説明

簡易携帯用インキュベータ

【課題】簡易な携帯用インキュベータであって、従来市販されているインキュベータと遜色ない培養能を有するインキュベータを提供する。
【解決手段】プレート等を出し入れする開閉口12と、ガス吹き込み口13を備えた略直方体状の気密性の高い携帯容器本体10と、当該容器本体10内部に緩衝材21bで設けた容器収納スペース22a,bを備えていることを特徴とするインキュベータとした。COガスを供給する場合、ガス吹き込み口13から取扱者の呼気を吹き込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は簡易な携帯用インキュベータ、より詳しくは気密性の高い携帯容器本体と、当該容器内部に緩衝材で設けた容器収納スペースを備えていることを特徴とするインキュベータを提供する。
【背景技術】
【0002】
インキュベータは温度、湿度、CO濃度等を一定に保つことによって細胞を効果的に培養したり、酵素反応を進行させるための設備である。したがって、如何にインキュベータ内の条件を一定に維持するか、どの程度の範囲で条件を変更することができるか、どれほどの細胞培養容器を収納することができるか、あるいはどれほど設置スペースを少なくすることができるか等様々な工夫がなされてきた。しかし、インキュベータには実験室で厳密な条件管理下で大規模な培養を行いたいとする要求の他に、実験室外で簡易な小規模の培養を行いたいとする要求もある。
【0003】
例えば、環境中の特定の物質の濃度を測定する目的等でレポーター遺伝子アッセイを行うとき、遺伝子導入細胞を試験する環境まで運搬し、当該環境から採取した試料と細胞とを環境下で(オンサイトで)接触させ、さらにインキュベーションを行う必要があるが、このようなアッセイにおいては携帯可能なインキュベータが必要である。特に、発展途上国では高価かつ大規模なインキュベータをあらゆる研究施設で備えることが困難であるので、携帯可能であると同時に安価かつ取扱の容易なインキュベータが望まれる。かかる要望は細胞培養のみならず、酵素反応の場合であっても同じである。
【0004】
しかし、現在このような携帯用インキュベータは存在しない。例えば特許文献1にはシャーレラックを収容した培養カプセル本体にガス供給およびモニター用のチューブを取り付けた蓋を備えた培養カプセルの形態のインキュベータが記載されているが、当該インキュベータはガスの吸入には所定のガス供給チューブに対応するガスボンベが必要であるため、インキュベータ内に内部のガス圧及び湿度を維持するための液体を入れるため、そして衝撃に対する配慮がなされていないため、携帯性に欠ける。また、当該インキュベータはシャーレラックにシャーレを保持させて使用するため、規定の形と大きさのシャーレしか使用することができず、様々な形状の容器に対応することができない。
【特許文献1】特開2007−222083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明は、携帯可能であり、安価かつ取扱の容易なインキュベータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは鋭意研究の結果、気密性の高い携帯容器本体と、当該容器内部に緩衝材で設けた容器収納スペースを備えていることを特徴とするインキュベータが携帯性に富み、なおかつ従来の室内設置型インキュベータと遜色ない細胞培養能を有することを見出した。
【0007】
さらなる態様において、本発明のインキュベータはガス吹き込み口を設けることによってCOインキュベータとすることができる。COの供給には携帯用COガスボンベを使用しても良いが、取扱者の呼気で代用することも可能である。ガス吹き込み口は、気体がインキュベータ内からインキュベータ外へ流出することを阻止するため、弁のような一方向にのみ気体が移動する装置、あるいは気密性の蓋を備えていることが好ましい。吹き込み口は、緩衝材が通気性を備えたものである場合には図2に示すように緩衝材の内部に吹き込み口内側先端が位置していてもよいが、通気性を備えていない緩衝材を用いる場合には、吹き込み口から吹き込むガスをインキュベータに収納している容器まで到達させるため、吹き込み口内側先端が容器収納スペースまで緩衝材を貫通するように吹き込み口を取り付けなければならない。
【0008】
好ましい態様において、本発明のインキュベータの容器本体は、気密性を確保するため、アルミまたはステンレスのような金属またはポリカーボネートのような樹脂製カバンである。あるいは、より一層気密性と保温性を向上させるために、当該容器本体が内層と外層の二重構造になっており、その内層と、外層との間には空間が設けられていて、当該空間が真空となっていてもよい。あるいはさらに当該容器本体に断熱材を備えていてもよい。また、本発明のインキュベータは持ち運びの便宜のために把持部を備えていてもよい。
【0009】
好ましい態様において、本発明のインキュベータの緩衝材は、ポリウレタンフォームである。容器収納スペースは容器本体の大きさに依存して、1個以上、例えば2〜4個、好ましくは2個設ける。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインキュベータは携帯可能であり、安価かつ取扱が容易である。驚くべきことに、本発明のインキュベータで培養した培養細胞の転写活性の評価値と、COインキュベータで培養した培養細胞の転写活性の評価値は遜色なかった。
【0011】
さらに、本発明のインキュベータは容器収納スペースを緩衝材で設けているため、当該緩衝材が柔軟に変形して様々な形状の容器、例えばシャーレおよびマイクロプレート等を収納することができる。また、緩衝材は断熱効果を有するため、本発明のインキュベータは簡単な恒温機能を備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の好ましい実施形態にかかるインキュベータ1を示す斜視図である。インキュベータ1は横長の略直方体状に形成されたインキュベータ容器本体10と、当該容器本体10を開閉するための開閉口12、開閉口12を閉じた状態に維持するための留め具11a,b、そして容器本体10の外側から内側へと貫通して取り付けられた吹き込み口13を備える。
次に図2に基づいて、インキュベータ容器本体10の内部について説明する。図2はインキュベータ容器本体10を広げた状態の上面図である。容器本体10の内部は、緩衝材21a,bと、当該緩衝材21bをくり抜いて略直方体状に形成された容器収納スペース22a,bを備える。図2のインキュベータでは緩衝材は通気性を有するものとしたため、吹き込み口内側先端は緩衝材21a,b中に位置する。容器収納スペース22a,bには、マイクロプレート、シャーレ、ペトリ皿、培養フラスコ、チューブ等の容器を収納することができる。
【実施例1】
【0013】
本発明のインキュベータのインキュベータとしての性能を検討するため、本発明のインキュベータと市販のCOインキュベータ(MCO-175、三洋電機株式会社)を使用してそれぞれレポーター遺伝子アッセイを行った。本発明のインキュベータは上記好ましい実施形態にかかるインキュベータを使用し、COは実験者が呼気を10秒間吹き込むことによって供給し、温度の調節には恒温槽を使用した。
【0014】
アッセイ手順
1)プレート播種フロー:レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を有するマウス肝がん細胞H1L6.1c2を、培養フラスコ内でRPMI培地(8%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシンin RPMI1640)でインキュベータ(37℃)下で培養する。培養生細胞がコンフルエントになった状態で培養を停止し、安全キャビネット内で培養生細胞を7.5×10個/wellとなるように96穴マイクロプレートに播種し、インキュベータ(37℃)で一晩、前培養する。
2)プレート曝露フロー:段階希釈したDMSO溶液(4μl)にRPMI培地(400μl)を加え、被検試料溶液を調整する。標準溶液(TCDD、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン)についても同様の操作を行い、標準試料溶液を調整する。安全キャビネット内で前培養したマイクロプレートに、被験試料溶液および標準試料溶液をそれぞれ2well(190μl/well)に分け、インキュベータ内(37℃)で20〜24時間、細胞に曝露する。
3)プレート測定フロー:曝露後、培地を取り除き、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社製)により誘導されたルシフェラーゼ活性(相対発光強度;RLU)をルミノメーター(Centro LB960;Berthold社製)で測定する。TCDD相当濃度は、得られたRLUからバックグラウンド(溶媒対照のRLU)を差し引く。
【0015】
精度プロファイルによる確認
調製した検出下限値算出用標準溶液をn=5で測定した検量線より定量し、測定量(毒性等量)の平均、標準偏差および変動係数(CV)を算出し、精度プロファイルを作図し、検出下限および定量範囲を図より読み取る。
分析値の変動係数(CV)を分析対象成分の濃度に対して図示した精度プロファイルと定義し、定量値の精度プロファイルのCVが30%を示す濃度を検出下限とする。CVが20%以下となる濃度範囲を定量範囲とし、最小濃度を定量下限値、最大濃度を定量上限とする。結果を下記表および図3に示す。
参考資料;ダイオキシン類に係る生物検定法マニュアル(排ガス、ばいじんおよび燃え殻)(環境省)平成18年3月
【表1】

