説明

管体の止水構造

【課題】管体同士の接合時に小石などの沈殿物によって止水性を低下させることのない管体の止水構造を提供する。
【解決手段】泥水9中で受口部3と挿口部4を嵌め合わせて管体1A,1B同士を接合する際に挿口部の外周面又は受口部の内周面に沿って円環状に止水ゴム7を配設する管体1の止水構造である。
そして、この止水ゴム7は、止水部71とそれよりも管体1Bの先端側に形成される壁部72とを有し、この壁部より先端側に前記外周面又は前記内周面が露出された張出部8が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベントナイトを溶かした泥水などの液体中で管体同士を接続する際に使用される管体の止水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1,2などに開示されているように、地盤を掘削した溝に泥水を満たしてその静水圧によって溝壁を安定させ、その中に下水道管などを沈めて配設する方法が知られている。
【0003】
この際使用される管体1は、図7に示すように本管部2の一端に受口部3が形成され他端に挿口部4が形成されており、隣接して配置される管体1の受口部3に挿口部4を挿し込んで接合をおこなう。
【0004】
そして、このようにして接合されると受口部3の内周面に挿口部4の外周面に取り付けた止水ゴム6が密着し、接合部の止水性が確保されることになる。
【特許文献1】特開2003−261952号公報
【特許文献2】特開2001−164637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図7に示すように、泥水中には掘削土砂である礫や小石Sが浮遊しており、時間の経過とともに沈降して管体1の挿口部4の外側上面や受口部3の内側底面などに堆積することがある。
【0006】
そして、このように小石Sが堆積した状態で受口部3に挿口部4を挿入すると、挿口部4の外側上面や受口部3の内側底面に堆積した小石Sが止水ゴム6に向けて押し込まれて、止水ゴム6の内部や止水ゴム6と受口部3内周面との間に挟まって密着性を低下させ漏水の原因になるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、管体同士の接合時に小石などの沈殿物によって止水性を低下させることのない管体の止水構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、液体中で受口部と挿口部を嵌め合わせて管体同士を接合する際に挿口部の外周面又は受口部の内周面に沿って円環状に止水ゴムを配設する管体の止水構造であって、前記止水ゴムは、止水部とそれよりも管体の先端側に形成される壁部とを有する管体の止水構造であることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記壁部より管体の先端側に前記外周面又は前記内周面が露出された張出部を形成することができる。
【0010】
また、前記止水部と前記壁部とを一体に成形することもできる。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明は、止水ゴムの止水部よりも管体の先端側に壁部が形成されている。
【0012】
そして、液体中を沈降してきた小石などの浮遊物が挿口部の外側上面や受口部の内側底面などに堆積していても、先端側から止水部に向けて押し込まれた小石は壁部によって遮られて止水部に到達することができない。
【0013】
このため、管体同士の接合時に小石などの沈殿物によって止水性を低下させることがない。
【0014】
また、前記壁部よりも管体の先端側に張出部を設けることによって接合時に押し込まれた小石をその張出部上に格納しておくことができる。
【0015】
このように小石の格納場所が確保されていれば、小石の堆積量が多い場合であっても小石が壁部を乗り越える可能性を低減することができる。
【0016】
また、止水部と壁部とを一体に成形することによって、組み付け部品数を減らすことができるので生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図2は、本実施の形態の管体1の接続方法を説明する概略構成を示した図である。
【0019】
まず、構成から説明すると、この管体1は、図2,4に示すように本管部2の一端に受口部3が形成され、他端に挿口部4が形成された下水道管等として使用される筒状物である。
【0020】
この本管部2は、断面が管軸方向に一定形状の管体で、挿口部4の先端は図1,2に示すように本管部2からテーパ状に先細りする形状となっている。
【0021】
