説明

筋萎縮及び筋縮退疾病の処置のためのボーマン−バークインヒビター組成物

変性骨格筋疾患又は疾病の骨格筋機能を改善するため及び症状を軽減及び/又は進行を遅延させるための、ボーマン−バークインヒビター(BBI)又はその誘導体を含有する組成物の骨格筋萎縮の処置及び/又は予防における使用方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、シリアル番号60/491,695、2003年8月1日提出の米国仮出願の優先権を主張し、その全体が参照文献により本明細書に組み込まれる。
技術分野
【0002】
本発明は、骨格筋萎縮及び骨格筋縮退の疾病を処置及び/又は予防する上での、ボーマン−バークインヒビター(BBI)又はその誘導体を含有する組成物の使用方法を提供する。例えば、BBI及びその誘導体を含有する組成物は、ベッド療養/不活動期間中、非活動性萎縮を予防又は処置するため、又は宇宙飛行中の筋萎縮を予防するために対象に投与することができる。さらに、BBI又はその誘導体を含有する組成物による骨格筋の機能改善は、かかる組成物が、限定されないが、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症及び脊髄損傷を含む骨格筋縮退疾病の症状を緩和する及び/又は進行を遅らせるのに有用であることを示している。
【背景技術】
【0003】
骨格筋萎縮、筋量の喪失、は非活動又は微小重力状態のいずれかの間、荷重誘導シグナル(load-induced signaling)が除かれることに関係する。この萎縮は成長シグナル伝達経路の遅延/阻害及びタンパク質の分解に関連する経路の増大により仲介される(Goldberg, A. L. J Biol Chem 1969 244: 3223-3229; Jaspers, S. R. and Tischler, M. E. J Appl Physiol 1984 57: 1472-1479; Loughna et al. J Appl Physiol 1986 61: 173-179)。この筋量及び筋力の急速な喪失は、特に老齢者において重大な健康問題を意味する。
【0004】
荷重の除去に対する主な反応としては、タンパク質の合成又は分解のいずれかにおける変化であるように見え、筋萎縮を低減させる可能な処置方法は、これらのプロセスのどちらか又は両方に対する正常なシグナルを回復させることである。成長経路シグナルの研究は、以下の負荷されていない、鍵となるシグナルタンパク質のレベル及び活性の有意な変化を示した(Gordon et al. J Appl Physiol 2001 90 : 1174- 1183; Hornberger et al. 2001 Am J Physiol Cell Physiol 281 : C179-187 ; Hunter et al. 2002 Faseb J 16: 529-538; Mitchell, P. O. and Pavlath, G. K. Am J Physiol Cell Physiol 2001 281: C 1706-1715)。構成的に活性なシグナルタンパク質、Aktの過剰発現は有意な筋肉の肥大をもたらし、脱神経に関連する筋肉の萎縮を抑制した(Bodine et al. Nat Cell Biol 2001 3 : 1014-1019)。しかし、筋肉肥大の有力な活性因子、IGF−Iの上方調節(Barton-Davis et al. Proc Natl Acad Sci USA 1998 95: 15603-15607)は、後肢懸垂に関連する筋肉量の喪失を抑制しない(Criswell et al. Am J Physiol 1998 275: E373-379)。このことは、非活動の間の成長経路のカスケードが開始された、IGF−Iを遮断する未知のメカニズムを示している。
【0005】
成長経路を目標とするよりも、非活動性萎縮に対抗するための別の有力な治療方法はタンパク質分解の活性化の増大を阻止することである。筋肉タンパク質量の喪失、最も顕著には筋原線維タンパク質の分解が主にユビキチン−プロテアソーム経路の活性化により起こると考えられ(Taillandier et al. Biochem J 1996 316: 65-72; Tawa et al. J Clin Invest 1997 100: 197-203; Ikemoto et al. Faseb J 2001 15: 1279-1281)、及び筋力産生能力の減退の原因となる。しかし、他の2つのタンパク質分解経路、Ca2+依存性経路(カルパインを介する)及びリソソーム経路(カテプシンB+Lを介する)は、筋萎縮に関連しており、筋原線維タンパク質の初期タンパク質分解(Tidball, J. G. and Spencer, M. J. J Physiol (Lond) 2002 545: 819-828; Tischler et al. Metabolism 1990 39: 756-763)に関係しているが、筋肉タンパク質の喪失におけるこれらの経路の役割は未だ不明確である(Ikemoto et al. Faseb J 2001 15: 1279-1281)。
【0006】
しかし、20%大豆タンパク質単離食を与えられたラットが、カゼイン食を与えられたラットより腓腹筋において有意に高いカルパスタチン活性を有することが報告された(Nikawa et al. Nutrition 2002 18: 490-495,2002)。このように、大豆タンパク質食は、カルパイン−仲介タンパク質分解を抑制可能な、骨格筋における運動誘発性のタンパク質分解を予防することを示唆している(Nikawa et al. Nutrition 2002 18: 490-495,2002.)。懸垂運動低下症による筋萎縮における単離された大豆タンパク質の効果を調査する研究は、大豆タンパク質単離食が、カルパイン及びプロテオソーム活性の低下により、骨格筋中の筋原線維タンパク質の分解を低減する原因になり、その結果筋萎縮を改善することが示唆された(Tada, O. and Yokogoshi, H. J Nutritional Science Vitaminology (Tokyo) 48: 115-119,2002)。
【0007】
一方、最近の研究はセリンプロテアーゼカスケードが筋萎縮に導くタンパク質分解開始のメカニズムを提供する可能性のあることを示唆した(Sangorrin et al. Comp Biochem Physiol B Biochem Mol Biol 2002 131: 713-723; Stevenson et al. J Physiol (Lond): 2003 2003.044701)。
