説明

米糖化液の製造方法

【課題】 一般の酵素を用いて米糖化液を製造する際に、酸・高温高圧の前処理を行うことで、米の糖化効率を格段に向上させる米糖化液の製造方法を提供すること。
【解決手段】容器に米粉と水の混合比(重量比)を、1:1.5〜2.5として導入して混合・攪拌後、該容器内の混合液に塩酸を添加してpHを1.5〜2.5に調整し、次いで酸処理後の混合液を圧力容器内で、温度100〜130℃の範囲下で15〜25分加熱する前処理を行い、その後酵素による糖化を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米の糖化液の製造方法に関し、詳しくは、エタノールを生産する前段階の糖化液製造工程に際し糖化効率が高い米糖化液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止策の一環としてエタノール、特に生物由来のエタノールへの関心が高まっており、エタノールを燃料とする車が開発されたことや、原料となるトウモロコシやサトウキビの価格高騰などの現象は記憶に新しいところである。
【0003】
米は、日本酒の原料であり、発酵素材としてはなじみの深い素材であるが、トウモロコシやサトウキビに比べ価格が高い点、トウモロコシよりもたんぱく質の量が多い点、加熱すると糊化が強い澱粉の性質などから工業的なエタノール生産の原料としての活用は遅れていた。
【0004】
エタノールの製造工程には、高分子の澱粉を含む原料を主にグルコースなどの分子量の小さい糖質に加水分解する糖化工程と、酵母によってグルコースからエタノールを生産する発酵工程がある。糖化工程には、酸を用いて加水分解する酸糖化法と、酵素を用いて加水分解する酵素糖化法が知られている。
【0005】
米の糖化は、本発明のようなアルコールを生産する他に、水飴(主な成分をグルコースが2つ結合したマルトースとする)などの甘味料を生産するためにも行われており、さまざまな手法が開示されている。
【0006】
特許文献1では、新規な活性を持つ複合酵素剤による糖化反応促進でグルコースを高収量で得る技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2においては生米に水を加え、115〜125℃、1〜6分の高温高圧処理を行って澱粉をα化させ、その後にアミラーゼを加えてホモジナイズし、酵素の作用を高めて短時間で糖化させ、その後すぐに酵素を失活させて、糖液の生産を行う技術が開示されている。
【特許文献1】特開平6−62882号公報
【特許文献2】特開2003−250485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の技術では、特別な複合酵素剤を生産又は購入する必要がある。複合酵素剤を生産するには窒素源、炭素源が必要となり、さらにその培養には温度管理、pH管理を2〜4日かけて行わなければならない。また、培養後は遠心分離、除菌等を行って回収作業も行わなければならず、手間及び費用がかかるという問題がある。
【0009】
特許文献2の技術は糊化が強いα澱粉に対して流動性を確保する必要があり、米の容量に対してバッチ式で2〜4倍、連続式では8〜12倍の水を添加しなければならない。
【0010】
そこで、本発明の課題は、一般の酵素を用いて米糖化液を製造する際に、酸・高温高圧の前処理を行うことで、米の糖化効率を格段に向上させる米糖化液の製造方法を提供することにある。
【0011】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0013】
(請求項1)
容器に米粉と水を所定の混合比で導入して混合・攪拌後、該容器内の混合液に塩酸を添加してpHを1.5〜2.5に調整し、次いで酸処理後の混合液を圧力容器内で、温度100〜130℃の範囲下で15〜25分加熱する前処理を行い、その後酵素による糖化を行うことを特徴とする米糖化液の製造方法。
【0014】
(請求項2)
前記前処理における加熱温度が、110〜125℃であることを特徴とする請求項1記載の米糖化液の製造方法。
【0015】
(請求項3)
前記前処理における加熱時間が18〜22分であることを特徴とする請求項1又は2記載の米糖化液の製造方法。
【0016】
(請求項4)
