およびブーツ内の両方にグリースを封入することで、接触面におけるグリースの枯渇を抑制しているが、多量のグリースの封入によるコストの増加が課題となっている。
【0014】
グリース封入量削減の解決策の一つとして、上記特許文献6の発泡固形潤滑剤の使用が挙げられるが、発泡固形潤滑剤を用いた場合においても高作動角で使用すると部品間の接触による発熱により潤滑成分の粘性が低下し、ブーツ側への潤滑成分の流出が生じる。また、ブーツ側への潤滑成分の流出を抑制するものとして、上記特許文献12に開示された仕切り板や被膜を形成した自在継手があるが、これら仕切り板等とブーツとの併用はコストの増加につながるという問題がある。
【0015】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、等速自在継手の冷却効果を高め、かつ高作動角で使用した場合においても長期間にわたり優れた潤滑性を維持できる低コストの等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の等速自在継手は、外方部材と、該外方部材の内径面に設けられたトラック溝と、該トラック溝に沿って転動するトルク伝達部材と、該トルク伝達部材に回転トルクを伝達するシャフトと、上記外方部材の開口側端面を覆うシール構造部材とを備え、ブーツを有さない等速自在継手であって、上記シール構造部材は、上記シャフトが貫通する開口部を有し、上記等速自在継手は、内部に、発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤が封入されてなることを特徴とする。
【0017】
上記シール構造部材の開口部は、上記等速自在継手の作動時に、上記シャフト、上記トルク伝達部材を含む継手構成部材に干渉しない形状を有することを特徴とする。
【0018】
上記シール構造部材の開口部は、その軸方向断面が上記シャフトと同心の円形状であり、該開口部の直径が等速自在継手の最大作動角時において、上記継手構成部材に該シール構造部材が接触しない長さであることを特徴とする。
【0019】
上記シール構造部材の開口部の開口端部は、等速自在継手内部に向かう方向のテーパ形状であることを特徴とする。また、上記シール構造部材の開口部の開口端部は、等速自在継手内部側に返しを設けた形状であることを特徴とする。
【0020】
上記発泡固形潤滑剤は、少なくとも上記シール構造部材側の端面に、前記潤滑成分の流出を防止する被膜を形成したことを特徴とする。また、被膜は、発泡固形潤滑剤の樹脂成分と同じ樹脂成分を有する組成物を用いて形成されることを特徴とする。
【0021】
上記シール構造部材は、樹脂材料、金属材料、またはゴム状弾性材料からなることを特徴とする。
【0022】
上記シール構造部材は、上記外方部材外径部に、バンド、圧入、または接合により装着されることを特徴とする。
【0023】
本発明の等速自在継手は、屋内において使用される機器に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の等速自在継手は、外方部材と、該外方部材の内径面に設けられたトラック溝と、該トラック溝に沿って転動するトルク伝達部材と、該トルク伝達部材に回転トルクを伝達するシャフトと、上記外方部材の開口側端面を覆うシール構造部材とを備え、ブーツを有さない構造であり、上記シール構造部材は、シャフトが貫通する開口部を有し、等速自在継手内部に発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤が封入されてなるので、潤滑成分の流出防止効果、等速自在継手の冷却効果、摺動部における潤滑性を保つ効果を向上できるとともに、安価で供給できる。また、上記の相乗効果により長寿命の等速自在継手が得られる。
【0025】
潤滑成分の流出防止効果の向上は、従来のブーツの代わりにシール構造部材を用いることで、従来ブーツにおいて高作動角で稼働させた場合に問題となっていた疲労や摩耗等によるブーツの機械的損傷によって潤滑剤がブーツの外部へ流出する問題を解消できることによるものである。また、等速自在継手の作動時に樹脂内部から滲み出す潤滑油は、遠心力により外方部材内面の開口端面に向かって一部移動するが、シール構造部材により、外方部材開口端面で堰き止められ再び樹脂内部に吸収されることから、シール構造部材の開口部からの流出を防ぐことが可能である。
【0026】
冷却効果の向上については、摺動面における摩擦による等速自在継手の発熱がシール構造部材の開口部から放熱されることによって、等速自在継手の冷却効果が向上するものである。
【0027】
摺動部における潤滑性を保つ効果の向上については、潤滑成分を必要とする部位に発泡固形潤滑剤から潤滑成分が徐放され、かつシール構造部材により等速自在継手から外部への潤滑剤の流出が防止できるので、継手内の摺動接触面での潤滑剤不足が解消できることによるものである。潤滑成分が徐放されるのは、発泡・硬化させて得られた発泡固形潤滑剤が等速自在継手の作動に対応して自在に変形できる柔軟性を有し、例えば、等速自在継手の作動に伴う圧縮、屈曲、ねじり、膨張などの外的な因子によって発泡固形潤滑剤が変形し、樹脂内に保持される潤滑成分が、必要なタイミングで、必要部位に、必要最小限量で滲み出すことによるものである。