【0008】
しかし、今日まで非活動性萎縮に対する経口薬物療法は知られておらず、筋緊張を維持するための電気刺激がいまだに延長された不活動期間中の筋喪失を抑制するために用いる第一手段である。
【0009】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、筋肉の衰弱及び萎縮の進行に導く変性疾患である。かかる疾患は細胞骨格タンパク質ジストロフィンをコードする遺伝子における突然変異の結果である。ジストロフィンは、正常な筋細胞膜の安定性に必要と考えられているジストロフィン糖タンパク質複合体(DGC)とともに、膜結合タンパク質の大きな複合体に関連する。ジストロフィン及び関連するDGCの喪失は、筋壊死及び再生のダメージサイクルを生成する筋肉形質膜の構造的完全性の低下をきたす。
【0010】
DMDを予防するためには、ジストロフィンそれ自体又は筋肉の適当な機能を回復することのできる他のタンパク質のいずれかを治療的に置き換える必要があると思われる。しかし、他の治療はタンパク質置換の困難性を克服しながら大きく生活の質を改善し、かつ疾患の重症度を低減することができる。
【0011】
DMD患者における筋肉の膜の完全性の喪失は、タンパク質分解経路の活性化及び炎症プロセスの刺激へ導く細胞外カルシウムの流入増加の結果であることを示唆している。したがって、タンパク質分解経路の活性化を低減し、及び/又は炎症反応の刺激を抑制する種々の試みがなされてきた。
【0012】
例えば、カルシウム依存性プロテアーゼ又はカルパイン活性とジストロフィー筋及び筋壊死との間に相関性があることが示された。カルパインの特異的な内因性阻害剤であるカルパスタチンの導入遺伝子の過剰発現は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するネズミモデル(Spencer, M. J. and Mellgren, R. L. Human Molecular Genetics 2002 11 (21): 2645-55)であるmdxマウスにおけるジストロフィー病状を緩和した。同様にカルパイン阻害剤であるロイペプチンの投与は、mdxネズミモデルにおける筋原線維サイズの保持率と相関した(Badalamente, M. A. and Atracher, A. Muscle & Nerve 2000 23(1):106-11)。
【0013】
また、ダイストリプシン(dystrypsin)として登録されているトリプシン様プロテアーゼは、mdxマウスにおける発症の臨床徴候の直前に、筋ミクロソーム分画において顕著に活性化されると報告された。トリプシン様プロテアーゼの低分子量阻害剤であり、ダイストリプシンを含有するメシル酸カモスタットはデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する候補薬として示唆されてきた(Sawada et al. Biological & Pharmaceutical Bulletin 2003 26 (7): 1025-7)。
【0014】
マスト細胞安定化剤であるクロモリンの直接注射により用いられたmdxマウスの体力を増強することも示された(Granchelli et al. , Res. Commun. in Mol. Pathol. and Pharm. 1996 91 (3): 287-96)。
【0015】
さらに、1種の抗酸化剤である緑茶抽出物による栄養補給が、壊死を低減し、mdxマウス及び培養されたマウスC2C12筋管のそれぞれにおける酸化的ストレスを減少させることが開示された(Buetler et al. American J. of Clin. Nutrition 2002 75 (4): 749-53)。
【0016】
しかし、現在、筋ジストロフィーに対する唯一の確立された処置は、例えばプレドニゾン及びデフラザコート(deflazacourt)のステロイドの使用である。これらの処置は筋肉喪失の減速がほんのわずかであり、かつ重大な副作用をもたらす。
【0017】
発明の概要
本発明の目的は、対象における骨格筋の萎縮を処置又は予防するための方法であって、ボーマン−バークインヒビター又はその誘導体を含有する組成物を対象に投与することを含む方法を提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、対象における骨格筋の機能を改善する方法であって、ボーマン−バークインヒビター又はその誘導体を含有する組成物を対象に投与することを含む方法を提供することにある。
【0019】
本発明の別の目的は、対象における骨格筋の縮退を処置又は予防する方法であって、ボーマン−バークインヒビター又はその誘導体を含有する組成物を対象に投与することを含む方法を提供することにある。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、骨格筋縮退疾患又は疾病、限定されるものではないが筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症又は脊髄損傷を含む、に罹った対象における症状を緩和するか、疾病の進行を遅らせる方法であって、ボーマン−バークインヒビター又はその誘導体を含有する組成物を対象に投与することを含む方法を提供することにある。
【0021】
発明の詳細な説明
成長シグナルにおける骨格筋の変化(Bodine et al. Nat Cell Biol 2001 3: 1014-1019; Hunter et al. Faseb J 2002 16: 529-538; Mitchell, P. O. and Pavlath, G. K. Am J Physiol Cell Physiol 2001 281: C1706-1715))、アポトーシス(Allen et al. Am J Physiol 1997 273: C579-587; Allen et al. Muscle Nerve 1999 22: 1350-1360)、及びタンパク質分解(Taillandier et al. Biochem J 1996 316: 65-72; Solomon, V, and Goldberg, A. L. J Biol Chem 1996 271: 26690-26697; Ikemoto et al. Faseb J 2001 15: 1279-1281)に関する重要な要素を特定する進歩がなし遂げられてきたが、萎縮、特に筋量及び筋力の喪失に対する全体の反応を減衰する制限された成功であった。これらの経路の詳細な分析は、筋量を維持するために必要なすべての要素を完全に定義していないか、共通の「萎縮プログラム(atrophy program)」が萎縮反応を生成する種々の摂動(例えば脱神経、飢餓、除荷、固定化、悪液質及び宇宙飛行)により活性化されているか否かを特定していない。さらに、筋量を有効に維持する遺伝子操作を治療戦略に変換するのは容易ではない。
