説明

米粉を主原料とする生麺類の製造方法、およびこれにより製造された生麺類ならびに生麺類製造用のプレミックス粉

【課題】 1.小麦粉やグルテン等のアレルギー特定原材料を一切使用する必要がないこと、2.加熱処理しなくてもその後の処理過程・流通過程において生麺として麺線形状を保持すること、3.米粉を主原料とする生麺を製麺機によって連続製麺することを可能とする米粉を主原料とする生麺類の製造方法、およびこれにより製造された生麺類ならびに生麺類製造用のプレミックス粉を提供する。
【解決手段】 米粉100重量部に対して、予めα化させてあるα化澱粉を10〜20重量部と、増粘多糖類を1〜6重量部とを加えて混合し、適量の水分を加えて混練した後に、常温にて麺状やパスタ状、シート状等の所定の形状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来、製品化されていない米粉を主原料とする生麺類の連続製麺技術に関し、特に、米粉を主原料とし、食物アレルギー疾患の原因となる小麦粉やグルテンを一切使用しなくても常温にて連続的に製麺化でき、しかも蒸す、煮る、茹でる等の加熱処理による粘性化処理を経なくても、その後の処理過程や流通過程でしっかりと麺状を保持し得る生麺類の製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から米粉を使用した麺類を求める消費者ニーズは存在しているが、米粉は小麦粉と比べると製麺性に劣るため製品化が難しく、また小麦製麺と異なる設備投資を必要とするためコスト的な問題も存在し、広く実用化には至っていない。一方、米粉の製麺化に関する研究は進められており、いくつか特許出願されている。従来の技術に関して例示しながら大別すると、例えば、特許文献1や特許文献2には、米粉に一定量の超強力小麦粉を混合したり、所定量のグルテンを添加することで米粉に粘り気を与え、麺状化する方法が記載されている。
【0003】
また、特許文献3および特許文献4には、米粉や澱粉を加熱処理してα化することにより糊状物質とした後、スクリュー押出機などで加圧して麺線を押出す方法が記載されており、これはビーフン等の製造方法としても知られている。
【0004】
さらに、特許文献5および特許文献6には、加熱処理によってα化させた米に、米粉や小麦粉を混合させて結着させ、麺帯状に圧延した後、麺線に切断する方法が記載されている。
【0005】
その他、予めα化した澱粉を米粉に混合し、この混合物を麺状に形成した後、蒸煮加熱処理を施して糊化させる技術(特許文献7)や微粉末化した米粉と2種類以上の地下澱粉末の混合物を麺線状に形成した後、蒸茹することで麺線形状を保持させる技術(特許文献8)が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−208560号公報
【特許文献2】特開平11−32706号公報
【特許文献3】特開2002−315526号公報
【特許文献4】特開平11−346690号公報
【特許文献5】特開平5−308917号公報
【特許文献6】特開平3−139250号公報
【特許文献7】特開昭54−70447号公報
【特許文献8】特開昭55−50871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された発明においては、米粉に対して超強力小麦粉やグルテンを混合するものであるが、これら超強力小麦粉およびグルテンは厚生労働省によりアレルギー特定原材料に指定されており、食物アレルギー疾患の人は食することができないという問題がある。また、従来技術の場合、米粉を麺状に形成するために、超強力小麦粉やグルテンの混合量を多くしなければならないが、その一方で、それらの混合量を多くするほど米の風味や食感が低下し、その食味も小麦粉製の麺類と比べて同等以下に落ちてしまうという問題もある。これでは敢えてコストを掛けてまで製麺化する意味はない。
【0008】