【0028】
安価での等速自在継手の供給については、発泡固形潤滑剤の使用により等速自在継手への潤滑剤の封入量を削減でき、シール構造部材の形状が単純でコンパクトであり、シャフトをシールするためのバンドを少なくとも1つ削減できる等、製造コストを削減できることによるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の自在継手の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明の自在継手の他の実施例を示す断面図である。
【図3】本発明の自在継手の他の実施例を示す断面図である。
【図4】本発明の自在継手の他の実施例を示す断面図である。
【図5】本発明の自在継手の他の実施例を示す断面図である。
【図6】本発明の自在継手の他の実施例を示す断面図である。
【図7】本発明の自在継手の他の実施例を示す断面図である。
【図8】本発明の自在継手の他の実施例を示す断面図である。
【図9】本発明の自在継手の他の実施例を示す断面図である。
【図10】BJの一部切欠き断面図である。
【図11】TJの一部切欠き断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の等速自在継手の実施例を以下、図面を用いて説明する。図1〜図4および図7〜図9は本発明の等速自在継手を固定型等速自在継手であるBJ1に適用した例として示す図である。例えば図1に示すように、BJ1は外方部材(外輪ともいう)2と、該外方部材2の内径面に軸方向に等角度で設けられた六本または八本のトラック溝2aと、球形の内方部材3(内輪ともいう)と、該内方部材3の外径面に軸方向に等角度で設けられた六本または八本のトラック溝3aと、これらトラック溝2a、3aに沿って転動するトルク伝達部材4と、該トルク伝達部材4を支持するケージ5と、内方部材3に回転トルクを伝達するシャフト6と、外方部材2の開口側端面を覆うシール構造部材8とを備え、外方部材2と、内方部材3と、トルク伝達部材4と、ケージ5と、シャフト6とに囲まれた空間に発泡固形潤滑剤7が封入されてなる。シール構造部材8は中心部にシャフト6が貫通する開口部を有し、左右加締式バンド10(図9を除く)で外方部材2の外径面に装着される。本発明の等速自在継手では、ブーツの代わりにシール構造部材8を用いている。
【0031】
図5および図6は本発明の等速自在継手を摺動型等速自在継手であるTJ11に適用した例として示す図である。例えば図5に示すように、TJ11は外方部材(外輪ともいう)12と、該外方部材12の内径面に軸方向に等角度で設けられた三本の円筒形トラック溝12aと、外方部材12の内側に組み込まれ三本の脚軸14aを有するトリポード部材13と、各脚軸14aの外側に嵌合する球面ローラ14と、該球面ローラ14と脚軸14aとの間に組み込まれ、球面ローラ14を回転可能に、かつ軸方向にスライド可能に支持するニードル15と、トリポード部材13に回転トルクを伝達するシャフト16と、外方部材12の開口側端面を覆うシール構造部材18とを備え、外方部材12と、トリポード部材13と、脚軸14aと、球面ローラ14と、ニードル15と、シャフト16とに囲まれた空間に発泡固形潤滑剤17が封入されてなる。シール構造部材18は中心部にシャフト16が貫通する開口部を有し、ワンタッチ式バンド20で外方部材12の外径面に装着される。
【0032】
シール構造部材は従来のブーツのような蛇腹形状ではなく、ジョイントの開口端面に覆い被さる形状とし、シール構造部材で外方部材外径部をシールする。一方、シャフト部については外方部材開口端面側において、このシール構造部材でシールせずに中心部を開口させた形状とする。これにより、冷却効果が向上し、ジョイントの長寿命化につながる。また、ブーツを使用する場合に問題となっていた蛇腹形状特有の山部および谷部で生じる疲労や摩耗等の機械的損傷を回避でき、これらの損傷に伴う潤滑剤のジョイント外部への流出を上記シール構造部材を使用することで防ぐことができる。さらに、潤滑剤を必要とするトルク伝達部材の廻りに発泡固形潤滑剤を集中して封入することができるので、封入する潤滑剤量を減らすことができ、低コスト化や軽量化にもつながる。
【0033】
シール構造部材が、等速自在継手の作動時にシャフト、トルク伝達部材を含む継手構成部材に干渉すると、シール構造部材が損傷して潤滑剤が流出して漏れ出すおそれがある。また、摩擦抵抗増加により伝達効率低下が懸念されることから、シール構造部材の開口部の形状は、等速自在継手の作動時に干渉しない形状とすることが好ましい。
【0034】
本発明においてシール構造部材に採用できる材料としては、例えば樹脂材料、金属材料またはゴム状弾性材料等が挙げられる。これらは、等速自在継手のシール構造材料として、機械的強度、柔軟性、発泡固形潤滑剤との相溶性等の要求物性に応じて使い分けすることができる。
【0035】
