説明

管用の潤滑油除去装置

【課題】管内面の潤滑油を効果的に除去しうる潤滑油除去方法の提供。
【解決手段】鋼管Pを、潤滑油除去装置1のエアノズル2の前方に、エアノズル2の中心軸と平行に位置させる工程と、エアノズル2を、その中心軸が上記鋼管Pの中心軸と一致するように、その空気噴出方向に直行する面内において互いに直行するX軸方向及びZ軸方向軸方向に移動させる工程と、エアノズル2を前進させて、その先端部分を鋼管Pの先端に接触させるか又は近接させる工程と、エアノズル2から空気を噴射させる工程とを含んでおり、上記潤滑油除去装置1が、上記エアノズル2と、このエアノズル2に空気を供給するための空気供給管5と、エアノズル2を、その空気噴出方向に沿って前後に移動させるための作動シリンダ3と、エアノズル2を、上記X軸方向及びY軸方向に移動させるためのXY架台4とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管用の潤滑油除去装置及び管の内面の潤滑油除去方法に関する。さらに詳しくは、例えば、コールドピルガー圧延によって圧延された鋼管等の管の内面の潤滑油を除去する装置、及び、この装置が用いられた管内面の潤滑油除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
寸法精度の優れた鋼管を得る方法として、コールドピルガー圧延が知られている。コールドピルガー圧延は、熱間圧延された母材(鋼管)が、その内側に挿入されたマンドレルと、外側に配置された一対のロールダイスとによって冷間圧延されるものである。冷間圧延においては、鋼管の内面外面共に潤滑油が供給される。鋼管の内面に供給される潤滑油は、マンドレルを保持するロッドの外周面に形成された開口から流出する。圧延時、鋼管とマンドレルとの間には加工熱及び摩擦熱が発生する。潤滑油により、鋼管とマンドレルとの摩擦力が軽減される。潤滑油はさらに、加工熱及び摩擦熱を吸収し、鋼管及びマンドレルを冷却する役割も果たす。潤滑油は、圧延後も鋼管の内面に残留する。鋼管が圧延装置から搬出されると、残留する潤滑油も装置外に持ち出される。鋼管から漏れ出した潤滑油は、周囲を汚す。
【0003】
圧延後の鋼管には熱処理が施されることがある。この熱処理により、残留する潤滑油が炭化する。炭化した潤滑油に含まれる鉄分は、鋼管との間でマクロ電池効果を発生させる。これにより、鋼管の腐食が誘発される。従って、冷間圧延された鋼管の内面及び外面に付着している潤滑油は、種々の方法によって除去されている。例えば、鋼管の外面に付着した潤滑油はエアブロー等によって吹き飛ばされ、内面に付着した潤滑油は、ゴム等によって掻き取られる(特開2000−167607公報及び特開2007−105574公報参照)。
【0004】
鋼管内面の潤滑油の除去にもエアブローが用いられることがある(特開2007−105574公報参照)。従来、コールドピルガー圧延ラインに設置された潤滑油除去用のエアブロー装置には、一般の工場送気が使用される。エアブロー装置は、この工場送気を噴射するためのエアノズルを備えている。このエアノズルは、一般的にコールドピルガー圧延ラインの下流端近傍に設置された完成品テーブルの傍らに固定されている。上流のロールスタンドにおいて圧延された鋼管は、完成品テーブルにおいて切断され、上記エアノズルの前方に順次搬送されてくる。各鋼管は、エアノズルの前方において、エアノズルとほぼ同軸状に配置され、上から押さえられて仮固定される。その状態で、上記エアノズルから鋼管の端部に向けて空気が噴射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−167607公報
【特許文献2】特開2007−105574公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の潤滑油除去装置では、エアノズルの先端と、搬送されてきた状態の鋼管の先端とが、離間している。搬送されてきた鋼管がエアノズルに衝突することによってエアノズルの曲がり等の損傷が発生することを防止するためである。エアノズルと鋼管とが離間していると、エアノズルから噴射された空気は、その全部が鋼管の内部に送り込まれることがない。噴射された空気の一部は鋼管の外に逸散する。かかる従来のエアノズルによる潤滑油除去の効率は低いものとなる。
【0007】
本発明の目的は、管内面の潤滑油を効果的に除去することができる管用の潤滑油除去装置の提供、及び、この装置が用いられた潤滑油除去方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る潤滑油除去装置は、
エアノズルと、