また、受口部3は、図2,4に示すように本管部2の先端に本管部2の外径よりも内径の大きな短筒状の受口部3を固定したもので、この本管部2と受口部3との間には円環状のゴムなどからなる緩衝ゴム5が介在されている。
【0022】
この管体1には、例えば繊維強化プラスチックモルタル(FRPM)管などが使用できる。
【0023】
このFRPM管から構成される管体1は、図3に示すように2層の繊維強化プラスチック(FRP)層である内面FRP層12と外面FRP層13との間に樹脂モルタル層11を介在させて一体化したものである。
【0024】
この内面FRP層12と外面FRP層13は、繊維方向を円周方向に向けたガラス繊維層12b,13bと、繊維方向を管軸方向に向けたガラス繊維層12c,13cとを積層させるとともに、不飽和ポリエステルを含浸させて保護層12a,13aを形成したものである。
【0025】
また、樹脂モルタル層11は、硅砂などの無機質と不飽和ポリエステル樹脂とによって構成されて、内面FRP層12及び外面FRP層13と一体化されている。
【0026】
そして、このようなFRPM管からなる本管部2の受口部3側の端部に図2,4に示すように緩衝ゴム5を接着剤で固定し、その上にFRP管からなる受口部3を嵌めて接着剤で固定する。この際、緩衝ゴム5の受口部3側に突出した部分の内周面と本管部2の内周面は略面一になるように形成される。
【0027】
また、挿口部4の外周面の受口部3の内部に収容される部分には、図1,2,4に示すように円環状の止水ゴム7が取り付けられており、図4に示すように止水ゴム7の外周が受口部3の内周面に密着して接合時の水密性を確保する構造となっている。
【0028】
この止水ゴム7は、図1に示すように断面視舌状の止水部71と断面視台形状の壁部72とがその間の平板状の連結部73によって連結された円環状の一体に成形されたゴム材である。
【0029】
この止水部71は、受口部3の内周面に密着して止水性能を確保する部分で、挿口部4の本管部2側に形成されている。
【0030】
また、壁部72は、連結部73を挟んで止水部71よりも管体1の先端側に、止水部71とほぼ同じか若しくはそれよりも大きく挿口部4の外周面から突出するように形成されている。
【0031】
さらに、この壁部72よりも管体1の先端側には、挿口部4の外周面が露出した張出部8が形成されている。
【0032】
次に、本実施の形態の管体1の接続方法について図2を参照しながら説明する。
【0033】
ここでは、地盤を掘削した溝にベントナイトを溶かした泥水9を注入した液体中で、図2の左側の管体1Aの受口部3に右側の管体1Bの挿口部4を挿し込んで嵌合する場合について説明する。
【0034】
この管体1A(1B)の上部及び下部には、管軸方向に沿って上部溝形鋼22aと下部H形鋼22bが配設され、これらに管体1A(1B)を挟んで固定ワイヤ22c,・・・で外周を締め付けることで上部溝形鋼22aと下部H形鋼22bを管体1A(1B)に取り付けている。
【0035】
さらに泥水9に沈設中は、この上部溝形鋼22aに先端を固定した吊下げ鋼棒22d,・・・などによって所定の深さで支持させる。
【0036】
また、後から沈設する管体1Bには、後述する接続装置23や仮蓋21などを取り付けてから沈設をおこなう。
【0037】
この接続装置23は、管体1Aに管体1Bを引き寄せるためのスライドロッド23aと、接合が所定の段階まで完了したことを確認するための接合確認バー23bと、接続装置23を上部溝形鋼22aに固定する際に使用する固定用ロッド23dとを備えている。
【0038】
このスライドロッド23aは油圧によって伸縮するロッドで、先端に固定されたガイド管23fは管体1Aの受口部3上に立設したガイド棒23eに挿通させて引き寄せ時の反力を確保する。
【0039】
また、接合確認バー23bは、先端がガイド管23fなどに接触すると押し込まれて後方のリミットスイッチ23cが入り、地上において接合が所定の段階まで進んだことが確認できるようになっている。
【0040】
さらに固定用ロッド23dは、先端にねじ溝が刻設され、接続装置23を上部溝形鋼22aに固定するとともに、接合後はねじを外して固定用ロッド23dを泥水9中から引き上げることで接続装置23を回収することができるように構成されている。
【0041】
このような接続装置23を取り付けた管体1Bを泥水9中に沈設するには、先に沈設した管体1Aに立設したガイド棒23eにガイド管23fを挿通させて吊下げ鋼棒22d、固定用ロッド23d、ガイド棒23eなどで支持しながら所定の深さまで吊り下げる。なお、この管体1Bがどのくらいの深さに沈設されたかは吊下げ鋼棒22dなどの泥水9面からの突出量で計測することができる。
【0042】
そして、先に沈設した管体1Aと同じ深さまで管体1Bを沈設させた後に、スライドロッド23aを稼働させて管体1Bを管体1A側に水平移動させる。この水平移動は、接合確認バー23bの先端がガイド管23fに当接して後方に押し込まれることで管体1Aと管体1Bの距離が所定の間隔以下になったことが確認できるまでおこなう。
