説明

筐体の回動扉装置およびこれを用いた映像音響機器

【課題】 映像音響機器に使用される筐体の回動扉装置に関し、構造が簡単であり、かつ、回動扉の開き終わりの付近で速度が遅くなり、静かに停止することができる回動扉装置を提供する。
【解決手段】 回動扉を軸支する軸受および回動軸と、一方端が筐体に係止され、かつ、他方端が回動扉に係止される捻りバネと、捻りバネを軸支するバネ支持軸と、を含み、捻りバネが、バネ支持軸を巻回する捻動部と、捻動部と回動扉との間に形成される屈曲部と、屈曲部の他方端側に設けられて回動扉の係合溝部に係合する係合直線部と、を有し、回動扉が閉鎖する場合に、回動軸の中心点Oと、捻りバネの係合直線部と回動扉の係合溝部との係合点Pと、を結ぶ直線OPが、捻りバネの屈曲部を規定する屈曲点Qと係合点Pと、を結ぶ直線PQと略直交し、回動扉が開く場合に、直線OPと、直線PQとが、略平行になるように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像音響機器の操作部分に使用される筐体の回動扉装置に関し、特に、筐体と、回動扉と、を備え、回動扉を軸支する軸受および回動軸と、一方端が筐体に係止され、かつ、他方端が回動扉に係止される捻りバネと、捻りバネを軸支するバネ支持軸と、を含み、回動軸およびバネ支持軸が離間している筐体の回動扉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
映像音響機器の筐体の前面の操作パネルに設けられる開閉扉は、使用頻度の少ない操作ボタン等を格納するのに用いられ、操作パネルと同一の材料ならびに外観仕上げを有する金属のパネルから構成される。これらの開閉扉には、開閉機構が、スライド機構であるスライド扉や、回動機構である回動扉(または、回転機構である回転扉)等がある。回動扉装置では、扉の開閉にかかわらず接地する筐体と開閉扉の金属パネルとの導通を保って、上記集積回路の静電破壊等の問題発生を防止し、かつ、組立が容易で開閉扉の円滑な動きを阻害することのないようにするのが好ましい。回動扉が円滑な動きをするように、ダンパー機構を使用する場合、捻りバネを使用する場合、等がある。
【0003】
従来には、例えば、本願出願人による筐体と回動扉と回動機構とを備える電子機器筐体の開閉扉の接地機構がある。この回動機構は、筒状の凸軸である回動軸部と、回動軸部を回動自在に収容する軸受部と、回動軸部と一体的に樹脂成形されて筐体に取り付けられる回動軸保持部と、軸受部と一体的に樹脂成形されて回動扉に取り付けられる軸受保持部と、金属板を折曲した弾性を有する金属片からなり、その一端が回動扉の回動にかかわらず回動軸部の軸方向の端部に位置するように軸受保持部に固定される第1導通部材と、金属ネジからなり、回動軸を軸方向に貫通するようにねじ込まれてその先端が突出されるように回動軸部に固定される第2導通部材と、を備え、回動扉の開閉にかかわらず、第1導通部材の一端と第2導通部材の先端とが、第1導通部材の弾性力で押しつけられて接触による導通を保つことにより、筐体と回動扉の接地を行う(特許文献1)。
【0004】
また、従来には、回動扉の開閉速度を規制するのに、捻りバネを使用するものがある。例えば、ドア取付及びその動作に必要な部品を削減すると共に、ばねの弾性力に影響されることなく、簡単に組み立てられるドア構造を得るように、軸部を有する筐体、この筐体の軸部に回動可能に嵌合する軸受溝が形成されたドア、このドアに取付けられ上記軸受溝と対になって軸受を形成すると共に上記筐体の側壁に押圧力を与える爪部が形成された弾性部を有するパネル、一端が上記筐体に他端が上記ドアに係合して配置されたばねを備えたことを特徴とするドア装置がある(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特許第3952921号公報 (第1図〜第5図)
【特許文献2】特開平8−326400号公報 (第1図〜第4図)
【0006】
