説明

簡易型筋電位検知装置

【課題】従来の筋電計の機能を大幅に減らし、筋肉や神経などからの信号を測定するのではなく、単に筋肉や神経などの動きを検知し、光や音で測定者に知らせるのみの限定された機能を有する装置を提供する。
【解決手段】被測定者の筋肉の2点間の電位差を検出する電極部と、該電極部で検出した電位を増幅する増幅部と、該増幅部からの信号を全波整流し、信号波形を平滑化する信号平滑部と、該信号平滑部からの入力信号の強度を調節し、調節された信号を閾値と比較する閾値制御部と、該閾値制御部の信号が閾値より高い場合に外部に出力する出力部と、各部に必要な電力を供給する電源部とから成り、該閾値制御部が入力の強度を調節する手段を有し、実際に被測定者の筋肉の電位を検出した場合に、閾値を超えるように入力信号の強度を調整することができる簡易型筋電位検知装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒトなどの動物の筋電位を検知するための簡易な装置に関し、より詳細には、例えば、小中学校又は高等学校の教育現場などにおいて、医学生理学における筋肉の電気信号とその動く仕組みを容易に体験して学ぶためなどの目的のために、動物の筋電位を検知するための簡易な装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトなどの動物の筋肉や神経の動きを解析するために筋電計を用いて生体信号を測定することが行なわなれており、筋萎縮性側索硬化症や重症筋無力症などの治療などにも応用されている。このような筋電計を用いることにより、被検者に付けた測定電極からの信号を、オペアンプ等を用いて増幅し、ブラウン管に表示したり、ADコンバータを通してコンピュータに取り込み解析することができる(特許文献1〜3など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭61−12969
【特許文献2】特開平6−30908
【特許文献3】特開2004−81234
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の筋電計は、臨床又は医学研究に供するために、定量的な解析が可能な高精度出力や多彩な解析能力などを搭載しており、極めて高額な機材となっている。このような筋電計は、例えば、小中学校又は高等学校の教育現場において、医学生理学における筋肉の電気信号とその動く仕組みを容易に体験して学ぶために、簡易に筋肉の動きを検知するには不向きである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、従来の筋電計の機能を大幅に減らし、筋肉や神経などからの信号を測定するのではなく、単に筋肉や神経などの動きを検知し、光や音で測定者に知らせるのみの限定された機能を有する装置を提供することを目的とした。
そのため、本装置は従来の筋電位計測に関わる詳細な波形調整部分を排除し、そのかわり筋電位のオンオフを検知することに特化した回路を加えた設計となっており、使用に際して医学的専門知識を全く必要としない。具体的には、得られた筋電波形について、まず波形の平滑化を行い、その後、微調整し比較する閾値制御部を設定した。これによって入力信号を閾値弁別しデジタル出力化することに成功し、電球や圧電ブザーによって筋電位のオンオフを可視化することができた。つまり、使用者は詳細な筋電波形計測のための波形調整を行う必要がなく、外部にもうけられた微調整つまみによってのみ閾値の微調整を行うだけで筋電位のオンオフを検知することができる。これによって、教育現場における簡易性・利便性と、筋肉や神経の動きの視認性を大幅に改善した。
【0006】
即ち、本発明は、被測定者の筋肉の2点間の電位差を検出する電極部と、該電極部で検出した電位を増幅する増幅部と、該増幅部からの信号を全波整流し、信号波形を平滑化する信号平滑部と、該信号平滑部からの入力信号の強度を調節し、調節された信号を閾値と比較する閾値制御部と、該閾値制御部の信号が閾値より高い場合に外部に出力する出力部と、各部に必要な電力を供給する電源部とから成り、該閾値制御部が入力の強度を調節する手段を有し、実際に被測定者の筋肉の電位を検出した場合に、閾値を超えるように入力信号の強度を調整することができる簡易型筋電位検知装置である。
【発明の効果】
【0007】
この装置は、ヒトの筋肉活動時に発生する微弱な電位を検知し、出力に接続された電球や圧電ブザーなどを起動してその動きを光や音で可視化することができる。この装置を使用することにより、従来の文章又は画像のみによるヒト生体機能の理科教育現場に、実体験としての授業形態を構築することが可能となる。さらに、この装置は、高価な筋電図計測装置に比べて、理科教育に必要な環境に限定的した機能ではあるが、極めて安価に提供することができる。ただし、臨床的な使用を目的とした装置ではないので、波形の表示など、医学的な情報を出力するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の簡易型筋電位検知装置の一例を示すブロック図である。
【図2】各部における信号波形の例を示す図である。括弧内の数字は図1の括弧内の数字に対応する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の簡易型筋電位検知装置は、電極部、増幅部、信号平滑部、閾値制御部、出力部、及び電源部とから成る。以下、具体例として図1及び2を用いて説明する。
【0010】
電極部は、被測定者の表皮に密着させた金属電極から成り、その筋肉の2点間の電位差を検出する。通常この電極部は、2個の測定電極と1個の不感電極(基準電位)の計3個の電極を利用する双極誘導法を用いる。
