説明

等速自在継手

【課題】 作動角をとった状態で回転する際に蛇腹部同士が接触することにより発生する擦過音を確実に抑制する。
【解決手段】 一端に開口部を有する外側継手部材10と、その外側継手部材10との間でボールを介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材とを備え、外側継手部材10の開口部を閉塞する蛇腹状のブーツ60の端部61,62を、外側継手部材10の開口部と内側継手部材から延びるシャフト50とにそれぞれ締め付け固定した等速自在継手であって、ブーツ60は、外側継手部材10の開口部の外周面に締め付け固定された大径端部61とシャフト50の外周面に締め付け固定された小径端部62とを繋ぎ、大径端部61から小径端部62へ向けて縮径した伸縮自在な蛇腹部63を備え、蛇腹部63の隣接する山部64を繋ぐ二対の斜面66に格子状の凸部67を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のドライブシャフト、特に前輪ドライブシャフト用に組み込まれる固定式等速自在継手などに好適で、継手外部からの異物侵入や継手内部からの潤滑剤漏洩を防止するブーツを備えた等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転力を等速で伝達する手段として使用される等速自在継手には、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手の二種がある。これら両者の等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し得る構造を備えている。
【0003】
自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にエンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手を、駆動車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手を中間シャフトで連結した構造を具備する。
【0004】
これら摺動式等速自在継手あるいは固定式等速自在継手では、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するため、等速自在継手の外側継手部材と中間シャフトとの間に蛇腹状ブーツを装着して、外側継手部材の開口部をブーツで閉塞した構造が一般的である。
【0005】
ブーツは、外側継手部材の開口部の外周面に締め付け固定された大径端部と、内側継手部材から延びる中間シャフトの外周面に締め付け固定された小径端部と、大径端部と小径端部とを繋ぎ、その大径端部から小径端部へ向けて縮径した蛇腹部とで構成されている。このブーツは、等速自在継手が作動角をとりながら回転する機能を備えていることから、その挙動に追従できる柔軟性を確保するために伸縮自在な蛇腹形状としている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−293791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の等速自在継手においては、クロロプレンゴム等のゴム製ブーツが使用されていたが、ゴム製ブーツに比べて耐久性に優れる熱可塑性エラストマー材を使用した樹脂製ブーツが広く使用されるようになっている。しかしながら、樹脂製ブーツは、等速自在継手が高作動角にて回転すると、蛇腹部同士が接触することにより擦れ音(擦過音)が発生することがある。特に、樹脂製ブーツの表面が水に濡れた状態では、大きな擦過音が発生する場合もある。
【0008】
この擦過音に関する問題を解消するため、前述の特許文献1に開示された蛇腹状ブーツでは、複数の環状折り目のうちの少なくとも1つにおける2つの環状側面のうち少なくとも一方の面に、均一な環状側面から突出する複数の隆起部または引っ込んだ複数の凹部を有する構造としている。この特許文献1では、継手の回転時、2つの隣接する環状折り目の対向する環状側面が、隆起部により互いに離れた位置に保持され、また、凹部により平面で互いに擦り合わないようにすることで、特に湿った雨の状況下で騒音の発生を低減するようにしている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された蛇腹状ブーツでは、高作動角をとると、蛇腹部の変形が大きくなるため、隣接する2つの環状側面のうち、隆起部あるいは凹部が形成された一方の環状側面の隆起部あるいは凹部以外の部分が、もう一方の環状側面に接触してしまうので、隣接する2つの環状側面間での接触面積が大きくなり、擦過音の発生を防止する効果が十分に得られない。この2つの環状側面の接触部分間に水が介在すると、その擦過音の抑制効果がより一層顕著に低下する。
【0010】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、作動角をとった状態で回転する際に蛇腹部同士が接触することにより発生する擦過音を確実に抑制し得る等速自在継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、一端に開口部を有する外側継手部材と、その外側継手部材との間でトルク伝達部材を介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材とを備え、外側継手部材の開口部を閉塞する蛇腹状ブーツの端部を、外側継手部材の開口部と内側継手部材から延びる軸部材とにそれぞれ締め付け固定した等速自在継手であって、ブーツは、外側継手部材の開口部の外周面に締め付け固定された大径端部と軸部材の外周面に締め付け固定された小径端部とを繋ぎ、大径端部から小径端部へ向けて縮径した伸縮自在な蛇腹部を備え、蛇腹部の少なくとも一対の隣接する斜面に格子状の凸部を設けたことを特徴とする。なお、本発明のブーツは、熱可塑性ポリエステル系エラストマーからなる樹脂製であることが望ましい。
