説明

筒状構造物の施工方法

【課題】過酷な放射線状況下であっても、作業員の安全性を確保しつつ、復旧作業を効率よく行うことができる筒状構造物の施工方法を提供すること。
【解決手段】内部が通路とされた筒状構造物の周壁を、外部の放射線量に応じて、前記周壁の厚さ方向に沿う通路内部側に向かって厚くしていくことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽性を有する筒状構造物の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の原子力施設においては、大規模な地震や津波などの自然災害やテロ攻撃によって多大な損傷を受けることにより、外部に放射線を放出する事故が起こる可能性がある。原子力施設でこのような事故が発生した場合、過酷な放射線状況下(例えば原子炉にあってはメルトダウン状態、核物質施設にあっては臨界状態など)において、作業員が迅速に復旧作業を行う必要がある。
一方、このような過酷な放射線状況下で作業員が作業可能な時間は限られており、また目的地点(例えばメルトダウンした原子炉など)への往復移動の時間等も考慮すると、安全性を確保しつつ、作業時間を十分に確保することは難しい。
【0003】
そこで、例えば下記特許文献1に示されるような、放射線遮蔽性を有する壁部(中性子遮蔽材からなるもの)に囲まれて室が形成されたシェルターを用いることが考えられる。すなわち、原子力施設内やその近傍にシェルターを設けておき、事故が発生した場合に、このシェルターと目的地点との間を作業員が往復移動することによって、作業時間を確保する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3123960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のシェルターでは、該シェルターを介して復旧作業に必要な資材を運搬することは困難であり、また過酷な放射線状況下にある目的地点のみならず、該目的地点とシェルターとの間の移動時に作業員が被爆する可能性なども考えられ、作業性や安全性において改善の余地があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、過酷な放射線状況下であっても、作業員の安全性を確保しつつ、復旧作業を効率よく行うことができる筒状構造物の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明の筒状構造物の施工方法は、内部が通路とされた筒状構造物の周壁を、外部の放射線量に応じて、前記周壁の厚さ方向に沿う通路内部側に向かって厚くしていくことを特徴とする。
【0008】
この筒状構造物を用いて放射線状況下で作業を行うには、目的地点(例えば、高い放射線量を放出しているメルトダウンした原子炉等)に向けて該筒状構造物を延設するとともに、復旧作業に必要な資材の運搬や作業員の通行が可能な通路を形成する。ここで、目的地点が過酷な放射線状況下にある場合、筒状構造物が該目的地点に接近するに従って、外部の放射線量が高まっていくことが考えられる。
【0009】
本発明の筒状構造物の施工方法によれば、該筒状構造物の周壁を、外部の放射線量に応じて、前記周壁の厚さ方向に沿う通路内部側に向かって厚くしていくようにしたので、下記の効果を奏する。
すなわち、作業員が、設置された筒状構造物の通路内部から放射線状況下にある外部へ出ることなく、該筒状構造物の周壁を厚くして、この周壁の放射線遮蔽性を向上させることができる。また、外部の放射線量に応じて周壁の厚さを確保した後は、通路内部の安全性が安定して確保される。従って、作業員の被爆が防止される。
尚、本明細書で言う防止とは、抑制を含む概念であり、以下同様である。
【0010】
このように、筒状構造物の設置されるそれぞれの箇所において、外部の放射線量に応じて、放射線を遮蔽可能な厚さに周壁を形成することにより、構造を必要以上に複雑にすることなく、通路内の作業員の安全性を確保して、該筒状構造物を例えば過酷な放射線状況下にある目的地点にまで設置でき、復旧作業を効率よく迅速に行うことができる。
【0011】
また、本発明の筒状構造物の施工方法において、前記周壁は、コンクリート層、金属層及び高分子材料層のいずれかからなる基準層を備え、外部の放射線量に応じて、前記基準層に対して、コンクリート層、水を含む層、金属層、黒鉛層及び高分子材料層の少なくとも1つ以上の層を、前記厚さ方向に沿う通路内部側に向かって積層させていくこととしてもよい。
【0012】
この場合、筒状構造物が設置される箇所の放射線の種類や放射線量に応じて、周壁における基準層と、該基準層の通路内部側に積層させる層とを適宜組み合わせることにより、通路内部の安全性を十分に確保できる。
【0013】
具体的に、筒状構造物が設置される箇所のうち、例えば、過酷な放射線状況下にある目的地点付近においては、筒状構造物の周壁の基準層として、放射線のうちアルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線及び中性子線などのほぼすべてを遮蔽可能なコンクリート層を用いることができる。そして、この基準層の通路内部側に、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線及び中性子線などのほぼすべての放射線を遮蔽可能な水を含む層(好ましくは、例えば軽水、重水又はホウ素水を含む層)等を積層させていくことによって、通路内の作業員の被爆を防止でき、安全性を確保できる。尚、基準層に対して前記水を含む層を積層させる場合は、該基準層は、コンクリート層以外の金属層等であってもよい。
【0014】
一方、目的地点から遠く、放射線量が比較的低い箇所においては、筒状構造物の周壁の基準層として、例えば、放射線のうち少なくともアルファ線、ベータ線、ガンマ線及びX線のいずれかを遮蔽可能な金属層(例えば、鉛、鋼、アルミニウムからなる層)、高分子材料層(例えば、プラスチック、合成樹脂からなる層)を用いることができる。そして、外部の放射線量に応じて、この基準層の通路内部側に、前述した各材料のうち、例えばコンクリート層及び水を含む層以外の材料からなる層(放射線遮蔽性が過剰になり過ぎない層)を適宜積層させる。これにより、筒状構造物の構造を複雑にすることなく、通路内の作業員の被爆を防止でき、安全性を確保できる。
【0015】
また、本発明の筒状構造物の施工方法において、筒状構造物は地中に設置され、前記周壁の外部の地中に水分を保持させることとしてもよい。
【0016】
地中に筒状構造物を延設するには、例えば、推進・牽引工法や開削トンネル工法などのトンネル施工方法を用いることができる。また、本明細書で言う地中とは、地下のみならず、例えば周壁の外面の一部(天壁部の上面部分など)が地上に露出された半地下をも含む概念であり、以下同様である。
【0017】