しかしながら、捻りバネを使用する筐体の回動扉装置においては、回動扉の開閉速度を規制するのに、十分でない場合がある。具体的には、回動扉が開いてその開き終わりの付近で捻りバネの規制が弱くなり、回動扉の開き角度に比例したトルクが発生せず、その結果、回動扉が開くに連れてその速度が早くなり、開き終わりの付近で速度が最大になってしまう、という問題がある。映像音響機器の筐体の回動扉装置では、回動扉の動作精度の高さをアピールするように、回動扉の開き終わりの付近で速度が遅くなり、最後がゆっくりになって、静かに停止するのが好ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、映像音響機器に使用される筐体の回動扉装置に関し、構造が簡単であり、かつ、回動扉の開き終わりの付近で速度が遅くなり、静かに停止することができる回動扉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の筐体の回動扉装置は、筐体と、回動扉と、を備える筐体の回動扉装置であって、回動扉を軸支する軸受および回動軸と、一方端が筐体に係止され、かつ、他方端が回動扉に係止される捻りバネと、捻りバネを軸支するバネ支持軸と、を含み、捻りバネが、バネ支持軸を巻回する捻動部と、捻動部と回動扉との間に形成される屈曲部と、屈曲部の他方端側に設けられて回動扉の係合溝部に係合する係合直線部と、を有し、回動扉が閉鎖する場合に、回動軸の中心点Oと、捻りバネの係合直線部と回動扉の係合溝部との係合点Pと、を結ぶ直線OPが、捻りバネの屈曲部を規定する屈曲点Qと係合点Pと、を結ぶ直線PQと略直交し、回動扉が開く場合に、直線OPと、直線PQとが、略平行になるように配置される。
【0009】
好ましくは、本発明の筐体の回動扉装置は、回動扉が回動してその回動角度αが所定値以上に大きくなる場合に、回動角度αにほぼ比例して捻りバネのトルクが大きくなり、かつ、さらに回動角度αが最大となるように回動扉が回動する場合に、直線OPと、直線PQとが、再び略直交する。
【0010】
好ましくは、本発明の筐体の回動扉装置は、離間している回動軸およびバネ支持軸を結ぶ直線として規定される直線Aに対して、回動扉が閉鎖する場合の係合点P1と、回動扉が最大に回動する場合の係合点P2と、が、直線Aの両側に位置するように設定され、かつ、回動扉が閉鎖する場合の屈曲点Q1と、回動扉が最大に回動する場合の屈曲点Q2と、が、直線Aの片側に位置にするように設定されている。
【0011】
好ましくは、本発明の筐体の回動扉装置は、回動扉に連結されるダンパー機構をさらに有する。
【0012】
また、本発明の映像音響機器は、いずれか上記の回動扉装置を含む。
【0013】
以下、本発明の作用について説明する。
【0014】
本発明の筐体の回動扉装置は、筐体と、回動扉と、を備え、回動扉を軸支する軸受および回動軸と、一方端が筐体に係止され、かつ、他方端が回動扉に係止される捻りバネと、捻りバネを軸支するバネ支持軸と、を含む。捻りバネは、バネ支持軸を巻回する捻動部と、捻動部と回動扉との間に形成される屈曲部と、屈曲部の他方端側に設けられて回動扉の係合溝部に係合する係合直線部と、を有する。一方端が筐体に係止される捻りバネは、回動扉が大きく開くに連れて、回動扉に係合する他方端側の係合直線部が、その捻動部を捻るように回転するので、捻る角度にほぼ比例して捻りバネのトルクを大きくすることができる。したがって、回動扉装置の捻りバネは、回動扉の速度を制御する。
【0015】
ここで、捻りバネは、捻動部と係合直線部との間に屈曲部を有している。屈曲部とは、捻りバネの捻動部と回動扉との間の直線状のバネ材を、屈曲点Qを挟む約60°〜120°(好ましくは、約70°〜110°)の角度に折り曲げた部分である。屈曲点Qは、回動扉の回動に連れて、バネ支持軸の中心を同心円とする円弧状の軌跡を示す。また、捻りバネは、回動する回動扉の係合溝部に係合する係合直線部を有しており、これらの係合点Pでは、捻りバネの係合直線部が回動扉の係合溝部に係合しつつも、回動角度αによっては相互に滑りながら、相互に作用する力を伝達する構造になっている。係合点Pは、回動扉の回動に連れて、回動軸の中心を同心円とするほぼ円弧状の軌跡を示す。
【0016】
