説明

米の処理方法

【課題】余剰米の有効利用を図るにあたり、蒸留廃液の処理、処分が困難であることが大きな問題となっている従来法(液体発酵法)によるエタノール生産システムを根本から見直し、蒸留廃液の排出を極力抑制することを可能にする技術を提供することを目的とする。
【解決手段】原料米を糖化して糖化液を調製する糖化工程と、前記糖化液と酵母と水とから構成される発酵もろみの発酵開始時の水分含量を50〜60重量%に調整して固体発酵を行う固体発酵工程と、得られたエタノールを蒸留する蒸留工程と、を有する米の処理方法により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米を原料として、発酵により有用物質を生産する方法に係り、詳細には、有用物質の生産過程で廃液を生じることない米の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、1993年の多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)の農業合意に基づき日本政府が輸入を義務付けられている最低輸入義務(ミニマムアクセス=MA)米の在庫が積み上がっている。また、国産米の年間総需要量は、昭和38年度の1,341万トンをピークに減少に転じ、平成15年度でピーク時の64%に当たる862.9万トンとなっている。さらに、一人当たり年間供給量については、昭和37年度の118.3kgをピークに減少傾向にあり、平成15年度ではピーク時の52%に当たる61.9kgとなっており、米が余り続けている。
【0003】
これらを保管するには米1トンにつき、年1万2000円かかり、保管料だけで年間数100億円に達してしまう。このようにMA米、国産米共に保管経費の拡大に加え、食用に向かなくなった古い米も多くその処理に伴う財政負担が大きな問題となっていることから、余剰米の有効利用法が求められている。
【0004】
余剰米の有効利用法としては、エネルギーに変換する手法があり、特に、エタノール発酵法により製造されるバイオエタノールは、温室効果ガス削減、化石燃料依存からの脱却等の観点から、バイオエタノールの利用や応用の増大が見込まれている(非特許文献1及び2)。
【非特許文献1】斉木隆:バイオマス液体燃料をめぐる新たな動向と課題 1 世界バイオマス会議2004とバイオ液体燃料の動向,バイオサイエンスとインダストリー,第63巻,第3号,pp182−185(2005)
【非特許文献2】武田信生:廃棄物処理の新たな展開 資源・環境問題と廃棄物処理の展開,日本エネルギー学会誌,第78巻,第9号,pp706−711(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオマスを原料とする従来のエタノール発酵法は液体発酵法が主流であるため、液状の発酵もろみからエタノールを回収した後に残存する蒸留残渣やCOD濃度の高い蒸留廃液が排出され、これらの処理・処分に苦慮している。現在、酸化池法や活性汚泥法等によりエタノール蒸留廃液の処理が行なわれているが、排水処理のための設備費や運転管理費がかかることが指摘されている。
【0006】
そこで、本発明は、余剰米の有効利用を図るにあたり、蒸留廃液の処理、処分が困難であることが大きな問題となっている従来法(液体発酵法)によるエタノール生産システムを根本から見直し、蒸留廃液の排出を極力抑制することを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、(1)原料米を糖化して糖化液を調製する糖化工程と、前記糖化液と酵母と水とから構成される発酵もろみの発酵開始時の水分含量を50〜60重量%に調整して固体発酵を行う固体発酵工程と、得られたエタノールを蒸留する蒸留工程と、を有する米の処理方法を提供するものである。
【0008】
上記発明の好ましい態様は以下の通りである。(2)前記原料米として、籾米、玄米、胚芽米、白米からなる群から選択された1種類以上を用いる、前記(1)に記載の米の処理方法;