本発明の筒状構造物は、地中に設置されているから、地上から該筒状構造物に向けて放射された放射線が、地中の水分などにより遮蔽、低減されて、通路内への放射線の到達を防止する効果がより顕著に得られるようになっている。また、地中に設置するため、土壌の重量などに対する強度を確保する目的で周壁の厚さが予め十分に確保されているから、該周壁の放射線遮蔽性が十分に確保されており、よって周壁の通路内部側に向けて該周壁の厚さを増す量を低減できる。
【0018】
具体的に、筒状構造物の周壁が地表に露出することなく地下に埋設された場合には、前述の効果が確実に得られやすくなる。また、例えば周壁のうち天壁部のみが地表に露出するように半地下に設置されるとともに、該天壁部に開閉可能な出入口・搬出入口を有する構成とされた場合には、通路内への放射線の到達を防止しつつも、作業員の出入りや資材及び機器の搬出入が効率よく行える。
また、原子力施設の地下水の放射能汚染を防止する目的で、この筒状構造物の通路内に地下水の流路を形成することとしてもよい。
【0019】
そして、本発明の筒状構造物の施工方法では、周壁の外部の地中に水分を保持させるようにしたので、下記の効果を奏する。
尚、周壁の外部の地中に水分を保持させるには、例えば、筒状構造物に水分保持手段を設けることが考えられる。
【0020】
具体的に、前記水分保持手段として、例えば通路の内部から周壁の外部へ向けて液体を放出する液体放出管を用いることができる。そして、この液体放出管により、周壁の外部へ向けて、例えば液体窒素を放出して地中の水分を凍結させたり、水ガラスを放出して地中に水分を保持させることにより、該周壁まわりの地中における放射線遮蔽性を高めることができる。これにより、筒状構造物の周壁の放射線遮蔽性のみならず、該周壁の外部の地中における放射線遮蔽性をも安定して確保でき、通路内の安全性がより向上する。
またこの場合、周壁外部における地中の流体の流動が規制されるので、例えば汚染された地下水が筒状構造物の周壁に到達するようなことが防止される。
尚、水分保持手段として、前記液体放出管を用いる代わりに、例えば周壁の壁内に流路を形成するとともに、その一部を周壁外部に向けて開口したり、周壁の外面に管材を沿わせるように設けるとともに、通路の延在方向に間隔をあけて複数開口したりしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の筒状構造物の施工方法によれば、過酷な放射線状況下であっても、作業員の安全性を確保しつつ、復旧作業を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る筒状構造物の設置箇所と、この筒状構造物が設置される原子力施設の一例を示す上面図である。
【図2】本実施形態に係る筒状構造物を構成する筒状体の一例を示す正断面図である。
【図3】本実施形態に係る筒状構造物を構成する筒状体の一例を示す正断面図である。
【図4】本実施形態に係る筒状構造物を構成する筒状体の一例を示す側断面図である。
【図5】図4の(a)A−A断面図、(b)B−B断面図、及び(c)C部を拡大して示す図である。
【図6】本実施形態に係る筒状構造物の筒状体、及び、筒状体同士の連結手順を説明する側断面図である。
【図7】図6のD部を拡大して示す図である。
【図8】本実施形態に係る筒状構造物の一例を示す正断面図である。
【図9】本実施形態に係る筒状構造物の一例を示す正断面図である。
【図10】本実施形態に係る筒状構造物の一例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る筒状構造物1について、図面を参照して説明する。
図1に示されるように、本実施形態の筒状構造物1は、大規模な地震や津波などの自然災害やテロ攻撃によって多大な損傷を受けたことにより、外部に放射線を放出する事故が起きた原子力発電所等の原子力施設Nに設置されて、復旧作業に使用されるものである。
【0024】
具体的に、この筒状構造物1は、放射線防護上安全な作業通路、作業室、操作室、及び、損傷を受け危険な高放射能(高い放射線量)を放出している設備(例えば原子炉建屋RBやタービン建屋TB等)に接近し作業する場所(室)等として、地中に設置される放射線防護カルバート(耐放射線カルバート)であり、地中設置型の筒状シェルターである。
尚、本明細書で言う復旧作業とは、事故発生直後の緊急措置的な作業のみならず、例えば、廃炉のための恒久的な作業をも含んでいる。また、メルトダウンした核燃料を取り出すのに用いられるクレーンユニット等の大型機械を、原子炉近傍に設置するための作業等も含まれる。
【0025】
図1は、原子力施設Nの上面図であり、この原子力施設Nは、海に臨んで建造されている。本実施形態の筒状構造物1は、港及び内陸から、原子力施設Nの原子炉建屋RB及びタービン建屋TBに向けて地中に延設されている。尚、筒状構造物1は、図1に太い実線で示される箇所全体に設置されていてもよく、又は、太い実線で示される箇所のうち、例えば放射線量の高い箇所などに選択的に設置されていてもよい。また、筒状構造物1が延設される向きの先端側(作業を行う目的地点側)の端部は、例えば到達立坑内や建屋の地階内に挿入されて、後述する各種作業、資材・機器の搬出入、及び作業員の出入り等に用いられる。
図1において、符号S1で示されるものは真水(軽水)を積んだ船、符号S2で示されるものはポンプ船、符号S3で示されるものはクレーン船、符号S4で示されるものは放射性物質に汚染された水(以下、汚染水と省略)を溜める汚染槽船、符号Tで示されるものは汚染水を溜める廃液タンクである。
尚、ポンプ船S2は、電源、ポンプ及び貯水槽を備えた例えば1000tクラスのものであり、港に係留されていて、該ポンプ船S2には、真水を積んだ船S1から真水(軽水)が供給される。そして、ポンプ船S2から筒状構造物1の基端側(作業を行う目的地点とは反対側)の端部に、電力ケーブル及び液体(軽水)母管が連結されている。
【0026】
この筒状構造物1は、内部が通路とされた筒状をなしており、地中に設置されるとともに、その周壁が、外部の放射線量に応じて、厚さ方向に沿ってコンクリート層、水を含む層、金属層、黒鉛層及び高分子材料層の少なくとも1つ以上の層を備えている。すなわち、筒状構造物1の周壁は、放射線遮蔽性を有しており、該周壁を通して通路の内部に放射線が入ることを防止するように形成されている。
そして、本実施形態の筒状構造物1の施工方法では、該筒状構造物1の周壁を、例えば放射線線量計等で測定して得られた外部の放射線量に応じて、前記周壁の厚さ方向に沿う通路内部側に向かって厚くしていくようにしている。
尚、ここで言う放射線とは、アルファ線、ベータ線、中性子線などの粒子線や、ガンマ線、X線などの電磁波を含む各種放射線を指しており、放射線遮蔽性を有するとは、これら放射線のうち少なくとも1つ以上の放射線を遮蔽する性質を有していることを指す。
また、筒状構造物1は、通路の延在方向に複数の筒状体が連結された構成とされている。
【0027】