本発明においてシール構造部材を外方部材外径部に装着する方法としては、例えばバンドにより装着する方法、圧入により装着する方法、接合により装着する方法等を挙げることができる。
【0036】
図1〜図9を参照して本発明の等速自在継手の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の実施形態の一例を示す図であり、シール構造部材を適用した固定型等速自在継手であるBJ1の作動角0°における状態を示す図である。BJ1の作動時に樹脂内部から滲み出した潤滑油は、遠心力により外方部材2内面の開口端面から移動するが、外方部材2の開口端面に設けられたシール構造部材8で堰き止められ再び樹脂内部に吸収されることから、シール構造部材8の開口部からの潤滑油の流出を防ぐことが可能である。
【0037】
また、図1に示すように、発泡固形潤滑剤7のシール構造部材側の端面に被膜7aを形成することが好ましい。等速自在継手の使用時には、作動角の増加に伴って開口面積が増加し、潤滑剤流出防止効果が低下する。そこで、発泡固形潤滑剤のシール構造部材側の端面(外方部材開口側の端面)に、被膜を形成させることで潤滑剤の流出防止効果をさらに向上させることが可能である。
【0038】
上記被膜は、後述する発泡固形潤滑剤の樹脂と同じ樹脂成分を有する組成物を用いて形成することが好ましい。これにより、被膜と発泡固形潤滑剤との密着性に優れる。また、発泡固形潤滑剤および被膜の樹脂成分としてゴム状弾性を有する樹脂またはゴムを採用することで、圧縮・屈曲等による破損を防止できる。
【0039】
図2は本発明の実施形態の他の例を示す図であり、図1におけるシール構造部材8の開口部直径D1および形状を示す図である。シール構造部材8は、使用中における最大作動角時の状態において、シャフト6、ケージ5、トルク伝達部材4または内方部材3に干渉(接触)しないように開口部直径D1および形状を設定することが好ましい。なお、開口部の軸方向断面は円形状であり、該開口部の中心位置は、作動角0°におけるシャフトの軸方向断面の中心位置と同じである。
【0040】
図3および図4は本発明の実施形態の他の例を示す図であり、図1および図2におけるシール構造部材8の形状例を示す図である。図1および図2では、シール構造部材8はBJ1開口端面に対してフラットな形状となっているが、図3のように開口部の開口端部8aを等速自在継手内部に向かう方向のテーパ形状や円弧形状にしたり、図4に示すように開口部の開口端部8bに等速自在継手内部側に返しを設けた形状とすることなどで潤滑剤流出防止効果をさらに向上させることが可能である。
【0041】
図5は本発明の実施形態の他の例を示す図であり、従来ブーツの代わりにシール構造部材18を適用した摺動型等速自在継手であるTJ11の作動角0°における状態を示す図である。図6はシール構造部材18を適用したTJ11を作動させた状態を示す図である。
【0042】
図7および図8は本発明の実施形態の他の例を示す図であり、発泡固形潤滑剤7の充填例を示す図である。例えばメンテナンスフリーで長期間使用する必要のある用途や高温高速高荷重等の過酷な条件下で潤滑剤の消費が大である用途等において、潤滑剤を多く封入する必要がある場合には、図7に示すように等速自在継手内部の空間全面に発泡固形潤滑剤を封入することができる。また、比較的短期間でメンテナンスできる用途や、等速自在継手内部の空間全面に発泡固形潤滑剤を封入する必要がない場合には、発泡固形潤滑剤が封入された形状を保持できることから図8に示すように等速自在継手内部のトルク伝達部材4の周囲の空間に、必要な量の発泡固形潤滑剤を封入し、摺動部の潤滑に供することができる。
【0043】
発泡固形潤滑剤を使用することにより、開口部から水や塵埃等の不純物が侵入するような環境においてもグリース等に比べて性能を維持できるものの、これらの潤滑を阻害するような不純物の侵入が比較的少ない環境での使用に適している。例えば、本願発明の等速自在継手は、屋内で使用する事務機器等に好適に採用できる。
【0044】
図9は本発明の実施形態の他の例を示す図であり、シール構造部材8を外方部材2の開口側外径面に圧入、または溶接等の接合によりシールした例を示す。
【0045】
図1〜図4および図7〜図8の例では、外方部材2外径部とシール構造部材8間について左右加締式バンド10によりシールを行なっているが、本シール構造部材8に使用される材料等によってシール方法も調整することができる。例えば、ゴム状弾性材料の場合、ワンタッチ式バンド20(図5および図6参照)を用いることができる。また、図9に示すように、圧入、または溶接等の接合によりシール構造部材8を装着することでバンドが不要となりコストの低下につながる。
【0046】
本発明の等速自在継手を固定型等速自在継手に利用した例としては、上述のBJ、アンダーカットフリージョイント(以下、UJと記す)などが挙げられる。このようなBJやUJのボール数は6個または8個の場合がある。BJやUJに発泡固形潤滑剤を封入した場合、潤滑剤が必要な部位のみに充填されることになるため、低コスト化・軽量化に寄与できると共に、使用される作動角が大きいことから圧縮・屈曲を受けやすく、摺動部へ潤滑剤が供給されやすい。一方、摺動式等速自在継手に利用した例としては、上述のTJ、ダブルオフセットジョイント、クロスグルーブジョイントなどが挙げられる。
