説明

筒状材およびその製造方法

【課題】特別に高度、複雑かつ高コストの処理方法を用いることなく、より簡易かつ低コストにて木材に筒状加工を施すことができ、プラスチック材料にも代替可能な、筒状材を提供する。
【解決手段】筒状材10は、木材板が曲げられて筒状に形成されたものであって、木材板の木目の方向が、筒状材10の軸方向と同じであり、製造過程において木目横断方向に構造保持用のマスキングテープ5が貼着されて、最終的に形成されるものである。マスキングテープ5の具体的な仕様や貼着方法は、特に限定されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筒状材およびその製造方法に係り、特に木材の新しい用途を提供することのできる、木製の筒状材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用空気清浄機内部の風洞部など家庭電化製品(家電)等における筒状部分には、プラスチック材料が多用されている。つまりプラスチック材料によれば、最終形態を直接成形することが可能であり、製造コストの点で有利であるだけではなく、強度や耐久性、軽量性など種々の特性にも優れており、これらの利点を備えた家電その他の製品を提供できるからである。
【0003】
しかし一方でプラスチック材料は、石油等将来的に枯渇が懸念される化石燃料を原料とするものであり、燃焼によって環境に対しても人身に対しても有毒なガスを発生し得るものであり、また生分解性が低く廃棄物処理が困難なため、環境を汚染している。つまり、耐久性がむしろ環境に対する負荷ともなっている。
【0004】
他方、地球温暖化防止のためには森林の健全な育成・維持も重要であり、林業および木材加工業の再生・振興は、かかる森林の健全育成・維持における必須の構成要素である。つまり、持続可能な社会の形成と生態系・環境保護の観点からも、木材の利用・用途拡大は現在、重要な技術課題であるといえる。
【0005】
かかる状況下、従来であればプラスチック材料により製造されていた成形品や部材などを、木材により代替しようとする技術的取り組みもなされている。化学処理等による木材加工方法も提案されてはいるが、環境負荷をより低減する技術としては、たとえば後掲非特許文献に開示されている技術は、高圧水蒸気による木材の圧縮成形法という、高度な処理によって軟化させ、筒状に加工するというものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】MATERIAL STAGE Vol.9,No.9 2009、棚橋光彦「〜曲がる木材?〜 ゴム弾性をもつ木材の開発と木材の3次元深絞り加工」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし木材の加工は一般的に、加工困難な部位も少なくなく、また手作りの要素が強いため,コスト高になる問題がある。また、高圧水蒸気による木材の圧縮成形法による軟化処理や化学処理などの従来技術は、高度、複雑かつ高コストの処理を要するものである。より簡易かつ低コストの方法によって、木材を筒状に加工することのできる技術が求められている。
【0008】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、特別に高度、複雑かつ高コストの処理方法を用いることなく、より簡易かつ低コストにて木材に筒状加工を施すことができ、プラスチック材料にも代替可能な、筒状材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は上記課題について鋭意取り組みを行った結果、単板の方向性を考慮すること、および構造保持用のマスキングテープを用いるという簡易な方法の組み合わせによって課題解決が可能であることに想到し、本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0010】
〔1〕 木材板が曲げられて筒状に形成された筒状材であって、該木材板の木目方向が該筒状材の軸方向と同じであり、製造過程において木目横断方向に構造保持用のマスキングテープが貼着される、筒状材。
〔2〕 前記マスキングテープは少なくとも両木口部に貼着されることを特徴とする、〔1〕に記載の筒状材。
〔3〕 木材板を曲げて筒状材を得る筒状材製造方法であって、木目横断方向に構造保持用のマスキングテープを貼着し、ついで該木材板を木目横断方向に曲げて筒状を形成する処理を施し、筒状が形成された後該マスキングテープを除去する、筒状材製造方法。
