説明

管内塗装方法

【課題】フッ素樹脂やその他の焼付け加工可能な熱可塑性樹脂を、大掛かりな設備を必要とせず、鋼管が多数溶接され既に組みあがった構造体の鋼管や長尺の鋼管の内面に対しても、均一で十分な膜厚の塗膜を形成する方法を提供すること。
【解決手段】鋼管内でメインブレードに塗料を供給し、前記鋼管内で前記メインブレードを塗料供給側へ移動させることにより前記鋼管の内面に塗膜を形成する鋼管内面の塗装方法であって、前記メインブレードが歯車状の溝部を有し、前記メインブレードの外径が前記鋼管又は前記鋼管内面に形成された皮膜の内径の98〜100%であることを特徴とする鋼管内面の塗装方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食皮膜の形成などのために鋼管内面を均一に塗装する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に医薬、食品、半導体、化学工業又はその他の産業において腐食流体や汚染を嫌う流体を扱う配管や、高温で使用される配管では、内面を通常のプラスチック樹脂によってライニングされた鋼管や、フッ素樹脂によってライニングされた鋼管が用いられている。
フッ素樹脂は、耐薬品性や耐熱性に優れており、なおかつ金属の溶出が少ないため、医薬、ファインケミカルの化学機器の表面処理コーティングに多用されている。上述したようにフッ素樹脂は鋼管への塗装にも用いられているが、細い内径の鋼管や鋼管が多数溶接され既に組みあがった多管式熱交換器のような構造体に対しては十分な膜厚の耐食皮膜を形成することは困難であった。
細い鋼管に十分な膜厚の耐食皮膜を形成するために、チューブを鋼管内に挿入し端部を形成する方法や回転成型ライニング(特許文献1)といった方法が行われてきた。
【0003】
しかしながら、チューブを鋼管内に挿入し端部を形成する方法では、負圧下で使用した場合、皮膜の接着性が無いため、鋼管の閉塞を生じてしまうという問題があった。
【0004】
回転成型ライニングでは、鋼管を回転させながら加熱を行う設備などの大掛かりな設備を必要とした。また均一な膜厚分布を得ることも困難であった。回転しながら塗装を行う他の方法についても鋼管が多数溶接され既に組みあがった多管式熱交換器のような構造体には応用することが困難であった。
【0005】
上記構造体に用いられる塗装方法として、特許文献2では、偏心二重円環流理論に裏づけされたピグの回転運動を利用した塗装用ピグを管内面に押し付けることにより緻密な塗装膜を形成することが開示されている。しかしながら、この技術はピグを管内面に押し付けて極めて厚い塗膜を一度に形成するため膜厚のばらつきが多く、均一な塗膜を形成するという課題を解決するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−1188号公報
【特許文献2】特許第3452248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フッ素樹脂やその他の焼付け加工可能な熱可塑性樹脂を、大掛かりな設備を必要とせず、鋼管が多数溶接され既に組みあがった構造体の鋼管や長尺の鋼管の内面に対しても、均一で十分な膜厚の塗膜を形成する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、鋼管内でメインブレードに塗料を供給し、前記鋼管内で前記メインブレードを塗料供給側へ移動させることにより前記鋼管の内面に塗膜を形成する鋼管内面の塗装方法であって、前記メインブレードが歯車状の溝部を有し、前記メインブレードの外径が前記鋼管又は前記鋼管内面に形成された皮膜の内径の98〜100%であることを特徴とする鋼管内面の塗装方法に関する。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記メインブレードの外径と前記溝部の底間の径の差が50〜2000μmであることを特徴とする請求項1記載の鋼管内面の塗装方法に関する。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記メインブレードの前記溝部の数が16以上であり、前記溝部が均等角度に配されることを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管内面の塗装方法に関する。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記メインブレードの材質が、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、バイトン(PTFE)、パーフルオロアルコキシエーテル(PFA)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、MFA(ソルベイソレクシス社製 PFA類似品)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ素ゴム(FKM)、天然ゴム(NR)及びニトリルゴム(NBR)のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の鋼管内面の塗装方法に関する。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記メインブレードの塗料供給側でない側に、歯車状の溝部を有する連結ブレードが1つ以上連結されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の鋼管内面の塗装方法に関する。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記連結ブレードの外径が、前記メインブレードの外径よりも小さく且つ前記メインブレードの前記溝部の底間の径よりも大きいことを特徴とする請求項5記載の鋼管内面の塗装方法に関する。