【0047】
本発明の等速自在継手は、封入した発泡固形潤滑剤の樹脂内に潤滑成分を吸蔵させるので、樹脂の柔軟性により、例えば圧縮、膨張、屈曲、ねじりなどの外力による変形により潤滑剤を滲み出させて樹脂の分子間から外部に徐放できる。この際、滲み出す潤滑剤量は、外力の大きさに応じて弾性変形する程度を樹脂の選択などによって変えることにより、必要最小限にすることができる。なお、潤滑成分が発泡・硬化した樹脂内に吸蔵されるとは、後述する潤滑油やグリースなどの液体・半固体状の潤滑成分が発泡・硬化した樹脂や硬化剤と反応することなく、化合物にならないで含まれることをいう。
【0048】
本発明に用いる発泡固形潤滑剤は、非発泡体と比較して屈曲時に必要なエネルギーが非常に小さく、潤滑油などの潤滑成分を高密度に保持しながら柔軟な変形が可能である。よって、該発泡固形潤滑剤を等速自在継手内部で固化させた後冷却する過程において、発泡固形潤滑剤が収縮し、等速自在継手のトルク伝達部材(鋼球等)を抱き込んだとしても屈曲・変形時に必要なエネルギーが小さいために容易に変形することができ、回転トルクが大きくなるという問題を防ぐことができる。また、発泡部分すなわち多孔質な部分を多く持つため、軽量化の点でも有利である。また、本発明に用いる発泡固形潤滑剤は潤滑成分と、樹脂成分とを含む混合物を発泡・硬化させるだけであるので、特別な設備も不要であり、任意の場所に充填して成形することが可能である。また、上記混合物の配合成分の配合量をコントロールすることにより発泡固形潤滑剤の密度を変化させることができる。
【0049】
本発明において発泡固形潤滑剤を構成する発泡・硬化して多孔質化する樹脂としては、発泡・硬化後にゴム状弾性を有し、変形により潤滑成分の滲出性を有するものが好ましい。発泡・硬化は、樹脂生成時に発泡・硬化させる形式であっても、樹脂に発泡剤を配合して成形時に発泡・硬化させる形式であってもよい。ここで、硬化は架橋反応および/または液状物が固体化する現象を意味する。また、ゴム状弾性とは、ゴム弾性を意味するとともに、外力により加えられた変形がその外力を無くすことにより元の形状に復帰することを意味する。
【0050】
発泡固形潤滑剤の発泡倍率は 1.1 倍以上 100 倍未満がよい。発泡倍率 1.1 倍未満の場合は気泡体積が小さく、外部応力が加わったときに変形を許容できない。また、100 倍以上の時には外部応力に耐える強度を得ることが困難となる。発泡倍率としては 1.1 倍〜10 倍が望ましい。
【0051】
本発明において発泡固形潤滑剤の発泡後の連続気泡率が 50 %以上であり、好ましくは 50 %以上 90 %以下である。連続気泡率が 50 %未満の場合は、樹脂成分(固形成分)の潤滑油が一時的に独立気泡中に取り込まれている割合が多くなり、必要な時に外部へ供給されない場合がある。なお、 90 %をこえると潤滑剤の保油性の低下および潤滑剤の放出量が多くなることで長期使用に不利となったり、発泡固形潤滑剤自体の強度(耐久性)が低下したりするおそれがでる。
【0052】
本発明において発泡固形潤滑剤の連続気泡率は以下の手順で算出できる。
(1)発泡硬化した発泡固形潤滑剤を適当な大きさにカットし、試料Aを得る。試料Aの重量を測定する。
(2)Aを 3 時間ソックスレー洗浄(溶剤:石油ベンジン)する。その後 80℃で 2 時間恒温槽に放置し、有機溶剤を完全に乾燥させ、試料Bを得る。試料Bの重量を測定する。
(3)連続気泡率を以下の手順で算出する。
連続気泡率=(1−(試料Bの樹脂成分重量−試料Aの樹脂成分重量)/試料Aの潤滑成分重量)×100
なお、試料A、Bの樹脂成分重量、潤滑成分重量は、試料A、Bの重量に組成の仕込み割合を乗じて算出する。
連続していない独立気泡中に取り込まれた潤滑成分は 3 時間ソックスレー洗浄では外部へ放出されないため試料Bの重量を減少させることがないので、上記の操作で試料Bの重量減少分は連続気泡からの潤滑成分の放出によるものとして連続気泡率が算出できる。
【0053】
本発明において発泡固形潤滑剤に用いられる樹脂成分には、耐熱性および柔軟性に優れ、低コスト化が可能となるウレタンプレポリマーを用いることが好ましい。この発泡固形潤滑剤は、上記ウレタンプレポリマーが発泡・硬化して多孔質化された固形物であり、かつ潤滑成分を樹脂内部に吸蔵してなる。この発泡固形潤滑剤は潤滑成分保持力に優れ、外力による変形を受けても潤滑成分の滲み出し量を必要最小限に抑制し、かつ安価に製造できる。
【0054】
本発明に使用できるウレタンプレポリマーは、活性水素基を有する化合物とポリイソシアネートとの反応によって得られ、イソシアネート基は、分子鎖末端であっても、あるいは分子鎖内から分岐した側鎖末端に含まれていてもよい。また、ウレタンプレポリマーは分子鎖内にウレタン結合を有していてもよい。
【0055】
