説明

管内面へのライニング

【課題】安価で、耐酸性及び耐摩耗性のある管内面ライニング層を得る。
【解決手段】回転するヒューム管1をその管軸方向に移動させながら、その管1内面に骨材bと溶融硫黄cを供給して前記回転により混合させ、管内面に、その混合物を溶融硫黄cを骨材bの結合材としてライニングaする。従来、十分なリサイクルがされていなかった石油や天然ガスの脱硫により精製される硫黄等のリサイクルが促進され、その硫黄の使用により、硫黄が有する耐酸性及び耐摩耗性の内面ライニング管1を安価にして得ることができる。その管1には、ダクタイル鋳鉄管やヒューム管のように径方向の力によって変形しにくいものを採用すれば、その変形し難さから、靱性の無い硫黄混合ライニングaでも前記性能を長期に亘って得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒューム管、ダクタイル鋳鉄管等の管の内面にライニングする方法及びその方法により内面ライニングした管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、管内面の保護又は強化のために、その内面にライニングを施工することが行われている。そのライニングは、鉄管については、ダクタイル鋳鉄管を問わず、内面の防食性を向上するために、モルタルライニング、樹脂ライニング、エポキシ粉体塗装などが挙げられ、ヒューム管については、樹脂ライニングなどがある他、別材質の管を内側へ嵌め込んで二重管とすることも行われている。
また、これらのライニング方法としては、スプレー法、遠心投射法、トラフ法、圧送法など多様な種類がある。
【0003】
そのライニング材は、例えば、工業的に多く適用されているレジンモルタルライニングでは、骨材として、シリカ、タンカル、クレー、シリカ粉、硫酸バリウム、珪砂等が使用されている。
また、その骨材の結合材としては、例えば、ポリウレタン樹脂,ポリエステル樹脂,速硬化エポキシ樹脂等が使用されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平05−68918号公報
【0004】
一方、今日のリサイクル要請の下、石油や天然ガスの脱硫により精製した硫黄等を、廃棄するのではなく、工業材料とする技術が開発され、その一つとして、結合材に使用する技術が示されている。この結合材としての硫黄組成物は、硫黄に所要量の樹脂を混合したものである(特許文献2段落0002参照)。
【特許文献2】特開2002−69188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記内面ライニング管において、例えば、下水道用途に用いられる管材には、耐酸性等が要求され、そのライニング材としてエポキシ樹脂などが使用されている。しかし、コストダウンを要求される今日、エポキシ樹脂に対してより安価な材料が要求されている。
また、長期に亘って安定した下水道を確保するために(耐久年数を長くするために)、ライニング表面の耐摩耗性のさらなる向上が望まれている。
一方、上記のように、石油や天然ガスの脱硫により精製した硫黄の用途の開発が進められているが、その精製により生じる硫黄の量に比べれば、その用途への使用量は十分ではない。
【0006】
この発明は、上記の実情に鑑み、安価で、耐酸性及び耐摩耗性のある管内面ライニング層を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記の課題を解決するために、硫黄が耐酸性に優れ、かつ、耐摩耗性にも優れていることに着目し、その溶融硫黄を、骨材等のライニング主要材の結合材とすることとしたのである。
硫黄は、従来から、結合材として使用され、その結合材である溶融硫黄と骨材が混合してライニング層を形成すれば、その溶融硫黄が骨材の表面にコーティングされ、骨材を結合させると共に、耐酸性及び耐摩耗性を付与する。また、硫黄のみのライニングに比べて、骨材の混入により、そのライニング層の収縮性を向上させる(収縮し難くなる)。これにより、ライニング表面は、長期に亘って有効なライニング層を維持する。
【0008】