【0022】
詳細はまだ知られていないが、筋肉の「荷重センサ(load-sensor)」の除荷が筋肉内のプロアポトーシス因子を直ちに活性化し、筋核領域数を低減することを示唆する1つのパターンが現われている(Allen et al. J Appl Physiol 1997 83: 1857-1861; Allen et al. Muscle Nerve 1999 22: 1350-1360)。次にタンパク質合成の減少は核の数の減少(Allen et al. J Appl Physiol 1997 83 : 1857-1861; Allen et al. Muscle Nerve 1999 22 : 1350-1360)及び翻訳速度の低下(Bodine et al. Nat Cell Biol 2001 3: 1014-1019; Hornberger et al. Am J Physiol Cell Physiol 281: C179-187, 2001)の両方に依存して進行する。同時に、既知の及び未知のプロテアーゼが筋肉細胞から過剰のタンパク質を除去するプロセスを開始する。したがって、機能的な筋量の喪失に対する治療は、これら3つの経路;アポトーシス、成長/タンパク質合成、及びタンパク質分解のそれぞれの標的に必要であると考えられている。
【0023】
ボーマン−バークインヒビター(BBI)は、分子量約8000Da及び多くの食餌タンパク質分解酵素、例えばキモトリプシン、トリプシン、カテプシンG、エラスターゼ及びチマーゼの活性を阻害する能力(Birk Y. Int J Pept Protein Res 1985 25: 113-131 ; Larionova et al. Biokhimiya 1993 58: 1437-1444; Ware et al. Archives of Biochemistry and Biophysics 1997 344: 133- 138)を有する、優れた特性のプロテアーゼインヒビターである。BBIは、大豆抽出物のボーマン−バークインヒビター濃縮物(Bowman-Birk Inhibitor Concentrate)(BBIC)の形態として、ヒトの臨床試験において抗癌剤として評価されている(Kennedy AR. Pharmacology Therapy 1998 78: 167-209に概説されている)。
【0024】
動物実験において評価されたBBIの投与量に関するプロテアーゼ活性の阻害後に副作用は観察されなかった(Kennedy AR. Pharmacology Therapy 1998 78: 167-209; Kennedy AR. Overview: Anticarcinogenic activity of protease inhibitors. In: Protease Inhibitors as Cancer Chemopreventive Agents, edited by Troll W and Kennedy AR. New York: Plenum Publishing Corp. , 1993, p. 9-64に概説されている)。それどころか、1.0%の食餌BBICを維持した動物はその生涯において成長異常がなく、寿命の有意な延長が観察された(Kennedy et al. Nutr Cancer 1993 19: 281-302)。体重の喪失は食餌BBICを維持した白血病の動物において最小であり、BBI/BBICが癌悪液質の期間に起きる筋萎縮を低減し得ることを示唆している(Kennedy AR. Overview: Anticarcinogenic activity of protease inhibitors. In: Protease Inhibitors as Cancer Chemopreventive Agents, edited by Troll W and Kennedy AR. New York: Plenum Publishing Corp. , 1993, p. 9-64)。BBIはマウスに腹膜内注射した後の肺、腎臓及び肝臓組織におけるタンパク質分解活性を阻害することが示された(Oreffo et al. Toxicology 69: 165-176,1991)。消費されたBBIの約50%は活性形態で大腸に到達し、全身に供給するため血流中に取り込まれる(Billings et al. Cancer Lett 1992 62: 191-197; Yavelow et al. Proc Natl Acad Sci U S A 1985 82: 5395-5399)。このように、BBIは組織に入ることができ、有意な阻害機能を維持することが示された。
【0025】
現在、BBIが非活動期間中の機能的な骨格筋量の喪失を阻止することが見出されている。本明細書に示すように、ボーマン−バークインヒビター濃縮物(BBIC)の食餌への添加が後肢懸垂期間後の骨格筋萎縮を有意に軽減することが見出された。結果は、BBI又はその誘導体を含有する組成物が非活動から起こる骨格筋萎縮を低減する有用な治療を提供することを示している。さらに、BBICの投与が、mdxマウスにおけるジストロフィー筋の機能的な改善をもたらすことが現在知られており、このことは、限定されないが、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症又は脊髄損傷を含む変性筋疾患の治療において、BBIを含有する組成物の一層の有用性を示している。
【0026】
非活動に関連する筋萎縮の進行を阻止するためのBBIを含有する組成物の能力は、筋肉除荷中に変化することが知られている多くの生理学的パラメータの測定によりマウスにおいて示された。BBIC処置した懸垂又は非懸垂動物を、aBBIC(阻害活性を除くため高圧蒸気滅菌したBBIC)又は標準マウス食餌のいずれかを与えた動物と比較した。各実験について、3つのタイプの食餌の1つを与えたマウスは後肢除荷、又は非懸垂対照として用いた。
【0027】