反応するモノマー(=活性水素基を有する化合物)の種類によって、カプロラクトン系、エステル系、エーテル系などに分類される。エーテル系にはタケネートL−1170(三井化学ポリウレタン社製)、L−1158(三井化学ポリウレタン社製)、コロネート4090(日本ポリウレタン社製)がある。また、エステル系としてはコロネート4047(日本ポリウレタン社製)などがあり、カプロラクトン系にはタケネートL-1350(三井化学ポリウレタン社製)、タケネートL-1680(三井化学ポリウレタン社製)、サイアナプレン7−QM(三井化学ポリウレタン社製)、プラクセルEP1130(ダイセル化学工業社製)などが挙げられる。
【0056】
また、末端基をイソシアネート基に変性したオリゴマーやプレポリマー化合物も使用することができる。このような化合物としては末端イソシアネート変性ポリエーテルポリオールや水酸基末端ポリブタジエンのイソシアネート変性体が挙げられる。末端イソシアネート変性ポリエーテルポリオールにはコロネート1050(日本ポリウレタン社製)などが挙げられる。また、水酸基末端ポリブタジエンのイソシアネート変性体には poly-bd MC50(出光興産社製)や poly-bd HTP9(出光興産社製)が挙げられる。
【0057】
これらウレタンプレポリマーは目的とする機械的性質などに応じて 2 種類以上を混合して使用することができる。
【0058】
本発明では、イソシアネート基含有量が 2 重量%以上 6 重量%未満のウレタンプレポリマーを使用することが好ましい。イソシアネート基(−NCO)の含有量が 2 重量%未満であると発泡性と弾力性の両立が難しくなるし、 6 重量%以上であると硬度が大きくなりすぎて反発弾性が大きくなり外力による変形を受けるときに発熱等を起こしやすくなる。
【0059】
また、イソシアネート基は、フェノール類、ラクタム類、アルコール類、オキシム類などのブロック剤でイソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネート等を使用することができる。
【0060】
上記ウレタンプレポリマーを硬化させる硬化剤としては、活性水素を有する化合物が好ましく、官能基がアミノ基であるポリアミノ化合物、官能基が水酸基であるポリオール化合物が挙げられる。
【0061】
ポリアミノ化合物としては、3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン(以下、MOCAと記す)、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,3′-ジメトキシ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジエチル-5,5′-ジメチルジフェニルメタン、トリメチレン-ビス-(4-アミノベンゾアート)、ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミン、メチルチオトルエンジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,6-ジアミンに代表される芳香族ポリアミノ化合物が挙げられる。
【0062】
上記ポリアミノ化合物の中でも芳香族アミノ化合物が低コストであり、物性が優れているため、好ましく、特にアミノ基の隣接位に置換基を有する芳香族ジアミノ化合物が好ましい。本発明においては、発泡と共に硬化させる工程を経るため、隣接位の置換基によりアミノ基の反応性が抑制されるためと考えられる。
【0063】
ウレタンプレポリマーをポリアミノ化合物で硬化させるとウレタンおよびウレア結合を分子内に有する発泡固形潤滑剤となる。ウレア結合を生成させることによって分子中のウレタン結合密度を下げることになり、伸びや反発弾性が向上する。また、ウレア結合を生成させることによって剛性を与えることができる。
【0064】
ポリオール化合物としては、1,4-ブタングリコールやトリメチロールプロパンに代表される低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ひまし油系ポリオール、ポリエステル系ポリオールが挙げられる。ポリオール化合物の中ではトリメチロールプロパンが好ましい。
【0065】
ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基(−NCO)と、該イソシアネート基と反応する硬化剤の官能基との割合は、官能基がアミノ基または水酸基である場合、当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲であることが好ましい。
【0066】
ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基と硬化剤のアミノ基(−NH2 )または水酸基(−OH)、そして発泡剤である水の水酸基(−OH)との割合で発泡固形潤滑剤の発泡倍率や柔軟性、弾力性等が定まる。硬化剤のアミノ基(−NH2 )または水酸基(−OH)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(−NCO)とを当量で反応させると、発泡剤である水と反応するイソシアネート基(−NCO)が消失してしまうため、(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲が好ましい。また、発泡剤である水の水酸基と、硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲である。上記範囲よりも硬化剤の量が少なくなると発泡固形潤滑剤の強度等の物性が著しく低下するばかりでなく、ウレタンエラストマーとして硬化しない場合もある。
【0067】
上記樹脂成分の他の例としては、ポリエーテルポリオールが挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、低分子ポリオールのアルキレンオキサイド(炭素数2〜4のアルキレンオキサイド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド)付加物およびアルキレンオキサイドの開環重合物が挙げられ、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールが含まれる。ポリエーテルポリオールを例示すれば旭硝子社製の商品名プレミノールが挙げられる。プレミノールは 5000〜12000 の分子量を有するポリエーテルポリオールである。
【0068】
上記ポリエーテルポリオールを硬化させる硬化剤としては、ポリイソシアネートが挙げられる。このポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネートおよびその混合物、1,5-ナフチレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネートが挙げられる。市販品として日本ポリウレタン社製:コロネートT80などが挙げられる。
【0069】
本発明に使用できる潤滑成分は、発泡体を形成する固形成分を溶解しないものであれば使用することができる。潤滑成分としては、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独でもしくは混合して使用できる。特に好ましいものとして炭化水素系潤滑油、炭化水素系グリース、または炭化水素系潤滑油と炭化水素系グリースとの混合物が挙げられる。
【0070】
炭化水素系潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、炭化水素系合成油、GTL基油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。また、エステル系合成油、エーテル系合成油、フッ素油、シリコーン油等も使用することができる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
【0071】
炭化水素系グリースは炭化水素油を基油とするグリースであり、基油としては上述の炭化水素系潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。ジウレア化合物はジイソシアネートとモノアミンの反応で、ポリウレア化合物はジイソシアネートとポリアミンの反応で、それぞれ得られる。また、エステル系合成油、エーテル系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等を基油としたグリースも使用できる。
【0072】
上記潤滑成分には、炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸エステル系ワックス、高級脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを混合して使用することができる。
【0073】
本発明において発泡固形潤滑剤を発泡させる手段(発泡剤)は、原料にイソシアネート化合物を用いることから、イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水を用いることが好ましい。
【0074】
また、必要に応じて触媒を使用することが好ましく、例えば、3級アミン系触媒や有機金属触媒などが用いられる。3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミダゾール誘導体、酸ブロックアミン触媒などが挙げられる。また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレート、オクテン酸塩などが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いてもよい。
【0075】
本発明において発泡固形潤滑剤は、上記潤滑成分と、上記ウレタンプレポリマーや上記ポリエーテルポリオールなどの樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させて得られる。
【0076】