【0014】
請求項7に係る発明は、前記連結ブレードの外径と前記溝部の底間の径の差が50〜2000μmであることを特徴とする請求項5又は6記載の鋼管内面の塗装方法に関する。
【0015】
請求項8に係る発明は、前記連結ブレードの前記溝部の数が16以上であり、前記連結ブレードの前記溝部が均等角度に配されることを特徴とする請求項5乃至7いずれか記載の鋼管内面の塗装方法に関する。
【0016】
請求項9に係る発明は、前記連結ブレードの材質が、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、バイトン(PTFE)、パーフルオロアルコキシエーテル(PFA)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、MFA(ソルベイソレクシス社製 PFA類似品)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ素ゴム(FKM)、天然ゴム(NR)及びニトリルゴム(NBR)のいずれかであることを特徴とする請求項5乃至8いずれか記載の鋼管内面の塗装方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、メインブレードを鋼管内で塗料供給側に移動させることにより、大掛かりな設備を必要とせず、鋼管が多数溶接され既に組みあがった構造体の鋼管や長尺の鋼管に対しても、鋼管内面に十分な膜厚の塗膜を形成することができる。
メインブレードが歯車状の溝部を有することにより、この溝部に塗料が入り込むことにより、鋼管内面に均一な膜厚のウエット膜を形成することができる。
メインブレードの外径が鋼管又は鋼管内面に形成された皮膜の内径の98〜100%であることにより、スムーズにメインブレードを鋼管内に挿入することができる。粘度の低い塗料でも鋼管内面からの塗料の垂れや発泡を防ぐことができ、鋼管内面に均一で十分な膜厚の塗膜を形成することができる。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、メインブレードの外径と溝部の底間の径の差が50〜2000μmであることにより、塗膜が形成される鋼管内面との空間を適切に確保することができる。これにより、十分な膜厚のウエット膜を得ることができ、結果として鋼管内面からの塗料の垂れや発泡を防ぐことができ、鋼管内面に均一で十分な膜厚の塗膜を形成することができる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、メインブレードの溝部の数が16以上であり、溝部が均等角度に配されることにより、鋼管内面との接地点を十分確保できる。これにより、均一なウエット膜を得ることができ、結果として鋼管内面に均一で十分な膜厚の塗膜を形成することができる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、メインブレードの材質が、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、バイトン(PTFE)、パーフルオロアルコキシエーテル(PFA)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、MFA(ソルベイソレクシス社製 PFA類似品)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ素ゴム(FKM)、天然ゴム(NR)及びニトリルゴム(NBR)のいずれかであることにより、メインブレードが塗料に対して耐久性の高いものとなりメインブレードの交換を少なくすることができる。フッ素ゴム(FKM)、天然ゴム(NR)及びニトリルゴム(NBR)等のゴム材料を用いる場合は管が屈曲している場合でも塗装が可能となる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、メインブレードの塗料供給側でない側に、歯車状の溝部を有する連結ブレードが1つ以上連結されていることにより、メインブレードによって形成されたウエット塗膜に残された歯車状溝部の形状を均し、塗膜を平坦にすることができる。
【0022】
請求項6に係る発明によれば、連結ブレードの外径が、メインブレードの外径よりも小さく且つメインブレードの溝部の底間の径よりも大きいことにより、ブレードを鋼管内にスムーズに挿入することができ、メインブレードによって形成されたウエット塗膜に残された歯車状溝部の形状を均し、塗膜を平坦にすることができる。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、連結ブレードの外径と溝部の底間の径の差が50〜2000μmであることにより、メインブレードにより形成された塗膜との空間を適切に確保することができ、これにより十分な膜厚のウエット膜を得ることができ、結果として鋼管内面からの塗料の垂れや発泡を防ぐことができ、鋼管内面に均一で十分な膜厚の塗膜を形成することができる。
【0024】
請求項8に係る発明によれば、連結ブレードの溝部の数が16以上であり、連結ブレードの溝部が均等角度に配されることにより、メインブレードにより形成された塗膜との接地点を十分確保でき、これにより均一なウエット膜を得ることができ、結果として鋼管内面に均一で十分な膜厚の塗膜を形成することができる。
【0025】