図2〜図7に示されるものは、筒状構造物1を構成する筒状体のうち、外部の放射線量が低い(原子力施設N内における放射線量が比較的低い)箇所に設置される筒状体10の断面図(通路の延在方向に垂直な断面を表す図)である。具体的に、この筒状体10が設置されるのは、筒状構造物1の設置箇所のうち、例えば、外部の放射線量が低中レベル線量当量(200ミリシーベルト/h未満)の箇所である。
【0028】
図2において、筒状体10は、円筒状をなしており、その周壁11が単一の鋼の層(金属層)を有している。具体的に、この筒状体10は、例えば大口径の鋼管を用いて形成されている。筒状体10の周壁11の厚さ(鋼の層の厚さ)は、外部の放射線量に応じて設定される。
尚、筒状体10の周壁11として、鋼の層の代わりに、アルミニウム層や鉛の層などの金属層、コンクリート層、プラスチックや合成樹脂からなる高分子材料層を用いても構わない。この場合、上記した各材料に対応する大口径の管材を用いることができる。
【0029】
このような円筒状の筒状体10を地中に設置するには、例えば、推進・牽引工法を用いることができる。すなわち、シールド掘削機を用いて発進立坑の発進坑口から水平方向に掘り進めるとともに、該シールド掘削機の後方側に連なるように、順次筒状体10を元押ジャッキにより押し込んでいく。
尚、筒状体10は、周方向に分割された複数のセグメントからなるとともに、これらセグメント同士が周方向及び通路の延在方向(筒状体10の軸線方向)に互いに連結されることにより、筒状構造物1が構成されていてもよい(シールド工法による設置)。
【0030】
特に図示しないが、筒状体10の外周面には、該筒状体10をクレーン等で吊り上げるための取り外し可能なアイプレート等の吊り上げ手段が設けられている。また、筒状体10の外周面には、該筒状体10を地上で水平移動させるための着脱可能な車輪やコロ等の移動手段が配設されていてもよい。これら吊り上げ手段や移動手段は、筒状体10を地中に埋設する際には取り外されることが好ましい。尚、これら吊り上げ手段や移動手段が筒状体10に配設されていなくても構わない。
【0031】
筒状体10の内部には、通路内の照度を確保する照明部材14と、気体及び液体の少なくともいずれかを通路内に供給又は通路内から排出する流体移送部材15と、電気配線部材16と、が配設されている。
【0032】
具体的に、照明部材14は、例えば蛍光灯であり、筒状体10の内周面における天壁部に通路の延在方向に間隔をあけて複数設けられている。また、流体移送部材15は、例えば給気用エアダクト及び排気用エアダクトなどの気体搬送管や、水及びそれ以外の液体を搬送する液体搬送管であり、筒状体10の内周面における側壁部に用途に応じて複数設けられているとともに、通路の延在方向に延びている。尚、図2に示される例では、流体移送部材15のうち気体搬送管については、給気用エアダクト(図の左側下部)が通路内の下方空間に向けてエアを送出し、排気用エアダクト(図の右側上部)が通路内の上方空間からエアを吸引する構成となっている。仮に、通路内に放射性物質が入り込んだ場合においては、該放射性物質は通路内の上方空間に浮遊しやすいことから、この構成によって、通路内の安全性がより高められている。また、電気配線部材16は、例えば電力供給用ケーブルや電気信号用ケーブルであり、用途に応じて複数設けられているとともに、通路の延在方向に延びている。
【0033】
また、筒状体10の内周面における底壁部には、カート等の車両や作業員Pが載って通行するための床板17が配設されており、床板17には、該床板17の上面から窪まされて通路の延在方向に延びるとともに、電気配線部材16等を収容可能な収容部18が形成されている。また、図2において符号19で示されるものは、収容部18を開閉可能に覆う蓋である。
【0034】
また、特に図示しないが、筒状構造物1の筒状体10は、周壁11の外部の地中に水分を保持させるための水分保持手段を備えている。
具体的に、前記水分保持手段として、例えば通路の内部から周壁11の外部へ向けて液体を放出させる液体放出管が設けられている。液体放出管は、周壁11を厚さ方向に貫通しており、内部に液体窒素や水ガラス(ケイ酸アルカリガラスの水溶液)等の液体が流通されるとともに、該液体を周壁11周囲の地中に放出可能となっている。
尚、水分保持手段として、前記液体放出管を用いる代わりに、例えば周壁11の壁内に流路を形成するとともに、その一部を周壁11外部に向けて開口したり、周壁11の外面に管材を沿わせるように設けるとともに、通路の延在方向に間隔をあけて複数開口したりしてもよい。
【0035】
図3に示されるものは、前述した筒状体10の他の一例である。図3の筒状体10は、断面多角形(図示の例では四角形)の角筒状をなしており、その周壁11が単一のコンクリート層を有している。尚、周壁11として、コンクリート層の代わりに、前述した金属層や高分子材料層などを用いることとしてもよい。
【0036】
このような角筒状の筒状体10を地中に設置するには、例えば、開削トンネル工法を用いることができる。すなわち、地表面に筒状構造物1の延設方向に沿って溝を形成するように、地表面から土留壁を造成し、土留支保工等で周辺地盤の崩壊を防ぎながら所定の深さまで掘り下げ、掘削された溝内にクレーン等の揚重機により筒状体10を設置し、これらを連結した後、埋め戻しを行う。
【0037】
また、図3の筒状体10では、前述した床板17、収容部18及び蓋19は設けられておらず、電気配線部材16は、筒状体10の内周面における側壁部に配設されている。
このような角筒状の筒状体10として、周壁に所望の放射線遮蔽性を備えたコンクリート製のボックスカルバートや、鋼鉄製の船舶用コンテナ等を用いることができ、この場合、製造費用を削減できることから、好ましい。
【0038】
図4は、図3で説明した筒状体10を、通路の延在方向に複数連結した状態を示すものであるとともに、隣接する筒状体10同士の連結構造を示している。
図4に示されるように、筒状構造物1において、通路の延在方向に隣り合う筒状体10同士は、通路の内部及び外部のいずれかから連結されている。図示の例では、隣接する筒状体10同士が、通路の内部から連結されている。
【0039】
図4及び図5(a)(c)に示されるように、筒状体10における通路の延在方向の端部には、通路内に向けて突出するとともに、該端部の開口周縁の周方向に沿って延びる環状のフランジ部21が形成されている。また、フランジ部21には、前記延在方向に貫通する貫通孔が前記周方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0040】
図5(c)において、隣り合う筒状体10同士は、互いに対向するフランジ部21同士の間に、ゴム、シリコンパッキン、Oリング等からなるパッキン部材22を前記貫通孔回りに配設した状態で、該貫通孔に挿通されたボルトとナットにより連結されている。また、フランジ部21において通路内を向く端面には、前記周方向に沿うように枠状に形成された鉄(鋼)、鉛、コンクリート等からなる放射線リーク防止部材23が当接配置されており、該放射線リーク防止部材23は、対向するフランジ21同士の隙間(隣り合う筒状体10の対向する端部同士の隙間)を塞いでいるとともに、この隙間から通路内に放射性物質が入り込んだり放射線が入り込むことを防止している。