また、特許文献3および特許文献4に記載された発明においては、小麦粉やグルテンは使用しないが、糊状化するための加熱工程を必要とするため、別途、加熱処理装置を設置しなければならず、コスト負担が大きい。しかも蒸煮処理を経る場合、大量処理は難しいので製造効率が落ちるという問題もある。また、米粉や澱粉を製造途中でα化させることにより米の風味や食感が損なわれ、製造された麺は冷凍耐性にも劣り、ぱさぱさとした硬い食感になってしまうという問題がある。
【0009】
さらに、特許文献5および特許文献6に記載された発明においては、炊いた米をつぶして練り状にし、小麦粉と混合するため、前述と同様にアレルギーの問題と、加熱処理設備の問題、加熱処理による製造効率の低下、コスト増および米本来の風味や食感の低下、品質の劣化の問題が残っている。また、加熱された麺帯は放熱しなければならないためすぐに麺線に切断することはできず製造時間にロスが生じる。さらに、加熱処理の加減が原因で澱粉のα化度が低い場合、製麺後の麺は折れたり切れ易いため、再度、蒸煮等の加熱工程を行うなどの無駄が生じる。
【0010】
また、特許文献7に記載の発明においては、予めα化された乾燥澱粉を使用するが、扁平板状に整形した後に蒸煮加熱処理を施して糊化するようになっている。また、特許文献8においても、麺線状に切り出した後に蒸茹、冷水洗を順次施すことにより麺線保持性を保持させるようになっている。したがって、これらはいずれも生麺ではなく、麺状保持のための加熱糊化処理が行われている。よって、結局、他の先行文献と同様、加熱処理用の設備を別途必要するためその設備投資と設置場所の確保が必要であり、コスト増になってしまう。また、加熱処理工程を経るため大量生産には向かない。さらに生麺に比べて麺の風味や歯ごたえが劣ってしまうし、すでに茹でられた状況にあるため麺が伸びやすく、ユーザが好みに合わせて麺の「こし」を調整することができず、商品価値が低い。
【0011】
以上のように、従来、米粉を主原料として麺類を製造する場合、当初、小麦粉を混ぜて小麦グルテンの結着性を利用したり、別途、グルテンを混ぜて粘着性を出し、麺の形状を保持していた。その後、食物アレルギー性の原材料を使用しない麺類を製造する目的で、小麦粉やグルテンを混入しない方法が検討された。その結果、混練途中で加熱することによって米粉をα化し、このときの糊状を利用して結着することが提案されている。これはよく知られているビーフン等の製法であり、乾燥麺である。つまり、これらの技術はいずれも生麺を製造できるものではなかった。一方、予めα化された乾燥澱粉を使用することも提案されているが、結局、最終処理段階で麺全体として糊化させなければ麺状を保持できないという問題があり、他の先行技術と同様、加熱処理工程が行われ、生麺とはいえない。これらの技術によっては製麺機を使用して生麺の連続的に製麺することはできない。
【0012】
従来、米粉を主原料とする麺類の製法において、グルテンを加えない限り、必ず加熱処理が加えられているのは、米粉の粘性の乏しさにある。仮に加熱処理を加えずに麺を茹でた場合、茹でている途中で次々に細切れになり、麺の体をなさなくなる。したがって、先行技術文献に示すように米粉を使用した製麺技術が多数提案されているが、小麦やグルテンを使用せずに、米粉を主原料とした生麺を連続的に製麺化することはできず製品化されていないのが実状である。
【0013】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、1.小麦粉やグルテン等のアレルギー特定原材料を一切使用する必要がないこと、2.加熱処理しなくてもその後の処理過程・流通過程において生麺として麺線形状を保持すること、3.米粉を主原料とする生麺を製麺機によって連続製麺することを可能とする米粉を主原料とする生麺類の製造方法、およびこれにより製造された生麺類ならびに生麺類製造用のプレミックス粉を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る米粉を主原料とする生麺類の製造方法の特徴は、米粉100重量部に対して、予めα化させてあるα化澱粉を10〜20重量部と、増粘多糖類を1〜6重量部とを加えて混合し、適量の水分を加えて混練した後に、常温にて麺状やパスタ状、シート状等の所定の形状に形成する点にある。