請求項9に係る発明によれば、連結ブレードの材質が、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、バイトン(PTFE)、パーフルオロアルコキシエーテル(PFA)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、MFA(ソルベイソレクシス社製 PFA類似品)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ素ゴム(FKM)、天然ゴム(NR)及びニトリルゴム(NBR)のいずれかであることにより、連結ブレードが塗料に対して耐久性の高いものとなり連結ブレードの交換を少なくすることができる。また、メインブレードにより形成された塗膜を傷つけることを防ぐことができ、フッ素ゴム(FKM)、天然ゴム(NR)及びニトリルゴム(NBR)等のゴム材料を用いる場合は管が屈曲している場合でも塗装が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】歯車状の溝部を有するメインブレードによる鋼管内面の塗装方法を表す図である。
【図2】歯車状の溝部を有するメインブレードの形状を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る鋼管内面の塗装方法について説明する。
【0028】
本発明の鋼管内面の塗装方法は、鋼管内で歯車状の溝部を有するメインブレードに塗料を供給し、鋼管内で前記メインブレードを塗料供給側へ移動させることにより前記鋼管の内面に塗膜を形成する鋼管内面の塗装方法である。
【0029】
図1は、歯車状の溝部を有するメインブレードによる鋼管内面の塗装方法を表す図である。(1)はメインブレード、(2)は連結ブレード、(3)は鋼管、(4)は固定軸、(5)は塗料である。
本発明の塗装方法を用いることができる鋼管(3)は、特に限定されるものではないが、SUS304TBSやSUS316TBSに代表されるステンレスサニタリー配管や、SUS304パイプシームレス(TP−S)を好適に用いることができる。
鋼管(3)はシームレスパイプでなければならない。シームレスパイプでない鋼管を用いると溶接のビードが邪魔となり、均一な塗膜が形成されない。
鋼管(3)の内径は、特に限定されるものではないが、メインブレード(1)の歯車状溝部の加工の制約から12mm以上が好ましい。
鋼管(3)の長さは、特に限定されるものではないが、加工の面において定尺である4mから5cmが好ましい。
鋼管(3)の肉厚は、特に限定されるものではない。肉厚が厚いと塗装した塗膜を焼付け加工する際の加熱時間が長くなる。また、肉厚がばらつくとメインブレード(1)とのクリアランスのばらつきも増大するので、このあたりも考慮して選択する必要がある。
【0030】
鋼管(3)の形状は特に限定されず、エルボやU字管でもよい。エルボやU字管の場合は、その曲率に応じてブレードの材質をゴム素材にすることで塗装可能となる。
直管とエルボが連結された形状などで一体として加工することができない場合は、本発明の塗装方法と、粉体塗装やスプレー塗装を併用することで、問題なく塗装することができる。
【0031】
この鋼管(3)にメインブレード(1)を挿入し、メインブレード(1)の片面(挿入側でない)に塗料(5)を供給するが、その前に鋼管内面をブラスト処理などにより粗面化し、次いで鋼管内面をプライマー処理することが好ましい。これにより、焼付け塗装後の皮膜の接着性が向上する。
塗料(5)の供給方法は、重力、加圧、又はメインブレードの移動によるせん断を用いることができるが、加圧により塗料(5)を供給することが好ましい。加圧により塗料粘度を高めることができ、これによりウエット膜の膜厚を増大させることができる。塗料(5)に一定の圧力を負荷する機構を実装することにより、塗膜の粘度が安定し、より均一な塗膜を得ることができる。
【0032】
塗料(5)は、溶媒に樹脂を分散させた分散体、又は溶媒に樹脂が溶解しているものを用いることができる。
塗料(5)の溶媒は、水又はアルコールが主部であることが好ましく、特に高価アルコールであることがより好ましい。高価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。高価アルコールを用いると、塗料の分散性が高く溶剤と樹脂分離も少ないため好ましい。
塗料(5)に含有される樹脂は、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシエーテル(PFA)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、MFA(ソルベイソレクシス社製 PFA類似品)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
この塗料(5)の供給側へ鋼管内でメインブレード(1)を移動させる。この移動方法としては、メインブレード(1)に固定軸(4)を固定しこの固定軸(4)を動かす方法、或いはブレード挿入側(塗料供給の反対側)から空気圧により動かす方法などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
図2は、歯車状の溝部を有するメインブレード(1)の形状を表す図である。
メインブレード(1)の外形形状は円形である。円形であることにより円形の鋼管内面に均一な塗膜を形成することができる。
メインブレード(1)の外径(D1)は、鋼管又は前記鋼管内面に形成された皮膜の内径の98〜100%であることが好ましい。98%未満であると、塗料が鋼管内面から垂れて流れ落ちてしまう虞、或いは塗料が発泡してしまう虞があり好ましくない。100%を超えると、メインブレード(1)を鋼管内にスムーズに挿入することができず、挿入できたとしても前工程で塗膜を形成している場合にその塗膜を削り落としてしまうため好ましくない。メインブレード(1)が可撓性材料でない場合は、100%未満であることが好ましい。
