説明

管腔形態トレーサ

【課題】体液の遮断を防ぎつつ管腔内部を描写し得る管腔形態トレーサを提供する。
【解決手段】管腔形態トレーサ10は、可撓性を有する長尺体100と、長尺体から放射状に伸びた開状態で複数設けられ、開状態から長尺体に向かって倒れた閉状態に弾性変形可能な開閉部102と、一端が開閉部に接続し、他端が長尺体又は開閉部に接続したX線造影性ワイヤ104と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管腔内の形態を描写するための管腔形態トレーサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば特許文献1に挙げられるように、管腔内に導入したバルーンを拡張し、管腔内部の形状に合わせてバルーンを変形させることによって、経皮的に管腔内部の形態や寸法を確認・測定する手技が提案されており、このような手技によって、エコーやX線造影による一般的な手技では困難な管腔内の細かな描写の実現が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0009746号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、バルーンを拡張する従来の技術では、バルーンが管腔に密着してこれを必ず塞ぐため、血液等の体液の流れが遮断される課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、体液の遮断を防ぎつつ管腔内部を描写し得る管腔形態トレーサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の管腔形態トレーサは、可撓性を有する長尺体と、当該長尺体から放射状に伸びた開状態で複数設けられ、前記開状態から前記長尺体に向かって倒れた閉状態に弾性変形可能な開閉部と、一端が前記開閉部に接続し、他端が前記長尺体又は前記開閉部に接続したX線造影性ワイヤと、を有する。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成した本発明に係る管腔形態トレーサによれば、X線造影性ワイヤが開閉部によって支持されつつ管腔内部に押し当てられ、管腔内部の形状に合わせて変形するとともに、開閉部同士の間、開閉部とX線造影性ワイヤとの間、及びX線造影性ワイヤ同士の間に存在する隙間を体液が流れるため、体液の遮断を防ぎつつ管腔内部をX線造影によって描写し得る。
【0008】
また、前記X線造影性ワイヤの長さが前記開閉部の長さより長ければ、X線造影性ワイヤが管腔内部のより広い範囲に接し易く、また、管腔内部の形状に合わせて変形し易いため、広範囲かつ正確に管腔内部を描写できる。
【0009】
また、前記X線造影性ワイヤの曲げ剛性が前記開閉部の曲げ剛性より小さいと、開閉部の変形が抑制されてX線造影性ワイヤを管腔に密着させ易く、また、X線造影性ワイヤが管腔内部の形状に合わせて変形し易いため、管腔内部を正確に描写できる。
【0010】
また、前記X線造影性ワイヤが、前記開状態において、前記長尺体の先端側、又は当該先端側と反対の基端側に向かって凸となるように膨らんで曲がっていれば、長尺体の単純な進退移動によってX線造影性ワイヤが管腔内部に密着するため、手技が容易である。
【0011】
また、前記X線造影性ワイヤの前記一端が、前記開閉部の先端に接続し、前記X線造影性ワイヤが、前記開状態において、前記長尺体に接続した前記開閉部の基端から前記開閉部の先端に向かう方向に凸となるように膨らんで曲がっているようにすれば、開状態において、開閉部の先端から伸びて膨らむように曲がったX線造影性ワイヤの部位が管腔に接し、開閉部の先端によって管腔が突かれ難いため、安全性に優れる。
【0012】
また、前記X線造影性ワイヤが超弾性合金を含むようにすれば、変形し易く、また復元性に優れるため、管腔内部を繰り返し正確に描写できる。
【0013】
また、前記X線造影性ワイヤの表面が、X線造影性金属のコーティングによって形成されているようにすれば、X線造影性金属がコーティングされる基材の特性を生かしつつ、X線造影性を付与できる。
【0014】
また、前記長尺体、前記開閉部、及び前記X線造影性ワイヤのうちの少なくとも1つの表面に潤滑剤が塗布されているようにすれば、これらと管腔との間の摩擦抵抗が低減されるため、管腔内への導入が容易となる。
【0015】