初期実験において、後肢除荷に関連する筋萎縮量を低減するためのBBIC補助食の能力を示すため、3ヶ月齢のマウスを用いた。この実験のため、BBIC−又はaBBIC−補助食のいずれかを与えたマウスを14日間懸垂した。懸垂後、筋肉を切開し、力を測定した。強直力はaBBIC食餌動物よりBBIC食餌動物においてより高かった(130.7±22.0 mN対96.9±12.4 mN、それぞれ各グループに対して(n=2))。同様に筋肉重量グラム当たりの張力を測定した、平均の比力(specific force)は、aBBIC処置動物(16.7±2.8 kN/g)におけるよりBBIC食餌動物(19.2±4.0 kN/g)において高かった。しかし、BBIC食餌マウスの筋肉重量(6.8±0.6 mg;n=4)はaBBIC食餌マウスの筋肉重量(5.8±0.4 mg; n = 4)に比べ有意に高かった(p<0.05)。aBBIC食餌マウスのパーセント萎縮が45.3±3.1%であったのに対し、BBIC食餌マウスの筋肉重量は33.3±2.9%低下したのみであった。
【0028】
BBIC食餌マウスにおいてマウスの体重の増加が観察されたため、6ヶ月齢のマウスを用いたより大きなサイズでの研究を行った。これらの実験において、懸垂及び非懸垂マウスの体重は実験期間の前後で測定した。各グループの非懸垂マウスは、14日間で〜2−5%のわずかな体重の増加を示した。14日間後肢懸垂したBBIC(BBIC+HS)及びaBBIC(aBBIC+HS)懸垂動物の体重は、それぞれ平均10.0±7.6%及び11.6±5.1%低下した。対照の食餌を与えた懸垂動物(Ctrl+HS)は14日間の懸垂で5.0±2.3%低下した。この範囲の体重減少はこれまで多くの研究により報告され(Thomason, D. B. and Booth, F. W. J Appl Physiol 1990 68: 1-12参照)、全食物摂取量の減少及び1グラムの摂取食物当りの体重増加(Morey ER. Bioscience 29: 168-172,1979)の減少の両方に依存していることが示唆された。
【0029】
食物は活性BBI組成物を含有していたので、BBIC及びaBBICを補充した食物を提供された動物について食物摂取量を測定した。食物消費量は、BBIC食餌_非懸垂(3.1±0.6グラム/日)、aBBIC食餌_非懸垂(3.2±0.2グラム/日)、及びBBIC+HS(3.1±0.4グラム/日)マウスにおける消費量と同様であった。しかし、統計上重要ではないが、BBIC+HSは、他の3つのグループより1日当り平均0.5グラム(2.7±0.5グラム/日)の食物が少ない。
【0030】
BBICが非活動萎縮の間の筋肉喪失を軽減することができるかどうかを決定するため、対照食物またはBBICにより補充された食物のいずれかを与えた動物を3、7、又は14日間懸垂した。BBICによる栄養補助は、7日及び14日後に観察された筋肉喪失の有意な低減(p<0.05)により各時間ポイントにおける筋肉量喪失を軽減することが明らかとなった。後肢除荷7日後に、BBIC+HS動物の筋肉量は8.6±0.4mg(n=4)であり、これに対しCtrl+HS動物の筋肉量は7.2±0.3mg(n=4)であった。14日間の懸垂後、BBIC+HS動物の平均ヒラメ筋重量、7.8±0.2mg(n=7)、は、aBBIC+HS(7.1±0.2 mg (n = 6 ; p<0.02))及びCtrl+HS動物(6.4±0.4 mg (n = 6; p<0.01))の両方に比べ有意に高かった。aBBIC+HSの筋肉重量は、Ctrl+HSマウスより高かったが、有意差は測定されなかった。非懸垂動物の筋肉重量は同じであった。対照食餌−非懸垂、aBBIC食餌_非懸垂及びBBIC食餌_非懸垂グループの筋肉重量は、それぞれ10.5±0.6mg (n = 6)、10.9±0.4mg(n = 6)、及び 10.6±0.5mg (n = 6)であった。BBICの添加は、非懸垂の筋肉に観察可能な肥大をもたらすことはない。Ctrl+HS及びaBBIC+HS動物の筋肉重量は、対照食餌−非懸垂及びaBBIC食餌_非懸垂のマウスと比較したとき、それぞれ39±5%及び35±3%減少した。BBIC+HS動物のパーセント萎縮は26±4%に限定され、他の実験グループと比較し25〜30%の量的喪失を軽減した。
【0031】
個々のマウスの体重に対する個々の筋肉重量の違いも測定した。筋肉重量を同じマウスの体重で除し、結果を集積し、同じグループのすべてのマウスについて平均化した。体重に対する筋肉重量比は、BBIC食餌マウスについて0.323±0.020mg/グラムから0.289±0.005mg/グラムへ低下し、aBBIC食餌マウスについて0.341±0.038mg/グラムから0.274±0.006mg/グラムへ低下した。対照食餌マウスの体重に対する筋肉重量比は、0.327±0.016mg/グラムから0.256±0.011 mg/グラムへ低下した。このように、BBIC食餌動物(11±1%)における筋萎縮は、aBBIC食餌マウス(20±3%)及び対照食餌マウス(22±2%)と比較し約45〜50%減少した。
【0032】
筋肉当りの平均線維数は、後肢懸垂が個々の筋線維の排除を誘起しないと示唆されるすべてのグループについて同様であった。このように、個々の筋線維の線維面積は断面において測定した。線維サイズに変化があるかどうかの簡単な測定方法は、高倍率視野(40X 対物レンズ)で線維数を定量することである。線維サイズが大きくなると視野内の線維数が減少する;すなわち、筋線維が小さければ小さいほど線維数は増大する。この方法を用いると、BBIC+HS動物の平均線維数は、高倍率視野当り61.0±5.6(n = 4)であり、これに対しaBBIC+HSグループは平均76.5±2.5 (n = 4)であり、2つのグループ間に有意な差(p<0.05)を示した。両方の非懸垂グループは同様であり、BBIC食餌_非懸垂及びaBBIC食餌_非懸垂マウスについて、それぞれ平均40.0±1.5(n = 4)及び41.0±1.0(n = 5) であった。予測されるように、後肢懸垂は、BBIC及びaBBIC動物の両方における筋線維サイズを低下させた。
【0033】
ラミニン染色した筋肉断面は、線維面積を直接測定して分析した。平均の線維面積は、aBBIC+HS部位と比較したとき、BBIC処置後に有意に上昇した(p<0.01)。BBIC+HS筋肉の線維面積は668±11μm(mean±SE;n = 458)であり、これに対しaBBIC+HS筋肉の線維面積は596±10μm(mean±SE;n = 353)に減少した。線維面積の中央値は、懸垂したBBIC筋肉について657μm2であるのに対し、懸垂したaBBIC筋肉について569μm2であった。BBIC食餌_非懸垂グループ(957±211μm2 ; 中央値= 943μm2 ; n = 71)の線維面積は、aBBIC食餌_非懸垂グループ(890±250μm2;中央値= 864μm2 ; n = 89)と同様であった。