本発明の筐体の回動扉装置では、回動扉が閉鎖する場合に、回動軸の中心点Oと、捻りバネの係合直線部と回動扉の係合溝部との係合点Pと、を結ぶ直線OPが、捻りバネの屈曲部を規定する屈曲点Qと係合点Pと、を結ぶ直線PQと略直交し、回動扉が開く場合に、直線OPと、直線PQとが、略平行になるように配置される。なお、略直交とは、直線OPおよび直線PQにより規定される係合角度θが、好ましくは約90°となる状態をいい、約70°〜110°の角度範囲となる場合を含む。また、略平行とは、直線OPおよび直線PQにより規定される係合角度θが、好ましくは約180°となる状態をいい、約160°〜200°の角度範囲となる場合を含み、点を結ぶ線O−P−Qが直線に近くなる状態をいう。
【0017】
したがって、本発明の筐体の回動扉装置では、回動扉が回動してその回動角度αが所定値以上に大きくなる場合に、回動角度αにほぼ比例して捻りバネのトルクが大きくなり、かつ、さらに回動角度αが最大となるように回動扉が回動する場合に、直線OPと、直線PQとが、再び略直交する。つまり、回動軸の中心点Oと、上記の係合点Pと、捻りバネの屈曲点Qと、により規定される係合角度θが、回動扉が閉鎖して回動角度αが小さい場合に比べて、回動扉が開いて回動角度αが大きくなる場合に、約90°から約180°付近の値になり、さらに270°に近づくように変化する。
【0018】
回動軸の中心点Oと、係合点Pと、屈曲点Qとが規定する係合角度θは、捻りバネと回動扉との間で作用する力のベクトルが作用する方向に密接に関係する。すなわち、回動扉が閉じて回動角度αが小さくなる場合には、直線OPおよび直線PQが略直交し、係合角度θが約90°に近い角度になるように配置される。一方、回動扉が開いて回動角度αが大きくなる場合には、直線OPおよび直線PQが略平行になり、係合角度θが約180°に近い角度になり、回動軸の中心点Oと、上記の係合点Pと、捻りバネの屈曲点Qと、が略直線状に配置される。そして、回動角度αが最大となるように回動扉が回動する場合には、直線OPおよび直線PQが再び略直交し、係合角度θが約270°に近い角度になるように配置される。
【0019】
つまり、本発明の筐体の回動扉装置では、捻りバネに屈曲点Qを適切に設けることによって、回動扉が開いて回動角度αが最大となる付近では、係合角度θが約180°〜約270°になり、捻りバネのトルクのベクトルの向きと回動扉の回転方向とが一致して、捻りバネのトルクを効率よく回動扉の回動を規制するように働かせることができる。その結果、捻りバネのトルクが減少することなく大きな値をとることができ、回動扉の開き終わりの付近で速度を遅くして、静かに停止する筐体の回動扉装置を実現することができ、回動扉の動作精度の高さをアピールすることができる。なお、本発明の筐体の回動扉装置は、回動扉に連結されるダンパー機構をさらに有することで、微妙な回動扉の回動速度を調整してもよい。
【0020】
より具体的には、本発明の筐体の回動扉装置では、回動軸およびバネ支持軸が別に設けられて離間しているので、これらを結ぶ直線として規定される直線Aに対して、回動扉が閉鎖する場合の係合点P1と、回動扉が最大に回動する場合の係合点P2と、が、直線Aの両側に位置するように設定され、かつ、回動扉が閉鎖する場合の屈曲点Q1と、回動扉が最大に回動する場合の屈曲点Q2と、が、直線Aの片側に位置にするように設定されている。つまり、回動軸およびバネ支持軸が離間している結果、回動扉の回動角度αと捻りバネのトルクとが比例しにくくなっているので、係合点Pの軌跡および屈曲点Qの軌跡を上記のように規制することで、回動扉の開き終わりの付近で速度を遅くするように改善することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の筐体の回動扉装置およびこれを用いた映像音響機器は、構造が簡単であり、かつ、回動扉の開き終わりの付近で速度が遅くなり、回動扉を静かに停止させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の筐体の回動扉装置およびこれを用いた映像音響機器は、構造が簡単であり、かつ、回動扉の開き終わりの付近で速度が遅くなり、回動扉を静かに停止させる回動扉装置を提供するという目的を、回動扉を軸支する回動軸と、一方端が筐体に係止され、かつ、他方端が回動扉に係止される捻りバネと、捻りバネを軸支するバネ支持軸と、を含み、捻りバネが、バネ支持軸を巻回する捻動部と、捻動部と回動扉との間に形成される屈曲部と、屈曲部の他方端側に設けられて回動扉の係合溝部に係合する係合直線部と、を有し、回動扉が閉鎖する場合に、回動軸の中心点Oと、捻りバネの係合直線部と回動扉の係合溝部との係合点Pと、を結ぶ直線OPが、捻りバネの屈曲部を規定する屈曲点Qと係合点Pと、を結ぶ直線PQと略直交し、回動扉が開く場合に、直線OPと、直線PQとが、略平行になるように配置されるようにすることにより、実現した。
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態による筐体の回動扉装置およびこれを用いた映像音響機器について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明の好ましい実施形態による筐体の回動扉装置1について説明する図であり、回動扉装置1を備える映像音響機器(全体は図示しない)を斜め前方から見た一部拡大図である。例えば、回動扉装置1は、筐体2を有するAVレシーバー等の映像音響機器において、機能を選択するスイッチ類を回動扉3の内側に格納するものであって、図示する矢印の方向にしたがって、回動扉3を閉鎖する「Close」の状態では、スイッチを前面に露出させずにデザイン性を高め、一方で、回動扉3を開放する「Open」の状態では、スイッチを前面に露出して操作性を向上させることができる。回動扉3は、「Close」の状態では図示しない係止機構によりロックされており、係止機構を解除すると「Open」の状態となり、回動扉3の自重によって大きく開くように回動する。
【0025】
図2から図4は、本実施例の回動扉装置1の動作を説明する断面図である。すなわち、図2は回動扉3を閉鎖する「Close」の状態を示し、図3は回動扉3が回動している中間位置での状態を示し、図4は回動扉3を開放する「Open」の状態を示す図であって、それぞれ、(a)については回動扉装置1の側方断面図であり、(b)については回動扉装置1の動作を模式的に説明する図である。なお、動作の説明に不要な映像音響機器の筐体2、ならびに、回動扉3の詳細な構成については、図示並びに説明を省略する。
【0026】
回動扉装置1は、回動扉3と、後述する捻りバネ10およびダンパー5と、重量のあるアルミ製の扉パネル30を含み、扉パネル30は、筐体2を構成する左右の軸支部材20(図示するのは正面から見て左側の軸支部材のみ。)によって、回動可能に軸支されている。軸支部材20は、回動扉3の回動軸31に係合する軸受21と、捻りバネ10の一端を係止する係止部22と、捻りバネ10の捻動部11を軸支するバネ支持軸23と、を一体にして樹脂で成形されている。つまり、回動扉3が回動する速度を制御する捻りバネ10は、回動扉3の回転軸の中心である軸受21とは異なる位置であって、上側に位置するバネ支持軸23に捻動部11を固定する。
【0027】
ここで、軸受21および回動軸31の回転中心を点Oとし、また、バネ支持軸23の中心点であって、捻りバネ10が回転トルクを発生する中心点を点Rとし、点Oおよび点Rを結ぶ直線を直線Aとすると、点O、点R、および、直線Aは、筐体2の垂直方向を示す垂線とほぼ一致する方向の直線であって、回動扉装置1において動かない基準となる位置を示す。一方、回動扉3の回動する先端位置を点Sとすると、例えば、回動扉3の回動角度αは、点R−O−Sを結ぶ直線から規定される角度とすることができる。図2から図4に図示するように、「Close」の状態であれば回動角度αは小さくて約0°に近くなり(図2の場合には、αは約5°。)、回動扉3が開くに連れて大きくなり(図3の場合には、αは約50°。)、「Open」の状態であれば回動角度αは約90°に近くなる(図4の場合には、αは約80°。)。
【0028】