なお、通常、結合材は被結合材に比べて重量比が少ないと考えられ、上述のように、この発明は、溶融硫黄を骨材等のライニング主要材の結合材としており、被結合材である骨材が主要材であることから、その骨材に比べて結合材である溶融硫黄の重量比は少ないと考えられる。しかし、この発明では、溶融硫黄は、単に、骨材を結合させる作用を持っておれば、その比は何れでも良い。例えば、溶融硫黄が骨材との重量比において多い場合もある。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、溶融硫黄を骨材等のライニング主要材の結合材としたので、従来、十分なリサイクルがされていなかった硫黄のリサイクルが促進され、その硫黄の使用により、耐酸性及び耐摩耗性の内面ライニング管を安価にして得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明に係る管内面ライニング方法の実施形態としては、回転する管の内面に、その管の管軸方向へ移動しながら骨材の一定量を供給するとともに、その骨材の供給と同時に、その骨材の供給部位に溶融した硫黄を供給し、前記管の回転により、前記骨材と溶融硫黄を混合させ、その混合物を、前記溶融硫黄を骨材の結合材として前記管の内面にライニングする構成を採用することができる。
この構成では、骨材の供給と同時に、その供給部位に溶融した硫黄が供給されるため、管の回転により、その骨材と溶融硫黄が遠心力により円滑に混合し、骨材の表面に溶融硫黄がコーティングされ、骨材を結合させるとともに、その混合物が管の内面に円滑にライニングされる。
【0011】
上記実施形態では、骨材の供給と同時に、その供給部位に溶融した硫黄を供給したが、回転する管の内面に溶融した硫黄を供給した後、その溶融硫黄の供給部位に骨材の一定量を供給するようにすることもできる。
この構成では、溶融硫黄がコーティングされた管内面に骨材が供給されることとなり、骨材はその溶融硫黄によって管内面に接着された状態で、溶融硫黄と混合することとなり、骨材が円滑に結合されるとともに、その混合物が管の内面に円滑にライニングされる。
上記溶融硫黄は、固形硫黄を加熱して溶融しつつ管の内面に供給したり、その供給前に固形硫黄を加熱溶融してストックし、そのストックした溶融硫黄を管の内面に供給したりする。後者の場合、その溶融硫黄は加熱などして保温し、その流動性のある溶融硫黄を管内面に円滑に供給できるようにすることが好ましい。
【0012】
なお、あらかじめ溶融硫黄と骨材を混合して硫黄固化体とし、その混合物(硫黄固化体)を管内面に供給して管内面にコーティングすることもできる。この場合も、両者を混合したのち、コーティングに適した流動性を保つようにするため、その供給前の混合物を加熱などして保温し、その流動性のある混合物を管内面に供給するようにすることが好ましい。
【0013】
上記硫黄は、石油や天然ガスの脱硫により精製した硫黄や天然硫黄そのものでも良いが、その硫黄に改質剤を溶融混合したもの(改質硫黄)も含まれる。例えば、その改質剤として特許文献2に記載のジシクロペンタジエン等の樹脂を使用する。このように予め改質剤を添加(混合)したものとすれば、硫黄が発火などしない安定したものとすることができると共に、その改質剤が溶融されることにより、骨材の結合を助けて、強固なライニング層を得ることができる。
また、上記硫黄固化体は、骨材を溶融混合したものとすれば、前もって骨材が含まれていることにより、ライニング材全体の骨材の結合力が向上し、より強固なライニング層を得ることができる。
その骨材としては、石炭灰、珪砂、シリカ粉、石英粉、砂利、砂等のシリカが主成分であるものを採用する。
【0014】
なお、溶融硫黄又は溶融硫黄固化体を管内面に供給することに代えて、加熱した固形硫黄又は硫黄固化体の粒状体又は粉状体を管内面に供給するとともに、加熱した骨材を供給して、管内面において、その固形硫黄又は硫黄固化体を完全に溶融して骨材の結合材とすることもできる。
【0015】
上記硫黄又は硫黄固化体の上記骨材の供給部位への供給は、各種のノズルによって行えば良いが、その際、吹きつけ状態にすると、骨材の表面又は管内面に均一にその硫黄等がコーティングされる。
【0016】