【0041】
また、図4の右端における筒状体10同士の連結部分及び図5(b)に示されるものは、前述した連結構造とは異なる連結構造であり、この例では、筒状体10における通路の延在方向の端部にフランジ部21が設けられておらず、その代わり、周壁11の内周面における前記端部に、前記周方向に間隔をあけて締め付け部材24が複数設けられている。締め付け部材24には、前記延在方向に貫通する貫通孔が形成されている。隣り合う筒状体10の端部において対向する締め付け部材24同士は、前記貫通孔に挿通されるボルトとナットによって連結されており、これにより、隣り合う筒状体10同士が連結されている。この例では、筒状体10の周壁11において前記延在方向を向く端面同士が突き合わされており、放射線リーク防止部材23は、これら端面同士の隙間を塞ぐように、周壁11の内周面に当接配置されている。尚、放射線リーク防止部材23は、前記端面同士の隙間をパテ、シリコンコーキング等のシール材で封止した後、配設されることが好ましい。
【0042】
また、図4において、通路の延在方向に隣接する筒状体10の流体移送部材15同士は、短管及びフランジ等の接続部25を介して、互いに連結されている。また、特に図示しないが、隣り合う筒状体10の電気配線部材16同士は、端子台、ソケット、コネクタ等を介して、互いに連結されている。
【0043】
尚、図4及び図5では、隣り合う筒状体10同士を通路の内部から連結する連結構造について説明したが、例えば外部の放射線量が低い場合などには、同様の構成を筒状体10の外周面に設けるとともに、隣り合う筒状体10同士を通路の外部から連結する連結構造としても構わない。隣接する筒状体10同士を通路の外部から連結する場合、筒状体10の外周面に、前述したフランジ部21の連結構造を用いることで、気密性と頑健性を確保でき、好ましい。またこの場合、前述した開削トンネル工法の埋め戻しを行う前に、筒状体10同士を連結することが望ましい。
また、それ以外の連結構造として、例えば、隣り合う筒状体10の端部同士が通路の延在方向に嵌合される構造(スリーブ継手構造、差し込み継手構造)を用いてもよい。
【0044】
図6及び図7に示されるように、本実施形態の筒状体10は、通路の延在方向の両端部を覆う取り外し可能な防護壁26を有している。
防護壁26は、例えばアクリル板、ビニル板、鉄板等からなり、筒状体10の周壁11の断面形状に対応する形状に形成されている。図示の例では、筒状体10の周壁11が断面四角形状に形成されており、これに対応して、防護壁26は四角形板状に形成されている。
【0045】
防護壁26の外周縁部は、通路の延在方向に向かって折り返されており、この折り返し部分が周壁11の内周面に当接されて、ビス止めされている。また、防護壁26の前記折り返し部分と周壁11の内周面との隙間を塞ぐように、該折り返し部分の端面からその対応する周壁11の内周面部分を覆って、取り外し可能にパテ等の封止部材27が配設(塗布)されている。
このように、本実施形態においては、筒状体10の前記延在方向の両端部は、一対の防護壁26により閉塞されている。尚、防護壁26は、筒状体10の両端部を閉塞するように覆っていればよく、例えば、該防護壁26に逆止弁構造が設けられるとともに、筒状体10内の圧力が高まった際に、該逆止弁構造を通して通路内の空気を外部に逃がすことができるように形成されていても構わない。
【0046】
防護壁26が配設された筒状体10を、他の筒状体10に連結するには、図6に示されるように、連結する筒状体10の端部同士を接近配置した状態から、作業員Pが筒状体10の端部同士を連結した後(又は連結する前に)、ビス及び封止部材27を取り除くとともに、防護壁26を取り外す。
尚、開削トンネル工法を用いる場合は、図6における右側が筒状構造物1の延設方向の先端側となるとともに、防護壁26を装着した状態の新たな筒状体10が、筒状構造物1の先端側の端部に連設される。また、推進・牽引工法を用いる場合は、図6における左側がシールド掘削機の前進方向となるとともに、防護壁26を装着した状態の新たな筒状体10が、発進立坑内から筒状構造物1の基端側(図6における右側)の端部に連設される。
【0047】
また、防護壁26を取り外す作業を簡単にして、迅速に筒状体10の内部同士を連通させる目的で、例えばハンマー等を用いて防護壁26を破壊することとしてもよい。また、特に図示しないが、筒状体10の連結作業を行う作業員Pは、放射能汚染の可能性を考慮して、放射線遮蔽性を有する防護服や防護マスク等を適宜着用することが望ましい。
【0048】
また、既設の筒状体10の内部に放射性物質が入り込むことを防止する目的で、該筒状体10の端部(具体的には、通路の延在方向のうち、新たに筒状体10を連結する方向を向く端部)に防護壁26を設けておき、この状態から新たな筒状体10を接近又は当接配置した後、当該防護壁26を取り外すこととしてもよい。
本実施形態では、後述するように筒状体10として空気調整ユニットを備えているので、筒状体10同士の連結作業において、仮に通路内に放射性物質が入り込み放射能汚染されるようなことがあっても、汚染除去及びリーク試験を行って安全性を確保できるようになっている。
【0049】
図8〜図10に示されるものは、筒状構造物1を構成する筒状体のうち、外部の放射線量が高い箇所に設置される筒状体30、40の断面図である。尚、筒状体30、40において、前述した筒状体10と同一部材には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0050】
具体的に、筒状体30が設置されるのは、筒状構造物1の設置箇所のうち、例えば、外部の放射線量が高レベル線量当量(10〜500ミリシーベルト/h程度)の箇所であり、筒状体30の周壁31は、主としてガンマ線から通路の内部を防護するように構成されている。筒状体30は、例えば、核燃料が未臨界の状態にあり、放射される中性子線の線量が比較的少ない場合に用いられる。
【0051】
また、筒状体40が設置されるのは、筒状構造物1の設置箇所のうち、例えば、外部の放射線量が中性子線の影響が大きい過酷線量当量(200ミリシーベルト/h以上)の箇所であり、筒状体40の周壁41は、主として中性子線及びガンマ線から通路の内部を防護するように構成されている。筒状体40は、例えば、再臨界した核燃料から中性子線が大量に放射されている場合に用いられる。
【0052】
筒状構造物1の筒状体30(40)は、内部が通路とされた筒状をなしており、その周壁31(41)が、水を含む層33(43)と、放射線遮蔽性を有し、水を含む層33(43)を周壁の厚さ方向に沿う両側から挟む一対の防護層32(42)、34(44)と、を備えている。以下の説明では、一対の防護層32(42)、34(44)のうち、水を含む層33(43)に対して厚さ方向の外側に配置された防護層を外層32(42)と言い、厚さ方向の内側に配置された防護層を内層34(44)と言う。