【0015】
また、本発明において、混合物の重量に対し、25〜35重量部の水分を加えて混練することが好ましい。
【0016】
さらに、本発明において、前記増粘多糖類としてキサンタンガムを使用することが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る生麺類製造用プレミックス粉の特徴は、米粉と、予めα化させてあるα化澱粉と、増粘多糖類とから構成されており、前記米粉100重量部に対して、前記α化澱粉が10〜20重量部、前記増粘多糖類が1〜6重量部の割合で混合されている点にあり、前記増粘多糖類としてキサンタンガムを使用することがより好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、小麦粉やグルテン等のアレルギー特定原材料を使用する必要がなく、しかも加熱処理することなく麺状、パスタ状、シート状の形状をしっかり保持した生麺を提供することができる。また、この場合に加熱処理槽等の特別な設備投資の必要がなく従来の生麺製造設備をそのまま利用し、連続的に製麺化できるためコスト抑制および製造効率の向上をも図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る米粉を主原料とする生麺類の製造方法、およびこれにより製造された生麺類ならびに生麺類製造用のプレミックス粉の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0020】
本願発明者は、前述した課題に対して鋭意研究した結果、小麦粉やグルテン等のアレルギー特定原材料を使用する必要がなく、しかも加熱処理することなく麺状、パスタ状、シート状の形状をしっかり保持した生麺を連続的に製造することができる生麺の製造技術を確立するに至った。なお、本実施形態において、生麺類とは、加熱処理を施していない麺線状、パスタ状あるいはシート状等の様々な形状の食品を意味するものとする。
【0021】
以下、本発明に係る生麺類の原料およびその配合割合を特定するための実験について説明する。本発明に係る生麺類の原料の特定に際しては、従来技術で開示されている原料を用いて生麺を実際に製造し、その生麺の適性を評価しつつ最適な原料および配合割合を特定した。なお、以下の実験において使用した米粉はうるち米を微粉末化したものであるが、もち米を微粉末化したものでもよく、両者を混合したものでもよい。また、製麺するに際しては、従来の製麺方法を使用した。
【0022】
『実験例1:米粉に澱粉あるいは増粘多糖類のいずれかのみを混合した生麺の製造実験』
本発明に係る生麺類は、小麦粉等のアレルギー性の原料を使用しないことが前提であるため、まず、米粉に対して各種の澱粉、あるいは増粘多糖類のみを混合させて生麺を製造し、その適性を評価した。本実験例1では、米粉100重量部に対して、タピオカ澱粉、ジャガイモ澱粉およびサツマイモ澱粉をそれぞれ50重量部配合した混合粉、および増粘多糖類としてキサンタンガムを5重量部配合した混合粉を用いて生麺を製造した。この実験結果を図1に示す。
【0023】
図1に示すように、タピオカ澱粉、ジャガイモ澱粉およびサツマイモ澱粉を配合した混合粉では、水を加えて攪拌・混練しても麺生地としてまとまり難くく、かろうじて麺帯状に形成できたとしても、すぐに割れてしまって麺帯状を保持することができなかった。一方、キサンタンガムのみを配合した混合粉にも麺生地としてまとまらず、麺帯状に形成することすらできなかった。以上より、米粉に澱粉あるいは増粘多糖類のみを混合させただけでは、生麺を製造することは困難であり、特に、製麺機を使用して連続的に製麺するのは不可能である。なお、もちろん従来のように、処理途中に加熱処理を加えて米粉あるいは澱粉を糊化(α化)させれば、その結着力によって麺帯状に成形することはできるのは言うまでもない。
【0024】
『実験例2:α化澱粉を混合した生麺の製造実験』