このような管内面ライニング方法により内面がライニングされた管は、従来、十分なリサイクルがされていなかった硫黄を使用した、安価な耐酸性及び耐摩耗性の内面ライニング層を有するものとなる。
【実施例】
【0017】
図1に一実施例を示し、この実施例は、口径500mmのヒューム管1の内面にライニング(層)aを形成するものである。そのヒューム管1は、台車2上の回転ローラ3に回転可能に支持され、レール4上を台車2が走行することによって回転しつつ管軸方向e(矢印方向)に移動する。また、ライニング層aは骨材bと硫黄固化体cとからなるライニング材により構成される。
【0018】
レール4の後方(図の右側)には固定台5を介して骨材bの収納用ホッパ6が設けられ、このホッパ6内にスクリュウ羽根7が設けられている。スクリュウ羽根7にはスクリュウコンベア8が連続され、このスクリュウコンベア8はホッパ6からレール4に向かって延びており、調整モータ9により、スクリュウ羽根7及びスクリュウコンベア8が一体に回転して、ホッパ6内の骨材bが前方(図の左側)に送られる。スクリュウコンベア8は固定台5上の支持台10により片持ち梁状に支持され、その先端の排出口8aはヒューム管1内に至ってその管1の下面に向いている。
【0019】
スクリュウコンベア8にはそのホッパ6側から先端排出口8aに至る配管11が添えられている。この配管11は、図3に示すように2本の管11a、11bからなり、一方の管11aに溶融硫黄c、他方の管11bに石炭灰cがそれぞれ圧送され、その配管1の先端のスクリュウミキサー12でその溶融硫黄cと石炭灰cが混合調整されて噴出ノズル13から下向きに噴出される。溶融硫黄cと石炭灰cは、混練したのち、一本の配管11でノズル13に送り込むこともできる。そのとき、硫黄cと石炭灰cを混練したもの(常温固形物)を溶融してノズル13に送るようにもし得る。硫黄cと石炭灰cを混練したもの(硫黄固化体c)は、その硫黄cが石油や天然ガスの脱硫により精製した硫黄に改質剤であるジシクロペンタジエンを溶融混合しており、発火性が抑えられた安全(安定)な物(非危険物)である。
【0020】
この実施例は以上の構成であり、つぎに、その作用について説明すると、図1に示すように、台車2を移動させてスクリュウコンベア11の排出口8a(噴出ノズル13)をヒューム管1の左端(図の左端)に位置させる。この状態から、ヒューム管1を回転させ、ホッパ6から骨材bをスクリュウコンベア8の排出口8aに送り込んで管1内面に供給するとともに、配管11の噴出ノズル13からライニング材cを噴出させ、台車2を所要の速度で左方向に移動させる。
この回転するヒューム管1を管軸方向へ移動させながら、その内面への骨材bの一定量の供給及び溶融硫黄固化体cの供給(噴射)により、ヒューム管1内面の全周面に亘ってライニングaが施される。
【0021】
この実施例の装置において、管1:ダクタイル鋳鉄管(150mmφ、長さ:3000mm)、骨材b:珪砂(CS−35,平均粒径=300μm)、 硫黄固化体c:(硫黄c:石炭灰c=20:10重量比)=MS、 硫黄固化体c:(硫黄c:石炭灰c=15:10重量比)=MS2とし、珪砂(骨材)bを電気炉で180〜200℃に加熱、硫黄固化体cを電気炉で180〜200℃に加熱溶融し、その加熱珪砂bと溶融硫黄固化体cにより、プライマーなしで、ライニングaの厚さ:3mmとなるようにした実験例の結果を表1〜3に示す。溶融硫黄固化体cの管内面への噴射時の温度は150℃以上になるようにした。
【0022】
表1において、成形性は、流れ性、収縮性、平滑性、ピンホール等で検証し、その流れ性は目視、ピンホールはピンホールディテクターにより確認した。
表2は扁平試験結果であり、管1をリング状に切断し、そのリング片にアムスラー試験機により荷重を負荷し、ダイヤルゲージでたわみ量、目視により、クラックの有無を確認した。
表3は、ライニングaの管1内面への密着性試験結果であり、アドヒージョンテスター(エルコメータ)によりその密着性を測定した。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