(3)前記糖化は、前記原料米を粉砕した後に行われる、前記(1)又は(2)に記載の米の処理方法;
(4)前記原料米として、粉砕後の粒子の70重量%以上が粒子径5mm未満であるものを用いる、前記(3)に記載の米の処理方法;
(5)前記原料米として、粉砕後の粒子の50重量%以上が粒子径1mm未満であるものを用いる、前記(3)又は(4)に記載の米の処理方法;
(6)前記糖化液は、前記原料米に水と酵素剤を添加することにより調製される、前記(1)〜(5)のいずれか1に記載の米の処理方法;
(7)前記酵素剤が、α−アミラーゼ及びグルコアミラーゼを含む、前記(6)に記載の米の処理方法;
(8)前記蒸留工程の後、得られたエタノールをさらに蒸留する工程を有する、前記(1)〜(7)のいずれか1に記載の米の処理方法;
(9)前記蒸留工程は、冷却水の水温が30℃以下で行われる、前記(1)〜(8)のいずれか1に記載の米の処理方法。
(10)前記蒸留工程で生じた残渣を、次の固体発酵の発酵もろみとして用いる、前記(8)又は(9)に記載の米の処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の米の処理方法によれば、米を発酵原料とし、固体発酵法を用いてエタノールの生産を行うことができるため、MA米や古米などの余剰米の有効利用が図れる。また、前記米は、デンプンを糊化するための蒸煮を必要とせず、無蒸煮米でも糖化及び発酵が可能であるため、蒸煮工程を省略することができる。さらに、アルコール発酵を、水分含量の比較的少ない固体発酵法で行うため、アルコール回収の際に問題となっていた廃液の発生がなく、廃液処理のための作業やコストが不要となる。また、蒸留後の残渣は米や酵母由来の栄養素を豊富に含むため、堆肥や家畜用の飼料として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態である米の処理方法の概要を説明するための図である。
【0011】
原料米1としては、籾米、玄米、胚芽米(胚芽精米)、白米(精米、精白米)、くず米、糠からなる群から選択された1種類以上を用いる。
【0012】
ここで、「籾米」とは、収穫したままの稲穂から脱穀した種子をいう。「玄米」とは、前記籾米から籾殻を取り去った後のものをいう。「胚芽米(胚芽精米)」とは、前記玄米の糠層のみを取り去って胚芽が残るように精白したものをいう。「白米(精米、精白米)」とは、前記玄米から糠層と胚芽を取り去ったものをいう。「くず米」とは、籾すり−米選工程で振るい分けられた低品位米(青米(あおまい))や、精米工程で白米が削り取られた後に発生する粉状の部分をいう。「糠」とは、玄米を白米に精米する時に出る、前記糠層及び前記胚芽の粉をいい、糠層の割合が多い「赤糠」と、白米の割合が多い「白糠」とがある。
【0013】
この中でも、籾米は表面にタンパク質、ビタミン、ミネラルを多く含み、酵母の増殖及びアルコール発酵速度を促進させるため好ましい。また、籾米に含まれる栄養成分を他の原料米1に添加する目的で、原料米1に籾殻を添加してもよい。なお、本実施形態に用いられる原料米1は、デンプンを糊化するための蒸煮処理は不要であり、無蒸煮のまま使用することができる。
【0014】
原料米1は粉砕処理される(S2)。粉砕処理は必須ではないが、原料米を粉砕処理することにより、粉砕処理を実施しない場合と比較して糖化工程における糖化を効率よく行うことができるため好ましい。
【0015】
粉砕処理(S1)が実施された後の米粉末2は、糖化の効率化の観点からは、粉砕後の米粉末2(粒子)の70重量%以上が粒子径5mm未満であることが好ましい。特に、粉砕後の米粉末2(粒子)の50重量%以上が粒子径1.0mm未満であることが、糖化がより効率よく行われるため特に好ましい。
【0016】