【0043】
この時点で少なくとも挿口部4の止水ゴム7は受口部3の内周面に当接しており、この接合部から管内への泥水9の浸入はなくなる。
【0044】
一方、管体1Bの接合部とは反対側の端部は仮蓋21で閉塞されており、ここから管内へ泥水9が浸入することもない。さらに、先に沈設された管体1Aの人孔25側の端部も閉塞蓋24aによって閉塞されているため、この管体1A,1B内の泥水9は封入されたことになる。
【0045】
この状態で閉塞蓋24aに接続した吸引管24bを介して吸引ポンプ24によって管体1A,1B内の泥水9を吸い出し、更に吸引を続けると、泥水9に満たされた管体1Bの外部と管内との圧力差が生じ、仮蓋21に作用する静水圧によって管体1Bが管体1A側に押し込まれることになる。
【0046】
この際、図1に示すように張出部8に堆積した小石Sは、図4に示すように壁部72と緩衝ゴム5と受口部3の内周面と挿口部4の外周面に囲まれた空間に閉じ込められることになり、止水部71に小石Sが挟まることがない。
【0047】
また、図示していないが、受口部3の内側底面に堆積した小石Sも受口部3の内周面に当接した壁部72に遮られて止水部71側に侵入することができず、図4に示した断面と同様の状態になる。
【0048】
このように構成された本実施の形態の管体1の止水構造では、泥水9中を沈降してきた小石Sなどの浮遊物が挿口部4の外側上面や受口部3の内側底面などに堆積していても、管体1の先端側から止水部71に向けて押し込まれた小石Sは壁部72によって遮られて止水部71に到達することができない。
【0049】
また、連結部73上に小石Sが堆積したとしても、壁部72によって張出部8側からのさらなる小石Sの供給は遮られているので、連結部73上の小石Sが止水部71側に押し出されることはない。
【0050】
このため、管体1A,1B同士の接合時に小石Sなどの沈殿物が止水部71と受口部3内周面との間や止水部71の内部に噛み込んで止水性を低下させることがない。
【0051】
また、壁部72よりも管体1の先端側に張出部8を設けることによって接合時に押し込まれた小石Sをその張出部8上に格納しておくことができる。
【0052】
このように小石Sの格納場所が確保されていれば、小石Sの堆積量が多い場合であってもこの空間が小石Sによって満たされるまでは壁部72を乗り越えて止水部71に小石Sが挟まることがない。
【0053】
また、一部の小石Sが壁部72を乗り越えたとしても、連結部73上に堆積するだけで止水部71まで到達することがない。
【0054】
さらに、壁部72と止水部71とを連結部73を介して一体に成形することによって、部品数が一点になるので生産性が向上する。
【実施例1】
【0055】
以下、この実施例1では、前記実施の形態で説明した管体1の止水構造とは別の形態について図5を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0056】
図5の(a)〜(c)に示した断面図は、それぞれ異なる3種類の管体1の挿口部4に設けた止水構造を示した図である。
【0057】
まず図5(a)について説明すると、この形態では止水ゴム30を挿口部4の先端に合わせて取り付けているため、前記実施の形態と違って張出部8が形成されていない。すなわち、壁部32の側面と略同じ位置に挿口部4の先端面が位置している。
【0058】
このように張出部8が形成されていなくとも、壁部32によって遮られた小石Sは接続させる管体1側に押し戻されるだけなので、止水部31に小石Sが挟まってしまうことがない。
【0059】
次に、図5(b)について説明すると、この形態の止水ゴム40は、断面視台形状の壁部42と止水部41が別部材として成形されており、壁42と止水部41は管軸方向に間隔を置いて取り付けられている。また、壁部42より先端側の張出部81は、テーパ状に形成されている。
【0060】
このように壁部42を止水部41と別部材とすることで、止水部41に汎用品を使用することができる。
【0061】
また、止水部41と同じ材料でなくとも壁部42に適した材料を適宜選択することができる。例えば線材を束ねた可撓性のあるブラシ状の材料であっても小石Sを遮る壁部とすることができる。
【0062】
さらに、図5(c)は、張出部8を形成しないで止水ゴム50の壁部52を挿口部4の先端に合わせて貼り付け、それよりも本管部2側に止水部51を貼り付けた形態の構成を示している。
【0063】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0064】