このエアノズルに空気を供給するための空気供給管と、
上記エアノズルを、その空気噴出方向に沿って前後に移動させるための進退駆動装置と、
上記エアノズルを、その空気噴出方向に直行する面内において互いに直行する二方向に移動させるための二軸移動機構とを備えている。
【0009】
かかる潤滑油除去装置によれば、エアノズルを処理対象の管に対して位置決めすることが可能となる。具体的には、エアノズルの先端を管の端部の真正面に位置させたうえで、エアノズルを前進させて、管の端部に当接若しくは近接させること、又は、管の内部に若干挿入させることも可能となる。その結果、エアノズルから噴射される空気のほとんどを処理対象の管の内部に噴射することが可能となる。
【0010】
上記エアノズルの先端部の外周面がテーパ状に形成されているのが好ましい。エアノズルを管に対して同軸状に位置合わせしやすくなるからである(図4(b)参照)。
【0011】
本発明に係る管内面の潤滑油除去方法は、
管を、潤滑油除去装置のエアノズルの前方に、エアノズルの中心軸と平行に位置させる工程と、
上記エアノズルを、その中心軸が上記管の中心軸と一致するように、空気噴出方向に直行する面内において互いに直行する二方向に移動させる工程と、
上記エアノズルを前進させて、その先端部分を上記管の先端に接触させるか又は近接させる工程と、
エアノズルから空気を噴射させる工程とを含んでおり、
上記潤滑油除去装置が、
上記エアノズルと、
このエアノズルに空気を供給するための空気供給管と、
上記エアノズルをその空気噴出方向に沿って前後に移動させるための進退駆動装置と、
上記エアノズルを上記二方向に移動させるための二軸移動機構とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る潤滑油除去装置では、エアノズルから噴射される空気のほとんどを処理対象の管の内部に噴射することができる。その結果、管の内周面の潤滑油が十分に除去されうる。この潤滑油除去装置によって潤滑油除去処理がなされた管は、熱処理がなされた場合でも、潤滑油の炭化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る潤滑油除去装置を示す正面図である。
【図2】図2は、図1の潤滑油除去装置の平面図である。
【図3】図3は、図1の潤滑油除去装置の左側面図である。
【図4】図4(a)は、図1の潤滑油除去装置のエアノズルの作動状態の一例を示す縦断面図であり、図4(b)は、図1の潤滑油除去装置のエアノズルの作動状態の他の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面が参照されつつ、実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0015】
図1から図3に示された潤滑油除去装置(以下、単に装置ともいう)1は、エアブローによって鋼管内面の潤滑油を除去するものである。この装置1は、エアノズル2と、このエアノズル2を、その空気噴出方向に沿って前後に移動させるための進退駆動装置である作動シリンダ3と、上記エアノズル2を、その空気噴出方向に直行する面内において互いに直行する二方向、すなわち、空気噴出方向に対して直角をなすX軸方向、並びに、空気噴出方向及びX軸方向の双方に対して直角をなすY軸方向に移動させるための二軸移動機構(以下、XY架台ともいう)4とを備えている。
【0016】
上記エアノズル2は円筒状を呈し、その先端の周縁はいわゆる面取りがなされてテーパ状を呈している。エアノズル2には空気を供給するための空気供給管5が接続されている。上記作動シリンダ3のロッド3aには第一ブラケット6が固定されている。この第一ブラケット6に、エアノズル2がロッド3aの向きと同じ向きに取り付けられている。かかる構成によれば、ロッド3aの進退によってエアノズル2がその中心軸方向(仮にZ軸方向とする)に前後動させられる。Z軸方向に移動した後のエアノズル2は、図3において二点鎖線で示されている。本実施形態では、上記作動シリンダ3として空気圧式のガイド付きの薄型シリンダが用いられている。作動シリンダ3としては空気圧式の他、電動式、油圧式等が採用されうる。また、ソレノイドが採用されてもよい。
【0017】
図3に示されるように、上記作動シリンダ3は第二ブラケット7を介して第一スライドベース8に取り付けられている。この第一スライドベース8の雌ねじ部8aが、水平に配置された第一送りねじ棒9に、回転不能且つ直進可能に螺合されている。第一スライドベース8における、第二スライドベース12(後述する)側の面に、ガイドプレート8bが突設されている。このガイドプレート8bが第二スライドベース12に当接していることにより、第一スライドベース8は、第一送りねじ棒9が回転したときに共回りすることが防止される。