被測定者であるヒトを含む動物の表面筋電位は、様々な電位・周波数・位相の交流信号が時間的にも変化しながら加算されており、その平均電位は数μV〜数mV程度、周波数成分は数Hz〜数100kHz程度である。
【0011】
増幅部は、上記の電極部で検出した電位を増幅する。
この増幅部においては、例えば、図1及び2の(1)〜(4)に示すように、電極部で検出した電位の筋電位波形に含まれる直流や低周波成分をハイパスフィルタ(カットオフ周波数:1Hz)で取り除き、ボルテージフォロワで信号のインピーダンス変換を行う。その後、差動増幅で信号を60倍に増幅し、次にハイパスフィルタ(カットオフ周波数:100Hz)を通し7倍の反転増幅する。さらにアクティブフィルタ(カットオフ周波数:100Hz)で低周波成分を完全に取り除く。
【0012】
信号平滑部は、上記の電極部で検出した電位の極性をそろえて平滑化する。
信号平滑部においては、例えば、図1及び2の(5)に示すように、上記増幅部からの信号を全波整流回路により入力電圧の絶対値を同じ極性の電圧として出力した後、さらに平滑回路により信号波形を平滑化する。
【0013】
閾値制御部は、上記信号平滑部からの入力信号の大きさを調節し、調節された信号を閾値と比較する。
この閾値制御部においては、例えば、図1及び2の(6)に示すように、コンパレーター回路により基準電圧に対して入力電圧が大きいか小さいかを判別する。基準電圧を、例えば、1.2Vに設定し、入力信号が1.2Vを超えた場合に、飽和出力電圧(3V弱)としてもよい。
信号平滑部からの入力信号の入力強度を調節する手段、例えば、表面パネルに取り付けた外部微調整つまみ(感度つまみ)により入力信号の大きさを調節する。この調節は、例えば、次のようにして行なってもよい。装置を被測定者にセットして、実際の被測定者の筋肉の電位を検出した場合に、このつまみを調節して閾値を超えるように入力信号の大きさを調整する。例えば、後述の出力部がLEDの点灯である場合には、被測定者の筋肉の電位を検出した場合に、このLEDが点灯するようにこのつまみにより入力信号の大きさを調整する。一旦入力信号を調節すれば、以後の検出において、再度調節の必要なしに、筋肉や神経などの動きを検知することができる。
【0014】
出力部は、上記閾値制御部の信号が閾値より高い場合に外部に出力する。出力部から外部への出力は、「音」や「光」を利用した定性的手段が好ましく、例えば、LEDの点灯、電球の点灯、及びブザーの音発生などが挙げられ、これらは適宜切り替え可能であってもよい。この出力は、例えば、信号が閾値を超えたときに、出力ドライブ回路に接続された豆電球や圧電ブザーを動作させて、実験者に筋肉の動きを知らせることができる。
【0015】
電源部は、各部に必要な電力を供給する。電源部の供給する電圧は、この装置の用途から考えて、好ましくは6V以下であり、例えば、1.5Vの単3電池を4本使用し±3Vである。また、この場合上記閾値を1〜4V程度、例えば1.5Vとしてもよい。
【0016】
本発明の簡易型筋電位検知装置は、例えば、以下のようにして使用する。
(1) 前腕などで力を入れた時によく動く筋肉を探す。
(2) 電極を張り付ける筋肉のある場所の表面をアルコール等で拭き乾かす。必要に応じて導電ペーストを塗る。
(3) 電極(2個の測定電極)を筋肉に沿って5cm程度離して張り付け、不感電極をひじに張り付ける。
(4) 本装置の出力をLEDとしておき、スイッチを入れ、筋肉に力を入れた時にLEDが光るように感度つまみを調節する。
(5) 本装置の出力を豆電球やブザーに切り替えて、筋肉の動きに合わせてこれらの動作を確認する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の筋肉の2点間の電位差を検出する電極部と、該電極部で検出した電位を増幅する増幅部と、該増幅部からの信号を全波整流し、信号波形を平滑化する信号平滑部と、該信号平滑部からの入力信号の強度を調節し、調節された信号を閾値と比較する閾値制御部と、該閾値制御部の信号が閾値より高い場合に外部に出力する出力部と、各部に必要な電力を供給する電源部とから成り、該閾値制御部が入力の強度を調節する手段を有し、実際に被測定者の筋肉の電位を検出した場合に、閾値を超えるように入力信号の強度を調整することができる簡易型筋電位検知装置。
【請求項2】
前記増幅部において、電極部で検出した電位を、増幅する前に、カットオフ周波数1Hzで低周波数成分を取り除く請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記出力部から外部への出力が、LEDの点灯、電球の点灯、及びブザーの音発生いずれかである請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記電源部の供給する電圧が6V以下であり、前記閾値が1〜4Vである請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−130925(P2011−130925A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293658(P2009−293658)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年10月1日 インターネットアドレス「http://www.nips.ac.jp/nipsquare/academy/」に発表
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】