【0016】
実測濃度による確認
ダイオキシン類混合溶液(DMSO溶液)及び排ガス、ばいじんおよび燃え殻の精製液(DMSO溶液)をポータブルプレートのフローに従って定量し、測定量(毒性等量)及び通常フローでの数値「1」に対する比率を算出する。結果を下記表および図4に示す。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のインキュベータ1の全体斜視図。
【図2】本発明のインキュベータ1を広げた状態を示す全体上面図。
【図3】従来型のインキュベータと本発明の簡易携帯用インキュベータをそれぞれ用いて行ったレポーター遺伝子アッセイの精度プロファイル。
【図4】従来型のインキュベータと本発明の簡易携帯用インキュベータをそれぞれ用いて行ったレポーター遺伝子アッセイの分析比較値。
【符号の説明】
【0018】
1 インキュベータ
10 インキュベータ容器本体
11a,b 留め具
12 開閉口
13 吹き込み口
21a,b 緩衝材
22a,b 容器収納スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密性の高い携帯容器本体と、当該容器内部に緩衝材で設けた容器収納スペースを備えていることを特徴とするインキュベータ。
【請求項2】
携帯容器本体がさらにガス吹き込み口を備えていることを特徴とする、請求項1のインキュベータ。
【請求項3】
ガス吹き込み口が弁または蓋を備えていることを特徴とする、請求項2のインキュベータ。
【請求項4】
携帯容器本体が金属または樹脂製であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のインキュベータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate