説明

管路補修方法

【目的】 厚さの厚い補修材であっても比較的円滑に反転することができるとともに、このために環境破壊や公害問題を生じるおそれのない管路補修方法を提供する。
【構成】 排水管1の端部に上方に開口する屈曲管15を臨ませて配置し、筒状に形成された不透水性の内側表層部6を有する第2のライナー部材12を、前記屈曲管15を通じて前記排水管1内に供給することとし、前記第2のライナー部材12の先端部12aを反転状態とし前記排水管1内に挿入し、この反転状態とされた反転部分12bの前記内側表層部6の間に水等の液体Lの液圧を作用させて第2のライナー部材12の反転部分12bを排水管1の奥に進行させる管路補修方法において、前記液体Lの液面18を前記屈曲管15の屈曲部15aより上方に位置させるとともに、当該液体L中に植物油を添加した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、管路をその内面から補修する補修方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】地下に埋設された排水管等の管路の損傷を補修する場合、筒状に形成された不透水性被膜を有する補修材を、めくり返し(反転)ながら管路内に挿入して、その補修材を管路の内壁側に向けて押圧する補修方法がある。
【0003】このような管路補修方法において、前記筒状の補修材の挿入は、通常、その補修材の先端部を反転させた状態で管路の入口側端部に固定して、反転部分を管路内に少し挿入した状態として、前記反転により内向きとなった被膜間の空間内に液圧を作用させて、反転部分を管路の奥に進行させて行なうこととしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、この種の管路補修方法において、不透水性の被膜を厚くすれば水密性が高まり補修作業の信頼性が向上する。また、不透水性被膜に強化繊維等からなる基材が一体に形成された補修材を用いる場合において、その基材の厚さを厚くすれば、一定の補修作業で損傷の補修を確実かつ耐久性に富んだものとすることができるので、使用する補修材はある程度厚さの厚いものを用いることが好ましい。
【0005】しかし、補修材の厚さを厚いものとすれば、補修材自体の剛性が大きくなるので、反転動作に対する抵抗が大きくなる。
【0006】また、上開きの屈曲管を用いる管路の補修作業においては、この屈曲管内を通じて反転されていない補修材を管路内に位置する反転部分に向けて供給するために、屈曲管内で補修材の進行方向が所要の向きに変化することが必要である。
【0007】この場合に、厚さの厚い補修材は前記反転部分から管路内を概ね水平に延在する結果、前記屈曲管の屈曲部分の近傍で屈曲の外側となる内壁上に強く接触し、補修材の反転部分への円滑な供給が妨げられ、補修材の反転部分での反転動作が円滑に行なわれにくくなる。
【0008】このような補修材の反転動作の改善を図るには、補修材の接触する部位に潤滑剤を用いて、摩擦抵抗の低減をはかることが一方法である。
【0009】しかし、この種の管路補修方法においては、補修材の反転に用いる水等の液体は所要の作業の完了後に廃棄され、用いる潤滑剤も水等とともに廃棄されるものであるので、環境維持および公害防止の意味から化学物質より天然物質を用いることが好ましい。
【0010】この発明は、このような事情に基づいてなされたもので、厚さの厚い補修材であっても比較的円滑に反転することができるとともに、このために環境破壊や公害問題を生じるおそれのない管路補修方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために、請求項1記載の発明は、管路の端部に上方に開口する屈曲管を臨ませて配置し、筒状に形成された不透水性被膜を有する補修材を、前記屈曲管を通じて前記管路内に供給することとし、前記補修材の先端側を反転状態とし前記管路内に挿入し、この反転状態とされた前記被膜の間に水等の液体の液圧を作用させて補修材の反転部分を管路の奥に進行させる管路補修方法において、前記液体の液面を前記屈曲管の屈曲部より上方に位置させるとともに、当該液体中に植物油を添加したことを特徴とする。
【0012】