ここで言う米粉末2の粒子径は、所定目開きのメッシュからなる篩を通過するか否かによって判定され、例えば、「粒子径5mm未満」とは、目開き5mmの四方のメッシュを通過するものを意味し、「粒子径1mm未満」とは、目開き1mmの四方のメッシュを通過するものを意味する。本発明では、原料米1を、米粉末2の粒子径が目開き1mmの四方のメッシュを通過する粒子(すなわち粒子径1mm未満のもの)が50重量%以上となるよう粉砕することが特に望ましい。
【0017】
米粉末2は、酵素剤3と水10が添加されて糖化される(S2)。酵素剤3は、アミラーゼ系の酵素であれば特に制限なく用いることができるが、α−アミラーゼ及びグルコアミラーゼを含む酵素剤は糖化効率に優れているため好ましい。酵素剤3は市販の酵素剤を使用することができ、例えば、大和化成社製コクゲンG20(α−アミラーゼ1%、グルコアミラーゼ80%及びデキストリン19%)などを挙げることができる。
【0018】
酵素剤3の添加量は任意に決定することができるが、糖化効率の観点からは、原料米1又は米粉末2の重量に対して0.1〜0.3重量%程度である。
【0019】
水10は、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、カビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0020】
水10の添加量は、原料米1又は米粉末2の重量に対して40〜60重量%であることが好ましい。水の添加量を40〜60重量%とすることにより、低水分での発酵が可能であるため蒸留廃液の処理が不要となる。
【0021】
なお、糖化処理(S2)は、酵素剤3を添加する代わりに麹菌を添加してもよい。麹菌としては、例えば、Aspergillus sojae KBN606(醤油用)、Aspergillus sojae KBN615(醤油用)、Aspergillus oryzae KBN650(醤油用)、Aspergillus oryzae KBN930(味噌用)、Aspergillus oryzae KBN943(麦味噌用)、Aspergillus oryzae KBN1015(清酒用)、Aspergillus kawachii KBN2001(焼酎用)、Aspergillus kawachii P10-1(焼酎用)、Aspergillus awamori KBN2012(焼酎用)、Aspergillus saitoi KBN2024(泡盛用)等を挙げることができ、特にAspergillus kawachii KBN2001(焼酎用)、Aspergillus kawachii P10-1、A. oryzae KBN1015、A. oryzae KBN943を用いることが好ましい。なお、麹菌を用いて糖化を行う場合は、糖化処理(S2)工程において水10の添加は不要である。
【0022】
次いで、得られた糖化液4に酵母5及び必要に応じて水10が添加され、発酵もろみ6が調製される。このとき、発酵もろみ6は発酵開始時の水分含量が50〜60重量%に調整され、固体発酵が行われる(S3)。
【0023】
ここで、固体発酵とは、酵母の生育とエタノール発酵が可能な最小量の水分を保つ発酵もろみを用い、発酵開始から終了まで固形状で行う発酵法をいう。
【0024】
従来の液体発酵法では、還元糖を5〜10重量%程度含む水溶液に酵母を添加して培養し、アルコール発酵の終了後、蒸留によりエタノールを回収する際、廃液と発酵残渣が生成される。これに対し、固体発酵法では、蒸留によりエタノールを回収した後は発酵残渣のみ生成されるため、廃液の発生がなく、廃液処理のための作業やコストが不要となる。また、液体発酵法と比較して水分含量が低いため、悪臭の発生が少なく、エタノールの回収も容易である。
【0025】
なお、本発明のように米を原料とする場合は、発酵開始時の水分含量が50重量%未満では、ほとんどアルコールは生成されず、一方、水分含量が60重量%を超えると、アルコール回収後に廃液が発生するため好ましくない。
【0026】
糖化工程(S2)と固体発酵工程(S3)は別々に行うこともできるが、いわゆる並行複発酵形式により、同時に行うことができる。かかる場合、原料米1又は米粉末2と、酵素剤3と、酵母5と、水10の添加は同時でよい。
【0027】
固体発酵の温度は酵母5の至適温度により適宜設定することができるが、コスト面からみた場合、温度20〜25℃が経済的であるためかかる温度に設定することが好ましい。
【0028】
酵母5としては、アルコール発酵に一般に用いられるサッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces serevisiae)属の酵母を使用することができる。なお、発酵終了後のもろみのうち、一部を次回の発酵の種菌(スターター)として使用することができる。発酵終了時点でのアルコール濃度は、約12重量%程度である。
【0029】
固体発酵終了後、必要に応じて、得られたエタノールを蒸留する蒸留工程を実施する(S4)。蒸留工程では、発酵もろみ6を蒸留装置等によって蒸留し、エタノール濃度を約60重量%以上に濃縮される。これにより、粗留エタノール7が得られる。
【0030】
蒸留工程は、冷却水の水温が30℃以下の条件で実施されることが好ましい。冷却水の水温が低いほど、気化したエタノールの液化の効率を向上させることができる。
【0031】
更に、必要に応じて、蒸留工程(S4)の後、得られた粗留エタノール7をさらに蒸留する工程、すなわち精留工程(S5)が実施されることが好ましい。精留工程(S5)は一般的な精留装置等を用いることができる。精留工程(S5)では、最終的にエタノール濃度が約90重量%以上に濃縮される。これにより、精留エタノール8が得られる。
【0032】
得られたエタノール(粗留エタノール7又は精留エタノール8)は工業用アルコールや醸造用アルコール等、種々の分野で利用することができる。
【0033】
蒸留工程(S4)で副生された蒸留残渣9は原料米1や酵母5に由来する栄養素を豊富に含み、栄養学的に優れていることから、飼料化や肥料化(S6)を実施することにより、家畜の飼料や農作物の肥料として有効利用することができる。
【0034】
蒸留残渣9を家畜の飼料化する場合は、例えば、蒸留残渣9をそのまま又は乾燥処理を実施した上で、家畜に供給することができる。また、蒸留残渣9を肥料化する場合は、例えば、必要に応じて炭素源又は窒素源を添加し、C/N比を適宜調整することにより、作物に有用な肥料が得られる。
【0035】
なお、蒸留残渣9は、次の固体発酵(S3)の発酵もろみとして再利用することもできる。即ち、蒸留を行うことで加熱により発酵もろみの糖化が進行し、蒸留前の還元糖量より蒸留後の還元糖量が1〜3%増加する。そのため、蒸留残渣9の一部または全部を次回の固体発酵工程に移し、酵母5と水10を添加することにより、発酵もろみ6として再度固体発酵を実施することができる。原料がデンプン質であるため蒸留残渣9の再発酵は、複数回行うことができる。
【0036】
精留工程(S5)において排水20も若干生じるが、BODやCODは極めて低く、種々の用途に再利用することができる。
【0037】
次に、上記実施形態の米の処理方法を実施するための米の処理システムについて、図1及び図6を参照しつつ説明する。
【0038】
図6は本実施形態の米の処理システムの概要を説明するための図である。図6に示すように、本実施形態の米の処理システムは、原料米1を粉砕する粉砕器30と、糖化と固体発酵を行う発酵槽40と、エタノールの蒸留を行う蒸留器50とから構成されている。
【0039】
まず、所定量の原料米1は、破砕機30に投入口から投入され、破砕される。破砕された原料米(以下、米粉末2という)は、破砕機30の排出口から排出され、これを容器32が受ける。なお、破砕機30は、原料の無蒸煮米の目開き1mmの四方のメッシュを通過する粒子が50重量%以上となるよう粉砕するものが好ましく、圧砕式二次粉砕機などの破砕機が好ましい。
【0040】
