説明

【課題】ニードル織機のような高速織機に特に好適な筬に関し、筬羽の倒れのない筬を提供すること、高速織機用の筬においても、筬羽とチャンネルとの接合部にはんだを使用する必要のない構造の筬を得ることを課題とする。
【解決手段】筬羽の間隔をチャンネルに設けた溝又はチャンネルに添設されるサブチャンネルに設けた溝によって設定された筬を提供する。ニードル織機のような高速織機用の筬においては、上下のチャンネルを筬の揺動方向に2分割し、その対向面に溝を筬羽の間隔で設ける。一般的な筬は、筬羽の間隔に相当する間隔で筬羽の前後縁を嵌挿する溝を設けた前後のサブチャンネルを用い、上下のチャンネルに両端を挿入した多数の筬羽を上下のチャンネルに添設したサブチャンネルの溝に嵌挿して製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、織機の筬に関するもので、特にニードル織機のような高速織機に好適な筬の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筬は、上下のチャンネルの間に多数の細い短冊状の筬羽(ブレード)を所定の間隔で取り付けた構造である。エアジェットルームやレピアルーム(登録商標)などに用いる筬は、図8、9に示すように、矩形断面の金属の長尺材からなる上下のチャンネル2、3に長手方向に筬羽1の幅bに相当する溝幅の長手方向の溝(以下、「長手溝」という。)21、31を設け、これらの溝に沿ってコイル22、32を配置し、筬羽1の両端をコイル22、32の巻線の間を通して長手溝21、31に挿入した状態でコイル22、32及び長手溝21、31内にエポキシ樹脂を充填して硬化させることにより、製作されている。
【0003】
筬羽1の間隔(ピッチ)は、コイル22、32の素線径とコイル何巻ごとに筬羽を挿入するかによって決定される。すなわち、コイルの素線径×隣接する筬羽間に存在するコイルの巻数が、隣接する筬羽相互の間に形成される経糸挿入間隙の寸法になる。
【0004】
ニードル織機用の筬も同様な構造であるが、一般的な筬(エアジェットルームやレピアルームの筬)ではエポキシ樹脂で固められているチャンネルと筬羽の接合部分がはんだで固められている点が異なる。エアジェットルームやレピアルームの回転数は、700ないし800rpmであるのに対し、ニードル織機の回転数は、3000rpm程度であり、ニードル織機は一般の織機に比べて回転数が非常に速い。そのため、往復運動する筬に作用する慣性力が一般の筬に比べて非常に大きく、エポキシ樹脂でチャンネルと筬羽とを固定した筬では、その慣性力に耐えられないので、はんだで固定しているのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
製織に際しては、織られる織物の経糸密度に合った筬羽間隔を備えた筬を用いる必要がある。織られる織物の経糸が太ければ、筬羽間隔の広い筬が用いられるが、経糸が細くなると一般的には筬羽間隔の狭い筬を用いる必要がある。近年、織物の多様化や高品質化に伴って非常に細い経糸を用いた織物に対する需要が増大している。
【0006】
細い経糸を用いて経糸密度の高い織物を織るための筬は、経糸の太さに対して経糸挿入間隙(筬羽の間隔から筬羽の厚さを引いた寸法)が相対的に狭くなり、かつ細い糸は、筬羽との摺擦による損傷を受けやすいので、筬羽の倒れ(経糸Sの方向に対する筬羽1の傾斜。図7のθ)が問題となり、筬羽の倒れがない筬が要望される。しかし、コイルを用いて筬羽間隔を設定する従来構造の筬では、筬羽の倒れをなくすことは困難であった。
【0007】
また、ニードル織機用の筬では、前述したように、筬羽とチャンネルの接合部をはんだで固めている。はんだは、鉛を含んでいるため、作業環境上好ましくないという問題があった。更に、筬羽とチャンネルの接合部をはんだで固めた筬では、当該接合部にはんだを流し込んで固化させた後、はみ出したはんだや尖った形状で固化したはんだを除去する必要があるが、この除去作業に多くの作業時間が必要であるという問題があった。