鋼管の内径については、寸法公差及び、塗装前のブラスト処理や内面のケレンによる寸法変化を勘案する必要がある。例えば、SUS304TPS、図面上の外径19mm、肉厚1.2mmの鋼管の場合、計算上の鋼管内径は16.6mmであるが、塗装前の鋼管内径の実寸法を測定したところ16.75mmであり、外径(D1)16.7mmのメインブレードが好適であった。
【0035】
メインブレード(1)は歯車状の溝部(M)を有している。この溝部(M)に塗料が入り込みメインブレード(1)を鋼管内で塗料供給側へ移動させることにより、鋼管内面にウエット塗膜を形成することができる。
D2は溝部底間の直径である。(D1−D2)/2で表される溝部(M)の深さは50〜2000μmであることが好ましい。50μm未満の場合は、鋼管内面や前工程の皮膜との空間が不足し十分な塗膜のウエット膜厚を得ることができない。2000μmを超える場合は、この空間が大きくなりすぎ過大な塗膜のウエット膜厚となり塗料の垂れ、或いは焼付け後の塗料の脱落が生じる。上記課題を解決するためにより好ましくは100〜1000μmとする。
焼付け工程中の塗料の脱落は、塗装前の皮膜をサンドペーパーなどで粗面化することにより起こりにくくなり、その後の塗装のウエット膜厚も大きくなる。
メインブレードの厚みは、特に限定されないが、5〜30mmが好適である。
【0036】
歯車状の溝部(M)は、均等角度で16箇所以上配置されていることが好ましい。溝数が16未満であると鋼管内面や前工程の皮膜との接地点が不足し塗膜のウエット膜厚が不均等になる虞がある。上記課題を解決するためにより好ましくは32箇所以上とする。
歯車状の溝部(M)のブレード厚み方向の形状は、特に限定されないが、ブレード中心軸に対して平行に形成されていることが好ましい。
本発明の鋼管内面の塗装方法において、ブレードは回転する必要はない。溝部(M)がブレード中心軸に対して斜めに形成される場合、メインブレード(1)を移動させると溝部(M)に塗料の流が生じ、その流によりブレードを回転させる力が働く。ブレードが回転すると溝部(M)によって形成されたウエット膜とブレードの外径部が接触するので、十分な膜厚を得ることができない虞がある。よって、歯車状の溝部(M)のブレード厚み方向の形状は、ブレード中心軸に対して平行に形成されていることが好ましい。
但し、粘度の高い塗料を使用する際は、ブレードが回転することにより、塗料が溝部に入り込みやすくなるので、斜めであってもよい。
【0037】
この塗装を繰り返し行うことにより、膜厚の大きな塗膜を形成することができる。この際、膜厚の大きな塗膜を形成するなどの理由で塗装を繰り返し行う場合、前工程で鋼管内面に形成された膜厚を考慮して、後工程の塗装に用いるメインブレード(1)は順次外径(D1)を小さくしていく必要がある。外径(D1)の選択については、塗装されたウエット膜厚と溝部(M)の切り欠き面積と相関があり、これに塗料の不揮発分の体積割合を乗じて確保膜厚を概算することができる。
【0038】
メインブレード(1)の材質としては、特に限定されないが、塗料に対して耐久性を持たせるため耐薬品性の高いものが好ましい。但し、金属では前工程で形成された塗膜を傷つけてしまう虞があるため樹脂が好ましい。
メインブレード(1)の材質として用いられる樹脂の例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、バイトン(PTFE)、パーフルオロアルコキシエーテル(PFA)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、MFA(ソルベイソレクシス社製 PFA類似品)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ素ゴム(FKM)、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
中でも、エルボやU字管の屈曲した鋼管に塗装する場合は、フッ素ゴム(FKM)、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)等のゴム系材料を用いることにより、塗装が可能となる。
【0039】
メインブレード(1)に、メインブレード(1)と同じく歯車状の溝部を有する連結ブレード(2)を1つ以上備えることができる。連結ブレード(2)は、メインブレード或いは前の連結ブレードと中心を合わせ歯車状の溝部(M)が互い違いになるように設置する。
連結ブレード(2)の外径は、メインブレード(1)の外径(D1)未満であって、且つ溝部底間の径(D2)より大きいものが好ましい。これは、メインブレード(1)の溝部(M)によって塗布されたウエット膜を連結ブレードの溝部により変形させることによって、よりウエット膜に歯車状の形状を残しにくくするためである。
連結ブレード(2)は溝部を有さない単に円形の形状としてもよいが、歯車状の溝部を有することにより、より均一な塗膜をより平坦に形成することができ、また後工程のメインブレードとしても用いることができる。
連結ブレード(2)の材質及び溝部の数や形状は、メインブレード(1)と同様のものを用いることができる。
【0040】
メインブレード(1)や連結ブレード(2)を移動させることにより形成されるウエット膜を焼付け塗装することによって、最終的に均一で十分な膜厚の塗膜を鋼管内面に形成することができる。
焼付け塗装の温度や時間は、塗料の種類、ウエット膜の膜厚により適宜決定することができる。
【実施例】
【0041】