次に、米粉末2は容器32から発酵槽40内に投入される。発酵槽40内には、米粉末2を撹拌する縦型の撹拌手段42が設けられている。撹拌手段42は、発酵槽40内にその縦軸方向に延在するように回転可能に配された回転軸44と、この回転軸44の外周部に半径方向外方に延在するように設けられた複数の撹拌羽根46と、上記回転軸44を回転駆動する駆動モータ48とから概略構成されている。
【0041】
米粉末2が発酵槽40内に投入され後、引き続き酵素剤3及び酵母5が添加され、さらに発酵もろみの水分含有量が60重量%となるように水10が添加された後、糖化及び固体発酵(並行複発酵)が行われる。糖化発酵中は、予め設定した糖化発酵時間中に、駆動モータ48および吸引ポンプを所定間隔で起動し、発酵槽40内の発酵もろみ6に対して周期的に撹拌および吸気を行うことで、糖化過程および発酵過程を行う。なお、発酵過程で発生する熱により内部温度が上昇するため、ジャケットに適温の熱媒を通して発酵に最適な温度に調節する必要がある。また、発酵過程で発生する気体としては、水蒸気の他に、発酵生成物である炭酸ガスあるいはアルコール蒸気が含まれる。
【0042】
固体発酵終了後、発酵もろみ6を発酵槽40下部若しくは側面より取り出し、蒸留器50へ移送する。蒸留器50としては、減圧蒸留器などの蒸留器が好ましい。蒸留により、所望の濃度を有する粗留エタノール7が得られる。
【実施例】
【0043】
1 エタノールの製造方法
(1)原料米
原料米として、岩手県胆沢町(現・奥州市)で栽培されたひとめぼれの籾米、玄米及び精米、もち米の籾米及び玄米の5種類の余剰米を用いた。これらの原料米を、それぞれKYB圧砕式二次粉砕機タウンビーバーミルを用いて粉砕した。図2は、一例として、ひとめぼれの籾米を粉砕した後の粉末の粒子径分布を示す図である。粒子径は図2のように1mm未満が最も重量の割合が多かった。なお、他の原料米についても同様の粒子径分布となるように粉砕した。
【0044】
また、前記ひとめぼれの籾米については、上記粉砕処理を行わず、粒子径が約5mmである原料米(図5において「粒状米」という)をそのまま用いた場合についても実施した。さらに比較例として、原料米の代わりにジャガイモを用い、かつ、上記の要領で粉砕したものを原料として用いた場合についても実施した。
【0045】
(2)供試酵素剤
酵素剤としては、大和化成社製のコクゲンG20(α−アミラーゼ1%、グルコアミラーゼ80%、デキストリン19%)を使用し、原料米の全重量に対して0.25%の重量を添加した。
【0046】
(3)供試酵母
酵母は、東京農業大学醸造科学科醸造微生物学研究室より恵与された、焼酎酵母A30 Saccharomyces
cerevisiaeを用いた。ポリペプトン0.5重量%、酵母エキス0.3重量%、グルコース2.0重量%、マルトース0.3重量%からなるYM培地10mlをL字管に分注し、オートクレーブ滅菌(1.2atm,121℃,20min)後、無菌状態で前記焼酎酵母を1白金耳接種し、振とう培養(25℃,48時間)を行ったものを前培養酵母として用いた。
【0047】
(4)糖化及び固体発酵
上記のように粉砕した米粉末を、それぞれ約10kgずつ発酵槽に入れ、発酵もろみの水分含有量が60重量%となるように水を添加した。次いで、発酵槽に前培養酵母4LとコクゲンG20を添加し、室温で3日間、糖化と固体発酵を行った。なお、発酵もろみの水分含量を、40重量%、50重量%、70重量%にそれぞれ調整した場合についても行った。
【0048】
(5)蒸留および蒸留装置
固体発酵の終了後、蒸留を行った。固体発酵物の蒸留は、減圧蒸留装置(内径600mm×高さ210mm、ドーム形で有効容積約40L)に発酵終了後の固体発酵物を投入して真空ポンプで内圧を−0.09Mpaに設定し、槽内の冷却水の温度を30℃以下として約2時間減圧蒸留を行った。蒸留により、エタノール濃度が92重量%のエタノールを得た。なお、蒸留により生じた残渣は、一部は発酵もろみに添加され、残りは肥料化された。
【0049】
2 試験例
(1)全糖の測定