【0018】
図2に示されるように、上記第一送りねじ棒9は、その両端部においてそれぞれ第一軸受け10によって回転可能且つ直進不能に支持されている。第一送りねじ棒9の一端部には、人の手による回転操作用のハンドル11が取り付けられている。このハンドル11を用いて、第一送りねじ棒9が正逆方向に回転操作されることにより、第一スライドベース8、ひいてはエアノズル2が水平方向(X軸方向)に移動させられる。X軸方向に移動した後のエアノズル2は、図2において二点鎖線で示されている。エアノズル2が所望位置に移動させられた後、図示しないロック装置により、その位置で第一送りねじ棒9がロックされる。
【0019】
図2に示されるように、上記第一軸受け10、ひいては第一送りねじ棒9は、第二スライドベース12に取り付けられている。この第二スライドベース12の雌ねじ部12aが、鉛直に配置された第二送りねじ棒13に、回転不能且つ直進可能に螺合されている。第二スライドベース12における機台15(後述する)側の面に、ガイドプレート12bが突設されている。このガイドプレート12bが機台15に当接していることにより、第二スライドベース12は、第二送りねじ棒13が回転したときに共回りすることが防止される。
【0020】
図3に示されるように、上記第二送りねじ棒13は、その両端部においてそれぞれ第二軸受け14によって回転可能且つ直進不能に支持されている。この第二軸受け14は機台15に固定されている。第二送りねじ棒13の一端部には、人の手による回転操作用のハンドル11が取り付けられている。このハンドル11を用いて第二送りねじ棒13が正逆方向に回転操作されることにより、第二スライドベース12、ひいては第一スライドベース8及びエアノズル2が鉛直方向(Y軸方向)に移動させられる。Y軸方向に移動した後のエアノズル2は、図3において二点鎖線で示されている。エアノズル2が所望位置に移動させられた後、図示しないロック装置により、その位置で第二送りねじ棒13がロックされる。
【0021】
以上のごとく構成された潤滑油除去装置1によれば、エアノズル2がその中心軸方向(Z軸方向)、X軸方向及びY軸方向に移動させられうる。この装置1の前方に順次搬送されてきた鋼管P(図3)は、エアノズル2の中心軸とほぼ平行となっており、その姿勢のままその位置で仮固定される。このとき、エアノズル2の先端は、鋼管Pの対向する端部と、その中心軸方向にわずかな距離だけ離間している。この鋼管Pに対してエアノズル2が同軸状となるように、上記両送りねじ棒9、13のハンドル11が操作される。次いで、作動シリンダ3が動作してエアノズル2が前進し、その先端が鋼管Pの先端に当接する(図4(a)参照)。又は、鋼管Pの内径が比較的大きい場合には、エアノズル2の先端のテーパ部が鋼管Pの内径側にわずかに進入して鋼管Pに接触する(図4(b)参照)。次いで、エアノズル2から所定時間空気が噴射され、鋼管Pの内面から潤滑油が吹き飛ばされる。図4では、理解容易のため、エアノズル2の先端のテーパが図2及び図3におけるより長く示されている。
【0022】
上記実施形態では、機台15に鉛直方向の第二送りねじ棒13が取り付けられ、この第二送りねじ棒13の回転によって第一送りねじ棒9が上下動する構成が例示されている。しかし、かかる構成には限定されない。逆に、機台15には水平方向の第一送りねじ棒9が取り付けられ、この第一送りねじ棒9の回転によって第二送りねじ棒13が水平方向に移動する構成も容易に採用されうる。
【0023】
上記実施形態では、第一送りねじ棒9及び第二送りねじ棒13に、回転操作のためのハンドル11が取り付けられている。しかし、かかる構成には限定されない。たとえば、両送りねじ棒9、13の回転駆動のために、サーボモータ等の駆動装置が採用されてもよい。上記実施形態におけるXY架台4として、送りねじ棒9、13と雌ねじ部8a、12aとからなる送りねじ機構が採用されている。しかし、かかる構成には限定されない。たとえば、ラックとピニオンギアとからなる機構等が採用されてもよい。
【0024】
上記空気供給管5は、一般的な工場送気の配管に直接接続されている。この空気供給管5からは、他の空気作動機器への他の空気供給管は枝分かれしていない。従って、エアノズル2へ送られてくる空気の圧力は、他の空気作動機器の運転によって大きく変動するおそれはない。工場送気を使用せず、本装置1専用のエアブロワやコンプレッサを備えてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0026】