【0008】
この発明は、筬羽の倒れのない筬を提供できるようにすること、及び高速織機用の筬においても、筬羽とチャンネルとの接合部にはんだを使用する必要のない構造の筬を得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明では、筬羽1の間隔をチャンネル2、3に設けた溝8又はチャンネル2、3に添設されるサブチャンネル6、7に設けた溝8によって設定された筬A、Bを提供することにより、上記課題を解決している。ニードル織機のような高速織機用の筬Aにおいては、上下のチャンネル2、3を筬Aの揺動方向、すなわち筬を取り付ける織機の前後方向に2分割し、その対向面に筬羽1の上下端部分11、12の前後の縁部13、14が嵌挿される多数の溝8を筬羽1の間隔で設ける。この溝8の深さは、筬羽の幅bの1/2より浅い深さとする。
【0010】
多数の筬羽1と上下のチャンネル2、3とは、筬羽の両端の前後縁13、14を2分割した上下のチャンネルの溝8に嵌挿した状態で、筬羽1とチャンネル2、3及び前後のチャンネル材4、4及び5、5相互をエポキシ樹脂で固めて接合することによって組み立てられる。
【0011】
また、エアジェットルームやレピアルームに用いる一般的な筬は、筬羽の間隔に相当する間隔で筬羽の前後縁を嵌挿する多数の溝8を設けた前後のサブチャンネル6、6及び7、7を用い、上下のチャンネル2、3の長手溝21、31に両端11、12を挿入した多数の筬羽1を上下のチャンネル2、3に添設したサブチャンネル6、7の溝8に嵌挿して筬羽1、前後のサブチャンネル6、7及びチャンネル2、3をエポキシ樹脂で接合することによって製造される。
【発明の効果】
【0012】
この発明の筬は、機械加工やワイヤ放電加工によりチャンネル材4、5又はサブチャンネル6、7に形成された溝8で筬羽間隔が正確に設定され、組み立てられた筬において、筬羽1の倒れを生じさせることがなく、細い経糸を用いた経糸密度の高い織物を経糸を損傷させることなく織ることができる筬を提供できる。
【0013】
また、上記構造の高速織機用筬は、筬羽の両端の前後縁が溝に嵌った状態で、かつ前後のチャンネル材4、4及び5、5の間に形成された隙間9にエポキシ樹脂が充填された状態で接合されており、筬羽とチャンネルとの接合部をエポキシ樹脂で固めた構造においても高速動作に耐える十分な接合強度が得られる。この発明の高速織機用筬は、はんだを用いないため、筬組立時の作業環境が改善されると共に、はんだ表面を手作業で仕上る作業が不要になるため、筬組立時の作業負担も軽減されるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態の筬の側面図
【図2】図1の筬の正面図
【図3】図1の筬の要部の分解斜視図
【図4】第2実施形態の筬の側面図
【図5】図4の筬の部分正面図
【図6】図4の筬の要部の分解斜視図
【図7】筬羽の倒れを示す図
【図8】従来構造の筬の側面図
【図9】従来構造の筬の部分正面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし図3は、この発明の筬の第1実施形態を示した図で、ニードル織機用の筬の例である。筬Aは、上チャンネル2と下チャンネル3と多数の筬羽1とで形成されている。上チャンネル2及び下チャンネル3は、筬の揺動方向前後の2本のチャンネル材4、4及び5、5で形成されている。前後のチャンネル材4、4及び5、5のそれぞれの対向面には、筬羽1の厚さに相当する溝幅の多数の溝8が筬羽1の間隔に相当する間隔で設けられている。溝8の深さは、筬羽の幅bの1/2より浅く、従って、筬羽の前後縁13、14を溝8に嵌挿した状態で、前後のチャンネル材4、4及び5、5で筬羽1を挟んだとき、前後のチャンネル材4、4及び5、5の間に隙間9ができる。この隙間9は、1mm程度とするのが好ましい。
【0016】