供試試料である原料米をサンプルとして、全糖の測定を行った。全糖の測定はフェノール硫酸法にて行った。サンプルを5gサンプル瓶に採取し、超純水20ml、25%塩酸を5ml入れ、密封し2.5時間煮沸した。2.5時間後、冷却し、中和して、ろ過し、100ml用メスフラスコを用いて定量した。そのろ液を更に、5000倍に希釈した液を分析用試料とした。
【0050】
試験管に全糖では5000倍に希釈した試料1mlに5%フェノール溶液1mlと濃硫酸5ml加え混合し、15分間放置後、490nmにおける吸光度を測定した。
【0051】
標準曲線の作成は、グルコース0.1gを1L用メスフラスコで希釈し、その希釈液を100%として、0%、20%、40%、60%、80%、100%と超純水で調整し、フェノール硫酸法により490nmにおける吸光度を測定した。結果を図3に示す。
【0052】
図3に示すように、籾殻付きの原料米(ひとめぼれ籾付き)と玄米(ひとめぼれ玄米)の糖量を比較したところ籾殻付きの原料米は32.6重量%、玄米は33.1重量%とほぼ同量であった。固体発酵に使用した原料米はそれぞれ約10kgであるが、籾殻付きの原料米には10kg中に籾の分も含まれるため、実際には籾殻付きの原料米は玄米より糖分は少ないといえる。それにもかかわらず、籾の分を差し引いた分量で玄米と同量の糖が確認できたことから、籾殻付きの原料米は玄米よりも糖化効率が高いと考えられた。
【0053】
(2)酵母数の測定
酵母数の測定はトーマ氏血球計にて測定した。固体発酵後のもろみ1gをふた付き試験管に採取し、超純水で10倍に希釈したものを血球計とカバーガラスの間にピペットで落とした。そして1〜2分後、検鏡し、下記式により1ml中の酵母数を算出した。結果を図4に示す。
【0054】
1ml中の酵母数=4a×10×希釈率 (a:1区画(0.00025mm3)の総平均酵母数)
【0055】
図4に示すように、籾殻付きの原料米(ひとめぼれ籾付き)の方が玄米(ひとめぼれ玄米)よりも酵母の数が多いことが判明した。酵母数が多くなればそれに比例して発酵速度が向上する。このことから、籾殻付きの原料米、即ち籾米を用いる方がより効率よくエタノール生産ができることが推察された。
【0056】
(3)エタノール生成量の測定
固体発酵後のもろみ3gをふた付き試験管に採取し、超純水を2ml入れ希釈した。卓上遠心(SPEED3、10min、×1000rpm)で遠心分離を行った後の上澄み液を0.45μmのコマフィルターでろ過した。そのろ過液をYAZAKI社製のアルコール濃度計にて測定した。結果を図5に示す。
【0057】
図5に示すように、原料米別のエタノール生成量を比較したところ、ひとめぼれ、もち米共に、籾殻付きの原料米は、玄米と比べエタノール生成量が約2%多かった。エタノール生成量のみに着目すれば、籾殻付きの原料米を用いた場合と玄米を用いた場合との差はわずかである。しかしながら、全糖量の測定結果(図3)を考慮すれば、玄米より籾殻付きの原料米を用いた方が糖量の割合が多いと考えられ、また、酵母数の測定結果(図4)を考慮すれば、玄米より籾殻付きの原料米を用いた方が酵母の数も多い。従って、籾殻付きの原料米を用いる方がより効率的にエタノールが生成できることが示唆された。
【0058】
(4)水分含有量の検討
固体発酵開始時の水分含有量の違いによるエタノール生成効率を比較した結果を表1に示す。エタノール生成効率(〔B/(A*0.51)〕)は、全糖消費量とエタノール生成量を測定し、エタノール生成量(B)を全糖消費量(A)とエタノール変換係数(0.51)の積で除した値を比較することにより行った。その結果、固体発酵開始時の水分含有量がそれぞれ50重量%に調整された発酵もろみ、60重量%に調整された発酵もろみを用いて発酵を行った場合は、固体発酵開始時の発酵もろみ中の水分含有量が40重量%又は70重量%に調整された場合と比較して、エタノール生産が効率よく行われることが判明した。
【0059】
【表1】

【0060】
(5)C/N比の測定