また、前記長尺体が、可撓性を有する長尺な筒状部と、当該筒状部内に同軸的に設けられ、前記筒状部に対して相対的に進退移動自在な可撓性を有する長尺な軸状部と、を有し、前記開閉部が、前記軸状部及び前記筒状部のそれぞれに設けられており、前記軸状部に設けられた前記開閉部に接続する一の前記X線造影性ワイヤが、前記開状態において、前記長尺体の先端側と反対の基端側に向かって凸となるように膨らんで曲がっており、前記筒状部に設けられた前記開閉部に接続する他の前記X線造影性ワイヤが、前記開状態において、前記長尺体の先端側に向かって凸となるように膨らんで曲がっているようにすれば、一のX線造影性ワイヤ及び他のX線造影性ワイヤによって管腔内の弁体や突起部を挟めるため、弁体や突起部の全体像をより正確に描写できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る管腔形態トレーサ全体をガイディングカテーテルとともに示す斜視図である。
【図2】図1の符号2が指す部分を拡大して示す、閉状態の管腔形態トレーサ先端の斜視図である。
【図3】第1実施形態に係る管腔形態トレーサ先端を開状態にして示す斜視図である。
【図4】第1実施形態に係る管腔形態トレーサの大動脈弁への誘導を示す模式図である。
【図5】第1実施形態に係る管腔形態トレーサの開閉部が大動脈弁近傍で開状態となる際の模式図である。
【図6】第1実施形態に係るX線造影性ワイヤの大動脈弁への密着を示す模式図である。
【図7】第2実施形態に係る管腔形態トレーサ全体をガイディングカテーテルとともに示す斜視図である。
【図8】図7の符号8が指す部分において、管腔形態トレーサ先端を一部ガイディングカテーテルから押し出して示す、閉状態の管腔形態トレーサ先端の斜視図である。
【図9】第2実施形態に係る管腔形態トレーサ先端を開状態にして示す斜視図である。
【図10】第2実施形態に係る管腔形態トレーサの大動脈弁への誘導を示す模式図である。
【図11】第2実施形態に係る管腔形態トレーサの軸状部に設けられた開閉部が大動脈弁近傍で開状態となる際の模式図である。
【図12】ガイディングカテーテル及び第2実施形態に係る管腔形態トレーサの筒状部が引き戻される際の模式図である。
【図13】第2実施形態に係る管腔形態トレーサの他のX線造影性ワイヤが大動脈弁近傍で開状態となる際の模式図である。
【図14】第2実施形態に係る一のX線造影性ワイヤ及び他のX線造影性ワイヤの大動脈弁への密着を示す模式図である。
【図15】第3実施形態に係る管腔形態トレーサ先端を開状態にして示す斜視図である。
【図16】変形例に係る管腔形態トレーサの先端を開状態にして示す斜視図である。
【図17】変形例に係る管腔形態トレーサの先端を開状態にして示す斜視図である。
【図18】変形例に係る管腔形態トレーサの先端を開状態にして示す斜視図である。
【図19】変形例に係る管腔形態トレーサの先端を開状態にして示す斜視図である。
【図20】変形例に係る管腔形態トレーサの先端を閉状態にして示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、以下で説明する実施形態において、各実施形態で共通する機能を有する部材については、対応する符号を付し、また、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0018】
<第1実施形態>
図1において概説すると、第1実施形態に係る管腔形態トレーサ10は、管腔内をX線造影によって描写するために経皮的に管腔内に挿入されて用いられるものであり、本実施形態では、描写位置に誘導するためのガイディングカテーテル15とともに使用される。
【0019】
ガイディングカテーテル15は、略円筒形状で、可撓性を有する。ガイディングカテーテル15は、好ましくは、クリープ耐性を有する材料、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエステル、フッ素系樹脂、又は金属より形成される。
【0020】
管腔形態トレーサ10は、主たる構成として可撓性の長尺体100を有しており、進退移動自在にガイディングカテーテル15内に挿通される。長尺体100は、好ましくはTi−Ni系合金によって形成されるが、これに限定されず、管腔内を移動させる上で適した種々の材料によって形成できる。
【0021】
長尺体100は、軸方向に対して直交する中実円形断面を有し、その径が好ましくは1.2mm〜4.5mmである。また、長尺体100は、ガイディングカテーテル15より長く、長尺体100の長さは好ましくは1.2m〜1.8mである。
【0022】