【0012】
ここで、「蛇腹部の少なくとも一対の隣接する斜面」とは、一対の隣接する斜面以外に、二対の隣接する斜面や三対の隣接する斜面などのように全ての隣接する斜面を含むことを意味する。
【0013】
本発明では、ブーツの蛇腹部の少なくとも一対の隣接する斜面に格子状の凸部を設けたことにより、外側継手部材と内側継手部材が作動角をとった状態でブーツが変形しながら回転する際に、蛇腹部の一対の隣接する斜面同士が近接しても、隣接する両方の斜面に設けられた格子状の凸部同士が接触することになってその接触面積を大幅に低減することができる。そのため、蛇腹部の斜面同士が接触することにより発生する擦過音を確実に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0014】
また、ブーツ表面に水が付着した状態で回転する際も、隣接する斜面に設けられた格子状の凸部以外の凹状部分で水を保持することができるので、この場合も、蛇腹部の斜面同士が接触することにより発生する擦過音を確実に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0015】
本発明における蛇腹部は、5つの山部が継手軸方向に沿って形成され、小径端部から2つ目の山部と3つ目の山部とを繋ぐ一対の斜面、あるいは、小径端部から3つ目の山部と4つ目の山部とを繋ぐ一対の斜面のうち少なくとも一方に格子状の凸部を設けることが望ましい。5つの山部が継手軸方向に沿って形成された蛇腹部の場合、作動角をとった状態で回転する際に、小径端部から2つ目の山部と3つ目の山部と4つ目の山部が大きく変形することから、それら山部を繋ぐ一対の斜面同士が接触して相対的な移動(スティックスリップ)を起こし易いため、その斜面に格子状の凸部を設ければ、蛇腹部の斜面同士が接触することにより発生する擦過音をより一層確実に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0016】
ここで、「小径端部から2つ目の山部と3つ目の山部とを繋ぐ一対の斜面、あるいは、小径端部から3つ目の山部と4つ目の山部とを繋ぐ一対の斜面のうち少なくとも一方」とは、小径端部から2つ目の山部と3つ目の山部とを繋ぐ一対の斜面のみに格子状の凸部を設ける場合、小径端部から3つ目の山部と4つ目の山部とを繋ぐ一対の斜面のみに格子状の凸部を設ける場合、小径端部から2つ目の山部と3つ目の山部とを繋ぐ一対の斜面および小径端部から3つ目の山部と4つ目の山部とを繋ぐ一対の斜面の両方に格子状の凸部を設ける場合を含むことを意味する。
【0017】
本発明における凸部は、継手軸方向に対して傾斜角を持って格子状に延びるように形成されていることが望ましい。このようにすれば、蛇腹部の一対の隣接する斜面同士が接触する場合、接触する斜面同士での格子状の凸部の相対位置が一致しないようにすることが容易となり、接触面積の大幅な低減が容易となって、蛇腹部の斜面同士が接触することにより発生する擦過音をより一層確実に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0018】
本発明における凸部は、2mm以上6mm以下の隣接間隔で格子状に形成されていることが望ましい。このようにすれば、蛇腹部の斜面同士が接触することにより発生する擦過音を効果的に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。ここで、凸部の隣接間隔が2mmより小さいと、格子状が細かくなり過ぎることになって擦過音の抑制効果を得ることが困難となる。逆に、凸部の隣接間隔が6mmよりも大きいと、作動角をとって蛇腹部の隣接する斜面同士が近接した場合、凸部以外の凹状部分である斜面が隣接する斜面に接触することになって擦過音の抑制効果を得ることが困難となる。
【0019】
本発明における凸部は、斜面から0.2mm以上0.6mm以下の高さで形成されていることが望ましい。このようにすれば、蛇腹部の斜面同士が接触することにより発生する擦過音を効果的に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。ここで、凸部の高さが0.2mmよりも小さいと、作動角をとって蛇腹部の隣接する斜面同士が近接した場合、凸部以外の凹状部分である斜面が隣接する斜面に接触することになって擦過音の抑制効果を得ることが困難となる。逆に、凸部の高さが0.6mmよりも大きいと、ブーツの成形性の低下や成形金型の加工性の低下が生じる。
【0020】
本発明における凸部は、隣接する斜面と接触する先端幅寸法が隣接間隔の1/3以下となるように形成されていることが望ましい。このようにすれば、蛇腹部の斜面同士が接触することにより発生する擦過音を効果的に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。ここで、隣接する斜面と接触する凸部の先端幅寸法が隣接間隔の1/3よりも大きいと、隣接する斜面と接触する凸部先端の全接触面積が大きくなるので擦過音の抑制効果を得ることが困難となる。