【作用】請求項1記載の発明によれば、補修材に液圧を作用させてその反転動作を行なわせる水等の液体の液面を、管路の端部に臨ませて配置する屈曲管の屈曲部より上方に位置させるので、補修材が前記屈曲管の内面側で強く接触する部位はその液面直下に位置する。
【0013】このような状態で、前記水等の液体中には植物油が添加されており、その比重が水より小さいので植物油は液面の近傍に多量に分布することとなる。
【0014】このため、添加された植物油は、補修材が前記屈曲管の内面側で強く接触する部位の近傍においては集中的に存在し、その接触する部位での摩擦抵抗を効果的に軽減することができ、厚さの厚い補修材であっても比較的円滑に反転することができる。
【0015】そのうえ、水等の液体に添加する植物油は、いわゆる化学物質でなく,天然物質であるので、補修作業後に前記液体を廃棄しても、このために環境破壊や公害問題を生じるおそれがない。
【0016】
【実施例】以下、図面に示す一実施例により、この発明を説明する。
【0017】図1において、1は管路としての排水管、2はマンホールで、いずれもコンクリートなどの成形品であり、地中に埋設されている。
【0018】この実施例においては、補修構造としてのライナーが、離間して設置されているマンホール2の間の排水管1の全長に渡って形成されるものである。
【0019】このライナーは、図2に示すように、外側表層部4と第1の繊維層5とからなる第1のライナー部材11と、内側表層部6と第2の繊維層7とからなる第2のライナー部材12とで形成されるものである。
【0020】前記外側表層部4と内側表層部6は、いずれも例えばポリエチレンあるいはポリプロピレン等の不透水性合成樹脂製のシート材からなるもので、これらの外側表層部4および内側表層部6には穴等は一切形成されておらず、いずれも内外間での完全な不透水性が確保されている。
【0021】なお、この実施例の第2のライナー部材12は、この発明でいう補修材に該当し、内側表層部6はこの発明の被膜に該当するものである。
【0022】前記第1および第2の繊維層5,7は、例えばガラス繊維やポリエステル繊維等からなる基材である。
【0023】第1のライナー部材11および第2のライナー部材12は、いずれも前記外側表層部4または内側表層部6の内面側に、前記第1の繊維層5または第2の繊維層7を密着させて一体に形成したものである。
【0024】そして、前記第1の繊維層5には、液状であって経時的に硬化する合成樹脂,例えば不飽和ポリエステル樹脂あるいはエポキシ樹脂等を含浸させてある。
【0025】なお、熱的にあるいは紫外線などにより硬化する合成樹脂を用いることとしてもよい。
【0026】この実施例における前記第1の繊維層5に含浸された樹脂量は、前記第1の繊維層5が含浸しうる量(飽和量)を100%とすると、例えば110%程度を含浸した過飽和状態である。
【0027】したがって、この第1の繊維層5の全域には、前記合成樹脂が完全に含浸されており、合成樹脂の含浸されていない部分は全く存在しない状態である。
【0028】そして、第2のライナー部材12の第2の繊維層7には、前記第1の繊維層5とは異なり、合成樹脂は全く含浸されておらず、前記合成樹脂の非飽和状態である。これは、後述するように、この第2の繊維層7が前記第1の繊維層5に含浸された過剰の合成樹脂を吸収するためである。
【0029】なお、この第2の繊維層7においても合成樹脂を非飽和状態としてある程度含浸させることとしてもよく、この場合前記過剰の合成樹脂の吸収を損なわない程度とすることが好ましい。
【0030】このような第1および第2のライナー部材11,12を用いての排水管1の補修方法は次のようである。
【0031】まず、一方のマンホール2から前記第1のライナー部材11を挿入してマンホール2間の排水管1の全長に渡る所定の状態に位置させる。
【0032】この後、一方のマンホール2に臨んだ,前記第1のライナー部材11の端部11aを広げ、この内側に前記第2のライナー部材12の先端部12aを反転させた状態で少し挿入する(図2参照)。
【0033】これにより、前記第1のライナー部材11の第1の繊維層5と前記第2のライナー部材12の繊維層7の互いの表面同士が接触する状態となる。
【0034】この実施例において、第2のライナー部材12の挿入作業は、次のように行なわれる。