また、図2、及び図3に示すように、管腔形態トレーサ10は、長尺体100の先端(管腔に挿入される側の長尺体100の端部)に接続した開閉部102と、両端が開閉部102に接続したX線造影性ワイヤ104と、を有する。
【0023】
開閉部102は、長尺体100から放射状に伸びた開状態で複数設けられ(図3参照。)、開状態から長尺体100に向かって倒れた閉状態(図2参照。)に弾性変形可能である。
【0024】
開閉部102は、好ましくは、Ti−Ni系合金、Ti−Ni−Fe系合金、Cu−Zn系合金、Cu−Zn−Al系合金、Cu−Al−Ni系合金、Cu−Au−Zn系合金、Cu−Sn系合金、Ni−Al系合金、Ag−Cd系合金、Au−Cd系合金、In−Ti系合金、In−Cd系合金等の超弾性合金によって形成される。ただし開閉部102を形成する材料はこれらに限定されず、弾性変形可能な他のものを用いてもよい。
【0025】
開閉部102の長さは好ましくは6mm〜20mmであり、径は好ましくは0.1mm〜0.5mmである。開閉部102は、一端で、例えば、接着剤、圧接、加熱溶接、レーザ溶接によって長尺体100に接続されるが、これに限定されず、閉状態と開状態との間の円滑な変化を可能とし、その変化に耐え得る耐久性を満足させるような様々な接続方法を適用できる。
【0026】
長尺体100の先端がガイディングカテーテル15内に収まっている場合、開閉部102は、ガイディングカテーテル15の内周面によって長尺体100に向かって付勢されて閉状態を維持し、長尺体100の先端がガイディングカテーテル15から押し出されて付勢が解除されると、開閉部102は、自身の弾性力によって開状態となる。
【0027】
X線造影性ワイヤ104は、上で例示したような超弾性合金に、X線造影性金属をコーティングした構成を有する。X線造影性金属としては、例えばタンタル、タングステン、金、白金、イリジウム等が挙げられる。X線造影性ワイヤ104は、開閉部102の放射方向先端に一端で接続し、長尺体100に接続した開閉部102の基端に他端で接続している。X線造影性ワイヤ104は、例えば、接着剤、圧接、加熱溶接、レーザ溶接によって開閉部102に接続するが、これに限定されない。
【0028】
X線造影性ワイヤ104の長さは開閉部102の長さより長く、その長さは好ましくは18mm〜60mmである。また、X線造影性ワイヤ104の曲げ剛性は、開閉部102の曲げ剛性より小さい。具体例として、X線造影性ワイヤ104の径が開閉部102より小さく、好ましくはX線造影性ワイヤ104の径は0.05mm〜0.3mmである。
【0029】
閉状態の場合、X線造影性ワイヤ104は、長尺体100とガイディングカテーテル15との間の隙間に収まっている。そして、開状態になると、X線造影性ワイヤ104は、開閉部102が開く動作に従って伸びるとともに、自身の弾性力によって、長尺体100の先端側と反対の長尺体100の基端側(術者が操作する側)に向かって凸となるように膨らんで曲がった状態に復元する。
【0030】
長尺体100、開閉部102、及びX線造影性ワイヤ104の表面には潤滑剤が塗布されている。潤滑剤としては、例えば、シリコーン、PVP(ポリビニルピロリドン)、PPO(酸化ポリプロピレン)、PEO(ポリエチレンオキシド)、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ジメチルアクリルアミド−グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。潤滑剤の厚みは好ましくは1〜10μmである。
【0031】
潤滑剤の塗布方法は、例えば、潤滑剤を含む溶液を、マイクロシリンジポンプ、マイクロディスペンサー、インクジェット、スプレー等を用いて、長尺体100、開閉部102、及びX線造影性ワイヤ104に付着させ、その後、溶液に含まれる有機溶媒を真空乾燥、又は加熱乾燥させる。この他に、潤滑剤を含む溶液に、長尺体100、開閉部102、及びX線造影性ワイヤ104を浸漬させ、その後、溶液に含まれる有機溶媒を真空乾燥、又は加熱乾燥させてもよい。
【0032】
次に、図4〜図6に示す大動脈弁AVの描写を例に管腔形態トレーサ10による描写方法について述べる。
【0033】
描写方法は、管腔形態トレーサ10の先端を、描写位置、ここでは大動脈弁AVまで誘導する誘導工程と、誘導工程の後、開閉部102を開状態にする開閉部展開工程と、開閉部展開工程の後、X線造影性ワイヤ104を大動脈弁AVに密着させる密着工程と、密着工程の後、X線撮影によって大動脈弁AVの形態を描出する描出工程と、を有する。
【0034】