【0034】
このように、BBICの投与は14日の後肢懸垂に関する筋萎縮を線維サイズの低下を遅延させることにより軽減し、それにより全体の筋肉量を維持する。
【0035】
筋肉に機能性が残存しているか否かを決定するため、非懸垂及び懸垂動物の両方のヒラメ筋における収縮性測定をすべての食餌グループにおいて実施した。BBIC+HS筋肉により産生された全強直力(144.1±4.3 mN; n = 7)はCtrl+HS(120.9±7. 9 mN; n = 6)に比べ有意に大きく、一方、aBBIC+HS筋肉により産生された張力(129.7±5.4 mN;n = 6)は異ならなかった(p =0.06)。筋肉1グラム当りの力の値は、それぞれ18.9±1.9、18.0±0.7、及び18.5±1.3mN/グラムを生成するCtrl+HS、BBIC+HS、及びaBBIC+HS筋肉により、すべてのグループについて同等であった。BBICの示す結果は機能的な筋肉量を維持し、筋肉による全体のより大きな力の産生を可能にする。
【0036】
BBIC摂取と相関した筋肉量の変化がマウスにおいて観察された。より具体的には、14日間の実験期間にわたって消費された食物の量が個々のマウスの筋肉重量に対してプロットされた。結果は1日当たり消費したBBIC食物の量と筋肉量との間に正の相関を示した。1日当たり摂取する食物の機能としての筋肉重量に対するBBICの効果は、ゼロから有意に離れている(p<0.05)と計算され、一方、aBBIC摂取の効果が有意でない(p=0.7)ことが測定された。>3.0グラム/日の食餌を摂取した集団に対するBBIC食餌動物の再評価は、平均8.2±0.2mg (n = 3) のヒラメ筋量により、筋萎縮量の一層の低減を示した。aBBIC食餌マウスにおける同様の分析は、平均7.2±0.2 mg (n = 4) のヒラメ筋量により、かかる変化を示さなかった。さらに、1日当たり3.0グラムより多く摂取するBBIC食餌_非懸垂動物とBBIC+HS動物との間の筋肉重量対体重比において有意な差(p = 0.4)はなかった。このことは、BBICの摂取量の増大が筋萎縮の程度を有意なレベルには低減しないことを示す。一方、筋肉重量はBBIC食餌_非懸垂動物に比べBBIC+HS動物の方が依然として有意に低く、筋肉重量対体重比の観点から、パーセント萎縮は、aBBIC食餌マウスにおける19.4±1.8%からBBIC食餌マウスにおける7.2±0.6% (n = 3)へ減少した。これらの結果は摂取した食餌の量、又はより具体的にはBBICの量が、後肢除荷に関する筋萎縮量を低減するのに重要であることを示した。
【0037】
追加実験において、BBIC又はaBBICのいずれかを直接送達するために6ヶ月齢のマウスに浸透圧ポンプが挿入された。各マウスはBBIC(10% w/v)又は高圧蒸気滅菌したBBIC(10% w/v)のいずれかを含有するAlzet浸透圧ポンプ(Alza, Palo Alto, CA)を背中前部において、外科的に直接皮膚下に挿入した。ポンプは0.5μl/時間の速度で2週間にわたって溶液を絶えず放出した。さらに、処置グループ間で観察された差異は統計的に有意ではなかったが、BBIC処置マウスの筋肉重量(8.1±0. 1 mg,22%萎縮;n = 4)はaBBIC筋肉重量(7.4±0.7 mg,31 %萎縮;n = 4)より重かった。BBICによる筋肉量の維持は、同様に14日間の懸垂後の筋肉重量を約30%増大させる結果となった。実施例は同様にmdxマウス、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのネズミモデルにおいても行った。
【0038】
これらの実験において、BBI含有組成物、特に1.0%BBICを含有する補助食を用いて雄のmdxマウスの処置を4週齢において開始し、12週間継続した。動物の体重は各週毎にモニタ及び記録した。対照mdx及び1.0%BBICを含有する補助食を供給したmdxの間の体重増加に差はなかった。さらに、追加の対照として、野生型C57BL/6マウスに1%BBICを含有する補助食を供給し、BBICが正常で、非ジストロフィー筋肉のサイズ又は機能を変化させるか否かを測定した。1.0%BBICを含有する食餌を与えてから6週間後、BBIC補助食を受けていない野生型C57BL/6マウスの動物と比較したとき、筋肉量又は筋力のいずれも変化はなかった。
【0039】
mdxマウスの横隔膜は、4ヶ月齢において通常のヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色を用いて観察できるかなりの線維症を示す。筋肉細胞からの線維性組織のより良好な区別は、筋肉組織を赤く染めるが、線維及び結合組織を暗青色に染めるトリクロム法を用いて達成することができる。対照mdxマウスと比較したとき、1.0%BBICを含有する食餌は、H&E及びトリクロムを用いて染色したmdxマウスの横隔膜の外観を顕著に改善することがわかった。
【0040】
さらに、mdxマウスの筋線維は約4週齢において始まる分解/再生の著名な循環を受ける。筋線維の再生は、再生線維の中心に出現する衛星細胞の活性化及び融合を必要とする。したがって、筋線維再生の測定は、再生の増大を示すCNFsの増大した部分を有する主要な有核筋線維(CNF)の存在である。筋線維の輪郭を示すために筋肉部分をラミニンにより染色し、核を核染色剤4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールにより染色した。各筋肉について、各測定について用いた2〜4の筋肉の合計により、全線維数の割合としてCNFsの数を測定した。脛骨筋前筋におけるCNFsの割合の有意な減少がBBIC処置後に観察された(p<0.05、対照についてn = 3、BBIC食餌についてn = 4)。BBIC処置マウスにおける有意でない減少がEDL及び横隔膜筋において観察された(それぞれp=0.064及びp=0.058)。しかし、脛骨筋前部についてのより大きな試料サイズでは有意な結果が得られ、同様に動物数の増大することがEDL及び横隔膜筋の両方において有意な差を生成することが予想される(現在 n = 2)。
【0041】