上記潤滑成分の配合割合は、樹脂成分がウレタンプレポリマーの場合、混合物全体に対して、20〜80 重量%、好ましくは 40〜60 重量%である。潤滑成分が 20 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく発泡固形潤滑剤としての機能を発揮できず、80 重量%より多いときには固化しない場合がある。
【0077】
樹脂成分がポリエーテルポリオールの場合、上記潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、60〜80 重量%である。潤滑成分が 60 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく発泡固形潤滑剤としての機能を発揮できず、80 重量%より多いときには固化しない場合がある。
【0078】
本発明において発泡固形潤滑剤には必要に応じて顔料や帯電防止剤、難燃剤、防黴剤やフィラーなどの各種添加剤等を添加することができる。さらに、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0079】
発泡固形潤滑剤を製造するときの各成分を混合する方法としては、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー、ミキシングヘッド等、一般に用いられる撹拌機を使用して混合することができる。
【0080】
上記混合物は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させておくことが好ましい。また、この整泡剤の種類によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類を連続気泡または独立気泡に制御することが可能となる。このような界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0081】
本発明において潤滑油などの潤滑成分存在下で発泡反応と硬化反応とを同時に行なう反応型含浸法を用いることが、潤滑成分の高充填化と材料物性の高伸化を同時に両立させるためには望ましい。これは発泡体形成段階において発泡体に形成された気泡に潤滑成分が均一に含浸されるとともに、潤滑成分が発泡・硬化した樹脂内に吸蔵されることにより潤滑成分の高充填化と材料物性の高伸化が両立するものと考えられる。これに対して、あらかじめ発泡体を製造しておき、これに潤滑成分を含浸させる後含浸法では潤滑成分保持力が十分でなく、短時間で潤滑剤が放出され長期的に使用すると潤滑成分が供給不足となる。
【0082】
発泡固形潤滑剤は、等速自在継手内に潤滑成分および樹脂を含む混合物を流し込んだ後、発泡・硬化させてもよく、また常圧で発泡・硬化した後に裁断や研削等で目的の形状に後加工し、等速自在継手内に組み込むこともできる。形状が複雑な等速自在継手内の任意の部位にも容易に充填することが可能であり、発泡成形体を得るための成形金型や研削工程等も不要であることから、本発明では、混合物を発泡・硬化前に等速自在継手内に流し込み、該継手内において発泡・硬化させる方法を採用することが好ましい。該方法を採用することで、製造工程が簡易となり低コスト化が図れる。
【0083】
混合物を発泡・硬化前に等速自在継手内に流し込む場合、シール構造部材の装着方法としては、該混合物を流し込む前に予め装着する方法、発泡・硬化後に装着する方法のいずれを採用してもよい。シール構造部材を予め装着する場合では、該シール構造部材とシャフトとの隙間より混合物を流し込む。
【実施例】
【0084】
実施例1および実施例2
最初に、図1に示す、外方部材2、内方部材3、ケージ5およびトルク伝達部材(鋼球)4を組み付けた固定式8個ボールジョイントサブアッシー(NTN社製:EBJ82 外径サイズ 72.6 mm )を準備した。表1に示す組成のうち(a)、(d)、(e)、(i)の混合物を 80℃でよく混合し、次に 120℃で溶解した(b)、(h)を加えて素早く混合した。最後に(c)を投入し撹拌した後、前述のジョイントに 18.0 g 封入した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30 分間放置しジョイント内の発泡固形潤滑剤を硬化させた。図1に示す形状のシール構造部材8、およびシャフト6などの他の部材を組み付け発泡固形潤滑剤7を封入した等速ジョイントを得た。シール構造部材8は、左右加締式バンド10で外方部材2の外径面に装着した。なお、表1中における発泡固形潤滑剤の連続気泡率は、前述の連続気泡率の算出法に基づきを測定した。また、発泡固形潤滑剤については硬化剤とNCOとの当量比、水と硬化剤との当量比も測定した。これらの結果を表1に併記する。
【0085】
実施例3および実施例4