図4に示すように、誘導工程では、長尺体100の先端が、ガイディングカテーテル15内に収められ、ガイディングカテーテル15と共に大動脈LAを通って大動脈弁AV近傍まで経皮的に誘導される。ガイディングカテーテル15の管腔内への導入は従来公知の技術に基づく。
【0035】
図5に示すように、開閉部展開工程では、長尺体100の先端がガイディングカテーテル15から押し出され、開閉部102が開状態となり、X線造影性ワイヤ104が広げられる。本実施形態において、開閉部102は、大動脈弁AVを通過した左心室LC内において、開状態となる。
【0036】
そして図6に示すように、密着工程において、長尺体100が基端側に引き戻されることによって、X線造影性ワイヤ104は、大動脈弁AVに押し当てられて密着し、弁輪部及びその周辺部の形状に合わせて変形する。
【0037】
描出工程では、X線造影性ワイヤ104が大動脈弁AVに密着した状態が維持されたまま、既知のX線によって撮影され、弁輪部及びその周辺部の形状が、モニタ(不図示)に描出される。
【0038】
次に、上記実施形態に基づき本発明者らが試作した管腔形態トレーサ10及び実際に行った描写実験について述べる。
【0039】
本発明者らは、Ti−Ni系合金によって構成された直径0.21mm、長さ15mmの開閉部102を、その端部で、Ti−Ni系合金によって構成された直径3.0mm、長さ1.5mの長尺体100の先端にレーザ溶接によって80本接続した。接続に当り、開閉部102が同一平面で放射状に広がるように溶接した。
【0040】
X線造影性ワイヤ104は、Ti−Ni系合金にタンタルがコーティングされることによって形成され、直径は0.11mmで、長さは45mmである。X線造影性ワイヤ104は、その両端で、開閉部102の先端及び基端にレーザ溶接によって接続される。X線造影性ワイヤ104と開閉部102との接続に際し、本発明者らは、X線造影性ワイヤ104が長尺体100の基端側に向かって円弧状に膨らむようにして溶接した。
【0041】
そして、開閉部102、及びX線造影性ワイヤ104が長尺体100に取り付けられたものを、シリコーンを含む溶液に浸漬させた後、その溶液に含まれる有機溶媒を真空乾燥した。潤滑剤の厚みが5μmになるように、この作業を繰り返した。
【0042】
本発明者らは、以上のようにして作製した管腔形態トレーサ10を用い、羊の大動脈弁の形態を実際に描写した。管腔形態トレーサ10を誘導する誘導工程に先立って、本発明者らは、バルーンを羊の大動脈位置に誘導し、バルーンを拡張することによって大動脈弁を押し広げた。その後、誘導工程において、管腔形態トレーサ10を大動脈弁位置に誘導した。開閉部展開工程では、大動脈から大動脈弁を通過した大動脈弁下で、ガイディングカテーテル15から長尺体100の先端を押し出し、開閉部102を開状態にした。そして、密着工程において、長尺体100を引き戻し、X線造影性ワイヤ104を大動脈弁AVに密着させた。
【0043】
描出工程では、360°各方向から撮影し、コンピュータによって解析して3次元的にモニタに描出した。以上のようにして弁輪部と弁輪周辺部との詳細な形態を確認するとともに、これに定量的冠動脈造影法(QCA)を行うことによって、弁輪部と弁輪周辺部の正確な寸法を測定した。
【0044】
測定後、安楽死させた羊の心臓を摘出し、大動脈弁の弁輪部及び弁輪周辺部の形態・寸法を、肉眼によって直接目視・測定したところ、管腔形態トレーサ10を用いてX線造影したものとほぼ同様であり、管腔形態トレーサ10によって正確に管腔内部の形態を描写できることが確認できた。
【0045】
本実施形態に係る管腔形態トレーサ10の作用効果について述べる。
【0046】
管腔形態トレーサ10によれば、X線造影性ワイヤ104が、開閉部102によって支持されつつ大動脈弁AVに押し当てられ、大動脈弁AVの形状に合わせて変形するとともに、開閉部102同士の間、開閉部102とX線造影性ワイヤ104との間、及びX線造影性ワイヤ104同士の間の隙間を血液が流れるため、血液の遮断を防ぎつつ大動脈弁AVの形態をX線造影によって描写し得る。
【0047】
また、X線造影性ワイヤ104の長さが開閉部102の長さより長く、X線造影性ワイヤ104が大動脈弁AVのより広い範囲に接し易く、また、大動脈弁AVの形状に合わせて変形し易いため、広範囲かつ正確に大動脈弁AVを描写できる。
【0048】
また、X線造影性ワイヤ104の曲げ剛性が開閉部102の曲げ剛性より小さく、開閉部102の変形が抑制されてX線造影性ワイヤ104を大動脈弁AVに密着させ易く、また、X線造影性ワイヤ104が管腔内部の形状に合わせて変形し易いため、大動脈弁AVを正確に描写できる。