【0035】図1において、13は第2のライナー部材12の供給装置を示し、この供給装置13はマンホール2の近傍の地上に設置されている。
【0036】この供給装置13は、所要の状態に折り畳まれた第2のライナー部材12を上方に配置したガイドローラ14を経て下方に垂下させ、この状態でマンホール2内に設置された屈曲管15および固定管16を経由して排水管1内に第2のライナー部材12を供給するものである。
【0037】マンホール2内に設置された,固定管16と屈曲管15とは次のようである。
【0038】固定管16は、第2のライナー部材12の先端部12aをその内側を挿通させたうえで、その外側にめくり返して金属バンド17で固定し、この状態でこの固定管16の先端部を前記排水管1の端部に挿入することによって第2のライナー部材12の先端部を反転状態として排水管1の端部に位置させるものである。なお、図中12bは反転部分である。
【0039】屈曲管15は、いわゆるエルボ管であって、前記固定管16の後端部に液密に接続され、この屈曲管15の内側で前記第2のライナー部材12を排水管1の端部に向けて案内するものである。
【0040】そして、これらの屈曲管15と固定管16と反転された第2のライナー部材12の前記先端部12aとにより形成された空間内には、前記第2のライナー部材12を排水管1の内部へ挿入するための液圧を前記先端部12aに作用させるため液体Lが充填されており、その液面18は前記屈曲管15の屈曲部15aより上方に位置している。
【0041】この実施例で液体Lは温水であって、少量の植物油が添加されたものであり、植物油としては綿実油,ひまわり油,なたね油,大豆油,やし油等を材料として適宜調合された混合物が用いられ、とくに、高度に精製されろう分の除去された精製調合油や、例えば食用なたね油と食用大豆油とが適宜に混合された,調合サラダ油を用いることが好ましい。
【0042】このような植物油の精製度の判断は、厳密には種々の物性値を測定する等が必要であるが、本願発明の実施の可否についての判断を行なう場合には、植物油の粘性のみで概ね判断することができる。この場合の植物油の粘性についての判断基準を示せば、15℃においてその粘性が0.65Pa・s以下であることが好ましい。
【0043】このような液体Lが図1のように、屈曲管15等の内部に充填されると、その水頭圧が前記第2のライナー部材12の先端部12aの反転部分12bの内側に作用する。
【0044】この反転部分12bの内側に加わる液圧としての水頭圧は、反転部分12bを押し広げ,第2のライナー部材12の後続部分の供給にともなって、その後続部分を反転部分12bとし、反転部分12bを排水管1の奥の方に進行させるように作用する。
【0045】これとともに、反転が完了した第2のライナー部材12は、前記第2の繊維層7が外側に位置して前記第1のライナー部材11の第1の繊維層5に前記液圧で押圧され、第2のライナー12は第1のライナー部材11の内側への装着が行なわれる。
【0046】前記液圧の作用によってこのような動作を行なう,第2のライナー部材12としてその厚さが厚いものを用いた場合、前記のように第2のライナー部材12は屈曲管15の屈曲部15aの上部で屈曲の外側となる内壁上に強く接触しながら(図中、21は屈曲管15上の接触部を示す)その後続する部分を順次反転部分12bに供給することとなる。
【0047】しかし、この実施例においては、液体Lに前記のように植物油が添加されており、かつこの液体Lの液面18が屈曲部15aより上方に位置し、接触部21が排水管1より高い位置にあるので、液体Lに添加した植物油の多くは比重の関係から、液面18の近傍の接触部21に多量に存在するものの、下方の排水管1内に侵入することが少なく、前記接触部21での第2のライナー部材12と屈曲管15の内壁面との摩擦を効果的に低減することができる。
【0048】このような反転動作を継続して、排水管1の全長に渡って第2のライナー部材12を装着すると、前記液圧により前記第1の繊維層5と第2の繊維層7とは互いに加圧された状態となる。
【0049】この状態においては、合成樹脂の含浸されない第2の繊維層7側が、合成樹脂を多量に含浸した第1の繊維層5側に押しつけられるので、第1の繊維層5に含浸されている過剰の合成樹脂は第2の繊維層7に吸収される。