以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明に係る鋼管内面の塗装方法は、これらに限定されるものではない。
【0042】
実施例1
鋼管としてSUS304TP−S、外径19mm、肉厚1.2mm、長さ50cmの直管を用い、内面アルミナ#60にてブラスト処理、粗面化した。この時の鋼管内径は16.75mmであった。
【0043】
外径(D1)16.7mm、溝部底間の径(D2)16.3mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.5mm、溝部底間の径(D2)16.1mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを中心を合わせて固定軸を用いて固定し、メインブレードの厚みの半分が鋼管の端部に入るようにセットした。
次いで、フッ素樹脂焼付け塗料用プライマーTC−1100(ダイキン工業株式会社製)をメインブレード上面に流しこみ、固定軸を塗料供給側へ動かして鋼管内の塗料を押し出すように、メインブレード及び連結ブレードを移動させた。
その後、250℃にて30分間、塗料を乾燥し、平均14.2μmの乾燥塗膜を得た。
【0044】
前記工程によりプライマー塗膜が形成された鋼管内に、外径(D1)16.7mm、溝部底間の径(D2)16.3mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.5mm、溝部底間の径(D2)16.1mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを中心を合わせて固定軸を用いて固定し、メインブレードの厚みの半分が鋼管の端部に入るようにセットした。
次いで、FEP粉体塗料であるNC−1539N(ダイキン工業株式会社製)60部をプロピレングリコール90部に分散した塗料をメインブレード上面に流しこみ、固定軸を塗料供給側へ動かして鋼管内の塗料を押し出すように、メインブレード及び連結ブレードを移動させた。
その後、350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
【0045】
次いで、外径(D1)16.6mm、溝部底間の径(D2)16.2mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.4mm、溝部底間の径(D2)16.0mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを用い、同様の塗料および方法にて塗装し、その後350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
【0046】
次いで、外径(D1)16.5mm、溝部底間の径(D2)16.1mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.3mm、溝部底間の径(D2)15.9mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを用い、同様の塗料および方法にて塗装し、その後350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
【0047】
次いで、外径(D1)16.4mm、溝部底間の径(D2)16.0mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.2mm、溝部底間の径(D2)15.8mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを用い、同様の塗料および方法にて塗装し、その後350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
以上の工程により鋼管内に得られた皮膜の膜厚は、プライマー膜厚を含めて平均126μmであった。
【0048】
次いで、外径(D1)16.3mm、溝部底間の径(D2)15.9mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.1mm、溝部底間の径(D2)15.7mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを用い、同様の塗料および方法にて塗装し、その後350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
【0049】
次いで、外径(D1)16.1mm、溝部底間の径(D2)15.7mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)15.9mm、溝部底間の径(D2)15.5mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを用い、同様の塗料および方法にて塗装し、その後350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
以上の工程により鋼管内に得られた皮膜の膜厚は、プライマー膜厚を含めて平均286μmであった。
【0050】
実施例2
鋼管としてSUS304TP−S、外径19mm、肉厚1.2mm、長さ50cmの直管を用い、内面アルミナ#60にてブラスト処理、粗面化した。この時の鋼管内径は16.75mmであった。
【0051】
外径(D1)16.7mm、溝部底間の径(D2)16.3mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.5mm、溝部底間の径(D2)16.1mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを中心を合わせて固定軸を用いて固定し、メインブレードの厚みの半分が鋼管の端部に入るようにセットした。