【0021】
本発明は、球面状内周面に軸方向に延びる複数の円弧状トラック溝が形成された外側継手部材と、その外側継手部材のトラック溝と対をなして球面状外周面に複数の円弧状トラック溝が形成された内側継手部材と、外側継手部材の球面状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持された状態で、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在するトルク伝達部材としてのボールとで構成された等速自在継手、つまり、ツェッパ型やアンダーカットフリー型の固定式等速自在継手に適用すれば有効である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ブーツの蛇腹部の少なくとも一対の隣接する斜面に格子状の凸部を設けたことにより、外側継手部材と内側継手部材が作動角をとった状態でブーツが変形しながら回転する際に、蛇腹部の一対の隣接する斜面同士が近接しても、隣接する両方の斜面に設けられた格子状の凸部同士が接触することになってその接触面積を大幅に低減することができる。そのため、蛇腹部の斜面同士が接触することにより発生する擦過音を確実に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0023】
また、ブーツ表面に水が付着した状態で回転する際も、隣接する斜面に設けられた格子状の凸部以外の凹状部分で水を保持することができるので、この場合も、蛇腹部の斜面同士が接触することにより発生する擦過音を確実に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。その結果、高品質で信頼性の高い等速自在継手を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態で、中間シャフトとの間で樹脂製ブーツを装着した状態の等速自在継手を示す正面図である。
【図2】本発明の実施形態で、図1の等速自在継手の一種である固定式等速自在継手を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態で、(A)〜(D)は格子状の凸部について種々の形状を例示する拡大断面図である。
【図4】本発明の実施形態で、格子状の凸部における高さ、先端幅寸法および隣接間隔を例示する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る等速自在継手の実施形態を以下に詳述する。以下の実施形態では、自動車のドライブシャフトに組み込まれ、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達する構造を備えた固定式等速自在継手の一つであるアンダーカットフリー型等速自在継手を例示する。
【0026】
なお、本発明は、ツェッパ型等速自在継手などの他の固定式等速自在継手にも適用可能であり、また、ダブルオフセット型等速自在継手、クロスグルーブ型等速自在継手やトリポード型等速自在継手などの摺動式等速自在継手にも適用可能である。
【0027】
図2に示す実施形態のアンダーカットフリー型等速自在継手は、軸方向に延びる複数の円弧状トラック溝11が球面状内周面12に円周方向等間隔で形成された外側継手部材10と、その外側継手部材10のトラック溝11と対をなして複数の円弧状トラック溝21が球面状外周面22に形成された内側継手部材20と、外側継手部材10のトラック溝11と内側継手部材20のトラック溝21との間に介在するトルク伝達部材としてのボール30と、外側継手部材10の球面状内周面12と内側継手部材20の球面状外周面22との間に配されてボール30を保持するケージ40とで主要部が構成されている。
【0028】
なお、外側継手部材10のトラック溝11の開口側部分と内側継手部材20のトラック溝21の奥側部分は、継手軸方向に平行なストレート形状とすることにより、作動角の高角化を図っている。また、内側継手部材20の軸孔には軸部材である中間シャフト50の一端がスプライン嵌合により連結されている。この中間シャフト50の他端には、摺動式等速自在継手(図示せず)の内側継手部材がスプライン嵌合により連結されている。
【0029】
この種の等速自在継手は、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するため、外側継手部材10と中間シャフト50との間に蛇腹状のブーツ60を装着して、外側継手部材10の開口部13をブーツ60で閉塞した構造を具備する。このように、外側継手部材10およびブーツ60の内部空間に潤滑剤を封入することにより、外側継手部材10に対して中間シャフト50が作動角をとりながら回転する動作時における潤滑性を確保するようにしている。
【0030】
ブーツ60は、外側継手部材10の開口部13の外周面にブーツバンド71により締め付け固定された大径端部61と、内側継手部材20から延びる中間シャフト50の外周面にブーツバンド72により締め付け固定された小径端部62と、大径端部61と小径端部62とを繋ぎ、その大径端部61から小径端部62へ向けて縮径した蛇腹部63とで構成されている。このブーツ60は、等速自在継手が作動角をとりながら回転する機能を備えていることから、その挙動に追従できる柔軟性を確保するために伸縮自在な蛇腹形状としている。
【0031】
