説明

粉体塗料用ポリエステル樹脂組成物、及びこれを用いた粉体塗料

【課題】 塗膜の加工性および被塗物との密着性に優れ、かつ低温で焼き付けることが可能な粉体塗料とすることのできる粉体塗料用ポリエステル樹脂組成物、及びこれを用いた粉体塗料を提供する。
【解決手段】 主として芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなるポリエステル樹脂と、β−ヒドロキシルアルキルアミド系硬化剤とを含有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂における1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合割合が多価アルコール成分に対して10mol%以上であり、ポリエステル樹脂の酸価が20〜50mgKOH/gであることを特徴とする粉体塗料用ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜の加工性および被塗物との密着性に優れ、かつ低温で焼き付けることが可能な粉体塗料とすることのできる粉体塗料用ポリエステル樹脂組成物、及びこれを用いた粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体塗料は、溶剤型塗料と比較してVOC発生がない無公害型塗料であること、一度で厚塗り塗装が可能であること、塗装直後でも使用に供しうること、比較的安価であること、回収利用が可能であることなどの利点を有し、家電製品、建材、自動車部品等の部材の保護装飾用塗料として、近年急速に需要が拡大している。
【0003】
粉体塗料は主として、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ポリエステル樹脂系のものが使用されているが、その中でもポリエステル樹脂系粉体塗料はバランスのとれた塗膜性能を有する塗料である。
【0004】
ポリエステル樹脂系粉体塗料に用いられる一般的な硬化剤として、イソシアナート系硬化剤やトリグリシジルイソシアヌレート系硬化剤が挙げられる。主たる末端がヒドロキシル基であるポリエステル樹脂に用いるイソシアナート系硬化剤は、反応性の高いイソシアナート基をブロック剤でブロックすることで、一定の温度以下では活性を示さない構造をしているが、焼き付け時にブロック剤が解離することで、焼き付け炉を汚染するという問題がある。また、主たる末端がカルボキシル基であるポリエステル樹脂に用いるトリグリシジルイソシアヌレート系硬化剤はブロック剤を含有しないものの、変異原性が認められ、安全上使用が好ましくない。
【0005】
近年、トリグリシジルイソシアヌレート系硬化剤に代わる硬化剤として、ヒドロキシアルキルアミド系硬化剤が注目を集めている。ヒドロキシアルキルアミド系硬化剤を使用した粉体塗料は、低温焼き付けが可能で、かつ焼き付け時に有機系揮発分が全くなく、環境への負荷のないクリーンな塗料とすることができる。しかしながら、ヒドロキシアルキルアミド系硬化剤を使用した粉体塗料は、その硬化剤の特性の影響等により、塗膜の平滑性や被塗物との密着性、特に耐水、耐湿処理後の密着性が劣るという欠点があり、用途が限定されていた。
【0006】
ヒドロキシアルキルアミド系硬化剤を使用した場合の上記問題点は、ポリエステル樹脂の粘度等を特定することにより解決され、平滑性や、素材との密着性に優れた塗膜が得られたことが開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法で得られる塗膜は加工性が充分でないことがあった。
【特許文献1】特開2003−119256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような課題を解決し、低温で焼き付けることが可能であり、被塗物との密着性に優れ、かつ塗膜の加工性に優れる粉体塗料とすることのできる粉体塗料用ポリエステル樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)主として芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなるポリエステル樹脂と、β−ヒドロキシルアルキルアミド系硬化剤とを含有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂における1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合割合が多価アルコール成分に対して10mol%以上であり、ポリエステル樹脂の酸価が20〜50mgKOH/gであることを特徴とする粉体塗料用ポリエステル樹脂組成物。