以下、この実施例2では、前記実施の形態又は実施例1で説明した管体1の止水構造とは別の形態について図6を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0065】
この実施例2では、図6(a)に示すように止水ゴム7を受口部3の内周面側に取り付けた場合について説明する。
【0066】
この止水ゴム7は、受口部3のテーパ状の先端から少し本管部2側に離れた位置に取り付け、壁部72の前方に受口部3の内周面が露出する張出部82を形成する。
【0067】
この張出部82に堆積した小石Sは、壁部72と壁部72の内周面が当接する挿口部4(図6(a)では省略)外周面とによって止水部71側に押し込まれるのが遮られることになる。
【0068】
また、このような張出部82がなくとも、止水ゴム7よりも先端側は外部と連通する部分であるため小石Sが止水部71側に侵入することがない。
【0069】
ここで、この図6(a)に示した止水ゴム7の止水部71の向きは主に外水圧が作用する場合の向きであるが、主に内水圧が作用する場合は図6(b)に示すような止水ゴム60を取り付けることになる。
【0070】
この止水ゴム60は、受口部3のテーパ状の先端から少し本管部2側に離れた位置に配設される壁部62と、その壁部62に舌先が本管部2側を向くように接続される止水部61とが一体に成形されている。なお、他の構成及び作用効果については、前記形態と略同様であるので説明を省略する。
【0071】
また、この実施例2では止水ゴム7,60で説明を行なったが、実施例1で説明した止水ゴム30,40,50のいずれであっても適用することができる。
【0072】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態または実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0073】
例えば、前記実施の形態では、複層構造のFRPM管を管体1として使用したが、これに限定されるものではなく、FRP管、鋼管、コンクリート管などいずれの管体であっても適用することができる。
【0074】
また、前記実施の形態では、固定された管体1Aの受口部3に水平移動させた管体1Bの挿口部4を挿し込む場合について説明したが、これに限定されるものではなく、固定された管体1の挿口部4に水平移動させた管体1の受口部3を嵌める接続方法であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の最良の実施の形態の管体の止水構造の構成を説明する断面図である。
【図2】管体の接続方法を説明する説明図である。
【図3】管体の構成を説明する説明図である。
【図4】挿口部の外側上面に小石が堆積した状態で管体の受口部と挿口部を接合した場合の接合部の構成を説明する断面図である。
【図5】(a)は挿口部に張出部を形成しない場合の止水構造の構成を説明する断面図、(b)は壁部と止水部とを別部材にした止水ゴムを配設した止水構造の構成を説明する断面図、(c)は2部材からなる止水ゴムを張出部を形成しないように配設した場合の止水構造の構成を説明する断面図である。
【図6】実施例2の受口部側に止水ゴムを配設した場合の管体の止水構造の構成を説明する断面図であって、(a)は特に外水圧がかかる場合の図であり、(b)は内水圧がかかる場合の図である。
【図7】従来の管体の構成を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0076】
1 管体
2 本管部
3 受口部
4 挿口部
7 止水ゴム
71 止水部
72 壁部
8 張出部
9 泥水(液体)
30,40,50,60 止水ゴム
31,41,51,61 止水部
32,42,52,62 壁部
81,82 張出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中で受口部と挿口部を嵌め合わせて管体同士を接合する際に挿口部の外周面又は受口部の内周面に沿って円環状に止水ゴムを配設する管体の止水構造であって、
前記止水ゴムは、止水部とそれよりも管体の先端側に形成される壁部とを有することを特徴とする管体の止水構造。
【請求項2】
前記壁部より管体の先端側に前記外周面又は前記内周面が露出された張出部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の管体の止水構造。
【請求項3】
前記止水部と前記壁部とが一体に成形されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の管体の止水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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