筬Aは、多数の筬羽1の上下端11、12の前後の縁部13、14を上下のチャンネル材4、4及び5、5の溝8に嵌挿した状態で、筬羽1と前後のチャンネル材4、5、並びに、前後のチャンネル材4、4及び5、5相互の間に形成された隙間9にエポキシ樹脂を充填して硬化させることによって接合されている。
【0017】
図4ないし図6は、この発明の筬の第2実施形態を示した図で、エアジェットルームやレピアルームに用いられる一般的な回転数の織機に用いられる筬の例である。この第2実施形態の筬Bの上下のチャンネル2、3は、図8及び図9に示した従来構造の筬の上下のチャンネル2、3と同じ構造で、それらの長手方向に筬羽の幅bに相当する溝幅の長手溝21、31を備えたものである。
【0018】
第2実施形態の筬Bは、上下のチャンネル2、3の長手溝21、31の内側、すなわち長手溝21、31の開口部分にチャンネル2、3の長手方向に沿わせて前後のサブチャンネル6、6及び7、7を配置している。前後のチャンネル材6、6及び7、7対向面には、筬羽1の厚さに相当する溝幅の多数の溝8が筬羽1の間隔に相当する間隔で設けられている。溝8の深さは、筬羽の幅bの1/2より浅く、従って、筬羽の前後の縁13、14を溝8に嵌挿した状態で、前後のサブチャンネル6、6及び7、7で筬羽1を挟んだとき、前後のサブチャンネル材6、6及び7、7相互の間に隙間9ができる。この隙間9は、1mm程度とするのが好ましい。
【0019】
筬Bは、多数の筬羽1の上下端11、12を上下のチャンネルの長手溝21、31に挿入し、更にその上下端11、12に近接する前縁部13、13及び14、14を上下のサブチャンネル6、6及び7、7の溝8に嵌挿した状態で、筬羽1と前後のサブチャンネル6、7、前後のサブチャンネル材6、6及び7、7の間に形成された隙間9、並びに上下のチャンネル2、3の長手溝21、31にエポキシ樹脂を充填して硬化させることによって接合されている。
【符号の説明】
【0020】
1 筬羽
2、3 チャンネル
4、5 チャンネル材
6、7 サブチャンネル
8 溝
9 隙間
11、12 筬羽の上下端
13、14 筬羽の上下端の前後縁
21、31 チャンネルの長手溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の筬羽(1)の上下端を上チャンネル2と下チャンネル(3)で所定間隔に保持した筬において、前記多数の筬羽の間隔を前記チャンネルに設けた溝(8)又は前記チャンネルに添設されるサブチャンネル(6,7)に設けた溝(8)によって設定したことを特徴とする、筬。
【請求項2】
前記上下のチャンネル(2,3)が筬の揺動方向の前後に位置する2本のチャンネル材(4,5)を含んで形成され、当該2本のチャンネル材の対向面に筬羽の間隔に相当する間隔で多数の溝(8)が設けられ、前記多数の筬羽と上下のチャンネルとは、筬羽の上下端の前後縁(13,14)を前記チャンネル材の溝(8)に嵌挿した状態で、筬羽(1)と前後のチャンネル材(4,4)及び(5,5)相互をエポキシ樹脂で固めて接合することによって組み立てられている、筬。
【請求項3】
筬羽の間隔に相当する間隔で多数の溝(8)を設けた前後のサブチャンネル(6,6)及び(7,7)が上下のチャンネル(2,3)の長手方向に添設して設けられ、上下のチャンネル(2,3)の長手溝(21,31)に両端(11,12)を挿入した多数の筬羽(1)がその前後縁を前記サブチャンネルの溝(8)に嵌挿した状態で、筬羽(1)、サブチャンネル(6,7)及びチャンネル(2,3)をエポキシ樹脂で固めて接合することによって組立てられている、筬。
【請求項4】
前記溝(8)の深さが、筬羽の前後縁を当該溝に嵌挿してチャンネル材ないしサブチャンネルで筬羽を前後に挟んだときに当該前後のチャンネル材ないしサブチャンネルの間にエポキシ樹脂を流し込むことができる隙間(9)が形成されかつ当該溝によって筬羽の倒れが阻止される深さである、請求項1、2又は3記載の筬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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