【0053】
本実施形態の筒状構造物1の施工方法においては、該筒状構造物1の周壁31(41)のうち、外層32(42)が基準層とされており、外部の放射線量に応じて、前記基準層に対して、水を含む層33(43)及び内層34(44)を、前記厚さ方向に沿う通路内部側に向かって積層させている。
【0054】
図8において、筒状体30は、角筒状をなしており、その周壁31の外層32は、単一のコンクリート層で形成されている。尚、外層32として、コンクリート層の代わりに、鋼の層やアルミニウム層などの金属層を用いてもよい。
【0055】
また、周壁31の内層34は、厚さ方向の外側に位置する第1内層34aと、厚さ方向の内側に位置する第2内層34bと、を備えている。
第1内層34aは、鉛の層(金属層)で形成されており、第2内層34bは、鉄(鋼)の層(金属層)で形成されている。尚、第1内層34aとして、鉛の層の代わりに、黒鉛層を用いてもよい。このような第1内層34aとして、鉛、黒鉛等からなるブロック材や板材を用いることができる。
【0056】
また、周壁31の第1内層34aの外周面と、外層32の内周面との間には、図示しない支持部材が配設されていて、該支持部材により、外層32の厚さ方向の内側に隙間をあけて、内層34が固定支持されている。
そして、水を含む層33は、この隙間に配設されたスポンジ、ウレタン等の水を浸み込みやすい性質を有する多孔性部材に、水(ここで言う水とは、例えば、真水(軽水)、重水及びホウ素水等の放射線(特に中性子線)を遮蔽する性質を有するものを指しており、後述する筒状体40の水も同様である)を含ませたものを、ビニル材で覆って構成されている。尚、水を含む層33のうち、外層32のコンクリート層と当接する領域については、ビニル材を配設しなくても構わない。また、水を含む層33として、水を含ませた多孔性部材を用いる代わりに、水を含むゲル部材等を用いてもよい。
【0057】
また、特に図示しないが、周壁31において通路の延在方向を向く端面のうち、水を含む層33に対応する部位には、該水を含む層33を液密に閉塞する閉塞部が設けられている。閉塞部は、例えば、周壁31の前記延在方向の端部における外層32と内層34との間に、水を透過しない性質を有する部材を液密に挿入したり、外層32(内層34)における前記延在方向の端部を厚さ方向の内側(外側)に向けて折り返すことで、水を含む層33を液密に閉塞することにより、設けられている。また、閉塞部は、周壁31の前記延在方向の端部に、外層32、水を含む層33及び内層34を該延在方向の外側から覆うように形成されていてもよい。具体的には、周壁31における前記延在方向の端部に、該周壁31の厚さとされた例えば単一のコンクリート層からなる閉塞部が形成されているとともに、該閉塞部の前記延在方向の内側に、外層32、水を含む層33及び内層34が設けられていて、該水を含む層33がこの閉塞部により液密に封止されていることとしてもよい。
【0058】
筒状体30の周壁31の厚さ、及び、該周壁31を構成する外層32、水を含む層33及び内層34の各層の厚さは、外部の放射線量に応じて設定される。
また、外層32は、内層34と同様に、厚さ方向に複数の層が積層された構成であってもよい。また、筒状体30は、円筒状に形成されていてもよい。
また、通路の延在方向に隣り合う筒状体30同士の連結構造については、前述した筒状体10と同様の連結構造を用いることができる。
【0059】
図9及び図10において、筒状体40は、円筒状をなしており、その周壁41の外層42及び内層44は、単一の鋼の層(金属層)でそれぞれ形成されている。尚、外層42及び内層44として、鋼の層の代わりに、アルミニウム層や鉛の層などの金属層、コンクリート層、プラスチックや合成樹脂からなる高分子材料層を用いても構わない。
【0060】
また、周壁41の外層42の内周面と、内層44の外周面との間には、支持部材45が複数配設されていて、該支持部材45により、外層42の厚さ方向の内側に隙間をあけて、内層44が固定支持されている。このように構成された筒状体40は、二重管構造を呈している。
そして、外層42と内層44との間に形成された隙間に、前記水が液密に充填されることによって、水を含む層43が形成されている。
筒状体40の周壁41の厚さ、及び、該周壁41を構成する外層42、水を含む層43及び内層44の各層の厚さは、外部の放射線量に応じて設定される。
【0061】
図9において、符号46で示されるものは、筒状体40を二重管状に組立後、外層42と内層44との隙間に水を供給するための水封入口であり、該隙間に水が充填されるとともに、水を含む層43が形成された後、この水封入口46は封止される。尚、図示の例では、水封入口46は周壁41の外周面に開口されているが、周壁41の内周面に開口(通路の内部に向けて開口)されていてもよい。
また、符号47で示されるものは、水を含む層43の水を通路の内部に取り出し処理した後、再び水を含む層43に戻すための循環管である。すなわち、筒状構造物1において筒状体40が設置される箇所は、過酷な放射線状況下にあるため、外層42を通して水を含む層43に達した放射線により、水が放射化されて、放射線遮蔽性能が低下することが考えられる。そこで、筒状体40は、水を含む層43の水を循環させる循環構造を備えており、このような水を循環させて適宜処理(交換又は清浄化)することによって、放射線遮蔽性能を安定して確保するようにしている。
【0062】
また、符号48で示されるものは、水を含む層43から循環管47に水を取り出す流出管であり、符号49で示されるものは、循環管47から水を含む層43に水を送る流入管である。また、符号50で示されるものは、防護カバーである。
【0063】
図10に示されるように、通路の延在方向に隣り合う筒状体40同士を連結するには、外層42内に、前記延在方向から内層44を挿入する。そして、隣り合う筒状体40の対向する端部において、外層42に形成されたフランジ部51同士、及び、内層44に形成されたフランジ部52同士を連結する。順次この工程を繰り返し、筒状体40を増設して、組立後に、外層42と内層44との隙間に水を封入する。尚、図示の例では、フランジ部51、52が径方向外側に向けて突出する外フランジ形状となっているが、推進・牽引工法を用いる場合などには、フランジ部51、52は径方向内側に向けて突出する内フランジ形状とされていることが好ましい。
尚、各筒状体40において、外層42と内層44との隙間における前記延在方向の両端部を予め封止し、該隙間を液密に構成するとともに、前述した筒状体10と同様の連結構造を用いても構わない。この場合、水封入口46、流出管48及び流入管49は、各筒状体40にそれぞれ設けられることが好ましい。
【0064】