蒸留工程後に発生する蒸留残渣が肥料としての適正を有するか否かを確認するため、ひとめぼれ籾殻つきの米粉末のC/N比を検討した。C/N比は、デュマ法により、炭素分(C)と窒素分(N)を測定し、得られた値から算出して求めた。比較として、糖化・固体発酵を行う前の米粉末のC/N比(表2中、「糖化・固体発酵前」と表記する)と併せて表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
一般に、肥料としてのC/N比は10程度であることが好ましいといわれている。原料米は、糖化及び固体発酵を行う前(すなわち無処理の原料米)は、そのC/Nが高く、肥料としての適正を有しているとはいえない。これに対し、糖化・固体発酵が行われ、エタノールを取得するために蒸留が行われた後の蒸留残渣のC/Nは、肥料として適度な値を示すことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態の米の処理方法の概要を説明するための図である。
【図2】原料米を粉砕した後の米粉末の粒子径分布を示す図である。
【図3】原料米の全糖の測定結果を示す図である。
【図4】固体発酵後のもろみ中の酵母数を測定した結果を示す図である。
【図5】固体発酵後のもろみ中のエタノール生成量を測定した結果を示す図である。
【図6】本実施形態の米の処理システムの概要を説明するための図である。
【符号の説明】
【0064】
1:原料米、2:米粉末、3:酵素剤、4:糖化液、5:酵母、6:発酵もろみ、7:粗留エタノール、8:精留エタノール、9:蒸留残渣、10:水、20:排水、30:破砕機、32:容器、40:発酵槽、42:撹拌手段、44:回転軸、46:撹拌子、48:駆動モータ、50:蒸留器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料米を糖化して糖化液を調製する糖化工程と、
前記糖化液と酵母と水とから構成される発酵もろみの発酵開始時の水分含量を50〜60重量%に調整して固体発酵を行う固体発酵工程と、
得られたエタノールを蒸留する蒸留工程と、
を有する米の処理方法。
【請求項2】
前記原料米として、籾米、玄米、胚芽米、白米からなる群から選択された1種類以上を用いる、請求項1に記載の米の処理方法。
【請求項3】
前記糖化は、前記原料米を粉砕した後に行われる、請求項1又は2に記載の米の処理方法。
【請求項4】
前記原料米として、粉砕後の粒子の70重量%以上が粒子径5mm未満であるものを用いる、請求項3に記載の米の処理方法。
【請求項5】
前記原料米として、粉砕後の粒子の50重量%以上が粒子径1mm未満であるものを用いる、請求項3又は請求項4に記載の米の処理方法。
【請求項6】
前記糖化液は、前記原料米に水と酵素剤を添加することにより調製される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の米の処理方法。
【請求項7】
前記酵素剤が、α−アミラーゼ及びグルコアミラーゼを含む、請求項6に記載の米の処理方法。
【請求項8】
前記蒸留工程の後、得られたエタノールをさらに蒸留する工程を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の米の処理方法。
【請求項9】
前記蒸留工程は、冷却水の水温が30℃以下で行われる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の米の処理方法。
【請求項10】
前記蒸留工程で生じた残渣を、次の固体発酵の発酵もろみとして用いる、請求項8又は9に記載の米の処理方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−11198(P2009−11198A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174538(P2007−174538)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(598096991)学校法人東京農業大学 (85)
【Fターム(参考)】