回動扉3の扉パネル30の左右両端には、樹脂で成形された回動軸31が取り付けられる。回動軸31は、軸支部材20の軸受21に軸支されて、回動扉3の回動とともに回動する。そして、回動軸31と一体に成形された扇状のギア32と、捻りバネ10が係合する係合溝部33も、回動扉3とともに回動する。ギア32は、軸支部材20に取り付けられたダンパー5のギアに噛合し、回動扉3が回動する速度を制御する。また、係合溝部33は、捻りバネ10の一端側が嵌り込む凹状の溝を有しており、捻りバネ10が係合溝部33に係合しつつも、回動角度αによっては相互に滑りながら、相互に作用する力を伝達する構造になっている。捻りバネ10の係合直線部13と回動扉3の係合溝部33との係合点を点Pとする。係合点Pは、回動扉3の回動に連れて、回動軸31の中心点Oを同心円とするほぼ円弧状の軌跡を示す。
【0029】
捻りバネ10は、線径約0.9mmのバネ鋼材を加工したものであって、軸支部材20のバネ支持軸23を直径約7.5mmで巻回する捻動部11と、軸支部材20の係止部22に係止される一方の直線部12と、回動扉3の係合溝部33に係止される他方の係合直線部13と、捻動部11と係合直線部13との間に形成される屈曲部14と、を備えている。屈曲部14は、直線状のバネ材を約110°の角度に折り曲げた部分であって、その位置を屈曲点Qとする。屈曲点Qは、回動扉3が回動するのに連れて、バネ支持軸23の中心を示す点Rを同心円とする円弧状の軌跡を示す点である。
【0030】
捻りバネ10の係合点Pでは、捻りバネ10の係合直線部13が回動扉3の係合溝部33に係合しつつも、回動角度αによっては相互に滑りながら、相互に作用する力を伝達する。図示するように、係合角度θは、回動軸31の中心点Oと、係合直線部13および係合溝部33の係合点Pと、捻りバネ10の屈曲点Qと、により規定される角度であり、係合点Pを間に挟んで捻りバネ10と回動扉3との間で作用する力の発生を示すパラメータになる。本実施例の場合には、回動扉3が「Close」の状態であって回動角度αが小さい場合に、直線OPが直線PQと略直交し、係合角度θが約90°になり、回動扉3の回動角度αが大きくなる場合に、直線OPと直線PQとが略平行になって、係合角度θが約180°になり、点を結ぶ線O−P−Qが直線に近くなる。そして、回動扉3が「Open」の状態であってさらに回動角度αが大きくなる場合には、直線OPと直線OQとが再び略直交し、係合角度θが、さらに270°に近づくように変化する。
【0031】
図2に示すように、回動扉3を閉鎖する「Close」の状態では、回動扉3は閉鎖されているので、回動扉3の扉パネル30は、筐体2および軸支部材20に隠れている。そして、捻りバネ10の係合直線部13と回動扉3の係合溝部33との係合点P1は、点Oおよび点Rを結ぶ直線Aに対して左側に図示する位置であって、回動扉装置1の背面側に位置している。一方で、捻りバネ10の屈曲点Q1は、直線Aに対して右側に図示する位置であって、回動扉装置1の前面側に位置している。したがって、回動角度αが小さく、回動扉3が「Close」の状態の場合には、直線OP1が直線P1Q1と略直交し、係合角度θが約90°に近く、約105°になる。
【0032】
次に、図3に示すように、回動扉3を開放する「Open」の状態に至るまでに、回動扉3がその回動角度αが約50°となるように回動して開くと、捻りバネ10の係合直線部13と回動扉3の係合溝部33との係合点Pは、回動につれて軌跡を描き、点Oおよび点Rを結ぶ直線Aに対して左側に図示する位置から右側に移動し、回動扉装置1の背面側から前面側に移動する。一方で、捻りバネ10の屈曲点Qは、直線Aに対して右側に図示する位置で軌跡を描き、回動扉装置1の前面側に位置している。そして、回動扉3が開くと、直線OPと、直線PQとが、略平行になり、係合角度θが約180°に近く、約190°になる。また、後述するように、回動角度αが約30°以上に大きくなる場合には、回動角度αにほぼ比例して捻りバネ10のトルクは、大きくなる。
【0033】