【0049】
また、X線造影性ワイヤ104が、長尺体100の先端側と反対の基端側に向かって凸となるように膨らんで曲がっており、長尺体100の単純な後退移動によってX線造影性ワイヤ104が大動脈弁AVに密着するため、手技が容易である。
【0050】
また、X線造影性ワイヤ104が主に超弾性合金によって形成されており、変形し易く、また復元性に優れるため、大動脈弁AVや管腔内部の他の箇所を繰り返し正確に描写できる。
【0051】
また、X線造影性ワイヤ104の表面が、X線造影性金属のコーティングによって形成されており、X線造影性金属がコーティングされた超弾性合金の特性を生かしつつ、X線造影性を付与できる。
【0052】
また、長尺体100、開閉部102、及びX線造影性ワイヤ104の表面に潤滑剤が塗布されており、これらと管腔との間、及びこれらとガイディングカテーテル15との間の摩擦抵抗が低減されるため、管腔内への導入が容易となる。
【0053】
<第2実施形態>
図7に示すように、第2実施形態に係る管腔形態トレーサ20では、長尺体200の構成が第1実施形態と異なる。長尺体200は、可撓性を有する長尺な筒状部220と、筒状部220内に同軸的に設けられ、筒状部220に対して相対的に進退移動自在な可撓性を有する長尺な軸状部210と、を有している。そして、筒状部220及び軸状部210の各々に開閉部212、222が設けられる。
【0054】
図8、及び図9に示すように、開閉部212が軸状部210の先端に設けられ、開閉部222が筒状部220の先端に設けられる。開閉部212と軸状部210との接続方法、及び開閉部222と筒状部220との接続方法は、第1実施形態における長尺体100と開閉部102との接続例として上で挙げたものと同様である。
【0055】
開閉部212は、軸状部210から放射状に伸びた開状態で複数設けられ(図9参照)、開状態から軸状部210に向かって倒れた閉状態に弾性変形可能である(図8参照)。開閉部222は、筒状部220から放射状に伸びた開状態で複数設けられ(図9参照)、開状態から筒状部220に向かって倒れた閉状態に弾性変形可能である(図8参照)。開閉部212、及び開閉部222の材質や寸法は、第1実施形態の開閉部102について例示したものと同様である。
【0056】
軸状部210の先端が筒状部220内に収まっている場合、開閉部212は、筒状部220の内周面によって軸状部210に向かって付勢されて閉状態を維持し、軸状部210の先端が筒状部220から押し出されて付勢が解除されると、開閉部212は、自身の弾性力によって開状態となる。
【0057】
筒状部220の先端がガイディングカテーテル25内に収まっている場合、開閉部222は、ガイディングカテーテル25の内周面によって筒状部220に向かって付勢されて閉状態を維持し、筒状部220の先端がガイディングカテーテル25から押し出されて付勢が解除されると、開閉部222は、自身の弾性力によって開状態となる。
【0058】
開閉部212に接続する一のX線造影性ワイヤ214は、開状態において、長尺体200の先端側と反対の基端側に向かって凸となるように膨らんで曲がっている。一方、開閉部222に接続する他のX線造影性ワイヤ224は、開状態において、長尺体200の先端側に向かって凸となるように膨らんで曲がっている。
【0059】
開閉部212と一のX線造影性ワイヤ214との接続方法、及び開閉部222と他のX線造影性ワイヤ224との接続方法は、第1実施形態における開閉部102とX線造影性ワイヤ104との接続例として上で挙げたものと同様である。また、一のX線造影性ワイヤ214、及び他のX線造影性ワイヤ224の材質や寸法は、第1実施形態のX線造影性ワイヤ104について上で例示したものと同様である。
【0060】
開閉部212が閉状態の場合、X線造影性ワイヤ214は軸状部210と筒状部220との間の隙間に収まり、開閉部212が開状態になると、X線造影性ワイヤ214は、開閉部212が開く動作に従って伸びるとともに、自身の弾性力によって長尺体200の基端側に向かって凸となるように膨らんで曲がった状態に復元する。
【0061】
開閉部222が閉状態の場合、X線造影性ワイヤ224は筒状部220とガイディングカテーテル25との間の隙間に収まり、開閉部222が開状態になると、X線造影性ワイヤ224は、開閉部222が開く動作に従って伸びるとともに、自身の弾性力によって、長尺体200の先端側に向かって凸となるように膨らんで曲がった状態に復元する。