米粉と水の混合比(重量比)が、1:1.5〜2.5であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の米糖化液の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、一般の酵素を用いて米糖化液を製造する際に、酸・高温高圧の前処理を行うことで、米の糖化効率を格段に向上させる米糖化液の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0019】
(前処理工程)
通常、米中澱粉を、酵素を使ってグルコースに変換すると、グルコースの回収効率が悪い。これは米中澱粉が運動性の低いβ澱粉として存在するためである。本発明では酵素処理を行う前処理として加熱処理を行うことでβ澱粉からα澱粉に変化させて、その運動性を高めることで米中の澱粉を酵素が分解しやすくなる。一方でα澱粉化した米は粘性が高く、糊状になると逆に酵素が作用しにくくなる。そのため、酸を加えて低pHで行うことで糊状になること(糊化)を防ぎ、α化澱粉の流動性を高めている。
【0020】
本発明の酸処理や加熱処理を行うと、澱粉がβ化しないよう60℃以上に保持したまま酵素処理を行うことで、グルコースの回収効率を高くし、米の糖化効率を向上させることができる。
【0021】
本発明の米糖化液の製造方法における最初の工程は、容器に米粉と水を所定の混合比で導入して混合・攪拌する工程である。
【0022】
米粉と水の混合比(重量比)は、1:1.5〜2.5であることが好ましく、より好ましくは1:1.2〜2.2である。混合比(重量比)が1:2.5より越えると、酵素反応効果が低下するので好ましくなく、また1:1.5より小さいと得られる糖液の濃度が低下するので好ましくない。
【0023】
この工程で用いられる容器としては、耐酸性と耐熱性がある円筒形容器(約10L)等が挙げられる。
【0024】
次の工程は、前記容器内の混合液に塩酸を添加してpHを1.5〜2.5の範囲に調整する酸処理を行う工程である。
【0025】
酸処理に塩酸を用いるのは、糖化工程の後、アルコール発酵(エタノール生産)を行う上で好ましいからである。例えば硫酸を用いると、得られた糖化液に硫黄が含まれ、この硫黄がアルコール発酵を阻害するので好ましくない。
【0026】
本発明では、pHは1.5〜2.5の範囲に調整されるが、pHが1.5未満であると製造プロセスを耐強酸仕様にする必要があるために好ましくなく、またpHが2.5を越えるとα化した米の糊化を防ぐ効果が少ないので好ましくない。
【0027】
本発明において好ましいpHは1.6〜2.4の範囲であり、より好ましいpHの範囲は1.8〜2.2の範囲である。
【0028】
次の工程は、酸処理後の混合液を圧力容器内で、温度100〜130℃の範囲下で15〜25分加熱する工程である。
【0029】
加熱温度が100℃未満であると澱粉のα化が十分進行しないために好ましくなく、また加熱温度が130℃を越えると製造プロセスを耐圧仕様にしなければならないので好ましくない。加熱温度は好ましくは110〜125℃であり、さらに好ましくは120〜122℃である。
【0030】
また加熱時間は15分未満であると澱粉のα化が十分進行しないために好ましくなく、また25分を越えても、それ以上の効果はなく、製造プロセスにおけるエネルギーを無駄に消費してしまうので好ましくない。加熱時間は好ましくは18〜22分である。
【0031】
加熱することにより、高温、高圧環境になり、米中澱粉をβ澱粉からα澱粉に変化させてその運動性を高めることができる。また、pHが1.5〜2.5の範囲に調整されているのでα化した米が強く糊化することを防ぐことができる。
【0032】
高温高圧処理を行う圧力容器としては、好ましくはオートクレーブが用いられる。
【0033】
本発明では、反応終了後は米粉中の澱粉が再びβ化しないように60℃前後に温度を保持した状態で酵素糖化工程に供することが好ましい。
【0034】
本発明では、前記の混合・攪拌工程、酸処理工程、加熱処理工程を前処理といい、この工程を通常の糖化工程の前処理として行うことで、澱粉のグルコースへの糖化効率を大幅に向上させることができる。
【0035】
(糖化工程)
前述のように前処理した米粉液のpHを中和し、第一次酵素反応に使用する酵素の最適pHにする。中和にはNaOH水溶液などを用いるのが好ましい。このとき温度が50〜60℃以下にならないように保つことが好ましい。