(2)上記(1)記載の樹脂組成物を用いた粉体塗料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塗膜の加工性および被塗物との密着性に優れ、低温で焼き付けることが可能な粉体塗料とすることのできる粉体塗料用ポリエステル樹脂組成物、及びこれを用いた粉体塗料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明におけるポリエステル樹脂は、主として芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなるポリエステル樹脂である。
【0012】
本発明における芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸の他に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。本発明の効果を損なわない範囲でアジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、などの三価以上のカルボン酸を少量使用してもよい。また、上記の酸のエステル形成性誘導体を使用してもよい。必要に応じて、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどのオキシカルボン酸を併用してもよい。
【0013】
本発明におけるポリエステル樹脂は、1,4−シクロヘキサンジメタノールが共重合されていることが必要であり、脂肪族ジオールを含めた多価アルコール成分に対してその割合は10mol%以上であることが必要であり、20mol%以上が好ましい。1,4−シクロヘキサンジメタノールの割合が10mol%以上であると、塗膜の加工性および鋼板との密着性、塗料の貯蔵安定性を飛躍的に改良することができる。1,4−シクロヘキサンジメタノールの割合が10mol%未満では塗膜の加工性ならびに被塗物との密着性が不十分である。また、1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合割合は80mol%以下であることが好ましい。共重合割合が80mol%を超えると、ポリエステル樹脂に結晶性が発現するため、樹脂の粉砕や塗料の混練が困難になることがある。1,4−シクロヘキサンジメタノール以外の脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。脂肪族ジオール以外の多価アルコールとして、水添ビスフェノールA、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどを併用してもよい。
【0014】
本発明におけるポリエステル樹脂の酸価は、20〜50mgKOH/gであることが必要であり、好ましくは25〜40mgKOH/gである。ポリエステル樹脂の酸価が20mgKOH/gに満たないと、樹脂の分子量が高くなりすぎ、流動性が低下するため、塗膜の加工性が低下するとともに素材との密着性が悪くなり、好ましくない。一方、酸価が50mgKOH/gを超えると、塗料として配合した場合、硬化剤との硬化反応が増大しすぎるため塗膜の平滑性が悪くなり、加工性も低下するため好ましくない。
【0015】
上記の条件を満足するポリエステル樹脂は、前記のようなカルボン酸成分、ジオール成分(それらのエステル形成性誘導体を含む)を原料とし、常法によって、200〜280℃の温度でエステル化又はエステル交換反応を行った後、5hPa以下の減圧下、200〜300℃、好ましくは230〜290℃の温度で重縮合反応を行って高重合度のポリエステルとした後、カルボン酸を添加して220〜290℃の反応温度で2〜5時間解重合する方法で調製することが出来る。なお、エステル化、エステル交換反応及び重縮合反応において、公知の反応触媒を用いることが出来る。
【0016】
本発明の粉体塗料用ポリエステル樹脂組成物は上記のポリエステル樹脂にβ−ヒドロキシアルキルアミド系硬化剤を配合する必要がある。この硬化剤の種類は特に限定されるものではないが、例えばEMS社製の「Primid XL−552」が挙げられる。硬化剤の配合量はポリエステル樹脂の酸価に対して0.7〜1.2倍当量、好ましくは0.9〜1.1倍当量とするのが適当である。
【0017】
本発明の粉体塗料は、上記の樹脂組成物に必要に応じて公知のレベリング剤、その他の添加剤、例えば二酸化チタン、沈降性硫酸バリウム、カーボンブラックなどの顔料などからなる混合物をニーダーまたはロールを用いて70〜140℃で溶融混練することによって調製することが出来る。本発明の粉体塗料は、これを被塗物に塗装し、通常、150〜190℃の温度で、15〜25分間焼き付けることにより、加工性および素材との密着性に優れた塗膜を与える。
【実施例】
【0018】
次に実施例および比較例によって本発明を具体的に説明する。なお、実施例および比較例においてポリエステル樹脂及び樹脂組成物の特性値、塗膜性能の評価は以下に示す方法で測定した。
共重合成分の割合