【0062】
軸状部210、筒状部220、開閉部212、222、及びX線造影性ワイヤ214、224の表面には、第1実施形態と同様、潤滑剤が塗布されている。潤滑剤、及び潤滑剤の塗布方法は、第1実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0063】
次に、図10〜図14において、第2実施形態に係る描写方法について述べる。第2実施形態に係る描写方法は、第1実施形態と略同様の工程を有するが、管腔形態トレーサ20の上記構成に基づく相違点を有する。
【0064】
図10に示すように、誘導工程では、軸状部210の先端が筒状部220内に収められ、且つ筒状部220の先端がガイディングカテーテル25内に収められた閉状態で、管腔形態トレーサ20は、ガイディングカテーテル25とともに大動脈弁AV近傍まで誘導される。
【0065】
図11〜図13に示すように、開閉部展開工程では、開閉部212、222が段階的に開状態になる。まず、図11に示すように、筒状部220の先端がガイディングカテーテル25内に収められたまま、軸状部210の先端が筒状部220から押し出されることによって、開閉部212が左心室LC内で開状態となり、X線造影性ワイヤ214が広げられる。次に、図12に示すように、軸状部210の位置が保持されたまま、筒状部220、及びガイディングカテーテル25が、軸状部210に沿って引き戻される。筒状部220、及びガイディングカテーテル25は、大動脈弁AVを通過し、大動脈LAまで引き戻される。その後、図13に示すように筒状部220の先端がガイディングカテーテル25から押し出され、大動脈LA内で開閉部222が開状態になり、X線造影性ワイヤ224が広げられる。
【0066】
そして図14に示すように、密着工程において、軸状部210が引き戻されることによってX線造影性ワイヤ214が大動脈弁AVに下方から密着し、筒状部220がさらに押し出されることによってX線造影性ワイヤ224が上方から大動脈弁AVに密着し、X線造影性ワイヤ214、224が大動脈弁AVを挟む。描出工程では、X線造影性ワイヤ214、224が大動脈弁AVに密着してこれを挟んだ状態が維持されたまま、X線造影によって大動脈弁AVが描出される。
【0067】
以上のように、第2実施形態に係る管腔形態トレーサ20は、X線造影性ワイヤ214、224によって大動脈弁AVを挟めるため、第1実施形態の効果に加え、大動脈弁AVの全体像をより正確に描写できるという効果を奏する。
【0068】
<第3実施形態>
図15に示すように、第3実施形態に係る管腔形態トレーサ30は、第1実施形態に係る管腔形態トレーサ10と略同様であるが、開閉部302の先端とX線造影性ワイヤ304との接続部分の形状が第1実施形態と異なる。
【0069】
第1実施形態では、X線造影性ワイヤ104は、開状態において、開閉部102の先端に対して鋭角をなすように接続しているが(図3参照。)、第3実施形態に係る管腔形態トレーサ30では、X線造影性ワイヤ304は、開状態において、開閉部302の基端から開閉部302の先端に向かう方向に凸となるように膨らんで曲がって接続している(符号306参照。)。
【0070】
このような構成によって、X線造影性ワイヤ304の部位306が管腔に接し、開閉部302の先端によって管腔が突かれ難いため、第3実施形態に係る管腔形態トレーサ30は、第1実施形態の効果に加え、安全性に優れる。
【0071】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変できる。
【0072】
例えば、上記実施形態では、X線造影性ワイヤは両端で開閉部に接続しているが、これに限定されず、図16に示すように、一端が開閉部402に接続し、他端が長尺体400に接続していてもよい。この例では、X線造影性ワイヤ404の他端は、長尺体400の先端から離隔した位置で長尺体400の外周に接続している。
【0073】