【0036】
次いで液化酵素を添加し、大まかに混ぜた後、加熱、攪拌をしながら第一次酵素反応(澱粉の液化)を行う。
【0037】
澱粉の液化に用いる酵素としては、例えば、α−アミラーゼ、β−アミラーゼが挙げられるが、ここではα−アミラーゼを使用することが好ましい。
【0038】
次いで無菌状態で冷却した後、第二次酵素反応(澱粉の糖化)の最適pHに調整し、酵素を加えて攪拌しながら、第二次酵素反応を行う。澱粉の糖化に使用する糖化酵素としてはグルクザイム、プロテアーゼ、リパーゼなどが挙げられる。
【0039】
所定時間酵素反応を行い、必要により酵素を失活させて、糖化工程を終了する。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0041】
(実施例1)
(前処理:酸処理・加熱処理)
米粉 1000g、水 2000g(米:水=1:2)を容器に入れ、攪拌した後、含米粉液をHCl(6mol/L)にてpHを2.0に調整し、オートクレーブで121℃、20分加熱した。
【0042】
反応終了後、米粉中澱粉が再びβ化しないように60℃前後に温度を保持した状態で酵素糖化工程に供した。
【0043】
(糖化工程)
前処理後、全容量が減少していた場合はイオン交換水を補充した。
【0044】
前処理した米粉液のpHを5.8にNaOH水溶液(10mol/L)で調整した。
【0045】
このとき温度が50〜60℃以下にならないようにし、大きな固まりは事前に滅菌したスプーンでほぐしてかき混ぜ、液化酵素(アミラーゼRG−IIG)を原料米粉に対して0.05wt%添加した。
【0046】
攪拌翼、フタ(ともに滅菌済み)をセットし、加熱器に乗せ、攪拌機と攪拌翼の棒を固定し熱電対をセットした後データロガーの電源を入れ、温度測定しながら、200rpmにて攪拌しながら、95〜100℃まで加熱し、60分間保持した。
【0047】
攪拌翼、フタを取り外し、無菌状態で60〜65℃まで冷却し、pHをHClにて4.5に調整して、グルクザイムAF−6(アマノ)、プロテアーゼN「アマノ」、リパーゼ「ワコー」をそれぞれ原料米粉に対して0.07wt%添加した。
【0048】
再び反応容器を加熱器に乗せ、蓋をして攪拌機と攪拌翼の棒をしっかりと固定し熱電対をセットし、58℃、200rpmにて攪拌しながら、20時間保持して、糖化工程を終了させ、糖化液のグルコース濃度を測定した。
【0049】
グルコース濃度の測定は高速液体クロマトグラフィー(HPLC LC−8010 東ソー製)により行い、回収率は(糖化液中のグルコース濃度)/(米粉澱粉中の全糖量)で表す。
【0050】
(比較例1)
実施例1において、前処理を行わず、実施例1と同じ酵素糖化工程を行った。
【0051】
(比較例2)
実施例1の条件で、塩酸によるpH調整を行わずに、加熱処理のみを行い、酵素糖化工程を行った。
【0052】
(比較例3)
実施例1の条件で、加熱時間を5分にして前処理を行い、酵素糖化工程を行った。
【0053】
(比較例4)
実施例1の条件で、加熱温度を95℃にして前処理を行い、酵素糖化工程を行った。
【0054】
以上の実験の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1より、実施例1は、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4と比べ、糖回収量が高く、回収率が高いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に米粉と水を所定の混合比で導入して混合・攪拌後、該容器内の混合液に塩酸を添加してpHを1.5〜2.5に調整し、次いで酸処理後の混合液を圧力容器内で、温度100〜130℃の範囲下で15〜25分加熱する前処理を行い、その後酵素による糖化を行うことを特徴とする米糖化液の製造方法。
【請求項2】
前記前処理における加熱温度が、110〜125℃であることを特徴とする請求項1記載の米糖化液の製造方法。
【請求項3】
前記前処理における加熱時間が18〜22分であることを特徴とする請求項1又は2記載の米糖化液の製造方法。
【請求項4】
米粉と水の混合比(重量比)が、1:1.5〜2.5であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の米糖化液の製造方法。