ポリエステル樹脂を重水素化クロロホルム/重水素化トリフルオロ酢酸混合溶媒に溶解させ、1H−NMR(日本電子製JNM−LA400)を用いて測定して求めた。
酸価
ポリエステル樹脂0.5gをジオキサン/蒸留水=10/1(質量比)の混合溶媒50mlに溶解し、加熱還流後、0.1×103mol/m3の水酸化カリウムメタノール溶液で滴定して求めた。
平滑性
塗膜の平滑性を目視により評価した。
○:塗膜に凹凸が少なく平滑性が良好なもの
×:塗膜に大きな凹凸があり平滑性が良くないもの
加工性
加工性JIS K 5400に準じ、塗装鋼板を180度折り曲げ、屈曲部にクラックが発生する折り曲げ間隙が、塗装鋼板の何枚分に相当するかによって評価した。〔数値の小さい方が良好であり、1Tを合格とした。なお、(0、1、2、…)Tとは、折り曲げ部に同じ厚さの鋼板を(0、1、2、…)枚、挟んだ場合をいう。〕
密着性
JIS K 5400に準じ、塗装した塗板を沸騰水中に2時間浸漬し、次いで室温で24時間風乾した。その後、塗膜にカッターナイフで碁盤目状にカットを入れ、粘着テープによる剥離試験を行い、剥離状態によって2段階で評価を行った。
○:塗膜と素材の界面で、剥離が全く認められない。
×:塗膜と素材の界面で、部分的あるいは全面的に剥離が認められる。
【0019】
実施例1
テレフタル酸200モル(33.2kg)、イソフタル酸50モル(8.3kg)、ネオペンチルグリコール258モル(26.9kg)、1,4−シクロヘキサンジメタノール80モル(11.5kg)をエステル化反応槽に仕込み、圧力0.3MPaG、温度260℃で4時間エステル化反応を行った。得られたエステル化物を重縮合反応槽に移送した後、三酸化アンチモンを4.0×10-4モル/酸成分1モル(30g)添加し、0.5hPaに減圧し、280℃で4時間重縮合反応を行い、極限粘度0.45dl/gのポリエステルを得た。次いで、このポリエステルにイソフタル酸20モル(3.3kg)を添加して常圧下、270℃で3時間解重合反応を行い、表1に示す特性値のポリエステル樹脂を得た。
得られたポリエステル樹脂(953g)に、ヒドロキシアルキルアミド系硬化剤(EMS社製「Primid XL−552」、水酸基価668)(47g)を配合し、ブチルポリアクリレート系レベリング剤(BASF社製「アクロナール4F」)(10g)、ベンゾイン(5g)及びルチル型二酸化チタン顔料(石原産業社製「タイペークCR−90」)(600g)を添加し、ヘンシェルミキサー(三井三池製作所製「FM10B型」)でドライブレンドした後、コ・ニーダ(ブッス社製「PR−46型」)を用いて100℃で溶融混練し、冷却、粉砕後、140メッシュ(106μm)の金網で分級して粉体塗料を得た。
得られた粉体塗料をリン酸亜鉛処理鋼板上に膜厚が50〜60μmとなるように静電塗装して、160℃×20分間焼付けを行った。塗膜の性能を評価した結果を表1に示す。
【0020】
実施例2〜4、比較例1〜3
実施例1と同様な方法で、仕込組成を変更し、表1に示すようなポリエステル樹脂を得た。更に得られたポリエステル樹脂を用いて、表1に示すような配合比率でブレンドし、粉体塗料を得た。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例1〜4で得られたポリエステル樹脂は加工性および鋼板との密着性の良好な塗膜が得られた。
比較例1では1,4−シクロヘキサンジメタノールの割合が少ないため、塗膜の加工性ならびに被塗物との密着性が不十分な塗膜となった。
比較例2ではポリエステル樹脂の酸価が低いため、分子量が高く、流動性が低下したため、塗膜の加工性が低下するとともに素材との密着性が悪くなった。
比較例3ではポリエステル樹脂の酸価が高いため、塗料として配合した時に、硬化剤との硬化反応が増大しすぎるため塗膜の平滑性が悪くなり、加工性も低いものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなるポリエステル樹脂と、β−ヒドロキシルアルキルアミド系硬化剤とを含有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂における1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合割合が多価アルコール成分に対して10mol%以上であり、ポリエステル樹脂の酸価が20〜50mgKOH/gであることを特徴とする粉体塗料用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂組成物を用いた粉体塗料。


【公開番号】特開2006−131829(P2006−131829A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325146(P2004−325146)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】