最初に、図1に示す、外方部材2、内方部材3、ケージ5およびトルク伝達部材(鋼球)4を組み付けた固定式8個ボールジョイントサブアッシー(NTN社製:EBJ82 外径サイズ 72.6 mm )を準備した。表1に示す組成のうち、(g)に(d)、(i)、(h)、(c)を加え、90℃で加熱しよく撹拌した。これに(f)を加えてよく撹拌した後、前述のジョイントに 16.0 g 封入した。数秒後に発泡反応が始まり、90℃で 15分間放置しジョイント内の発泡固形潤滑剤を硬化させた。図1に示す形状のシール構造部材8、およびシャフト6などの他の部材を組み付け発泡固形潤滑剤7を封入した等速ジョイントを得た。シール構造部材8は、実施例1と同様に、左右加締式バンド10で外方部材2の外径面に装着した。なお、表1中における発泡固形潤滑剤の連続気泡率は、前述の連続気泡率の算出法に基づきを測定した。この結果を表1に併記する。
【0086】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の等速自在継手は、内部に所定の発泡固形潤滑剤を封入し、所定のシール構造部材が設けられているので、高作動角で使用した場合においても長期間潤滑性能を維持でき、かつ低コストである。このため、自動車、産業機械、事務機器等に使用される等速自在継手として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0088】
1、21 等速自在継手(BJ)
2、22 外方部材(外輪)
3、23 内方部材(内輪)
4、24 トルク伝達部材
5、25 ケージ
6、26 シャフト
7、17 発泡固形潤滑剤
7a 被膜
8、18 シール構造部材
10 左右加締式バンド
11、31 等速自在継手(TJ)
12、32 外方部材(外輪)
13、33 トリポード部材
14、34 球面ローラ(トルク伝達部材)
15、35 ニードル
16、36 シャフト
20 ワンタッチ式バンド
29、39 グリース
30、40 ブーツ
30a、30b 左右加締式バンド
40a、40b ワンタッチ式バンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外方部材と、該外方部材の内径面に設けられたトラック溝と、該トラック溝に沿って転動するトルク伝達部材と、該トルク伝達部材に回転トルクを伝達するシャフトと、前記外方部材の開口側端面を覆うシール構造部材とを備え、ブーツを有さない等速自在継手であって、
前記シール構造部材は、前記シャフトが貫通する開口部を有し、
前記等速自在継手は、内部に、発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤が封入されてなることを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記シール構造部材の開口部は、前記等速自在継手の作動時において、前記シャフト、前記トルク伝達部材を含む継手構成部材に該シール構造部材が干渉しない形状を有することを特徴とする請求項1記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記シール構造部材の開口部は、その軸方向断面が前記シャフトと同心の円形状であり、該開口部の直径が前記等速自在継手の最大作動角時において、前記継手構成部材に該シール構造部材が接触しない長さであることを特徴とする請求項2記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記シール構造部材の開口部の開口端部は、等速自在継手内部に向かう方向のテーパ形状であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の等速自在継手。
【請求項5】
前記シール構造部材の開口部の開口端部は、等速自在継手内部側に返しを設けた形状であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の等速自在継手。
【請求項6】
前記発泡固形潤滑剤は、少なくとも前記シール構造部材側の端面に、前記潤滑成分の流出を防止する被膜を形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の等速自在継手。
【請求項7】
前記被膜は、前記発泡固形潤滑剤の樹脂と同じ樹脂成分を有する組成物を用いて形成されることを特徴とする請求項6記載の等速自在継手。
【請求項8】
前記シール構造部材は、樹脂材料、金属材料、またはゴム状弾性材料からなることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載の等速自在継手。
【請求項9】
前記シール構造部材は、前記外方部材の外径部に、バンド、圧入、または接合により装着されることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項記載の等速自在継手。
【請求項10】
前記等速自在継手は、屋内において使用される機器に用いられることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−270862(P2010−270862A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124500(P2009−124500)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】