また、水を含む層43の水を変質させるほど外部の放射線量が高くない場合には、水を循環させない構成であってもよい。この場合、循環管47、流出管48及び流入管49は設けなくてもよい。
また、筒状体40において、水を含む層43の代わりに、外層42と内層44との隙間に、溶融した鉛等の金属を注入するとともに該金属を固化させて、固体中間層を形成してもよい。この場合も、循環管47、流出管48及び流入管49は不要である。
【0065】
図10において、符号53で示されるものはホウ素水タンク、符号54で示されるものはポンプ、符号55で示されるものは開閉弁、符号56で示されるものは逆止弁である。また、符号57で示されるものは端部封止蓋、符号58で示されるものは注入管継ぎ手である。具体的に、筒状構造物1の先端部(作業する目的地点側の端部)は、原子炉等の過酷な放射線環境の正面近傍に接近する位置に配されるため、該先端部に対して更なる耐放射線防護が必要となり得ることから、注入管継ぎ手58を通して、筒状体40の先端部に軽水やホウ素水又はコンクリートを注入・充填できる構成となっている。また、符号59で示されるものは着脱可能な鉛カバー、符号60で示されるものはレール、符号61で示されるものはアタッチメントである。具体的に、筒状体40の先端部における上部に設けられたレール60には、アタッチメント61として、該レール60上を前進・後退可能な自走式耐放射線カメラや放射線検出器等が搭載される。また、筒状体40の先端部において先端側を向く面(先端面)には、アタッチメント61として、遠隔操作可能な作業ユニット(ここで言う作業ユニットとは、後述する筒状体全体を指すものに限らず、例えば、マジックハンド、シャベル、削岩機、クレーン(放射性物質の遮蔽となる物質又は再臨界や火災を沈静化する砂等の物質を投入するためのもの)等の作業機械を含む)が装着される。尚、レール60及びアタッチメント61は、筒状体40の外周面及び先端面に設けられることから、該筒状体40の周壁41の外部(径方向外側及び先端側部分)にスペースが形成されている場合(例えばこの筒状体40の先端部が到達立坑内や建屋の地階内に挿入されている場合など)に用いられる。
【0066】
また、本実施形態の筒状構造物1は、筒状体10、30、40(以下、筒状体と省略)として、通路ユニット、作業ユニット、操作ユニット、隔離ユニット、放射線量モニタリングユニット、空気調整ユニット、ポンプユニット、給電ユニット、除染ユニット、搬入ユニット及び出入口ユニットのうち少なくとも1つ以上のユニット(モジュールユニット)を備えている。
【0067】
前述した各ユニットのうち、通路ユニットとは、内部の通路を作業員Pや車両が通行する目的で用いられるものである。
また、作業ユニットとは、クレーン等の揚重機、マジックハンド、上下するショベル、削岩ドリル等の各種作業機械が設けられたり、作業員Pが放射能汚染物質(汚染水など)を排除する作業や、溶接作業、散水作業、がれき処理作業等を行う目的で用いられるものである。尚、作業ユニットは、作業員Pが通路内部で作業を行う作業場や、通路外部に出て作業を行う場合の退避所としても用いられる。
ここで、作業ユニットに各種作業機械が設けられる場合とは、例えば、この筒状構造物1の先端部が到達立坑内や建屋の地階内に挿入されていて、該先端部において機械による作業を必要とする場合などが該当する。また、クレーン等の揚重機を用いる場合には、クレーンの支柱は、筒状体の周壁における天壁部を気密に貫通して、上方に向けて延設される。
また、操作ユニットとは、各種作業機械を用いて作業する場合に、その操作を作業員Pが通路内部から行う目的で用いられるものである。尚、この場合、各種作業機械は、前記作業ユニット内のみならず、筒状構造物1の外部に設置されていても構わない。
【0068】
また、隔離ユニットとは、筒状構造物1の内部を、放射性物質に汚染された他のユニット(筒状体)から隔離する目的で用いられるものである。具体的に、隔離ユニットは、例えば、その通路の延在方向の両端部に気密ハッチが設けられているとともに、該隔離ユニットを挟んで前記延在方向の両端部に連結される一対のユニットのうち、一のユニットから他のユニットへ放射性物質が流入することを防止可能な構成とされている。
また、放射線量モニタリングユニットとは、筒状構造物1の外部及び内部の少なくともいずれかで検出された各種放射線の線量を監視する目的で用いられるものである。
【0069】
また、空気調整ユニットとは、筒状構造物1の内部の空気を換気したり、給気フィルターや排気フィルターにより空気を清浄化する目的で用いられるものである。尚、空気調整ユニットは、複数の筒状体の連結を行った後、通路内部の気密性を確認(リーク試験)できる構成を備えることがより好ましい。尚、空気調整ユニットは、原子炉建屋RB、タービン建屋TB、その他に換気(清浄な空気)を供給したり、これらRB、TB等の建屋内の空気を循環・浄化する設備として使用することができる。
また、ポンプユニットとは、筒状構造物1の周壁に水を含む層が設けられる場合に、この層に給水、排水を行ったり、復旧作業に液体を使用する場合に該液体を供給する目的で用いられるものである。また、ポンプユニットは、前記水分保持手段の液体放出管に所定の液体を供給するためにも用いられる。
また、給電ユニットとは、筒状構造物1の内部や外部における照明、作業に必要な機械及び装置等に電力を供給する目的で用いられるものである。
【0070】
また、除染ユニットとは、筒状構造物1に出入りする作業員Pが、放射性物質に汚染された場合や、通路内部に放射性物質を持ち込まないように予め除染する目的で用いられるものである。
また、搬入ユニットとは、筒状構造物1の内部に、該筒状構造物1を延設するための小型の筒状体を搬入したり、資材を搬入する目的で用いられるものである。搬入ユニットの搬入口は、例えば周壁の天壁部に開閉可能に設けられるとともに、地表からこの搬入口に向けて立坑を掘ったり、搬入口が地表に露出するように筒状構造物を半地下に設置することにより、当該搬入口を使用可能である。尚、ユニット内の密閉が必要な場合には、該搬入口にはハッチが取り付けられる。
この筒状構造物1においては、筒状体として、一の筒状体(前記搬入ユニットなど大型の筒状体)と、一の筒状体内に収容可能な他の筒状体(小型の筒状体)と、を有しており、筒状構造物1は、他の筒状体が、一の筒状体の通路の延在方向の端部(先端部)から送り出されることにより、延設された構成を備えている。このような小型の筒状体は、例えば、筒状構造物1の先端部が建屋の地階内に挿入された後、建屋内のスペースにおいて筒状体を延設する場合などに用いられる。
また、出入口ユニットとは、筒状構造物1に作業員Pが出入りしたり、資材を出し入れする目的で用いられるものである。出入口ユニットの出入口には階段や梯子等が設けられ、この出入口は、前述した搬入ユニットの搬入口と同様に、開閉可能に周壁に設けられて地表に連通している。
尚、1つの筒状体に対して、上記した各ユニットの機能が複数備えられていても構わない。
【0071】