次いで、特許第4034784号公報の表1に開示されているプライマー組成物の配合例1と同様に、有機チタネートとしてオルガチックスTC−400(マツモトファインケミカル製)、界面活性剤としてトライトンX−100(東洋化学株式会社製)、フッ素樹脂塗料としてPFAを含むEM−514CL(三井デュポンフルオロケミカル株式会社製)及び水を重量比10:1:20:10に配合した塗料に少量の消泡剤を添加し、これをメインブレード上面に流しこみ、固定軸を塗料供給側へ動かして鋼管内の塗料を押し出すように、メインブレード及び連結ブレードを移動させた。
その後、250℃にて30分間、塗料を乾燥し、平均17.9μmの乾燥塗膜を得た。尚、鋼管は塗料の垂れを防止するため予め80℃に加熱して行った。
【0052】
前記工程によりプライマー塗膜が形成された鋼管内に、外径(D1)16.7mm、溝部底間の径(D2)16.3mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.5mm、溝部底間の径(D2)16.1mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを中心を合わせて固定軸を用いて固定し、メインブレードの厚みの半分が鋼管の端部に入るようにセットした。
次いで、MP−501(三井デュポンフルオロケミカル株式会社製 PFA粉体塗料)60部をプロピレングリコール100部に分散した塗料をメインブレード上面に流しこみ、固定軸を塗料供給側へ動かして鋼管内の塗料を押し出すように、メインブレード及び連結ブレードを移動させた。
その後、350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
【0053】
次いで、外径(D1)16.6mm、溝部底間の径(D2)16.2mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.4mm、溝部底間の径(D2)16.0mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを用い、同様の塗料および方法にて塗装し、その後350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
【0054】
次いで、外径(D1)16.5mm、溝部底間の径(D2)16.1mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.3mm、溝部底間の径(D2)15.9mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを用い、同様の塗料および方法にて塗装し、その後350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
【0055】
次いで、外径(D1)16.4mm、溝部底間の径(D2)16.0mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.2mm、溝部底間の径(D2)15.8mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを用い、同様の塗料および方法にて塗装し、その後350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
以上の工程により鋼管内に得られた皮膜の膜厚は、プライマー膜厚を含めて平均93.1μmであった。
【0056】
次いで、外径(D1)16.3mm、溝部底間の径(D2)14.7mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)15.9mm、溝部底間の径(D2)14.3mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを用い、同様の塗料および方法にて塗装し、その後350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
【0057】
次いで、外径(D1)16.1mm、溝部底間の径(D2)14.5mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)15.7mm、溝部底間の径(D2)14.1mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを用い、同様の塗料および方法にて塗装し、その後350℃にて30分間、塗料を焼付け加工した。
以上の工程により鋼管内に得られた皮膜の膜厚は、プライマー膜厚を含めて平均223μmであった。
【0058】
比較例1
鋼管としてSUS304TP−S、外径19mm、肉厚1.2mm、長さ50cmの直管を用い、内面アルミナ#60にてブラスト処理、粗面化した。この時の鋼管内径は16.75mmであった。
【0059】
外径(D1)16.7mm、溝部底間の径(D2)16.3mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードと、外径(D1)16.5mm、溝部底間の径(D2)16.1mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32の連結ブレードとを中心を合わせて固定軸を用いて固定し、メインブレードの厚みの半分が鋼管の端部に入るようにセットした。