エバンス青色色素(Evan's blue dye)を未処置及びBBIC処置mdxマウスの両方の膜品位の測定に用いた。解剖する24時間前に、動物にエバンス青色色素を腹膜内注射した。筋肉を区分、固定、及び蛍光顕微鏡下で観察し、膜の損傷の程度を測定した。浸潤の増大した領域が未処置mdxマウスの大腿四頭筋において観察された。両方のグループの横隔膜筋は、EBD摂取が限定されていることが明らかとなった。
【0042】
非ジストロフィー動物と比較すると、mdxマウスのEDL筋肉は量及び断面積において増大した。しかし、量の増大は、断面積当たりの力(比力)の改善に相関せず、むしろmdxマウスの比力の有意な低下がある。1.0%BBICによる栄養補助は、比力を維持しながら筋肉量、絶対力(absolute force)、及び断面積を有意に増大させた((p<0.05 ; 各測定についてn>5)。これらの結果は、体力の改善がBBIC食餌により得られることを示している。比力は変化しないが、筋肉量及び絶対力の増大は毎日の課題を達成するためのより大きな能力を動物にもたらした。筋肉重量対体重比が有意に増加しているので、増大した筋肉量は単に体重の全体的な増加に依存しているのではない。
【0043】
したがって、上記のそれぞれの試験によって示したように、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのネズミモデルのマウスによる12週間のBBIC摂取後に、骨格筋の形態学的及び機能的測定の複合的測定において顕著な改善が見られた。
【0044】
したがって、本発明は、骨格筋萎縮の処置及び/又は予防におけるボーマン−バークインヒビター(BBI)又はその誘導体を含有する組成物の使用方法を提供する。この方法の1つの実施態様において、投与される組成物はボーマン−バークインヒビター濃縮物を含有する。種々の投与経路がBBI又はその誘導体を含有する組成物に有効であることが示されてきたが、処置を受ける対象に対する侵襲が最も少ないため、経口投与が最も望ましいと思われる。例えば、BBI又はその誘導体を含有する組成物を用いた簡単な栄養補助食により機能的な筋肉の喪失を防止する能力は、高齢者の生活の質の向上、長期療養又は手肢固定化(流し込み成形)からの迅速な回復につながることが期待され、さらに宇宙旅行を耐えるためのより高い能力を備えた宇宙飛行士の育成を可能にする。
【0045】
本明細書にも記載したように、骨格筋変性疾患のネズミモデルにおいて、BBIを含有する組成物の投与が、体力の向上及び筋肉量の増加の両方により測定されるように骨格筋の機能を改善した。したがって、本発明は骨格筋機能を改善するためのボーマン−バークインヒビター(BBI)又はその誘導体を含有する組成物の使用方法も提供する。
【0046】
この方法の1つの実施態様において、投与された組成物はボーマン−バークインヒビター濃縮物を含有する。種々の投与経路がBBI又はその誘導体を含有する組成物に有効であることが示されてきたが、処置を受ける対象に対する侵襲が最も少ないため、経口投与が最も望ましいと思われる。
【0047】
さらに、本発明は骨格筋変性疾患又は疾病の症状を緩和する方法及び/又は進展を遅延する方法を提供することにある。本明細書に示すように、BBIを含有する組成物による処置が骨格筋変性疾患、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのネズミモデルにおいて骨格筋機能を顕著に改善した。これらの結果は、BBI又はその誘導体を含有する組成物による処置が、タンパク質合成の変化及び/又はタンパク質変性に関連している骨格筋変性疾患の症状の緩和又は進展の遅延に有用であることを示している。この方法の1つの実施態様において、投与された組成物はボーマン−バークインヒビター濃縮物を含有する。種々の投与経路がBBI又はその誘導体を含有する組成物に有効であることが示されてきたが、処置を受ける対象に対する侵襲が最も少ないため、経口投与が最も望ましいと思われる。
【0048】
本発明の目的に対し、「症状の緩和」により骨格筋変性に関連する筋肉痛、筋炎、筋
緊張症及び/又は筋力の喪失が、BBI又はその誘導体を含有する組成物を用いた処置により緩和されることを意味する。
【0049】
「進行の遅延」により骨格筋変性に関連する筋肉の消耗及び/又は筋力の喪失が、BBI又はその誘導体を含有する組成物を用いた処置においてより緩やかに起こることを意味する。
【0050】
「BBI又はその誘導体」により、ボーマン−バークインヒビター又はボーマン−バークインヒビター生成物、それらに限定されないが、当該技術分野において知られている方法により調製されたBBI、当該技術分野において知られている方法に従って調製されたBBI濃縮物を含み、それに限定されないが米国特許第5,217,717号において教示された方法(参照文献によりその全体が本明細書に組み込まれる)、及びBBIの生物活性、特にセリンプロテアーゼ阻害活性が類似する合成により誘導された化合物を含む、を含むことを意味する。「合成の」により化合物製造について組み換え(recombinant)又は化学的手段の両方を含むことを意味する。BBI又はその誘導体を含有する組成物は、予防的な栄養補助食又は医薬品としての有効量で投与される。用語「有効量」は、筋力及び/又は筋肉量の増大により、及び/又は筋肉変性疾患の症状の緩和もしくは進行の遅延により測定される、骨格筋萎縮を予防する及び/又は骨格筋機能を改善する量に関する。このような量は、知られている方法を用いて当業者が決定することができる。
【0051】
本発明の組成物は、非経口、経腸、局所、経皮又は経口により、好ましくは経口により投与することができる。医薬又は予防的な栄養補助製剤の実施例としては、限定されないが、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、カプセル、トローチ剤及びうがい薬を含む。
【0052】
本発明の1つの実施態様において、該組成物は、薬学上許容される液体担体における組成物の懸濁液又は溶液を含む液体の形態として投与する。適切な液体担体としては、エタノール、グリセリン、ポリエチレングリコール等の非水溶媒、懸濁化剤を含むオイルもしくは水、防腐剤、香料もしくは着色剤、又はそれらの適当な組合せを含むが、これに限定されない。
【0053】
本発明に有用なBBI又はその誘導体を含有する組成物の別の液体製剤は、粘膜接触時間が長く、口当たりがよく、投与が簡単で、低コストの大量生産に適した安定なうがい液である。唾液代替物は、粘膜接触時間及び生体利用性を向上させるために粘度を必要とする溶液を提供し、多くの化合物を持続放出することを示してきた。1つの製剤において、BBI濃縮物(BBIC)、ソルビトール、カルボキシメチルセルロース、メチルパラベン等の唾液代替物、及び水が含まれる。