つぎに、米粉に対して予めα化させてあるα化澱粉を混合させて生麺を製造し、その適性を評価した。本実験例2では、米粉100重量部に対して、予めα化されたタピオカ澱粉、ジャガイモ澱粉およびサツマイモ澱粉をそれぞれ50重量部配合した混合粉を用いて生麺を製造した。この実験結果を図2に示す。
【0025】
図2に示すように、予めα化されたタピオカ澱粉、ジャガイモ澱粉およびサツマイモ澱粉を配合した混合粉では、麺生地の粘着力が強くなり過ぎて固まりやすく、麺帯状にすると表面がボソボソになってしまう。したがって、連続的な製麺化はできないものである。また、麺を茹でて食しても食感が悪く、のどごしも良くない。通常の小麦麺に比べても劣るものであった。以上より、米粉にα化澱粉のみを50重量%混合させた場合、連続製麺が難しいし、麺自体も食感や食味が損なわれて商品価値が低いものであった。
【0026】
『実験例3:α化澱粉および増粘多糖類の配合割合を変化させた生麺の製造実験』
つぎに、米粉に対してα化澱粉および増粘多糖類を様々な割合で混合して生麺を製造し、それらの適性を評価した。本実験例3では、米粉100重量部に対して、予めα化されたタピオカ澱粉の配合割合を5〜30重量部の間で5重量部ごとに変化させた。また、増粘多糖類としてキサンタンガムを使用し、その配合割合を1〜6重量部の間で変化させて生麺を製造した。この実験結果を図3に示す。
【0027】
図3に示すように、α化タピオカ澱粉の混合割合が5重量部以下の場合、および25重量部以上の場合には、キサンタンガムの混合量に関わらず、生麺としての適性が悪かった。5重量部以下の場合には生地としてまとまらず麺帯状にできなかった。一方、25重量部以上の場合には生地が固まり過ぎて圧延機にかけられず麺帯状に成形できなかった。
【0028】
一方、α化タピオカ澱粉が20重量部の場合、およびα化タピオカ澱粉が10〜15重量部で、かつ、キサンタンガムが1重量部の場合、一応、結着させることはできる。ただし、麺帯生地の結着力は弱く、かろうじて麺線状に切断できる程度であるため、圧延機で麺帯状にする過程で切れるおそれがある。また、α化タピオカ澱粉が20重量部の生麺を食したところ、澱粉の味が少し強く出てしまうため食味が十分とはいえない。
【0029】
さらに、α化タピオカ澱粉が10重量部および15重量部であって、かつ、キサンタンガムが2〜6重量部の場合、製造された生麺は良好である。特に、α化タピオカ澱粉が15重量部で、キサンタンガムが3重量部の場合に最適な生麺が製造された。α化度の程度や原料、室温等の諸条件にもよるが、α化タピオカ澱粉が12〜18重量部であって、キサンタンガムが2.5〜3.5重量部の範囲が最適範囲と考えられる。製造した生麺は、生地がまとまりやすく表面は滑らかであり、圧延機によって麺帯状に成形することができるし、麺線状に切断しても割れたり切れたりすることなく形状が保持される。また、この生麺を茹でても細切れになることもない。食味に関しては、生麺特有の「こし」があり、米粉特有のつるつるとした食感で喉ごしが滑らかであり、米の風味も十分に生かされた製品ができた。
【0030】
したがって、米粉を主原料とする生麺に適当な配合割合は、米粉100重量部に対して、α化タピオカ澱粉10〜20重量部、およびキサンタンガム1〜6重量部であり、特に、実験結果上、α化タピオカ澱粉が15重量部、およびキサンタンガムが3重量部のとき、最適な生麺が製造されることが示された。また、製麺化の諸条件等の誤差を考慮すれば、最適な条件の許容範囲は、経験上、米粉100重量部に対し、α化タピオカ澱粉が12〜18重量部、およびキサンタンガムが2.5〜3.5重量部である。
【0031】
『実験例4:他のα化澱粉の適用可能性を確認する実験』
つぎに、α化タピオカ澱粉以外のα化澱粉を使用して、上記実験例3で見出した配合割合により生麺を製造し、それらの適性を評価した。本実験例4では、米粉100重量部に対して、3重量部のキサンタンガムを混合するとともに、各種のα化澱粉を10〜20重量部の間で変化させて混合した。この実験結果を図4に示す。