また、上記した各ユニット以外のユニットとして、筒状構造物1の内部で作業員Pが事務作業をしたり、会合、食事、休憩等を行う目的で用いられる居室ユニット、他のユニットの上部又は下部に、互いの通路同士を連通させるように積層されて、階段等の上下ユニット間移動手段を備え、立体的な階層を構成する積層(階段)ユニット、筒状構造物1の通路を分岐する目的で用いられる分岐ユニット、通路の延在方向が互いに異なる筒状体同士を簡単に連結可能な可撓性のフレキシブルジョイントユニット等が設けられると、復旧作業をさらに効率よく安全に行うことができることから、好ましい。
【0072】
以上説明した筒状構造物1を用いて放射線状況下で作業を行うには、目的地点(例えば、高い放射線量を放出しているメルトダウンした原子炉等)に向けて地中に該筒状構造物1を延設するとともに、復旧作業に必要な資材の運搬や作業員Pの通行が可能な通路を形成する。ここで、目的地点が過酷な放射線状況下にある場合、筒状構造物1が該目的地点に接近するに従って、外部の放射線量が高まっていくことが考えられる。
【0073】
本実施形態の筒状構造物1の施工方法によれば、該筒状構造物1の周壁を、外部の放射線量に応じて、前記周壁の厚さ方向に沿う通路内部側に向かって厚くしていくようにしたので、下記の効果を奏する。
すなわち、作業員Pが、設置された筒状構造物1の通路内部から放射線状況下にある外部へ出ることなく、該筒状構造物1の周壁を厚くして、この周壁の放射線遮蔽性を向上させることができる。また、外部の放射線量に応じて周壁の厚さを確保した後は、通路内部の安全性が安定して確保される。従って、作業員Pの被爆が防止される。
【0074】
このように、筒状構造物1の設置される地中のそれぞれの箇所において、外部の放射線量に応じて、放射線を遮蔽可能な厚さに周壁を形成することにより、構造を必要以上に複雑にすることなく、通路内の作業員Pの安全性を確保して、該筒状構造物1を例えば過酷な放射線状況下にある目的地点直下にまで設置でき、復旧作業を効率よく迅速に行うことができる。
【0075】
また、筒状構造物1の周壁が、厚さ方向に沿って放射線遮蔽性を有するコンクリート層、水を含む層、金属層、黒鉛層及び高分子材料層の少なくとも1つ以上の層を備えているので、下記の効果を奏する。
すなわち、この筒状構造物1が設置される箇所のうち、例えば、過酷な放射線状況下にある目的地点付近においては、筒状構造物1の周壁として、放射線のうちアルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線及び中性子線などのほぼすべてを遮蔽可能なコンクリート層や水を含む層(好ましくは、例えば軽水、重水又はホウ素水を含む層)を設けることによって、通路内の作業員Pの被爆を防止でき、安全性を確保できる。
【0076】
一方、目的地点から遠く、放射線量が比較的低い箇所においては、筒状構造物1の周壁として、例えば、放射線のうち少なくともアルファ線、ベータ線、ガンマ線及びX線のいずれかを遮蔽可能な金属層(例えば、鉛、鋼、アルミニウムからなる層)、黒鉛層、高分子材料層(例えば、プラスチック、合成樹脂からなる層)を設けることによって、筒状構造物1の構造を複雑にすることなく、通路内の作業員Pの被爆を防止でき、安全性を確保できる。
【0077】
さらに、筒状構造物1の周壁を、外部の放射線量に応じて、前述した各材料からなる層を厚さ方向に適宜組み合わせて(積層させて)形成することも可能であり、この場合、より安全性が高められることになる。
本実施形態の筒状構造物1の施工方法では、周壁が、コンクリート層、金属層及び高分子材料層のいずれかからなる基準層(外層)を備え、外部の放射線量に応じて、前記基準層に対して、コンクリート層、水を含む層、金属層、黒鉛層及び高分子材料層の少なくとも1つ以上の層を、前記厚さ方向に沿う通路内部側に向かって積層させていくようにしたので(例えば図8〜図10を参照)、当該筒状構造物1が設置される箇所の放射線の種類や放射線量に応じて、周壁における基準層と、該基準層の通路内部側に積層させる層とを適宜組み合わせることで、通路内部の安全性を十分に確保できる。
尚、筒状構造物1を施工した後で、該筒状構造物1の外部の放射線量が高まった場合などには、周壁の内部から新たな放射線遮蔽層を形成すればよい。
【0078】
また、図8〜図10を用いて説明した筒状構造物1においては、その周壁が、水を含む層と、放射線遮蔽性を有し、水を含む層を周壁の厚さ方向から挟む一対の防護層と、を備えているので、下記の効果を奏する。尚、前記一対の防護層のうち、外層が前記基準層である。
すなわち、周壁が、水を含む層(好ましくは、例えば軽水、重水又はホウ素水を含む層)を備えているので、放射線のうちアルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線及び中性子線などのほぼすべてを遮蔽することができる。さらに、この周壁には、水を含む層を厚さ方向から挟む一対の防護層が形成されているので、前述のように放射線遮蔽性が高く確保された水を含む層を、これら防護層が安定して形状維持しつつ、当該防護層自体も放射線遮蔽性を有しているから、周壁全体としての放射線遮蔽性が十分に高められている。よって、通路内の作業員Pの被爆を防止でき、安全性を確保できる。
【0079】
具体的に、図8を用いて説明した周壁31の構造によれば、例えば未臨界状態の核燃料から放射される少量の中性子線を、水を含む層33が確実に防護しつつ、コンクリート層からなる防護層32と、鉛の層及び鉄(鋼)の層からなる防護層34とがガンマ線を確実に防護して、通路内の作業員Pの被爆を防止できる。
また、図9及び図10を用いて説明した周壁41の構造によれば、例えば再臨界状態の核燃料から大量に放射される中性子線を、水を含む層43が確実に防護しつつ、該水を含む層43と、鋼の層からなる防護層42、44とがガンマ線を確実に防護して、通路内の作業員Pの被爆を防止できる。
【0080】
そして、この筒状構造物1は、地中に設置されているから、地上から該筒状構造物1に向けて放射された放射線が、地中の水分などにより遮蔽、低減されて、通路内への放射線の到達を防止する効果がより顕著に得られるようになっている。また、地中に設置するため、土壌の重量などに対する強度を確保する目的で周壁の厚さが予め十分に確保されているから、該周壁の放射線遮蔽性が十分に確保されており、よって周壁の通路内部側に向けて該周壁の厚さを増す量を低減できる(例えば周壁がコンクリート層からなる場合、少なくとも厚さ20cm以上)。
【0081】
具体的に、筒状構造物1の周壁が地表に露出することなく地下に埋設された場合には、前述の効果が確実に得られやすくなる。また、例えば周壁のうち天壁部のみが地表に露出するように半地下に設置されるとともに、該天壁部に開閉可能な出入口・搬出入口を有する構成とされた場合には、通路内への放射線の到達を防止しつつも、作業員Pの出入りや資材及び機器の搬出入が効率よく行える。
また、原子力施設Nの地下水の放射能汚染を防止する目的で、この筒状構造物1の通路内に地下水の流路を形成することとしてもよい。