【0054】
別の実施態様において、錠剤形態の組成物は、固体製剤の調製に日常的に用いられている薬学上適した担体を用いて調製される。このような担体は、ステアリン酸マグネシウム、澱粉、ラクトース、スクロース及びセルロースを含むが、これらに限定されない。
【0055】
カプセルの形態の組成物も日常的なカプセル化操作を用いて調製することができる。例えば、BBI又はその誘導体を含有する組成物を含むペレット、顆粒又は粉末を標準的な担体を用いて調製し、次いでハードゼラチンカプセル中に充填することができる。別に、分散液又は懸濁液を薬学上適切な担体を用いて調製し、次いで分散液又は懸濁液をソフトゼラチンカプセル中に充填することができる。適切な薬学上の担体としては、水性ガム、セルロース、ケイ酸塩及びオイルを含むが、これらに限定されない。
【0056】
さらに別の実施態様において、非経口投与用の組成物が溶液又は懸濁液として処方される。この溶液又は懸濁液は一般に無菌水担体又は非経口的に許容されるオイル中に本発明の組成物を含有する。非経口的に許容されるオイルの例としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、レシチン、ラッカセイ油及びゴマ油を含むがこれらに限定されない。別に、溶液は凍結乾燥し、次いで対象に投与する直前に適切な溶媒により再調製することができる。「対象」は、本明細書で用いられる場合、ヒトを含む哺乳動物を含有することを意味するが、それに限定されない。以下の例により本発明をさらに詳細に説明するが本発明はそれらに限定されない。
【0057】

例1:ボーマン−バークインヒビター濃縮物(BBIC)の調製
BBICをKennedy等(Nutr Cancer 1993 19: 281-302)及びYavelow等(Proc Natl Acad Sci U S A 1985 82: 5395-5399)により記載された方法に従って精製した。この精製操作はキモトリプシン阻害活性を維持するが、高レベルのトリプシン阻害活性がラットにおける潜在的に有害な膵臓のフィードバック応答の原因となることが示されている(Kennedy et al. Nutr Cancer 1993 19: 281-302; Kennedy, A. R. Pharmacology Therapy 1998 78: 167-209)ので、トリプシン阻害活性のレベルを低下させる。BBICはCentral Soya Co.Inc.(Ft. Wayne, IN) により調製した。精製したBBICは、経口摂取のためのマウス用食餌のペレットを製造するために使用した。食餌は1.0%BBICの栄養補助食、又はプロテアーゼ阻害活性を高圧蒸気滅菌により破壊した1.0%高圧蒸気滅菌BBIC(aBBIC)を含むRodent Diet AIN−93G (Bio-Serv, Frenchtown, NJ)を用いた。キモトリプシン阻害活性を有しない1.0%aBBICを摂取した動物グループは、1.0%BBICを摂取したグループと等カロリーの食餌管理である。標準的なマウスの食餌は、BBIC又はaBBICにより補助された食餌と同様に任意に給餌した。BBIC食餌マウスの観察された生理的変化を標準的な食餌又はaBBICにより補助された食餌を摂取したマウスの観察された生理的変化と比較した。
【0058】
例2:動物
この研究における実験は、University of Pennsylvania's Institutional Animal Care and Use Committeeにより承認を受けている。3及び6ヶ月齢の雄のC57/B16マウスをこの研究に使用し、ランダムに実験グループの1つに割り当てた。より具体的には、動物をランダムに3つの食餌グループ;BBIC、aBBIC又は対照の1つに分けた。動物を実験期間開始の5〜7日前に1.0%BBIC、1.0%aBBIC又は追加補助食なしを含有する実験食に切り替えた。3つの食餌グループのそれぞれから、半数を個別のケージに入れて非懸垂対照とし、他を個別の懸垂ケージ内で後肢懸垂した。したがって、動物をランダムに6つのグループ:1.)対照、非懸垂;2.)対照、後肢懸垂(Ctrl+HS);3.)BBIC食餌_非懸垂;4.)BBIC、後肢懸垂(BBIC+HS);5.)aBBIC食餌_非懸垂;及び6.)aBBIC、後肢懸垂(aBBIC+HS)の1つに割り当てた。
【0059】
例3:後肢懸垂
Morey,E.R.(Bioscience 1979 29: 168-172)によりラットについて最初に記載され、本明細書においてマウスについて採用した修正尾懸垂法を用いて動物を懸垂した。これらの実験において、動物をケタミン及びキシラジンの混合物を用いて麻酔し、体重を測定した。尾を洗浄し、粘着テープ片(Skin Trac (Zimmer, Warsaw IN))を用いてステンレススチール鎖に取り付けた。ケージの最高部の軌道上のランニングを支持するために、後肢が床又は壁に接触するのを防止しながら、マウスがケージ内を自由に動くことができる鎖を取り付けることにより動物を懸垂した。
【0060】
例4:筋肉の機械的測定
3−、7−又は14日の懸垂期間後、懸垂及び非懸垂対照マウスの両方を麻酔し、体重を測定し、ヒラメ筋及び腓腹筋を除去した。1つのヒラメ筋を解剖し、Barton−Davis等 (Proc Natl Acad Sci USA 1998 95: 15603-15607)により記載された方法に従って、機械的な筋力を測定するために調製した。最大単収縮張力が得られるまで筋肉の長さを調整することにより静止長(Lo)を設定した。最大上電圧の100MHz、500msパルスでヒラメ筋を刺激することにより最大強直力を測定した。張力測定後、筋肉をブロッティングし、重量測定し、次いで融解イソペンタン中に急速凍結し、後の組織学的分析のために−80℃で保存した。生物学的分析のために用いる他のヒラメ筋は、生体外での刺激を行わずに重量測定し、直ちに液体窒素中に保存した。腓腹筋も生物学的分析のために同様に凍結した。
【0061】
例5:統計解析
生データを適用可能な対応のないt検定(unpaired t test)又は一元配置分散分析(one-way ANOVA)に適用することにより、統計的有意性を判別した。データは他に記載がなければ平均±SEMを表す。
【0062】
例6:線維サイズの測定