この実施形態では、5つの山部64が継手軸方向に沿って形成された蛇腹部63を例示しているが、その数は任意である。図1のクロスハッチング部分で示すように、このブーツ60の蛇腹部63の二対の隣接する斜面66、つまり、小径端部62から2つ目の山部64と3つ目の山部64とを繋ぐ一対の斜面66、および小径端部62から3つ目の山部64と4つ目の山部64とを繋ぐ一対の斜面66に、継手軸方向に対して傾斜角θを持って延びる格子状の凸部67を設けている。
【0032】
このように、ブーツ60の蛇腹部63の二対の隣接する斜面66に格子状の凸部67を設けたことにより、外側継手部材10と内側継手部材20が作動角をとった状態でブーツ60が変形しながら回転する際に、蛇腹部63の一対の隣接する斜面66同士が近接しても、隣接する両方の斜面66に設けられた格子状の凸部67同士が接触することになってその接触面積を大幅に低減することができる。そのため、蛇腹部63の斜面66同士が接触することにより発生する擦過音を確実に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0033】
また、ブーツ60の表面に水が付着した状態で回転する際も、隣接する斜面66に設けられた格子状の凸部67以外の凹状部分で水を保持することができるので、この場合も、蛇腹部63の斜面66同士が接触することにより発生する擦過音を確実に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0034】
蛇腹部63の斜面66同士が接触することにより発生する擦過音を抑制できる効果は、最大作動角が40°を超える等速自在継手、つまり、ブーツ60の蛇腹部63の変形が大きい等速自在継手に適用した場合に十分発揮されるが、最大作動角が40°よりも小さい等速自在継手、つまり、ブーツ60の蛇腹部63の変形が小さい等速自在継手に適用する場合であっても、その蛇腹部63の斜面66が接触する状態となるようであれば、擦過音を抑制できるという作用効果を発揮できる。
【0035】
5つの山部64が継手軸方向に沿って形成された蛇腹部63の場合、作動角をとった状態で回転する際に、小径端部62から2つ目の山部64と3つ目の山部64と4つ目の山部64が大きく変形することから、それら山部64を繋ぐ二対の斜面66同士が接触して相対的な移動(スティックスリップ)を起こし易いため、それら二対の斜面66に格子状の凸部67を設けたことにより、蛇腹部63の斜面66同士が接触することにより発生する擦過音をより一層確実に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0036】
なお、前述した2つ目と3つ目と4つ目の山部64を繋ぐ二対の斜面66以外に、小径端部62から1つ目の山部64と2つ目の山部64とを繋ぐ一対の斜面66、および小径端部62から4つ目の山部64と5つ目の山部64とを繋ぐ一対の斜面66を含めた蛇腹部63の全ての斜面66に格子状の凸部67を設けるようにしてもよい。
【0037】
図1に示すように、格子状の凸部67は、継手軸方向に対して平行および垂直な方向に延びるように形成してもよいが、この実施形態のように継手軸方向に対して45°の角度θで傾斜するように形成されている。このように45°の角度θに傾斜させることにより、蛇腹部63の一対の隣接する斜面66同士が接触する場合、接触する斜面66同士での格子状の凸部67の相対位置を一致しないようにすることが容易となる。また、接触面積の大幅な低減が容易となって、蛇腹部63同士が接触することにより発生する擦過音をより一層確実に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0038】
図3(A)〜(D)に示すように、格子状の凸部67の断面形状は、矩形、三角形、台形、楕円形などの種々のものが可能であり、その形状は任意である。また、図4に示すように、凸部67は、2mm以上6mm以下の隣接間隔tで格子状に形成されている。なお、格子状の凸部67は、継手軸方向に対して傾斜する縦横方向に等間隔で形成されている。このように凸部67の隣接間隔tを2mm以上6mm以下に設定することにより、蛇腹部63の斜面66同士が接触することにより発生する擦過音を効果的に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0039】
ここで、凸部67の隣接間隔tが2mmより小さいと、格子状が細かくなり過ぎることになって擦過音の抑制効果を得ることが困難となる。逆に、凸部67の隣接間隔tが6mmよりも大きいと、作動角をとって蛇腹部63の隣接する斜面66同士が近接した場合、凸部67以外の斜面66が隣接する斜面66に接触することになって擦過音の抑制効果を得ることが困難となる。
【0040】
図4に示すように、格子状の凸部67(断面形状が台形を例示)は、斜面66から0.2mm以上0.6mm以下の高さhで形成されている。凸部67の斜面66からの高さhを0.2mm以上0.6mm以下に設定することにより、蛇腹部63の斜面66同士が接触することにより発生する擦過音を効果的に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0041】
ここで、凸部67の高さhが0.2mmよりも小さいと、作動角をとって蛇腹部63の隣接する斜面66同士が近接した場合、凸部67以外の斜面66が隣接する斜面66に接触することになって擦過音の抑制効果を得ることが困難となる。逆に、凸部67の高さhが0.6mmよりも大きいと、ブーツ60の成形性の低下や成形金型の加工性の低下が生じる。
【0042】