鋼管内を、所定時間エアブローした後の残留潤滑油量を測定する実験を行った。まず、エアノズルが1台用意された。このエアノズルへの供給空気圧力は2MPaである。内径が20mm、長さが5000mmの鋼管が、実施例用に10本、及び、比較例用に10本用意された。いずれの鋼管の内面にもほぼ均一に質量100gの塩素系潤滑油が付着している。
【0027】
[実施例]
実施例用の10本の鋼管に対しては、エアノズルが同軸状に配置されたうえで、鋼管の端部にエアノズルの先端が当接させられた。このエアノズルからのエアブローが10秒間実施された後に残留している潤滑油の質量が計測され、次いでさらに10秒間エアブローが実施された後に残留している潤滑油の質量が計測され、次いでさらに10秒間エアブローが実施された後に残留している潤滑油の質量が計測され、次いでさらに10秒間エアブローが実施された後に残留している潤滑油の質量が計測された。すなわち、エアブローが10秒間、20秒間、30秒間、及び、40秒間行われた時点の残留潤滑油の質量がそれぞれ計測された。この残留潤滑油の質量は、鋼管の内部に布を通し、潤滑油を含むことによって増加したこの布の重量を計測することによって得た。10本の実施例の各時点での残留潤滑油量の平均値が表1に示されている。
【0028】
[比較例]
比較例用の10本の鋼管に対しては、エアノズルが同軸状に配置されたうえで、鋼管の端部からエアノズルの先端が35mm離間させられた。このエアノズルからのエアブローが10秒間実施された後に残留している潤滑油の質量が計測され、次いでさらに10秒間エアブローが実施された後に残留している潤滑油の質量が計測され、次いでさらに10秒間エアブローが実施された後に残留している潤滑油の質量が計測され、次いでさらに10秒間エアブローが実施された後に残留している潤滑油の質量が計測された。すなわち、エアブローが10秒間、20秒間、30秒間、及び、40秒間行われた時点の残留潤滑油の質量がそれぞれ計測された。この残留潤滑油の質量の計測要領は、上記実施例に対するものと同じである。10本の比較例の残留潤滑油量の平均値が表1に示されている。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示されるように、実施例の方法によれば、比較例の方法に比べて潤滑油の残留量が少ない。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る潤滑油除去装置は、種々の管の製造に用いられうる。
【符号の説明】
【0032】
1・・・潤滑油除去装置
2・・・エアノズル
3・・・作動シリンダ
4・・・XY架台
5・・・空気供給管
6・・・第一ブラケット
7・・・第二ブラケット
8・・・第一スライドベース
9・・・第一送りねじ棒
10・・・第一軸受け
11・・・ハンドル
12・・・第二スライドベース
13・・・第二送りねじ棒
14・・・第二軸受け
15・・・機台
P・・・鋼管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアノズルと、
このエアノズルに空気を供給するための空気供給管と、
上記エアノズルを、その空気噴出方向に沿って前後に移動させるための進退駆動装置と、
上記エアノズルを、その空気噴出方向に直行する面内において互いに直行する二方向に移動させるための二軸移動機構とを備えた管用の潤滑油除去装置。
【請求項2】
上記エアノズルの先端部の外周面がテーパ状に形成されている請求項1に記載の潤滑油除去装置。
【請求項3】
管の内面の潤滑油を除去する方法であって、
管を、潤滑油除去装置のエアノズルの前方に、エアノズルの中心軸と平行に位置させる工程と、
上記エアノズルを、その中心軸が上記管の中心軸と一致するように、空気噴出方向に直行する面内において互いに直行する二方向に移動させる工程と、
上記エアノズルを前進させて、その先端部分を上記管の先端に接触させるか又は近接させる工程と、
エアノズルから空気を噴射させる工程とを含んでおり、
上記潤滑油除去装置が、
上記エアノズルと、
このエアノズルに空気を供給するための空気供給管と、
上記エアノズルをその空気噴出方向に沿って前後に移動させるための進退駆動装置と、
上記エアノズルを上記二方向に移動させるための二軸移動機構とを備えている、管内面の潤滑油除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−177717(P2011−177717A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41374(P2010−41374)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)