凍結した部位(10μm)をPBS中で洗浄し、5%BSAを含有するPBS中で1時間ブロックした。ラミニンに対する一次抗体(NeoMarkers, Fremont, CA)を1:250の希釈率で含有する5%BSA/PBS中で該部位をインキュベートした。染色を視覚化するためにローダミンを結合した抗ラビットIgGを二次抗体(Jackson Immunoresearch Laboratories)として用いた。スライドは光退色を遅らせるため、Vectashield(Vector Labs, Burlingame VT)に取り付けた。顕微鏡観察はLeitz DMR顕微鏡(Leica)により行い、画像収集及び分析をMicro MAXデジタルカメラシステム(Princeton Instruments, Inc)及びイメージング ソフトウェア(OpenLab, Signal Analytics)を用いて行った。
【0063】
例7:mdxマウスにおける実験
4週齢の雄mdxマウスを対照グループ、BBIC無添加給餌、又は1%BBIC補助食が供給されるBBIC食餌グループのいずれかにランダムに割り当てた。すべての食餌を無制限に与えた。12週間の実験食餌期間後にマウスを麻酔し、体重を測定し、筋肉を除去した。伸展ジギタリス筋(extensor digitalis muscle)の1つを解剖し、上記例4に記載したように機械的な筋力を測定するために調製した。最大単収縮張力が得られるまで筋肉の長さを調整することにより静止長(Lo)を設定した。最大上電圧において120MHz、500msパルスで筋肉を刺激することにより最大強直力を測定した。張力測定後、筋肉をブロッティングし、重量測定し、次いで融解イソペンタン中に急速凍結し、後の組織学的分析のために−80℃で保存した。組織学的又は生物学的分析のために他の筋肉は重量測定し、直ちに凍結した。
【0064】
各動物について長指伸筋(extensor digitalis longus)、横隔膜、腓腹筋、及び大腿四頭筋を低温保持装置中で区分けし、ヘマトキシリン−エオシン及びトリクロム染色を用いる標準的な組織学的評価のためのスライドを作製した。対照及びBBIC両方からのいくつかの動物にエバンスブルー色素を注射し、膜品位に起こり得る変化を観察した。特に、犠牲にする前夜、PBS中0.2%エバンスブルー色素0.2mlをマウスに注射した。横隔膜及び大腿四頭筋の線維中のエバンスブルー蛍光発光の視覚化によりに膜変化を評価した。
【0065】
顕微鏡観察はLeitz DMR顕微鏡(Leica)により行い、画像収集及び分析をMicro MAXデジタルカメラシステム(Princeton Instruments, Inc)及びイメージング ソフトウェア(OpenLab, Improvision Inc. Waltham, MA)を用いて行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーマン−バークインヒビター又はその誘導体を含有する組成物を対象に投与することを含む、対象における骨格筋の萎縮を処置又は予防する方法。
【請求項2】
組成物を経口投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組成物を栄養補助食として投与する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
組成物がボーマン−バークインヒビター濃縮物を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ボーマン−バークインヒビター又はその誘導体を含有する組成物を対象に投与することを含む、対象における骨格筋の機能を改善する方法。
【請求項6】
組成物を経口投与する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
組成物を栄養補助食として投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
組成物がボーマン−バークインヒビター濃縮物を含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
改善された骨格筋機能が増強された筋力又は増大した筋量を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
ボーマン−バークインヒビター又はその誘導体を含有する組成物を対象に投与することを含む、対象における骨格筋縮退を処置又は防止する方法。
【請求項11】
組成物を経口投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
組成物を栄養補助食として投与する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
組成物がボーマン−バークインヒビター濃縮物を含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
ボーマン−バークインヒビター又はその誘導体を含有する組成物を対象に投与することを含む、骨格筋縮退疾患又は疾病に罹った対象における症状を緩和するか、疾病の進行を遅らせる方法。
【請求項15】
組成物を経口投与する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
組成物を栄養補助食として投与する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
組成物がボーマン−バークインヒビター濃縮物を含有する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
骨格筋縮退疾患又は疾病が、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症又は脊髄損傷である、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2007−501188(P2007−501188A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522106(P2006−522106)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/024718
【国際公開番号】WO2005/011596
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(306030219)ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティー オブ ペンシルヴァニア (2)
【Fターム(参考)】