【0032】
図4に示すように、本実験例4で製造された生麺は、α化ジャガイモ澱粉、α化サツマイモ澱粉およびα化トウモロコシ澱粉の種類の違いに関わらず、α化タピオカ澱粉とほぼ同等の性状を示した。すなわち、α化澱粉が20重量部の場合、麺帯生地の結着力が弱く、食味も米特性が不十分であった。また、α化澱粉が10重量部の場合、麺帯生地の結着力が強く、食味や食感が良好であった。そして、15重量部の場合、麺線の保持力、食味、食感の全てにおいて好適な生麺が製造された。したがって、α化澱粉は、α化タピオカ澱粉、α化ジャガイモ澱粉、α化サツマイモ澱粉およびα化トウモロコシ澱粉その他広く適用可能であると考えられる。
【0033】
『実験例5:他の増粘多糖類の適用可能性を確認する実験』
つぎに、キサンタンガム以外の増粘多糖類を使用して、上記実験例3で見出した配合割合により生麺を製造し、それらの適性を評価した。本実験例5では、米粉100重量部に対して、15重量部のα化タピオカ澱粉を混合するとともに、増粘多糖類としてカードラン、アルギン酸、グァーガムをそれぞれ3重量部混合した。この実験結果を図5に示す。
【0034】
図5に示すように、本実験例5で製造された生麺は、カードラン、アルギン酸、グァーガムの種類の違いに関わらず、連続製麺に供することが可能であった。但し、結着力の強いキサンタンガムに比べると、カードランおよびアルギン酸を使用した生麺は若干結着力に劣っていた。またグァーガムを使用した生麺は他の増粘多糖類に比べると生地のつながりが少し悪かった。したがって、このような実施例5の結果を参照すると、通常、増粘多糖類は艶出しのために和菓子などに添加されるが、麺類においては、結着材としての役割が大きいことがわかる。この点、キサンタンガムは他の増粘多糖類に比べても結着力が大きいため、製麺化にはより好ましく、特に、連続製麺化すること、生麺のまま流通過程に乗せることを目的の一つとする本発明おいては、キサンタンガムが好適であるといえる。但し、他の増粘多糖類を使用しても本発明の作用効果を達成することができるし、キサンタンガムと併用することも可能である。
【0035】
『実験例6:最適な加水量を特定する実験』
つぎに、上記実験例3で特定した最適な配合割合の混合物に対し、混練の際に加える水分量を変化させて生麺を製造し、それらの適性を評価した。すなわち、本実験例6では、米粉100重量部に対し、α化タピオカ澱粉15重量部、およびキサンタンガム3重量部を混合した混合物100重量部に対し、20〜40重量部の範囲で水を加えて各混練物の性状を比べた。この実験結果を図6に示す。
【0036】
図6に示すように、加水量が20重量部の場合、生地がつながらず麺帯状に成形できなかった。また、加水量が40重量部の場合、含水量が多すぎるため生地が柔らかくなり過ぎて好ましくなかった。一方、加水量を25重量部にした場合、生地がつながり難いものの性状は若干改善する。また、加水量が35重量部の場合、生地はやや柔らかいものの、良好な生麺が製造された。そして、加水量が30重量部の場合、生地のつながり具合や柔らかさの点で最適な生麺が製造できた。
【0037】
したがって、米粉とα化澱粉と増粘多糖類との混合物100重量部に対し、加水量は25〜35重量部が好ましく、特に、30重量部前後の範囲において生麺の性状は最適である。上記数値の許容範囲は室温や湿度にも影響されるが数%程度と考えられる。
【0038】
以上の実験例1〜6の結果より、本発明に係る米粉を主原料とする生麺類は、米粉100重量部に対して、α化澱粉10〜20重量部、および増粘多糖類1〜6重量部を混合した混合物100重量部に対し、25〜30重量部の水を加えて混練した後、適宜塩分を加え、通常の製麺方法によって所定形状の生麺類として製造されるものである。
【0039】
α化澱粉は、予めα化された加工澱粉のことであり、具体的には、キャッサバ、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ等の天然物由来の澱粉を加熱によりα化した後、高温のまま急速に乾燥させたり、あるいは瞬間冷凍後の真空中で乾燥させることでβ化への進行を押さえた澱粉のことである。
【0040】
増粘多糖類は、自然界に存在する高分子材料であり、主に食品添加物として増粘剤や安定剤等の様々な用途に使用されている。この増粘多糖類は、α化澱粉の粘着力と協働して米粉の結着材として作用し、生麺の形状保持能力を高める機能を有している。本実施形態では、上記実験例3および実験例5で示されたように、少なくとも、キサンタンガム、カードラン、アルギン酸、およびグァーガムを増粘多糖類として適用可能であり、キサンタンガムが最適である。また、これらの増粘多糖類と同等の粘着力を有するものであれば、ローカストビーンガム、トラガントガム、タマリンドガム、カラギーナン、ファーセレラン、アラビアガム等のその他の増粘多糖類、あるいは寒天等の増粘剤が適用可能と考えられる。さらに、上記増粘多糖類は、2種類以上を混合させてもよい。
【0041】
つぎに、本実施形態の米粉を主原料とする生麺類の製造方法について、図7のフローチャートを用いて説明する。
【0042】
まず、ステップS1において、主原料となる米を粉砕機により微粉末化し米粉を製造する。このとき、米粉の平均粒子径が10〜250μmの範囲内となるように微粉末化することが好ましい。米粉の平均粒子径を10μmより小さくする場合、特殊な機械が必要であるため大量生産に向かずコストもかかるため下限とした。一方、米粉の平均粒子径が250μmよりも大きい場合には、粗すぎて混練し難い。もちろん、予め微粉末化された米粉を使用する場合には、本ステップS1は不要である。
【0043】
つぎに、ステップS2において、米粉100重量部に対して、α化澱粉を10〜20重量部と、増粘多糖類を1〜6重量部とを混合し、均一に分散させる。このとき、必要に応じて適量の食塩を添加する。また、米粉、α化澱粉、および増粘多糖類を予め上記割合で混合させた生麺類製造用プレミックス粉として用意しておくことも可能であり、本ステップS2を省略あるいは簡略化できる。
【0044】
つぎに、ステップS3において、ステップS2で混合した混合物に水を加えながらミキサー等により攪拌および混練する。このとき、添加する水の量は、混練された混練物100重量部に対して、25〜35重量部となるように添加する。実験例6で示されたように、水の添加量が25重量部よりも少ないと生地がつながらなくなるし、水の添加量が35重量部よりも多いと、生地が柔らかくなり過ぎてしまうからである。なお、本ステップS3で添加する水は、温水であったり、加熱するようなα化を行う必要はなく、常温水でよい。もちろん水質は軟水、硬水またはイオン化水等、特に制限されない。
【0045】
つぎに、ステップS4において、ステップS3で混練した混練物を圧延機等により圧延し、麺帯状の麺生地を製造する。この工程においてもα化を行う必要はない。そして、この麺帯状の麺生地を、ステップS5において、切断機等により多数の麺線状に切り出す。このとき、幅の異なる切り刃を適宜選択することにより用途に応じた麺線の太さや形状を選択することができる。以上の工程により、本実施形態の米粉を主原料とする生麺類が製造される。この後、生麺を包装するが加熱等によるα化の必要はない。
【0046】
前述した本実施形態の米粉を主原料とする生麺類によれば、小麦粉やグルテン等のアレルギー特定原材料を使用していないため、食物アレルギー疾患の人でも安心して食することができる。また、加熱処理を施す必要がないため、従来、製麺工程において必要とされていた加熱処理用の設備投資、設置スペース、加熱処理エネルギー等のコストが一切かからないし、放熱工程、乾燥工程および熟成工程といった余分な工程も不要である。さらに好適な結着性を備えた麺生地を製造できるため生麺類の一貫した連続製造が可能となる。
【0047】
したがって、零細企業や中小企業のように、設備や予算のない製麺業者であっても容易に本技術を導入することができる。また、手打ち麺の製造方法の他、自動製麺設備や連続製麺設備を使用することも可能である。
【0048】