最後に、図4に示すように、回動扉3を最大に開放する「Open」の状態では、回動扉3は最大に回動し、その回動角度αは約80°となる。そして、捻りバネ10の係合直線部13と回動扉3の係合溝部33との係合点P2は、点Oおよび点Rを結ぶ直線Aに対して右側に図示する位置であって、回動扉装置1の前面側に位置している。一方で、捻りバネ10の屈曲点Q2は、直線Aに対して右側に図示する位置であって、回動扉装置1の前面側に位置している。したがって、回動角度αが最大になり、回動扉3が「Open」の状態の場合には、係合角度θが約230°になり、実質的に再び直線OP2が直線P2Q2と略直交する状態になる。図3および図4を対比すると分かるように、本実施例の回動扉3を最大に開くように回動して、その回動角度αを約50°から約80°にすると、捻りバネ10に屈曲点Qを適切に設けることによって、この範囲では、捻りバネ10のトルクのベクトルの向きと、回動扉3の回転方向とが一致して、捻りバネ10のトルクを効率よく回動扉3の回動を規制するように働かせることができる。
【0034】
図5から図7は、本実施例における屈曲点Qを有する捻りバネ10を、屈曲点を有しない捻りバネ40に変更した比較例の回動扉装置4の動作を説明する断面図である。すなわち、図5は回動扉3を閉鎖する「Close」の状態を示し、図6は回動扉3が回動している中間位置での状態を示し、図7は回動扉3を開放する「Open」の状態を示す図であって、それぞれ、(a)については回動扉装置1の側方断面図であり、(b)については回動扉装置4の動作を模式的に説明する図である。なお、本実施例と共通な部分については同じ符号を付して、図示並びに説明を省略する。
【0035】
比較例の捻りバネ40は、本実施例の捻りバネ10と同じ鋼材を加工したものであって、軸支部材20のバネ支持軸23を直径約7.5mmで巻回する捻動部41と、軸支部材20の係止部22に係止される一方の直線部42と、回動扉3の係合溝部33に係止される他方の係合直線部43と、を備えており、捻動部41と係合直線部43との間に屈曲部を有しない。以下の説明では、本実施例の捻りバネ10の係合直線部13が回動扉3の係合溝部33に係合する係合点Pに対応させて、捻りバネ40の係合直線部43が回動扉3の係合溝部33に係合するところを、係合点Tとして図示する。また、本実施例の捻りバネ10の屈曲部14の位置を規定する屈曲点Qに対比させて、係合直線部43が伸びる方向を示す位置を点Uとして図示する。
【0036】
図5に示すように、比較例での回動扉3を閉鎖する「Close」の状態では、捻りバネ40の係合直線部43と回動扉3の係合溝部33との係合点T1は、点Oおよび点Rを結ぶ直線Aに対して左側に図示する位置であって、回動扉装置1の背面側に位置している。一方で、捻りバネ40の係合直線部43の方向を示す点U1も、直線Aに対して左側に図示する位置であって、回動扉装置1の背面側に位置している。したがって、回動角度αが小さく、回動扉3が「Close」の状態の場合には、直線OT1と直線T1U1とが係合する係合角度δが、約145°になる。
【0037】
次に、図6に示すように、比較例の回動扉3が、その回動角度αが約50°となるように回動して開くと、捻りバネ40の係合直線部43と回動扉3の係合溝部33との係合点Tは、回動につれて軌跡を描き、点Oおよび点Rを結ぶ直線Aに対して左側に図示する位置から右側に移動し、回動扉装置4の背面側から前面側に移動する。一方で、捻りバネ40の係合直線部43の方向を示す点Uは、直線Aに対して左側に図示する位置から右側へ移動する軌跡を描き、回動扉装置4の前面側に位置している。そして、回動扉3が開くと、直線OTと、直線TUとが、略直角になり、係合角度δが約250°に近くなる。また、後述するように、回動角度αが約50°以上に大きくなる場合には、捻りバネ40のトルクは、回動角度αに比例しなくなる。
【0038】