【0050】そのため、第1の繊維層5は確実に概ね飽和状態に合成樹脂を含浸した状態とすることができ、繊維強化プラスチックとしての所定の強度を確実に発揮できるとともに、合成樹脂が高密度に偏在することを防止できるので、合成樹脂の含浸不良による水漏れのおそれや排水管1の通路断面形状を異形とすることも軽減する。
【0051】この状態で、前記合成樹脂の硬化を待ち、合成樹脂が適度に硬化した後、第2のライナー部材12の内部から排水し、前記第2のライナー部材12の他端部12bを切除することにより、排水管1の補修作業が完了する。
【0052】そして、前記液体Lを廃棄しても、この液体Lには前記のように植物油が添加されているに過ぎないので、格別の環境破壊や公害問題の発生のおそれはない。
【0053】なお、以上説明した実施例は、第2のライナー部材12を用いるのに、排水管1の内壁側に第1のライナー部材11を介在させたものであるが、本願発明はこれに限らず、第1のライナー部材11の設置を省略し、排水管1の内壁面上に第2のライナー部材12を直接設置することとしてもよく、その場合には第2のライナー部材12の第2の繊維層7に所要量の合成樹脂を含浸させておけばよい。
【0054】また、前記した実施例においては、第2のライナー部材12は内側表層部6と第2の繊維層7とを一体に有するものとしたが、場合により第2の繊維層7を省略し内側表層部6のみで第2のライナー部材12を構成することとしてもよい。
【0055】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、補修材に液圧を作用させてその反転動作を行なわせる水等の液体の液面を、管路の端部に臨ませて配置する屈曲管の屈曲部より上方に位置させるので、補修材が前記屈曲管の内面側で強く接触する部位はその液面直下に位置する。
【0056】このような状態で、前記水等の液体中には植物油が添加されており、その比重が水より小さいので植物油は液面の近傍に多量に分布することとなる。
【0057】このため、添加された植物油は、補修材が前記屈曲管の内面側で強く接触する部位の近傍においては集中的に存在し、その接触する部位での摩擦抵抗を効果的に軽減することができ、厚さの厚い補修材であっても比較的円滑に反転することができる。
【0058】そのうえ、水等の液体に添加する植物油は、いわゆる化学物質でなく,天然物質であるので、補修作業後に前記液体を廃棄しても、このために環境破壊や公害問題を生じるおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】管路補修方法の全体概略説明図である。
【図2】管路補修方法の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
L 液体
1 排水管(管路)
6 内側表層部(被膜)
12 第2のライナー部材(補修材)
12a 先端部
12b 反転部分
15 屈曲管
15a 屈曲部
18 液面

【特許請求の範囲】
【請求項1】 管路の端部に上方に開口する屈曲管を臨ませて配置し、筒状に形成された不透水性被膜を有する補修材を、前記屈曲管を通じて前記管路内に供給することとし、前記補修材の先端側を反転状態とし前記管路内に挿入し、この反転状態とされた前記被膜の間に水等の液体の液圧を作用させて補修材の反転部分を管路の奥に進行させる管路補修方法において、前記液体の液面を前記屈曲管の屈曲部より上方に位置させるとともに、当該液体中に植物油を添加したことを特徴とする管路補修方法。
【請求項2】 請求項1記載の管路補修方法において、前記植物油を各種植物油の混合物としたことを特徴とする管路補修方法。
【請求項3】 請求項1または2記載の管路補修方法において、前記植物油の粘度は15℃において0.65Pa・s以下としたことを特徴とする管路補修方法。
【請求項4】 請求項1ないし3のいずれかに記載した管路補修方法において、前記植物油をサラダ油としたことを特徴とする管路補修方法。

【図1】
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【図2】
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