この実験例では、ライニング層aの表面は平滑面であり、また、収縮もなく、それら及び上記各表の各結果から、この発明に係る内面ライニング管1は十分に満足いけるものであることが理解できる。また、このライニング材aは、硫黄を多く含むことから、その硫黄の耐酸性・耐摩耗性を有するものである。
【0027】
因みに、管1がヒューム管の場合、通常の使用態様では、扁平試験のような扁平力が働くことは希である。このため、硫黄混合物からなるライニング材であっても、クラックが生じる恐れは少ない。この発明に係るヒューム管1は下水管として有効である。下水管であると、硫黄の性質が問題とならないからである。
【0028】
上記実施例は、骨材bと硫黄固化体cを同時に管内面に供給(噴射)したが、溶融した硫黄固化体cを供給した後、その供給部位に骨材bの一定量を供給するようにすることもできる。硫黄固化体cに代えて、硫黄cのみを使用することもできる。その際、硫黄cの改質剤の溶融混合の有無も任意である。
また、あらかじめ溶融硫黄固化体c等(c又c)と骨材bを混合し、その混合物aを管1内面に供給して管内面にコーティングすることもできる。さらに、溶融硫黄固化体c等を管1内面に供給することに代えて、加熱した硫黄固化体c等の粒状体又は粉状体を管1内面に供給するとともに、加熱した骨材bを供給して、管内面において、その硫黄固化体c等を完全に溶融して骨材bの結合材としてコーティングすることもできる。
【0029】
なお、管1をその管軸方向eに移動させずに、スクリュウコンベア8側をその管軸方向eに移動させて、回転する管1の内面に、その管1の管軸方向eへ移動しながら骨材b及び溶融硫黄固化体c等を供給するようにすることもできることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】一実施例に係る装置の概略正面図
【図2】図1のX−X線断面図
【図3】図1の要部拡大図
【図4】一実施例に係る内面ライニング管の切断側面図
【符号の説明】
【0031】
a ライニング(層)
b 骨材
c 硫黄固化体
硫黄固化体をなす硫黄
硫黄固化体をなす石炭灰
1 管(ダクタイル鋳鉄管、ヒューム管)
2 台車
6 骨材ホッパ
8 スクリュウコンベア
11 硫黄固化体用配管
12 スクリュウミキサー
13 硫黄固化体噴出ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する管(1)の内面に、その管(1)の管軸方向(e)へ移動しながら骨材(b)の一定量を供給するとともに、その骨材(b)の供給と同時に、その骨材(b)の供給部位に溶融した硫黄を供給し、前記管(1)の回転により、前記骨材(b)と溶融硫黄を混合させ、その混合物を、前記溶融硫黄を骨材(b)の結合材として前記管(1)の内面にライニング(a)することを特徴とする管内面ライニング方法。
【請求項2】
回転する管(1)の内面に、その管(1)の管軸方向(e)へ移動しながら溶融した硫黄を供給した後、その溶融硫黄の供給部位に骨材(b)の一定量を供給し、前記管(1)の回転により、前記骨材(b)と溶融硫黄を混合させ、その混合物を、前記溶融硫黄を骨材(b)の結合材として前記管(1)の内面にライニング(a)することを特徴とする管内面ライニング方法。
【請求項3】
上記硫黄に代えて、その硫黄に骨材(c)を溶融混合した硫黄固化体(c)としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の管内面ライニング方法。
【請求項4】
上記硫黄又は硫黄固化体(c)の上記骨材(b)の供給部位への供給を吹きつけにより行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の管内面ライニング方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の管内面ライニング方法により内面ライニングされた管。
【請求項6】
上記管(1)が、ヒューム管又はダクタイル鋳鉄管であることを特徴とする請求項5に記載の管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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