そして、図7に示すように、比較例の回動扉3を開放する「Open」の状態では、回動扉3は最大に回動し、その回動角度αは約80°となる場合には、捻りバネ40の係合直線部43と回動扉3の係合溝部33との係合点T2は、点Oおよび点Rを結ぶ直線Aに対して右側に図示する位置であって、回動扉装置4の前面側に位置している。一方で、捻りバネ40の係合直線部43の方向を示す点U2は、直線Aに対して右側に図示する位置であって、回動扉装置1の前面側に位置している。したがって、回動角度αが最大になり、回動扉3が「Open」の状態の場合には、係合角度δが約270°になり、実質的に再び直線OT2が直線T2U2と略直交する状態になる。図6および図7を対比すると分かるように、比較例の回動扉3を最大に開くように回動して、その回動角度αを約50°から約80°にすると、捻りバネ40が屈曲点を有していないので、この範囲では、係合角度δの変化が小さくなり、その結果、捻りバネ40のトルクが、効率よく回動扉3の回動を規制するように伝達されない。
【0039】
図8は、本実施例の回動扉装置1と、比較例の回動装置4と、において、回動扉3の回動角度αに対する捻りバネ10ないし40が、係合点PないしTに発生させるトルクを表すグラフである。本実施例の場合には、回動角度αが約30°以上に大きくなる場合には、回動角度αにほぼ比例して屈曲点Qを有する捻りバネ10が、係合点Pへ伝達するトルクは大きくなる。一方で、比較例の場合には、回動角度αが約50°以上に大きくなると、屈曲点Qを有しない捻りバネ40では、係合点Tへ伝達するトルクは、回動角度αに比例しなくなる。
【0040】
すなわち、回動角度αが約50°から約80°の範囲では、回動扉3はその自重によって速度を増して回動しようとするところであるが、本実施例の回動扉装置1では、屈曲点Qを有する捻りバネ10の回動角度αに比例した大きなトルクを回動扉3に伝達できるので、回動扉3の開き終わりの付近で速度を遅くすることができる。また、本実施例の回動扉装置1では、回動扉3に連結されるダンパー5を有しているので、これを調整することで回動扉3の開き終わりの付近での速度の微調節が可能であり、映像音響機器の回動扉3が静かに停止して、動作精度の高さをアピールすることができる。一方で、比較例の回動扉装置4では、回動角度αが約50°から約80°の範囲で、屈曲点Qを有しない捻りバネ40の回動角度αにトルクが比例せずに増加率が減少してしまうので、回動扉3の開き終わりの付近で速度を、ダンパー5を有していても十分に遅くすることができない。
【0041】
本実施例および比較例の回動扉装置では、回動扉3の回動の中心となる軸受21ないし回動軸31と、捻りバネのトルクを蓄える捻動部が巻き付けられるバネ支持軸23と、が別に設けられて離間しているので、本実施例の回動扉装置1では、捻りバネ10に屈曲点Q1で規定される屈曲部14を設けて、さらに、捻りバネ10の係合直線部13と回動扉3の係合溝部33との係合点Pの位置を規定することで、上記の効果を得ている。つまり、回動軸31およびバネ支持軸23が離間している結果、比較例では回動扉3の回動角度αと捻りバネ4のトルクとが比例しにくくなっているので、本実施例の回動扉装置1では、捻りバネ10に屈曲部14を設けて、軸受21ないし回動軸31の中心点Oと、バネ支持軸23の中心点Rとで規定される直線Aに対して、回動扉3が閉鎖する場合の係合点P1と、回動扉が最大に回動する場合の係合点P2と、が、直線Aの両側に位置するように設定され、かつ、回動扉3が閉鎖する場合の屈曲点Q1と、回動扉3が最大に回動する場合の屈曲点Q2と、が、直線Aの片側に位置にするように設定する。
【0042】
その結果、本実施例では上記のように、回動扉3が「Open」となる開き終わりの付近で速度を遅くするように改善することができ、静かに停止する回動扉装置1が実現する。回動扉装置1を備える映像音響機器は、その動作精度の高さをアピールすることができる。なお、本実施例では、ダンパー5を用いる場合を説明するが、ダンパー5を備えていない場合であっても、捻りバネ10の屈曲部14の曲げ方を検討して、回動扉3を静かに停止するようにすることができる。
【0043】