【0082】
また、本実施形態の筒状構造物1の施工方法では、周壁の外部の地中に水分を保持させるようにしたので、下記の効果を奏する。
【0083】
具体的に、本実施形態の筒状構造物1は、周壁の外部の地中に水分を保持させるための水分保持手段を備えている。
すなわち、前記水分保持手段によって、周壁の外部へ向けて、例えば液体窒素を放出して地中の水分を凍結させたり、水ガラスを放出して地中に水分を保持させることにより、該周壁まわりの地中における放射線遮蔽性を高めることができる。これにより、筒状構造物1の周壁の放射線遮蔽性のみならず、該周壁の外部の地中における放射線遮蔽性をも安定して確保でき、通路内の安全性がより向上する。
またこの場合、周壁外部における地中の流体の流動が規制されるので、例えば汚染された地下水が筒状構造物1の周壁に到達するようなことが防止される。
尚、液体窒素を用いる場合には、筒状構造物1の周壁周囲のみならず、その延設方向の先端側の地中にも液体窒素を放出することにより、土壌や岩盤が凍結して、掘削をより効率よく安全に行うことができる。
【0084】
また、筒状構造物1が、複数の筒状体を連結して構成されているので、これら筒状体の周壁の構造を、各筒状体が設置される地中の箇所における外部の放射線量に応じてそれぞれ設定できる。従って、前述した効果を簡単かつ確実に得ることができる。
【0085】
また、通路の延在方向に隣り合う筒状体同士は、通路の内部及び外部のいずれかから連結されているので、下記の効果を奏する。
すなわち、例えば、筒状体を設置する箇所における外部の放射線量が高い場合や、作業員Pの安全性をより確保したい場合には、筒状体同士の連結を通路の内部から行うことで、この連結作業を行う作業員Pの被爆を防止できる。また、筒状体を設置する箇所における外部の放射線量が低い場合などには、筒状体同士の連結を通路の外部から行うことで、連結作業をより迅速に行うことができる。尚、筒状体同士の連結を通路の外部から行う場合には、開削トンネル工法を用いることが好ましい。
【0086】
また、筒状体における通路の延在方向の両端部に防護壁26が設けられているので、該筒状体の運搬時や、この筒状体を他の筒状体に連結する際の作業時に、筒状体の内部へ放射性物質が入り込むことを防止でき、通路内の放射能汚染を防止できる。尚、連結作業が終了した後は、防護壁26を取り外すことができるので、通路内の安全性を確保しつつ、通路を有効に利用できる。
【0087】
また、筒状構造物1の筒状体が、一の筒状体と、前記一の筒状体内に収容可能な他の筒状体と、を有し、前記他の筒状体が、前記一の筒状体の通路の延在方向の端部から送り出されることにより、延設される構成である場合には、下記の効果を奏する。
すなわち、この場合、筒状構造物1を延設する際、一の筒状体の通路内部を通して、該一の筒状体の通路の延在方向の端部から、他の筒状体を送り出すことができるので、放射線量の高い通路の外部に作業員Pが出るようなことなく、筒状体を延設することができる。また、この構成によれば、例えば、クレーン等の揚重機を設けることのできない建屋内部などにおいても、安全性を確保しつつ、筒状体を目的地点に向けて延設できる。
【0088】
また、筒状構造物1の筒状体として、通路ユニット、作業ユニット、操作ユニット、隔離ユニット、放射線量モニタリングユニット、空気調整ユニット、ポンプユニット、給電ユニット、除染ユニット、搬入ユニット及び出入口ユニットのうち少なくとも1つ以上のユニットを備えているので、下記の効果を奏する。
すなわち、筒状体として、設置する箇所や用途に応じた機能を有するユニットを適宜用いることによって、復旧作業をより効率よく安全に行うことができる。
【0089】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前述の実施形態では、筒状構造物1が地中に設置されることとしたが、これに限定されるものではなく、筒状構造物1は、地上に設置されていてもよい。この場合、目的地点に向けた延設や各ユニットの構築が簡便であり、該筒状構造物1の設置が簡単であるとともに、通路の形成が容易である。
【0090】
また、前述の実施形態では、図8〜図10において、筒状構造物1の周壁31(41)のうち、外層32(42)が基準層とされており、外部の放射線量に応じて、前記基準層に対して、水を含む層33(43)及び内層34(44)を、前記厚さ方向に沿う通路内部側に向かって積層させることにより、周壁31(41)を厚くしているが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、図2及び図3に示される周壁11に対して、該周壁11と同一の材料をその内周面に付着させるとともに固化させて、通路内部側に向かって厚くしていくこととしても構わない。
【0091】
また、本発明の前述の実施形態で説明した構成要素を、適宜組み合わせても構わない。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述の構成要素を周知の構成要素に置き換えることも可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 筒状構造物
11、31、41 周壁
32、42 外層(基準層)
33、43 水を含む層(基準層に積層させる層)
34、44 内層(基準層に積層させる層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が通路とされた筒状構造物の周壁を、外部の放射線量に応じて、前記周壁の厚さ方向に沿う通路内部側に向かって厚くしていくことを特徴とする筒状構造物の施工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の筒状構造物の施工方法であって、
前記周壁は、コンクリート層、金属層及び高分子材料層のいずれかからなる基準層を備え、
外部の放射線量に応じて、前記基準層に対して、コンクリート層、水を含む層、金属層、黒鉛層及び高分子材料層の少なくとも1つ以上の層を、前記厚さ方向に沿う通路内部側に向かって積層させていくことを特徴とする筒状構造物の施工方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の筒状構造物の施工方法であって、
筒状構造物は地中に設置され、
前記周壁の外部の地中に水分を保持させることを特徴とする筒状構造物の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−83066(P2013−83066A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222854(P2011−222854)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000198307)石川島建材工業株式会社 (139)
【Fターム(参考)】