〔4〕 前記マスキングテープは少なくとも両木口部に貼着することを特徴とする、〔3〕に記載の筒状材製造方法。
つまり本発明は、単板の方向性とマスキングテープ等簡易な加工方法の組み合わせによって構成される木製の筒状材、およびその製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の筒状材およびその製造方法は上述のように構成されるため、これによれば、高圧水蒸気による木材の圧縮成形法や化学処理等の、特別に高度、複雑かつ高コストの処理方法を用いることなく、極めて簡易かつ低コストにて木材に筒状加工を施すことができる。本発明は、たとえば家電の風洞部等の筒状材として、環境負荷の高いプラスチック材料にも代替することができるため、環境に配慮した製品を開発可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】本発明筒状材およびその製造方法を示す説明図である。
【図1B】本発明筒状材およびその製造方法を示す説明図である。
【図2】木材板(単板)の木目方向等による特性の相違を表にまとめた説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1A、図1Bは、順に本発明筒状材およびその製造方法を示す説明図である。これらに図示するように、本筒状材10は、木材板(単板)2が曲げられて筒状に形成されたものであって、木材板2の木目3の方向が、筒状材10の軸方向と同じであり、製造過程において木目3横断方向に構造保持用のマスキングテープ5が貼着されて、最終的に形成されるものであることを、主たる構成とする。
【0014】
マスキングテープは一般的に、塗装における養生目的で用いられるテープとして知られているが、要するに粘着力の小さいテープであり、貼った後も容易に剥がせて、しかも剥がした跡の接着剤の残りが実質的に問題とならない程少ないものをいう。塗装においては養生、プリント基板製造・取扱いにおいてはメッキやエッチング、資材の識別・保護など、用途も多い。
【0015】
本発明においてマスキングテープ5が果たす機能は、木材板2を筒状に形成する際に、木口部の割けを防止すること、つまり構造保持である。かかる機能を十分に実現できる限り、マスキングテープの種類、粘着力、その他の具体的な特性や仕様は、全く限定されず、いかなるものでも、本発明に用いることができる。かかる機能を十分に実現するために、マスキングテープ5は、木材板の木目3を横断する方向に、より望ましくは図示するように、略直交する方向に貼着すればよい。
【0016】
なお本発明において、「略直交」とは、厳密に90°の角度による直交ではなくても、実際のマスキングテープ5の貼着において、直交と同等に把握できる範囲をいう。
【0017】
かかる構造保持、つまり木口部の割け防止のために、マスキングテープ5は少なくとも木材板2中の2ヶ所、すなわち両木口部には最低貼着されることが望ましい。これにより、マスキングテープ5によって両方の木口部が保護されて、割けを有効に防止することができるからである。なお、図示するように両木口部におけるマスキングテープ5は、木口部の最端部すなわち木口に接して貼着してもよいが、木口部の割けを有効に防止できる限りは、最端部よりも内側寄りに貼着することとしてもよい。
【0018】
もちろんこの2ヶ所の他に、図に例示するように一または複数のマスキングテープ5を貼着してもよい。貼着数を多くすることで木材板2の構造を随所で堅固なものとし、木材板2を筒状に形成する際の両木口部における歪みの発生、変形および破断(割け)の発生を、より低減・防止できるからである。
【0019】
筒状材10を構成するための木材板2の樹種は、木目のあるものである限り一切限定されず、あらゆるものを用いることができる。たとえば、スギ、アカマツ、クロマツ、ヒバ、カラマツ、エゾマツ、サワラ、イチイ、コウヤマキ、イヌマキ、ヒノキ、ツガ、ヒメコマツ、モミ、トドマツ、ネズコ、カヤ、イチョウ、トガサワラ等の国産針葉樹、ブナ、ミズナラ、ケヤキ、サクラ、カツラ、クスノキ、トチノキ、クリ、キリ、ハンノキ、シラカバ等の国産広葉樹、ベイツガ、ベイマツ、チークその他の外国産樹種を、特に限定されずに使用することができる。
【0020】
また、木材板2を筒状に形成して形態を固定する際の結合方法、使用接着剤、接着方法など、具体的な製造条件は本発明においては特に限定されず、本発明の要件に合致する限り、従来公知のいかなる方法であっても用いることができる。
【0021】