なお、本発明に係る米粉を主原料とする生麺類の製造方法、およびこれにより製造された生麺類ならびに生麺類製造用のプレミックス粉は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0049】
例えば、本実施形態の生麺類では、小麦粉やグルテン等のアレルギー特定原材料を一切使用していないが、これに限られるものではなく、アレルギー患者以外の一般人や軽度のアレルギー患者に提供する場合には、所定量の小麦やグルテン等の他の原材料を添加してもよい。例えば、小麦を10重量部以下の量で米粉に添加することにより、生麺類に小麦粉特有の風味を付加してもよい。
【0050】
また、本実施形態の生麺類では、増粘多糖類の配合割合を6重量部までとしているが、7重量部以上配合させても生麺を製造することができる。ただし、この場合、増粘多糖類を多く混合するほど、食したときに、増粘多糖類に特有のえぐ味が感じられるため、あまり好ましくない。
【0051】
また、本実施形態の生麺類の製造工程では、ミキサーや圧延機などの機械器具を使用しているが、これらのうちの一部あるいは全てを手作業で行うようにしてもよい。
【0052】
また、本実施形態の生麺類に対し、蒸す、煮る、揚げる、乾燥するなどの追加工程を施すことで生チルド麺、生冷凍麺、茹で麺、茹でチルド麺、茹で冷凍麺、蒸し麺、蒸しチルド麺、蒸し冷凍麺、乾麺、油揚げ即席麺、非油揚げ即席麺、またはロングライフ麺などを製造してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る米粉を主原料とする生麺類の原料を特定するための実験結果を示す表である。
【図2】本発明に係る米粉を主原料とする生麺類の原料を特定するための実験結果を示す表である。
【図3】本発明に係る米粉を主原料とする生麺類の原料および配合割合を特定するための実験結果を示す表である。
【図4】本発明に係る米粉を主原料とする生麺類に適用可能なα化澱粉を特定するための実験結果を示す表である。
【図5】本発明に係る米粉を主原料とする生麺類に適用可能な増粘多糖類を特定するための実験結果を示す表である。
【図6】本発明に係る米粉を主原料とする生麺類に最適な加水量を特定するための実験結果を示す表である。
【図7】本発明に係る米粉を主原料とする生麺類の製造方法の実施形態を示すフローチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉100重量部に対して、予めα化させてあるα化澱粉を10〜20重量部と、増粘多糖類を1〜6重量部とを加えて混合し、適量の水分を加えて混練した後に、常温にて麺状やパスタ状、シート状等の所定の形状に形成することを特徴とする米粉を主原料とする生麺類の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、混合物の重量に対し、25〜35重量部の水分を加えて混練することを特徴とする米粉を主原料とする生麺類の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記増粘多糖類としてキサンタンガムを使用することを特徴とする米粉を主原料とする生麺類の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の米粉を主原料とする生麺類の製造方法により製造されたことを特徴とする米粉を主原料とする生麺類。
【請求項5】
米粉と、予めα化させてあるα化澱粉と、増粘多糖類とから構成されており、
前記米粉100重量部に対して、前記α化澱粉が10〜20重量部、前記増粘多糖類が1〜6重量部の割合で混合されていることを特徴とする生麺類製造用プレミックス粉。
【請求項6】
請求項5において、前記増粘多糖類としてキサンタンガムを使用することを特徴とする生麺類製造用プレミックス粉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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