次いで、フッ素樹脂焼付け塗料用プライマーTC−1100(ダイキン工業株式会社製)をメインブレード上面に流しこみ、固定軸を塗料供給側へ動かして鋼管内の塗料を押し出すように、メインブレード及び連結ブレードを移動させた。
その後、250℃にて30分間、塗料を乾燥し、平均15.3μmの乾燥塗膜を得た。
【0060】
前記工程によりプライマー塗膜が形成された鋼管内に、外径(D1)14.9mm、溝部底間の径(D2)13.3mm、厚み10mm、歯車状溝部の数32のメインブレードに連結ブレードは連結せずに固定軸を固定し、メインブレードの厚みの半分が鋼管の端部に入るようにセットした。
次いで、FEP粉体塗料であるNC−1539N(ダイキン工業株式会社製)60部をプロピレングリコール90部に分散した塗料をメインブレード上面に流しこみ、固定軸を塗料供給側へ動かして鋼管内の塗料を押し出すように、メインブレード及び連結ブレードを移動させた。
しかし、塗料が十分に流動せず鋼管内面に塗膜を均等に付けることができなかった。
【0061】
以上の結果から、実施例1及び2においてはメインブレードと鋼管内のガタが100μm未満であり、メインブレードの外径が鋼管又は鋼管内面に形成された皮膜の内径の98〜100%であるので、メインブレードと連結ブレードにより鋼管内面に塗料が均等に塗布されるのに対し、比較例1は鋼管内のガタが1mm以上(鋼管内面に対して約89%の直径)であり、ブレードの鋼管内での移動が大きく塗料が均等に塗布されず塗装が困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、半導体製造装置、化学プラントに用いる熱交換器の伝熱管を含む鋼管内の防食、金属イオン溶出防止、汚れ付着防止、生物付着防止に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 メインブレード
2 連結ブレード
3 鋼管
4 固定軸
5 塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管内でメインブレードに塗料を供給し、前記鋼管内で前記メインブレードを塗料供給側へ移動させることにより前記鋼管の内面に塗膜を形成する鋼管内面の塗装方法であって、前記メインブレードが歯車状の溝部を有し、前記メインブレードの外径が前記鋼管又は前記鋼管内面に形成された皮膜の内径の98〜100%であることを特徴とする鋼管内面の塗装方法。
【請求項2】
前記メインブレードの外径と前記溝部の底間の径の差が50〜2000μmであることを特徴とする請求項1記載の鋼管内面の塗装方法。
【請求項3】
前記メインブレードの前記溝部の数が16以上であり、前記溝部が均等角度に配されることを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管内面の塗装方法。
【請求項4】
前記メインブレードの材質が、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、バイトン(PTFE)、パーフルオロアルコキシエーテル(PFA)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、MFA(ソルベイソレクシス社製 PFA類似品)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ素ゴム(FKM)、天然ゴム(NR)及びニトリルゴム(NBR)のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の鋼管内面の塗装方法。
【請求項5】
前記メインブレードの塗料供給側でない側に、歯車状の溝部を有する連結ブレードが1つ以上連結されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の鋼管内面の塗装方法。
【請求項6】
前記連結ブレードの外径が、前記メインブレードの外径よりも小さく且つ前記メインブレードの前記溝部の底間の径よりも大きいことを特徴とする請求項5記載の鋼管内面の塗装方法。
【請求項7】
前記連結ブレードの外径と前記溝部の底間の径の差が50〜2000μmであることを特徴とする請求項5又は6記載の鋼管内面の塗装方法。
【請求項8】
前記連結ブレードの前記溝部の数が16以上であり、前記連結ブレードの前記溝部が均等角度に配されることを特徴とする請求項5乃至7いずれか記載の鋼管内面の塗装方法。
【請求項9】
前記連結ブレードの材質が、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、バイトン(PTFE)、パーフルオロアルコキシエーテル(PFA)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、MFA(ソルベイソレクシス社製 PFA類似品)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ素ゴム(FKM)、天然ゴム(NR)及びニトリルゴム(NBR)のいずれかであることを特徴とする請求項5乃至8いずれか記載の鋼管内面の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−236127(P2012−236127A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105597(P2011−105597)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(391065448)日本フッソ工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】