また、上記実施形態では、各開閉部に対して一つのX線造影性ワイヤが接続されているが、本発明はこれに限定されず、各開閉部に対して複数のX線造影性ワイヤが接続されてもよい。例えば、図17に示す変形例では、複数のX線造影性ワイヤ504が、一つの開閉部502の異なる位置に接続しており、また、長尺体500の異なる位置に軸方向に沿って接続している。また、図18に示す他の変形例では、複数のX線造影性ワイヤ604が、一つの開閉部602の異なる位置に接続するとともに、同開閉部602の基端に接続している。また、図19に示すさらなる他の変形例では、複数のX線造影性ワイヤ704が、一つの開閉部702の先端及び基端にそれぞれ異なる弧を描くようにして接続している。また、このような変形例を第2実施形態や第3実施形態の管腔形態トレーサに応用してもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、ガイディングカテーテルによって開閉部が閉状態と開状態との間で変化するが、他の構成、例えば図20に示すような長尺体800の先端に設けられた軸方向に進退可能なキャップ801によって、開閉部802が開閉してもよい。
【0075】
また、第3実施形態で示されたX線造影性ワイヤの形状が第2実施形態の実施形態に適用されてもよい。
【0076】
また、開閉部は長尺体の先端に設けられるものに限定されず、長尺体の先端から離隔して設けられてもよい。
【0077】
また、上では大動脈弁の描写を例に本発明について説明したが、本発明は、様々な管腔、例えば、動脈、静脈、心房、心室、胆管等の描写に適用できる。
【符号の説明】
【0078】
10、20、30、40、50、60、70、80 管腔形態トレーサ、
15、25、35、45、55、65、75 ガイディングカテーテル、
100、200、300、400、500、600、700、800 長尺体、
102、302、402、502、602、702、802 開閉部、
104、304、404、504、604、704、804 X線造影性ワイヤ、
210 軸状部、
220 筒状部、
212、222 開閉部、
214 一のX線造影性ワイヤ、
224 他のX線造影性ワイヤ、
AV 大動脈弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する長尺体と、
当該長尺体から放射状に伸びた開状態で複数設けられ、前記開状態から前記長尺体に向かって倒れた閉状態に弾性変形可能な開閉部と、
一端が前記開閉部に接続し、他端が前記長尺体又は前記開閉部に接続したX線造影性ワイヤと、を有する、管腔形態トレーサ。
【請求項2】
前記X線造影性ワイヤの長さは、前記開閉部の長さより長い、請求項1に記載の管腔形態トレーサ。
【請求項3】
前記X線造影性ワイヤの曲げ剛性は、前記開閉部の曲げ剛性より小さい、請求項1又は2に記載の管腔形態トレーサ。
【請求項4】
前記X線造影性ワイヤは、前記開状態において、前記長尺体の先端側、又は当該先端側と反対の基端側に向かって凸となるように膨らんで曲がっている、請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の管腔形態トレーサ。
【請求項5】
前記X線造影性ワイヤの前記一端は、前記開閉部の先端に接続し、前記X線造影性ワイヤは、前記開状態において、前記長尺体に接続した前記開閉部の基端から前記開閉部の先端に向かう方向に凸となるように膨らんで曲がっている、請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の管腔形態トレーサ。
【請求項6】
前記X線造影性ワイヤは、超弾性合金を含む、請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の管腔形態トレーサ。
【請求項7】
前記X線造影性ワイヤの表面は、X線造影性金属のコーティングによって形成されている、請求項1〜6のうちのいずれか1つに記載の管腔形態トレーサ。
【請求項8】
前記長尺体、前記開閉部、及び前記X線造影性ワイヤのうちの少なくとも1つの表面に潤滑剤が塗布されている、請求項1〜7のうちのいずれか1つに記載の管腔形態トレーサ。
【請求項9】
前記長尺体は、可撓性を有する長尺な筒状部と、当該筒状部内に同軸的に設けられ、前記筒状部に対して相対的に進退移動自在な可撓性を有する長尺な軸状部と、を有し、前記開閉部は、前記軸状部及び前記筒状部のそれぞれに設けられており、前記軸状部に設けられた前記開閉部に接続する一の前記X線造影性ワイヤは、前記開状態において、前記長尺体の先端側と反対の基端側に向かって凸となるように膨らんで曲がっており、前記筒状部に設けられた前記開閉部に接続する他の前記X線造影性ワイヤは、前記開状態において、前記長尺体の先端側に向かって凸となるように膨らんで曲がっている、請求項1〜8のうちのいずれか1つに記載の管腔形態トレーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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