図4に示すように、格子状の凸部67(断面形状が台形を例示)は、隣接する斜面66と接触する先端幅寸法wが隣接間隔tの1/3以下、好ましくは1/4以下となるように形成されている。なお、凸部67の先端幅寸法wとは、その凸部67が隣接する斜面66と接触する時にその先端部分が変形した状態での寸法を含むことを意味する。このように隣接する斜面66と接触する先端幅寸法wを規定することにより、蛇腹部63の斜面66同士が接触することにより発生する擦過音を効果的に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0043】
ここで、隣接する斜面66と接触する凸部67の先端幅寸法wが隣接間隔tの1/3よりも大きいと、凸部67の先端が隣接する斜面66と接触した時の接触面積が大きくなるので擦過音の抑制効果を得ることが困難となる。
【0044】
この実施形態で使用するブーツ60は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーからなる樹脂製としている。この熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、JIS K6253に規定されるタイプDデュロメーターによる硬さが35以上53以下であり、擦過音対策のための添加剤を配合する。例えば、ポリエステルブロック共重合体100重量部に対して、「HO(RO)xH」(R:炭素数1〜6の炭化水素化合物から2水素を除いた官能基、x:1〜1000の整数)で表される化合物を0.01〜1.5重量部を配合した熱可塑性ポリエステル系エラストマーが好適である。ブーツ60の素材をこのように選定することにより、蛇腹部63の斜面66同士が接触することにより発生する擦過音を効果的に抑制でき、その擦過音が発生しない持続時間を長く確保することができる。
【0045】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0046】
10 外側継手部材
13 開口部
20 内側継手部材
30 トルク伝達部材(ボール)
50 軸部材(シャフト)
60 ブーツ
61 (大径)端部
62 (小径)端部
63 蛇腹部
64 山部
66 斜面
67 凸部
θ 傾斜角
t 隣接間隔
w 先端幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に開口部を有する外側継手部材と、前記外側継手部材との間でトルク伝達部材を介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材とを備え、前記外側継手部材の開口部を閉塞する蛇腹状ブーツの端部を、前記外側継手部材の開口部と前記内側継手部材から延びる軸部材とにそれぞれ締め付け固定した等速自在継手であって、
前記ブーツは、前記外側継手部材の開口部の外周面に締め付け固定された大径端部と前記軸部材の外周面に締め付け固定された小径端部とを繋ぎ、前記大径端部から小径端部へ向けて縮径した伸縮自在な蛇腹部を備え、前記蛇腹部の少なくとも一対の隣接する斜面に格子状の凸部を設けたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記蛇腹部は、5つの山部が継手軸方向に沿って形成され、前記小径端部から2つ目の山部と3つ目の山部とを繋ぐ一対の斜面、あるいは、前記小径端部から3つ目の山部と4つ目の山部とを繋ぐ一対の斜面のうち少なくとも一方に格子状の凸部を設けた請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記凸部は、継手軸方向に対して傾斜角を持って格子状に延びるように形成されている請求項1又は2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記凸部は、2mm以上6mm以下の隣接間隔で格子状に形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項5】
前記凸部は、斜面から0.2mm以上0.6mm以下の高さで形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項6】
前記凸部は、隣接する斜面と接触する先端幅寸法が隣接間隔の1/3以下となるように形成されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項7】
前記ブーツは、樹脂製である請求項1〜6のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項8】
前記ブーツは、熱可塑性ポリエステル系エラストマーからなる樹脂製である請求項1〜7のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項9】
前記外側継手部材は、球面状内周面に軸方向に延びる複数の円弧状トラック溝が形成され、前記内側継手部材は、外側継手部材のトラック溝と対をなして球面状外周面に複数の円弧状トラック溝が形成され、前記トルク伝達部材は、外側継手部材の球面状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持された状態で、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に介在するボールである請求項1〜8のいずれか一項に記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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