なお、本発明は上記実施例に限定されない。回動扉装置1は、AVレシーバー等の映像音響機器の回動扉装置に限られない。上記の回動扉装置1では、捻りバネ10に屈曲点Qで規定される約110°の屈曲部14を設けているが、屈曲点Qの角度は、約90°付近の角度であればよい。すなわち、屈曲点Qの角度は、中心点Oおよび中心点Rで規定される直線Aに対して、回動扉3が閉鎖する場合の係合点P1と、回動扉が最大に回動する場合の係合点P2と、が、直線Aの両側に位置するように設定され、かつ、回動扉3が閉鎖する場合の屈曲点Q1と、回動扉3が最大に回動する場合の屈曲点Q2と、が、直線Aの片側に位置にするように設定され得ればよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の回動扉装置は、映像音響機器のみならず、使用者が押圧操作する操作デバイスを備える電気電子装置にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の好ましい実施形態による回動扉装置1について説明する斜視図である。(実施例1)
【図2】本発明の好ましい実施形態による回動扉装置1の動作を説明する断面図である。(実施例1)
【図3】本発明の好ましい実施形態による回動扉装置1の動作を説明する断面図である。(実施例1)
【図4】本発明の好ましい実施形態による回動扉装置1の動作を説明する断面図である。(実施例1)
【図5】比較例の回動扉装置4の動作を説明する断面図である。(比較例1)
【図6】比較例の回動扉装置4の動作を説明する断面図である。(比較例1)
【図7】比較例の回動扉装置4の動作を説明する断面図である。(比較例1)
【図8】回動扉3の回動角度αに対する捻りバネが係合点に発生させるトルクを表すグラフである。(実施例1、比較例1)
【符号の説明】
【0046】
1、4 回動扉装置
2 筐体
3 回動扉
5 ダンパー
10、40 捻りバネ
11、41 捻動部
12、42 直線部
13、43 係合直線部
14 屈曲部
20 軸支部材
21 軸受
22 係止部
23 バネ支持軸
30 扉パネル30
31 回動軸
32 ギア
33 係合溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、回動扉と、を備える筐体の回動扉装置であって、
該回動扉を軸支する軸受および回動軸と、一方端が該筐体に係止され、かつ、他方端が該回動扉に係止される捻りバネと、該捻りバネを軸支するバネ支持軸と、を含み、
該捻りバネが、該バネ支持軸を巻回する捻動部と、該捻動部と該回動扉との間に形成される屈曲部と、該屈曲部の該他方端側に設けられて該回動扉の係合溝部に係合する係合直線部と、を有し、
該回動扉が閉鎖する場合に、該回動軸の中心点Oと、該捻りバネの該係合直線部と該回動扉の該係合溝部との係合点Pと、を結ぶ直線OPが、該捻りバネの該屈曲部を規定する屈曲点Qと、該係合点Pと、を結ぶ直線PQと略直交し、
該回動扉が開く場合に、該直線OPと、該直線PQとが、略平行になるように配置される、
筐体の回動扉装置。
【請求項2】
前記回動扉が回動してその回動角度αが所定値以上に大きくなる場合に、該回動角度αにほぼ比例して前記捻りバネのトルクが大きくなり、かつ、さらに該回動角度αが最大となるように該回動扉が回動する場合に、前記直線OPと、前記直線PQとが、再び略直交する、
請求項1に筐体の回動扉装置。
【請求項3】
離間している前記回動軸および前記バネ支持軸を結ぶ直線として規定される直線Aに対して、
前記回動扉が閉鎖する場合の前記係合点P1と、前記回動扉が最大に回動する場合の前記係合点P2と、が、該直線Aの両側に位置するように設定され、かつ、
前記回動扉が閉鎖する場合の前記屈曲点Q1と、前記回動扉が最大に回動する場合の前記屈曲点Q2と、が、該直線Aの片側に位置にするように設定されている、
請求項1または2に記載の筐体の回動扉装置。
【請求項4】
前記回動扉に連結されるダンパー機構をさらに有する、
請求項1から3のいずれかに筐体の回動扉装置。
【請求項5】
請求項1から4に記載の筐体の回動扉装置を含む、映像音響機器。



【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−27991(P2010−27991A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190366(P2008−190366)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】