図2は、木材板(単板)の木目方向等による特性の相違を表にまとめた説明図である。図において、上段に示すものは、単板を木目方向に曲げて筒状とする方法である。この場合、木口部は割けにくいが、筒状をきれいに形成する曲げ加工は容易なことではない。また中段に示すものは、単板を木目方向と横断する方向、あるいは略直交する方向に曲げて筒状とする方法である。この場合、筒状をきれいに形成する曲げ加工は容易だが、木口部が割けやすくなることは防止できない。
【0022】
一方、下段に示すものは本発明である。木目方向は中段に示したものと同じだが、さらにマスキングテープを両木口部等に貼着したものである。かかる方法により、筒状をきれいに形成する曲げ加工が容易であり、かつ木口部の割けを防止することができ、品質の高い木製の筒状材を形成することができる。
【0023】
図1Aおよび1Bに示したように、本発明の筒状材10は、木材板2の木目3横断方向に構造保持用(木口部の割け防止用)のマスキングテープ5を適宜貼着し、ついで木材板2を木目3横断方向に曲げて筒状を形成する処理を施し、筒状が形成された後にマスキングテープ5を除去する、という製造方法により得ることができる。
【0024】
用いるマスキングテープ5の具体的仕様・特性が特に限定されないことは、上述のとおりだが、マスキングテープ5を貼着しておく時間や、処理時の温度その他の諸条件も適宜に設定して、構造保持効果をより高めることができる。なお、両木口部の割け防止の目的上、マスキングテープ5は少なくとも両木口部に貼着することが望ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明がこれに限定されるものではない。
実施例 空気清浄機の風洞部
ブナ材を用い、木目方向が幅方向となるように作製した厚さ1.6mm、幅70mmの帯状材を準備した。帯状材の長手方向に、塗装用マスキングテープを巻き、貼着した。貼着した箇所は、上端両縁部と、中央部の2箇所である。テープ貼着済みの帯状材を、設計通りに湾曲させて、排気用として開いた部分のある略筒状に整えた。
【0026】
そして、帯状材上縁部に、上底面すなわち「フタ」部材を乗せ、これを接着剤および釘にて帯状材に対し固定した。そのまま24時間置いた後、マスキングテープを剥がして、空気清浄機の風洞部を完成した。以上の工程は全て円滑に行うことができ、製造された空気清浄機の風洞部は、マスキングテープ貼着の跡も残らず、また略筒形の形状が堅固に固定され安定したものだった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の筒状材およびその製造方法によれば、従来の高度、複雑かつ高コストの処理方法を用いることなく、極めて簡易かつ低コストにて木材に筒状加工を施すことができ、環境負荷の高いプラスチック材料にも代替することができる。さらに本発明は、間伐材などの未利用資源の有効活用にもつながり、木材の新しい用途開拓にもつながり、ひいては林業および木材加工業の振興にも貢献できる。したがって、林業、木材加工業を始め、それらの関連産業分野においても、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0028】
2…木材板(単板)
3…木目
5…マスキングテープ
10…筒状材
























【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材板が曲げられて筒状に形成された筒状材であって、該木材板の木目方向が該筒状材の軸方向と同じであり、製造過程において木目横断方向に構造保持用のマスキングテープが貼着される、筒状材。
【請求項2】
前記マスキングテープは少なくとも両木口部に貼着されることを特徴とする、請求項1に記載の筒状材。
【請求項3】
木材板を曲げて筒状材を得る筒状材製造方法であって、木目横断方向に構造保持用のマスキングテープを貼着し、ついで該木材板を木目横断方向に曲げて筒状を形成する処理を施し、筒状が形成された後該マスキングテープを除去する、筒状材製造方法。
【請求項4】
前記マスキングテープは少なくとも両木口部に貼着することを特徴とする、請求項3に記載の筒状材製造方法。






【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−206271(P2012−206271A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71754(P2011−71754)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】